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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗281-291

281 :げらっち
2024/07/12(金) 20:43:22

第26話 グレーゾーン


 本日は曇天。私にとってはちょうどいい天候だ。
 世界一ののっぽが背伸びして、空という広大な天井に、薄い灰色の絵の具を塗ったような、何処まで行ってもグレーな空。
 青天白日とは言うが、白いのは曇天だ。曇天白日。

 外の世界。

 私はリュックを背負い直した。
 天堂茂を下して、良い気分。まさか校外学習に出かけた7戦隊のうち、最有力のエリートファイブが一番に落伍するとは、学園の誰も予想しなかったろう。
「それじゃ引き続き、他戦隊を探そうか」
 私は軽快に歩を進めた。草木に覆われた世界を藪漕ぎし、進路を切り拓く。


 突如目の前に赤が広がった。
 理解が追い付かない。自然にも人工物にも見えない、ただただ赤い地が一面に広がる。
 頭は回らぬまま脚は歩を進めてしまった。得体の知れない赤い地に足が着きそうになる、その直前、後ろから引っ張られた。両足がそろい、前のめりに倒れそうになる。リュックが引かれ、ナナメ45度で止まった。
 私の目と鼻の先に無機質な赤。
「やめとけ」
 背後から声がする。リュックを引っ張って、鋭角のピサの斜塔を支えているのは凶華のようだ。
「足を着ければ、死ぬぞ」
 強く後ろに引っ張られ、尻餅を突いた。
 凶華が刃物のような鋭い表情で私を見下していた。この犬のこんな表情は初めて見た。
 私はへたり込んだまま訊く。
「何あれは。血?」

「血なら良い。血は生の証だから。死んだとしても、かつて生きた証だから。この赤は、死ですらない。生死のサイクルに存在しない。始まりから終わりまでずっと赤信号。少しでも踏み込めば、お前も生命のサイクルを外れた赤の一部と成る」

 ぞわ、恐怖が体を撫ぜた。
 その恐怖は赤き地への恐れが半分、忠実だった凶華が私に高圧的になった事への怖さが半分だ。

 凶華はシニカルに笑った。
「そんな無警戒でよくリーダーが務まるな?」

「言うねえ……」
 私はお尻を払い、立ち上がる。
「助けてくれてありがとう。でもお言葉を返すようだけど、外の世界は初めてだし、知らなくても無理なくない?」

 凶華は外の世界を生きてきたのだから、そんなことは常識だろう。でもシティで育った私には知りえないことだ。
 賛意を求めて皆を見る。するとコボレの皆は、意外な反応を示した。
「凶華くんの言う通りですよ。外の世界で真っ先に気を付けねばならないのは、赤く塗られた地を避けること。赤ちゃんでもわかるジョーシキでしょ?」と佐奈。
「せやねんな。赤の地に突っ込んで行くとかどうかしとるわー。流石にお前がリーダーでいいか疑いたくなったで?」と公一。
「それは言い過ぎブヒけどね……」と豚。

 え!!?

 何だかアウェイだ。
 楓の方を見る。
「楓、あなたは知らなかったよね?」
 この子だけは私の味方で居てくれる気がした、が。
 楓は目を逸らした。
「あー……知ってたよ。赤の日に赤く塗られた地は、アブないって」

 まさか私の知識が楓にも劣るとは!!!
 いや、その言い方には語弊がある。別に楓を舐めきっているわけではない。
 それでも自分1人が世間知らずだったことを思い知らされたようで、穴があれば入りたかった。
「わかった、ごめん、気を付けるよ」
 私の顔はレッドに染まっていたかも知れない。

[返信][編集]

282 :げらっち
2024/07/12(金) 20:43:50

 赤き地は異様だった。
 生命が存在できない空間。植物も例外では無いようで、緑と赤の境界線ががくっきり引かれており、森の中にぽっかりと自然の欠落した場所ができていた。

