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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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204 :げらっち
2024/06/08(土) 00:14:42
第18話 グリーングリーンズ
どこまでも広がる、青々とした草原。ここからが冒険の始まり。
「オイラは自由だ!!」
世界を歩く。文明と自然の背比べは、電柱に巻き付いた木の圧勝だった。ヒトが作った家も道もインフラも、今や緑に埋め尽くされ、自然の下敷きになっていた。
此の世は強い者が生き残る。単純で、覚えやすい。
帰る場所が無いという事は、自由という事。だが衣食住が無いと成り立たないのも知っている。オイラはそれほどガキじゃない。
……まずは宿を決めなくちゃな。
オイラは緑で覆われたビルの陰に、宿屋を見つけた。
「それっぽっちじゃ足りん!!」
「頼むよー、おっさん。オイラにはこれが全財産なんだよ!」
オイラは受付で、宿屋の主と交渉していた。主のおっさんの顔は、肌が露出している面積より髭で覆われている面積の方が多い。
「ふぅん。坊主、それをどこで手に入れたんだ?」
「怪人ケンタロウスを倒した謝礼にベルベル村の奴らがくれたんだよ」
「健太郎ス? 村を襲って34人を殺害したとかいうあの凶悪怪人か? はーっ、坊主、お前に同情しちゃうね」
「へ?」
おっさんは顎髭で縁取られた顔を、ヤレヤレと振った。
「どこの馬の骨かわからない餓鬼だからって安く見られたんだろ。普通だったらあのレベルの怪人を倒した賞金は、その1000倍はくだらねえぜ」
オイラが握り締めているのは、5000円札だった。
オイラはお金が大好きだ。此の世はお金が全てだって知っている。人の体も心もこの紙切れで買える。
でもオイラにはお金の価値はよくわからなかった。こんな紙切れより、もやし1本の方が美味しいからだ。
「くそっ、ベルベル村の奴ら……今度会ったら全身の骨という骨を砕いてやるぜ。ところでおっさん、泊めてくれんの?」
「ダメに決まってるだろ! 騙されたお前には同情するが、うちだって商売でやってんの! 此のご時世、シティでもない《外の世界》で、安心安全安楽に、寝泊りできるってことがどれだけ貴重なことかわかるだろ、1万円! 耳をそろえて持って来い!!」
おっさんは受付を強く叩いた。
「きゃうん!」
オイラは後ろにひっくり返った。お札がひらひらと宙を舞った。
「オイラの大切なお金!」
腕を伸ばしてそれをキャッチ。
[
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205 :げらっち
2024/06/08(土) 00:16:41
「じゃあこれならどうだ? オイラ、ここで住み込みで働くよ。皿洗いから便所掃除まで何でもするぜ!」
おっさんは受付から乗り出して、オイラを品定めした。
「お前みたいな坊主が? 何歳だ?」
「15歳」
「そうか……まあギリギリいいだろう。その代わり、少しでも使えないと判断したら、即追い出すからな」
「サンキュー! 懐広いねおっさんは。ヒゲもかっこいいし」
「冗談言うな」
と言いつつおっさんはちょっと照れていた。此のご時世、人と冗談を言い合う事などまず無いのだろう。
おっさんは紙を出した。
「ここに名前を書け」
オイラは置いてあったペンで署名する。
星十字凶華
「星十字!!?」
それでおっさんの顔色が変わった。
「星十字って、あの星十字か?」
髭で隠れているものの、肌は確かに紅潮している。
それと同時に、異臭がしてきた。
「あの星十字だぜ。星十字にあれもこれも無いけど」
「ふざけるな!!!」
おっさんはオイラのサインを破り棄てた。
「さっさと出てけ、さもなきゃご近所戦隊に通報するぞ!」
おっさんは黒電話を握り締め、ダイヤルを回し始めた。
「そっか。おっさんも、オイラを対等に見ちゃくれないんだな」
プスプスと、魚が焦げるような、嫌な匂いが立ち込めている。
[カカカカカッ!!!]
「うわあああ!!!」
おっさんは受話器を放り投げて尻餅を突いた。オイラが振り向くと、入り口から巨大な顔がこちらを見ていた。中年男性の顔で、斜視気味の垂れ目、ところどころ茶ばんだ肌、乱杭歯、頭髪は黒い頭巾に覆われているも、薄いと思われた。
[カカカカカカカカッ!!!!!]
