日記一覧
┗494.犬に関する覚書。(1-5/106)
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5 :
へ_し_切_長_谷_部
09/07(月) 18:32
雨が降った。さして気にもしていなかったが、次第に身動きが困難になるほど頭が痛くなり、仕方なく主に報告した。恐らく偏頭痛だろうと愁眉を寄せた主は、手入れでは治らぬ類のものだから、出陣を控え薬を飲んで暫く寝ておけと仰った。
痛む頭を枕に乗せれば、締め付けるような痛みが酷くなる。こんな事で動けなくなる人の器が憎らしい。主、俺はまだ働けます。そう言えなかったのは、敵との距離すら測れなかった事実から目を背ける事が出来なかったから。主がために振るう刀が敵を斬り伏せられんというなら、足手纏いでしかない。
目覚めてからも、鈍痛が続く。和らいだとはいうものの、完全な回復には至らなかったらしい。
外傷には慣れている。戦場に出る以上、当然だろう。
しかし、内側からの痛みは駄目だ。どう対処していいのか分からん。つらい、苦しいと口には出来ても、結局外から癒す事は不可能だ。飲み込む粉薬の苦味は、内を癒すのではなくその手助けにしかならんと聞く。
風邪を引いたら看病して、とあれは言うが、長く痛みや苦しみを抱えるより、手入れですぐに治した方がいい。あれに痛みを与えるのは、俺だけでいい。
人の身は厄介だ。面倒だ。あの美しい身体が目に見えん病に蝕まれる事など、想像したくもない。
_____
主が見舞いだと団子を下さった。一日置いても大丈夫だとひっそり笑った主の視線は、俺ではない遠くを向いている。その意味を理解出来たから、有難く明日頂きますと受け取った。
滑らかな餡子が慎ましい白の餅を包み、甘い香りを振り撒く。串に刺さったそれを食べるのは、明日、犬が俺の腕に抱かれに来てからにしよう。
まだ鈍痛が居座っている。流石に半日も付き合っていると、慣れてきた。
明日こそは、主に勝利を捧げます。
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あれに何やら責められた事を思い出した。曰く、誑しだと。
そうして更に思い出すのは、初めてあれから受け取った文。逆でも構わん、と言っていたが、特に異存がなかったためへ_し_切_長_谷_部としてあれの前に立った。あの時もし、俺があれの姿で顕現していたら。ーー今以上に責められていた気が、する。
まあ、所詮もしもの話であり、逆の姿であった時、あれが俺の隣を強請るかは怪しいとしか言いようがない。噛み付かれるのを好むようだし、満たされんと離れる可能性も高いだろう。
今のこの形が最良なのかも……疑問では、あるが。あれが嬉しそうだし、まあ構わんか。
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4 :
へ_し_切_長_谷_部
09/06(日) 14:22
あれとの会話を思い出せば思い出すほど、何故好かれているのか分からなくなる。
耳障りの良い声が率直な好意を伝えても、無感動に受け止めるだけで返しはしない。褒め言葉にも喜ぶ事はないし、柔らかな笑みを向けられても微笑み返す事はない。
それでいてあれが嫌がる事を強いたり、駄目だと言う事をしたりする。まあ、本気で拒絶しているわけではないのはその瞳が雄弁に語っているから、些か強引にでも強いるわけだが。
だというのに、あれは俺にとろりと甘い感情の欠片を差し出す。それもこれも、全部纏めて俺なんだから、と笑う。意地悪でも好きだ、と柔らかい声が囁く。物好き極まりない。
素っ気ない態度にも、意地の悪い手にも、嫌だと噛み付く代わりに腹を見せて喉を差し出す犬の姿は、やはり美しくて可愛らしい。
どろどろと腹の底で渦巻く黒いものは蛇の姿となり、その白い喉笛に牙を立てる事で理由の分からん満足感を得る。ああ、主。俺は、どこかおかしくなってしまったのでしょうか。刀としてお役に立てなくなってしまったら、…それがただひたすらに、おそろしい。
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3 :
へ_し_切_長_谷_部
09/05(土) 15:59
鏡を覗けば美しく精悍な顔を拝めるというのに、何故か俺を瞳に据えて格好良いと笑う。美的感覚は人それぞれというように、刀それぞれでもあるんだろう。
それににこりともしない俺は礼を言う事もない。主のために敵を屠れるのであれば、見目など気にしない。格好悪かろうが何だろうが、刀として働くまで。
そんな俺に飽きもせず格好良いと、心底そう思っているかのように言葉を捧げ、恋情というらしい柔い感情を白い顔に映すあれの心が、俺には分からん。
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正直、最初の頃の記憶は曖昧だ。主の事ばかり考えていた気がする。
傍に居たい、といったような事を言われた時、本当は断りたかった。
俺を好きだと囁く声が、甘やかな響きではなく悲鳴を隠して哀を滲ませる今後が、見えた気がしたから。恋を理解出来ん俺は、無自覚にあれの恋で満たした心とやらを弄び、踏みにじり、痛みの涙に恋情を溶かす未来を、作り出さんという自信がなかった。いくら無愛想で無神経な俺でも、優しいあれにそんな思いをさせたくなかった。それを口に出せず、お前が望むのならと言った俺は、秀麗な顔が傷付いたように歪む度に、やはり突き放せばよかったと思う。そうしなかったのはきっと、その時からあれが俺の中に居場所を作っていて、手放したくなかったからなんだろう。
今でも犬は尻尾を振り、多分に甘さを含んだ声で俺を呼んでいる。
決していい対応はしていない俺の腕に身を任せる犬は、本当に趣味が悪い。……だが、どうやら相性はいいようだ。
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2 :
へ_し_切_長_谷_部
09/05(土) 11:22
へ_し_切_長_谷_部
→主と犬以外には無関心で無愛想な刀。筆を持つのはこの一振りのみ。
犬
→美しいが物好きな刀。番となった。>>>144
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1 :
へ_し_切_長_谷_部
09/05(土) 11:04
美しい犬に懐かれた、無愛想な刀の話。
持て余した感情を整理するための帳面。
突発的なもののため、飽きたら圧し斬る。
——つもりだったが、嫌がられたため飽きたら保管とする。
無愛想で傍若無人な刀と、犬改め物好きで美しい番の話。
同性愛表現/エログロ明暗問わず
交流可、乱入不可/閲覧自己責任
>>2,0
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