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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗364-372

364 :げらっち
2024/07/28(日) 11:24:10

第33話 シルバーブレット


 戦隊学園へようこそ!

 私はアカリンジャー・落合輪蔵。戦隊の祖と呼ばれたゴリンジャーのレッドで、本学園の校長です。
 ちょうど1か月前の今日、2028年4月1日、世界の半分が赤く塗られ、人類の半分が亡くなりました。戦隊連合の発表では、かの日は《赤の日》と制定されたそうです。
 皆さんの中にも、ご家族が赤の日に命を落としたという方も居るかもしれません。
 まず初めに、1分間の黙祷を捧げたいと思います。ご起立ください。


 黙祷。


 ご着席ください。


 赤の日、多くの命が失われました。
 本学園の敷地は、不幸中の幸いにも被害を受けませんでしたが、その日は春休み期間であり、帰省中だった多くの学園関係者が犠牲になりました。
 教職員の命。在校生の命。先月学園に入学する予定だった、志を持った若い命。無慈悲な赤絵の具は、そんな尊い命までもを、一瞬にして塗り潰してしまったのです。

 混乱の中、本学園は廃校になるという案もありました。
 ですが、《正義》と《悪》に塗り分けられたこの世にこそ、ヒーローの養成学校は求められています。戦隊連合の多大な協力の下、1か月という極めて短い期間で、本学園は生まれ変わることができました。

 前年度まで、本学園は10000の生徒数を誇りました。しかしこの入学式に集ったのは、5000。うち半数が新入生です。赤の日の赤害、その直後の戦争により、本学園の大事な大事な希望の芽は、半分が奪われてしまったのです。
 それでも、生き残った皆さん、この世に平和を取り戻すべく戦う決意をした皆さんが、1人でも入学を希望するなら、本学園は続いていきます。
 来年度からは4月1日に入学式を行い、赤の日で失われた熱意ある魂たちに、追悼を続けていくことになりましょう。

 今日は戦隊学園の、新たなるスタートの日です。

 こんな世だからこそ、力を組み合わせて、補い合って、悪と戦う必要があります。
 1人きりで戦う者だけがヒーローではありません。
 1人1人の力は小さくとも、チームを組み力を合わせれば、1人では到底なしえぬことも実現できます。チームワークで戦うのが《戦隊》です。

 本学園は創立7周年を迎えました。歴史はまだほんの短い物ですが、これからの世界の為に、力を合わせて礎を築いていきましょう。
 皆さんは、2028年度の新入生です。
 2501名の新入生の皆さん、未来の平和は皆さんの肩にかかっています。これからの3年間で皆さんは、志を共にする掛け替えの無いチームと出会うでしょう。

[返信][編集]

365 :げらっち
2024/07/28(日) 11:24:51

 2028年4月1日、赤い巨人が世界を赤く染め上げた。宇宙から見るとこの星は、巨大な血痕がこびり付いているように見えるんだとか。
 世界の半分が死に、陸の半分が抉れ、海の半分が潰れ、人類の半分が消え、生命の半分が滅した。


 それがどうしたというのだ。

 クズが半分になっただけだ。
 人間は何も変わらない。半分になったらなったで、そのうちまた半分が強い者になり、半分が弱い者になるというだけだ。


 赤の日、世界は統治者を失った。日本も例外ではなかった。
 法律が憲法が塗り潰され、力が全てになった。
「怪人」と呼ばれる謎の存在が世界を這い回り、いわゆる「悪の組織」が実力行使で日本を支配するようになった。

 それに抗ったのが日本の戦隊たちだ。
 戦隊連合は赤く塗られなかった地を壁で囲い、「シティ」と定義付けた。怪人や悪の組織の侵入を許さない、平和な世界。急ピッチの突貫工事で造られた小世界。

「外の世界」では、戦隊と悪の組織の戦争が勃発した。
 そこには話し合いも無ければ譲歩も無い。温情も無ければ容赦も無い。ただの殺し合い。動物の縄張り争いよりも獰猛な、潰し合いがされた。
 悪と正義が入り乱れ、ごちゃ混ぜになって、どっちがどっちか、わからなくなった。


