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170 :集落へ
2009/04/16(木) 17:41:16

(これは…

もしかして、アレか。
一人相撲ってヤツなのか。
もしや)

馬鹿馬鹿しくなってきた。

結構、緊張感を持って事に臨んでいたつもりだった。
が、なんだか集落についてからというもの、その緊張感がずんどこ薄れていく。

もしかして、今まで全部俺が一人で空回っていただけなのか…そんな徒労感でいっぱいになった。

オッサン「いい加減にしとけジジイ?
こっちはこんな田舎までわざわざなァ」
村長「対価は労働してからに決まってるでしょうが。
移動しただけじゃなんの価値も生んでないでしょ?
単にカロリー消費して健康にいいだけで」

…帰ろうか。
ふとそんなことを思い、顔を上げようとした時

オッサン「いやあのごめんなさい、ほんとごめんなさいっていうか殺さないでくださいっていうか」
村長「なに言ってるんだよおキャメルクラッチぐらいでー
ブレイクはロープに決まってるでしょうがー」

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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169 :集落へ
2009/04/16(木) 17:03:22

村長「まあ、だいたいはカイジから聞いてると思うんだが…」

小鬼が出たあたりの話は二人から聞いたのとさほど違いはなかった。

村長「…ところがなあ…

カイジ達が村を出てから、毎日近くあった略奪が、止んでしまったんだよ。」
俺「…止んだ?」
オッサン「えっオイそんなら解決か?
オイ。」
村長「いや、まあ…このまま略奪が止んだら、そうなるのかもしれないけども」
俺「…」

(オイオイいくらなんでも呑気だなちょっとマジで)

会話を聞きながら、一気に不安が増大した。
元がどうだったかは知らないが、いくらなんでもこのまま収まったりはしないだろう。

村長「ちなみに収まったら報酬出ないよ。」
オッサン「んだと?!
どーいうことだ!!」
村長「だって働いてないじゃん」

収まったら収まったでロクでもないということが分かり人知れず卓に突っ伏すが、オッサンと村長がぎゃーすかやってて誰も気付いていないらしい。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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168 :集落へ
2009/04/16(木) 15:53:27

ノックに応じて家人が姿を現し、カイジとマヤを確認して彼は事情をすぐに察した。
一つ頷き宅へ招き入れてくれたのは、老人といっていい年齢の男だった。

言葉も少なに中に招き入れられ、広間に通される。
よく見ると、大きな卓に椅子がたくさん配置され、来客用というより集会用のような部屋であるらしい。
中から見ると村長宅は大部分がこの集会所で占められているらしく、それを差し引くと居住スペースはなんら周囲の一般的な住宅と変わりないようだった。

その一番奥の上座に村長が腰掛け、自分達に適当に座れと促す。
オッサン達と同じ列にならないようにそれとなくマヤを自分の脇に引いて、俺達はマヤ・俺と残りという2対3の左右に分かれて座った。

村長「それじゃあ、まあ状況を説明しようか」

腕組みをして、村長が話を始めた。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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167 :集落へ
2009/04/16(木) 13:36:52

確かにカイジの言う通りだ。
今俺達だけで村長宅を訪れてもただの不審者だ。
カイジ達がいたほうが確実なのはその通りではある。

(…仕方ないか…)

ただでさえ戦力が心許ない以上少しでも不安要素はなくしておきたいが、今はまだ二人に手助けしてもらうほうがいいらしい。

俺「…わかった。
じゃあ、頼む。」
カイジ「あい。
わかりゃあした」


そうして、結局ぞろぞろと連れ立つ5人は、 そのまま変わらず村長宅前に到着した。

一回り大きい…とは言っても、その造りは周囲の建築と変わらず、木造で粗末な外壁の質素なものだ。
そのため、遠目で見たらあああれかと思ったのだが、近くで見ると少し確証が持てなくなる。

俺「…ここか?」
カイジ「あい、ここが村長宅です」

カイジの確認を得て、俺は宅の扉を軽く叩いた。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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166 :集落へ
2009/04/16(木) 00:03:01

