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┗311.《ポケモン二次創作》もう終わったことだから。もう全部壊すから(129-148/148)
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129 :げらっち
2022/10/12(水) 02:11:32
もう不健康だじょ。
戦隊学園の感想を返したら寝る!
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130 :げらっち
2022/10/12(水) 02:16:38
と、いうかゲラフィ管理自体好きでやってるので気にしなくて大丈夫だぜ。
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131 :ベリー
2022/10/12(水) 02:23:30
>>129
アラララララ
>>130
あっ、余計な心配だったかも。
管理人さんがいい人だぁ。ここは安泰だァ
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132 :ベリー
2022/10/23(日) 01:01:18
「はっはっ……」
水、水が欲しい。喉が感想していて呼吸する度に血の味がする。実際に血は出て居ないのだが、喉を酷使すると血の味がすることがある。
とまあ、今はそんなことどうでもいいのだ。
「がおくぅんか!」
そのポケモンの叫び声と共に後ろの地面から『ビキビキ』と音がする。私はフジを肩に背負いながら左に大幅ジャンプをして避ける。
その瞬間目の前が真っ赤になった。目の前に……本当に鼻先数ミリに炎の柱が一本現れたのだ。
「うわあぁっ!」
フジが恐怖と驚きで叫ぶ。さっきからずっと叫んでいるが良く喉が枯れないものだと、少し関心という名の現実逃避をしながら、私はもう一度大きく足を踏み出して地面から現れる炎の柱達をかわした。
えっと、『ほのおのちかい』だっけこの技は。ワザを放ったポケモンの方を見る。
筋肉質で人型。黒と赤い毛並みに猫耳が生えていた。炎、あくタイプのガオガエン……というポケモンである。
「グルル……」
ガオガエンの目は血走っていて口周りはヨダレでカピカピになっている。瞬時に分かる、腹を空かした猛獣の様子。捕まったら食われるから、必死で逃げなければならない。しかし私は体力が尽きてきて何時走れなくなるか分からない上、仕事場は時計が無いし、空の様子は時間によって全く変わらないため、時間が分からない。
まだお昼とかだったら今後逃げるための体力も温存しなければならない。けど、このままガオガエンから逃げ続けるのも悪手だある。どこかで撒くか、ガオガエンを気絶させなければならない。
しかし、イーブイも朝から戦闘を行っているため瀕死寸前だ。これでイーブイが瀕死になるとフジとイーブイを抱えて走らなければならない……
どうするか……
「グルル……」
すると後ろから別のポケモンの鳴き声がして反射的に体の方向を変換する。奥から出てきたのは四足歩行で頭が二つあって黒がベースとなった色をしてる……サザンドラに似たポケモン。
えっと、あれだ、ジヘッドだ! ドラゴン、あくタイプ。
ジヘッドも腹を空かせて我を忘れている様子で、ガオガエンなんて眼中になく、私とイーブイの方を見つめている。目が隠れてるから顔の向きで判断しているが。
それよりも、二体のポケモンに目をつけられてしまった。これでは逃げることも瀕死にさせることも出来ない。どうしたら……
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133 :ベリー
2022/10/23(日) 01:02:58
「レイ……うあっ!」
すると私の服を掴んでいたフジが急に服を引っ張った。いや、フジが引っ張ってるんじゃない。『引っ張られてる』んだ!
反射的に私は背中の大骨を抜いて振り返る。そこには片方の頭でフジを掴み、もう片方の頭で……
「レイッ! れっ あああああっ!」
フジの腕を抉るようにくらった。女のような甲高いフジの悲鳴と共に私は頭が真っ白になり大骨でジヘッドの片方の顎を叩いた。
「ジュヘッ!」
ジヘッドはそのまま倒れた。本当は大骨はトドメの時にしか使わない。なぜなら重い代わりに攻撃力が高いから。下手したらポケモンが死ぬから。しかし、今回は何も考えずに使ってしまった
いや、違う。私はポケモンを殺さなければ……
「あああああ……!」
フジは左の上腕が見事ジヘッドに食いちぎられていた。じわじわと見えない血管から血液が流れ、フジの左手は真っ赤である。
そして、痛い様で叫びながら私に助けを乞うような視線で訴えてくる。しかし、私はフジの治療法なんて知らなく……
「イブイッ!」
するとイーブイの鋭い鳴き声が聞こえた。しかし、フジの事しか頭になかった私は反応が遅れてしまった。
「カハッ!」
後ろから強い衝撃を受ける。背中を強くうち、その衝撃の強さに肺も一時的に機能を停止してしまったようで息ができない。ガオガエンの『ddラリアット』である。
それでも私はフジを守ろうと抱えていた。地面に着地しても、きちんとフジは無事で居られるように。
「ぁっ、かっ……くはっ!」
私は地面で転がった後に息ができるように何回も筋肉を動かした。呼吸の筋肉なんてぶっちゃけどこ使ってるか分からないが感覚で必死で呼吸を試みた。でないと死んでしまうから。
幸いにも呼吸はちゃんとできるようになった。しかし、呼吸が再開するタイミングが遅かった。
目の前から猛スピードで私を掴もうとガオガエンの手が伸びてくる。
近すぎてかわせないっ!
