chapter 14.魂の端っこ 強い言葉は人を惹きつけるらしい。 それを実感してから、俺は敢えて強い言葉を使うようにしている。 ただし注意深く。暴言ではなく、強制でもなく。 それでいて的を得ている言葉を。 もうすぐ日本がなくなるかもって、馬鹿みたいに怯えていたら幸村くんが優しく微笑んで「大丈夫だよ。」って言ってくれたんだけど、俺はそうは思えない。大丈夫だと思えない。ごめん、俺は大丈夫だとは思えない。 死人に口はない。 亡霊には何もできない。 メメントモリ、ずっと俺が呟いていた言葉だったのに、いざとなると後悔ばかり出てくる。 要するにまだまだ生き足らない。 死の行進が美しく見えるのは、脚色だ。 それが絵画だからだそれが芸術だからだ高い値打ちがついたブツだからだ。 無名の画家には光が当たらない。誰も見ない気付かない。 お前がどこかの汚い街で廃っていっても、腐っていっても、 もう俺には見えないんだよ。ごめんな、俺には分からないんだ。 自ら死へ向かう魂は道連れを選ぶ。 同化して溶け込んで甘い言葉で片手を引く、破滅へ向かう。 なあお前は、一体何が足らなかったんだよ。 もしお前がその行進を辞めたら、また逢いたいと思う。 その時は一晩中頭を撫でて可愛がって、おかえりと言いたい。 その後は、そうだな。 魂の端っこを掴んで、俺のお気に入りの椅子にでも括り付けておこうかな。もう変なことをしないように。 |
chapter 13.風化した 思い出したようにそれを辿ってみた。 自分が傷つくこともまた闇に堕ちていくことも承知で、沿線を上った。 目に入ったのは幸せそうな、幸せそうな…そうや、昼間の日差しが穏やかに降り注いでいて、ベビーカーを押す影が揺れる。 幸せを絵に描いた様な光景。聖母。マリア?美しくて鬱くしくて、見ただけで思わず涙が溢れそうになった。 「…白石くん?」 「…お久しぶりです。」 「どうしたの?あの人なら今は居ないよ。会いに来たの?」 「あ、ちゃいます。えっと…特に用事なくて。その、」 「断罪のつもり?」 「…いや、それもちゃいます。俺はただ自分自身をどうにかしたくて。」 「こんなストーカーみたいな真似をして自分自身が助かるとでも思ってるの?」 マリアは笑う。真っ白な肌にピンクの唇。口角を上げて、笑う。 「見て。このジュエリー、あの人に買ってもらったの。私達が再出発する証よ。」 「あ…そう、なんですね。綺麗です、とても。似合うてはります。」 「もうあなたが存在する意味はないの。」 気付いていたし、知ってもいた。 しかしそれを確認せずに居られなかったのは、自分の中のあの出来事がどれだけ風化しているか知りたかったからだ。 (もうあなたが存在する意味はないの。) (貴方はあの人に近づいちゃ駄目なの。) (貴方を傷つけたのはあの人だから、もう近づくのはやめなさい。) 帰りの電車の中でその言葉を思い出していた。 2ヶ月前に感じた炎のような感情は、もう沸いてはこなかった。 ただ思い出になりつつあるその出来事をうっすらと思い出して、心の中で神に深く謝罪をした。 神なんて信じていない。だからこそ、神に謝罪をした。 こんな時に浮かぶのは「ありがとう。」とか「ごめんなさい。」とか凡そ日常生活でよく使われるありふれた言葉だけだ。 それでも何回も心の中で唱えた。唱え続けた。 もうあの事は、現実ではない。 闇には堕ちなかった。 俺の中の全ての悪になると言った悪魔は、もう居ない。 俺は、生きてる。 |
chapter 12.つかれた 深夜、1時半。あの人は俺に会いに来てくれる。 真っ暗な闇に紛れて会いに来てくれる。 俺の愛しい、愛しい、 『エロい奴やなぁ。』 「…なんで…」 『何でって。こんな姿になった俺を目の前にしても、まだそんな顔でヨガるなんて。エロいにも程があるやろ、なあ白石くん。』 「…違う、違う違う。俺は、俺は、」 ただ毎晩あなたに会いたくて、会いたくて、会いたくて。 熱を帯びた身体が震える。 じわりと目に生暖かいものが浮かんでくる。 ああ気持ち良い気持ち良い気持ち良い愛してる愛してる愛してる、愛してる。 そんな自分の滑稽さに、笑う。 『可愛えよ、白石。』 愛しい愛しい俺の 幽霊。 「…はァ、…」 乱れた呼吸を整えながら右手を放り出して、脱力する。 快感を迎えた頃にあの人は消える。 俺は毎晩、こうして幽霊と戯れる。弄ばれる。それを望んでいる。 首を絞める手、身体の上を滑る指。 日に日に歪んでいく姿、聴こえ難くなっていく声。 あの人をあんな姿にしてしまっても、俺はあの人に毎晩会いたい。 残存幻想幻覚思い込み自律神経失調症?ごめんな…そういうのは、よく分からへんねん。 ただ、取り憑かれてるだけ。 |