足を止める。

あわせて全員が足を止める。

振り向いて、足を止めたマヤとカイジを見てみた。
二人はどうしたのかと俺を見上げている。

続いてオッサン達を見てみる。
オッサンはマヤしか見ておらず、金魚のフンはオッサンについてきているだけだ。

俺「…」

ふと思う。

(…ここでマヤと別れれば、マヤをオッサンからガードする気を使わなくていいんだが…)

道案内も終わったし、地元に戻ってきたのだから、ここでマヤと離れても知り合いの目が多い中オッサンも簡単に手は出せまい。
出したら出したでリンチだ。
それくらいはオッサンもわかるだろう。

俺はカイジに聞いてみた。

俺「家は、ないのか。」
カイジ「ありますけんど」
俺「帰っても、いいんだぞ。
案内は終わったんだし…」
カイジ「えっ。
いや…でも、自分が頼まれた仕事ですから…最後までやらんと」
俺「…ううむ」

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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165 :集落へ
2009/04/15(水) 23:40:44

テメエだってオッサン扱いだろうが、とちょっといい加減本気でシメてやろうかという気持ちを抑えて手近な木に手をつきうつむく。
おいちゃん扱いはまだかなり堪える。

村人「へえー
じゃあ、あんたらが助っ人さんかね」
俺「…あ
はあ…まあ…」

多少経緯に釈然としないものを抱えているため歯切れよくは答えられないが、一応家の脇で洗濯をしていたおばさんに頷く。

おばさんは俺に頷き返した。

おばさん「そうかね
じゃあ、早速村長の家に顔出してよ。
詳しい話、聞けると思うからさ」
俺「…そうですか」

おばさんが指差した方向に、他より少し大きい家屋がある。
それが村長宅だと確認し、俺はおばさんに礼を言って歩き出した。

カイジとマヤが俺の後についてくる。
そうなれば、当然オッサンもマヤについてくる。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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164 :集落へ
2009/04/15(水) 23:19:16

ところが静か過ぎる集落には実はもはや人間は一人も存在していなかった!!

村人「おや、マヤちゃんとおにいちゃん」
マヤ「おばちゃんー」

なんて事もなく、村人も普通に生活していた。

あまりに静か過ぎて逆に怪しく思っていたのが、拍子抜けで少し対応に困る。

(…どういうことだ?)

別に平和なのが悪いと思っているわけではない。
が、なんだかあまりにも緊張感がない気がする。
集落の様子とは裏腹に、違和感は増すばかりだった。

村人「マヤちゃん、ちゃんとお仕事してくれる人連れてきてくれたのかい」
マヤ「うんー
にいちゃんが、おいちゃんとおっちゃんにお願いしたんだあよ」
オッサン「ブヘハハハおいちゃんだってお前おいちゃんウへーハハハハ!!」

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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163 :集落へ
2009/04/15(水) 19:31:27

地元民であるカイジから見ても妙な所はないというし…このままここで集落を遠巻きに眺めていても仕方ない。
俺はとりあえず集落に入ることにした。

オッサン「…平気そうか?」
俺「…平気そうですが」
オッサン「おうそうかそうか、ご苦労。」

俺どころか子供達よりも後方に下がって木の陰から様子を伺っていたオッサン二人が、やっと顔を出す。
安全を確認すると途端に強気なるのがまあイラッとくるが、いちいち腹を立てるのが面倒この上ない。
もう放っておくことにする。

ずかずかと先に行き始めたオッサンと金魚のフンに一つ溜め息をつきながら、俺はカイジとマヤをうながして後をついていくように進み始めた。

俺「…」

集落に侵入しても、妙なところは目に付かない。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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162 :集落へ
2009/04/15(水) 19:16:55

ほどなくして。

不意に森が切れた先に、街の外延らしい柵が見える。
どうやらあれが、目的の集落らしい。

なんとか日没までに到着できたようだ。

とりあえず味方からの夜討ちは避けられたことに安堵しつつ、気持ちを切り替えて周囲を見回す。
既に襲撃を受けている集落である以上、小鬼が周辺に潜んでいてもおかしくはない。

