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┗311.《ポケモン二次創作》もう終わったことだから。もう全部壊すから(141-148/148)

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141 :ベリー
2022/10/30(日) 23:15:03

◇◇◇

 翌日の仕事場。私とフジは襲ってくるポケモン達を無視して走っていた。耳元で鳴る風きり音。口から漏れ出る空気。雑音でうるさい中それでも私は必死に感覚を研ぎ澄まして、アーボを探していた。

「レ、レイ! アテはあるの?」
「無い! 勘!」
「もうちょっとなんか考えようよー!」

 流石のフジでも息が切れてきたようだがそれでも私は足を止めない。何かあれば私が担ぎあげよう。
 でも、勘ばかりに頼って無鉄砲に仕事場を周っても見つからないかもしれない。私は一旦止まって息を整える。

「……はぁ、はぁ。ちょっと、考える? フジ」
「うん……はぁはぁ……」

 息を切らしながらも私とフジは地面に仕事場の地図を描き始めた。ここが森、ここに川があって、ここはアーボのナワバリ……と大体の情報を書き込む。

「アーボのナワバリには居なかったよね」

 フジがアーボのナワバリに罰マークを入れる。

「そうだよね。屋敷の入口は何も無いし……これぐらいだね絞れるのは」

 私は入口にも罰マークをつける。二つしか除外はできず、残った場所も多いためこれ以上消去法で絞ることは出来なさそうだった。

「うーん……化け物は氷技を使うんだから、寒い所に居そうだよね? 私達が通ってきたところは特段寒くなかったから……あとは」

 私は通ってきた場所に罰を付けると、意外にもかなり絞れた。あとは仕事場の端っこにある岩場だ。

「待ってレイ。僕達はアーボを探してるんであって、化け物を探してるんじゃないよ」
「分かってるよ。けど、アーボが居ないのは化け物のせいってのが前提でしょ? 探しても居ないのなら化け物の場所に居そうじゃない?」
「……そうだけど」

 フジが不安そうに顔を歪める。そこで私はハッとした。私達では化け物に敵うか怪しいのである。仮に化け物が居る場所にアーボが居たら助けられないし、まず生きてるかどうかも分からない。
 でも、今整理した結果、化け物がいるであろう岩場にアーボもいる可能性が高い。

「私は化け物の所に行く。アーボを助けに…… フジはここに居てよ」
「嫌だ」

 言うと思った。フジは怖がりながらも口を一の字に閉じて私の方を真っ直ぐな目で見ていた。素直で弱々しいが、変なところで頑固だ。そこが可愛らしい。

「よし、行くよ」

 私の掛け声と共にまた走り出した。

[返信][編集]

142 :ベリー
2022/10/30(日) 23:17:23

 ◇◇◇

 岩場。砂、岩タイプのポケモンが生息している場所だ。屋敷の出入口から一番離れており、私もフジも余り来ることが無くどんな構造かは分からない。
 けれど、アーボが居るかもしれないから躊躇いはない。

「ブイッ」
「あっ……」

 するとイーブイが足を滑らせ転けかける。それをフジが受け止めようとするが、共にこけかけたため私は一人と1匹を支える。
 ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。

「大丈夫?」

 私が言うとイーブイはムスッとして私を見る。フジは赤面しながら顔を逸らす。確かに、いつも鍛えてるのに足場が悪いだけで、しかも敵が居ないのに転けるのは恥ずかしい。
 けれど、私より強いフジが些細なことで転けるなんてあるのだろうか? 凡ミスとも思えるが、実際私も転けそうな中歩いていたのである。とても凡ミスとは思えない。
 体が自由に動かないというか、震えるというか……

「寒い……」
「レイッ!!」

 私がそう呟いた瞬間。フジが大声で私の名前を呼びイーブイと私を突き飛ばす。
 バキバキバキ という音とともに私の目の前に現れたのは氷の柱であった。

「なっ、これ……寒い……」

 私は目の前光景に頭が追いつかないがただ、寒いということは分かっていた。手足、唇が震えて体が思うように動かない。もしかして、あの化け物が出てきたのだろうか?

