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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
┗429-438
429 :げらっち
2024/08/12(月) 22:59:44
第39話 出色だね
私はただ虹が見たいだけだった。
でもそれは彼の願いでもあった。赤坂いつみ、こと、光りの天使レプリエルは、7色の人材を集めていた。
私の夢と彼の願いがリンクし、彼は私に7色のメンバーを集めさせた。
実力証明が終わった時、レプリエルは正体を現し、学園は光りの円盤ピカリポットの傘下に置かれた。
レプリエルは、コボレンジャーの6人と自身とで、7つの魔石ニジストーンと成り、巨いなる魔力で、赤く塗られた世界をリメイクしようとしている。
楓が捕らえられた。皆で挑むも勝てなかった。私は空間のひずみ、世界のゴミ箱に迷い込んだ。そこで、コボレンジャーの7人目、赤を見つけた。
「エリート気取って死ぬより、落ちこぼれとして生きる方がよっぽど良いよ、そう思わない?」
天堂茂は顎をしゃくれさせた。父親の面影が見えた。
「研鑽を怠った底辺の考えだな。いいか? 例えオチコボレンジャーに所属しても、僕はエリートを目指し続ける。これは父上に押し付けられた価値観などではない。僕自身が、己の精進を心から望んでいるのだ。馴れ合いの青春などゴミだ! 僕は青春を赤く塗り潰し、お前らを踏み台に更なる飛躍を遂げるだろう」
後半はよく聞いていなかった。割れた眼鏡で言われても説得力が無い。
やはり仲良くはできなさそうだ。
私は真っ暗を見渡す。
光りが無い故の闇ではない。光りも闇も、何も無い故の黒なのだ。
有るのは私と天堂茂だけ。だから暗澹とした中でも、自分の体や、天堂茂を見ることができる。
「して、どのように脱出する気だ?」
「とにかく変身して、この世界をぶっ壊す」
「成程な、落ちこぼれらしい短絡的な考えだ」
茂は卑しい目になった。
「私は戦隊証を持ってない。あなたのを貸して欲しいんだけど」
「ナンだと!?」
茂はシャウトした。そりゃそうだろう。戦隊の証を他人に、しかも大嫌いな私に貸与するなど彼のプライドが許すまい。
「いいから貸してよ。ここから出るために協力してくれるんでしょ?」
茂はポケットから戦隊証を出した。私はそれを受け取ろうと手を突き出す。
彼は、意地悪く戦隊証を引っ込めた。
「ああ協力はしてやろう。だが上下関係という言葉がわかるかな? どっちが上か、お前のちっぽけな脳みそでも理解位できるのだろう? 変身するのはこの僕だ」
「何言ってるの、前に火球カーストを受けた時技が跳ね返ってあなたが被弾した。私の実力はあなたより上だ」
図星だったのか、茂は唇を噛み、私に魔法の矛先を向けた。彼のイロが熱を孕み、私は汗ばんだ。
茂は変身の呪文を叫ぶ。その瞬間、私は彼の戦隊証をひっつかんだ。
「ブレイクアップ!!」
私と茂は同時に変身した。2人で1つの変身アイテムを握っている。
「離せ小豆沢!!」
「離さない。ここから出るまではね。いい加減覚悟を決めてよ、行くよ」
「ちっ、仕方ない!!」
私と茂はゴーグル越しに視線をかわした。そして次の瞬間。
「スパイラルスノウ!!」
「スパイラルフレア!!」
空間に魔法をがむしゃらに飛ばす。
「ブリザード! ツララメラン! ドライアイス! 氷晶手裏剣!! グレートマンモス!!!」
「ファイアペンシル! 火球カースト! 火エラルキー! 火炎タッピング!! ヒートミサイル!!!」
ここは通常の世界ではない。摂理の無い一次元だ。だからバグが生じた。大量の魔法を一度に受け、世界が崩れてゆく。
私たちは、黒の裂け目に頭から突っ込んだ。冷水にダイブしたような感覚、次の瞬間には正しい温度と正しい光りが戻った。世界に戻ってきた。ここは。
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430 :げらっち
2024/08/12(月) 23:00:10
「ここは」
私と茂は、ホールの檀上に居た。
私にとっては思い出の場所だった。ここは入学式のスピーチをした始まりの場所なのだから。
あの時とは違い生徒の姿は無く、伽藍洞だ。私はホールを見渡して小さじ一杯分だけ懐かしさを感じた。
「戻った……戻ったぞ! そうか、僕は生きているのか!」
茂は自身の左手をしげしげと眺めていた。それでも右手ではしっかりと戦隊証を握り締めていた。
私は左手で戦隊証を掴んでいるため、傍から見れば私たち2人は手をつないでいるように見えただろう。
……そんなことは5度死んで5度転生してもしたくない。
「で、何が起きているんだ?」
「色々とマズ~い状況」
それを証明するかのように爆音がして、茂は飛び跳ねた。