巨大な顔は歪な笑い声を上げ続けた。
「ひいいいいっ!! ほ、星十字軍が怪人を連れて来やがった!! や、やめてくれ!! 有り金全部あげますから!! な、何泊でも、お好きに止まっていいですから~!!!」
宿屋のおっさんはひれ伏して、ガクガクブルブル震えていた。
「……こんなくっせえ所、二度と来るもんか」
オイラは踵を返し、巨大な顔の横を通り、店を出る。
[いいのか? 凶華]
「行くよ、黒ずきん」
[
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206 :げらっち
2024/06/08(土) 00:17:00
オイラと黒ずきんは緑で敷き詰められた地を歩く。
黒ずきんはさっきの巨大顔面形態から、通常形態に変わっていた。黒い頭巾を被ったおっさんの頭。本来なら首につながっている部分から、毛だらけの太い短足が2本生えている。これが通常形態だ。ひょこひょこ千鳥足で、オイラの後を付いてくる。
赤ずきんならぬ黒ずきんはしゃがれ声で言った。
[凶華はお人好しだな。さっきの親父をバラシて金と宿を手に入れることだってできたんだぞ?]
「くっせえ所は嫌いだって言ってるだろ」
あの宿からは随分と離れたので、匂いはしなくなった。
オイラは嗅覚が優れているようで、何かと匂いを感じてしまう。イイ匂いなら良いのだが、い~やな匂いは拒否反応。
「ビラ校も臭かったから抜けて来たしな」
ビラ校、ヴィランズ高等学校。
あそこに居る奴らも、さっきの宿屋のおっさんと同じだった。オイラの姓が星十字だと聞くと、おだてたり、一目置いたり、距離を置いたり、怖がったり、あからさまに邪険にしたりと、多種多様だったが、オイラを対等に見てくれる人は1人も居なかった。
日が傾き始めた。
さてこれからどうするか。早めに寝床を探さないと、夜は怪人が活動的になる。
腹の虫が鳴いた。一体、どんな虫だろう。黄金虫みたいなやつかな。そういえば、今日はまだ何も食べてないな。
「オイラの嗅覚は、ハラは満たしてくれないからな……」
[人間は大変だねえ]
黒ずきんはひょこひょこ俺を追い抜いた。
[怪人は便利だよ。食欲も無ければ性欲も無い。唯破壊を繰り返すだけ]
引っかかるワードがあった。
「せーよく?」
[男と女が生命を残そうとする欲だ。トラブルばかりを引き起こす。ま、お前には無縁だろうがな]
オイラにはよくわからない。
黒ずきんはオイラを見上げて、後ろ歩きでオイラの前を進んでいる。
「全ての怪人に欲が無いのか?」
[さあな。何にでも例外はある。俺だってそうさ。怪人の癖に、恵まれていることに、まだ言葉と、理性っていうもんが残されている。怪人の中では俺が特例であり、障害者だ]
すると黒ずきんは「おおっと」と言って止まり、ジャンプして、前に向き直った。
[止まれ凶華。この先には行かない方が良い]
オイラは行く先を見た。
緑と赤の境界線。境目の向こうは、ジャムのような赤いものが塗ったくられた地。
[入らない方が賢明だ。生命が踏み込めば死んでしまう。入れるのは、俺のような怪人だけだ]
赤の日、世界のあちこちが赤く塗られたという。
[俺にはカミさんと、息子と娘が居た。カミさんなんか俺の事ゴミ扱いだったがな。赤の日に俺たち一家は塗り潰された。俺だけは、まだあっちに逝きそびれている。運が良かったのか、悪かったのか]
オイラは二ッと笑った。オイラのデカい犬歯が口からはみ出しただろう。
「良かったんだよ。じゃなかったら、オイラはお前に会えなかったもん」
黒ずきんもオイラを見上げ、にた、と笑った。
[それもそうだ]
「居たぞ!!」
怒声。
オイラたちが歩いてきた方から、5人の戦士が走ってくる。
赤・青・黄・緑・ピンクの戦士。
[不味いぞ凶華。あの宿の親父、本当に戦隊に通報したらしい。戦隊は怪人を狩り悪を倒すことに固執している正義の味方ヅラをした奴らだ。このままでは俺もお前も消される]
「そこまでだ!! 猟友戦隊ゴハンターがお前らを駆除する!!」
黒ずきんの言った通りになりそうだ。
前門の戦隊、後門の赤き地。虎や狼がまともに思えるくらいには万事休す。
「黒ずきん、お前を信じる!」
オイラは黒ずきんの頭に飛び乗った。
[
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207 :げらっち
2024/06/08(土) 00:17:22
[任せな]
黒ずきんはその短足からは想像もできないような速さで地を駆けた。オイラは黒ずきんの頭にしがみ付いて居る。
「待てえ!!」
「往生際が悪いぞ!」
「そこの怪人、止まりなさい!!」
戦隊は猟銃を持って追いかけてくる。だが。
「わ
怒号は止んだ。
振り向くと、戦隊の5人は、立ったまま静止し、彫刻の様に成り果てていた。レッドだけでなく全員が真っ赤に染まっていた。
奴らは赤き地を踏んでしまったのだ。それだけで即死し、赤の一部になった。
黒ずきんは赤き地を裸足で駆けていた。オイラは怪人である黒ずきんの上に居たので、赤の侵食を受けずに済んだ。もし黒ずきんの頭から落ち、オイラの指1本でも赤に触れたら、オイラも死ぬ。そう思うと心臓がおへその辺りまで落っこちるような恐怖を味わった。
「恐怖、スリル、イイ味だ」
オイラは唇を舐めた。
やがて赤く塗られた箇所から抜けて、緑の地に着いた。ここなら大丈夫。オイラは久々に地を踏んだ。
「ふー。ありがとな黒ずきん!」
[お互い様だ。怪人である俺と行動を共にする人間など、お前しか居ない]
もう日も落ちてきた。
夜になる前に食糧と寝床を確保しなくちゃな。
「あ~、ハラペコ限界だぜ。ここら辺の草は喰えるのかな?」
[草ばかりじゃ味気無い。手分けして動物を探そう]
「よしきた」
黒ずきんは、自身は何も食べないでも活動できるにも関わらず、オイラと一緒に食糧を探してくれる。
「この大木が目印な!!」
オレンジ色の空を覆い隠すほど巨大な木。その洞は、顔のように見えた。これなら覚えやすい。
オイラと黒ずきんはグータッチ。
黒ずきんは手が無いので、片足立ちし、もう片方の足を丸めてタッチするのがお決まりだった。
「じゃあまたあとでな!!」
オイラは手を振って黒ずきんと別れた。
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208 :げらっち
2024/06/08(土) 00:19:38
野生の猪が現れた!!