が…

(…襲撃の気配はないな…)

殺気や血臭も感じず、周囲に闘争の雰囲気はない。
一応再度警戒しながら、俺は槍を畳んで子供達に手招きした。

俺「カイジ」
カイジ「なんじゃろか」
俺「妙な気配はあるか?」

言われて遠目から街を眺め、カイジが首を振る。

カイジ「…いや。
むしろ平和な感じだあけども」
俺「…そうか。」

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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161 :小鬼編・これまでのあらすじ
2009/04/12(日) 20:16:15

徳田新之助的家の邪魔者げな立場から、家を出てフローリア諸島に渡った主人公。

ところが船でオッサン二人に懐かれたのが運の尽き、ロクな情報にありつけないわ酒場に出禁寸前になるわ、挙げ句の果てにはオッサンの片割れがモノホンのペドロマルチネスであったがために、年端もいかない依頼人を放っておけず割に合わない依頼を受ける羽目になってしまう。

不安要素しかないまま郊外に向かう一行だったが、その道中に不審な小鬼の一団と遭遇。
一体、集落の状況はどうなっているのだろうか?


はじめは>>91
小鬼編までのあらすじ>>126
小鬼編・導入>>139

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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160 :匿名
2009/04/12(日) 20:05:59

それでは、再開させていただこうかと思います。
やっと米沢のダメージが抜けてきました。

>>158月霞様、そうなのですか、そのあたり。
早く進めて、表現の詳細を理解できるようになりたいものです。
その時は、また再び読みたいと思います。

では、参ります。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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159 :匿名
2009/04/11(土) 12:57:42

おふう

>>147月霞様、>>148様、ありがとうございます。

昨日は鑑識米沢守を見てあまりのダメージに足腰を超えて脳にきてゴミのように寝込んでおりました。
返事が遅れて申し訳ない。

まだアノーレに渡ってないので、どこがネタバレ箇所わからず気になります。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
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158 :月霞
2009/04/10(金) 17:51:36

これにて投稿を終了とさせていただきます

本編
>>151>>157

一区切りごとに冒頭に明記しておりますが、全体的にみんクエ本編のネタバレがあります
なるべくストーリーはぼかしてはいますが、念の為苦手な方は御注意ください

ありがとうございました

追記

>>159

コルトレカンメインイベント及びエルツァン島のイベントの一部が含まれています
時間軸はエルツァン島のメインイベント終盤になります

小説は>>151から順になっています

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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157 :月霞
2009/04/10(金) 17:47:48

*若干ネタバレありです

「それと」

夕日は殆ど海に沈み、すっかり暗くなった空には星が瞬いている
リゼラがゆっくりと振り返る
その顔には薄く笑みが見えた
「お前は、自分は誰かにとっての大切な存在ではないと言っていたが」
野営地の方から小さな灯りが近付いてくる
恐らく帰らない二人を探しに来た誰かの松明だろう

「もしも、だ
お前がこの先アラセマの連中達との行動で命を落とすような事があったなら」
ゆらゆら揺れる松明が、真っ直ぐ此方へ向かってくる
二人に気付いたのだろう、灯りの下に特徴的なバンダナと背嚢が見える
その横には銃を抱えた少女の姿もあった
遠くから二人を呼ぶ声がする

「その時は、悲しんでやらなくもない」
まあ、そんな事態にはまずならないだろうがな、そう言ってリゼラは迎えの二人の横をすり抜け、ギヴェンティ達の群落の方へと歩いて行った
月霞は立ち上がり黙って見送っていたが、緩く微笑みを浮かべると頭の花を一撫でしてそっと肩に乗せ、ゆっくりとした足取りで二人のもとへと向かって歩き出した

胸元に下げられた銀の飾りが、風に揺られて星のように幾度か瞬いた

― FIN

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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156 :月霞
2009/04/10(金) 17:46:36