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

 声が聞こえる。喉をかき鳴らすような低い唸り声。その声の方向を見ようとするもいつの間にか霧が出ていて一寸先も見えない。
 それでも目を凝らす。化け物が居るということはこの辺りにアーボがいるかもしれないから。

「ニク……」

 ガラガラ声でも高くつららのような鋭く冷たい声が響いた。その瞬間。本能がアラームを鳴らす。ここにいてはならないと。
 足が震え、体が震え、歯はカチカチと音を鳴らしていて寒さによるものか恐怖によるものか分からない。

「誰っ! あっ」

 後ろに何かが居るという無根拠な感覚が走り振り向くと、ブンッと言う音とともに私の頬を鋭利な氷が掠める。
 その氷のおかげで、攻撃の主が……化け物の影が見えた。

 白い、只只白い人型の何か。氷を生み出し、真っ赤な三日月の形をした口元。パッと見はポケモンだ。人型の氷タイプのポケモン。けれど、よく見たら体型が人間に似ていて、記憶してるポケモンの中にこんなポケモンは居ない。
 ヨダレを垂らし、血を垂らし、正体不明の化け物だった。

◇◇◇
挿絵 cdn.wikiwiki.jp

[返信][編集]

143 :ベリー
2022/11/01(火) 05:24:08

「誰……」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

 ポケモンなのか人間なのか分からなく思わず呟くと、白い生き物は鬼のような叫び声で私に向かって走ってくる。手には氷の刃。当たったらタダではすまない。
 白い生き物は驚くほどのスピードで走って来る。それでも慌てるほどのものじゃない。軽くかわそうとするが、体が思うように動かない。

「あうっ!」

 全身の筋肉を全力で使って大袈裟に大きな動きで化け物の攻撃をかわした。しかし、上手くかわしたわけではないため私は倒れる。
 寒い。自然と震えが止まらなく、全身が凍りそうである。故郷の村の冬も寒かったがこれ程寒くはなかった。私が半袖半パンだからかもしれないが……
 私は起きるためにゆっくりと顔を上げると、そこには化け物が居た。化け物が私を見下していた。
 ーー死ぬ
 本能が叫んだ。けど、いつも感じる死に際と比べて何か違和感があった。殺意が無い。私を殺そうとする必死さが無いのだ。怒りや憎しみ、悲しみ等の相手への負の感情も感じない。
 まるで、相手の私利私欲の為に殺そうと……

「おいしそうな……」

 ふと風が吹き、それで少しだけ化け物の顔が見えた。
 いや、化け物じゃない。ポケモンでも無い。肌も髪も白く、目は水色で白目部分は黄色。口元から漏れ出る鮮血。

「ヒト……?」
「うおぉぉぉ!!」

 私が呟くと、幼い少年の声が聞こえて白い子が何者かにタックルされた。フジだ。全体重を白い子にかけて上手く力を出している。

「レイ! 大丈夫? 立てる?」

 フジが私を引っ張ろうとするが、岩が氷のように冷えているため皮膚とくっついてしまっていた。剥がそうとしても痛い思いをすることが容易に想像出来るため私は体を動かせない。
 足がちぎれたり怪我したりするけれど好きでやってる訳では無い。痛いものは痛いし好きなわけが無い。だから剥がせない。

「立てない? 大丈夫僕が剥がすよ」
「いだっ、ふ、フジ! 痛い! いだいっで!」

 フジがなんの悪気もなく私の体を剥がし始めた。死ぬほどの痛みではない。今までの怪我と比べたら大したことは無い。
 しかし、大怪我を何回もしたからこそわかる。怪我が大きければ大きいほど余り痛みは感じない。いや、感じる痛みがキャパオーバーして余り痛く感じないのだ。今は痛みはキャパオーバーしないが、しないからこそ皮膚が剥がれる感覚、痛みが嘘偽りなく伝わってきて痛い。とても痛い。
 痛みに我慢しているといつの間にか岩から皮膚が全て剥がれていた。この間わずか数十秒。なのに私は三十分程に感じていた。

「レイ。良かった。無事だ」

 フジが感極まった顔で私に抱きつくが、私は素直に慰められる状態ではなかった。痛みによる放心状態と、剥がれた部分のヒリヒリとした痛み。寒さに化け物の正体、フジの感覚のズレ。
 情報量も考えることも多すぎなのだ。