 正義など糞喰らえだ。

 正義の戦隊と、悪の組織。見方を変えれば、逆になる。
 悪と呼ばれる組織が正義で、戦隊が悪。これも1つの解である。
 どちらでもいい。どうでもいい。

 俺の入学理由は単純だ。


 俺は強者になってやる。

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366 :げらっち
2024/07/28(日) 11:25:45

 今日は新入生オリエンテーションだ。講堂のような教室、俺は一番後ろの席に着いていた。
 ぎっしりと着席している同級生共。
 俺の周りには、人は寄り付かなかった。俺の容姿がいかつく、近付き難いと思っているのだろう。俺は他人と関わるのが好きではないから好都合だ。
 生徒の中には、もうお仲間を作っている奴らも居るようだ。

 スポーツマンタイプの男子数人が、眼鏡を掛けた小柄な男子を囲って、手下扱いしている。
 垢抜けない女子2人が隣同士に座って、無理矢理話を合わせて、作り笑いの見せっこをしている。
 眼鏡を掛けたエリートかぶれの男子は、取り巻きにおだてられて、鼻の下を伸ばしている。

 車椅子の校長は、チームを組んで戦え、確かにそう言った。
 ああいう奴らがそれにあたるのだろうか。
 俺には馴染めない。本来ヒーローは1人で硬派に戦う物だ。男なら群がらず行動すべきだ。チームプレイなど足を引っ張り合って、慣れ合って、レベルを下げ合うだけ。不要だ。チームなど、糞喰らえだ。
 戦隊学園といえど、俺は1人きりの戦士を目指すとするかな。


 チャイムが鳴り、5人の教師が教壇に上がった。

「あ、あー、ただいまマイクのウォーミング。これ聞こえてる!?」
 二十歳くらいの、まだ少女っぽさの抜けきらない女教師がマイクを握っていた。キーン、耳障りな音が響く。
「あっ失礼! えーと、赤の日に亡くなられた5人の先生方の跡を継いでこの学園の教師として赴任した、私は桃山あかり、生物クラス担当です! 私もみんなと同じ新入生だから! わからないところは教え合って行こ!」
 女は痩身の男教師にマイクを回す。
「俺は青竹了、化学クラス担当だ。次」
 マイクをバトンにしてリレー。
「黄瀬快三だ。機械クラスの担任を務める。興味ある子は是非、研究室の扉を叩いてくれ」
「私は緑谷筋二郎!! 武芸クラス担任だ!! 格闘クラス担任の座が欲しかったが、代田先生に負けてこの座に……くっ、いつかはこの筋肉をピッカピカに磨いて、リベンジするからな!! ピッカピカの1年生諸君も抱け大志を!!」

 最後にマイクを渡された教師は、一番目立っていた。
 何故なら赤。赤で覆われていたからだ。コイツは何者だ。俺の疑問に答えるかのようなタイミングで、赤は開口。

「赤坂いつみ、魔法クラスの担任さ♪ 僕たち5人そろって……」

 赤坂と名乗った教師は、指で小さく指揮をした。4人はそれを見て息を合わせ、そして、


「学園戦隊Gレンジャー!!!!!」


 赤をセンターに決めポーズを取った。
 これには満員御礼の教室も、白けた。
 青竹が「チッ、だからやりたくないと言ったのに……」とぼやいたのが丸聞こえ。
「ふふっ、みんなまだ温まってないようだねえ。そう緊張するな♪」
 赤坂は笑顔のフラッシュ。女子生徒たちから貴金属のような黄色い声。

 ……くだらん。
 たかが知れてるな。
 俺は頬杖を突いて天井を見上げた。

「それではオリエンテーションを始めよう。まずは9つのクラスについてだが――」


 その後の教師共の話は、マトモに聞いていなかった。

 すると突如。

 ジリリリリ!!!!

