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193.『戦隊学園』制作スタジオ
 ┗144-153

144 :第4話 1
2021/06/18(金) 02:19:01

戦隊学園のガクセイ掲示板に、1枚のポスターが掲示された。
それはカラフルな各戦隊の人員募集の張り紙の中でもひときわ大きくて目立って居た。

――――――――――――――――――――――
    戦-1グランプリ開催!!!!

学園内で戦隊同士対決し、勝つと1ptゲット。
負けると即敗退が決まります。
10pts以上集め勝ち残った戦隊だけが決戦に進出。
決戦では直接対決し、勝った戦隊が優勝です。
学園№1戦隊を決めろ!


追伸 優勝すると校長からスゴイのが貰えるよ。
――――――――――――――――――――――

[返信][編集]

145 :2
2021/06/18(金) 02:21:34

私は魔法クラスに転入した。
1年の前期は“戦隊の歴史”、“戦隊体術基礎”などつまらない必修科目を受けて過ごすようだ。

放課後、部活のようにオチコボレンジャーの皆と集まる時間だけが楽しみだった。


「よぉ七海!」
「あれ?一番乗りだと思ったのに。」
和室には公一の姿があった。畳の敷かれた居心地の良いこの部屋を部室のように使用することにしたのだ。
「俺んとこ昼ないねん!」
「あ、そだったね。」
私は教科書の入ったカバンを置くと、靴下を脱いで自室のように寛ぐ。
「佐奈もおるで。」
「え?」
よく見ると狭い和室の隅っこに、寝そべってパソコンを打つ佐奈の姿があった。
私は「お疲れ様ー」と声をかける。だが佐奈は返事をしなかった。

「お取込み中みたいだね。」

ふと、公一が私の足の指をじっと見ていることに気付いた。
「みんなよ、スケベ。」
「え?い、いやそういう意味ちゃうねん!!足の先まで真っ白やなあと思って。ハーフなんやっけ?」
私は足の指をうにゅうにゅと動かしながら言う。
「違うよ。これはアルビノって――」

するといきなり戸がバンと開いた。

「うぁーめっちゃ疲れた!糞つまんない名乗りの作法で居残りさせられた!」
楓は入室するなりカバンを放り出し畳に寝転んだ。
「俺はこの後授業やで!深夜の授業めっちゃしんどいねん。昼夜逆転するし!」
「えーまじ?あたし朝早いほうが苦手だよ!交換する?」

フランクに会話する楓と公一。
中学時代は一匹狼的だった私にとっては何ともほほえましい光景だった。

「でね。私の肌についてだけど――」
「なに?何の話?」
楓が喰い付いた。
「白い理由を聞いとんねん!」

混じり気のない真っ白な髪、乳白色の肌、澄んだ青の瞳は私のトレードマークのようなもの。

「ああこれはアルビノって言ってね、遺伝子疾患なんだよ!メラニンが無いから光に弱いんだけど、それ以外は普通の人と変わらないから!」

何故か楓が張り切って説明した。

「いやなんでお前が全部説明すんねん。お前は七海の何なん?」
「あ・・・」
楓はお喋りが過ぎたと思って苦笑いしながら口をパクパクさせた。私は一言、
「楓は私の彼女だからな。」
「え?」
「そういう関係?」と佐奈。

「ブヒ~!お待ちかね!」

豚之助がドスドスと入室した。100キロ超の巨体に踏みつけられ畳がめこっとへこんだ。
そして彼と共に、食欲をそそるいい匂いが部屋の中に飛び込んできた。

「大之助特製ちゃんこブヒ!僕の地元から送られてきた魚介類をたーっぷり使ってるブヒよ!」

豚之助は手に持っている大きな土鍋の蓋を開けた。
豆腐や野菜と一緒に、ぷりぷりの海老や帆立が煮込まれているではないか!

「わあ!」
「すご!」
「うっまそ!」
皆目を輝かせる。

「これで1日の疲れを取るブヒ!」

「俺は授業まだやけどね」
私たちは5人そろって鍋を囲み、「いただきまーす」と詠唱した。小鉢は使わず直接箸で突っついて食べる。
「うま!最高や!」
「佐奈もたっぷり喰って大きくなるブヒよ。」
「ありがと・・・って、暗にチビって馬鹿にしてる!七海さん、こいつ馬鹿にしたよ!」

