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┗311.《ポケモン二次創作》もう終わったことだから。もう全部壊すから(29-48/148)

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29 :ベリー
2022/09/16(金) 19:46:44

 いつもの獣道を駆け上がる。向かい風が村の時よりも熱いことから私の家近くも火が回っていることが分かる。
 ここら辺に生息しているポケモンの足音も息も聞こえない。ポケモン達は多分逃げたのだろう。よかった。
 村が襲われた理由は分からない。けど、家への被害は飛び火程度だと信じたい。
 いや、きっとそうだ。森の奥の奥にある私達の家になんてなんの用もないでしょ。
 村の火が飛んで山火事になってるんだ。それはそれで一大事だけれど、それでもママとお兄ちゃんが心配だった。なぜなら……

「ねぇチャーフル。嫌な予感がする」

「……私も」

 嫌な予感がする。それはただの勘で根拠なんて無い。だけれど私もソレイユもその勘は7割型外れないのだ。
 杞憂だったらいいんだけど……すると雨が降ってくる。
 あれ、朝はあんなに空が怖いぐらい真っ赤だったのに。すると地面の生き生きとした草達かみるみる枯れていき、そのかわりに苔や泥水、キノコが生え始めた。
おかしい。あきらかに森の様子が変だ。

 次の瞬間、それは杞憂で終わらないことが分かった。分かってしまった。獣道から見える谷底に流れる激流に赤い液体が流れていた。
 鉄の匂いがする。沢山の人の足音が聞こえる。

 え、てことは何? 家も襲われてるってこと? あんなちっぽけな家だよ? なんで? ママは? お兄ちゃんは?

「あぁぁぁぁ!!! 」

 身体中の空気を外に吐き出すように喉が痛くなってることもわかった上で叫んだ。叫んでしまった。
 とにかくママとお兄ちゃんの安否を知りたかった。死んで欲しくなかった!

 足の動きをもっと早くする。効率なんて求めずただ力任せに足を動かす。徐々に視界には赤が増えていく。

「チャーフル! 落ち着いて! チャーフル!」

 ソレイユの声が聞こえた気がした。気がしただけで私は何も言わずに前を見て走った。土をけった。火をくぐった。
 もうすぐ。もうすぐだ。ここを抜けたら家だ! 早く! 早く!



「 来るなっ! 」


 低く落ち着いた水に聞きやすい声が激流のように辺りに木霊した。
 お兄ちゃんだ。お兄ちゃんの声だ。お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!
 私はお兄ちゃんの声は聞こえたが言葉は聞こえなかった。そのため勢いに任せてまだ生きているずぶとい草木をかきわけようとした。

「チャーフル」

 静かに耳元でお兄ちゃんに似た、幼い声が聞こえる。その瞬間何かにつまづいた感覚を覚え前に倒れるが、ソレイユが私を抱きとめる。

「落ち着け。チャーフル。僕がいる」

 耳元でソレイユの落ち着いた声が聞こえる。そうだ、村の皆が死んでしまった。ママもお兄ちゃんも危ない。けれど、少なくともソレイユだけは無事で今、私を抱きしめていてくれる。
 ソレイユは生きている。双子の片割れが隣にいる。胸にはイーブイも居る。私は1人じゃない。

 そう思うと少しだけ気が楽になった。多分、今まで見たこともないグロテスクな光景へのショックと怒りと悲しみで私は興奮状態になってたんだと思う。
 頭は冷えた。と言っても胸にある負の感情の塊は消えたわけじゃない。
 お兄ちゃんを、ママを助けたい。

「ほお。これが例の……」

すると、急に二人分の足跡が聞こえ始めた。片方は足音の音が……なんというか重い感じがする。多分大人の人。もう一つは……軽い足音。人間じゃないけど、さっきの化け物でもない。
 予想通り、目の前の茂みから大人の……二十歳ほどの男性と、人型の全体的に青色の生物が出できた。男性は体がガッチリしており、白い軍服のようなものを着ている。尚且つ、立ち姿の圧が強い。背筋を伸ばし、足は少し前後に開いている。青い生物……本でしか見たことないけど「ルカリオ」ってポケモンだと思う。ルカリオは私たちには斜め方向に向き合っている。
 この二体……強い。戦闘経験なんて昔家族とチャンバラをした程度しかない。そんな私でもわかる。パパやママのように立ち姿に隙が無く、普通でない。
なんというか、ここに出できたということは少なくとも村の襲撃に関わっている人物……だと思う。要するに私たちの敵だ。けど、相手は人間……

「何が目的ですか?」

和解ができるかもしれないということだ。私がその結論にたどり着く前にソレイユが男性に質問を投げかけた。

「私とまともに話そうとするのか。意外と賢いではないか」

「話をそらさないで!」

私はそう叫んだ。多分この男は状況からして今回の襲撃に関わっている。そう思うと、怒り、悲しみ、憎しみ、苦しみが一気に襲ってくる。そしてこの男は私たちをまるで、ポケモン……いや化け物と話すような言葉回しをしている。それがとてもイラつく。憎しみも相まって余計だ。

[返信][編集]

30 :ベリー
2022/09/16(金) 19:48:10

「目的……そうだな。とある『組織』が作ってしまった生物兵器とその子孫を回収しにきた。」

「生物兵器……このあたりにそんな話は無いと思うのですが」

その通りだと私はソレイユの言葉にうんうんと首をふる。まず生物兵器なんてフィクションでしか聞いたことがない。遠い所にはそういう伝承はあるらしいが、ここら一帯はそんな話は全くない。

「ああ。ここら一帯にそんな話はない。何故なら、この村はその『生物兵器』が作った村だからな」

その言葉を聞いた瞬間。頭の中の点と点がつながった。つながってしまった。
この村はもともと湿原地帯でジメジメした気候で誰のものでもない不気味な森だった。そこに訪れた若い男女はその森を開拓して『不思議な力』で太陽がカンカンに照った、緑豊かな土地と、一軒家を築いた。そこに迷い込んだトレーナーの数人が住み着きできたのがこの村である。これは、たった十数年前の話で、この話を言い聞かせてくれたのは……この村を作ったのは