 ベルが鳴った。何事だ。

『緊急事態発生。緊急事態発生。学園内に怪人が侵入。西校舎に接近している模様。教職員戦隊、及び、覚悟のある学生戦隊は、臨戦態勢を取るように。非戦闘員はただちに指定の避難場所に退避せよ。繰り返す――』

 西校舎といえば、ここだ。

 入学して間もないのにハプニング。大丈夫なのかこの学園は。
 恐怖は伝言ゲーム。錯綜して大きくなって、それが真実であるように振舞う。生徒共はパニックに陥った。机の下に頭を突っ込んだり、抱き合って震えたり、我先にと先生に駆け寄ったりと滑稽だ。俺は自席を離れない。
 そんな中、ひときわ大きな声を出したのは赤坂。

「これはちょうどいい! かわいい新入生のみんなに、Gレンジャーの実力を見せてあげるチャンスじゃないか♪」

「それは危険でデンジャラス! 生徒の命が最優先だろ?」と緑谷。ごつい割に保守的だ。
「いやいやいつみの言う通りかもねえ。ここはGレンジャーのお披露目会といこうよ……ひゃひゃひゃ……」黄瀬はフサフサの髪を掻き分けた。

「みんな、僕について来い!!」

 赤坂に鼓舞されたか、過半数の生徒はGレンジャーの後を追って校庭に出て行った。
 さあ俺はどうするか。ちら、窓の外を見る。

「…………」

 ふん。興味が無い。
 外の光りも、あの教師も。輝きなんて、糞喰らえだ。

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367 :げらっち
2024/07/28(日) 11:26:00

 入学して数週間が経過した。

 クラス分けだ? 新入生歓迎会だ?
 興味が無い。俺はクラスにも戦隊にも無所属のまま基礎科目だけを受けて過ごした。
 戦隊を組んだ奴らはまるで中坊の部活動のようにだべったりふざけ合ったりして過ごしているようだ。グリーンベレーのような厳しい訓練を想像していたが、肩透かしを喰らった気分だ。
 このぬるま湯空間は何だ腑抜け共。外は戦争をしているというのに。

 昼休み、俺は廊下を歩いていた。
 向こうから小男が歩いてくる。その後ろには、金魚の糞のように並んで歩く4人の男。
 情けない。男の癖に集団でないと行動できないとは、反吐が出る。
 それが戦隊学園のやり方だというのなら、俺はこの学園に居られないかもしれない。退学。それもありかもしれんな。戦隊学園と同じく2021年からあるという、ヴィランズ高等学校という悪の組織の養成学校に行くという手もある。

 大名行列してくる男共は廊下の真ん中を歩いてくる。他の生徒はそいつらに忖度してか、道を開けていく。
 だが俺は退かない。俺は俺で廊下の真ん中を歩く。男共は俺のことをチラチラ見ていた。こざかしい。俺の見た目がそんなに気になるか?
 すれ違いざま、先頭の小男が、俺に肩をぶつけた。
 そしてそのまま去ろうとした。

「……オイ」

 俺は振り返り、小男の後ろ姿を捉えた。
「お前、ぶつかっておいて謝罪くらいしたらどうだ?」

「ぶつかっておいて謝罪くらいしたらどうだ? だと?」

 小男は下品なメガネザルの様な顔を見せた。眼鏡はインテリジェンスよりも滑稽味を演出している。

「おい、お前ら聞いたか?」
「聞きましたよ、もっちろん!!」と、他の4人が囃し立てる。
「こいつこの僕に向かって、何かほざいてやがる。この僕が誰か知らないようだから教えてやってくれよ!」
「はい、お任せ下さい!!」
 4人は口をそろえて言った。

「ここに居られるのは、戦隊連合の議長であり本学園の理事長である天堂任三郎様のご子息、天堂茂様だぞ!!!!」

 ああ気持ちが悪い。
 俺はそのエリートかぶれに詰め寄る。俺はかなり上背があるので、相手は少し怯んだ。

「権力を盾に、取り巻きを矛にしないと戦えないとは女の腐ったような奴だな。男なら自分1人の力で戦え。この世界は実力が全て、そうだろう?」

 天堂茂は意地悪く笑った。

「……その通り。この世界は実力の高い者が勝ち残る。この僕に敵うとでも?」

「試してみよう」
 俺はズボンのポケットから戦隊証を引っ張り出し、唱えた。

「ブレイクアップ」

 俺の体が戦隊スーツに包まれる。

 天堂茂は、俺の姿を見て、

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368 :げらっち
2024/07/28(日) 11:26:24

