僕が、嵐の中に連れて行きたかった。彼女もそれを求めていた。
わなないて、キスをねだる唇の奥にもその小さな嵐があった。よろこびに満たされていくのが分かったよ。幸せで、夢中だった。腕の中で熱くやわらかく息づくものに、ただ埋もれていく気持ち良さ。火のない部屋で汗が滲むほどの、むせ返るような熱に。
約束や愛の言葉だけじゃ足りないよ。まだまだ、足りなかったんだ。心の底から、身体の奥深いところから、「あなたのもの」だって理解したかい?
さあ、いよいよ格好がつかなくなってきたぞ。もっとご機嫌を取ってくれ!なんて顔をするんじゃ、もうまるきり子供だ。
何度も何度も懸命にキスをする唇に、胸の奥がくすぐったかった。そうされたくて顔を顰めたんじゃない。ただ、咄嗟に気恥ずかしさを誤魔化しただけだ。…我ながらおかしかったよ。彼女が慌てて抱きついてきただけで、あっさり唇が緩んでしまいそうでさ。
白い肌の上で緩く波打つ髪が、身体の線に沿って流れていた。やわらかい、優しい丸みのある肩や胸を頼りなく包んで、それがあまりに綺麗で息を呑んだんだ。
犯しがたい、なのにいっそ犯し尽くしてしまいたい。感情が大きく渦巻いて、心臓が破れそうだ。
オレンジ色に照らされた広い図書室のソファと、月明かりの差し込む狭い客室のベッド。そんな対象的な場所で、意図せず、全く同じ体勢になって触れ合っていた。あの場所ではできなかったことをこれから……そう強く実感して、白状するとね、妙に浮ついてたんだ。
甘く濡れた声も、素肌を通して伝わってきた熱や震えも全部。僕を夢中にさせた彼女のすべて、階下の誰も知らない、僕たちふたりだけの秘密だ。
耳障りなはずのベッドの軋む音が、彼女の立てた音というだけで身体を痺れさせる。仕草のひとつひとつが甘い気持ちを誘う。触れた指も、触れられたところも、信じられないくらいに熱かった。
息ができなくなるほど僕を翻弄しないでほしい。それは…彼女にしかできない、特別なことだけど…。