日記一覧
┗191.いろはに金平糖

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1 :長/曽/祢/虎/徹×江/雪/左/文/字
06/24(水) 20:34










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44 :燭/台/切/光/忠
10/20(金) 00:43

 ✾* 花吐き病


花吐き病。
難しい病名もあるようだけれど、俗にそう称される病に彼が侵されてから、もうどのくらい経っただろう。
部隊から外された事で肉の削げた身体がひとまわりほど小さくなって、僕の愛した鋭い眦は夢と現の境目を揺蕩うように、ぼんやりと天井を見つめるばかりだ。

花を吐いている間はひどく体力を消耗するようで、近頃は自力で起き上がる事もままならない。
感染力の高い病であるらしく、けれども何故か一番接触のあったはずの僕にその兆候が見られなかったからか、名乗り出るより先に彼の看病を一任された。
それからと言うもの、織/田や黒/田の面々からの見舞いの申し入れを断り続ける内に離れへ寄り付く刀は居なくなり、この寂しい場所で一人きり、彼は今日も花を吐き続ける。

入るよ、と声を掛けて襖を引けば、吹き込む風に押し出されるかのように隙間から溢れた濃い香りが鼻をついた。
薄暗い部屋の中、中央に設えられた寝床に横たわる彼の周りに散らばる花、花、花。
彼を取り囲むそれを踏まないようそっと近付けば、足音に気が付いたのが眠りから覚めた彼の瞳が僕を捉えて、力なく伸ばされる指をそっと握る。
触れ合う間だけ赤みを取り戻す唇を塞ぎ、掌を重ね指を絡ませて、束の間、繋いだ身体に熱を分け与えた。

こうして肌に触れてさえいれば、彼は花を吐かずに済む。
その程度の事で彼が苦しまずにいられると言うなら、いくらでも傍に居たいと思う。
彼にとって僕がどういう存在であるかは分からない。時に背中を預け、時に身体を重ね、ただの仲間とも言えず、恋仲でもない、あやふやで形の定まらない関係でしかない僕に何故、彼の病を和らげる力があるのかも。
それでも僕は思う。やがて僕が折れ、あるいは物言わぬ鋼に戻る日が来たとして、冷たい鉄の塊になって尚、彼の苦しみを取り去る事が出来ればと。


腕の中で小さく身動ぐ身体を、今一度抱き締めた。
花の香りの染み付いた薄桃の唇を食み、共に戦場を駆け抜けた頃には伝えられずにいた言葉を、囁く。


愛してるよ。
君を、愛してる。


微かに震えた唇から漂う香りは、百合。
……ああ、また彼は花を吐くんだろうか。
こうして触れ合っていても、尚。

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43 :へ/し/切/長/谷/部
08/16(水) 10:46

 ❅* 嘔吐中枢花被性疾患

(※創作審神者/創作病/閲覧御注意)


──朱、白、橙。其の色が此の瞳に映る様に成ったのは、何時からの事だったか。もう数える事も止めた。
主に其の色は朱と白ばかりで、時折紅色に染まる事も屡々。然し其れに気付かぬ振りをして、こうなる迄飲み込んで居たのは俺の過失で有り、決して主の所為では無い。…無い、と言い募った所で弱々しく為す術が見付からぬと頭を下げる主に、俺は其れ以上の言葉を紡ぐ事が出来なかった。

事の発端は、喉の違和感。…今思えば、燭/台/切と身体を重ね始めたのも其の頃で。
抑え込み飲み込めば無くなる違和感は日々を重ねる毎に大きく成り、軈て飲み込む事が難しく成った其れを人目の無い場所で吐く事が日常茶飯事と成った。

時には自室で、内番で、鍛錬場で。酷い時には演練場や戦場でも吐気を催したの数回では無く、其の情け無さと歯痒さに刀解を幾度も考え、然し或る一定の状況下に置いて吐気が引く事を知り、更に悪循環を生んだ。
…燭/台/切/光/忠。奴に触れている時だけは、喉奥を詰まらせる花も、嘘の様に消えて逝く事に気付いたのは、偶然に過ぎなかったのやもしれない。

けほ、と咳き込めば掌に落ちる花弁。時には其の花丸々口の中から零れ落ちて逝く事も有る。
薄く色付いた其の花は、"雛芥子"と云うらしい。俺には全く馴染みのない愛らしい花は、吐く度に体力を消耗させ、睡魔を誘う。
俺の異変に気付いたのは運悪く、燭/台/切唯ひとり。…其れも其の筈、彼奴以外俺を気に掛ける者等誰も居らず、彼奴とは時折夜を共にする仲であったからで。