「フジ……痛いよ……」

 他人の痛みが分からないフジへの怒りを込めて放った一言。フジだって幼い。分からないこともあるしこんな環境で生きていれば感覚がおかしくなることもある。
 そんなこと分かっているはずだったのに声に出してしまった。抑えきれなかった。

「だっ、大丈夫レイ? 全身血だらけ……化け物に何をされたの……」

 違うよフジ。この血は、全身の肌から溢れ出る不健康そうな血はフジのせいだよ。
 でも、次瞬間私の怒りは引いてしまった。フジが白い子に殺意を込めた視線で睨みつけていたからだ。白い子もたじろいでこちらに近づこうとしない。
 フジは本気で私の傷は化け物のせいだと思い、本気で化け物に殺意を向けているのだ。

 ーーおかしいのは私の方?

 そんな考えが頭をよぎった。だって足が無くなったり、ポケモンに体を食べられたり、施設に来る前は頭が無くなってた気もする。
 皮膚が剥がれただけの痛みでこんなに感情的になる私の方がおかしいのかもしれない。いや、私の方がおかしいんだ。なんで小さなことでフジに怒っていたのだろう。
 私は自分の心の狭さを悔やんだ。

[返信][編集]

144 :ベリー
2022/11/01(火) 05:24:29

「フジ。大丈夫だよ。ごめんね」

 私はそう言ってフジを自分の背中に立たせた。そして、白い子の方を見る。
 霧で分からなかったけど化け物と呼ばれていたのは実際白色の少女だった。けど、人間と思えない点が幾つか。アーボのように白目部分が白色では無い。黄色をしている。それに、人間なのにポケモンのような氷技を使う。
 一体何者だろうか

「あの、貴方は……? 人間?」

 私はコミュニケーションを試みる。白い子は口を閉じて笑った。口からは大量のヨダレが出ており、瞳は焦点があっていない。

「……お腹空いた」
「大丈夫? 私にできることなら……」

 意外にも話が通じると思った私は警戒しながら白い子に近づく。もしかして、お腹を空かせているから私達を襲ったのだろうか? だって、さっきの白い子は私に殺意は向けてなかった。殺すためじゃなくて、食べるために襲っていたから。
 お腹を好かせているならポケモンを狩って食べさせてあげよう。時間があればきっと調理もできるはず。

「本当? 食べさせてくれる?」
「うん。お腹すいたよね。もう大丈ーー」
「ありがとう」

 その瞬間、白い子は私の首元を噛みちぎった。甘噛みとか怒って噛み付いたとかじゃなくて、首元の肉を"噛みちぎった"のだ。

「あ゙っ」

 唐突に私を襲う激痛と思いもよらなかった展開。そして、首元という急所を噛みちぎられたことによって起こるブラックアウト。
 そこで私は無防備に後ろに倒れ始めた。

「ダメッ!」

 するとフジが私を後ろから支えてくれる。急所に近い首元を噛みちぎられフジも流石に不味いと思ったのか、噛みちぎられた箇所にフジは口をつけて舐め始める。それに効果があるのかは分からないが怪我の部分を舐めるのはよく見かける。

「いたっ……クッ……だ、大丈夫だよフジ」

 フジの舌が傷に当たる度に痛さで少しづつ意識が戻り、気を失わずに済んだ。しかし、気持ちが悪いためフジから体を離させて貰った。

「美味しい、美味しいね。大丈夫。殺さない。食べるだけだから」

 白い子は肉を頬張って私の方を見る。
 そこで気づく。お腹が減っているだなんて易いものじゃなかった。彼女は施設のポケモンのような極度な飢餓状態だった。事実、白い子の体の所々に噛み跡や食いちぎった跡がある。自分を食べているのだこの子は。

「大丈夫。殺さない。食べるだけ。だから警戒しないで」
「ブアッ……」
「ダメ。イーブイ。食われるよ」

 イーブイが戦闘態勢に入ったため、私はそれを手で遮る。白い子はポケモンのように手の平から氷を出して刃を作り、近づいてくる。
 どうするべき? 相手は人間っぽいけどポケモンのようなことをしている。
 仕事人なら殺したくは無いけれど、ポケモンなら殺さなければならない。けれど区別がつかないし、相手はただお腹を空かせているだけ。この施設による被害者ということは火を見るより明らかであった。