「レイッ!」
するとフジが私を守るように前に出ようとする。すると反射的に私の体は動いてしまった。
「あっ、ぐぁっ……」
フジを後ろに突き飛ばして私からガオガエンに掴まれに行った。ガオガエンは私の首をしっかり掴んでおり、徐々に握る力を入れる。
喉を掴まれてるのに、内蔵が全て飛び出そうな感覚がして苦しくなっていく。
私は離れるために宙に浮いた足をバタバタさせるが、その両足が何者かによって固定される。
そして
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134 :ベリー
2022/10/23(日) 01:03:38
「ぁぁっ、くあぁぁ……」
両足から激痛が伝わってくる。鉄が、巨大な鋭い鉄が皮を、肉を骨を侵食していく。肉を燃やすかのように。
痛い痛い痛い痛い。
しかし喉が締められてる為声が出ない。やかんのような音しかしない。
今分かった。私が、ここまでポケモンを殺さずとも生きてこれた理由。
それは私が強いからでも特別だからでも無く。ただ、アーボに守られてきたからだ。気づかないうちにアーボが、私を守ってくれたんだ。
それに気づいたところで、私は何も出来ない。力無いただの人間で、凡人で、ただの子供である。
だからこそ同じ仕事人のように、嬉々として、生きがいとして、命を命とも思わない冷酷な態度で、私はポケモンの命を……奪えな……
「きゅぅっ……」
声を出した覚えがないのに喉から自然と出てきた。喉を締められ続けて、足を食われ、身も心も限界だった。
痛い痛い痛い……痛い死ぬ! 嫌だ! 死にたく、殺したくない! でもここで 痛い 殺らなければ 痛い苦しい 私もフジもイーブイも死んでしまって、私が 痛い、喉が苦しい苦しい、息出来ない、死ぬ、痛い……痛い……
死にたくない
その時、私は手から滑り落ちかけていた骨を握り、重く両手で振り上げるのが精一杯だったはずの物を片手で振り上げ……
がんっ
外からでも聞こえる鈍い音を奏でさせた。その骨はガオガエンの脳天に当たっていた。
その瞬間私はガオガエンの手から離され地面に向かって落ちていく。落ちていく。堕ちていく……
「レイッ!」
するとフジの声とともに私は空中でキャッチされ、ガオガエンとジヘッドから離れたところまでジャンプ一つで運ばれる。
幼児のような見た目をしているのに、身体能力は私よりあるのでは無いだろうか。フジは。
なんだ。私はフジを守る必要なんて無かったんじゃないか。あほらしい
「ジヘッ、ガァー!」
「ヒィッ!」
ジヘッドが大口を開けて私たちの元へと走ってくる。
ーあ、殺さなきゃ、殺られるー
無意識に私はまた骨を握りしめていた。そこで気づく。
何やってるの……? 私
殺らなければ殺られる。相手を殺さなければ。そんな思考が頭の大半を占めていた。どうして? そんな疑問が浮かぶ前から答えは出ていた。本能が危険信号を鳴らしてるからである。本能が頭の大半を支配してるからである。
けど、ポケモンは殺したくない。命だもん。生きてるもん。救えるかも……しれないじゃん
それは、ただのワガママで、このポケモン達を救うのはただの夢物語であること。けど、それを完全に認めたら、私が私でなくなってしまう気がする。
他の仕事人みたいな、生気がない生きた屍のような生活を……
「レイ……僕が守るから」
憎いことに私より八つ程年下なのに、私より強く私より背が高いフジがそう言った。
綺麗だ。顔立ちもそうだが瞳が。目の色が、視線が、瞼の開き方が。輝いていて真っ直ぐで、曇りがなくて…… 私のように、いや、ソレイユのようにキラキラと輝いていた。
フジを守っていれば、フジのキラキラさえあれば私がどんだけ黒く霞んでも、『私』が居る気がする。ソレイユが居る気がする。
なら、もう堕ちてもいいやーー
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135 :ベリー
2022/10/23(日) 01:04:25
私は手にある大骨をできるだけ手が届き、体からー番離れている場所に向かって振り下ろした。
軽くなった私はその大骨の重さと勢いで、棒高跳びの要領で勢いよく、ジヘッドに向かって飛んでいた。
ジヘッドが私の方を見ている気がする。焦った様子で、恐怖の顔で、空腹の表情で。辛そうだ、苦しそうだ。だから
『ぐしゃっ』
その聞きなれた音と感触と共に目の前のジヘッド片方の頭に大骨がめり込んだ。生肉を抉りながら、それでも必死に生きようとする相手の意思が読み取れた。
「ピィアアアァっ! アアアァっ!」
叫び声……いや、もう笛の音だ。しかし、その音は認識していても、私の頭には入ってこなかった。
ジヘッドのもう片方の頭が私を掴もうと口を開けて迫ってくるが、もう一度棒高跳びのように飛んで距離を開ける。
足を食われている。両足を食われている。歩けない、立てない。とても痛い。
ならば、手を使えばいいだけである。
私は、先程とはまるで違う素早い動きで、両手を使ってジヘッドと距離を詰めた。
あとは、太ももに挟んでる大骨でジヘッドの脳天をかち割る。
ジヘッドは何も言わずに、そのまま倒れた。二体目の頭は太ももで殴ったため一体目のように頭が潰れていない。だから生きてるかもしれない。だから次は腕を使ってしっかりジヘッドの頭を潰した。
あとは、ガオガエンだけだ。
「グガッ……ウオオオン!」
ガオガエンは怖気付いた顔をするが、それでも空腹に耐えられないようで雄叫びの後に四足歩行で私に突進してきた。
ただ突っ込んで来ただけのため、私は特に移動しようともせずただ、シンプルに全力でガオガエンの頭を殴った。
ジヘッドよりも頭は柔く、ガオガエンの頭部は原型が無くなり、そのままガオガエンは倒れた。
砕けた頭蓋骨の破片が顔に散らばり、チクチクする。
「これで……二体……」
私は、そのまま仰向きになって倒れた。空にはガラスドーム越しに見える灰色の空。もう空かどうかも分からない。血の匂いがそこらじゅうに漂って、そこら辺から生物の断末魔が聞こえて、いつもの仕事場だ。
けど、いつもと違う。全部の色が、灰色だ。
「レイっ! レイ!」
フジが私のイーブイを抱えてやってきた。フジの膝の上に頭を乗せられ、貧血で頭がぼーっとしてくる。
足が痛い、関節が痛い。痛い。痛い。
足を食べられたのなら、もしかしたらもう歩けないのかな。歩けないよね。足は回復しないんだもん。
「れいぃ……れい……」
