「……さあね。知らないよ、君が僕の声以外のなにを聞いたというんだ?」
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召使いが扉をノックした時、あなたがそっと笑みを消したのが分かった。わたしと目が合えば柔らかく微笑んでくださるけど、視線が合わないところでは意外と珍しいお顔をしているの。ワゴンを押す彼女のことを、お気に召さないことも知っているわ。胡乱げにどこかを見つめていたり、つまらなそうに欠伸を噛み殺していたり。普段、わたしに向ける饒舌とはまるで違った、別のお顔よ。
わたしと言えば、そんな小さな発見を楽しみの一つにしているの。どんなに探しても見つからなかったものが、ふとした偶然で見つかるみたいな、ささやかな喜びよ。わたしが知らないあなたの欠片を、ひとつひとつ見つけて繫ぎ合わせていくような…そうした日々の、何気ない幸せ。