パパとママである


そして私が、私たちがその生物兵器の子孫である根拠があった。すこしはおかしいと気付くべきだった。

「うあああああああ!!!!!」

茂みの奥から らしくないお兄ちゃんの叫び声が聞こえる。その瞬間地面が揺れ始め、一直線に男性にめがけて鋭い岩が地面から突き出してきた。『ストーンエッジ』である。

「ルカリオ」

男性は表情を崩さず、ただ一言そう言った。
すると、何か波動のようなものがルカリオの手元に集まる感覚がして、それがバスケットボール程の大きさになると、地面から生えてくる岩々に向かって放った。
あれは……波動弾という技だった気がする。波動弾は生えてくる岩々を打ち砕き茂みの向こうの‘‘何か‘‘に命中した。

「グハッ!!」

 お兄ちゃんの鈍い声が聞こえる。
 波動弾のおかげではっきりと見えた。茂みに隠れていた
  『私達の家だったものが』
  『私達の庭だったものが』
  『私達のママだったものが』
  『厚い鉄板に、太い丸太のような針で張り付けにされているお兄ちゃんが』
  『二十はいるであろう大量の白い化け物が』

「何……この地獄絵図」

「チャーフル。見るな」

 声が掠れて何も出ない。出るのは目から溢れ出る塩水だけで先程の強がりはもう消えてしまった。
 ソレイユの胸元に顔を押し付けられて何も見えない。もう何も見たくない。もう……もう……
 私はソレイユの背中に手を回した。

『また守られることになるとは考えずに』

◇◇◇
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31 :ベリー
2022/09/16(金) 19:51:17

《ソレイユ》

 目の前には燃えている家、ぐちゃぐちゃの庭、血まみれで体を張り付けにされてる兄に村にいた白いバケモノが十数体。
 胸には震えているチャーフルが居て、男性が無関心にタブレットをいじっている。

 生物兵器……か。まあ、なんか僕達は人とは違うなとは思っていた。
 ママとパパとお兄ちゃんはポケモンの技のようなものを使えるし、俺とチャーフルとお兄ちゃんは昔から『チャンバラ』と称して常人ではなし得ないような特訓をさせられていた。
 本気の殴り合いや間合いの取り方に足場の悪い所での走り方。生物の急所なんかも学んでた。
 それに、普通の10歳が出せるような筋力を僕達は持ってない。尚且つ見た目は幼児だ。
 俺の知ってる世界が村と家しか知らないからこれがどれほど異常かは分からない。だが、少なからず普通では無いということは分かる。

「生物兵器の回収……って事は、僕らジーニア家族を捕まえるのが目的ですか?」

「まあ、そんな所だな。大人しく捕まってくれれば助かるのだ、が……ルカリオ」

 男はタバコを取り出し吸い始めるとまた、ルカリオに指示を出した。また、お兄ちゃんがストーンエッジを男に打ったが、ルカリオが拳でそれを砕いていく。

「くっ! 逃げろ! 早く! 早く!」

 お兄ちゃんの声はもうカッラカラである。まあこの現状を見てこんな反応にならない方がおかしいだろう。
 別に俺はチャーフルがいてさえ居ればどんな所に居ても良いし村が潰れてもお兄ちゃんとママが殺されても俺は何も思わない。
 連れていかれる程度ならついて行って良いと僕は思っている。だけれど……

「まあ、そう大人しく捕まってくれるとはこちら側も思っていない。少々手荒な手を使わせて貰おう」

 また男がタブレットをいじり始める。すると棒立ちだった白いバケモノ達がロボットのように動き出して……俺に襲いかかってきた。

「っ! イーブイ! お願い!」

 俺はモンスターボールからイーブイを繰り出す。強さ的に俺のイーブイでは敵わない事は分かっているけど、時間稼ぎにはなる。

「僕達は連れていかれたらどうなるんですか?」

 イーブイが敵を引き付けてくれてる間に男に問いた。男はお兄ちゃんと戦っているが、こちらの声は聞こえていたようで答えてくれた。

「私は組織の人間ではないからな。分からない。ただ、アイツらなら色々実験はしそうだな」

 男が言い終えた瞬間イーブイが瀕死になって俺の方へ飛んできた。俺は片手でそれをキャッチする。

「イーブイ。少しは動けるか?」

「イッ……ブイ」

 イーブイは決意を固くしたように強いまなざしで頷いた。

「充分だ」

 俺はそう言ってイーブイをモンスターボールに戻した。白いバケモノはジリジリとこちらに迫ってくる。
 胸にはチャーフルがいて、俺は全力で動けないし、第一こいつらに指1本チャーフルに触れてほしくない。
 これは、自分を取り繕ってる場合じゃないな。
 白いバケモノの一体が一気に間合いを詰めてきた。俺はー歩引いてバケモノの頭を蹴る。『グチャッ』というハンバーグをこねるような音がした後に体だけを残してバケモノは屍と化した。
 どうやらバケモノはスピード特化で防御が硬い訳ではないようだ。と言っても俺は育ちは普通のためこいつら全員殺せる訳が無い。
 そして、逃げれるとも思っていない。いや、普通に考えて無理だろ。
 かと言って捕まる訳にも行かなくなった。実験なんてふざけるな。チャーフルをこれ以上傷物にさせたくなんか無い。

「ソレイユ! 俺が引き付けてる間ににげろ!」

 お兄ちゃんが鉄に張り付けにされてるくせにそう言った。そんな強がりはよして欲しいのだが。
 そう思った瞬間空から黄色い雷が複数の白いバケモノに直撃する。
 十万ボルトである。
 ああ、技でバケモノの妨害をするということか。
『不思議な力は乱用するなよ。多分お前ら死ぬから』
 昔パパが言ってた言葉を思い出す。不思議な力……技を乱用すると俺らは死ぬのだ。俺とチャーフルは技は使ったことがないし、使い方も分からないし、使えるかも分からないが、このままではお兄ちゃんが死ぬ。
 というか、さっきからママの気配がしないのだ。ママが加わってくれるならきっと逃げれるのだが……

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32 :ベリー
2022/09/16(金) 19:52:44

「……何をやってるんだっ」

 すると男が緊迫した声を出した。何事かと男の方を見る。もしかしたら何か俺らに得なことが起こったのかもしれない。
 チャーフルも同じことを思ったのか俺の胸からチラッと男の方を見た。
 ただ、それは希望的観測に過ぎなくて、俺はその時、チャーフルの顔を隠していた方がよかった。