フジが顔をぐちゃぐちゃにして泣いている。フジだって肉を抉られただろうに、何故人の心配ができるのだ。フジは、フジの心配だけしてればいいのよ。
しかし、目の前がぼーっとしてきて何か言おうとしても、何を言いたかったのか忘れてしまう。
そこで、ポケモンの死骸が私の目に入った。
◇◇◇
挿絵 cdn.wikiwiki.jp
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136 :ベリー
2022/10/23(日) 01:05:07
「……あぁ。殺したんだ」
今更。本当に今更そう思った。ポケモンを殺した時は必死すぎて感触も罪悪感も何も感じれなかった。しかし、頭が冷えていくと、少しづつ、少しづつそれが理解出来てしまうようになってくる。
ははは……ー年間ずっと葛藤してたのに。ポケモンの命を奪うのはあっという間だ。
全ての努力が、プライドが、私の誇りが消え去った気分だ。しかし、目の前にはフジが居る。目が濁っていない、綺麗なフジが居る。
もう、私は表世界の人間では無い。だから、これからは
「フジを必ず救ってあげる」
それが私の、裏世界でのレイの目的だ。
「さっきから、何言ってるの……レイ……」
意外に辛辣な言葉が帰ってくる。別に大丈夫。返事を求めていたわけじゃないから。でも、少し自分が恥ずかしくも感じてしまった。
「貴方の名前はフジ!不死って意味でフジ!幸せになるんだよ!フジっ!」
私は、元気に笑顔で、そう言った。それを聞いた途端、フジの顔が明るくなり、頬が溶けてきた。喜んでもらえたのなら何よりである。
私はそのまま私の意識は暗闇に堕ちた。
◇◇◇
《アーボ》
ここまでとは思わなかった。
俺は"アーボック"と共にレイの元へ戻ってきていた。レイがフジを守れているか、守れていないかの確率は五分五分だったと思う。レイがフジを守ったということは、ポケモンを殺したこととなり、守れていなかったらポケモンの殺しの重要さを知る事となる。
俺にとってはどちらに転んでもレイの意識改革にできるためどっちでも良かった。
結論を言うと、レイはフジを守れていた。しかし、殺しているポケモンは二匹。頭を確実に潰している。殴って殺しているではなく、確実に殺すために『潰している』
初めて殺した上に、昨日まで表世界の価値観を持っていたはずなのに急に残忍な一面を出してきたため俺は少し戸惑っている。しかし、悪いことでもないため受け入れよう。
午後八時直前。時計がないため感覚だが、長年この施設に居るため大体合っていると思う。
「あっ、えっと……」
目の前には両足がちぎられたレイと、疲れ果ててぐったりとしているイーブイ、それを守っていたフジが居た。
この出来事で一つの誤算があった。フジが予想以上に強い事だ。今考えれば、三歳ほどの幼い見た目で、一人で大きな怪我なく一日生き残ったのだ。今のレイよりも強いことは明らかであったのに、フジの弱々しい性格で完全に見誤っていた。
レイがポケモンを殺せるようになったらフジは処理しようと思ったが、これは今後もレイの特訓に役立てられそうである。
「アーボック。イーブイを頼む」
そう言うとアーボックは音を立てずにイーブイに近づき、抱えた。俺はレイを抱えフジの方を見た。
「何してる。行くぞ」
「え? 助けるのはレイだけって……」
「気が変わった。嫌だったら見殺しにしてやるが」
「い、行く!」
そう言ってフジはテトテトと着いてきた。これからは二人の面倒を見るのか…… 俺は体が重くなる感覚がするが、不思議と悪い気はしなかった。
「ねぇ……レイは、大丈夫なの? 足が……」
「唾つけときゃ明日には治る」
俺は特に気にせずそう言った。フジはにわかに信じられないという顔をしているが、また何か言ってきたら睨みつけて黙らせるので特に問題は無い。
ガラスドーム越しの空は、相も変わらず気持ちの悪い灰色だった。
第一章 フジ 終
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137 :げらっち
2022/10/23(日) 02:19:56
読んだ!感想は制作言及スレに書くってわかってるのだが、1つだけ…
イラストが俺ため専用部屋に貼られてるぞ!ポケモン二次創作専用部屋もあるのでご活用を!
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138 :ベリー
2022/10/23(日) 02:34:28
>>137
わあああ!本当だ折角作ってくださってたのにすみません間違えちゃいました!
次からはちゃんとわけさせていただきます……!
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139 :ベリー
2022/10/30(日) 23:14:39
第二章 スイ
「イーブイ! そのまま喉掻っ切って!」
周りに響くように叫ぶと、それに答えるようにイーブイが小柄な体型を生かし、風のように走っていく。
イーブイのしっぽが鋼のように輝き、弱ったリングマの喉に当たる。リングマの断末魔、噴水のように飛び散る不健康そうなドロドロとした血。
それを浴びながら疲れた私は膝に手をついていた。
私は足がある。歩ける。走れる。半年程前、私は両足を失った。本来は足や腕などが無くなると手術等をしないかぎり治らないはずなのだが……三週間で私の両足は生えた。くっつけたのでは無い。生えたのである。その過程はかなりグロかったが、それよりも足が生えることに私は驚きを隠せなかった。
もしかしたら、腕は生えるものだったのかもしれない。私が誤認してたのかも。
「はぁ、はぁ……」
「レイ! 大丈夫?」
荒い呼吸をしていると一緒に行動していたフジが駆け寄ってくる。フジは息一つも乱れておらず、確実に私よりも強いことが分かる。
何故私より強い? 男だから? 施設にいるから? 嫌、才能なのだろう。そう思わないと一年間アーボの助けがあったとはいえ生き抜いてきた私のプライドが折れそうになる。
「うん……大丈夫!」
『ジリジリジリジリ』
私の言葉と共に仕事終了の合図が鳴った。私とフジは走って屋敷に向かうが、いつも仕事終了間際にやってくるアーボが居ない。
「ねぇフジ。最近アーボ居ないよね」
「うん。死んじゃった?」
私が何気なく口にするとフジは恐ろしいことを口にする。しかし、フジは表情一つ変えずに世間話のように言ったため余計私は鳥肌がたった。
「そんな訳ないよ……あのアーボだよ?」