何も特別は事は、無かった。
…無かった、んだ。其れが欠陥では無く病で有り、治す術を持つのは彼奴だけが持ち得ると云う事実を知る迄は。


"嘔吐中枢花被性疾患"。花を吐き続け特効薬等は無く、唯体力を消耗し続ける病。
原因は不明。他本丸での事例は数件、然し何れも気付かぬ間に治って居たり、中には俺の様に刀解を望み鋼に戻った者も居るらしい。
政府からの解答は、早急に対応する事は不可。不具合では無く個体差に依る物の一つであろう、と聞かされた。──詰まる所、面倒事は其々で対処しろと云う事だろう。

或る日の事。万屋での任務を燭/台/切と共に無事に終え、奴が万屋で他本丸の者と話して居る間に離れ街をひとり歩いて居た最中に噎せ込み、物陰で身を屈めて居た所を彼奴に見付かってしまった。
其の侭直ぐ様帰還を、と何事かを奴が喚く間もぼろりと落ちる小さな花は、言葉を紡がせる気は無いらしい。燭/台/切が腕を取り、肩を支えられてするりと消えた吐気は、本丸に戻り主へと謁見した途端に戻り情けない事に其の場で嘔吐きながらも刀解を、と震える聲で願いを乞うた。
乞うも、其の願いはあっさりと打ち砕かれ、使えぬなまくら刀として、母屋から離れた離れにひとり隔離される事が決まった。

感染する可能性が零では無く、主とは其れきり顔を合わせる事も無い侭に月日だけが流れて逝く。其の間も俺は報告書や書類作成の任務しか与えられず、空いた時間が唯々苦痛でしかない。
第一発見者の燭/台/切は俺に触れても感染しなかった、と云う理由で俺の面倒を甲斐甲斐しく見に来るが、…気付く事に時間は要さなかった。彼奴が来る間だけ、触れられる間の其の決まった時間は花を吐かずに済むと云う事に。

押花にでも出来たなら良いのにね、と今日も屑篭に溜まった唾液塗れの花屑を指先で愛でながら微笑う彼奴は、──何も知らない。
色濃く成る花の理由も、胸も痛みも、何もかも。

恋だ愛だと紡ぐ其の唇は、塞いでしまえば良い。
此の想いは、此の花は。…お前の様に愛らしく、温かく、優しいものでは無いのだから。

此の唇から吐き出されるものが雛芥子では無く、別の物で在ったなら如何程良かった事か。否、…もっと他の花で在ったなら。
真白な花弁が血に塗れる様も、朱色が紅を引く様も、見たくは無かった。
其れは紛れも無く俺が彼奴へと重ねる、人間に成れぬ人間の形を模した紛い物の鋼の恋慕の他、…何も無い。

嗚呼、一刻も早く鋼に戻ってしまえたなら。お前への想いを抱いた侭、お前の糧に成る事も出来るのだろうか。
下らぬ想いを馳せて生まれる雛芥子は、…今宵も涙を零す。勿忘草に成る日は、そう遠くは無い、と。

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42 :燭/台/切/光/忠
07/24(月) 23:26

 ✾* 恋じゃない



#恋って、どんな感情だったかな?


君と出逢って、もうどれくらい経つだろうね。
ひと月に一度。そして、一年に一度。
君との思い出の一日を何度も繰り返して、おめでとうと笑い合って、巡る季節を振り返る度、思う。
恋って、どんな感情だったかな。

他の何を犠牲にしても、誰を傷付けても、周りに一人の味方も居なくなったとして、君が傍に居てくれさえすればと笑える事?
君の顔を見る度、声を聞く度、息苦しくなるような胸の疼きを感じる事?
その手に、頬に、薄い唇に触れて、君の全てを僕だけのものにしてしまいたいと願う事?
そんな感情を恋と呼ぶなら、今僕が君を想う度胸に込み上げるそれは、多分もう恋では無いのかもしれないよね。

だってさ、思うんだ。
君が笑っていてくれれば良いなって。
そのためなら何だってしたいって。
君を傷付けるものがあるなら斬り伏せて、君を笑顔にするものがあるのなら、それがどんなに得難いものでも捧げたい。
どうすれば君を笑顔に出来るかな?
どうすれば君を、今より幸せに出来るかな?