「母さん……母さん! あぁああああ!」

 お兄ちゃんの黒板に爪を引っ掻いたような不協和音に近い叫び声が聞こえる。
 そこには、美しく光る黒髪に麗しい顔をした……生首を持った白いバケモノが居た。
 白いバケモノは『見て見て』と無邪気な仕草で男に見せていた。

「生け捕りにしろと言っただろう! 特にNo.9802は……いや、こいつらに何言っても聞かないんだった……!」

 男が額に手を当てた。
 村が潰れても、お兄ちゃんが無惨な姿になっても何も思わなかった俺でも、ママの生首は少し来るものがある。

「ママ? ママ! ママああああああああぁぁぁ!」

 チャーフルは少しの間放心状態でいたが、それがどんどん溶けていきがなり声でもう、声とは思えない声で叫んだ。
 チャーフルの顔は憎しみと悲しみと……今にでも暴れそうな様子で男を睨みつけていた。
 俺はチャーフルが暴れないように無理やり抱きしめる。
 お兄ちゃんの技の威力もどんどん落ちていく。これは本当にマズイ。逃げることが絶望的になった。
 どうする。頭を働かせろソレイユ・ジーニア。何がなんでもチャーフルと一緒に……
 近くにある谷底の激流に身を投げてどこかに流されればワンチャンあるかもしれない。
 チャーフルも同じことを思ったのか急に動き出して俺の手を引っ張りいつもの獣道を走り始める。

「チャッ、チャーフル?!」

「皆死んだ! 皆消えた! うあああああ!」

「落ち着いて! 僕がいるから……チャーフルっ!」

「でも! ソレイユだけは! ソレイユだけは絶対に守る! 守るからっ!」

 俺の腕を掴むチャーフルの手の力が強くなる。チャーフルを守るのは俺だ。守られる訳には……

『縺ゅj縺後→!』

 後ろからバケモノの叫び声が聞こえる。ハッとして振り返るとバケモノが腰を低くしてハッサムの手で俺の足を掴む。

「っ! ソレイユ!」

 力が強い、痛い。痛い痛い痛い痛い! 足が! 骨にくい込んでる! 痛い痛い!

「あぁっ、ぐぁっ……」

 俺はあまりの痛さに言語を発することが出来なかった。チャーフルはバケモノの腕にチョップをした。

『縺ゅj縺後→縺ゅj縺後→!!!』

 バケモノは驚いた声を出しながら手を離す。足の様子を見ると肉が抉れて、骨がバッキリと折れているのが見えてしまった。所々は肉で辛うじて繋がっているも歩くことなんて出来ない。
 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い!
 それでもここで終わる訳にはいかない。チャーフルと離れる訳にはいかない。チャーフルが……!
 チャーフルは俺を素早くおぶって、イーブイを抱えて全力で走り出した。それと同じぐらいのスピードでバケモノ達が追ってくる。
 川まで間に合うのか?! 頼む!チャーフル気張ってくれ!
 今の俺ではチャーフルを守れない。もう祈るしか無かった。
◇◇◇
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33 :ベリー
2022/09/16(金) 19:54:39

 地面に溜まり始めた泥水がバチャバチャと忙しなく音を立てる。チャーフルの足音とバケモノ達の足音。もう、その雑音しか聞こえない
 足が痛い。今すぐにでも発狂したい。けれど、これ以上チャーフルを混乱させたくない。自分の足から肉が生まれて、それでも離れそうでブラブラしている感覚が気持ち悪い。

『縺ゅj縺後→』

 バケモノの一体が両手で何かの玉を作る。あれは、シャドーボール。背中を向けているチャーフルに当たるとキツいな。

「イーブイいけ」

 俺はモンスターボールからイーブイを繰り出す。瀕死のイーブイはうっすらと目を開けていても動けずにただ綺麗に放物線を描いてシャドーボールとぶつかった。

「ァブイォッ! イッ……」

 イーブイの悲鳴が聞こえる。そして、そのイーブイを容赦なく踏みつけるバケモノ達。後ろを見て遠目からうっすらと見えたのは、イーブイだったはずの肉片だった。

 瀕死状態で技を打ち込まれたポケモンはどうなるのだろうか。まあ別にそんなことはどうでもいい。それよりも身代わりがもうなくなってしまったことが問題だ。最悪チャーフルのイーブイを投げるか……

「お前っ、今何をした!」

 すると横からハッサムに乗ったあの男が飛んでいた。こちらに攻撃を仕掛けてくる様子はないようだ。

「何って見ての通りでしょう身代わりです」
「あれは……お前のポケモンか?」
「はい。僕の相棒です!」

 イーブイは俺の自慢の相棒だ。唯一素でやり取りを行い、生まれた時から一緒にいて支え合って、最期はチャーフルの身代わりになってくれた。これ以上ないほどの最高の相棒である。

「ポケモンを、ポケモンはそんな扱いをするものでないだろう!!」

 男が怒声を俺達に食らわす。チャーフルは必死で走っていて多分今の状況を把握してないんだろうな。俺たちの会話も右から入って左に抜けているのだろう。
 黙々と走っている。

「それなら僕達もですよ。こんな扱いを受ける通りはありません。ポケモンだけ特別扱いですか?」
「それはっ……私は依頼で行っているだけで!」
「なるほど、依頼なら貴方も僕と同じことをするんですね!」
「ッ!!」

  『依頼』ということは、この男はこの出来事に直接関わっていることでは無いということだ。その情報を知れて俺は満面の笑みで男に返事をした。
 男は先程まで興味無さそうにしていたのに、急に冷たく、怒りを秘めた表情になった。

「絶対に……逃がすな」

 男が地を這うようなどす黒い声で呟いた。しかし、恐ろしすぎて俺までその声が聞こえてきた。
 なんで怒ってるんだ?! クソっ逃げる時間が長すぎてイラつかせてしまったか

「ソレイユ!!」

 するとチャーフルが叫ぶ。目の前には谷底があった。俺は目的達成直前で少しホッとしていた。

「絶対にあの化け物共を逃がすなあ!」

 男のまるで軍人のような怒声が森に木霊した。俺もチャーフルもその声にビビって少し怯んでしまった。
 すると後ろから、何かを感じる。バケモノ達が何かを溜めている。
 一体?
 そう思った瞬間ソレが一斉に放たれた。
 シャドーボールや波動弾、破壊光線に大文字に、様々なポケモンの技が俺達に向かって放たれた。

