十八日目 年の瀬であるし、部屋の片付けをした。 俺たちはなんせ 節度無く話題を転々と変えては 取り留めも無しにだらだらと会話するから、 どうにもこうにも部屋が散らかる。 栞代わりに活用する筈だったスタンプも 朝の乱れ打ちによってまるきり意味を成さなくなった。 だが俺は知っている。 "満月の灯りによって影はどれ程差すか"と 甚く真面目な討論の最中に、 その麗しい唇で性癖を語り出すアイツがほぼ悪い。 …………—設定を探す筈がお前の愛らしい呟きに目を止めてしまい、 どうしようもなく顔が観たくなる。 不便なんだ。 "似たようなことをしていてグッと来た。 纏めようとしていつも当時の方に意識がいってしまうんだ" 結局似た者同士だ。 あちこちに棚を作ったから活用するように。 |
十七日目 アイツが勧めてくれた音楽を一緒に聴いた。 隣に並び、手を重ねて。 歌詞の内容はとりわけ珍しくもなく 長く連れ添った恋人同士が 悲喜を共有して、思い出を刻み、 ついに片方が最期を迎えたとき、 それを笑顔で見送る というもの。 まあ、ありがちと言えばそうだろう。 しかし、美しい歌だったんだ。 俺たちは二人して みっともないくらいに情緒が壊れて、 立ち込む感情の処理の仕方が分からなくなって、 喋ることもままならなければ 碌に身動きすらできなかった。 それでも、やっとのことで口を開くと すぐにアイツの視線が向けられることに酷く安心して、 普段は時間を惜しむように騒がしいあの部屋が 笑える程に静まり返った空間で 手を繋いで見つめ合った。 …………"予想外に深手を負ったね…お互い" ─恵まれ過ぎていて不安になる。 "それ、正しくそれなんだよ" |
十六日目 愛し合った反動はデカい。 アイツは昼に寝過ごし、 俺は夜に寝落ちた。 目が覚めた早暁。 どうしても顔が見たくて、声を掛けると 口が回らない、寝惚けたかわいい返事が聞こえた。 …………前世の話のその後。 —前世も長生きしていたんだろうか。 "何となく、俺が早死して 君を置いていってしまったかもしれないと想像したんだ。 だから惜しげなく伝えるのかなーって" —伝えきれなかった分を。 "凄い締め付けられるんだ 泣きたいほど嬉しくなる" —二世分の愛を受ける側も大変だなあ。 "幸せだよ" —もう死ぬなよ。 "今世は君を看取るよ、泣きながら笑い掛ける" 切なくて、嬉しくて、言葉にならなかった。 |
十五日目 普段はふにゃふにゃと笑っているアイツは 実は、嗜虐性を秘めている。 もうやめて欲しい、と願っても尚、 愉しそうに行為を続けるアイツの顔に 恐怖と、緊張と、息ができない程の興奮を覚えた。 事後になれば労わるように俺の身体を拭うアイツが 手放しで喜んでいて いつもの笑顔を向けてくれたことに俺は安堵して、 それがとても心地よかった。 褒められるのが嬉しいのか、 酷くされるのが嬉しいのか、 こうして分からなくなっていくんだろう。 堕ちるというのはこういうことなのか。 初めてアイツを恐ろしく思った。 …………"なんで?!そんなに嫌だった?!?" —落差がありすぎるんだ。 |
十四日目 抱きたい。 眠気が差すと、理性と知性がおかしくなる。 欲を押し付けて、 全てを奪ってしまいたい衝動が堪らなく立ち込む。 俺たちは互いに攻め気が強いから 互いに互いを抱きたくて それが悲劇を生んだ。 ……いや。正確に言えば俺が悪い。 前回抱かせてもらったから、 次はアイツの番だと、そんな流れができていたのに 欲に駆られてすっかり失念していたんだ。 アイツが取り出す、あみだくじ。 俺たちの上下は天任せとなった。 …………"来年の師走には今回のことを思い出して 笑い話にしてるんだろうなあ" —それはいい。 5年後も、10年後も、一緒に笑おう。 |