九十七日目 休日の朝はランニングが日課だ。 森林公園の外周を走る。 最近は天候が安定してきたから すっかり走りやすくなったけれど 風が強くて苦労する。 陽射しが強くならないうちに 走り切ってしまおうと ペースを上げて一周。 タイムを確認するために アームバンドからスマホを出すと 通知バーの表示が目に入った。 アイツからのメッセージだ。 すぐに確認しようとしたけれど 続々と増えていく通知が無性に愛おしくて、 もう少しだけこの幸福を感じていたくて しばらくスマホのロック画面だけを そっと眺めていた。 この贅沢な数十秒が 甚く嬉しい。 |
九十六日目 アイツとの馴染みのよさが不思議だ。 同時に腕を伸ばして触れるのはもう当たり前で 物の決め方、言葉の選び方、間合い、 全ての場面で意思が合うから アイツが無理して合わせているんじゃないかと 時折、俺は心配になる。 まあ真相を尋ねたところで "そんなことない"と 返答されるのが目に見えているから 言わないけれど。 調律の合った弦が自然と共鳴するような この空気感はどこから来るんだろう。 このまま心地好さに呑まれて 甘え切ってしまいそうで 愛おしくて、恐ろしい。 |
参の日 2022年3月3日 日付が替わって 丁度に届けられたプレゼント。 開けてみると 小さな陶器の箸置きが五つ並んでいた。 ハリネズミモチーフだというソイツらは 背中に柄違いの藍色模様が挿していて なんとも愛らしい。 艶やかな丸っこいフォルムを 手に取って撫でると "これからよろしく"と 語り掛けてくるようだった。 祝ってくれてありがとう。 とても気に入った。 また一緒に飯を食おう。 |
九十五日目 "もし明日が世界滅亡の日なら このまま君と眠りたい" アイツが不意にそう言うと ほんの少し前までげらげら笑い合って だらしなく緩んでいた空気が、静かに揺れた。 何がどうなったら世界が急に滅びてしまうのか 全く予想が付かないし、 そうなった時に俺に何ができるか 見当も立たないけれど 指を繋いで、沢山キスをして 寄り添うことを誓って、 ついでに来世の待ち合わせ場所を決めたら 胸をつく切なさと 不謹慎にも僅かな幸福感が湧き立って 言葉に詰まって、 抱き締めることしか出来なかった。 ずっと隣に居るよ。 お前が最期まで笑っていられるように 声の届く限り くだらない話をしよう。 |
2022年3月2日-① 参と弐が並んだ日も俺たちの記念日。 ▼【恋人を語る10の質問】:(1~4) |