「チャッ……」

 俺は急いでチャーフルに声をかけようとしたが、その様子をチャーフルも振り向いて見ていたようだった。
 すると体が宙に浮く感覚がする。いや、俺は、実際に宙に浮いていた。
◇◇◇
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34 :ベリー
2022/09/16(金) 20:33:52

「え?」

「あぁぁぁ!」

 目の前にはその攻撃を全て食らったチャーフルの無惨な姿があった。片腕は無くて、顔は半分抉れていて脳みそが丸見えである。チャーフルの胸元には無傷なイーブイが居て
 チャーフルが傷ついた。チャーフルが死んだ。俺を庇って、俺以外に殺された。俺以外に……俺以外に

「ア”ア”ア”ア”ア”!!!」

 俺はただ、絶望で、負の感情に沈んでいき喉を絞り出してその感情を必死で外に出そうとした。

『い き て』

 チャーフルが半分もうない口をパクパクさせていた。チャーフルの顔は謎に穏やかな表情で、母さんそっくりだった。
 チャーフルがいない世界で生きる? ありえない。世界なんて、滅びてしまえばいい。

『絶望』

 それしか見えなくて、少しづつ視界は黒く染っていき……

『ジャブンッ』

 足のつかないような深い激流に飲まれ流されて言った。ぐるぐると体が回り空気を吸うタイミングが分からない。

 あー、チャーフルが死んだなら……俺も……


《チャーフル》

「あぁぁぁ!」

 痛い、もう痛すぎて神経がマヒしたのか、それとも叫び疲れたのか声が出ない。
 放り投げたソレイユは、絶望した顔で、大粒の涙をこぼしてこちらを見ている。まるで鏡でも見ているかの様だ……
 というか、あれ? なんか視界が狭いし、頭が……働かない…… 言葉、言葉を出したいけど言葉が何かもすら分からない。目の前の人は、誰? 私?

 それでも、大切な人だということは、分かった。何故か伝えたいことの伝え方も分かっていた。

『生きて』

 口を、何故か空気でスースーした口内を柔らかく動かした。それで満足だった。もう何も分からなかったから、何も……
 私は、自然と笑みがこぼれて、そこで、意識を失った。

 ◇◇◇

「No.9802も、バケモノの一体も死亡した……あと二体か……クソッ。これじゃあ依頼人が激怒して私の立場が……」

 男は燃えている家に戻り、数がもう数体しかいないバケモノを侍らせ兄の前に立っていた。
 そして男はタブレットを見て歪んだ顔で唇を噛んだ。その様子を見て心配そうにルカリオが男の背に手を当てる。

「残念ながら、あの川は家の父が死にかけた川だ。ソレイユが無事でいるわけが無い。そういう俺も、もう時期死ぬ」

 兄は串刺しにされながらも何かを悟ったような、勝ち誇ったような顔で男にそう言った。

「何故だ……」
「簡単な事だ。技を使いすぎた。俺はバケモノであってもポケモンじゃない。もう俺の肉体が耐えられないんだ」
「全滅……クソッ!」

 男が強く片足で地面を踏んだ。ぬかるんだ土は『バシャン!』と音を立てて男のズボンにへばりつく。この世の終わりのような顔をした男は顔を覆った。

「この依頼は……俺の命がかかった物だった……のにっ」
「そこで……だ。俺と協力しないかい?」

 兄はもう時期死ぬなんて思えない朗らかな表情で男に問いかけた。

「屍にはもう用はない」
「失敬な。俺まだ死んでねーし」

 兄はチャーフルのように頬をプクッと膨らませると、フッと笑いおもむろに話し始めた。

「まだ、ジーニア家に生きている人物が居る」
「ッ!!」
「勿論、俺らの血を引き継いでいる」
「……どいつだ。どこにいる。吐け」
「そこに、いんじゃん」

 兄は男の後ろの方に視線を向ける。そこには研究用にとブルーシートの上に置かれたチャーフルが居た。

「何、ふざけたことを言ってるんだ。死者蘇生でもすると?」
「違うって生きてるつったろ」

 男はからかわれてると思ったのかイラついた声で兄に攻撃するように言った。それでも動じない兄は呆れたように返事をした。

「見ろって、その脳みそ、まだ微かに動いてるだろ」

 兄が言うと男はチャーフルに近づき、半分もない脳みそをまじまじと見た。それは、まだ蛆虫のようにニュルニュルと動いていて、肉が出来ては消えていき、出来ては消えていきと人とは思えないような出来事が起こっている。

「まさか……なんで……」
「そりゃ、俺達はお前らで言う『化け物』だからね」
「コイツを……コイツを連れて帰えれば!」
「それでもチャーフルも時期に死ぬ」

 微かな希望を掴んだ男の表情が晴れるが、兄の言葉に一気に底へと落とされる。しかし、この状況で生きてる方がおかしいため悔しそうに男舌を噛んだ。

「……」
「まだ話は終わってない。協力しようって言ったじゃないか」
「……なんだ」

 男はチャーフルを見ながら、下を向いて絶望に満ちた声で言った。それを嘲笑うように兄はこういったのだ。



「  俺の─────」


     第一章 私の分岐点 終

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35 :ベリー
2022/09/17(土) 01:36:58

第二章 世界の由

─十数年後の未来─

 黒いインクをぶちまけ、その上に明るい飛沫が飛び散っている絵画のように美しい満点の星空。
 ビルが立ち並ぶその地方の都市で1番高いビルの屋上にある人物が立っていた。
 星空に負けないぐらい艶やかでサラサラな美しい黒髪を腰まで伸ばし、それが風にたなびいている。ぱっちりした目に長いまつ毛、ルビーの絵の具で線を引いたのかと思うぐらい美しい唇とは対照的に真っ白な肌。麗しいという言葉そのものを体現したような美女だった。
 彼女はぶかぶかなロングマウンテンパーカーを来ていてスタイルは分からないが少なくとも百六十cmの身長はあるであろう。
 ただ、彼女の瞳は真っ黒だった。何を見ているか分からないただ黒く黒くどす黒い。絶望の色をしていた。

「ここにいたのか」

 彼女の後ろから1人の男が出てくる。男は体がガッチリしており、白い軍服のようなものを着ている。尚且つ、立ち姿の圧が強い。背筋を伸ばし、足は少し前後に開いている。隣には屈強なルカリオを連れている。
 十数年前から全く変わらない姿である。