「よっしゃ、今日はイノシシ肉だ!」
オイラは猪を追いかける。
赤き地があった。猪は本能的に赤を避けて、ギリギリの所を逃げていく。オイラは世界を走り回って鍛えた脚力でそれを追う。
命がけの鬼ごっこ。さっきは追われる側だったが、今度は追う側だ。
「待て待てぇ! 楽しいが、ここらで終わりだ!」
オイラはスライディングし猪を捕まえた。ゴツゴツした毛皮。獣は藻掻き、必死に逃げようとする。
「暴れるな! オイラの栄養になってくれー!!」
どかん。
火の手が上がった。
オイラは猪を取り逃がしてしまった。そんなこと、どうでもよくなった。
赤き地を跨いだ向こう側で爆炎が上がっている。あのランドマーク、巨木の傍だ。オイラは夢中で走るうちに、いつの間にか、赤き地を挟んだ所まで来てしまったらしい。
目を凝らして見ると、巨木の下では、黒ずきんが戦隊に追い詰められている。赤・青・黄の3人戦隊だ。
「逃げろ黒ずきん!!」
たかが10メートルほどしか離れていないのに、オイラは人間だから赤き地を踏めない。迂回する必要がある。
向こうの動向をうかがいつつ懸命に走る。
赤い男が黒ずきんに詰め寄っていた。
「悪いが怪人に人権は無いよ♪」
黒ずきんは後ずさりながら言う。
[ああ、そういう運命だというのは知っている。俺が死ぬことに異議は無い。だがな]
オイラは風を切り、赤と緑の境界線に沿って走りながら、遠くに見える黒ずきんをチラチラと見る。
オイラは自然界で育ったからか目も耳も良い。彼の声を、なんとかキャッチできた。
[俺が死ぬと悲しむ奴が、1人だけ居る]
赤い男は、無情に言った。
「知るか♪」
黒ずきんに、真っ赤な戦士、真っ赤な男が迫っている。
「待て、待ってくれ」
と黄色。
「怪人を改造してロボにするという手もある。そうすれば超効率的で半永久的な動力を確保することができ……あひゃ……あひゃひゃ……」
「ふざけたことを抜かすな!」
と青。
「だが喋れる怪人とは珍しい。少し対話を試みても無駄ではないとは思うが?」
赤が仕切る。
「了、快三、戦隊の本分を忘れたのか? 怪人は破壊だけを目的とする非人間だ。例外無く消えて貰う。我ら戦隊学園の教師は、怪人を撲滅するのが仕事だろう? 我ら戦隊は、此の世に平和をもたらすのが使命だろう?」
「……その通りだ」
「そうだったね、ごめん。あひゃ」
何が仕事だ。
何が使命だ。
[やめてくれ!]
黒ずきんは2本の足を猛回転させ、赤き地に逃げようとした。
その直後に、再び爆音がした。
オイラは目の前だけを見て、ただひたすら走った。
大木に到着する頃には、辺りは暗くなっていた。戦隊も、黒ずきんの姿も無かった。
黒ずきんの黒頭巾だけが落ちていた。
オイラはそれを拾い上げた。煤けている。
ぽつっ、黒頭巾に涙が落ちた。
オイラのことを対等に見てくれたのは、怪人のお前だけだったよ。
あばよ。
「戦隊学園、か」
あの不用心な教師め、わざわざ自分の居場所を教えていくとは。
行ってやろうじゃないか。
オイラの新しい冒険と、遊びの、始まりだ。
つづく
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