 笑った。

「ぎゃっははははははは!!! 見ろよみんな、これぞ失敗作だ! お前は変身してもしなくても、真っ白なんだよ!!」

 クールな黒に憧れた。だが皮肉にも、俺の変身は真っ白だった。この学園にも戦隊界にも、白の戦士は殆ど存在しないらしい。
 変身だけではない。俺の体そのものが、真っ白だ。
 白に白を重ね塗る。これには天堂茂の集団のみならず、廊下に居た全生徒共が笑い転げた。

「お前の変身は前に授業で見たことがあるぞ。お前は弱い弱い失敗作、口先だけの男なんだよ!!」

「黙れ!!」
 俺は天堂茂の胸ぐらを掴もうとした、が、その前に。
「ブレイクアップ!!」
 天堂茂と不快な仲間たちは、変身した。全員が赤の戦士に成った。無色で独りの俺とは真反対の、有色の5人。

「赤春戦隊エリートファイブ!!!!!」

 奴らを中心に、炎が噴き上がる。生徒たちは逃げていく。
 熱い。そして、眩しい!
「っ!!」
 俺は飛び退いた。廊下の向こう側まで。
「……どうした? 大口を叩いておいて今更逃げるわけじゃないだろうな? 僕らは全員が赤の戦士。対するお前は真っ白だ。そもそもお前は戦隊にすらなれていない。戦士としての名前さえ持たない、ただの余り者なんだよ!!」
「ぎゃはは!!」

 調子に乗るな、俺の強さを知れ!

「スパイラルスノウ!!」
 俺は螺旋状の吹雪を奴らに投げ付けた。
「ストレートファイア」
 5人は炎を一直線に俺に差し向けた。炎光が雪を砕き、俺を襲う。どうすれば!
「くう!」
 俺は攻撃をもろに受け、窓ガラスを突き破り、校庭に転がった。
 1階だったので落下による負傷は無かったが、それ以上に俺の恐れる物が、そこにはあった。

「光りが……!」

 屋外。真昼の炎天下。変身を貫通し、強い日光が俺の肌に目に突き刺さる。
 全身が火だるまになったかのように痛む。俺の目は真っ白に霞み何も見えない。
「あああ!!」
 俺は地面に突っ伏す。声だけが聞こえる。
「飛び火ポート」
 爆音。天堂茂がすぐ近くに移動してきたのがわかった。
 見えない。だが負けられない。
 俺は氷塊を生み出し、声のする方に、投げ付ける。
「喰らえ!!」
「火球カースト」
 炎が落っこちてきた。
「あああああああああ!!!!!」
 俺は頭から炎を被り、校庭に押し付けられた。
 ただでさえ光熱には弱いというのに。熱い。熱い。熱い!!
 その感覚は一定を越えた所で麻痺し、それより恐ろしい物にとってかわられた。
 寒い。冷たい。
 俺は火にまみれ、諦めたかのように、膝を抱きかかえた。熱くてたまらないのに、全身が冷たく、冷水の中にいるかのように震えている。

 助けてくれ。やめてくれ。

 灼熱は、自分を騙し続けていた嘘さえも溶かしてしまった。

 俺は、強者なんかじゃない。

 弱くて弱くて、たまらない。

 泣き虫で、怖がりで、独りぼっちな、

 弱者なんだ!!


 目は白み、僅かに残った聴覚が、けなげに周りの音をキャッチしていた。
「茂さん、やり過ぎですよ! 死んじゃ――」
「構うもんか、父上に頼めばこのくらい事故として処理できる。それに――邪魔者は早めに消しておかねば。僕が――残るために」

 そこに。

「やめなさい!!!」

 一筋の、光り。

 目は見えていない。ではこの光源は何だ?