「ガエリオ……ここがよく分かったわね」

 彼女はゆっくりと振り返り、微笑む。しかし、目が全く笑っていない。

「ピラミッドも裏の3柱も貴様のメイドも帝王も死に物狂いで探しているぞ」
「帝王……?」
「5代目の事だ」
「アイツ……いつの間にそんなあだ名着いてたのよ」
「ピッタリだと私は思うがな」
「帝王は私の名であるべきだと思うわ」
「嫉妬か?」
「違う」

 彼女は眉を少しうねらせ不機嫌な顔をした。ガエリオは「昔と変わらん」と言い微笑んだ。

「私はその、帝王とか言うやつより極悪非道な事をしてきたつもりなんだけど」
「なんだ2つ名が欲しいのか。まだまだ子供だな」
「私もう三十路なんだけど」

 彼女は余計機嫌を悪くしてガエリオを睨んだ。それでもガエリオは自分の子を見るような呆れた顔で笑った。

「なら、統治者はどうだ? 世界を安泰に導いた者として」
「それは統治 共羽が名乗るべき名よ。私は結局捨てちゃったんだから」

 彼女はそう呟きフードコートを翻しその場を去ろうとした。美しい黒髪が広がり目を奪われるような麗しい横顔。それは、天使のようで、悪魔のようだ。

「エンジェルはどうだ?」
「ふざけてる?」
「実際貴様は何千万という命を救ってきただろう。そして、世界を安泰へと導いた」
「間接的に……ね。それに救った数と同じぐらい壊してきた。結局は世界を捨てた。その現状が。今よ」

 その後ろ姿はどこか寂しそうで、悔しそうだったが、彼女の声色は変わらない。

「いいや、貴様は今から全てを救うのだろう?」

 ガエリオはタバコを取り出して吸い始めた。『ふぅっ』と息を吐くと白い煙が不気味に揺らいでいる。どっちつかづのようにゆらゆらと。

「……全てを救ってみせる。全てを……壊してみせる」
「……私達は一体どこで間違えたのだろうな」

 彼女がドアノブを捻る手を止める。そして、全てを捨て諦めそして何故か嬉しそうな笑みを浮かべた。

「私の……私達の場合、生まれた事が間違いだったわ」

『ガチャンッ』と扉を閉めた金属音が屋上に響き渡る。その音が繰り返しガエリオの頭の中では響いていた。

「本当に……強欲で傲慢で怠惰で激情家で嫉妬深くて暴食でなのに美しくて……」

 そこでガエリオはあることに気づき『ハハッ』と乾いた笑いを出した。

「七大罪を全てを網羅してるじゃないか」

 ガエリオはそこにはもう居ない彼女……いや、『2代目レイ』にそう言った。

 風は冷たく激しく、空に気を取られていたらビルから落っこちてしまいそうだ。それはまるで、表に染まって夢中になっていたらいつの間にか裏に落ちている、この世界を表しているようで、ガエリオは皮肉でたまらなかった。

◇◇◇
挿絵
cdn.wikiwiki.jp

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36 :げらっち
2022/09/17(土) 15:44:23

最初はシンプルなポケモンの話と思いきや、いきなりポケモンとかけ離れたシリアスハードな展開になるの好き…
しかも主人公までがグロい目に…
チャーフルがあああああ!!!
ソレイユはどうなった?

ママンの頭が…
兄にも何か秘密がありそうだ。
張り付け→磔のほうがいーかも。

ガエリオさんだ!裏の陰謀本編も、ちょうどガエリオさんが出るくらいまで読みました。
そしてついにトモバが!レイが!本編の主役が出たよ。
本編まだ読破してないのですが、どうつながっていくか楽しみです。

しかも絵も可愛らしくて好み。
小説書きながら挿絵も描いてらっしゃるんですか?超人的に作業速いっすねえ…

[返信][編集]

37 :黒帽子
2022/09/17(土) 16:17:42

これ…
ポケモンである必要ってあるの?

まだ詳しいことをつかめてないから言っちゃあかんことあったと思うが

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38 :げらっち
2022/09/17(土) 18:19:35

>>28 文字化けはツールで解読できるけど…
殺意の奇声にあのような言葉を使うとは、上手くて怖い。

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39 :ベリー
2022/09/18(日) 00:29:15

>>36
今回もありがとうございますううう!
あ、なるほど、磔の方がいいんですね……この漢字知らなかった。うわああ自分が無知すぎる!

もう……お兄ちゃんは……
この時点でお兄ちゃんが死んでチャーフルも死んでレイが出来上がりと言うわけです。意味分かりませんよねはい。伏線です……

ガエリオやトモバやレイが出てきた!やったね!
でも実は2代目レイ=レイ レイナという理論は話を読み進めていく事に矛盾点が多くなって……
このー数十年後ーというのは、裏の陰謀の6部辺りなので、イッシュで旅をしてるレイナ達の5、6年後に当たります()
紛らわしいですよね紛らわしいです(だから休載中)
もう意味わからないものと本編の伏線がこの話に張り巡らされて居ます()
なぜなら裏の陰謀が始まる元凶のお話なので。だから初見でも読めるし本編を読んだら訳が分からなくなる!やったね!(は?

やったぁ、絵を褒められたァ。

>>37
黒帽子さんも読んで頂いてたんですか!ありがたい……
その反応だと、もしかして『最期の足掻き』を読んでらっしゃらない感じ……ですかね。今後のストーリーで一応明かされますが興味があればそちらも読んでみてください。あ、無理にとは言いません……
ポケモンである必要はあります。まあ簡単に言うと自分の話はポケモンゲームのブラック部分を深く掘り詰めた話となっております。
ストーリーの悪の組織は勿論、実験や厳選やドーピングetc.....
そこから生まれた話なので『ポケモンである必要があるのか』でなく『ポケモンだから生まれた』と言った方がいいのかもしれません。

ポケモンである必要はありますが、ポケモンっぽいかと言われると……うん。
これ本当にポケモン二次創作か?とはなりますね()

>>38
やったぁ!解読してくれた!
もっといい言葉はあったと思うのですが……自分の語彙の無さであれになりました。
あの言葉の意味も……というか、化け物の正体も後々明かされる予定です。