「レイ。僕が殺す……!」
「フジ待って。殺しちゃダメ」

 フジが手をふるわせて言うがそれを遮る。フジ自身も怖いだろうし、私が守る側だから守られなくはない。
 フジ達を守りたい。かと言って白い子を殺すのも違う気がする。

「食べる?」

 私は、そう言って腕を白い子に向けていた。

「レイっ?!」

 フジの驚いた声に私も何を言ってるのか分からなかった。
 『食べる?』そのままの意味である。私を食べないかという提案。別に食べられたいのでは無いし、痛いのは嫌だ。なのに何故か口から漏れ出ていた。
 白い子は何も言わず躊躇わず、勢いよく私の腕に噛み付いた。

「いだぁっ……!」

 腕に熱した鉄を入れられるような痛みと共に肉がちぎれる。骨が外に出てるんじゃないか? と錯覚するほどの痛み。実際骨は見えておらず、骨が見えるほど食べらられたらどれ程痛いのか想像ができず全身が震えた。

◇◇◇
挿絵 cdn.wikiwiki.jp

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145 :ベリー
2022/11/01(火) 05:24:49

「レイ! 何やってるの! やめっ……ろ!」

 フジが出会って初めてと思えるぐらいの怒りを込めた声で白い子の頭を抑えるが、白い子の食への執着は凄まじく、フジが抑えていてもどんどん私の腕は食われていく。

「はぁ……あ゙っ、あぁ……」

 痛いけど、叫ぶ訳にも行かない。だから大袈裟に呼吸をして痛みを和らげようとするも気休めでしかなかった。痛い。熱い。痛い痛い痛い。

「……やめでよっ!」
「ヴァっ!」

 フジの駄々っ子のような悲痛な叫び声が響いた瞬間、白い子の唸り声が聞こえた。
 私は頭を振って、目に力を込めてブラックアウトし始めた視界を何とかして正常にする。
 目の前には倒れている白い子に唖然とするフジ。白い子を倒したのはフジでは無いようで、白い子の頭の横には肉塊が落ちていた。
 もしかして、この肉塊に当たって倒れた?

「なんでここに居るんだ」

 すると聞きなれた声が聞こえた。いつも守ってくれたあの聞きなれた安心する声。

『アーボ……』

 私とフジの声が被る。
 いつの間にか霧は晴れており、そこには様々なポケモンや肉塊を抱えたアーボと"アーボック"が居た。

「何故ここにいる。岩場で仕事なんてお前らしないだろう」

 アーボが何考えてるか分からない表情で私達を見る。悲しんでるのか嘲笑ってるのか申し訳ないのか嬉しいのか、全く分からない。分からないけれど……

「ア゙ア゙ーボオ゙ォ゙ォ゙……ア゙ア゙ア゙……!」

 私は安心感に包まれて親を呼ぶ子のように情けなく泣きわめき初めてしまった。もう十一歳。表世界では成人扱いなのに私は情けなかった。

「フジ。何があった」
「アーボを最近見かけないから、僕とレイで探してたんだよ」

 アーボを全く恐れなくなったフジが説明をする。私は涙と嗚咽が止まらなくてずっと泣きわめいていた。

「大丈夫。殺さない。食べさせてね」

 私は殺されるから泣いてると勘違いした白い子が引き続き私を食べようと近づいてくる。大丈夫。アーボがいるから安心して食べていい。そう思い手を差し出そうとするも、白い子に食べられた方の手が、指が何故か動かなかった。

「お前はこれでも食っていろ」
「ぐぁっ……お肉……ニク!」

 するとアーボ達が持ってきた肉を白い子に全て投げつける。支給品並の量である。白い子はそれらを目を輝かせて食べ始めた。

「ねぇアーボ。これはどういうことなの?」
「それよりレイのこの腕はどうした」
「質問してるのは僕だよ……?」
「ア゙?」
「ひいっ……」

 怒りで強気になってたフジがアーボに問いかけるも、アーボの威圧でフジを大人しくさせた。先程の威勢はどこへ行ったのやら、フジは私の背中に隠れた。

「レイ。これはどうした」
「食べざぜだ……」

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146 :ベリー
2022/11/01(火) 05:25:06

 アーボの問いかけに私は嗚咽を抑えながら答えた。アーボが顔にシワを増やした顔をする。
 パァンッ!
 と、良い破裂音のような音が辺りに木霊する。片手の痛みがキャパオーバーしかけており全身の痛覚が鈍り始めているためか、ビンタされたのだと気づくのが遅かった。

