日記一覧
┗494.犬に関する覚書。(6-10/106)
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10 :
へ_し_切_長_谷_部
09/12(土) 21:05
午睡は好きじゃない。作業効率がよくなる、という話を聞いた事があるが、怠慢の気がする。だが、本当に働きがよくなるのであれば、積極的に午睡を取るべきなんだろう。…分かってはいても、実行は難しい。
非番の昼下がり、足先からずるずると闇へ引きずり込もうとする眠気に抗えず、いつの間にか意識も闇に呑まれた。入眠も唐突なら、覚醒も唐突だ。目蓋を上げて起き上がり、既に光を無くして薄闇に浸された室内を見回す。まるで俺一振りだけ皆に置き去りにされたような、誤って異世界に生み落とされてしまったような、強烈な違和感が全身を包む。遠くの喧騒がそれこそ異世界のもののように感じるのは、午睡の後に必ず体験するものだ。迷子、という言葉が頭に浮かぶ。俺には不釣り合い極まりない。
あれの姿を探して部屋を出て、見付けた背中に声を掛ける。自分の声すら妙に遠くて、まだ眠気に抱かれているような錯覚に視界が霞む。振り返った白い顔はいつものように笑い、おはようと応えた。ああ、世界は変わっていない。不可思議な安心感が胸中を満たすのが、滑稽で仕方なかった。
これだから午睡は好きじゃない。
まだ指先に残る違和感が、俺を闇に招いているようだ。いつか主の、あれの、存在しない世界に、紛れ込んでしまうんじゃないだろうか。有り得ない、何故、そう言い切れるんだろうか。
_____
忘れていた。
あれはひ、ひえ、ぴた?というのか。それから、水。有難う。おやすみ。
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9 :
へ_し_切_長_谷_部
09/11(金) 21:21
柔らかい好意に対して尖った切っ先を向ける俺は、恋情を注ぐに相応しい相手ではないんだろう。あれは人のように実に多彩な感情を俺の器に注いでくるが、この人の形をした器は完璧に模しているようで、実際には所々に罅が入っている。注がれた感情を全て受け止めるのは難しいそれは、あちらこちらからころころと感情の欠片を零す。その結果、好意に刃を向けるという行動を生み出しているのかもしれん。
次の出陣までの待機時間、俺の顔を見た薬_研が、あからさまに眉を寄せた。素知らぬ顔をして書物に目を通す俺の前に胡座を掻き、わざわざ書物に指を掛けて顔の前から退けるという行動に頬が引き攣る。赤疲労目前じゃねぇか。文句を言うために開いた口は、言葉を亡くして再び引き結ばれる。
言われずとも、俺の身体なんだから俺がよく知っている。気怠い疲れは指先を微かに重くさせるも、出陣に影響があるものではない。…返事をしない俺に何を思ったか、溜息を吐く顔は幼いながらも涼しげで、あれとは違った美しさがある。まあ、俺は稚児に興味はない。噛み付くならばあれの白い喉がいい。好い仲の旦那がいるんだろう、膝にでも甘えてみたらどうだい。…………いつの間に、知ったんだ。
_____
どうやら、疲労からくる発熱、らしい。お前は電池が切れたように急に体調を崩す、とは主のお言葉だ。幸いにも明日は非番、静かにしていればすぐに回復するだろう。
…ああ、そうだ。鍵などこの刀の前では無力と知れ。今更どうしようとお前の自由だ、好きにすればいい。お前が秘めたいのならば、目を通す事もしないと誓う。
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8 :
へ_し_切_長_谷_部
09/10(木) 20:54
…………この時代の求婚は、指輪、を、用意すべき…らしい。指輪。……邪魔だろう。戦をする上で、あまり不要な装飾品の類は身に付けん方がいい。つまり、却下。
ではどうするべきか。指輪の代わりとなるものを用意するべき、…なのか?分からん…というか、何故指輪を渡す必要があるんだ。おまけに何故二種類もあるんだ。分からん。何を考えているんだ人間は。まず、あれ曰く事実婚とやらに、指輪は必要なのか。必要ならばどの指輪だ。頭が混乱してきた。待て、そもそも指輪は却下したんだ。そして本来の目的からずれている。なんという体たらくだ。主、俺はどうすれば…。