あれ、これ結構長編になりそうな……

◇◇◇
ちょっと日本語おかしい部分があったかもしれません

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40 :げらっち
2022/09/18(日) 08:02:22

成程…兎に角、混乱を愉しむ為にも本編を読破します。

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41 :ベリー
2022/09/18(日) 17:23:37

─現在─

 「ぐはっ! 」

 急に胸元に衝撃が走った。まるで、地面に打ち付けられたような……
 地面が冷たい。触り心地は……レンガ? というか、あれ……私は……一体。
 ぐわんぐわんする頭にムチをうちつつ体を起こすとそこはとんでもなく広い部屋だった。体育館ぐらいの広さと規模の部屋。しかし、その時の私は体育館等知らなかったためとてつもなく大きい部屋としか形容の仕様がなかった。
 私はその部屋のステージのような所に放り出されていた。目の前には薄黄色のシャツを来た人々が各々何かを話している。
 私の事について話す人や雑談する人や、発狂している人や倒れてる人。屈強な大人から1,2歳の子まで幅広い年齢層の人達が居て、意味がわからなかった。

 ここはどこ? まって、それより私は? 私はどうなったの? 私は誰?!

 別に私の記憶は抜け落ちていた訳では無いようで難なく記憶を掘り返せた。けど、掘り返せば掘り返すほど気分が悪くなってくる……
 私の名前はチャーフル・ジーニア 10歳。気を失う前に、バケモノに襲われて……多分頭抉れてたんじゃないかって思うんだけど……
 私は急いで頭を触ってみたが凹凸の無い円球の頭がそこにあった。目もあるし口も普通だ。
 え、あれは……夢? ママは? お兄ちゃんは?

 ソレイユは……?

「今日から仕事に関わる奴だ。以上」

 後ろにいたステージの下にいる人たちとは違う、何か作業着を来ている大人の人がそう言った。
 仕事? え、何が? 私の事……だよね?
 すると薄黄色のシャツを来た人々はゾロゾロと部屋から出ていった。
 何か、この人達何かがない。元気と言うか、明るさというか……生気?

「お前も行け」
「ぐへっ」

 すると後ろの作業着の大人の人に蹴られ、誰もいないステージに落とされた。そんなことされるとは思ってなかった私は無防備にまた地面に叩きつけられる。

「あの、一体……仕事って、私は……」
「早く行け。晩飯にするぞ」

 大人の人の声は私に全く関心のない虫けらを扱うようにそう言った。それに、晩飯にするという脅しと、知りもしない大人への恐怖で、私は逃げるように他の人達を追った。
 部屋を出ると長く不気味な廊下が延々と続いていて端が見えない。探検したい気持ちも微かにあったが、それよりもあの人達を追った。

「うっ……」

 その人達が向かう場所に行けば行くほど異臭が鼻を攻撃し始めた。廊下に出てから鉄の匂いは微かにしてきたけれど、それと共に肉が腐ったような異臭に体臭が濃くなっていく。
 細い通路にはなんか沢山の厚い鉄の扉が何個もあって、それを開きながら人々は進んでいく。かなり歩いたはずだけれど、まだだろうか……
 そう思っていると光が見えた。薄気味悪い不気味な光が。
 さっきの扉よりもより一層厳重な扉が開かれたら凄い……すごいすごいすごい広い外?についた。
 とにかく広い。端っこは見えないし向かい側も見えない。空は薄暗くてガラスが貼られている。
 こういうのをガラスドームというんだっけか。でも、ガラスドームの向かい側が見えない。近所のそこら辺の山よりも大きい面積がある。ガラスドームの向こう側は土があって、多分崖?なのかな。でも、なんか空も、空なのか分からない。灰色が綺麗すぎるし、太陽の光に違和感がある。
 あと、なんか空気が重い。どよどよしてるし風が微かにしか感じ取れない。ここ、本当に外なのだろうか……

 そう思ってるといつの間にか周りに人はいなくなっていた。

『今日は20時までだ。
 では始め。』

 するとどこからともなくノイズが強いアナウンスが流れてきた。
 20時まで? 何が?! さっきの仕事……? けど、仕事内容なんて教えられてないしほかの人たちの姿なんて見えない。まず私はあの時多分死んだはずなのだ。てことはここは、地獄?
 地獄にしては妙にリアルで生々しい気もする……そんな物なのだろうか……

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42 :げらっち
2022/09/19(月) 01:54:46

使いこなしてますなあ。
wikiwiki.jp

って、wiki編集もいいが小説も書いてくれ~~っ!

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43 :ベリー
2022/09/19(月) 02:03:33

>>42
うわああ!楽しくてつい熱中してしまった。いくらか書き溜めているのでキリが悪いところまでですが投稿します!

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44 :ベリー
2022/09/19(月) 02:07:23

「ブモモモォッ!」

 すると隣から鳴き声が聞こえた。多分ポケモンだろうけどいかんせん肝心なポケモン名が分からない。
 隣には茶色で首に黒いフサフサした毛を纏っていた。角が生えていて四足歩行。しっぽは3つに分かれていた。
 このポケモン。見たことある! たしかケン……ケンルス……ケン……

「ブモオオオッ!」

 そう考えてる間にケンなんとかが私に向かって突進してきた。何故か興奮状態のようで目が血走っている。私は慌ててその場から走り近くの森に入った。最初は追ってくるケンなんとかの足音が聞こえたけど段々小さくなっていき、もう聞こえなくなった。

「こっここまで来れば……うぐっ……」

 全力で走ったせいで酸素が大量に必要になったため呼吸を早めると、さっきの数百倍濃い異臭が鼻に流れてきた。
 肉が腐って溶けてるような匂い……
 私は急いで服で鼻を塞いだ。けれど、それで匂いが防げるわけが無く、顔を顰めながらも異臭の正体に近づくために歩き始めた。

『グチャッ、ベチャッ』

 するとどんどん生々しい咀嚼音が聞こえてくる。え、食べてる? もしかして異臭の正体を……? 最悪腐った肉を食べてることになるが、そんなはずは……
 私は極力足音をたてずに近づこうとした。