「まあまあ。」
私は海老を掴み取り、まだ熱いまま噛みちぎる。
「おいしいじゃん豚之助。よし、もっとおいしくしよう。」
私はカバンから携帯唐辛子を取り出すと、鍋全体に多量に振りかけた。
「わあ!なにしとんねん!!みんなの鍋を!!」
「プピー!」

「辛くて食べられないんだったら残していいよ。私が全部食べるからね」

私はハハハと不敵にに笑う。
湯気に包まれる中、楓が隣から囁いた。
「ねえ、彼女って本気?」
「んなわけあるか」

[返信][編集]

146 :3
2021/06/18(金) 02:23:41

鍋を囲んで和気藹々していると、再び戸がバンと開いた。
「ハァ、ハァ。」
皆の目が釘付けになる。そこには眼鏡をかけた男子生徒が立って居た。


「頼む、オチコボレンジャーに入れてくれ!!」


「・・・何であなたが?」

そこに居たのは天堂茂だった。

[返信][編集]

147 :4
2021/06/18(金) 02:24:31

「なーんてな。」

天堂茂は相手を蔑むいつものいやらしい表情に戻り、土足で畳に上がり込んだ。
「ちょっと。靴くらい脱いでよ。」

「ちょっと。靴くらい脱いでよ。だと?一体誰がこの部屋の使用を許可したんだ?」

天堂茂はずかずかと侵入すると、ゴミでも見るような目で鍋を見た。
「まずそうな鍋だ。」
「ああっ!」
天堂茂は土鍋を蹴飛ばした。半分も食べていない御馳走は無残にもひっくり返り、宙を飛び、具材が虚しく散乱した。
「ブヒー!僕が心を込めて作ったちゃんこが!」

「何すんの!?」
私は衝動的に立ち上がり天堂茂の胸ぐらを掴んだ。

「おっと、すぐに手の出る悪い癖が治って居ないようだな、躾のなっていない白豚。暴力はやめた方がいい。退学になりたくないならな。」

私は自分に言い聞かせる。
冷静になれ、暴力では解決しない――

私は何とか自制を効かせ、奴の胸ぐらから手を離した。

「お利口だな。」
天堂茂は私に触れられた箇所が汚らわしいとでもいうようにパッパッと払い除ける。
「それで何の用?」
「クズのお前がクズを寄せ集めて戦隊を組んだと聞いたのでな――」

「おい!」
ドスの利いた声。私はちょっとびっくりした。

「七海になんてこと言うねん!俺がお前を半殺しにしたろか?俺を退学にしたいならしてみいや。いっぺんは退学を決めた身やからな。」

公一が、私と天堂茂の間に割り入った。

「お前は江原公一だな?お前の父は有名だったようだがこんな奴らと付き合うとは地に落ちたものだな。僕の父上をご存じか?天堂任三郎、ニッポンジャーの隊長だぞ。」

「てめぇ、なめんなよ。父親の名前出さな喧嘩できひんのかてめぇ。しばいたろか。」

公一、口は達者だがひょろひょろで弱そうだ。
天堂茂は暫く公一を睨んでいたが、やがてニヤリと笑った。

「父親の面汚しの不良息子に・・・不良集団のパシリだった豚に・・・重度のコミュ障のチビ娘に・・・それに」
誰かが天堂茂に殴りかかった。
楓だ。
だがその渾身の一撃は届くことも無く、何者かの攻撃によって阻まれた。
「楓!」
楓は「ぎゃん!」と叫んで畳に転げた。室内に大柄な4人の男たちが突入し、天堂茂を守ったのだった。

「ご苦労。」

「へぇ・・・卑劣なあんたにも仲間がいたんだ。どうせ父親絡みの脅しか、金の力で仲間にしたんでしょうけど。」

「見当違いだな。」
天堂茂はガクセイ証を取り出し、口元に当てた。

[返信][編集]

148 :5
2021/06/18(金) 02:26:18

「変身。」
天堂茂と4人の男たちはガクセイ証に呪文を吹き込み、変身を遂げた。

「レッド戦隊エリートファイブ!」

「嘘・・・。」
戦隊と言えばふつう色とりどりである。だがそれは真っ赤な壁を見ているようだった。

5人全員が赤の戦士だった。

「どうだ、驚いたか?僕たちは先日の考査で学年1~5位を獲った、エリートだけの集団なんだ。その全員が、エースの資質を持つという赤のカラーを有する者だ。そしてエースの中のエースである僕は・・・」