「って言って、いつも色んな人死んでるから」
私はアーボが死んだなんて信じられなくて、同意を求めるように、縋るように言うが、それをバッサリとフジは切り捨てる。しかし、フジ本人に悪気は無さそうだった。
するといつの間にか私達は広間に来ていた。広間にも、いつも私達が寝てる場所にもアーボは居ない。
私は口を一の字に結んで、イーブイをフジに渡す。そして、いつものように食料を取りに行った。
今回も腐った肉しかないけれど、食べれると思うため肉をフジの方向へ投げ飛ばす。アーボが居ないと分かっていても、アーボ達の分の肉も掴み取ってしまう。
支給品が無くなった後はゆっくりとフジ達がいる方へ歩いてく。すると、進行方向にあのお兄さん達が居た。
あのお兄さんーーフジを食べようとしてたお兄さんだ。
「おぉ! 嬢ちゃん久しぶりだな!」
「お兄さん達! 久しぶりって……話してはないけど顔は合わしてるじゃん」
お兄さんが声をかけてくれるため、私は苦笑いしながら言った。毎晩同じ部屋で寝ているため、話す機会はなくても顔はよく見合っている。
それよりも……
「お兄さん達三人じゃなかった? あと一人は?」
「あぁ、死んだぞ?」
[
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140 :ベリー
2022/10/30(日) 23:14:50
私はそこで固まった。失礼なことを聞いてしまったとは思ったけど、仲間の死がこんなにもあっさりと片付けられてることに驚いていた。
「え、死んだ……え?」
「最近だな。例の白い化け物に食われたんだ」
「白……食われた?! 例の?!」
私はお兄さんの話内容についていけなかったため内容を繰り返すことしか出来なかった。お兄さん達は強いよ。だってフジを追い詰めてたんだもん。私よりは絶対強い。
なのに、食べられた? 化け物って、ポケモンだよね……
「なんだ嬢ちゃん。あの噂知らねぇのか」
「知らない!」
噂なんてこの施設に来てから一度も聞いた事がないし、仕事人で話す人はアーボとフジ、目の前のお兄さん達しか居ないんだもの。
「全身真っ白の化け物の話だ。裸の女だったり、人型のポケモンだったり、人間でもポケモンでも無かったり、色んな話があるんだが、俺達を襲ったのは氷技を放つポケモンだった」
「ポケモン……名前は?」
「分かんねぇ。とにかく、嬢ちゃんじゃ敵わねぇから会ったら逃げるんだぞ?」
お兄さんはガハハと笑って言った。確かに私は弱いけれど、バカにされているようでいい気分じゃなかった。
「私だって……」
「死 に た き ゃ 戦 え」
反論する前に、お兄さんに言われた。重みがある、私の心臓を貫くような言葉。私はそこで何も言えずに口をパクパクさせていた。
お兄さん達はそのまま去っていってしまった。
「……レイ?」
「わっ! あっ、フジ……」
後ろから肩を叩かれ、名前を呼ばれる。声の主は純粋無垢な顔をしているフジであった。可愛らしい顔だが毎回私が上を向いてるので結構複雑である。
「ねぇ、フジ。白の化け物って知ってる?」
「えっと……知らない……ごめん」
フジは申し訳なさそうな顔をして謝る。私は謝られるとは思っていなかったため慌てるが、声をかけるより行動で落ち着かせた方が良いと思い、フジの肩に手をのせる。
「大丈夫だよ。私もさっき知ったの。最近白色のポケモンか人間か分からない化け物が出てるんだって。お兄さん達の一人が殺された」
「あの人が……? ねぇ、アーボって……」
フジが顔を真っ青にし、両手を胸に当てた。
最近アーボを見かけない。そして、お兄さん達の一人が殺されている。アーボが無事か断言できなくなってきた。
「明日の仕事、私アーボを探すよ。フジは一人で大丈夫? って、大丈夫だよね」
フジは私よりも強い。口に出して認めたくは無いけれど、フジもアーボも内心では分かってる筈だ。
私は苦笑いしてフジに言った。
「い……嫌だっ! 僕も行く!」
「わっ、えっ、フジ!」
フジは両目に涙をためて私の胸に飛び込んできた。力が強いので立てるように本気で踏ん張らなければならなかった。フジの顔を覗くと、アーボの話をした時のような少し冷たいフジとは思えない弱々しい顔をしていた。
「大丈夫だよ。フジは強いし……」
「僕はレイの足元にも及ばないんだよ……行かないで……」
フジが震え始めた。
もしかして、フジは私がフジより弱いことに気づいていない……? ここで言うべきなのだろうか。フジは私よりも強いと。
ううん。私より強いとフジが知ったら、私が守られる側になっちゃう。だから、ここは伏せておこう。
それに、いつかフジよりも強くなれば良い。
「分かった。一緒に行こう」
私が言うと、フジがコクンと頷いた。
これだけ素直だと私が居なくなった時が心配だ。悪い人に騙されたり、弱い者いじめされたりしないかな? いや、その時はきっとアーボがいるはずだ。大丈夫。
その晩はいつものように床で二人と一匹で雑魚寝をした。
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141 :ベリー
2022/10/30(日) 23:15:03
◇◇◇
翌日の仕事場。私とフジは襲ってくるポケモン達を無視して走っていた。耳元で鳴る風きり音。口から漏れ出る空気。雑音でうるさい中それでも私は必死に感覚を研ぎ澄まして、アーボを探していた。
「レ、レイ! アテはあるの?」
「無い! 勘!」
「もうちょっとなんか考えようよー!」
流石のフジでも息が切れてきたようだがそれでも私は足を止めない。何かあれば私が担ぎあげよう。
でも、勘ばかりに頼って無鉄砲に仕事場を周っても見つからないかもしれない。私は一旦止まって息を整える。
「……はぁ、はぁ。ちょっと、考える? フジ」
「うん……はぁはぁ……」
息を切らしながらも私とフジは地面に仕事場の地図を描き始めた。ここが森、ここに川があって、ここはアーボのナワバリ……と大体の情報を書き込む。
「アーボのナワバリには居なかったよね」
フジがアーボのナワバリに罰マークを入れる。
「そうだよね。屋敷の入口は何も無いし……これぐらいだね絞れるのは」
私は入口にも罰マークをつける。二つしか除外はできず、残った場所も多いためこれ以上消去法で絞ることは出来なさそうだった。
「うーん……化け物は氷技を使うんだから、寒い所に居そうだよね? 私達が通ってきたところは特段寒くなかったから……あとは」