 俺の、哀れな、暗闇の人生に、射し込む光りのような、声。

「げ! ――レッド! この僕に逆らうのか!?」
「炎魔法スバル!!」
「ぎゃあああああああ!!!!!」
 なんということか。天堂茂たちは一瞬にして撃退されたようだった。
「ブルー! 消化して!」
 冷水と、安息が、俺を包んだ。

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369 :げらっち
2024/07/28(日) 11:26:41

「もう! 無茶は良くないよ!」

 彼女は、俺の目の前に、ドンとトレイを置いた。
 皿の上には大盛りの白米、そしてたっぷりのカレールゥが盛られている。
「……こんなに喰えませんよ」
「ええー!? そんなにガタイ良いのにぃ?」
 彼女のエメラルドグリーンの眼が、俺の全身を見回した。
 俺は少し、身震いした。

 身震い?
 その表現は、相応しいか?

「学園名物戦隊カレー! いいから食べてみそ!」
 彼女は自身の席にも大盛りカレーを置くと、俺の向かいの席に座り、両手を合わせ、「いただきます」と言った。
 俺は何も言わずにスプーンを取る。すると彼女に叱責された。
「いただきますくらい言いなさい!」
「……頂きます」

 初めて言ったかな。

 彼女は茶色と白の山にスプーンを突き刺すと、ぐちゃぐちゃと掻き混ぜ、こぼれんばかりの量をすくい上げると、一口で食べた。
 もぐもぐと咀嚼するたび、彼女のえくぼが、生まれたり消えたりした。
 その様子を見ていると、俺の食欲はそそられた。
 喰いっぷりの良い女は、良いもんだな。

 ……俺は何を考えているんだ!?

 慌てて自分のカレーをスプーンにすくい、口に運んだ。
「う!?」
 棘の塊を噛んだように刺激的。天堂茂の火球カーストを口の中に受けたみたいに、味というよりも痛覚、熱さが広がった。
「ごほッ! これ辛口じゃないですか!?」
 俺は急いでグラスの水に口を付けた。
「えー、辛いの苦手なの? 硬派な見た目に反して、口はおこちゃま? かわい!」
 彼女は、口を押さえて、クスッと笑った。

 俺もつられて、少し笑いそうになった。
 いや、俺に笑顔は似合わない。

 俺はフーフーとカレーを冷まし、少しずつ舌に慣らすようにして食べた。
 先程は慣れずに咽てしまったが、辛いカレーも、なかなかうまいかもしれない。
 そういえば腹ペコだ。俺はがっついた。
「おー、良い食べっぷりだねぇ!」


 完食は、ほぼ同時だった。
 彼女はスプーンを置くと、俺をちらっと見た。彼女の言わんとしていることがわかった。俺と彼女は口をそろえて言った。

「ごちそうさま」

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370 :げらっち
2024/07/28(日) 11:26:58

「フフッ、わかってるじゃーん! ねえキミ、食堂来るの初めてだよね?」
「そうですね。人が大勢居る所は、嫌いだから」
 今までは購買で食料を調達し、1人きりで食べていた。
「ふぅ~ん」
 彼女は片肘を突いて顎を乗せ、俺をまじまじと見つめた。
「あたしは、好きだな! ワイワイしてる人を見てるだけで、楽しくならない? 独りぼっちじゃないんだって」
 彼女は食堂を見渡した。俺もつられて、視線を動かす。

 よく見れば、様々な人が居る。
 グループで食べている者。カップルで食べている者。教師の姿もある。教師に何か質問している者。喧嘩している者も居るが、そういう輩に限って仲が良さそうだ。それに、独りぼっちで食べている者も居る。でも空間全体で見れば、孤独な者など、居なかった。

「いつまで見てんの! お~い!」
「あ、ああ……」
 俺はハッとして、目の前の彼女にピントを戻した。彼女が手をヒラヒラ振っていた。綺麗な手相だと感心するよりも、俺がつい人の営みという物に気を取られてしまったことに驚愕した。俺は人間が嫌いだ。一人で生きていきたいはず、なのに。