天堂茂は珍妙なキメポーズを取った。

「エリートワン!テストで1位を獲ったのはこの僕だ。」

「テストがどうしたっていうの?あんなのお試しみたいなもんじゃん!実技無かったし!」
楓は唇を切ったのか血を垂らしながら叫んだ。

「じゃあお前は何位だったんだ?落ちこぼれの名がよく似合う、伊良部楓。」

「・・・499。」
「え?」
悪いと思ったが私は聞き返してしまった。1年生の総数は500だったはずだ。
楓は涙目になっていた。どうやら本当に499位だったらしい。
「安心して楓。私は500位だったから。」
「ま、まじ?」
「まじ。」
というかその時はまだ入院中でテストを受けられなかったのだが。不参加で0点、つまりビリだ。

「ひゃっはっは!本当に落ちこぼれの集団のようだな!!」
天堂茂は笑い転げた。それにつられて他の赤の4人も笑う。
「それにお前らには赤が居ないじゃないか。赤が居ない戦隊など有るものか。お前らは戦隊でも何でもない、唯のゴミの寄せ集めなんだよ。」

「くたばれや!」
ヒュンと言う音。公一が手裏剣を打った。
「わあ!」天堂茂は悲鳴を上げた。私は手を伸ばし、親指と人差し指でピッと手裏剣をキャッチした。
「七海!何で邪魔すんのや!!」

「あなたを退学にはさせたくない。」
刃を直接つかんだため、指先がじわっと熱くなった。血が滲み出る。
「挑発に乗っても無意味だよ。みんな、こいつのことは無視しよう。」

「では戦隊ではないと認めるんだな?色彩の無い、小豆沢七海。」

天堂茂は私に詰め寄る。
「じゃあさ、こうしようよ。」
私はさっきポスターで読んだ催しを思い出した。


「オチコボレンジャーは戦-1グランプリで優勝するから。そうしたら私たちの方がすごいって、証明できるよね。」


その時天堂茂の冷笑は最高潮に達した。
「ぎゃっはっはっはっ!!!!聞いたか!今のは全校に放送して聞かせてやりたいくらい、傑作だったぜ!優勝は僕たちと相場が決まっているだろう。お前らは初戦敗退がいいとこさ。」

天堂茂は「いくぞ」と他の4人を率いて部屋を出て行った。
扉が閉まると、私はその扉に向けて手裏剣を力強く打ち込んだ。

[返信][編集]

149 :6
2021/06/18(金) 02:28:15

「死ね!!!」

私は佐奈が即席で開発した天堂茂ロボに飛び蹴りした。
ロボは粉々に砕け散る。恨みは到底晴れないが、多少のストレス発散にはなる。
「次あたしにやらせてね」と楓。

佐奈はパソコンを打ちながら私に言った。
「ねえ。残念な仮説を述べていい?」
「どうぞ。」
「優勝は絶望的だと思うの・・・まず、学園に何個の戦隊があるかわかってる?」
「うーん。」
考えたことも無かった。
「50くらい?」

「違うよ七海ちゃん。1000の生徒、200の戦隊ブヒよ!」
こぼされたちゃんこをかき集めて食べている豚之助が答えた。「うちと七海さんが話してんのに邪魔すんな!」と佐奈。

「でね、戦-1グランプリは全戦隊が強制参加。優勝を狙っている戦隊はまず弱い戦隊から潰してptを稼ぐと思うの。」

「理解したけど、それはどの戦隊も同じ条件じゃない?」

「違くて。うちらは一番新しく結成された戦隊ってリストのおしりに乗ってるし・・・名前的にもだし・・・それに色んなクラスから寄せ集めてるって思われてるし、つまり・・・」

「つまり?」

「オチコボレンジャーは一番弱い戦隊って思われてるから、色んな戦隊が真っ先に潰しに来るって思うんだ。」

その台詞を言い終わるかと言ううちに和室の扉がドンドンとノックされた。
「たのもう!魔球戦隊ホームランジャーだ!試合の相手を願いたい!」
「芸術は爆発だー!オチコボレンジャーを倒すのは、前衛戦隊ピカソマンだ!!」
「無能な絵描きはどけ!カロチン戦隊ニンジンジャーがオチコボレンジャーを倒す!」


「予言的中やな。」

[返信][編集]

150 :7
2021/06/18(金) 02:29:35

オチコボレンジャーの初戦の相手は、真っ先に扉を叩いた魔球戦隊ホームランジャーとなった。

ホームランジャーは9人による大人数戦隊だ。
2つの戦隊を合わせた14人は、狭い和室から昇降口に移動した。

主将は2mはあるかという坊主頭の好青年で、土だらけのユニフォームを着ていた。

「自分は武芸クラス3年 野中球(のなか きゅう)である。君たちのチームの代表は誰だ?」
「小豆沢七海です。」
私は手を差し出した。
「私、高校野球って大好き!球児たちが暑い日差しの中汗を垂らしてる姿って、感動する!プロ野球と違って1回こっきりの勝負だし。私アルビノじゃなかったら野球やりたかったな。」

