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┗317.幻想の叶え歌

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1 :露空
2022/10/02(日) 16:19:42

幻想の叶え歌 ―げんそうのかなえうた―

どうも、露空です。


無限の勇気と揺るがない覚悟、不屈の精神を胸に、果敢に戦っていく。
どうせなら、その夢さえも超えていけ。
奇跡を巡らせ、願いを叶えた戦士達の物語。

>>2    登場人物  >>5 用語解説

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2 :露空
2022/10/03(月) 18:38:16

●世透 琥夏 (せとう こなつ)
中学二年生。七月二十三日生まれ。

【流戟隊】(りゅうげきたい)
●桃樹 麗 (ももき うらら)
二十二歳、大学四年生。
自らが住む和風家屋で灼による負傷者を救護している。

●詠壱 湊斗 (えいかず みなと)
二十一歳。七月十九日生まれ。
流戟隊員。

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3 :露空
2022/12/12(月) 19:10:56

一話 


「此処の周りかな?気配は無いけど……」
この街で、灼によって約二週間のうちに三人が行方知れずになっているという報告を聞いて駆けつけてきた。しかし、居た痕跡は見つからないまま時間が過ぎていく。
「っ!」
路地裏を抜けたところで少年が倒れている。駆け寄って声をかけた。
「『灼狩り』の流戟隊、湊斗です!聞こえますか!」
頭から血を流し、軽いが全身に怪我があった。意識が無い。でも脈と呼吸はある。
突如現れた得体の知れない化け物に、必死で抵抗したのだろう。
此処から近い麗さんの家で治療すれば助かるはずだ。
その中学生くらいの少年を背負い、彼女の家へ急いだ。

「灼」とは、三十年程前、つまり僕も産まれる前から東京やその近辺に蔓延る生き物のこと。知らない人も多い。というか、よほど僕のように灼狩りでもしていないと知らないと思う。影に潜む悪そのものだ。
人を襲う。原因は未だ解明されていない。
そんな灼も、元は……生前は、人間だという。

「麗さん!居る?怪我人だ!」
麗さんが一人で暮らし、流戟隊の本拠地になりつつある此処は小さな和風建築だ。彼女の曾祖父母の代に建てられたという。
「はい!大丈夫、処置道具を用意するから奥の部屋に布団を」
廊下を早足で歩き、一つの部屋の襖を開ける。
ひとまず畳に少年を座らせ、押し入れから布団を出してひき、寝かせた。
程なくして麗さんが道具を入れたかごを持ってきた。血と汚れを拭い、傷を消毒して包帯を巻く。いつ見ても素早い。
「怪我の処置はできた。目が覚めたら状況を説明してあげてね」
一緒に居てあげて、と残して麗さんは戻ってしまった。

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4 :露空
2023/01/10(火) 18:48:52

頭の中が曇っている。濃く深く。
俺は何処に居たんだっけか。
なんだか、記憶と比べて地面の感触が違う気がする。
頭が痛い。打ったのか?
重い瞼を開くと、俺が居たのは知らない和室だった。
「此処は……?」
目を動かし見つけた青年に問う。
間髪入れずに、気が抜けたような声でえっ、と漏らした。
「う、麗さぁん!彼起きました!」
医者にしては何とも言い難い感じだ。

麗と呼ばれた人が青年と一緒に枕元まで来てくれた。
上半身を起こした俺を見て「大丈夫?痛くない?」と心配してくれる優しそうな人だ。
「私は桃樹麗。君、名前は?」
「世透琥夏です」
「いくつ?何年生?」
「十三歳で、今月中二になります」
「誕生日は?」
「七月の二十三日です」
単に俺の情報を確認しているのか?それとも意識がはっきりしているか確かめているのだろうか。
「そう、なら湊斗と近いね。ほら」
さりげなく話しかけているが、いかにも彼に自己紹介を促しているようだ。
「うん。あっ、それで、遅れたけれど僕は詠壱湊斗っていいます。七月十九日生まれの二十一歳。流戟隊に所属してる」
「はっ、初めまして」
硬い俺の声から緊張しているとわかったんだろう。麗さんが口を開いた。
「ううん、緊張しなくていいよ。それでね、どうして今こうなってるかの話なんだけど……落ち着いて聞いて」

さっきまでのにこやかな顔から変わって、少し深刻そうな顔になる。
「私達は流戟隊。灼狩りをしてる戦士。そして、琥夏君は、此処の近くで灼に襲われて倒れてたの。覚えはない?」
「灼、ですか……?」
そうだ。俺は出かけた途中で何かに後ろから襲いかかられた。何処に行こうとしていたのかはよく思い出せない。必死に抵抗したけれども駄目だった。
「怪我は、程度から見るに灼の爪によるもの。頭に集中していたから灼は琥夏君より背が高かったんだと思う。それと倒れた時にできた傷。気絶の原因は倒れた時の軽い脳震盪ね」
どれも重傷じゃないから大丈夫、と麗さんは付け加える。
「そうですか。ありがとうございます。此処まで運んで布団に寝かせてくれたり、怪我の処置もしてくれて……」
そして俺は決めた。いつか言おうとしていたことを此処で。
「麗さん、湊斗さん。俺、戦士になって灼を倒したいです」