 これからもずっと、何も生まれないだろう地。

 世界の半分を塗り潰したのは、一体誰なのだろう。人の手でできるとは思えない。かといって自然現象とも思えない。
 理解が追い付かない時、人はそれを神の仕業と仮定し、自分を納得させようとする。

 呆然と赤を見つめていると、佐奈が言った。
「ここはもう離れましょう、七海さん」

「そうブヒ。赤き地には近付くな、ってローカルヒーローのパパとママからよく聞かされたブヒ。もし敵に追われていた場合、赤の地に追い込まれると、逃げ場が無くなってしまうブヒからね」

 パパとママ、か。
 私には無い物だ。
 親は子に、生き抜く術を教える。それは愛などという抽象的な動機ではない。自身の遺伝子を未来につなげるバックアップを、安全に生存させるための義務なのだ。
 楓も佐奈も公一も、親からそのようなことを学んで育ったのだろう。私には、そんな教育をしてくれる人も、叱ってくれる人も居なかった。
「行こうか」
 私は赤に背を向けて、歩き出した。


 ミーンミンミンミン……
 曇りでもセミは鳴いている。

 外の世界には赤マムシも居れば怪人も居る。素肌を露出して歩くのは危険すぎるので、暑い中でも皆長袖長ズボンのジャージを着ていた。
 しばらく歩くと、空を覆う程の巨木の下に出た。
「見てあそこ!」
 楓が上の方を指さした。皆痛くなるまで首を上げたので、自動的に口も開いた。目を凝らすと高い木の上方に、ミンミンゼミが貼り付いていた。
「あのセミちょっとデカくない!?」
「やだなあ伊良部さん。遠くに居るからそう見えるだけですよ」
「いやいや、外の世界だから独自の進化を遂げデカくなったかもしれないブヒよ?」

 おかしなセミ、ねぇ。

「セミなんてどうでもいいねん! 疲れた、ちょっと休もうや」
「体力無いねヘタレ公一」
 と言いつつ私も疲れてきた。
 蒸し暑く、ジャージは汗で濡れている。重い荷物を背負っているせいで肩が滅っ茶痛い。
 木の根を椅子代わりに、しばしの休息を取る。

 私は水色のリュックを下ろした。ドサ、重い音。
 分業で持ってきた荷物のうち、私は水筒を持ってきていた。全員の荷物の中で一番重いかもしれないが、リーダーならこのくらいは頑張らなくちゃね。
 食糧は豚が持ってくる手筈になっていた。豚の背負う大きなリュックの中に、彼の手作りの料理が入っているのだろう。豚コックはなかなかの腕なので、楽しみだ。

 私のリュックの中は氷魔法でクーリングされており、開けるなり冷気が飛び出した。きもちいい。7本の2L水筒のうち、1本を取り出した。麦茶はキンキンに冷えている。

「回し飲みでいいよね?」

「もち!」
「嫌がる人の気がしれないぜ?」
「七海ちゃんと間接キスしたいブヒ!!」
「おのれ豚、叩っ斬ってやろか!?」
 4人が賛同する中、佐奈だけは電動歯ブラシみたいに高速で首を横に振った。
「いやいやいやです。ばっちい。無理・拒否」
 否定の羅列だ。
 まあ確かに男子と間接キスをするのに抵抗があるのは無理もないか。
「私とならいいよね?」
「は? 思い上がんな七海さんも例外じゃなく全員と嫌です。これは好みの問題じゃなく生理的に受け付けませんというモンダイなのでいくらうちが七海さん大好きで七海さんのスタンスにバイブレーション感じちゃってるからといってどんなアプローチしようが拒絶する」

 酷い言われようだ。
 この状態になった佐奈を懐柔するのは私でも不可能なので、佐奈が一番最初に飲んでいいことにした。

「まったく、佐奈は手のかかる猫ちゃんだな」
「お前もひねくれてるとこ猫感あるやん。コボレの黒猫と白猫やな!」
「あん? 私が白猫?」

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283 :げらっち
2024/07/12(金) 20:44:11

