chapter 8.うつつ 奪い返してやった。 そうだ、奪い返してやったんだ。 俺は身を捧げたあの日から、自分を奪い返してやった。 去って行くアイツは死人のような顔をしていた。 どっちが捨てられたんだか分かんねーよ、ほんと。 あの冬の日。 目が痛く成る程眩しい空の下で、俺は炎を見た。 自分のモノにしたかったのは俺の方だった。 奪い返したからには、活きて、生きてやる。 だから黙ってそこで見とけばいいよ。 可愛い可愛い俺の悪魔。 俺はもうお前のモンじゃない。 |
chapter 7.創造 ねぇねぇ、アンタは知らないようだから教えてあげようか。 世界は案外思い通りに動くモンだよ。 一言。そうただ一言で良い。 それで全てが造られて、全てが壊される。 簡単で残酷で面白いでしょ?素敵でしょ。 だから、付き合ってね。 俺が居なくなるまでの、長いながーい時間の暇潰し。 アンタは何度も俺に造られて、何度も俺に壊されるんだよ。 アンタの中に神様が居るなら 俺はアンタの中の全ての悪になってやる。 なんて、アイツが天使みたいな顔で言うもんだからさあ。 俺はこの可愛い生き物になら騙されても良いと思ったんだよ。 造られて壊される、その繰り返しに 俺の身で良ければ差し出そうと思ったんだ。 本気だったんだ。 |
>部屋が本で埋まっている。 深夜に炬燵から這い出た時に、ハッと気付いたんだよね。本棚に入りきらなくて、床に積み上げられたそれに。よくよく考えてみるとこの部屋に越してきて一年前弱、気が付かない間に凄い量になっていた。 何時からだったか俺は狂ったように本を読むようになった。SF、ホラー、ミステリー、ファンタジー、歴史、恋愛、官能に奇書。あぁあと漫画も。ふらりと本屋に入って両手に抱え切れない量の本を買って、そのままタクシーで帰るなんてざら。万札だって一瞬で消えて行く。気になった本があればその瞬間にa/m/a/z/o/n。因みに今日も17冊くらい注文しました…と。笑えないよねえ。俺も自分自身にちょっと引いてるよ。 活字に飢えている。貪るように読みたい。本を喰いたい。何時からだったかは忘れたけど、こうなった理由はちゃんと覚えてる。俺は俺の頭の中の空白を埋めたい。俺は俺を持て余してるから、何かでいつもいっぱいにしておきたい。言うならば刺激だ。1人でも手軽に気楽に味わえる刺激が読書なんだ。 読み終わった後の脱力感は格別だ。 まあ、だから…うん。 本棚を新調するべきだね。結論はそこだ。 大事な本達が雪崩を起こして傷付いてしまわないように。 >備忘録 そいえば野良との久しぶりの逢瀬は楽しかったよ。 焼鳥食べてチーズフォンデュ食べてケーキ食べて…って感じで殆ど食べてDVD見てたけど(笑) 久しぶりに会っても昔と変わらなく話せる奴とは良縁だと人に聞いた。俺もそう思う。 |
たまーに出てくる半なりタイム。 今週末は野良と会います。 約1年ぶり…2年ぶり? 空いた期間はよく覚えてへんけど、まぁ暫くぶりなのは確か。 部屋に炬燵も設置したことやし、のんびりと映画見ながら鍋でもつつく予定やねん。 最近はどうにも朱に交わり過ぎてて中々良い気分やとは言われへんねんけど、今の自分にはピッタリな感じやとも思う。 >動く理由を探る毎日。 俺は結局、自分を持て余しとるんやなぁと。今も、昔も。 せやから…っていう理由も変やけど、野良と逢えるのは楽しみ。 そのためには毎日のタクシー代も惜しくないわ。夜の大阪の街好きやしな、こんな時間はもうビルの電気も消えてるけど。 >要するに社会の歯車。を、 脱却できるように。 うん。そういうこと。 とりあえずは鍋の具から考えるわ。 俺は締めはうどんがいいです。>野良 |
chapter 6.隠語 麻雀で言うところの牌が好きって聞きましたよ。 なんて満面の笑みで小首を傾げられても、俺は引きつった笑顔でそっかあ、なんて野暮ったく返事する事しか出来ない。 話したのは恐らく仁王辺りだろうなあと自分の浅はかさに項垂れながら深く溜息を吐いた。 「ねえ本当に好きなの?」 「あー、うん。好きだよ。」 「変態じゃん。」 「いや、あくまでさぁ俺は。そういう未成熟な美しさっていうのが好きなのであってさ。別にババアが剃ってても興奮しねーわけ。なんつの、天使みたいで可愛いじゃん。分かる?」 けたけた笑う後輩の頬をぶに、と摘まんで早口でそう説明すると、締まりの無い笑顔を浮かべたままそいつは俺の手首を掴んだ。 「じゃあ俺はアンタのために剃るよ。」 「いやほんとやめて。」 被せるように返事した俺に大層不服だったんだろう、手の甲をガリっと噛まれた。痛い。痛いなあ。本当にやるせなくて行き場の無い感情を持て余した日常だ。そんな気も更々ない癖にあたかも本心のように振る舞う妙な恋人に振り回される日々だ。甘いお菓子で誤魔化し続ける毒だ。 でもそんな時間を酷く愛してしまっている。 |