「誰だ」

 その声は……声じゃなかった。空気を洗濯板で強引に擦ったような不快な自然音。けど、多分人の声だと思う。そう思いたい。

「あのっ」
「お前……なんだ?」
「えっ?」

 私が質問をする前に相手から質問を投げかけられた。それもかなり抽象的な質問。なんだと言われても……なんと答えれば……
 出身地? 私の村は名前なんて無いし、というかどの地方にあるのかさえ知らなかった。なら、名前を名乗る? なんか、違う気がする。

「他の奴とは違う。匂いが綺麗だ。声が綺麗だ。綺麗だ綺麗だ綺麗だ」

 すると壊れた機械のように『綺麗だ』を連呼しながら、その場から立ち上がる音がする。それが不気味で仕方がなくて、私は一歩引き下がる。
 しかし、その一歩は無意識でやったため足音など気にせずに地面を踏んでしまった。

「に……げるなああああああああああ!!!!!」

 どんどん大きくなっていく声に最後はもうただの叫びだった。すると目の前の茂みから誰かが飛び出してきた。
 人だ。人だった。だけど、肩までの髪は所々抜け落ちていて体が全体的に細い。目はむき出しで顔中血と肉片が着いている。声的に男だと思ってたのに、女性が出てきた。
 あと、顔の血肉は怪我じゃない。多分ついてるだけだ。そして、その血と肉から微かに異臭がする。
 それよりも、素早い。人とは思えない動きで素早く間合いに入り、私を地面に押し倒して体を押さえつけられた。
 え、まって、どういう状況? この人、細いのに力が強い。いや、きっと私なら押し返せるだろうけど、恐怖と混乱で力が全く入らない……

「お前……新入りだなぁ? 綺麗だ綺麗だぁ。背中のは食べものだぁ。食べものだぁ! お前も美味そうだぁ」

 女の人は私の頬を力いっぱい引っ張るとヨダレを垂らし始める。そして、その顔がとても嬉しそうだ。狂気に満ちた……とも捉えられるが純粋にただ、嬉しそうだった。
 相手が嬉しいなら、このままでもいいのかも?
 ダメだろ。普通に食われるぞ!
 少しそう思ったが、もう1人の自分がそれにツッコミをいれた。え、え? どういうこと? 私今までこんな考えかただっけ? セルフツッコミする思考だったっけ? あ、食われるんだっけ? え?
 そう疑問だらけで放心状態になっているとおもむろに私の服を破りはじめた。
 ようやく我に帰った私は必死で抵抗しようとするも力が入らなく、満足に相手を押し返せない。そして相手は私の首を掴んで締め始める。
 喉の何か硬い、細い筋肉が無理やり締められる感覚。

「おぇっ、あつ」

 そのまま動けずにいると……

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45 :ベリー
2022/09/19(月) 02:09:40

「イッ、イブイッ!」
「嫌っ」

 横からポケモンの声が聞こえた。
 すると汚れてドロドロのイーブイが現れてアイアンテールで女性の頭を殴る。
 ガンッと鈍い音がして女性は私からどいて警戒し始める。

「イブッ! イーブイ!」
「……イー……ブイ? イーブイなの!」

 女のヨダレや血肉汚れと土でゲトゲトの上に服が破けている。でも、そんなこと気にせずに私はイーブイを抱き抱えた。

「イーブイっ! 生きてて……良かった……」
「イブッ……」

 イーブイは見たところ汚れているだけで外傷は無いようで私は、イーブイを守れたと言う事実にただ感極まってイーブイを抱き抱える腕の力を強めた。
 それが苦しいのかイーブイが小さな悲鳴を上げるがそんなこと知ったこっちゃない。

「増えた……食 べ も の 」

 不意に耳元から声が聞こえた。『ハァ』と生暖かい息を私の頬に当て嬉しそうな狂気じみた顔で、私の背に立っていた。
 え、足音なんて聞こえなかった。気配なんて無かった。なんで、なんで……
 女の人が私の腕を掴んでブラックホールのように不気味な口を大きく開けた。そのまま……

『ズサッ』

 食べられる? そう恐怖していた中、女の人が急に倒れた。私は反射的に女の人を支えた。

「えっ、だ、大丈夫? 大丈夫!!!」

 私は必死で女の人に声をかける。息はしてるから死んではいないけど、気絶はしている。なんで? どうしようどこか安静な所に……
 私、甘ったるいほどのお人好しだ。
 それでもいい、私を見て嬉しそうな顔をするほどこの人はお腹が減ってる。袋の食料を分けてあげよう。
 すると女の人の首筋に赤い跡が見えた。何かにチョップされたような……

「イブッ!」

 イーブイが切羽詰まった声を出す。こんな鳴き声をするなんてイーブイらしくない。私は反射的に上半身を前に倒して伏せた。
 すると頭上を何かが通過したような、風の感覚を覚える。

「何っ?!」
「バオォーン!」

 別のポケモンの鳴き声がする。そこには黒と紫ベースに耳が平べったく、ゴルバットのような羽が生えている。でもしっぽも手足も生えていて……
 何、このポケモン?

「バァァオオオオン!」

 ポケモンを観察していると謎のポケモンが大きな耳から何か衝撃波を出し始めた。周りにポケモンの鳴き声が響き渡って鼓膜が敗れそうだ。たしか、これはばくおんぱ!
 その場で耳を塞いで、それと共に何故か目も瞑ってしまった。視界を塞いでしまったから、私は無防備な状態だった。

「ああああ!」

 片腕に激痛が走る。鉄が肉達を無理やりどかそうとするようなそんな違和感と不快感と激痛。
 目を開けると謎のポケモンが私の腕に噛み付いていた。

「ウ"ウ"ゥ"……」

 謎のポケモンが凄い顔で私を睨みつけている。瞳孔が開いて親の仇を見るような目。
 ミシミシと腕から肉がえぐれる感覚が強くなっていく。
 なんで、こんな状態なのだろう。一体……

「なっ、何が……あったの? 」
『おま……べた。卵』

 微かに聞こえるポケモンの意思。おま? べた? どういう……卵だけは分かったけど……
 私はもう片方の手でポケモンの頬を撫でる。しかし、それが火に油を注いだらしくポケモンの力が強くなり……

『グシャッ』

「ああああっ!!!」

 私の噛みつかれていた腕がえぐれた。その肉をポケモンが食べる。それより、痛い。血が溢れていく。
 無理だ、痛い痛い痛い!