「ここがどこか分かってるのか」
「何するのアーボ……?」

 アーボの威圧で押しつぶされそうになり、声を震わせて問いかけることしか出来なかった。

「お人好しはそこまでにしろ!」

 怒鳴り声。聞き流したくても脳に叩きつけるように響く怒鳴り声。
 私は、アーボの怒鳴り声を初めて聞いたかもしれない。

「ここがどこか分かっているか」
「し、しせつ……」
「そうだ。殺し合いの場だ」

 先程感情を垂れ流しにして泣き喚いてしまったため、感情のコントロールがガバガバになった私はまた泣きそうになっていた。
 分かってる。殺し合いの場……ポケモンを殺すのが仕事。けど、今回は悪いことしてないよ? 私、人を助けたんだよ?

「仕事の片手間に救うのなら俺は何も言わない。けどな、救えない癖に中途半端に手を差し出すな」
「中途半端なんかじゃ……」
「じゃあお前は食われてどうするつもりだった?
 根本的解決はしてないのにその場で満足させてまた『飢餓』という地獄に突き落とすのか?」

 私は何もいえなかった。私は食べられたとして、その後白い子はどうする? 空腹はずっと食べないと解決しない。けど、この施設で食べ物には簡単にありつけないのだ。また空腹に襲われるのは分かりきった事だった。
 その場しのぎの助けは果たして『救い』と言えるのだろうか?

「最悪お前は食い殺され、白いヤツはまた飢餓に襲われる。どこにメリットがあるんだ」
「なざぃ……ごめんなざぃ……」

 アーボの正論と威圧、罪悪感に私の弱さ。色んな目を逸らしたい事が一気に襲ってきて私はもう耐えられなかった。
 私の『ごめんなさい』は誰に向けての物か分からなかった。
 アーボに向ける、愚かなことをしてごめんなさい?
 白い子にとって辛くなる事をさせてごめんなさい?
 自分の愚かさに耐えられず罪滅ぼしのごめんなさい?
 きっと全部だ。全部のごめんなさいだ。

「レイ……」

 するとアーボが私の頭に手を当てる。撫でてくれるのだろうか、嬉しさが少し出てきてアーボを見上げる。

「お前はおかしい」
「え……」

 しかし、私を襲った言葉は柔らかいものではなくナイフのように鋭く痛いものだった。

「狂った地獄のようなこの環境では、狂うのが正常だ。お前は何故まだ表世界の倫理観がある? 何故まだ狂っていない?」

 アーボは私の頭を掴み、力がどんどん込められていき頭が潰れるかと錯覚するぐらいの痛みを感じる。寒くないのにまた全身が震えてきた。今回は間違いなく恐怖によるものである。

「だって……」

「全 て 捨 て ろ」

 私が何とか言い訳を捻り出そうとするもアーボの一言によって言葉が引っ込む。捨てるってどうやって? どうすればこの価値観は捨てることができるの?
 正常って何? 

「ア、アーボ……待って!」
「なんだ」

 フジの慌てたような声とともに『黙れ』という意味が隠されてることは容易にわかるアーボの一言。
 でも、今回のフジはいつものようにアーボの威圧に負けたりしなかった。

「あの、白いヤツって……」

 フジが肉を食べている白い子を指さす。私は罰が悪く、口を開けるようなメンタルが無いため何も言えないが、白い子の正体は気になっていた。

「先日施設に入った仕事人だ」
「人間……なの?」

 アーボが白い子の方を見るとフジは震えた声で聞いた。

「どう思う?」
「人間とはとても思えないよ」
「それは、フジもレイも俺も……仕事人もだ」

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147 :ベリー
2022/11/01(火) 05:25:25

 嫌悪も込められてるようなフジの言葉にアーボは否定も肯定もせずに言った。
 フジは意味がわからなさそうにしていたが、表出身の私だからこそわかる。仕事人達はとても人間とは思えない。もちろんフジもその一人である。
 精神面でも、肉体面でも。

 「生まれつき色素が少ないからこその弱さ、コントロール出来ないポケモンの技に近い冷気、その冷気を出すことによって起こる飢餓。
 それらの要素で施設に入れられたのがあの白いヤツだ」
「病気?」

