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283.短編小説のコーナー
 ┗173-175

173 :げらっち
2023/08/27(日) 00:00:39

夏にぴったりのホラー短編!


『残ってしまった物』


遠い夏の思い出。


俺のクラスに令(れい)が転校してきた時、俺に初めての友達ができた。俺達はすぐに打ち解け、親友になった。2人で毎日遊んだ。令は毎日学校に来るのが楽しいって言ってた。
それなのに、さ。
令は呆気なく死んじゃった。登校中に、石垣が倒れてきて、頭に当たって。病院に運ばれたけど、殆ど即死だったって。
その日は俺、日直当番で早く登校してたんだけど、いつもみたいに一緒に登校してたら令のこと守れたんじゃないかって思って、すごく悔しかった。
人はすごく簡単に死んでしまうんだなあと思った。

大事な、大切な、唯一の友達。消えてしまって、俺はもう、友達なんか、欲しくない。

1週間くらい経って、クラスでは噂が流れていた。令の両親が、危険な石垣を撤去しなかった市に対し裁判を起こすという噂だ。
俺はそんな話は聞きたくなかった。何をどうしようと令は戻らない。喪失感だけが俺の中にあった。
自分の席で俯いていると、イトウさんが俺に話し掛けてきた。
「汚い話って、思うよね?」
イトウさんはいつも1人で居て、周りに壁を作っている感じがする不思議な女子だった。
俺はそんなイトウさんから、初めて話し掛けられて、戸惑った。それだけでなく、イトウさんが俺の心を読んだような気がして、怖かった。

「でもね、令君の御両親は、何かを恨みたいの。何かを憎しみたいの。それがあの方たちの一時の生き甲斐になるの。すぐにそれは消えてしまって、喪失感だけが残るけど。それがわかっていても気を紛らわしたいんだよ」

「それが何だよ」

俺はまた俯いた。

[返信][編集]

174 :げらっち
2023/08/27(日) 00:01:50

忘れもしない。
茹るような暑い日。俺は学校に遅刻しそうになって、急いでた。表から入ると先生に見つかって怒られるから、裏の階段からこっそり上がって教室までショートカットしようと思った。これなら出席を取り始める前にギリで教室に着くかもしれない。よく使う手だ。
裏の階段はひっそりしていてひとけが無い。ダッシュで上がろうとしたその時、人影が目に入った。

階段の中腹に座って、うずくまっている。顔は見えないが、間違えるわけない。

令だ。

一瞬、普通に声を掛けそうになった。でもすぐに気付いた。
令は死んだ。
身震いして、全身を冷たい血が駆け巡った。鳥肌が立ち毛が逆立った。心臓がすごい速度で脈打っている。

幽霊だ。

どうしよう。

麻痺した頭脳でも考え続けることができたのは、遅刻して先生に怒られるのは嫌だという、平凡な事だけだった。俺は止めていた足を動かし、令の隣を横切って、階段を上がろうとした。
すれ違いざまに、俺は令を見てしまった。まずかった。令は顔を上げて俺を見た。目が合った。令が何か言おうとした。やばい。俺は無我夢中で足を回転させ、階段を駆け上った。意識が無くなるくらい走った。次の瞬間、教室に着いていた。遅刻していた。先生に怒られた。

1・2時間目のことはよく覚えていないが、時折背後から視線を感じては、振り向いていた。

30分休みになった。
裏の階段には、絶対行ってはいけないような気がした。
でも気になるのは、令が何か言いかけていたことだ。令は何かを訴えたかったのかもしれない。令は俺の親友で、俺は令の親友だ。俺に伝えたかったことを、無視するわけにはいかない。
俺は恐る恐る、裏の階段に向かった。
その時、俺にとって都合の良い様な考えも浮かんでいた。もしかして、あれは急いでいた俺の見間違いだったのかもしれない、と。夏の揺らめきの生み出した、幻だったのではないかと。

令はまだそこに居た。
先程そうしていたように、うずくまっている。
その姿を見た瞬間、心臓の鼓動が早くなった。やはり見間違いなんかでは無かった。
俺はすうっと息を吸うと、それでも落ち着かない胸の高鳴りを隠すこともできないまま、階段を降りて行き、令と同じ段までくると、話し掛けた。