chapter 5.発狂している黒猫。 せんぱい。俺はね、常々不思議に思っていたんですよ。 なんで日本では、1人以外の人間と付き合ったり結婚したりすると、「悪」になるのかって。 他の国ではさ、一夫多妻制とかあるじゃん? それなのになんで、この国はそれが「悪」なんだろう。愛する人間が沢山居るって、そんなにイケナイこと? 俺は素晴らしいことだと思うのに。 ねぇ、教えてよ。せんぱい。 可愛い可愛い俺の後輩の頭はブッ飛んでいる。 白い肌に黒い髪。黒猫のような俺の後輩は、いつもどこかおかしい。 「…それはさー、教えてあげようアカヤくん。」 「うん。」 「それはね、俺みたいな不幸な人間が増えるからだよ。」 キョトンと首を傾げて何かを考えるように黙り込んだその顔を、思いっ切り殴ってやりたいと思った。 きっと紅い血が舞って白い肌に映えて、とても綺麗だろうと思った。 でもそんな考えは数秒後に、そうまるでホットコーヒーに入れた粉砂糖みたいに、さらさらと消えてしまった。 「せんぱい。俺は自分に嘘を吐きたくないんだよ。俺はウソツキだから、自分にだけは正直でいたいんだ。愛してるよ、せんぱい。」 その言葉を聞いたあと、俺の口からはぁ、と出た溜息は多分ピンク色だったと思う。 細い腕が伸びてきて頬を撫でられたとき、この気持の行き場所はどこなんだろうなあとボーっと思った。 ホットコーヒーに溶ける粉砂糖だって、底には僅かに沈殿することもあるし。さ。 |
chapter 3.ただいま。 「ありがとう。」 本文の後、2分遅れで来たそのメッセージは俺の心の柔らかい部分にぐさりと刺さって、そこからじわじわと痺れるような痛みが拡がった。 俺の心を動揺させるには充分な一言やった。 俺は友達が少ない。恋人も居ない。 せやから俺は、大切な人間が少ない。 それは一種の処世術であり、懺悔のつもりでもあった。俺は他人と関わることに酷く怯えている。怯えているから人と対峙する時、苦虫を噛み潰したような笑顔で接する方法しか思いつかへん。結果、人当たりが良えと勘違いされる事もあるけど、ほんまは違う。 俺はそんな方法しか思いつかずにまた善処しようともしない、弱虫で無精な人間や。 (せやから、人との関わり方に関して俺は度々間違える。そのミスが暴発するのは主に恋愛面で。俺は好きな相手にどう接したらええんか分からへん。) 昔。俺がとてもとても大好きだった子に、俺は「病んでる。」と表現された。 俺からすればストレスを感じる度に自ら血を流してみたり胃液を吐きまくったり何も食べられなくなったりするあの子の方がよっぽど病んでると思っとったんやけど、どうやら違うらしい。 俺らは二人とも、その時まさに、絶好調に病んでいたらしい。 「外見は造れるのに、どうして心は造れないのかと悩みます。」 絶好調に病んでる二人が行き着く先は終わりか破滅しかない。 俺らも例に則って、それはもう見事に無様に破滅した。罵り合い叫び合い傷つけ合い泣き合う最低な別れ方やった。最後にしたセックスすらもまるで獣の食い合いような暴力的なものになってしまった。 「ありがとう。」 せやからこそ、その言葉は俺にとってもうどうしようも無い言葉やった。 俺の心はその言葉一つで崩壊する物が多過ぎる。立っていられへんくなる。吐き出せる言葉。吐き出せる場所。何も無い俺には、それが必要になる。 やから、ただいま。 そう長くはならへんと思うけど。もう一度この一冊、お借りします。 |
なにもわからない。 追憶。 |
chapter 2.決めていたのかもね。 追憶。 |
chapter 1.きれいだね 「首をさわられていると暖かくて、なんだか安心するよ。」 「そう?でもさ、俺が今この手にぎゅっと力を入れれば、幸村くん死んじゃうんだよ。」 「へぇ。じゃあやってみせてよ。」 白い首と鎖骨を撫でる。たまに首をつかむ手に弱く力を入れてみる(まぁ俺は幸村に限ってはヘタレだし根性無しなのです)鎖骨を甘噛みする。その行為をくりかえす。小さくあえぐ。あえぐ。あえぐ。あえぐ。 (あぁ好きだこの首が好きだずっと触っていたいずっと撫でていたい一回でいいから思いっきり力を入れて締めてみたいその時の幸村くんの顔が見たい出来ればだらしなくよだれを垂らして命乞いをして欲しいあぁあもうとてつもなく好きだ好きだ好きだ好きだ) 不健全な土曜日の朝、でした。 |