身長差があったため私はかなり上を向いて喋る必要があった。
野中は大きな手で私の手を握り、ニコッと微笑んだ。

「では野球の試合を願いたい。校庭で、今すぐにもプレーボールだ。」
「え?」
ホームランジャーのメンバー達は校庭に通ずる大きな扉を開ける。日差しが差し込み、私の視界は真っ白に霞んだ。
「ああっ」
私は目を押さえてうずくまる。
「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ。」
目をしばたいているうちに視界は元に戻った。だがまだ少しチカチカする。

「ねね、七海さん。」
振り向くと佐奈が私の服を引っ張っていた。
「カラーについて解析してみたんだけど、あれはUVカットの役目も果たしているみたい。つまり変身すれば、日中でも外に出られるよ。」

「な、なるほど。」
ガクセイ証に呪文を吹き込む。
「変身!」
私は校庭に飛び出した。

バイザーはサングラスのように光から私の目を守り、全身を覆うスーツは日差しから私の肌を守った。
「結構簡単な問題だった!」

[返信][編集]

151 :8
2021/06/18(金) 02:31:13

日差しの下、広い校庭にて。
ホームランジャーの9人とオチコボレンジャーの5人が変身し向かい合って立っている。
「ねえ、こっち5人しか居ないんだけど。」
「自分たちで調達しろ!友達を呼べばいいだろう!」野中は変身すると別人のように厳しくなり、無責任な言葉を叫んだ。

私は公一に尋ねる。
「友達、いる?」
「おらん。」

「七海さんうちに任せて。」
佐奈が言った。
「量産したこいつら使お・・・」
佐奈の隣には、5人の天堂茂――ではなく5体の天堂茂ロボが並んで居た。
「げ!なんやねんこれきしょ!」
不気味でならない。天堂茂のお面をつけたそのロボたちは首振り人形のようにガクガクと動いている。
「まあいないよりはましだから・・・あと、うちは運動嫌いだから、補欠ってことで。」
「え・・・」

先攻 オチコボレンジャー
1 コボレグリーン
7 コボレブルー
2 コボレイエロー
6 コボレホワイト
3 天堂茂ロボⅠ
4 天堂茂ロボⅡ
5 天堂茂ロボⅢ
8 天堂茂ロボⅣ
9 天堂茂ロボⅤ

後攻 ホームランジャー
8 オレンジセンター
7 ゴールドレフト
1 レッドピッチャー
2 ブルーキャッチャー
3 イエローファースト
4 グリーンセカンド
5 ピンクサード
9 シルバーライト
6 パープルショート


明瞭で力強く、どこか物悲しいサイレンの音が鳴り響く。試合開始。

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152 :9
2021/06/18(金) 02:32:35

「ストライク!」
「くぅ!」
レッドピッチャーの剛速球に、公一は大きく空振りした。
私はベンチから声を掛ける。
「公一!そんな大振りじゃ当たんないよ!」
「知らん!野球なんて初めてやし見たことも無いんや!できるわけあるか!」

レッドピッチャーは振りかぶって、投げる。

「こんニャロ!」
ズバン!とミットに命中する轟音。公一は空振り三振となった。
「バッターアウト!」

バットを引きずり帰ってくる公一。楓が叱責する。
「何してんだよぉ!」
「あんなん打てるか!投げたと思ったらもうキャッチャーのミットの中やねん!お前が打ってみぃや!」
「いいよ!あたしも初心者だけど、ビギナーズラックでホームラン打っちゃうかもよ?」
楓が打席に向かう。
「楓、塁に出ることを考えて。私に打順を回して。」
「えー?」
私は叫んだ。
「ホームランじゃなくて、塁に出ることを考えて!!」

「何言ってんの?塁に出ても点にはなんないじゃん!ホームラン打ったら得点!見てて!!」

「素人は・・・」
私はベンチに座り込む。

ズバンと言う轟音、楓のきゃあという悲鳴。案の定、空振り三振に終わった。

「豚之助、あなたならやれるよね?期待してるから。」
「ブヒー。七海ちゃんに応援されると照れるブヒ。必ず七海ちゃんに打順を回すからね。」

豚之助は大きな体でバッターボックスに入る。
球が投げられた。
バキッと言う音、この試合で初めてバットがボールに触れた。豚之助は流石の強肩でボールを三遊間に飛ばした。
これならば間違いなく出塁できる。私に打順が回ってくる。