「あたし、羽根井光彩! キミ、名前は?」

 唐突の名乗り、そして質問。俺は咄嗟に答えてしまった。

「黒木飛一郎」

 他人に名乗るのなんて、初めてかもな。

「わお面白い名前だねえ! くろきひいちろう……黒きヒーロー?」
 彼女はこめかみに手を当てて何か言っていたが、俺は名乗ってしまった事への驚きで黙り込んでいた。
「ま、いーや。名前なんてね」
 じゃあ何故尋ねた。
「あたしは戦士名で呼ぶのがナウいと思ってる。戦隊のたしなみね」

 その時、俺の口をついて、言葉が飛び出した。
「羽根井(はねい)先輩は、どんな戦隊、組んでるんですか?」

 これに俺は更なるショックを受けた。
 質問は相手が連続でしていたので、ここらで俺がし返すべきだったろう。タイミング的には間違いない。だが何故俺がこの女に個人的な質問を? 他人に興味など持つはずの無い、この俺が!!

「先輩っつっても、たった1つ上なだけだしねえ。タメでいいよタメで。あたしの戦隊、教えてあげるよ~。その名も~……」

 彼女はわざわざ、溜めて言った。

「晴天戦隊ニジレンジャー!! カラフルな虹を掛ける戦隊っ! あたしはそのリーダーでアイドル! ニジレッドって呼んでちょーよ!」

 彼女は身を乗り出してきたので、俺はちょっと引っ込んだ。彼女はそんな俺の顎を、下から人差し指ですくい上げた。

「キミ、ニジレンジャーに入ってよ」

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371 :げらっち
2024/07/28(日) 11:27:19

「ニジレンジャーに……?」

 戦隊への誘い。
 俺はほんのちょっとだけ、嬉しく思ってしまった。だが1秒後にはそれを恥じ、後悔した。
 チームなんて、糞喰らえだ。俺は集団でないと戦えないような弱い男にはなりたくない!

 ……いや、
 俺は既に弱いんだった。
 体がデカいだけの、木偶の棒だ。
 悪ぶって、両親には勘当された。赤の日以降会っていないが、どこかで生きているのか。それとももう……

 家族も気を許せる仲間も居ない。
 俺は人生に負け続けてきた、孤独な男だ。

 だが、一人では勝てなくても、この人となら?
 俺は強くなれるのではないか?

 俺は真っ直ぐに彼女を見た。真っ赤な彼女は、眩しくさえあった。

「……虹に白は無い」
「プハッ! な~に、そんなこと気にしてんの?」
 彼女は笑った。その笑顔は俺の心をくまなく照らし、日向に変えた。日影など何処かへ行ってしまった。
「問題ないよ。キミはニジレンジャー6人目の戦士、ニジホワイトに決定!」

 彼女は手を差し出してきた。

 俺は、恐る恐る、その手を、


 払った。

「え?」
「悪いが、断る。俺は1人きりの戦士に成る。今日のことは感謝します。助けてくれてありがとうございました、羽根井先輩」

 彼女は顔をしかめた。
「めっ!!」
 そして。
「あたしのことはニジレッドと呼びなさい! ニジホワイト!!」
「ええ!?」
 断った事ではなく、名前の呼び方を怒られた。
 ていうか断ったのを聞いていなかったのか?
「羽根井光彩なんて変な名前やだもん! あたしニジレッド、キミはニジホワイト。オーケイ? さあさ、申請に行こー!」

 彼女は2人分のトレイと皿を重ねて持つと、俺の腕を引いて立たせた。
 炎のように、元気な人だ。
 俺は抵抗する気力さえ失せた。

「あ、もうごねないんだ。案外押しに弱いねえ。ニジホワイト、めっちゃ弱かったけど、ビシバシしごいて強くしてあげるからね!」
「……ハイ」
 彼女はトレイを食器返却口に置き、「洗いお願いしまーす!」と言った。
 そして食堂から出る。俺はうつむきながらそれに続く。
 小柄だが弾けるような彼女と一緒に居ると、俺の体は無駄に大きいように思えて仕方が無かった。
 周りの生徒共はそんな俺らを憚ることも無くじろじろ見ていた。それは俺ら2人の見た目が、異質だからだ。