「弱虫毛蟲」
「違う脊椎反射だ。起こらないお前がおかしい。身体に備わってしかるべき機能の欠損した障害者!!」
「脊髄(せきずい)反射でしょエリート君。脊椎(せきつい)は私たち動物のことだよ健常者」
私と彼はバイザー越しにたっぷりと睨み合った。
尚も建物の外からは騒音と振動が響いている。何が起きているんだろう。私たちは戦隊証を握り合ったまま、外に出た。
学園のあちこちから煙が立ち上がり、炎光が薄暗い空を照らしている。敷地全体が怒声と熱気に包まれている。
慈雨は、学園の火災を鎮火することは無かった。学園の上空には未だにピカリポットが停泊しており、それが巨大な傘の役目を果たし、雨水を跳ね除けていたからだ。雨粒は傘から滑り落ちるように、巨大な円盤の円周に滝を作っていた。
洗脳の解けた戦士たちはピカリポットへの集中攻撃を試みているらしい。学園の誇る巨大ロボたちが飛び上がり、ピカリポットに攻撃している。だがピカリポットは光弾の雨を降らせ赤子の手をひねるようにロボたちを撃墜する。学園のあちこちから更なる火の手。
もっと恐ろしいことが起きた。
ピカリポットから、無数の銀の円盤、小型のピカリポットが放たれたのだ。ミニピカリポットか、ピカリポットジュニアか。名称はどうでもいい。レプリエルは自棄を起こして学園を滅ぼすつもりか?
学園は絶叫で包まれた。
親ピカリポット、あそこに楓が居る。恐らくは公一、凶華、佐奈、豚も捕らえられてしまっただろう。
「助けに行かなくちゃ」
私が走ろうとすると、茂はそれに続かず戦隊証を掴んだので、私の手から変身アイテムがすっぽ抜け、私はすっぴんになった。化粧ではなく変身していないという意味の素嬪だ。
「ちょ、何してんの」
「愚問を吐くな。落ちこぼれ共を助けることに僕に何のメリットがあるんだ?」
「じゃあ逆に聞くけど、あなたが生きていることに何のメリットがあるの?」
「……!」
赤い戦士は言葉を探している様だった。
「メリットや損得、理屈が全てじゃないでしょ。私はもう一度友達に会いたい。できるならずっと一緒に居たい。それだけだ。あなたも仲間が欲しいなら、生きたいなら、理屈じゃない部分を見せてよ」
「抜かせ……!」
私は彼の持つ戦隊証に手を乗せた。私は再びコボレホワイトに成った。
「直ちに自分の戦隊証を取り戻せ。お前との相乗りなど長時間は御免だからな」
あんたのせいで戦隊証は没収されたんだが……
「こっちこそ御免だよ。早く自分の戦隊証で変身したい。恐らく校長先生が持っている。目指すは、校長室」
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431 :げらっち
2024/08/12(月) 23:00:37
《レプリエル》
僕は神――白に作られた。
赤いニジストーンの模造品。人では無い天使。サキエルや、アルミサエルになぞらえて……レプリエルと名付けられた。恐らくは、春であり学年の始まりである4月、Aprilとのダブルミーニングだろう。
光りがあるから、色があるのか。色があるから、光りがあるのか。
光りが照らさねば色は存在せず、そこにあるのは闇だけだ。しかし色が存在しなければ光りもまた無為になる。
鶏が先か卵が先か。その疑問自体が馬鹿げているのではないか。鶏も卵も、創造主がそう定めた時には、既にそこにあったのではないだろうか。
創造主なんて、僕は知らないけどね。
神と創造主はイコールではない。神は単に、世界の観察日記をつけているだけだ。
干渉するなど稀だ。世界がちょっと道を踏み外した時に、こっそり道標を立てるような、そういうささやかな存在だ。
存在だった。
それは過去のニジストーンの話だ。
長兄とされた白が人間の世界に過干渉しないというルールを作り、赤カビの生えた古臭いルールを守った結果、赤い巨人の発現につながり、世界は生命の力だけではリカバリーできなくなった。
失われたニジストーンに代わり、新たなニジストーンとなる人材を見つけ出すのが僕の仕事。その褒美は、世界をクリエイトする権限。
今度のニジストーンは、前のなんかより、よっぽど出色だ。どんな創世もできる。
赤の日も怪人も戦争も全て失くす……それが白の依頼だ。従う必要なんかない。僕は僕の欲しい世を作る。僕がただ楽しむだけの、素敵な世界。
それは大志の、はずだった。
だが、今の僕は、失意に沈んでいた。
雨の侵食するピカリポットの中、濡れた羽を閉じて、白の高い所に浮いている。
見下ろす先には、江原公一、星十字凶華、鰻佐奈、巨大メカ形態から元に戻った大口序ノ助が、こちらを見上げている。
これを返して欲しいのだろう。僕は青いニジストーンを握り締めていた。伊良部楓、だったものだ。
美しい。だが足りない。
白いニジストーンが無ければ、小豆沢七海が居なければ、何もかも、無駄になる!
