日記一覧
┗206.二人静の断片(234-238/238)

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238 :燭/台/切/光/忠
11/20(月) 15:20

独白

厨からは、今日も賑やかな声と良い匂いがする。
料理を覚えてくれる子が増えて、いつからか当番制でも上手く回るようになったんだ。

僕は長い間、当番でなくても何かと出入りしては、レシピを研究したり…日に一度は必ず、厨へ出向いていたっけ。自分が作ったものを誰かに食べてもらえるのは楽しいよね。
手伝うのも楽しい。そう、それに歌/仙くんが当番の日はとりわけ、見ているだけで心が華やぐような美しい料理ばかりで勉強になるんだ。

初期から居る刀たちが作る食事には、すごく個性があってね。それぞれ不慣れな頃は人数分の料理、大変だったと思う。皆の心身の健康を守るために頑張って得意料理を増やしていったんだろう。
今ではどの背中も見ていて頼もしいよ。料理が苦手な子も居るけど協力してこなすから大丈夫、皆でやれば作業も捗る。皆なんと言っても真面目だし美味しいご飯が好きだよね。

僕が立たなくても十分回るんだ、今は。


今日のお八つ当番は誰だったかな。

そういえば、あのお菓子を本で見たのは十五夜の頃。秋らしい焼き芋のクリームブリュレを作りたくてね。今は落ち葉には事欠かないけど、この寒さはそろそろ冬と言えそうだ。景趣が変わって、雪が積もればもう、庭で焼き芋は出来ない。寝て起きればきっと、あっという間に冬になる。

…お茶が美味しい季節だ。芳ばしい湯気、湯呑みを持つ手のひらの熱、やわらかい甘さと渋み。いつもすぐ傍にあって大切だと思う、当たり前の存在。美味しいか、そうでもないか、あるいは渇きだけ潤せればどうでもいい、か。
ゆっくりと腰を落ち着けて心を傾ければ、濃さの違いなんかで煎れた人の癖までも分かるのに。

僕は…この両手をどんな風に使おう。

刀が錆び付かなければそれで…
いや。それじゃ駄目だと僕は知ってる。忘れるわけがないんだ、僕が此所に存在している理由。

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236 :燭/台/切/光/忠
03/23(木) 00:38

独白

オレンジの花のお茶に、柿の蜂蜜を溶かして飲んでみたら、すごく美味しかった。

あの清涼感は、桃の切り口についた水滴に似ている気がする。果実そのものや果汁の味ではなくて「水」の味が、甘いんだよね。

いわゆる蜜の甘さでもないし、柑橘の甘さでもなかったんだ。…あれは不思議な飲み物だよ。


******



……、

冴えた感覚の戦場、肉の器が昂る。
血が熱くて冷たい。勝手に息が乱れて、何かに触れたくて堪らなくなる。

いつ…触れられるんだろうな。

狂ったように口に吸いつきたい。両手を深く繋いだまま、滲んだ血が甘く感じるあの感覚を…

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235 :燭/台/切/光/忠
03/22(水) 05:48

独白


結局…寝そびれてしまった。

でもこうして、眠れない夜に日記を開くのは随分と久しぶりに感じる。以前はよく、こうしていたっけ。彼が眠った後にゆっくりと彼のことを考えるんだ。良い時間だよ。


口から出た言葉には、善かれ悪しかれ力が宿る。

そこに視線や声色といった要素が足されて、相手の気持ちを汲み取る判断材料が沢山あって…。

それに比べると、書かれた言葉は、伝わる力が弱いようにも思える。真剣であればあるほど確かに文字じゃ足りないのも頷ける話。

ただ、場合によっては文字って、口から出すよりもずっと多くを込められる手段でもあるよね。書くにも読むにも思考回路を通るあいだで少しの余白が生まれるからさ。
それに、何度も読むとその度に新しい気付きが生まれたり、気分によって言葉の意趣ががらりと変わったりする。形に残ることはつまり可能性で。過去や今が分かりやすく未来になるわけだ。


彼は「形に残る手紙が心底嬉しい」と言った。

いや、口に出して言ったんじゃなく、それも僕への手紙に書かれていた言葉のひとつだ。…この短い一文をとってみても、ゆっくりと目を通して丁寧に噛み砕く度に、感想が変わっていく気がする。どんな思いでそう言ったんだろう?僕はいくらでも幅広く想像する事が許されるし、急いで一つの結論を出さなくても許される。

考えて、考えて、そうして書かれた手紙は…口から出た言葉よりも弱いって事はないように思う。


…僕は一度、彼から貰った手紙を全て失くしてしまった。手紙も何もかも。

手元に残せたのはこの日記だけだね。

そんな風に「簡単に消えてしまうもの」と考えたら、確かに手紙なんてあっけないものだ。大切にしていたつもりだったのに、…そう考えた所で、じゃあ簡単に消えないものって何だろう?

記憶以外は全て、簡単に消えてしまう。

深く記憶に残すためには?
後から一人で何度も読み返して、何度もその意味を考えて、実際に見るよりもきっと鮮明に頭の中で思い浮かべられた景色、目を逸らさず向き合ったから焼き付いたのは。…文字だ。

そういえば印象深い言葉があると、忘れたくないとか身を引き締めたいって理由で、自分の為に文字におこす時もあるよね。


直接口で言われて後々まで深く記憶に残る言葉は、確かに恐ろしく大きな力があるけど、ちょっと強すぎることが多い。

手紙は…そうだな、自分に都合良くと言えばそれまでだけど、もっと自分で次を選び取ることが出来るというか。どんな風に記憶に残すか考える時間があるし、いつの間にかすっかり覚えてしまっていたりしてね?

後から無かった事にできない怖さと安心感。
言葉は生き物だろう。

手紙、も…生きている?

ふとそんな気がした。僕の手から生まれた文字は全て僕の分身だ。彼から生まれた手紙の体温を、ちゃんと感じ取ってあげたい。

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234 :燭/台/切/光/忠
03/21(火) 00:38

独白


真新しい頁に、彼はあっという間に気付いたみたいだ。
…どうしてだろうかと考え。一度閉じて、表紙の埃を丁寧に拭い直した。

近頃どこかで彼も日記を始めたらしい。

この帳面だとどうしても気を遣ってしまう様子だね。途中から交換日記のつもりでいる僕としては、此所に書いてくれても一向に構わないんだけど、彼がのびのびと綴れる場所があるのは好ましいと思う。


******


今更ながら彼とは結構、趣味が合う。

二人とも好きそうな物を見つけると、どうせ手に入れるなら彼の分もあった方が二倍楽しめるな…というお揃い思考になりがちで。

僕が青なら彼は緑?
僕が金なら彼は紫かな。
黒ならアクセントを色違いにして…と、一人であれこれ考えるのは楽しい。

だけど隣にいる人と顔を寄せて、これ可愛いねこれも綺麗だね、どれが一番好き?なんて会話をしながら選ぶのは、贅沢な過ごし方だと思う。

一緒に何かを選ぶって素敵なことだ。

万屋。彼がいつ目を輝かせるか横顔を窺いながら、悩んだ経過と満足げな笑顔を見守るような時間は、サプライズ好きの僕としても心が浮き立つ。


彼は、頭に浮かぶその人だ。
彼にとってみれば僕が、その相手。

向き合うと結ばれている気がする。

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