彼女の白い首筋に、朝の光の中で新しいキスマークを見付けた。
全く記憶にないわけじゃない。だけど、あれ?と思い返してみて、やっと自分の衝動的な行動を思い出すのって…どれだけ夢中だったんだろうと呆れてしまうよね。僕の首にも、たぶん一つ。ぎこちなさのなくなった少しいたずらな唇が、一夜で打ち解けきった心を、僕に教えてくれたんだよ。
「わたし…こういうところで、あなたと慎ましく暮らしてみた……」
自分の声に驚いて途切れた、あの言葉の先を聞いてみたかった。ベッドはこのくらいの大きさで良いか、一人で卵やパンを買いに行けるか、ふたりで色んなことを話すんだ。
遠いかもしれない、けど有り得ない未来じゃない。そう思えるようになったから。
「──おはよう、…お寝坊さん…!」
夢でも虚構でもない『天国』をこの時ばかりは信じたよ。目覚めたばかりでぼんやりした視界の中でも、あの澄んだ声を聞いて、彼女の嬉しげな微笑みが目に見えるようだった。
気になることは山ほどあったさ。いつの間に胸に抱かれてたんだ?もしかして髪が乱れてる?
でも、柔らかな感触とか、前髪に触れられる気持ち良さには抗えないし。僕の腕の中にまた潜り込んできた彼女が愛おしくて、すぐにどうでも良くなってしまった。
太陽がどこまで昇ってるのかも分からない。そんなことより夢中なものがあったから、窓の外を見ようとすら思わなかった。朝の光に透けた頬の赤み。夜には見えなかった、とびきり可愛らしいものだよ。