代わりの白を見つければ済む話? まさか。白いイロを持った人などそうそう居ないし、居たとしても、小豆沢七海に及ぶはずが無い。
小豆沢七海、彼女は出色だった。お気に入りだった。
好きだった。
「あああああ!!!!」
どうして消えてしまったんだ!
僕は翼を開き、両腕を上げた。それを合図に、ピカリポットは学園に更なる攻撃を加える。爆音が遠くで轟いている。こんな学園、もう無用だ。滅ぼしてしまえばいい。
素敵な世界?
それは、何だ?
生命の偽物でしかない僕が、ニジストーンを蒐集するためだけに作られた僕が、最も心ときめいた瞬間は、小豆沢七海と戦ったあの瞬間だった。
ほんの少しだけ、涙が、出た。
何かを感じた。
無い心臓が脈打った。人間でいうところの、気持ちの昂り。
「まさか!!」
僕は障子に穴を開けるように、白い空間に爪を突き立て、引き裂いた。下界を覗き見る。
「おらああああああああああ!!!!!」
何かが校庭を、物凄いスピードで突っ走っている。
僕は目を凝らしてそれを見た。
赤い戦士、それと、白い戦士。
「七海か!!!」
リトルポットのミリオン焼夷弾。豆粒のような二人三脚は、氷、炎、氷、炎、その連鎖で小型の円盤たちを駆逐した。紅白は校庭を突き進んでくる。
「生きていたのか!!」
レッドは天堂茂か? まさかあの2人が手を組むとは……
僕の心に渦巻く羨望。何故天堂茂なんかが、七海と一緒に。彼女と対等になれる赤は僕しか居ないのに。
これは嫉妬という物か!
だがそれ以上に、嬉しかった。
「七海が生きていた……うふふ! また戦えるぞ!!」
世界なんてどうでもいいじゃないか。七海と戦えれば、それでいいじゃないか。
「おいで七海。いつでも相手になってあげるよ♪」
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432 :げらっち
2024/08/12(月) 23:01:11
《七海》
私は天堂茂と共に小型の円盤を撃墜しつつ、中央校舎にやってきた。
建物内には負傷した生徒たちが避難していた。エレベーターは止まっていたため、非常階段で10階まで上がる。重労働だが休んでいる暇は無い。
「ま、待て小豆沢!!」
変身は諦め、茂を引き離し、カン、カン、階段を駆け上がる。円盤の攻撃によるものか、大きな揺れが頻回あった。高所なので余計に振動を感じる。手すりに掴まって耐え、また登り出す。
最上階に着いた。天井は一部穴が開き、廊下には瓦礫が散らばっていた。
校長室の扉は壊れてひしゃげ、隙間ができていた。私は痛む体をそこにねじ込み、入室した。ノックは要らない。
「校長先生! 居ますか!? ご無事ですか!?」
停電した室内。崩れた天井から射し込む光りだけが足元を照らしている。
私は蹴躓きながら校長先生を探した。
「私、校長先生に、大事なものを預けました。お願いします、もう一度頂戴したいんですけど……!」
返答は無い。もしかしたらもう避難したのかもしれない。
そう考えた矢先。
血と死の匂いがした。
魚屋さんのような生臭さ、鉄錆のような無慈悲さ、体の内側の酸っぱさ、校長先生の寝室から漏れ出ている。
匂いはときに他の感覚を凌駕すると、凶華がそう言ったのだっけ。匂いは記憶とリンクする。
あの返り血。楓の父である怪人を殺した時のことを思い出し、こみ上げるものがあった。そして何が起きたのか、わかった気がした。
寝室で、うつ伏せに倒れている校長先生。
「先生! 校長先生!!」
洗顔の時のように、目が水に覆われた。この涙は突発的な悲しさか? 恐怖か? 死に触れたことでの万感か?