空を仰いでぐるぐると巡る思考に身を任せていると、心配を音にしたらこんな音になるのだろうと思うほど心配そうな声で五_虎_退に声を掛けられた。曰く、今にも首を吊りそうな顔をしていた、との事。なんだそれは…。眉を寄せると怯えて泣き出し、駆け付けた乱に怒られた。…俺は何もしていないんだが…。
先手を打ってやろうか、俺の可愛い犬。
お前が秘めている、言の葉の落ちる先を知っている。これで分かるだろう。分からん?これをお前に宛てている時点で分かる筈だ。…はっ、意地が悪いと言うか?そんなの、とうの昔に知っていただろうが。それでもいいと袖を掴んでいるのはお前だ。
ああ、勘違いするな。この帳面に記した言葉は全て、本音のみ。墨を含ませた筆は、建前を語る理由を持たんからな。
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7 :
へ_し_切_長_谷_部
09/09(水) 20:14
地を蹴る。柄を握る指に力が籠もる。振り上げて、袈裟懸けに。返す刃で腹を割き、首を落とし。
戦場を駆ける時は、どうしようもなく血が騒ぐ。切っ先が肉に食い込む感触は、記憶というあやふやな影と重なり混じり、馴染み深いものだと思い出した肌が震える。やはり俺は刀だ。血が、肉が、刀身を汚す感覚が、堪らない高揚を齎す。
あれは戦場の俺が好きらしい。笑顔が、とか何とか言っていたが、俺には理解出来なかった。
今改めて考えてみると、あれの刀としての部分が、人の器に在りながら刀としての魂を晒す姿に反応したのかもしれん。共鳴、とでも言うんだろうか。俺の刃が振り下ろされ、刀である事実を吼える振動に、あれの刃が震えた結果の好意。
ぷろぽーず。求婚、という意味らしい。
そんなものをした記憶はない、と答えると、主が顔を引き攣らせた。大事な事なんだからちゃんとしなさい、と噛んで含めるように仰られていたが、どちらかと言うとぷろぽーずとやらをすべきなのはあれの方ではないだろうか。先に言ったのはあれだった、筈だが。…しかし、主のお言葉には従うべきだろう。主は正しいのだから。…さて、どうすべきか……とりあえず調べてみるか。
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6 :
へ_し_切_長_谷_部
09/08(火) 20:28
今更だが、あれは犬扱いされるのが嫌らしい。この帳面ではあえて犬と記しているが、実際はきちんと刀として向き合っている。
だが、今までのあれを見ていると犬という印象が強いし、見えない筈の尻尾が見える。感情が分かりやすい。…可愛らしい、と思う俺の目は、些か不具合を起こしているのかもしれん。好意という名の、不具合を。
恋、というものが分からんまま、あれを腕の中に囲ってしまったが。
それでも嬉しそうなあれの心を、俺は今後も傷付けてしまうんだろう。何気ない言葉にもあれの心を傷付ける種は潜んでいるようで、俺にその意思がなくとも、あれに手渡された時点で指先を突き刺す棘が芽生える事は多い。全く難儀なものだ。
そう思いながらも棘を抜き、溢れる血を啜って傷を消すのをやめるつもりはない。それをやめたら、互いの思考がすれ違い、指どころか全身が血で濡れ、お前は土塊に還ってしまうだろうから。その程度の想像ならば、俺の頭でも可能だ。
だからあれの言葉に含まれる感情が僅かでも負へと傾いたのを感じたら、出来る限り己の言葉とあれの言葉の齟齬を探る。そうして棘などなかったんだと分からせなければ、肌に食い込む形のない棘はあれの心の臓まで達してしまうんだろう。涙で溶かせるものではないそれは、足りん言葉でそれを生んだ俺の手でしか取り除けない。
主は仰った、お前が彼との未来を望むのならば、大事に慈しみなさいと。何があっても向き合う覚悟で抱き締めなさいと。
主。覚悟ならば、きちんとしておりました。恋は知らずとも、折れて朽ちるその時まであれを大事にする覚悟をして、この頭を下げに参りました。
主。主。…どうかその眼で、見守っていて下さい。俺が道を間違えてしまわぬよう、あれを大事に出来るよう、どうか。
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