*若干ネタバレあり

「そうだな」
言葉を漏らせば、月霞が此方を見た
花は肩を流れる髪を伝い、頭のてっぺんによじ登りそこで落ち着いた
「いくら悔やんだところで、お前がその友人とやらの大切な存在を奪ったという事実は消えまい」
そうだ、どんなに悔やんだとこで、失ったものは戻りはしないのだ
ならば
「忘れなければよかろう、その痛みも悲しみも」
月霞は目を見開いた
じっと、少年の瞳を見つめる
リゼラは徐に立ち上がると、身体に付いた砂を払い伸びをする

「覚えていろ、そして引き換えに貰ったものをせいぜい大切にすることだ」
そう言って軍営地へと歩き出すリゼラの背中を、月霞は黙って見つめていた
と、不意に少年が歩みをとめて振り返る
「言い忘れていたが、オリオールがお前を探していた
この間手に入れた剣を調べていたようだが、何かが封じられているかもしれんと言っていたな」
「…何かが?」
月霞は眉を顰めた

以前島を散策している時に見つけた奇妙な剣を思い出す
存外に強力なこの武器は、その切っ先に呪いを宿している可能性があり、念のためその手の分野に詳しい人間に調べて貰っていたのだ
「詳しくは知らん、奴から直接聞く事だ」
リゼラはそう言って肩を竦めた

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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155 :月霞
2009/04/10(金) 17:45:29

*若干ネタバレありです

「私は、どうすればよかったんだろう
これから、どうすればいいんだろう」
月霞の声は震えていた
俯く月霞に、リゼラは何も言えなかった
ただ、夕日に照らされた月霞の横顔を見つめ、次の言葉を待つ
ひんやりとした空気が、妙に月霞の胸を締め付けていた

と、不意に訪れた背中の違和感に月霞が顔を上げ、月霞の様子に気付いたリゼラも視線を動かす
月霞の背中を、鮮やかな青が登っていく
何だ、とよく見れば、五枚の花弁の美しい青い花のような亜獣が、根っこの部分を器用に使い月霞の身体をよじ登っていた
ビューティブルーといったか、その花は肩甲の部分まで登ると根を張るように広げ、すっかり体が安定してから深緑の葉で月霞の頬を撫でた
慰めようとしているのだろうか、リゼラはそれを見て思わず口元を緩める
月霞もまた口角を釣り上げ、指先でそっと亜獣の青い花弁を撫でた

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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154 :月霞
2009/04/10(金) 17:43:18

*若干ネタバレありです

「そうなんだけどね
実際、そういう事があったんだ」
あれはもう、どれ程前の事だろう
「あるヒトがいたんだ」
傍らの槍を抱きしめるように胸元に引き寄せる
馴染んだ柄を強く握れば、篭手が擦れて金属音をたてる
「そのヒトは、大切なヒトを救う為に命がけで戦っていた
だけどあのヒトも、あのヒトの大切なヒトも、私達にとってはとても危険な存在だったんだ」
だから、自分もまた命がけで止めようとした
「今でもはっきりと覚えてる」
ぶつかり合う刃と、己の身を引き裂く魔力の風と
そして、最後のあのヒトの笑顔と

「私は、あの時は何も考えてなかった
あのヒトは沢山の人を傷つけたし、殺してきたから
倒すことしか、考えてなかった」
自分だって、傷つけられた
無関係だった自分を巻き込んで、利用して、不要な戦いで血を流させて

「だけど、あのヒトがいなくなってから知ったんだ
あのヒトは、私の友達にとって、かけがえのない存在だったんだって」
風が吹いた
月霞の金色の髪が靡く
リゼラはただ黙って先を待った
抱きしめた槍が震えてカタカタと鳴った

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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153 :月霞
2009/04/10(金) 17:42:09