わからない。わからないけど泣いていた。
私は校長先生を揺らした。体は冷たかった。死んでいるのはわかったが、揺らし続けた。そうすれば、生き返ると、信じているかのように。
最後に会った校長先生は、悲しそうにしていた。私が戦隊証を返した時だ。失意の中亡くなったと思うと、胸が張り裂けそうだ。
遺体の背中には2つの穴が空いていた。黒く焦げており、1つは心臓部を抉っている。
明確な殺意を感じる。殺されたんだ。
それも、炎魔法に。
「赤坂いつみ!!!!」
私の心臓は、バクバクと震えるように拍動した。まるで、死者の分まで、命を燃やそうとするかのように。
校長先生の動かない手の先に、小さな長方形のカードが落ちている。添付された写真からは、「自分」が睨み付けていた。
私は戦隊証を拾った。
「校長先生、もう一度お借りします」
久々に、「自分」の戦隊証で変身する。
「ブレイクアップ!!」
やはり他人の戦隊証とは解放感が違う。
私が秘めているイロが引き出され、魔法として、思いのままに具現化できるようになる。
車椅子の影に、何かが倒れていた。
これも死体か? いや、そうとは思えなかった。生気が無いという以前に、生命の痕跡さえ無かった。
そこに倒れていたのは校長先生のヘルパーだった。使い終わった人形のように事切れて置かれていた。
神の操り人形であり赤坂いつみと共謀し校長先生を騙した存在だ。
「フロストコロス!!」
生身でひねり出すのとは大違い。強力な魔法を思うがままに操れる。私はおよそ2秒で憎き人形を凍らせバラバラにかち割った。
「はー、はー……」
こんな傀儡に当たっても意味は無い。赤坂いつみを殺しに行かなくては。
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433 :げらっち
2024/08/12(月) 23:01:41
罹災した学園から出ることもできず、負傷者たちは校舎や体育館に避難していた。
怪我をした者を救護し、歩けなくなった者に肩を貸し、励まし合う生徒たちの姿がある。
人を助けるのはヒーローの本分だ。そういう点では、これこそが戦隊学園の正しい姿と言える。
しかし今まで内輪揉めをしていたのが、ピンチになってようやく助け合うようになるとは、なかなか愚かしい。
司令塔の無い戦隊など烏合の衆だ。
こうなったのも、校長先生の死や赤坂いつみの離反、Gレンジャーの壊滅により、今まで頼られていた教師陣が機能しなくなったからだ。
私はとある人物のことを思い出していた。
戦隊学園の教師でありつつも、徒党を組んで戦うことをヨシとせず、1人で戦い続けた男。本当は、仲間の大切さを、誰よりも知っている男。
人がごった返す体育館で、生徒たちに介抱されている教師の姿を見つけた。
青竹了、黄瀬快三、緑谷筋二郎、桃山あかり。同僚だった赤坂いつみにより無残に負けた4人が、包帯を巻かれ、マットの上に寝かされていた。
私はそこに声を掛けた。
「無事だったんですね?」
青竹先生は比較的軽傷で、目を動かし私を見た。
「なんとかな……まさかいつみのヤローが学園をこんなにしちまうとは。肝心な時に戦えず、不甲斐無い」
「死者は?」
「いや、今の所は確認されていない」
「1人を除いて、ね」
意味ありげな私の言葉に、青竹先生は「何?」と返した。
言うべきか、言わないべきか。言う必要があるだろう。私は喉と舌を動かし、伝達ツールとしての声を外に送り出す。
「校長先生は」
死んでしまった。そこまで言わずとも、青竹先生はその意味を理解したようで、カッと目を見開いた。
しかし私の言葉は最後まで出なかった。何故なら、爆音がし、熱波が走ったから。体育館の窓ガラスが全部割れ、生徒たちは悲鳴を上げ、青竹先生は呻いた。
ピカリポット及び小型の円盤による攻撃が激しさを増している。
私は青竹先生に怒鳴った。
「地下牢への行き方を教えて下さい!!」
「地下牢だと? 西校舎の地下にあるが……何故だ!?」
それだけ聞くと、踵を返して走り出す。
「待て、危険だぞ小豆沢七海!!」
危険じゃない道なんて無いよ。
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434 :げらっち