 佐奈、楓、凶華、公一、豚の順でラッパ飲み。最後に私が3口飲んだところで、水筒は空っぽになった。想像以上に減りがすさまじい。
 水も食糧も温存しないと。
「他戦隊を凹って物品奪うのもアリっすよ。きゃはッ」
「でも散り散りになった他戦隊を見つけるのは至難の技ブヒよねえ」
「いや、案外まだ近くにおるかもしれへんよ?」

 すると、ふいに凶華が立ち上がった。木の幹を指さして、無邪気に言った。

「見ーっけ!!」

 私たちは凶華の指さした方を見た。食べられる虫でも見つけただろうか、と思ってよく見るとあらまビックリ。

「よ、よくぞ見つけたな……」

 迷彩色の変身に身を包んだ戦士が、背中を木に向けへばり付いて居た。
 コボレ全員が身構えた。
 セミでもないのに木に擬態していたこの男、イロは黄緑だ。風景に混ざってしまい、共感覚でも見つけることができなかった。何という隠密スキル。それに気付ける凶華もスゴイ。嗅覚のお陰か。

「何あなた? 私たちから食糧を奪おうと思って隠れてたの?」
「ち、違う……ここに潜んでいたらたまたまお前らが来たのだ。オレは強生戦隊サバイブマンのグリーンサバイバー、敵意は無い」
「それならあたしたちと一緒に行こうよ!!」
 楓がそう言うと、グリーンサバイバーはウィスパーボイスで怒鳴った。
「しーっ! 静かにしろ! ここは外の世界だぞ!? 何処に怪人や悪の組織の手先が居るかわからんのだぞ! もう少し緊張感を持って行動しろ!」
 グリーンサバイバーは木にくっ付いたまま微動だにせず、ゴーグルの下の目だけをギョロつかせて周りを見ていた。目元は汗でぐっしょり濡れている。

「グリサバ、見えない敵と戦ってるの?」と楓。
「グ、グリサバだと!? 変な略し方をするな!」
「ところでグリサバ、あなたのお仲間はどこなの?」
「グリサバを流行らせるなよ!!」
 グリサバは必死に周りを警戒している。
「ブルーサバイバーとバイオレットサバイバーもこの近辺に潜伏している! 夜になるのを待ち、闇に紛れて学園を目指す戦法だ! 忍術クラスたるもの、夜に活動するのがセオリーだ! わかるだろう江原公一?」
 グリサバは同じクラスの公一に話を振った。
「まあわかるけど、それは対人の戦法やろ?」
「怪人は夜になると活発化するから、日の出ているうちに安全地帯を見つけておいた方がいいぜ? こんな見つかりやすい場所でかくれんぼとは、あほだなー」と凶華。
「ぐ、ぐぬぬ……」

 怪人、夜になると活発化するのか。
 やはり外の世界を生き抜いてきた凶華は頼りになる。この犬の先導があれば、コボレは無事学園に辿り着けるかもしれない。
「それじゃこんな奴ほっといて先を急ごう? 凶華、嗅覚で学園への道を探してみて?」
「くうん、オッケー」

 その場を離れようとすると。

 突如足元が発火。横に切り裂くように、火柱が立ち上がった。
「危ない!!」
 私は後ろに居た凶華を押し倒した。凶華は佐奈に、佐奈は楓に、楓は公一に、公一は豚にぶつかり、ドミノ倒しのように全員倒れた。炎は私たちの頭上を駆け抜けて行った。

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284 :げらっち
2024/07/12(金) 20:44:54

 変身していなかったので、直撃を受けたら大火傷を負っていただろう。
 ガスの匂い。伏せる私の目と鼻の先、緑に横一文字の焦げ目が付き、弱火のコンロのように、小さな炎が燃えていた。

