日記一覧
┗86.美しく残酷にこの世界から去ね(16-20/36)
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20 :
歌_仙_兼_定
06/02(火) 13:46
結局、僕は人の好意を断り切れなかった。
使い方を教えてもらった筆ペン二本とノート五冊、防水のための袋のようなものと
選り取り見取り。
>「僕が好きで君にあげるんだからいいだろう?」
何だかよく分からないがそういう事だったので受け取らせてもらうことにした。
そして更に、古めかしい本も借りてしまった。彼は上げるといったが僕には
保存できる場所が無い。だから、借りた。ちゃんと返すよ、といったらまた会えるね、と
彼は笑っていた。不思議な刀だねぇ。自分が損してでも僕になにかを渡すなんてね。
#「…ありがとう。今度は櫻を見においで。それしか僕にできることはないから。」
「嗚呼、そうさせてもらおう。また会おう、歌_仙。善行を積むようにね?」
「歌_仙!きょうはたのしかったです、またあいましょう!」
「今度は一緒にご飯をたべましょう?」
>「うん、歌_仙君…絶対会おうね。」
暗くなりかけた山道で僕は彼らを見送った。エンジン音が消えると懐かしい、虫と草の音がよく聞こえてきた。
踵を返して櫻の元へ向かう。歩いて2時間以上、決して人が近づかない場所にある。
…あの桜は人間を何故だか寄せ付けない。異形のものたちは寄せ付けるようだけれど。
見せない方がいいだろうか、と今更ながら思ったが約束したことを守るのもまた道というものだろう。
僕は夜目がとてもきく。思ったよりも早く桜の下についた。近くの洞に濡れぬようビニールなどを被せて本と購入したものをしまう。
#「…只今。」
そういって櫻の幹を抱きしめる。雅ではないし何かと胡散臭い櫻ではあるが久しぶりに見るとどうにも愛しい。
其の侭からだをずり落して横になる。疲れていない筈なのに、とても眠い。
#「僕は妖怪らしいよ…ふふ、君が僕なのかい?面白いね…善行を積めと言われたよ……人に対して。なにをすればいいんだろうねぇ。」
#「死にそうな人を食べたり殺すのは良い事に含まれるのかい…?」
#「……人間の判断基準がよく分からないよ。」
#「今は眠りましょう…起きれば分かるかもしれませんから」
#「……。」
誰かの声がしたような気がしたけれど、僕の瞼はもう重く。
身体もとても怠かった。闇の底に落ちていくように僕は眠りに落ちていく。
#「お休みなさい。」
>>21
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19 :
歌_仙_兼_定
06/02(火) 13:13
>>18
>「石_切_丸って実力はすごいんだけど機動力が一番無いんだよねぇ…。」
>「ねぇねぇ歌_仙君、石_切_丸と何をしゃべったんだい?」
#「大したことではないよ。唯、僕が妖怪だということと、余り『本体』?から離れてはいけないことをいわれたよ。」
>「ふーん。付_喪_神じゃなくて?」
#「妖怪、っていっていたねぇ。僕には違いがいまいち分からないけれど。」
#「君たちは人間と違う。僕も違う。そして僕と君たちも違う。彼はそう結論づけたんじゃないかい?」
#「…そういえば君と彼はとても仲がよさそうに見えた。人間みたいだね。」
青_江の目が丸くなる。複雑そうな色合いを灯しながらも声のトーンが落ち着いた。
>「…僕と石_切_丸はいわゆる恋人同士だよ。」
#「恋人…?衆道かい?」
>「そんな処だね。10年前くらいから付き合っているよ…鍛刀されてから20年くらいたっているからね、僕は。」
>「僕を捕まえて傍に居ろだなんて、変わり者だよ。…本当、君の言う通りすっかり人間のようになってしまった。」
#「…僕にはその感情が一切理解できないけれど見るだけ君は心地よさそうだね。」
>「まぁ…彼が居なければ僕は立ち直れなかった部分はあるからね。」
#「?」
>「いや、何でもないよ。」
最後の言葉が低い声すぎて僕には聞き取れなかった。青_江の手はいつの間にか僕の手首から手の平に絡んできていた。
歩く速度も僕に合わせてくれるようだった。彼の肩を覆う白装束が儚げに揺れる。
……あの万年咲いている櫻の下に彼をつれていったらさぞかし映えるだろう。白皙の肌に散るさくら色と紅はきっと雅だ。
青_江が一段と黒い、立派なたたずまいを指さした。
>「此処が万屋だよ。結構大きいよねぇ…。」