「バァゥルオオオン!」

 またポケモンはばくおんぱを放ち痛みで怯んでいた私はイーブイと女の人を置いて吹っ飛ばされてしまった。
 女の人が出てきた茂みを超えて、すると足元がぬかるんだ場所に着地する。泥? いや、違う。ずっと臭っていた異臭の正体……

 恐る恐る手元を見ると、そこには割られたポケモンの卵の殻に無惨な姿になった小さなポケモン。薄紫でさっきのポケモンのように耳が大きい。
 もしかして、このポケモンの子供? あれ、さっきあの女の人ってもしかしてこのポケモン達を食べていて……

「ッ!!」

 恐怖と吐き気が一気に襲ってきた。すぐその場から転がるように離れて荒い呼吸を収めようとする。
 さっき私は女の人を助けるような動きをして、それをあのポケモンに見られてるってことは、女の人の仲間だと思われてる……?
 自分の子供を食べた人の仲間だと……

 目の前には怒りと涙と絶望で満ちたぐしゃぐしゃの顔をしたポケモンが立っていた。

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46 :ベリー
2022/09/19(月) 02:10:05

『おま……が!……の……』

 ポケモンの怒りと悲しみ、憎み全てが籠ったような意思がダイレクトに伝わる。
 それに直面した私は無関係であってももうメンタルがやられてしまい前を向いて、ただ脱力するしか無かった。

「バアアアアオォォン!」

 ポケモンが叫ぶと勢いよくポケモンの腕が飛んできた。爪が長くなっていて、おどろおどろしいドラゴンクローが。
 あ、ダメ。私にドラゴンタイプの技は……
 それでも抵抗せずただ、呆気に囚われた顔でポケモンを見つめていた。

「ンバァッ!」

 すると、ポケモンのドラゴンクローの方の腕が弾け飛んだ。目の前に不健康そうな赤黒い血が飛び散り、細い細い中身がスカスカの骨の断面が見える。
 村が襲撃されてからグロテスクな様子しか見ていない。もう、無理、辞めて……

「ぐほっ……」

 胸から何かがせり上がる感覚がして口からボトボトと臭い液体が溢れ出していく。気持ち悪い。痛い。痛い。気持ち悪い……
 私の状態はかなりの症状だと思う。病院に行かなきゃ……
 それより、なんでポケモンの腕が……

「アーボック。ポイズンテール」

 低くて氷のように冷たい。落ち着いた声。その声を聞くと不思議と安心する気がする……
 そこで気持ち悪さが少し軽くなった。
 すると真後ろの茂みから全身紫で大きなしっぽを勢いよく振りながらヘビのようなポケモンが私の頭上を通りすぎて私を襲っていたポケモンを見えないところまでぶっ飛ばした。

「シャァッ!」

 してやったりという勢いある声で紫のポケモンが鳴く。多分……アーボックというポケモンなのだろう。

「あとは俺がやる」

 するとまた後ろから何かが私の頭上を通り過ぎて、ポケモンが吹っ飛ばされた場所に向かった。
 早すぎて細かくは見えなかったけど、男の大人の人だったと思う。

「オバァァァッ!」

 男の人が向かったところから、ポケモンの金属音のような悲痛な叫びが私の鼓膜を貫いた。
 え、何この叫び声? 今までで聞いた叫び声よりも恐ろしくて……
 すると「ヒュルヒュル」と音が近くで聞こえる。気づいたら私はアーボックのしっぽにぐるぐる巻きにされていた。
 あれ、え、いつの間に? というか、力が強い……抉られた腕が痛い! 苦しい
 アーボックは呻いている私をじーっと見つめている。

『早く死ねよ』
「えっ?」

 アーボックの意思が伝わってきた。アーボックはじーっと少し不機嫌そうに私を見つめながらしっぽの力を強めていき、少しづつ苦しくなっていく。

「イーブッ!」

 すると女の人のそばに居たはずのイーブイが走ってきて私を助けようとアーボックのしっぽに噛み付く。しかしアーボックはそんなの気にもとめずに私を締め上げ続ける。
 そろそろ、息が……苦しく……

「やめろアーボック」

 さっきの男の人が戻ってきた。その人は20歳ぐらいでソレイユのようにサラサラとした黒髪に短髪。華奢な体に薄黄色いTシャツを着ていた。
そして、白目部分が……黒くて……

「あっ……」

そこで私は意識を失った。

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47 :げらっち
2022/09/19(月) 02:27:17

>>43
わ~い!

書くの早いですねえ。

読みます。

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48 :ベリー
2022/09/19(月) 08:27:16

うわああい!毎回ありがとうございます……
投稿する度に言葉をかけてもらうのが初めてで……感極まっております……

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[管理事務所]
WHOCARES.JP
36 :げらっち
2022/09/17(土) 15:44:23

最初はシンプルなポケモンの話と思いきや、いきなりポケモンとかけ離れたシリアスハードな展開になるの好き…
しかも主人公までがグロい目に…
チャーフルがあああああ!!!
ソレイユはどうなった?

ママンの頭が…
兄にも何か秘密がありそうだ。
張り付け→磔のほうがいーかも。

ガエリオさんだ!裏の陰謀本編も、ちょうどガエリオさんが出るくらいまで読みました。
そしてついにトモバが!レイが!本編の主役が出たよ。
本編まだ読破してないのですが、どうつながっていくか楽しみです。

しかも絵も可愛らしくて好み。
小説書きながら挿絵も描いてらっしゃるんですか?超人的に作業速いっすねえ…

37 :黒帽子
2022/09/17(土) 16:17:42

これ…
ポケモンである必要ってあるの?

まだ詳しいことをつかめてないから言っちゃあかんことあったと思うが

38 :げらっち
2022/09/17(土) 18:19:35

>>28 文字化けはツールで解読できるけど…
殺意の奇声にあのような言葉を使うとは、上手くて怖い。

42 :げらっち
2022/09/19(月) 01:54:46

使いこなしてますなあ。
wikiwiki.jp

って、wiki編集もいいが小説も書いてくれ~~っ!

43 :ベリー
2022/09/19(月) 02:03:33

>>42
うわああ!楽しくてつい熱中してしまった。いくらか書き溜めているのでキリが悪いところまでですが投稿します!

28 :ベリー
2022/09/16(金) 19:44:17

あ!文字化け気づいてくれましたか?!
実は文字化けサイトで変換してそれをコピペして使ってます()

最近便利!