2024/08/12(月) 23:02:00
私は地下牢に降りてきた。
薄暗い階段。ひんやりとしたコンクリート。ここまでは、地上の爆音も響かない。
学園に敵が入り込んだ場合などに捕らえておく牢だと聞く。避難したのか、看守も誰も居ない。
電灯に照らされた鼠色の地下空間。
小型のトイレ以外には何も無い簡素な牢が続いている。
最奥の牢。
闇の中に、真っ黒い人が座っていた。
ブラックアローンだ。
彼は戦ー1で私たちを襲った後、地下牢に投獄されたと、新聞で読んだ。
私は黒い鉄格子に手を掛けて言った。
「久しぶり。話したくて来た」
挨拶など返す柄では無いと知っている。私はすぐ本題に入る。
「外で戦争が起きている」
ブラックアローンはいつも通り変身した状態だ。真っ黒いマスクに大きな赤い単眼。
「いつものことだろう」
壁から飛び出した固そうな石のへりに腰を掛け、うつむいている。
「ねえ、力を貸してよ。あなたもここの教師でしょ? 現状頼りになるのはあなたしか残っていない」
「言ったろう。虹が消えたら、暗雲が立ち込めるとな」
「そしたらまた掛けるだけだよ。うじうじすんな、ムカつくな!」
私は鉄格子を蹴った。ガン、音は地下を木霊する。爪先が痛かった。
「私はあなたの過去を見た。あなたが影の中に入り込んだ時、私に記憶を託していたんでしょう? あなたは私に忠告してくれていた。それには感謝する。でもさ」
でもさ、
「過去は過去じゃん! いつまでも引きずられて後ろを向いてちゃ、ヒカリさんが悲しむよ!!」
やはりこの言葉は刺さったか。ヒカリ、その名前は穿ったか。
ブラックアローンは顔を上げた。大きな赤い単眼が私を見た。
「貴様にヒカリの何がわかる」
「なーんにも。思い出の量はあなたと比べ物にならないでしょう。でもわかることがある。私はあなたの記憶を見た。あなた自身よりも冷静にね」
ニジレンジャーが女社長オーソに負けた時、黒木飛一郎は感情を遮蔽した。
その先に起きたことを脳の四隅に押しのけて考えないようにしていた。
でも私はクリアな状態でそのシーンを見た。感情が入らなかった方が、より確実に物事を見れる場合もある。岡目八目という言葉もあるくらいだ。
「あなたは隠し事をしている。自分の記憶を捻じ曲げて。忘れようと努力して」
「……」
「ヒカリさんは、生きてるんでしょ?」
ブラックアローンは黙ったままだけど、それは肯定を意味しているとわかった。
「じゃあ何で一緒に居てあげないの? ヒカリさんはあなたと居たいはずだよ。学園で余計なおせっかいを焼いている暇があったら、自分のすべきことをしなよ」
ブラックアローンは立ち上がった。
「余計なおせっかいはお前だ!!」
ブラックアローンは黒いマスクをむしり取った。眼帯を付けた白い顔が現れる。私と同じアルビノだ。
2メートル近い体躯に、私は気圧されそうになった。でも鉄格子を握り締め離れない。
ブラックアローンはごつい手で鉄格子を叩いた。牢全体が大きく揺れた。
「……俺のせいでヒカリは重傷を負った。ヒーローとしての未来は潰えた。仲間たちは死んでしまった。俺はヒカリに会う権利など無い!」
「まだそんなこと言ってる!! だからあなたは闇から出れないの!!」
ボサボサの白い髪に、白い無精髭の生えた骨ばった顔。青い瞳に血走った目。
この男は弱い。
ヒカリさんという一筋の光りが無ければ、生きてこれなかったぐらいに。
「今度はあなたが、光りになってあげる番だよ。あなたはもう一度ヒカリさんに会うんだ。ヒカリさんにとってもあなたは光りなんだからね」
彼、飛一郎は、目をしばたいた。
急に毒気の無い顔になった。
「……ヒカリ?」
「ヒカリじゃないよ。私は七海!」
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435 :げらっち
2024/08/12(月) 23:02:23
「お願いだ、私の友達を助ける手助けをして欲しい」
飛一郎は眉間にしわを寄せた。
「だがここから出ることはできん」
「どうして? 貴方は全てのイロを貰った上に、闇の魔術まで心得ているでしょう?」