 背後からグリサバの声。
「ほ、ほら見ろ! 不用意に動くから悪の組織に狙われるんだ……!」

 いや、これは悪の組織じゃないだろう。だってこれは炎魔法。

 私は恐る恐る立ち上がり、倒れている凶華に手を差し出した。
「助かったぜ、リーダー」
「借りは返したからね」
 凶華は私の手を掴み、立ち上がる。他のメンバーもめいめい起き上がった。

「かわすとはやるじゃん、ななみん~!」

 聞き覚えのある声。

 火の向こう、木々の合間から、5人組の戦隊が顔を現した。

「先制攻撃成功しちゃったぁ~!!」
 先制攻撃というか、ただの不意打ちだが。
「こんな所でエンカウントなんて、奇遇だネ! 運命、感じちゃう?」

 このうざったい喋り方は、魔法クラスの長井華だ。
 赤い変身に赤いとんがり帽子を被り、フリルの付いたミニスカートを穿き、ハートの付いたステッキを持っている。まるで魔法使いのコスプレをした幼女を、体だけ大きくしたようだ。
 青・緑・黄・ピンク、極彩色の4人の仲間を連れている。

「あなたのマホレンジャーはとっくに戦ー1敗退したはずじゃなかった?」

 長井はステッキをブンブン振った。
「やだなぁ、それは昔の話ぃ! 新しい戦隊を組み直したら、戦ー1に再エントリ~できちゃったのぉ~! ラッキ~! ち・な・み・に新しい戦隊はクラス混合なのぉ! ななみんの戦隊にインスピレ~ション受けまくっちゃったんだぁ! それじゃみんな、名乗るよぉ~! ま~ず~は、華からぁ! 攻撃力はトップクラス! 魔法クラスのマホレッド!」
「オールラウンダーのバランスタイプ! 武芸クラスのユウシャブルー!」
「盾になります! 格闘クラスのセンシグリーン!」
「回復担当! 化学クラスのソウリョイエロー!」
「ミーの料理は世界一! スペシャルクラスのコックピック!」

 5人はステッキと剣と拳と杖とフライパンを掲げ、ポーズを決めた。

「ロープレ戦隊クエストファイブ!!!!!」


 コボレのパクリだ……

 ていうか何でRPG風パーティにコックが居るんだ。

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285 :げらっち
2024/07/12(金) 20:45:23

「タンマ、ちょっと待てや!」
 公一が私の前に進み出た。
「同じ戦隊学園の戦隊同士なら、生き抜くために協力しようや!」

「ごめんねぇ、それはできないかなぁ」
 長井は内股を直角に曲げ、身長を低く見積もってかわい子ぶった。
「生き残るのはクエストファイブだけで十分っ。ななみんのこと、おこだから! いつセン(いつみ先生)がななみんのこと、何て呼んだか聞いてたぁ? 《僕の自慢の生徒》って言ったんだよぉ? ななみんばかりチヤホヤされて、ひどくない!? 1人だけかわい子ぶって先生に気に入られようとしてるんだよぉ? プンプンなんだからぁ~。あ、そ~だ。キミ、有名な江原公一くんだよね? そんなうだつの上がらない戦隊辞めて、キミもぉ、華の戦隊に入らない? ニンジャグリ~ン、歓迎だよっ♡」

「俺はどうなるの?」とセンシグリーン。

 公一は♡を鵜呑みにし、顔を赤らめて「そ、そう言うなら入らせてもらおかな……」と言った。これだから男は……
 私が彼の脛をキックする前に、佐奈が割り込んだ。
「こら江原。あんなブリっ子此の世の産業廃棄物です。甘やかしたら明日は無いですよ。うちの目が黒いうちは許しませんのよ。あんなのただの、白雪姫に嫉妬する魔女デスよ」

「魔女!? 華が醜いおばあさん魔女だって言うの!? ひどぉい!! 華泣いちゃうんだからあ!!」

 長井は大声で泣き出した。

 ユウシャブルーが言った。
「長井華氏! それよりさっさとコボレンジャーをゲームオーバーさせてしまいましょう!」
 長井はケロッと泣き止んだ。
「そうだね。じゃあル~ル説明よろぴく~」
 ユウシャブルーは私たちに向かって言う。
「虹光戦隊コボレンジャー! 我がロープレ戦隊クエストファイブは、貴戦隊に、RPG風のバトルを申し込む!!」