>「折角だし、君のものも買おうよ。後で渡したいものもあるんだ。」
>「ね、歌_仙君。」
僕のモノと聞こえた。流石に遠慮しよう。世話になりっぱなしだからね。
其れを述べる前に青_江は僕を万屋の中につれていく。挨拶が交わされる、見様見真似でしてみる。
笑顔が返ってきた。なんだか心地よいね。彼らはこんな生活に身を置いているのか。
#嗚呼、悪くないねぇ
#人のように接し、人のように生活するというのは。
…もう二度と、ないだろうけれど。
>>20
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18 :
歌_仙_兼_定
06/01(月) 21:39
馴染みの場所についたのは休憩から間もなくだった。石_切_丸のいうとおり、躯の力が漲る。僕の元となるものが比較的近くなった証拠だった。
三方を山に囲まれた自然豊かな集落。地面に転がって大地を堪能したくなったが雅に欠けるため、やめた。
「具合が随分楽になっただろう?」
#「おかげさまで。僕が妖怪である印だねぇ……」
「一人で大丈夫かな?」
#「……世話をかけたね。何かお礼をしたい。一方通行は雅にかけるからね。」
#「櫻でも見るかい?」
「今の時期に櫻ですか?」
#「一年中咲いているんだよ。雅じゃないが、はじめて見る分には悪くないんじゃないかい?」
「それはいいね。是非一度拝んでおきたい。」
>「……」
僕は何も持っていないし、何もできない。
出来ることと言えば人を食べることと櫻の下で眠ることだ。
喜んでもらえればいいけれど、人里からかなり離れたところにあるのが難点だ。
#「かなり奥地にあるよ。車をつかっても二時間以上歩くしね。君たちも用事があるのだから遅く返して心配をかけるのは気がひけるからねぇ。」
「それは遠いな。次此方にきた時にでも頼もうか。此方にはよく買い出しの用事を頼まれるからね。」
>「ここにしかないものが売ってるからね。」
#「嗚呼、そうなのかい?僕は山の中でぶらぶらしているだけだからね。」
>「万屋についたよ。歌_仙君、君も一緒にいこう。それから山のほうに寄るから。」
#「君たちと一緒なら怪しまれないかな。人の生活の営みを見たかったんだよね。」
「挨拶が大切だよ。人と人とが会話するのだからね。」
石_切_丸はそんな一言を付け加えた。短_刀たちが後ろの席から勢いよく飛び出し、
僕も其れに倣った。たった一週間と少し離れていた場所なのに、10年ぶりに戻ってきたかのような感覚を覚える。
何より、街で嗅いだ匂いよりもずっと澄んでいて。呼吸に困らなかった。
短_刀たちが人々に挨拶をかけていく。村人はにこにこしながら彼らにあいさつを返していた。
…そういえば僕は全然話しかけなかったな。そんなことを想っていると手首に指が絡んだ。
横を見ると、青_江が居た。どこか、とても嬉しそうだ。彼は何処か僕に馴れ馴れしかったが
振り払う気にもなれなかった。彼の方が歩く速度がはやいのか、腕が引き伸ばされる。
「ほら、青_江。君の方が機動力があるのだから歌_仙が転んでしまうよ。」
僕よりもずっとのんびりとした石_切_丸が笑った。
どこか恥ずかしそうな色を孕む金色。はにかみ、心を許すようなかんばせ。
長い髪を掻いて彼を見る青_江の視線はどこかしら他の刀を見るときとは違って見えた。
此れに何と名前をつけていいか分からないが、強いきずなを感じられた。
#まるで人間の様だとも。
手首をつなぐ手が強くなる。
>「君も早く来なよ。あんまり遅いと短_刀たちが余計なものを買ってしまうからね。」
「はいはい。財布を持っているのは私だということは忘れないようにね。」
「無駄遣いは長_谷_部に怒られてしまう。まぁ、少しくらいなら主_殿も許してくれるだろう。」
穏やかな声が返ってくると青_江はその機動力というものをいかして歩き始めた。
石_切_丸と距離が離れる。随分ゆっくりとした人だな、と思っていると子どもの内緒話のように
青江が話しかけてきた。
>>19
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17 :
歌_仙_兼_定
06/01(月) 10:55
#閑話休題 そのいち
僕達は何処までも刀で、何処までも付_喪_神。
愛しさは何時しか霞み、見向きもされず。
光に集まる羽虫のよう。
好んで惹かれて永遠を望みながらまた離れて。
別の光にやかれる為に彷徨っている。
>ねぇ、それの名前を教えてよ
>それはあったかいんだろう?