chapter 11.悪喰者 >※R18 友達に貸すと約束した本を探そうと、本棚をつらつら見ていた時。見つけてしもたんや、その一冊を。 「…あ、…。」 それは、あの人が買うてきた本やった。あの人も俺も本が好きで、休日2人で本屋に行くのはお決まりのコースやった。その本は俺が普段読まへんようなジャンルのもので、表紙とタイトルを見た時から何故か酷く惹かれた。そして何回も何回も読み返す内に、どっぷりと嵌り込んだ。 (光。お前、その本気に入ったん?) あ、はい。面白いです。こんな本今まで読んだこと無かったけど、割と好きなんかもしれへん。 (はは、そうなんや。そら良かったわ。) ー追憶。 あの人が出て行く時に、あの人が買った本は全部持って行ってると思っていた。 本好き、本喰い、ブックイーター。そんなあだ名をつけられるような人やったから余計に。俺に大事な一冊を遺していくなんて、思いもつかへんかった。本棚からその本を取り出して、炬燵に入ってペラペラとページを巡った。 「…蛙の唐揚げ、コノワタの塩辛、昆虫の踊り食い…」 所謂、悪食。 そうあの人には悪食の趣味があった。その本には世界の様々な悪食料理が載っていた。 (光、俺はこの世の総てを味わいたい。味わった事のないものを味わいたい。食事はなぁ、俺の中では首までやねん。脳に走る刺激、口内に広がる食感。それが俺の食事や。) そんなあの人に俺はよく血や肉を強請られていた。食べてしまいたいほど可愛いねんと甘く囁かれてたけど、全力で拒否していた。流石に悪食もそこまでいくと歯止めが効かんくなりそうやった。 その代わりヤる時はいつも俺の股間に顔を埋めて、長い間俺の体液を啜っていた。 (…光は花の蜜の味がするなぁ。甘いねん、不思議やねぇ。) …そんな所から流れ出るモンが甘いなんて、信じられんよ… (いや、ほんまやで?ほら、自分でも確かめてみぃや。) 細くて白い冷たい指、ベタベタになる頬、上気した肌。快感の中で聞こえていたその声を今でもよく覚えてる。 嗚呼、全てを 喰いつくしてしまいそうな 爛々と燃える 狂った目が、 消えてくれない。 「…喰われとけば、良かったんかもなあ。」 本をパタンと閉じて炬燵の上でだらしなく両手を伸ばす。あの時喰われていれば。そうや、あの時に喰われていれば。血と肉を差し出していれば、こんなに心が冷たく固まる事も無かったんかもしれへん。あの人の中で一つになれればあの人の血肉になれれば身体を巡って巡って吸収されれば。なんて思ってしまう自分も相当イッてんなあと、1人で嗤った。 |
大抵の身体の不調はさあ、 >エ/ス/カ/ッ/プ飲んどけばなんとかなると思ってる んでもう、どうしようも無く不調な時。それでも動かないといけない時は、 >エ/ス/カ/ッ/プとレ/ッ/ド/ブ/ル同時に飲んどけばなんとかなると思ってる そんな感じで昨日はそのどうしようも無く不調な時で、同時に二本飲んだんだけどさ。野良にその事話したらモン/スタ/ーエナ/ジーにしとけと心配された。 野良的にはレ/ッ/ド/ブ/ルよりモン/スタ/ーエナ/ジーのが身体に優しい感じがするらしい。 あれ飲んだこと無いんだよね、パッケージは凄い好きなんだけど。可愛い。 無理矢理覚醒させた身体と脳にはいつかガタがくるんだろうね。 今はまだ覚醒状態が続いてて目も爛々としてるんだけどさ、きっともう少ししたら電源切れたみたいにコトンと落ちるんだろうなー。 ああ人間もガソリン式になっちゃえば良いのにね。 切れたら補充で残り少なくなってきたら警告が出るような。 そしたら全てが楽なのに。 |