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5 :露空
2023/02/05(日) 17:51:22

用語解説

灼 -しゃく-
約三十年程前から存在する人間を襲う生物。身体能力が高く傷の治りも速い。
外見は人間に酷似しているが、眼球の白目に当たる部分が黒い。顔に模様が刻まれている。
元は人間だといわれる。


灼を討伐したり戦士を治療する部隊。流戟隊などがある。
およそ五十程の隊がある。非公認・非公式のため全数把握はされていない。

戦士
隊に所属して灼と戦い討伐する者のこと。特定の戦士の場合は「詠壱隊士」など隊士と呼ばれる。

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6 :露空
2023/02/06(月) 21:03:17

二話


「麗さん、湊斗さん。俺、戦士になって灼を倒したいです」
いきなり俺の口から発せられた言葉に二人は驚いている。それもそのはずだ。初対面で、会話して五分程の怪我人からこんなことを聞くとは思わないだろう。
「昔からの夢だったんです。いつかなりたいと思ってました。勿論、戦士は命懸けだって知ってます。戦うのも、ただ強いだけじゃ駄目だって。憧れだけでなれるものじゃないけれど、俺は、人が灼に脅かされないようにしたいんです」
「……そうね。じゃあ、もう一度灼と戦士の話をしようか」
湊斗さんが正座をさらにしっかりと組み直した。そして麗さんがゆっくりと話し始める。

「まず『灼』。灼熱の灼と書く。日が落ち暗くなってから動き始める。昼間でも灯りが無い建物の中や日が差さない影では活動している。つまり明るいところを嫌うのね。身体能力が高くて、疲労や傷の回復がとても速い。無くした四肢も再生できる。心臓を壊して倒すまでは半永久的に生きる。寿命が無限なの。これは灼の細胞分裂が非常に活発且つ限界が無いから。基本的には物を食べずに生きることができる。そして、重要なのは人間に灼の血液を流し込んで生まれるということ」
戦士についても、戦士は隊に所属すること、そうしてできた隊は約五十隊存在すること、戦士及び隊は非公式でありほぼ善意での活動であることを教えてもらった。
これが基本要項かな、と一つ深呼吸をする。
「僕たちは流戟隊。今のところ僕と麗さんともう一人の三人が所属している。僕とその一人は戦士として灼狩りをしていて、麗さんはこの家で灼の研究と戦士や灼の被害に遭った怪我人の治療をしている」
如何にも自分の出る幕がやってきたというように湊斗さんが話した。
「琥夏君はこの戦士というものをよくわかってくれている。もし、この気持ちが変わらなかったら、明後日の正午また此処に来て」
麗さんがそう言って何かを書きつけ俺に渡したのは住所だ。俺が住んでいる町の隣の市が記されていた。
「体調は大丈夫そうだね。このまま帰れそう?」
傷は痛むが歩けそうだ。
「知らない場所だよね、帰り道がわかるまで一緒に行くよ」
途中まで湊斗さんが着いてきてくれることになった。
「麗さん、本当にありがとうございました!」
「いいのよ、お大事にね。……そうだ、灼によってできた怪我だってことは家の人に伝えてね。戦士のことはまだ言わなくて大丈夫」

麗さんの家は意外と近く、俺の家の最寄り駅に着いたところで湊斗さんと別れた。
「琥夏君は強いんだね。灼に襲われて怖いはずなのに戦士になりたいって言えるなんて。『新隊会議』、待ってるよ」

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2 :露空
2022/10/03(月) 18:38:16

●世透 琥夏 (せとう こなつ)
中学二年生。七月二十三日生まれ。

【流戟隊】(りゅうげきたい)
●桃樹 麗 (ももき うらら)
二十二歳、大学四年生。
自らが住む和風家屋で灼による負傷者を救護している。

●詠壱 湊斗 (えいかず みなと)
二十一歳。七月十九日生まれ。
流戟隊員。

5 :露空
2023/02/05(日) 17:51:22

用語解説

灼 -しゃく-
約三十年程前から存在する人間を襲う生物。身体能力が高く傷の治りも速い。
外見は人間に酷似しているが、眼球の白目に当たる部分が黒い。顔に模様が刻まれている。
元は人間だといわれる。


灼を討伐したり戦士を治療する部隊。流戟隊などがある。
およそ五十程の隊がある。非公認・非公式のため全数把握はされていない。

戦士
隊に所属して灼と戦い討伐する者のこと。特定の戦士の場合は「詠壱隊士」など隊士と呼ばれる。