私は通ってきた場所に罰を付けると、意外にもかなり絞れた。あとは仕事場の端っこにある岩場だ。
「待ってレイ。僕達はアーボを探してるんであって、化け物を探してるんじゃないよ」
「分かってるよ。けど、アーボが居ないのは化け物のせいってのが前提でしょ? 探しても居ないのなら化け物の場所に居そうじゃない?」
「……そうだけど」
フジが不安そうに顔を歪める。そこで私はハッとした。私達では化け物に敵うか怪しいのである。仮に化け物が居る場所にアーボが居たら助けられないし、まず生きてるかどうかも分からない。
でも、今整理した結果、化け物がいるであろう岩場にアーボもいる可能性が高い。
「私は化け物の所に行く。アーボを助けに…… フジはここに居てよ」
「嫌だ」
言うと思った。フジは怖がりながらも口を一の字に閉じて私の方を真っ直ぐな目で見ていた。素直で弱々しいが、変なところで頑固だ。そこが可愛らしい。
「よし、行くよ」
私の掛け声と共にまた走り出した。
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142 :ベリー
2022/10/30(日) 23:17:23
◇◇◇
岩場。砂、岩タイプのポケモンが生息している場所だ。屋敷の出入口から一番離れており、私もフジも余り来ることが無くどんな構造かは分からない。
けれど、アーボが居るかもしれないから躊躇いはない。
「ブイッ」
「あっ……」
するとイーブイが足を滑らせ転けかける。それをフジが受け止めようとするが、共にこけかけたため私は一人と1匹を支える。
ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。
「大丈夫?」
私が言うとイーブイはムスッとして私を見る。フジは赤面しながら顔を逸らす。確かに、いつも鍛えてるのに足場が悪いだけで、しかも敵が居ないのに転けるのは恥ずかしい。
けれど、私より強いフジが些細なことで転けるなんてあるのだろうか? 凡ミスとも思えるが、実際私も転けそうな中歩いていたのである。とても凡ミスとは思えない。
体が自由に動かないというか、震えるというか……
「寒い……」
「レイッ!!」
私がそう呟いた瞬間。フジが大声で私の名前を呼びイーブイと私を突き飛ばす。
バキバキバキ という音とともに私の目の前に現れたのは氷の柱であった。
「なっ、これ……寒い……」
私は目の前光景に頭が追いつかないがただ、寒いということは分かっていた。手足、唇が震えて体が思うように動かない。もしかして、あの化け物が出てきたのだろうか?
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
声が聞こえる。喉をかき鳴らすような低い唸り声。その声の方向を見ようとするもいつの間にか霧が出ていて一寸先も見えない。
それでも目を凝らす。化け物が居るということはこの辺りにアーボがいるかもしれないから。
「ニク……」
ガラガラ声でも高くつららのような鋭く冷たい声が響いた。その瞬間。本能がアラームを鳴らす。ここにいてはならないと。
足が震え、体が震え、歯はカチカチと音を鳴らしていて寒さによるものか恐怖によるものか分からない。
「誰っ! あっ」
後ろに何かが居るという無根拠な感覚が走り振り向くと、ブンッと言う音とともに私の頬を鋭利な氷が掠める。
その氷のおかげで、攻撃の主が……化け物の影が見えた。
白い、只只白い人型の何か。氷を生み出し、真っ赤な三日月の形をした口元。パッと見はポケモンだ。人型の氷タイプのポケモン。けれど、よく見たら体型が人間に似ていて、記憶してるポケモンの中にこんなポケモンは居ない。
ヨダレを垂らし、血を垂らし、正体不明の化け物だった。
◇◇◇
挿絵 cdn.wikiwiki.jp
[
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143 :ベリー
2022/11/01(火) 05:24:08
「誰……」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
ポケモンなのか人間なのか分からなく思わず呟くと、白い生き物は鬼のような叫び声で私に向かって走ってくる。手には氷の刃。当たったらタダではすまない。
白い生き物は驚くほどのスピードで走って来る。それでも慌てるほどのものじゃない。軽くかわそうとするが、体が思うように動かない。
「あうっ!」
全身の筋肉を全力で使って大袈裟に大きな動きで化け物の攻撃をかわした。しかし、上手くかわしたわけではないため私は倒れる。
寒い。自然と震えが止まらなく、全身が凍りそうである。故郷の村の冬も寒かったがこれ程寒くはなかった。私が半袖半パンだからかもしれないが……
私は起きるためにゆっくりと顔を上げると、そこには化け物が居た。化け物が私を見下していた。
ーー死ぬ
本能が叫んだ。けど、いつも感じる死に際と比べて何か違和感があった。殺意が無い。私を殺そうとする必死さが無いのだ。怒りや憎しみ、悲しみ等の相手への負の感情も感じない。
まるで、相手の私利私欲の為に殺そうと……
「おいしそうな……」
ふと風が吹き、それで少しだけ化け物の顔が見えた。
いや、化け物じゃない。ポケモンでも無い。肌も髪も白く、目は水色で白目部分は黄色。口元から漏れ出る鮮血。
「ヒト……?」
「うおぉぉぉ!!」
私が呟くと、幼い少年の声が聞こえて白い子が何者かにタックルされた。フジだ。全体重を白い子にかけて上手く力を出している。
「レイ! 大丈夫? 立てる?」
フジが私を引っ張ろうとするが、岩が氷のように冷えているため皮膚とくっついてしまっていた。剥がそうとしても痛い思いをすることが容易に想像出来るため私は体を動かせない。
足がちぎれたり怪我したりするけれど好きでやってる訳では無い。痛いものは痛いし好きなわけが無い。だから剥がせない。
「立てない? 大丈夫僕が剥がすよ」
「いだっ、ふ、フジ! 痛い! いだいっで!」
フジがなんの悪気もなく私の体を剥がし始めた。死ぬほどの痛みではない。今までの怪我と比べたら大したことは無い。
しかし、大怪我を何回もしたからこそわかる。怪我が大きければ大きいほど余り痛みは感じない。いや、感じる痛みがキャパオーバーして余り痛く感じないのだ。今は痛みはキャパオーバーしないが、しないからこそ皮膚が剥がれる感覚、痛みが嘘偽りなく伝わってきて痛い。とても痛い。