「教師共が檻に細工した。呪詛返しだ。この堅牢にはどんな魔法も通じない」
私は牢を観察した。さっき私が蹴った部分が、僅かだが歪んでいた。
私は渾身の力で蹴ったとはいえ、たかが女の力で傷付くとは大したもんだ。さっき飛一郎が殴った際にも鉄格子は大きく揺れた。
「魔法がダメなら、物理で乗り切るってのはどう?」
コツン、私は鉄格子を叩いた。
魔法の護りに過信したのか、牢自体の強度を高めなかったようだ。
飛一郎は両手で鉄格子を掴み、全身をいきませた。
「フン……ッ!」
白い肌が紅潮する。鉄格子はプラスチックでできているかのように、軋み、歪んだ。
飛一郎はその隙間を通り抜け、私の傍に出た。
「で、次はどうするんだヒカリ」
「ヒカリじゃなくて七海だってば! 全然似てないでしょ! あんな可憐じゃないよ私は。ってかふざけてるとヒカリさんが悲しむよ」
私と飛一郎は地下牢から出ようとした。
すると喧騒と共に生徒たちの大波が流れ込んできた。誰も彼も頭から血を流し、服はボロボロに煤けている。
「地下なら安全だぞ!!」
「逃げろおおおお」
水が流入したように私たちは牢の中に押し戻された。
「任せろ」
飛一郎は大きな体で人波を逆らって歩いた。流れるプールを逆走するように、彼はしっかりと歩み、階段を登る。私は彼の背中に引っ付いていた。
外に出ると、生徒たちが地下に逃げ込んだ理由がよくわかった。
ピカリポットが連続光弾を降らせ、いよいよ戦隊学園は終わりの時が近かった。
「この世の終わりだあああ!!」
遅れて誰かが走ってきて、頭と頭がごっちんこ、私は尻餅を突いた。
「いった! 前向いて走って!」
相手も尻餅を突いていた。
「何だと、僕を誰だと思って……小豆沢七海!!」
「天堂茂!!」
あの赤い戦士だった。
「どうなっているんだ!? リーダーを気取るなら説明責任を果たせ!!」
「かくかくしかじかです」
私がふざけると、茂は私にチョップを決めようとした。
「この、白子(しらこ)――!」
巨体が茂を押しのけた。
「白が悪いのか?」
飛一郎の白い顔に見降ろされ、茂はブルった。
「は、はい、すいません、先生」
「教師相手とわかるとへつらうとは見下げ果てた奴だ。まあいい。俺はお前に恩がある。お前が居なければ、俺はヒカリに出会えなかったのだからな」
「……はあ?」
それは初代クローンの話だ。
「ていうか、黒子が天堂茂に関する記憶を消しに来なかったの? 何であなたは昔の天堂茂のことを覚えているの?」
飛一郎は答える。
「確かに黒子は記憶を抹消しに来たが、あんな貧弱な奴らはぶん殴って追い返してやったさ」
んな無茶苦茶な。
「どうしよう。ピカリポットを止めないと」
「お前の光りがあそこにあるのだな?」
飛一郎は私の背中を叩いた。
「よし、虹を掛けてやれ」
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436 :げらっち
2024/08/12(月) 23:02:40
「虹を?」
7色の虹を掛けろと?
でも現状、自陣は3人だけだ。黒と白と赤。
天堂茂はちょっと頼りないし、飛一郎は心強いとはいえ、3色では到底虹になれない。
「お前に言われて気付いたよ、ナナミ」
飛一郎は、ちょっとだけ笑った。
「戦隊には切っても切れない絆がある。俺はかつての同志たちのイロを貰った。俺の中にはヒカリの赤が生きている。お前の中にも仲間たちのイロが、宿っている。虹は作れるさ」
「いいじゃん、前向きになってきたね」
レプリエルと対決した時、私は公一、佐奈、豚、凶華のイロを借りた。緑、黄、桃、紫。
足りないのは青だ。
「楓」
私は目を瞑って、彼女の青を、ぬくもりを思い出した。
握ってれば、あったかくなるよ!
彼女はそう言って、私の冷たい手を、握り締めてくれた。
友情に触れたことのなかった私は、彼女のぬくもりに触れることで、ようやく雪溶けし、心を覆う氷の鎧も溶かされた。彼女なくして公一や皆にも出会えなかっただろう。
初めて友達の手を握り、指を絡めた時、私は彼女に惚れてしまったんだ。心と心がくっついて、もう離れなくなったんだ。そしてきっと、彼女も私のことを好きになったんだ。
あたしと七海ちゃんは一心同体!