「あなたの白、気に入ったよ!」

「ああ……これはアルビノって言うんだ。変わっているだろう?」

「うん変わってる! でもあたしも、大概だよぉ」

 彼女は俺を見て、にっこりと笑った。この国では珍しい彼女の赤毛は、炎のように、明るく燃えていた。

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372 :げらっち
2024/07/28(日) 11:27:33

 ニジレンジャーの部室である中央校舎7階の茶の間で、俺は自己紹介をした。

「……黒木飛一郎、ニ、ニジホワイトです」

 俺は身長が2メートル近いので、和風の部屋は狭く感じられた。俺は体を折り畳み、頭を下げた。
 畳に座っていたのはニジレッドの他に、4人の男子生徒。ニジレッドは紅一点だったようだ。俺の挨拶に拍手してくれたのはその紅だけだった。他の4人はしかめ面。
「ツレないな~、あたしが見つけた金の卵なんだよ? それじゃ、あたしも改めて自己紹介!」

 ニジレッドは立ち上がったが、俺の4分の3くらいの身長しか無かった。赤毛を2つ結びにして、胸の前に垂らしている。制服に赤ネクタイ。短いスカートから細い足が伸びて、畳に根を張っている。

「2年魔法クラス、ニジレッド!! 誕生日は2012年2月4日、ひとりっこ! 好きな食べ物は金目鯛の煮つけ! ほらキミたちも名乗って名乗って!」

 ニジレッドは男4人に挨拶を促した。

「ニジブルー」
「ニジイエローです」
「ニジグリーンだ」
「ニジピンクだ」

 ぶっきらぼうな挨拶。彼らは俺を警戒、軽蔑、敵視、奇異の目で見ていた。
 どうやら全員2年生のようだ。2年の戦隊の中にいきなり1年坊主が入ったら、疎まれても無理はない。俺は見た目も異様だしな。
「……羽根井先輩、俺場違いなんで、辞めますよ」

 そう言うとニジレッドは膨れ面。

「こら、あたしのことはニジレッドと呼びなさい!! そんでもって弱音を吐かない!! あたしの見込んだ男なんだからしっかりやる! ついてこれなくなったら、その時は辞めてもらうことになるけどね!?」

 ニジレッドは睥睨。
「き、厳しいですね……」
 でもこれは、俺の求めた道に近かった。強者を目指す茨の道。
「やれるの?」
「……やります」
 俺は二つ返事。ニジレッドは睨みから一変、日向ぼっこのような優しい笑みになった。
「よぉ~し、それでヨシ。よろしくねっ」
 ニジレッドは手を差し出してきた。
 俺は恐る恐る、その手を取った。俺の手の半分の体積しかないんじゃないかと思うような小さな手。それでも温かく、暖かかった。光りを避けてきた魔物の俺の、心臓を撃ち抜くような、銀の弾丸。シルバーブレットだ。

 俺とニジレッドは、固く握手をした。


 その日から、ニジレンジャーとしての訓練が始まった。

 特にグリーンは厳しく俺をしごいた。俺はしごきに耐えられず、何度も脱走したが、ニジレッドに励まされ、連れ戻された。

 俺は何度も泣いた。
 だが歯を喰いしばり、訓練に打ち込んだ。

 次第に皆、俺をニジレンジャーの一員と俺を認めてくれるようになった。
 ニジレンジャーの先輩たちは美味しいものをおごってくれたり、気さくに話しかけたりしてくれるようになった。俺とニジレッドの仲はどうなのかなど、くだらん質問をする輩も居た。
 だがいつしか、俺はそんな茶番さえも楽しんでいることに気付いた。
 志を共にする、掛け替えの無いチーム。校長の言った通りではないか。それは金貨や銀貨で買える物ではない。

 俺は何度も笑った。
 人と心を通わせる楽しさを、知ってしまった。

 知らなければ良かった。


 知ったがばかりに、死ぬほど辛い、死よりも辛い、苦痛を知ることになった。それは当然の代償だった。


つづく

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