痛みに我慢しているといつの間にか岩から皮膚が全て剥がれていた。この間わずか数十秒。なのに私は三十分程に感じていた。
「レイ。良かった。無事だ」
フジが感極まった顔で私に抱きつくが、私は素直に慰められる状態ではなかった。痛みによる放心状態と、剥がれた部分のヒリヒリとした痛み。寒さに化け物の正体、フジの感覚のズレ。
情報量も考えることも多すぎなのだ。
「フジ……痛いよ……」
他人の痛みが分からないフジへの怒りを込めて放った一言。フジだって幼い。分からないこともあるしこんな環境で生きていれば感覚がおかしくなることもある。
そんなこと分かっているはずだったのに声に出してしまった。抑えきれなかった。
「だっ、大丈夫レイ? 全身血だらけ……化け物に何をされたの……」
違うよフジ。この血は、全身の肌から溢れ出る不健康そうな血はフジのせいだよ。
でも、次瞬間私の怒りは引いてしまった。フジが白い子に殺意を込めた視線で睨みつけていたからだ。白い子もたじろいでこちらに近づこうとしない。
フジは本気で私の傷は化け物のせいだと思い、本気で化け物に殺意を向けているのだ。
ーーおかしいのは私の方?
そんな考えが頭をよぎった。だって足が無くなったり、ポケモンに体を食べられたり、施設に来る前は頭が無くなってた気もする。
皮膚が剥がれただけの痛みでこんなに感情的になる私の方がおかしいのかもしれない。いや、私の方がおかしいんだ。なんで小さなことでフジに怒っていたのだろう。
私は自分の心の狭さを悔やんだ。
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144 :ベリー
2022/11/01(火) 05:24:29
「フジ。大丈夫だよ。ごめんね」
私はそう言ってフジを自分の背中に立たせた。そして、白い子の方を見る。
霧で分からなかったけど化け物と呼ばれていたのは実際白色の少女だった。けど、人間と思えない点が幾つか。アーボのように白目部分が白色では無い。黄色をしている。それに、人間なのにポケモンのような氷技を使う。
一体何者だろうか
「あの、貴方は……? 人間?」
私はコミュニケーションを試みる。白い子は口を閉じて笑った。口からは大量のヨダレが出ており、瞳は焦点があっていない。
「……お腹空いた」
「大丈夫? 私にできることなら……」
意外にも話が通じると思った私は警戒しながら白い子に近づく。もしかして、お腹を空かせているから私達を襲ったのだろうか? だって、さっきの白い子は私に殺意は向けてなかった。殺すためじゃなくて、食べるために襲っていたから。
お腹を好かせているならポケモンを狩って食べさせてあげよう。時間があればきっと調理もできるはず。
「本当? 食べさせてくれる?」
「うん。お腹すいたよね。もう大丈ーー」
「ありがとう」
その瞬間、白い子は私の首元を噛みちぎった。甘噛みとか怒って噛み付いたとかじゃなくて、首元の肉を"噛みちぎった"のだ。
「あ゙っ」
唐突に私を襲う激痛と思いもよらなかった展開。そして、首元という急所を噛みちぎられたことによって起こるブラックアウト。
そこで私は無防備に後ろに倒れ始めた。
「ダメッ!」
するとフジが私を後ろから支えてくれる。急所に近い首元を噛みちぎられフジも流石に不味いと思ったのか、噛みちぎられた箇所にフジは口をつけて舐め始める。それに効果があるのかは分からないが怪我の部分を舐めるのはよく見かける。
「いたっ……クッ……だ、大丈夫だよフジ」
フジの舌が傷に当たる度に痛さで少しづつ意識が戻り、気を失わずに済んだ。しかし、気持ちが悪いためフジから体を離させて貰った。
「美味しい、美味しいね。大丈夫。殺さない。食べるだけだから」
白い子は肉を頬張って私の方を見る。
そこで気づく。お腹が減っているだなんて易いものじゃなかった。彼女は施設のポケモンのような極度な飢餓状態だった。事実、白い子の体の所々に噛み跡や食いちぎった跡がある。自分を食べているのだこの子は。
「大丈夫。殺さない。食べるだけ。だから警戒しないで」
「ブアッ……」
「ダメ。イーブイ。食われるよ」
イーブイが戦闘態勢に入ったため、私はそれを手で遮る。白い子はポケモンのように手の平から氷を出して刃を作り、近づいてくる。
どうするべき? 相手は人間っぽいけどポケモンのようなことをしている。
仕事人なら殺したくは無いけれど、ポケモンなら殺さなければならない。けれど区別がつかないし、相手はただお腹を空かせているだけ。この施設による被害者ということは火を見るより明らかであった。
「レイ。僕が殺す……!」
「フジ待って。殺しちゃダメ」
フジが手をふるわせて言うがそれを遮る。フジ自身も怖いだろうし、私が守る側だから守られなくはない。
フジ達を守りたい。かと言って白い子を殺すのも違う気がする。
「食べる?」
私は、そう言って腕を白い子に向けていた。
「レイっ?!」
フジの驚いた声に私も何を言ってるのか分からなかった。
『食べる?』そのままの意味である。私を食べないかという提案。別に食べられたいのでは無いし、痛いのは嫌だ。なのに何故か口から漏れ出ていた。
白い子は何も言わず躊躇わず、勢いよく私の腕に噛み付いた。
「いだぁっ……!」
腕に熱した鉄を入れられるような痛みと共に肉がちぎれる。骨が外に出てるんじゃないか? と錯覚するほどの痛み。実際骨は見えておらず、骨が見えるほど食べらられたらどれ程痛いのか想像ができず全身が震えた。
◇◇◇
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145 :ベリー
2022/11/01(火) 05:24:49
「レイ! 何やってるの! やめっ……ろ!」
フジが出会って初めてと思えるぐらいの怒りを込めた声で白い子の頭を抑えるが、白い子の食への執着は凄まじく、フジが抑えていてもどんどん私の腕は食われていく。
「はぁ……あ゙っ、あぁ……」
痛いけど、叫ぶ訳にも行かない。だから大袈裟に呼吸をして痛みを和らげようとするも気休めでしかなかった。痛い。熱い。痛い痛い痛い。
「……やめでよっ!」
「ヴァっ!」
フジの駄々っ子のような悲痛な叫び声が響いた瞬間、白い子の唸り声が聞こえた。
私は頭を振って、目に力を込めてブラックアウトし始めた視界を何とかして正常にする。
目の前には倒れている白い子に唖然とするフジ。白い子を倒したのはフジでは無いようで、白い子の頭の横には肉塊が落ちていた。
もしかして、この肉塊に当たって倒れた?