chapter 10.目の中の閃光 >※グロテスクな表現有。閲覧注意。 眠れないと言っていた。 目がチカチカして眠れないのだと。目を瞑っても閃光が見える、だから目を閉じられない、眠れないと。 毎晩毎晩隣で背中を規則正しく撫でるけど、大抵いつも俺の方が先に眠ってしまって、起きると声も出さずに無表情のまま涙を流しているそいつと目が合う。 俺はその時苦しかった。そいつは俺の倍、苦しんでるように見えた。 >暗転 半覚醒の意識。生温い唇の上の感触。鼻を突くような匂い。覚えのある匂い。そうだ、これは鉄の…鉄、の。 ゆっくりと目を開けると、いつものように無表情で泣いているそいつと目が合った。 ただ、まだ部屋は暗い。恐らく深夜なのだろうと思った。 唇の上の生温い不快感は増していく。回らない頭で掠れた声で、名前を呼んだ。 「せんぱい。」 消えそうな声で返事をしたそいつに何かを言おうとして口を開けた。そしてやっと、唇の上の正体に気付いた。 これは血だ。 「…お前、何してんの…」 「せんぱい。おれ、ねむれなくて。せんぱいの顔見てたら、すごく綺麗で。まっしろで、綺麗で。唇を紅く塗ったらもっと綺麗なんだろうなあとおもって。それで。」 「…自分の血なの、それ。」 「はい。気持ち悪いことして、ごめんなさい。」 「いいよ。…おいで、一緒に眠ろう。」 ねむれないんですねむれないんです光が目の中に目の奥に光がああすごくねむりたいのに。せんぱいと一緒にねむりたいよ。アンタの夢を見たいよ。でも光が。ああこわいこわいこわいこわい。 頭を抱えて呻くそいつの背中をぽんぽん撫でて、もう一度おいでと呟いて布団の中に引き込んだ。 手の甲で唇を拭っても、鉄の匂いは消えない。 ほんとは舐め取って欲しかったのに、なんて言うそいつに俺は吸血鬼じゃないよと笑って、頭を撫でた。 一緒の夢を見れたらいいのにと思った。 いっそ目覚めない幸福な夢を二人で見続けられたらいいのになんて思って、心臓が痛んだ。 夜はまだ明けない。 俺はこいつの閃光の正体を知らない。 |
chapter 9.幽霊火 今日は多分、良え日やった。 人とも上手く話せたし、やらなあかん仕事もこなせた。 所々躓く事はあってもスムーズに色々進められたし、昼に食べたサンドウィッチも美味かった。 笑顔もぎこちなくは無かったと思う。心の底から何回か笑えたと思う。 こんな日の帰り道は、いつも安堵の溜息を漏らして胸を撫で下ろす。 (今日は大丈夫やった。何もおかしい所は無かった。俺は大丈夫。俺はまだ大丈夫、大丈夫や。) ぐらぐらぐらぐら。 アンバランスな、日常。 (そんな中でも光を見つけられれば良えねんけど。それは恐らく、まだまだもっと先のお話。) かつて見つけた光は、よく見ると炎やった。 触れる物寄ってくる物、何もかも燃やして、最後には己自身も燃やし切ってしまった。 美しい炎やった。 |
夜の難波の道を歩いとったら、ふいに後ろから掴まれた俺のショルダーバッグ。 吃驚し過ぎて声も出せずに戦闘態勢(ファイティングポーズです)取って振り返ったら… >謙也さんが居った。 「え、ちょ、何やねん!バトルか!?スト/リート/ファイト!?」 「…謙也さん。何やねんはこっちの台詞やで、ほんまに。いきなり鞄掴むから吃驚した…」 「あー、スマンスマン!財前に似とる奴歩いとるなーと思って見てたら、リアル財前やったからさあ。追いかけてきて思わず鞄掴んでもーた!ははは。どこ行くん?」 「道頓堀のス/タ/バ。」 「お洒落か!」 >二人で一緒にス/タ/バ行きました。 イルミネーションの中を男二人で歩くのは中々寒いもんがあったわ、二つの意味で。 謙也さんは驚かせたお詫びにシナモンケーキ奢ってくれた。相変わらず雑やけど律儀な人。 冬の日の偶然でした。 |
chapter 8.うつつ 奪い返してやった。 そうだ、奪い返してやったんだ。 俺は身を捧げたあの日から、自分を奪い返してやった。 去って行くアイツは死人のような顔をしていた。 どっちが捨てられたんだか分かんねーよ、ほんと。 あの冬の日。 目が痛く成る程眩しい空の下で、俺は炎を見た。 自分のモノにしたかったのは俺の方だった。 奪い返したからには、活きて、生きてやる。 だから黙ってそこで見とけばいいよ。 可愛い可愛い俺の悪魔。 俺はもうお前のモンじゃない。 |