*若干ネタバレありです

「リゼラ」
「何だ」
数秒の間を置いて、不意に呼びかけられた少年は彼の冒険者の方を見やる
月霞は相変わらず沈んでいく夕日を見つめていた
「時が止まってしまえばいいのに、なんて考えた事はある?」
「いや…」
この者は何を言い出すのか、とリゼラはまたも眉を顰めた
赤い水面に向けられた表情からは、何も掴み取れはしない
「私は、ある」
ちゃり、と鎖を握りしめる
その先端にあるものを、傷だらけの掌で包み込んで

「『彼女』は、ゼーレンヴァンデルングは許してはくれないんだろうけどね」
そう言って苦笑する
許しが出ようと不可能な事ではあるのだけれど
「私は、誰かの大切な存在にはなった事のない人間だから」
ふ、と表情が曇る
伏せられた瞼に、リゼラが訝しげに首を傾げた
そういえば空も暗くなった気がする
「誰かの大切なものを奪ってしまっても、そのことに気付かないかもしれないんだ」
いや、気付かないだけで既にいくつも奪ってしまっているのかもしれない
本当は、考えたくもなかったけど

「そんな事、考えても仕方のない事だろう」
リゼラは小さく呟く
月霞は苦笑した
しかし、すぐにそれも表情から消える

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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152 :月霞
2009/04/10(金) 17:38:47

*若干ネタバレありです

「ずっと考えていたんだ」
深く息を吸い込み、不意に月霞が口を開く
それを合図に、拳一つ分の高さの差を埋めるように、斜めに視線がぶつかり合った
「私が、さ」
再び視線が前を向く
夕日が水面を赤く染めている
あぁ、あのヒトの瞳のようだ
「とても大切なものをなくしてしまったとして」

私はとても悲しむのだろうけど
きっと、みっともない位泣き喚くのだろうけど

「世界は、何も変わらずに動いていくんだろうな」
紡がれた言葉に、リゼラが眉を顰める
月霞の表情は変わらない
ただ、膝に置かれた手に力が込められ、篭手の指先の金属の爪が、サバドンを引っ掻き小さく音をたてた
「月霞…?」
「そして、それが私にとっては大切なものであっても」
戸惑いの混じった少年の呼びかけには答えず、月霞は続けた
リゼラは独り言のように呟く月霞の、自分よりほんの少しだけ大きな身体が小刻みに震えているのに気付き、口を挟むのをやめ黙って耳を傾けることにした
風が二人の髪を緩やかに撫でて流れてゆく

「他の人にとっては、それはとても危険で恐ろしいものかもしれないんだよな…」
首から下げられた銀の鎖を弄ぶ
ちゃりちゃりと鳴る音が嫌に耳に残った

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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151 :月霞
2009/04/10(金) 17:30:11

*若干のネタバレありです

「世界が壊れてしまえば、誰も悲しまずにすむのかな…」

月霞の呟きは潮騒に流されて消えた
エルツァン島の不安定な地質の中でも、比較的安定した場所である浜辺
打ち寄せる波の音が、耳に心地よい
砂浜に突き立てた得物に視線を移す
使いこまれて傷だらけの愛槍の切っ先に映る顔は、銀色に曇り歪んでいる
「随分物騒な事を言う」
フローリアを救った英雄とあろう者が、と言う声に振り向けば、凛とした空気を纏う少年が、口角を僅かに持ち上げて此方を見ていた
「リゼラ…」
「一体どうしたというのだ」
ギヴェンティ達の長リゼラは、波打ち際の岩に独り座り込む月霞を見下ろしていたが、彼の冒険者が視線を外したきり一向に言葉を紡ぐ気配がないので、小さく溜息をついて隣に腰掛けた
あどけなさを残す少年は、座り込むとほんの少し月霞よりも小さくなる

月霞はちらりと其方に視線を向ける
誇り高く排他的な彼が、彼等の一族にとって忌むべき人種である自分とこうして視線をあわせて会話しようとしてくれるとは、出逢った時の事を思えば信じられない事だった

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
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151 :月霞
2009/04/10(金) 17:30:11