 フジが首を傾げて聞くとアーボは何かを考えるように手を口元に当てる。

「そう……だな。色素に冷気に飢餓。三つの病院を持ってると言える」
「アーボは、白いヤツを助けるために数日いなかったの?」

 アーボが質問に答えた後にフジが早口で、相手を攻めるように聞いた。しかし、アーボは動じていない。

「あぁ。そうだな」
「さっきアーボはレイになんて言ったか覚えてるの?」
「勘違いするな。俺は持続的な食料の補給に加えて狩りも教えるつもりだった。レイと一緒にするな」

 私は、心臓が口から飛び出そうになるが、息を止めて抑えた。フジも何も言わない。
 私を興味本位で助け、仕方なくフジの面倒を見ているアーボが白い子を助けるの? もしかして、私はもう要らないのかもしれない。私の代わりになる良い仕事人を探してたのかもしれない。

「アーボって自分から人を助けられるの?」
「バカにしてるのか?」
「ちっ、違うっ……」

 今度のフジの質問は悪意がないただの質問だったようだが煽りのように聞こえてしまい、アーボはイラつきながら答える。アーボの反応は予想外だったようでフジは声が小さくなる。

◇◇◇
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148 :ベリー
2022/11/01(火) 06:27:39

「もう、大丈夫アーボ。私アーボから離れるから……迷惑かけてごめん……」

 私は思わず心の声を出してしまった。どんどんネガティブになっていく私の思考。それに気づかない私はどんどん被害妄想を膨らませていた。
 表世界の価値観を捨てられない。ポケモンも半年前は殺せなかったし、未だ私よりフジの方が強い。
 私は要らないじゃないか。足でまといだ。

「……は?」

 するとアーボが意味がわからないといった声を吐いた。それは私が要らないという仮説に近い事実を、私の中で事実にさせた。

「アーボはレイが要らないの?」
「要らない」

 フジが私の様子を見て不安そうにアーボに問いかけると即答で返ってきた。
 要らないことは分かっていてもそれでも傷ついてしまった。

「まずレイもフジもあの白いヤツもアーボックでさえも俺は要らない。いなくても生き残れるからだ」

 当たり前だというようにアーボが話す。フジが欲しかった趣旨の回答では無かったし、アーボが一人でも生き残れるのは私達でも分かるものだった。

「そういうのじゃ……!」

 フジが反論を試みるも良い反論が思いつかなかったのか黙ってしまった。しかし、アーボは考える仕草をしており意外にもフジが反論を試みたことに怒ってはいなかった。

「仕事というのはな。自分が居なくなっても回るようにするものだ」
「き、急にどうしたのアーボ?」

 フジが怪訝そうな顔でアーボを見るも、それを無視してアーボは私を見下す。

「レイ。お前は無能だから自分の代わりを用意出来ていない。分かるな?」
「えっ……」

『ジリリリリリ』

 すると仕事終わりの合図が施設内に響き渡った。

「白いヤツ。来い」

 アーボは白い子の首を掴んで雑に運び始めた。そして、私とフジは岩場に置いてきぼりである。

「フジ、私要らないのかな……」
「あれは照れ隠しだとおもう……それにしては『隠し』の部分がキツいと思うけど」

 私は不安でフジに聞くが、いつの間にかフジは呆れたような顔をしており私は不思議で堪らなかった。

「帰ろ。レイ」

 フジが私に手を差し伸べる。私は食べられてない方の腕でフジの手を握る。
 私が守るって言ったのに、救うって言ったのに、フジに助けられてばっかで自分が情けない。

「私捨てられるのかも……」
「レイが捨てられても僕は最期までレイの傍に居るよ。捨てないでくれる?」

 屋敷へ戻る途中、アーボの先程の言葉の真意をちゃんと理解出来てなかった私はまた弱音を吐いた。
 フジは慰めるように私に凄いことを言った。嫌、フジの事だから慰めのような打算的なものでなく、純粋な言葉かもしれない。

「うん。捨てない。ずっとフジのお母さんでいるよ」
「……レイにとって……僕息子なの?」
「うん」

 私の手を引っ張っていたフジは立ち止まって私の方を不安そうに見る。大丈夫。私はそんな簡単に死なない。その決意として力強く頷いた。

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