……なんて、君と出逢った頃の僕よりずっと、今の僕は単純で、泥臭くて格好悪い。


ねえ、長/谷/部くん。
君が幸せであれば良いよ。
君が笑ってくれれば、それが僕の幸せなんだよ。
この気持ちはきっと恋じゃないけど、その先にあるものだって思うんだ。

ねえ、長/谷/部くん。
君にはこの気持ちが何だか分かるかい?
この気持ちに名前があるとしら、それがどんな名前なのか、君は知ってるかい?

君は何て言うだろうね。
怒るかな。笑うかな。
それともその綺麗な髪から覗く耳の先だけ赤く染めて、僕に教えてくれるかな。



#それは愛だろう、ってさ。

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41 :石/切/丸
11/30(月) 22:56

 ✾* まじない



不意に通り抜けた木枯らしに舞う髪に、思わず目を奪われた。
日の光の下で濡れた様に輝く其れが、手招きをするかの如くゆらゆらと揺れる。
其の光景はまるで、人の器を授かる前の彼れに纏わる逸話を示している様に思えて、妖しく、そして美しい。


私の連れ合いになってくれないかと告げた日、君はこう答えたね。

#…本当に、僕でいいのかい?

見開かれた瞳の中、何時もは縦長に割れた動向が満月の様に広がっているのが、可笑しくて可愛かったよ。

#…悪趣味だねえ。僕で妥協しなくても、君の周りには幾らでも美人が居るだろうに。

続いた言葉は皮肉にも自嘲にも聞こえたけれど、僕でよければ、そう呟いて目を伏せた君の、肩を滑り落ちて行く後れ毛がとても美しかった事を、今もよく覚えている。


ああそうだ。髪、と言えば。
折に触れて、伴侶を持つ者達と連れ合いに関しての話をする時に、彼らは口を揃えてこう言うんだ。
自分の伴侶が、最も美しい髪をしている、と。
見目麗しさは言うまでもないが、然し敢えて挙げるとすれば、髪に触れている時が幸せだと其の場に集った皆が意見を同じくしたのには、流石に笑ってしまった。

烏の濡れ羽色が美しい、夜空にも似た髪を飾り付ける喜び。
何処までも清らかな冬の川を思わせる、豊かな長髪を梳り眠る幸福。
二人きりの晩に己を呼ぶ声は、其の髪の色と同じく黍砂糖の様に甘い。
己の伴侶の髪が如何に美しいかを語る彼らから水を向けられて、私が出した答えと言えば。

>ーー彼れが私の元から離れて行かない様に、夜毎まじないを掛けているよ。

其れを聞いた彼らが皆、一様に渋い顔をしたのは解せないけれどね。


ふと見れば、出逢いの頃より艶の増した髪を風に遊ばせながらも、庭を掃く箒を手に肩を竦める後ろ姿が目に入った。
贅肉の無い、しなやかに細い身体を縮める様が、此方にまでまやかしの底冷えを運ぶ。
此の季節になると、芯から冷やして部屋に戻って来る彼れを温めてやるのも私の仕事のひとつ。
そろそろ内番も終いだ。火鉢に新しい炭をくべて待とう。
縁側に下ろしていた腰を上げ、部屋へ引き返そうとした矢先ーー視界の端に捉えた光景に、動きを止めた。

舞い飛んだ枯葉の絡んだ髪に、伸ばされた手。
黒い手袋に包まれた指先が触れそうになる、其の寸前。


>ーー其れは、私のものだ。


低く呟いた声にびくりと手を止めた燭/台/切が、呆れた様な笑い顔で私を見遣る。
訝しむ様に彼と私とを見比べる青/江を手招けば、素直に此方へ掛けて来る姿は愛くるしくもあり、…恨めしくもあり。
いやしくも御神刀とされる私に、嫉妬などという感情を芽生えさせたのが誰であるかを分かっていないから、始末が悪い。

>……部屋を温めておくから、後で私の所に来なさい。いいね?

#ああ、有難う。お茶菓子もあれば嬉しいねえ。

枯葉の簪を払ってやりながら告げた、言葉の裏に隠した意図にも気付かぬ様子で頷く青/江に、思わず溜息が零れる。
くるりと踵を返して物置へと駆けて行く小さな後ろ姿を見送っていれば、其の背を追うようにゆったりと歩む燭/台/切が笑った。
まじないを掛けた君の方が、案外絡め取られてるのかもしれないね、と。

…全くだよ。
私は自分で思うより、彼れに囚われているらしい。

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