>何度も何度も心臓に灯したけれど
>消えなかったためしがない
#私にも教えてくれないかい?
#神_剣になっても分からなかった
#独占したくなるものだろう
#神には分からぬ人の業かな?
>僕らは知らない
#知らなくていい
雅は当事者になってはいけない
>嗚呼知っていたね
#思い出さないで良い
それもまた立ち枯れた牡丹の一つだよ
>僕に必要なのは戦のみ
>さぁ笑いなよ、に_っ_か_りと。
>うたい方を忘れたならば教えてあげるよ
>斬_っ_た_り_斬_ら_れ_た_りしながら思い出そう
#祓_い_給_え、清_め_給_え
#八百万の神々にかしこみかしこみ申す。
#それは知らぬが慈悲は知る。
#似て非なる人の業の深さよ。
それを知らずに僕は歌う。多分人の身を借りても永劫知ることも無し。
「貴方はそれを知っている」
冗談にして笑えない。1000の言葉で表現しても理解できるものではない。
それが僕なのであれば仕方がない。
僕たちは何処までも人の命を奪う刀、人に使われて自我を持った付_喪_神
与えることのできる人になることなど、永遠に無い。
>>18
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16 :
に_っ_か_り_青_江
05/31(日) 20:55
>お目付け役との外出
夜_戦しか用のない僕は今_剣君と秋_田君、石_切_丸と……歌_仙君とで出かけた。歌_仙君は一方通行だけど。隣に乗った君はすごく楽しそうに窓から顔を出していた。あぶないよ、と首を掴むと嫌そうにした。かわいいね。
石_切_丸がいることも忘れてつい心を許してしまった。どの歌_仙君も響かなかったのに不思議だなぁ。
彼の雰囲気は似ている。
血の匂い、鬼と地獄の香り。人の悲鳴を背負っても尚平然としている姿。僕よりも人としての時間が長かったくせにずっと人まがいだった刀_剣_男_士。人のふりした付_喪_神。僕が人に近づくとしきりにうらやましがってくれた。
#むせかえるような、藤の匂い。
#怨鬼の碧眼
#雅を被った打_刀
#美しくて
#「……?」
>「に_っ_か_り_青_江。僕の名前だよ。」
>「白い子が短_刀の今_剣、淡いピンクの子が秋_田_籐_四_郎、狩衣の大_太_刀が石_切_丸だよ。」
#「に_っ_か_り?」
>「青_江のほうがいいかな。」
#「青_江君」
『青_江君、君が■■■■■■■■■■■■』
>「そう、また会うかもしれないしね。頭が暇なら覚えられるでしょ?」
#「君は失礼だな」
>「ふふっ、ごめんね。」
#「暇だからね、覚えてるよ。恩人を忘れる程薄情でもないさ。」
「青_江、歌_仙、石_切_丸!!」
「お腹すいたよ、何かたべよう?」
「嗚呼、もうそんな時間だね。歌_仙君も腹がへっただろう?」
#「僕は人の食物があわなくて」
「……なるほど。では私と一緒にいよう。青_江、君は短_刀たちと食べにいってくるんだ。」
>「わかったよ、石_切_丸、いじめちゃだめだよ?」
「はは、そんなことはしないさ」
バックミラーにうつった御_神_刀はほがらかに笑んでいた。
『また僕に教えてくれ、人というものを。』
あの時君は笑っていたのかなぁ……。
>>17 閑話休題回
>>18 本編
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