「なんでここに居るんだ」
すると聞きなれた声が聞こえた。いつも守ってくれたあの聞きなれた安心する声。
『アーボ……』
私とフジの声が被る。
いつの間にか霧は晴れており、そこには様々なポケモンや肉塊を抱えたアーボと"アーボック"が居た。
「何故ここにいる。岩場で仕事なんてお前らしないだろう」
アーボが何考えてるか分からない表情で私達を見る。悲しんでるのか嘲笑ってるのか申し訳ないのか嬉しいのか、全く分からない。分からないけれど……
「ア゙ア゙ーボオ゙ォ゙ォ゙……ア゙ア゙ア゙……!」
私は安心感に包まれて親を呼ぶ子のように情けなく泣きわめき初めてしまった。もう十一歳。表世界では成人扱いなのに私は情けなかった。
「フジ。何があった」
「アーボを最近見かけないから、僕とレイで探してたんだよ」
アーボを全く恐れなくなったフジが説明をする。私は涙と嗚咽が止まらなくてずっと泣きわめいていた。
「大丈夫。殺さない。食べさせてね」
私は殺されるから泣いてると勘違いした白い子が引き続き私を食べようと近づいてくる。大丈夫。アーボがいるから安心して食べていい。そう思い手を差し出そうとするも、白い子に食べられた方の手が、指が何故か動かなかった。
「お前はこれでも食っていろ」
「ぐぁっ……お肉……ニク!」
するとアーボ達が持ってきた肉を白い子に全て投げつける。支給品並の量である。白い子はそれらを目を輝かせて食べ始めた。
「ねぇアーボ。これはどういうことなの?」
「それよりレイのこの腕はどうした」
「質問してるのは僕だよ……?」
「ア゙?」
「ひいっ……」
怒りで強気になってたフジがアーボに問いかけるも、アーボの威圧でフジを大人しくさせた。先程の威勢はどこへ行ったのやら、フジは私の背中に隠れた。
「レイ。これはどうした」
「食べざぜだ……」
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146 :ベリー
2022/11/01(火) 05:25:06
アーボの問いかけに私は嗚咽を抑えながら答えた。アーボが顔にシワを増やした顔をする。
パァンッ!
と、良い破裂音のような音が辺りに木霊する。片手の痛みがキャパオーバーしかけており全身の痛覚が鈍り始めているためか、ビンタされたのだと気づくのが遅かった。
「ここがどこか分かってるのか」
「何するのアーボ……?」
アーボの威圧で押しつぶされそうになり、声を震わせて問いかけることしか出来なかった。
「お人好しはそこまでにしろ!」
怒鳴り声。聞き流したくても脳に叩きつけるように響く怒鳴り声。
私は、アーボの怒鳴り声を初めて聞いたかもしれない。
「ここがどこか分かっているか」
「し、しせつ……」
「そうだ。殺し合いの場だ」
先程感情を垂れ流しにして泣き喚いてしまったため、感情のコントロールがガバガバになった私はまた泣きそうになっていた。
分かってる。殺し合いの場……ポケモンを殺すのが仕事。けど、今回は悪いことしてないよ? 私、人を助けたんだよ?
「仕事の片手間に救うのなら俺は何も言わない。けどな、救えない癖に中途半端に手を差し出すな」
「中途半端なんかじゃ……」
「じゃあお前は食われてどうするつもりだった?
根本的解決はしてないのにその場で満足させてまた『飢餓』という地獄に突き落とすのか?」
私は何もいえなかった。私は食べられたとして、その後白い子はどうする? 空腹はずっと食べないと解決しない。けど、この施設で食べ物には簡単にありつけないのだ。また空腹に襲われるのは分かりきった事だった。
その場しのぎの助けは果たして『救い』と言えるのだろうか?
「最悪お前は食い殺され、白いヤツはまた飢餓に襲われる。どこにメリットがあるんだ」
「なざぃ……ごめんなざぃ……」
アーボの正論と威圧、罪悪感に私の弱さ。色んな目を逸らしたい事が一気に襲ってきて私はもう耐えられなかった。
私の『ごめんなさい』は誰に向けての物か分からなかった。
アーボに向ける、愚かなことをしてごめんなさい?
白い子にとって辛くなる事をさせてごめんなさい?
自分の愚かさに耐えられず罪滅ぼしのごめんなさい?