彼女はそうも言ってくれた。
一時的に離れ離れになっても、私の中にはいつも楓が居る。飛一郎の中にヒカリさんが居て、彼が炎の魔法を使えたのと同じだ。
「ブレイクアップ」
蝶がさなぎを突き破るように、ザリガニが脱皮をするように、自分の中にある本当の自分が、真の姿を曝け出し、拘束から解かれるような感覚だった。
私はコボレホワイトに成った。
「楓、公一、佐奈、豚、凶華、力を借りるね」
私はイロに尋ねる。イロはうんと言った。
私はそして、天堂茂を見た。
「あなたも」
赤い戦士は戸惑っていた。
「に、虹などくだらない。それが一体何に……」
「みんなに会いに行くんだよ。くだらない見栄を張ってないで友達になろう。そのほうがよっぽど気楽だよ」
「……わかった」
天堂茂は、僅かに、分度器で測ったなら1度にも満たないくらい頭を下げた。
それで十分だ。
「使え!!」
彼は赤を投げてよこした。私はそれをキャッチした。
私は天に照準を合わせる。
「ニジヒカリ」
私は虹を描いた。
赤、青、黄、緑、ピンク、紫、そして白。七色の虹が、虹色のアーチが、空を塗っていき、ピカリポットに突き刺さった。
円盤は呆気なく真っ二つに割れた。
円盤の割れ目から多量の雨粒が落下し、学園中の炎を掻き消した。
ピカリポットは分割されながらも、尚も浮いている。
「じゃ、行ってくる」
私は足元から伸びる虹を、踏みしめた。
「待て、お前だけでは心配だ。戦隊のエースはやはり常に赤だ。僕なくしてコボレは始まるまい」
茂もついてきた。
一歩、また一歩と、虹の階段を上がって行く。数歩上がったところで、ちらりと振り向いた。
「あなたも来る?」
私は地上に残って居る飛一郎を見た。彼はハッとして私を見上げた。
「……虹に黒は無い」
「何色でもいいんだよ! 黒でも白でもいいの、この虹は。行こ!」
「……わかった」
私は茂と飛一郎と共に、虹を駆け上がった。
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437 :げらっち
2024/08/12(月) 23:03:07
虹の道から降り立ち、亀裂の入った白を踏む。自然なのか人工物なのかさえわからない地面。空なのか天井なのか宇宙なのか判然としない天。
ピカリポットに戻ってきた。
変身している私と茂、そして黒いマスクを装着した飛一郎は、割れて遥か下の学園が見えている地から、より白の深い地へ進む。
白の中に、レプリエルが立っていた。彼は寛いでいるようだった。
「出色だね、小豆沢七海。まさか虹を掛けてここに来るとは」
まるで授業を受けているかと錯覚するほど、いつも通りの表情だった。
この男は残忍だ。
「あなたは校長先生を殺し、私の友達を奪った。死者は蘇らないけれど、私の友達は返して」
レプリエルは指揮棒を失った代わりに、指を上げた。
すると白の中に透明な球体が現れた。その中に公一、佐奈、豚、凶華の4人が入っていた。
4人は球体を内側から叩いている。だが音も声も何1つ届かない。公一の口を読唇すると、「にげろ」、そう言っているようにも見えた。
逃げるもんか。
「この4人はすぐにでもニジストーンに変えてあげられるよ。それに、これ」
レプリエルは青い石を握り締めている。ニジストーンになった楓だ。
「楓に触るな! 楓の手を握るのは、私であって、あんたじゃない」
レプリエルは有邪気に笑った。私との対峙を楽しんでいるのは、彼に余裕があるからか。
「こちらは計6色だ。たったの1色で、どう立ち向かうつもりかな♪」
「1色だと? この僕が見えなかったとは言わせないぞ! 戦隊の花形の赤が居る!!」
茂が私の左隣に進み出た。
レプリエルは目をこするジェスチャーをした。
「あれ? 見えなかった。余りにもつまらない赤で見逃していたよん。お前みたいな取るに足らない安いペンは、1色にはカウントしないよね?」
なかなかビューティフルな煽りだ。
茂は勿論激昂した。
「父上に言いつけてお前をクビに――はできないが、僕は僕の力でも戦えるという事を見せてやる!! 貴様の赤なんかより、僕の赤の方が上等だと!」
レプリエルは「威勢がイイね♪」と言った。
「それだけじゃない。彼も居る」
私がそう言うと、飛一郎が私の右隣に進み出た。
「おやおや飛一郎♪ お呼びでないが、何の用だい?」
「決着をつけにきた。仲間と離れ離れになり悲しむ姿を、もう見たくないのでな」
