余りに静かな夜に、ふと堪らなくなった。何があった訳でもないんだ。ただ、胸の奥がざわめく。
こういう時どうすれば良いかを、僕はまだ知らない。もっと人に近付けば、これを吐き出す方法も見つかるのかな。それとも、このざわめきが人に近付いている証拠なのか。考えてみると、刀の身で居た時には、こんな思いはなかった気がする。

…きっと眠って、目を覚ませばこの感情は霧散する。なら、無理に抑えず、この物寂しさに身を浸すのも悪くないかな。
温めた牛乳に蜂蜜を垂らして、暫くはぼんやりと過ごそう。明日になればきっと、いつも通りの僕に戻るから。そう、きっと。


――――

愛しているから離れよう。そんな話を聞くたびに、理解が出来ずに首を傾げる。だって、愛してるなら傍に居たいのが当然じゃないか。
君を喪ったら。想像するだけでぞっとする。ねえ、僕を置いて行かないでね。待て、の姿勢のまま、何時までだって待ってしまうから。

…ごめん、そんな話を読んだんだ。それだけだよ。

俺は己の不注意と不運を呪った。
恨むべき不注意は、気紛れに綴った帳面を開いたまま眠ってしまった事。
呪うべき不運は、それを見つけたのが、よりにもよって国＿永だった事だ。

帳面を見た彼奴はいたく喜んで、どうせなら此方で綴れと、俺の手を引いた。奴曰く、この日誌なら他の目にも触れるから、らしい。
引きこもりの倶＿利＿坊にも友が出来るかも知れないからな、と得意げに頷く彼奴は、俺が筆を執るまで煩く付き纏うだろう。その程度は容易に想像がついた。
それと、俺を何処ぞの配管工に踏まれて倒されそうな名で呼ぶのはやめろ。

そんな経緯で今俺は筆を手にした訳だが、何を綴れば良いのやら。熱に浮かされた間だって、何かを残そうと考えていた訳じゃない。ただの気紛れだった。その筈だった。
俺の頭を占めるものといえば、彼奴しか思い浮かばない。しかし、彼奴の目に触れる可能性がある場で綴るのは。いや、気付こうが気付くまいが、綴るのは俺の勝手なんだが。んん……。

…今日の昼餉は秋刀魚だった。まだ本調子でない所為で薄れた食欲では、味わい切れなかったのが惜しい。体調が戻った頃に、また光＿忠にせがむか。

熱を出した。
人の身を受け取ってから、初めての事だ。どうやらこれは、手入れでは直らないらしい。大人しくしている様に、という言葉と共に、布団に放り込まれた。
慣れ合うつもりはないが、今出て行けばあの連中はぎゃーぎゃーと騒がしいだろう。その声は、鈍く痛む頭に響くに違いない。だからといって、半端に覚醒した頭では、これ以上眠り続けるのも難しい。

ふと思い立って、帳面を引っ張り出した。中身は、白紙。自由に使えと支給された時のまま、開かれる事もなかったそれ。

大人しくしていれば、文句はないんだろ。

半完、虚実混合。
同性愛表現。
メタ発言、横文字有り。
姿多数。
成人向。
閲覧自己責任。
乱入不可。
交流可。