きっと全部だ。全部のごめんなさいだ。
「レイ……」
するとアーボが私の頭に手を当てる。撫でてくれるのだろうか、嬉しさが少し出てきてアーボを見上げる。
「お前はおかしい」
「え……」
しかし、私を襲った言葉は柔らかいものではなくナイフのように鋭く痛いものだった。
「狂った地獄のようなこの環境では、狂うのが正常だ。お前は何故まだ表世界の倫理観がある? 何故まだ狂っていない?」
アーボは私の頭を掴み、力がどんどん込められていき頭が潰れるかと錯覚するぐらいの痛みを感じる。寒くないのにまた全身が震えてきた。今回は間違いなく恐怖によるものである。
「だって……」
「全 て 捨 て ろ」
私が何とか言い訳を捻り出そうとするもアーボの一言によって言葉が引っ込む。捨てるってどうやって? どうすればこの価値観は捨てることができるの?
正常って何?
「ア、アーボ……待って!」
「なんだ」
フジの慌てたような声とともに『黙れ』という意味が隠されてることは容易にわかるアーボの一言。
でも、今回のフジはいつものようにアーボの威圧に負けたりしなかった。
「あの、白いヤツって……」
フジが肉を食べている白い子を指さす。私は罰が悪く、口を開けるようなメンタルが無いため何も言えないが、白い子の正体は気になっていた。
「先日施設に入った仕事人だ」
「人間……なの?」
アーボが白い子の方を見るとフジは震えた声で聞いた。
「どう思う?」
「人間とはとても思えないよ」
「それは、フジもレイも俺も……仕事人もだ」
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147 :ベリー
2022/11/01(火) 05:25:25
嫌悪も込められてるようなフジの言葉にアーボは否定も肯定もせずに言った。
フジは意味がわからなさそうにしていたが、表出身の私だからこそわかる。仕事人達はとても人間とは思えない。もちろんフジもその一人である。
精神面でも、肉体面でも。
「生まれつき色素が少ないからこその弱さ、コントロール出来ないポケモンの技に近い冷気、その冷気を出すことによって起こる飢餓。
それらの要素で施設に入れられたのがあの白いヤツだ」
「病気?」
フジが首を傾げて聞くとアーボは何かを考えるように手を口元に当てる。
「そう……だな。色素に冷気に飢餓。三つの病院を持ってると言える」
「アーボは、白いヤツを助けるために数日いなかったの?」
アーボが質問に答えた後にフジが早口で、相手を攻めるように聞いた。しかし、アーボは動じていない。
「あぁ。そうだな」
「さっきアーボはレイになんて言ったか覚えてるの?」
「勘違いするな。俺は持続的な食料の補給に加えて狩りも教えるつもりだった。レイと一緒にするな」
私は、心臓が口から飛び出そうになるが、息を止めて抑えた。フジも何も言わない。
私を興味本位で助け、仕方なくフジの面倒を見ているアーボが白い子を助けるの? もしかして、私はもう要らないのかもしれない。私の代わりになる良い仕事人を探してたのかもしれない。
「アーボって自分から人を助けられるの?」
「バカにしてるのか?」
「ちっ、違うっ……」
今度のフジの質問は悪意がないただの質問だったようだが煽りのように聞こえてしまい、アーボはイラつきながら答える。アーボの反応は予想外だったようでフジは声が小さくなる。
◇◇◇
cdn.wikiwiki.jp
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148 :ベリー
2022/11/01(火) 06:27:39
「もう、大丈夫アーボ。私アーボから離れるから……迷惑かけてごめん……」
私は思わず心の声を出してしまった。どんどんネガティブになっていく私の思考。それに気づかない私はどんどん被害妄想を膨らませていた。
表世界の価値観を捨てられない。ポケモンも半年前は殺せなかったし、未だ私よりフジの方が強い。
私は要らないじゃないか。足でまといだ。
「……は?」
するとアーボが意味がわからないといった声を吐いた。それは私が要らないという仮説に近い事実を、私の中で事実にさせた。
「アーボはレイが要らないの?」
「要らない」
フジが私の様子を見て不安そうにアーボに問いかけると即答で返ってきた。
要らないことは分かっていてもそれでも傷ついてしまった。
「まずレイもフジもあの白いヤツもアーボックでさえも俺は要らない。いなくても生き残れるからだ」
当たり前だというようにアーボが話す。フジが欲しかった趣旨の回答では無かったし、アーボが一人でも生き残れるのは私達でも分かるものだった。
「そういうのじゃ……!」
フジが反論を試みるも良い反論が思いつかなかったのか黙ってしまった。しかし、アーボは考える仕草をしており意外にもフジが反論を試みたことに怒ってはいなかった。
「仕事というのはな。自分が居なくなっても回るようにするものだ」
「き、急にどうしたのアーボ?」
フジが怪訝そうな顔でアーボを見るも、それを無視してアーボは私を見下す。
「レイ。お前は無能だから自分の代わりを用意出来ていない。分かるな?」
「えっ……」
『ジリリリリリ』
すると仕事終わりの合図が施設内に響き渡った。
「白いヤツ。来い」
アーボは白い子の首を掴んで雑に運び始めた。そして、私とフジは岩場に置いてきぼりである。
「フジ、私要らないのかな……」
「あれは照れ隠しだとおもう……それにしては『隠し』の部分がキツいと思うけど」
私は不安でフジに聞くが、いつの間にかフジは呆れたような顔をしており私は不思議で堪らなかった。
「帰ろ。レイ」
フジが私に手を差し伸べる。私は食べられてない方の腕でフジの手を握る。
私が守るって言ったのに、救うって言ったのに、フジに助けられてばっかで自分が情けない。
「私捨てられるのかも……」
「レイが捨てられても僕は最期までレイの傍に居るよ。捨てないでくれる?」
屋敷へ戻る途中、アーボの先程の言葉の真意をちゃんと理解出来てなかった私はまた弱音を吐いた。
フジは慰めるように私に凄いことを言った。嫌、フジの事だから慰めのような打算的なものでなく、純粋な言葉かもしれない。
「うん。捨てない。ずっとフジのお母さんでいるよ」
「……レイにとって……僕息子なの?」
「うん」
私の手を引っ張っていたフジは立ち止まって私の方を不安そうに見る。大丈夫。私はそんな簡単に死なない。その決意として力強く頷いた。
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