だが豚之助は有り得ないほどに鈍足であった。ぼてぼてと、まるで水の中を歩いて居るのかと言うようなスピードで走る。しかも、
「馬鹿!そっちは三塁だよっ」
「ブヒー!間違えた!」
豚之助は間違えて三塁方向に走ってしまっていた。ホームランジャーの面々は笑い転げる。遊撃手が球を一塁に送り、アウトとなる。
「スリーアウト、チェンジ!」

「馬鹿之助・・・」
ついに打順は回ってこなかった。

攻守交代。ホームランジャーの攻撃、恐ろしい時間の始まりだ。
「い、いくでー!」
ピッチャーの公一はキャッチャーの豚之助めがけて球を投げる。


顔面に激痛が走り私は倒れた。

「か、かんにん!!」

その球はボールになるどころか、何故かショートである私の顔にめがけて飛んだのだ。またもやホームランジャーは爆笑する。
「公一。あとで金玉潰すからね。」
「ボーク!」

公一はガクガクと震えている。
「焦らなくていいから、手裏剣の練習だと思ってやってみて。」
「よ、よし。」

公一は2球目を投げた。今度はまっすぐに飛んだがヘロヘロ球だ。
カキンと言う快音。
球は青空を飛び校舎の裏に消えて行った。場外ホームラン。


そしてツーアウト(私の好守備によるもの)を迎える頃には、ホームランジャーは私たちに33点と言う大差をつけていた。


緑のバイザーの下に、目を真っ赤にして鼻水を流している公一の無残な顔が見えた。
「公一、変わろっか。」
「もっと早めに変わって!?」

私はマウンドに立つ。

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153 :10
2021/06/18(金) 02:37:26

バッターはレッドピッチャー、野中球その人だ。
「悪いけど、ここで負けるわけにはいかないから。どんな手を使ってでも勝たせてもらう。」
私は球を投げた。公一といい勝負の遅い球だ。
レッドピッチャーは余裕綽々というようにバットを振る。だが。

「あれ?」

バットは空を切っていた。
球はバッターボックスのほんの手前、空中でぴたりと停止していた。直後球は動き出し豚之助のミットの中にバスンと収まる。
「ストライク!」
「魔球か――?」

続く2球目。
レッドピッチャーは次も同じ戦法で来ると思ったのだろう。警戒し球を見送った。
「ツーストライク!!」
「え。」
ドバンと言う音、球はまっすぐに豚之助のミットへと飛んでいた。
「七海ちゃん、いい球ブヒ。」

3球目。
レッドピッチャーは主将の意地で球を打った。
だが球は飛距離が伸びず、私のミットに吸い寄せられるようにして落ちた。パシっとキャッチする。
「スリーアウト、ようやくチェンジ。」
私は手裏剣を的に当てた時の要領で、隠し持ったタクトで球の動きをコントロールしたのだ。


2回表、オチコボレンジャーの攻撃は私から。
レッドピッチャーはマウンド上でキャッチャーとサインのやり取りをしている。

私は魔法でホームランを打ってやろうと考えていた。
「魔法は奥の手にするつもりだったけど、こう大差付けられちゃ仕方ないよね。」
勝ち目のない勝負を真面目にやる必要は無い。
「待てよ。」
そもそも――

「そもそも戦-1グランプリは野球の勝負じゃないし、野球やろうって言ったのは向こうの押し付けルールじゃん。」

私はバットを捨てた。
「試合放棄か?」

「みんな集まってー!」
私はタクトを振って楓たち4人を集める。
「コボレーザー決めよう!」
「ブヒ!?」
「まじで言うてるん!?」
「七海ちゃん!そういう無茶苦茶なとこ大好き!」
「じゃあやっちゃおっか・・・。」

「ブレイクアップ!オチコボレインボー!!」
私は皆のカラーを受け虹色になり、必殺技を放つ。
「コボレーザー!!」
唖然とするレッドピッチャーの元に光線が飛んだ。彼は「わあ」と言って咄嗟に避けたが、マウンドは爆発。虹色の弾があちこちに飛び散り、守備についていたホームランジャーたちに直撃した。試合続行不能。オチコボレンジャーの勝ち。
「まずは1pt、あと9つ。」


つづく

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