*若干のネタバレありです

「世界が壊れてしまえば、誰も悲しまずにすむのかな…」

月霞の呟きは潮騒に流されて消えた
エルツァン島の不安定な地質の中でも、比較的安定した場所である浜辺
打ち寄せる波の音が、耳に心地よい
砂浜に突き立てた得物に視線を移す
使いこまれて傷だらけの愛槍の切っ先に映る顔は、銀色に曇り歪んでいる
「随分物騒な事を言う」
フローリアを救った英雄とあろう者が、と言う声に振り向けば、凛とした空気を纏う少年が、口角を僅かに持ち上げて此方を見ていた
「リゼラ…」
「一体どうしたというのだ」
ギヴェンティ達の長リゼラは、波打ち際の岩に独り座り込む月霞を見下ろしていたが、彼の冒険者が視線を外したきり一向に言葉を紡ぐ気配がないので、小さく溜息をついて隣に腰掛けた
あどけなさを残す少年は、座り込むとほんの少し月霞よりも小さくなる

月霞はちらりと其方に視線を向ける
誇り高く排他的な彼が、彼等の一族にとって忌むべき人種である自分とこうして視線をあわせて会話しようとしてくれるとは、出逢った時の事を思えば信じられない事だった

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
157 :月霞
2009/04/10(金) 17:47:48

*若干ネタバレありです

「それと」

夕日は殆ど海に沈み、すっかり暗くなった空には星が瞬いている
リゼラがゆっくりと振り返る
その顔には薄く笑みが見えた
「お前は、自分は誰かにとっての大切な存在ではないと言っていたが」
野営地の方から小さな灯りが近付いてくる
恐らく帰らない二人を探しに来た誰かの松明だろう

「もしも、だ
お前がこの先アラセマの連中達との行動で命を落とすような事があったなら」
ゆらゆら揺れる松明が、真っ直ぐ此方へ向かってくる
二人に気付いたのだろう、灯りの下に特徴的なバンダナと背嚢が見える
その横には銃を抱えた少女の姿もあった
遠くから二人を呼ぶ声がする

「その時は、悲しんでやらなくもない」
まあ、そんな事態にはまずならないだろうがな、そう言ってリゼラは迎えの二人の横をすり抜け、ギヴェンティ達の群落の方へと歩いて行った
月霞は立ち上がり黙って見送っていたが、緩く微笑みを浮かべると頭の花を一撫でしてそっと肩に乗せ、ゆっくりとした足取りで二人のもとへと向かって歩き出した

胸元に下げられた銀の飾りが、風に揺られて星のように幾度か瞬いた

― FIN

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
158 :月霞
2009/04/10(金) 17:51:36

これにて投稿を終了とさせていただきます

本編
>>151>>157

一区切りごとに冒頭に明記しておりますが、全体的にみんクエ本編のネタバレがあります
なるべくストーリーはぼかしてはいますが、念の為苦手な方は御注意ください

ありがとうございました

追記

>>159

コルトレカンメインイベント及びエルツァン島のイベントの一部が含まれています
時間軸はエルツァン島のメインイベント終盤になります

小説は>>151から順になっています

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
159 :匿名
2009/04/11(土) 12:57:42

おふう

>>147月霞様、>>148様、ありがとうございます。

昨日は鑑識米沢守を見てあまりのダメージに足腰を超えて脳にきてゴミのように寝込んでおりました。
返事が遅れて申し訳ない。

まだアノーレに渡ってないので、どこがネタバレ箇所わからず気になります。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
91 :匿名
2008/11/05(水) 21:58:16

〔また、別の始まりの話〕




『あれ?
女学者と女弟子とかのくだりじゃないんですか?』
『はい、違います。
落選ですね。
残念。
ブッブー。』





不意に船の中で目覚めた時に感じたのは、何かを逃したような感覚だった。

かと言って、なにか損をしたという訳でもなく、やもしたら大いなる貧乏クジを回避できたような気もするのだが、それはそれとしてなにか万人が受けられるサービスを受けられなかったような妙な理不尽さを感じる。

