三十三日目 年の瀬はあっという間に過ぎる。 アイツの隣でテレビを観て、笑わせ合って 夜ふかしついでに これまで聞かずにいた過去を尋ねた。 それから散歩に出掛けると、 夜分ではあるが賑やかな酒場を見つけて アイツと一緒に宴会に参加して はしゃぎ通した。 俺以外と会話をするアイツの姿は甚く新鮮で、 どこか擽ったい。 ああ。楽しかった。 お前が隣で笑っているのが幸せだ。 来年もこうして過ごそう。 …………” 今年の幸運をお互い使い果たしたかもね 来年は来年の幸運を君に使うよ ” 素晴らしい口説き文句だ。 |
三十二日目 出来心だった。 買い出し中に アイツと立ち話をしていたら、 人に呼ばれて まだ二人で居たい名残惜しさに つい、掌でアイツの口を塞いで 隠れるように身体を壁に押し付けると アイツの舌が、 俺の指の付け根を舐めた。 …………襲い受けは初めて体験したが 酷く興奮した。 ─楽しかった。また遊ぼう。 ”俺も楽しかったよエージェントα君” |
三十一日目 日記を書き始めて 稽古場への道すがらページを埋めるのが 習慣となった。 昨夜はアイツの寝顔を見るだけになったけれど こういうときの方が筆が進む。 俺がぶつける感情に アイツは甚く丁寧に応えてくれるから 寂しさを感じることは無いが、 満たされると、恋しいと思う。 この違いを書き表すのは難しいなあ。 そうだ、 お前の色を決めたぞ。 ペールゴールド。 ”灰色がかった透き通った黄色” というらしい。 髪と同じ色味にしたいと思ったんだ。 しかしお前の髪は揺れるたびに風合いが変わるから 存外に悩んだ。 …………寝起きに丁寧な口付けを浴びて うれしさにすっかり言いそびれてしまった。 今日も愛しているよ。 |
三十日目 何から書こう。 腹の底から笑ったんだ。 次は獣のような睦み合いをしようと 話していた筈だったんだが。 流れで幾らか切ない話題になって そこで日付を跨いだのは覚えている。 俺は感傷に揺れたまま指を繋いで寝ようと思ったのに。 その後の爆笑スタンプの連打。 読み返したらやっぱり ふざけ出したのはお前からじゃないか。 情緒がシャトルランのように往復して苦しい。 大好きだ。 …………恋人へ おい。朝の触れ方。 俺は本当にお前が死んでしまうのかと。 酷く恋しくなったんだ。 >>>210.日進月歩 近所の貴方。名が変わりましたね。 どんな文を書いていらっしゃるのか。 機会があれば読ませていただきたい。 |
二十九日目 週末の睦み合い。 肌を重ねる行為は アイツの全てを俺の物にしているようで 満たされて、気持ちがいい。 泣き顔を見ると甘やかしてやりたくなるけれど もっと焦らして苛めてやりたくもなって 浅ましさを曝け出したままに 二度欲を注いだ。 全部を呑み干してくれてありがとう。 次はどんな風に愛し合おうか。 …………"差し出したくなる" —全て奪いたくなる。 "奪って" —もう一回させる気か? "耐え性無いねえ" —自分でもそう思う。 |