「よぉ、令」

馬鹿げている、そんな言葉が、俺の頭をよぎった。
それでも令は、顔を上げて、俺を見て、答えた。

「カンタ」
令は俺の名を呼んだ。
令は、生きていた時のそのままの姿だった。足もあれば、服も着ている。大事に飼っていた金魚が死んでしまった朝のような、落ち込んだみたいな顔して、そこに居て、そして言った。
「どうしよう」
俺は心臓をバクバクさせながら、次の言葉を待った。
「僕の席が無いよ」
一瞬、何のことかと思ったが、すぐにわかった。
教室の机は、令の分は片付けられてしまったのだ。令の席は、もう無いのだ。
俺は言った。
「だってお前、死んだじゃん」
令の目が、天を仰いだ。そして言った。
「あ、そっか」
そして令は消えた。

俺は叫び出しそうになった。

[返信][編集]

175 :げらっち
2023/08/27(日) 00:02:59

こんなことは、誰に言っても信じてもらえまい。
それでもそのことを彼女に話していたのは、彼女ならわかってくれる、そんな気がしたからだ。
「ふうん、カンタ君。令君に会ったんだ」
イトウさんは、さも当然の事のように言った。
「信じなくても良いよ。写真も無いし」
「写真なんて撮っても、映らなかったと思うよ」
イトウさんは席に座ったまま、俺の顔を見上げた。
「臨死体験って知ってる?」
「あ? 知ってるよ、仮死状態になった人が生き返るって体験だろ? その間、魂は肉体を抜け出して、周りで起こってることとかを、知ることができるって。夢みたいなもんだろうが」
「魂なんて、古風な言い方。私は意識って言ってるよ。その方が適切だからね。死んだ瞬間、意識は体を脱出する。それは夢なんかじゃない。先天盲の臨死体験者は、その瞬間にのみ、視力という物を獲得し、世界を見ることができた。これは夢や空想では説明が付かないよね?」
別に臨死体験の説明など聞きたくもない。
「知るか。臨死体験した人は居ても、完全に死んだ人に、死後の世界を聞く事はできないだろ」
「臨死体験も、本当の死も、本質は同じだよ。死ぬ期間が短いか、永遠かの違いだけだ」
小柄なイトウさんは、すっと立ち上がった。
「彷徨っていた意識が、生前仲の良かった人や、関係の深かった人の、意識に引っ掛かり、対話をするってことは、珍しい事じゃない。カンタ君は令君と一番仲が良かったから、令君の意識がそこに居る事に気付いた。意識でキャッチしたものを、脳が、目が、補足したから、身体もそこに居るように見えたんだ。本当はもう存在しない身体を、或いはその服装も、見ることができたんだ」
イトウさんは、熱っぽく語っていた。こんな彼女の姿は見たことが無い。ある種、楽しそうに、彼女は語るのだ。
俺は少し戸惑ったが、冷静に彼女の言葉を飲み込んだ。
「俺が見たのは令の意識だった、と言いたいのか?」
「物分かりが良いね。消えることができて良かったよ。淡々と対応したのが良かったんだね。もし中途半端に同情なんかしてたら、ずっと付きまとわれることになったかもね」
ずっと付きまとわれる。それを考えると、少し嫌な気持ちになる。
「そんなことになったらカンタ君も嫌だろうけど、令君はもっと、気の毒だからね?」
「どういう事だ?」
イトウさんは眉間にしわを寄せてニヤリと笑うと、「物分かりが悪いね」と言った。

「命が死んだとき、意識も消えられるように、未練の無い生き方をしないとね。それでも、もしも、意識が残ってしまったら、誰かに見つけて貰って、消える手助けをして貰えるように、しないとね。だから令君にはカンタ君が居て本当に良かった」

その時の俺には、まだ、彼女の言葉の意味がわからなかった。
今考えれば、簡単なことだ。彼女は忠告してくれていたんだ。



あの夏から何年が経ったろうか。

何十年、いや、何百年という単位かも知れないが、あの夏の記憶だけは鮮明に残っている。
彼女がにっこり笑って、言ったことは、ずっと俺の中にある。

俺は今も消えずに残って居る。

「命を無くして、身体を無くして、でも、意識だけは消えないで、残ってしまったら。誰にも見つけられないで、ずっとずっと、彷徨うことになってしまったら。それはすごく、寂しくて、悲しい事じゃない?」

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