私たち3人、レプリエルに立ち向かう。
「バックドラフト!!」
突如、茂が動いた。白い地から炎が吹き上がる。
「こら待て、リーダーの指示をちゃんと――」
だが茂は怒りに任せ、炎の中に飛び込むと、火達磨になって特攻した。天堂茂の赤は、もう作り物ではない。情熱の本物の赤。私は止めることもせず見入った。
「バーニングヴァルナ!!」
火の玉が飛び上がり、頭突きを噛まし、光りの天使を押し上げる。
しかし炎相手に炎、しかもレプリエルの炎の方が余程強大だ。敵うはずが無い。レプリエルは翼を大きく開き、茂を受け止めた。茂の威力が落ちていく。
「うぜえよ!!」
レプリエルはニジストーンを使うこともせず、己の赤だけで反撃した。
「茂危ない!!」
「ボウライド!」
火球が飛び、茂は落っこちて、何度もバウンドして、変身が解けて倒れた。全身に火傷を負っていた。
「アイシング!」
私は冷気の塊を被せ、茂の全身を癒した。次に攻撃、
「スパイラルアイス!!!」
氷の螺旋で天使を狙い撃つ。天使は翼をはためかせかわす。何度も何度も魔法を撃っては、かわされる。
「どうした七海、その程度じゃないよなあ? 最初の授業の時、きみに教えただろう。魔法はダイナミック、かつ、精密である必要があると!」
「ブリザードフット」
レプリエルの頭上に氷雪のドカ足が現れ、天使の頭に強烈なかかと落としを決めた。ドゴン! レプリエルは虫けらの如く地に叩き落とされた。
「アドバイスどうも!」
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438 :げらっち
2024/08/12(月) 23:03:21
終わりじゃない。
「落ちろドカ雪!!」
空中の大足は巨大な岩のような雪の塊となり、レプリエルを押し潰す。
「ランプ」
炎が立ち上がり、雪は瞬時に昇華した。だがホワイトアウトした一瞬に、私は敵に駆け寄り、
「校長先生の分だ!!!」
赤坂いつみの顔面を、思い切り殴った。
天堂茂を鋭く殴った時とは違う、鈍い音が響き、赤坂いつみの顔面は180度後ろに捻られた。普通の人なら死んでる。
だがこいつは天使レプリエル。首はゆっくり反転し、にやけ顔が私を向いた。
「本気を出せよ♪」
レプリエルは青いニジストーンを掲げた。
楓が輝く。以前の手合わせで、私は彼女を「弱い」と唾棄した。前言撤回だ。そんなことは全然無かった。
「強い」
奇跡の力が私を掴み、遠くに放り投げた。飛一郎が私を受け止めてくれた。
「……ありがとう」
「僕を殺すことはできないぞ? どうする七海」
「では闇に閉じ込めてやろう。永久に」
飛一郎の手から黒い靄が生まれる。それは凝固しサーベルへと形を変えた。
「ブラックサーベル!!」
飛一郎はレプリエルに駆け寄り、サーベルを振り下ろす。しかしレプリエルは、小さな石で、いとも簡単に受け止めた。
剣先がニジストーンに触れるなりサーベルはバラバラに砕けた。
「スパイラルフレア!!」
レプリエルの魔法。業火が飛一郎を突き押す。飛一郎も魔法を使う。
「スパイラルスノウ!!」
闇に塗られる前の彼は白、私と同じ雪属性だった。未だに彼の核にある白いイロが雪を放つ。
「スパイラルフレア!!」
雪vs炎、押し負ける。飛一郎は、負けじと叫んだ。
「炎魔法スバル」
私は咄嗟に腕で目を庇った。決して大きくは無いが、眩しい光が、飛一郎によって放たれたのだ。
「スパイラルフレア!!」
レプリエルは反撃した。しようとした。だがその炎は光りによって裏返り、スバルはレプリエルの額にぶつかった。
「うっ」
レプリエルは、転倒こそしなかったが、大きく仰け反った。
私は目を細く開けて、キラキラと光りの粉が舞うのを見ていた。
飛一郎に目線を移すと、どうだろう。彼の胸は、赤く、温かく、光っていた。
「ヒカリ……」
飛一郎は自身の胸を撫で下ろした。
そこにヒカリさんが宿っていると、実感したのだろうか。
「ははっ、やるねえ。だがこれは僕と七海の戦いだ。てめえは呼んでねえよ!!」
レプリエルは、馴染みの呪文を、唱えた。
「ブレイクアップ!!」
戦隊学園の象徴であるGレンジャー、そのエースのGレッド。その強化形態。
「レッドエンジェル!!!」
つづく
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