しかしその出所は分からず、疑問は雑多な歓声にかき消された。
なにやら船内で喧嘩でも起こっているらしい。

騒ぎすぎると船から放り出される事さえある以上船内の喧嘩は珍しい事ではあったが、この船に乗っているのはある意味追い詰められた末ね博打のような選択で本国から乗り込んだような連中が多いのも事実だ。
期待しつつも実は逃避に似た前途の見えない鬱々とした気分を少しでも紛らわそうと、気持ちの澱を弱っちそうな奴にぶつけてみようかという連中がいたとしても、特におかしくはないのかもしれない。
見れば、確かにアヤをつけられているらしい奴はどうにも厄介事に巻き込まれやすそうな面構えをしている。

(あンだかなア…

わざわざ船ン中で、周りン目ン中で一人を二人でどうにかしたって、どうにかなんのか…?)

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
126 :いままでのあらすじ
2009/04/04(土) 12:23:50

旗本の三男坊(?)的な生まれのため家を継ぐ目もなく、なかばヤケクソ気味に当代随一の魔域と名高いフローリア諸島に渡航した主人公。

しかし、例えなんのアテもないとはいえ新天地、根拠はなくとも少しは希望抱いていたが、船内でとても疫病神っぽいオッサン二人に懐かれいきなり幸先にミソがついてしまう。

案の定、上陸後いきなりオッサン達は酒場で本領を発揮し、さあボコられるぞというまさにその時、一行は少年に声をかけられる。

その少年は小鬼撃退の依頼を持ちかけてきたのだが、割に合わな過ぎるため主人公も一度は断ろうとする。

しかし少年の妹を目にした途端、オッサンが立つ。

オッサンは、ペドだったのだ。

主人公は少年達の集落というか少年の妹を守るため、やむなく少年の依頼を受けることとなる。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
139 :匿名
2009/04/08(水) 21:35:20

高い日が梢の葉を打つ。

風も強くなく、しかしそよぐ程度に肌を日差しの熱から冷まし、過ごしやすい良い日よりだ。

ランドリートから郊外に向かう間、天候にこれだけ恵まれると、移動はとても快適で順調だった。


『だった』というのは、もう快適ではないということだ。

涼やかな風が吹き抜ける街道に、今は獣の甲高い鳴き声とそれと似たようなダミ声が交錯していた。

オッサン「食ぅウらええェェいあァア!!!」

気合いと共に繰り出された驚くほど隙のデカい横薙ぎが、小鬼の胴体に叩き込まれる。

被弾箇所から上が中空に吹き飛ばされ、街道脇の根元にドンと鈍い音をたてて落下し転がった。

俺「…」

打ち終わりの体勢のまま残心よろしく静止している男がゆっくりと立ち上がり、俺に向かって振り向き髭面を綻ばせた。

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)
147 :月霞
2009/04/10(金) 07:47:41

>>146
投稿お疲れ様です
主人公災難ですね(笑)
どう切り抜けるのか、続き楽しみにしています

私も触発されて一本書いたのですが、若干本編のネタバレがあるので投稿しようか迷っています
内容は出来る限りぼかしているのですが、投稿しても問題ないでしょうか?
問題なければ昼から夕方にかけてゆっくり投下しようと思います

(ez/W64SA, ID:3yZNWKjcO)
148 :SSスレ愛読中
2009/04/10(金) 13:13:01

>>147
若干ぼかすなら良いんじゃないかと思う。
アイテム討論スレもあるし。
でも一応小説の頭に、【ネタばれがあります】とか一言合ったほうが親切かもしれない。

>>146
おっさんただのごろつきと思ったら…
ペドwwww
マヤちゃん保護しないと確かにヤバイ。

(Win/MSIE, ID:rGuVOvd20)
146 :匿名
2009/04/09(木) 23:09:33

一度区切ります。

投下されたい方、どうぞ。

あらすじは>>126

はじめは>>91

(ez/W61T, ID:3Cu7xFH5O)