 RPG風のバトル、か。

「以下にルールを説明する! 一度しか言わぬので、よく聞くように! 一、このバトルは正々堂々、5vs5のバトルを採用する! 従って、貴戦隊にはメンバーを1人外して貰う! 一、このバトルはターン制を採用する! 5名が1度ずつ行動したら、相手の戦隊のターンとなる! 同じ人物が2度以上攻撃を行うのは、反則なので、絶対にしないよう!! 一、戦隊内での行動順は、ターンごとに変化させても差し支えない! 一、このバトルは、HP制を採用する! 華氏の魔法で、全員のHPメーターが常に表示される! HPが10を切ったメンバーは、戦線を離れる! HPが10以下になったメンバーに対し過剰なダメ押し攻撃を行うのは、反則なので、絶対にしないよう!! 一、戦線を離れた者の復帰は、原則として不可能となる! 一、貴戦隊はスタメンから外していたメンバーを、1人以上のメンバーが戦線を離れている状態なら、いつでも召喚することができる! 一、当戦隊は、ソウリョイエローの蘇生術により、戦線を離脱したメンバーを、一度だけ復帰させることができる! 一、どちらかの戦隊の戦えるメンバーが0になった時点で、勝敗が決まる! 一、アイテムの使用は、事前に登録しておいた物に限り、各戦隊3度まで使用が可能となる! 一、ターン中に逃げる宣言をした場合は、その戦隊の敗北となり、バトルは終了する! 最後に、このバトルの先行は、エンカウント時に先制攻撃した当戦隊となる! では始めるぞ!」

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286 :げらっち
2024/07/12(金) 20:45:47

「オチコボレーザー・ヘキサ!!!!!!」

 長文の間に変身していた私たちは、ロープレファイブに必殺技を撃ち込んだ。
「んぎょわぁ~!!」
 哀れ戦隊は6色に輝きながら大きく吹き飛び、木の枝に頭を打って落っこちた。
 全員を倒せたかと思いきや、倒せたのは野郎4人のみで、マホレッドのみ咄嗟にバリアを展開しており無事だった。

「ちょ、ちょっとぉ~!! 今のル~ルを聞いてなかったのぉ!? 反則なんですけどお! 先生に言い付けちゃうんだからぁ~!!」

「うるさいな、勝手に言い付ければ?」
 私たちはかまちょ女を放置して去ろうとする。

 すると、バタバタと大きな羽音がした。
 頭上を見ると、さっきの大きなセミが滑空していた。それは宙返りし、瞬く間に昆虫から、女性に変化した。

「ロープレファイブはここで脱落よ!」

 桃山先生は華麗に着地した。
「どしぇー、あかり先生!!」と楓。
「ミンミンゼミのアニパワーよ! 驚いたかな?」
 皆驚いて、口をあんぐりこと開けている。桃山先生はそんな顔、顔、顔を見渡して悦に浸っていたが、私を見て眉根を寄せた。
「あら? 小豆沢さんは驚かなかったの?」
「はい。だってわかっていたから。桃イロが見えていたから。私は人間以外の生物にはイロを感じない。イロが見えたってことは変装、しかもそのケバいピンクは桃山先生ってわかったよ」
 教師は「ケバい」の3文字の所だけ口をひくつかせていたが、最後は満開の梅の木のような笑みになった。

「さすが、いつみが見込んだだけのことはあるわね!!」

「……いつみ先生とどういう関係で?」

 桃山先生は私の愚問は無視し、倒れているロープレファイブのメンバーに歩み寄った。
「戦闘不能ね。学園に強制送還よ」
 桃山先生の合図で、木々をなぎ倒して黄瀬先生の運転するバスが現れた。恐らく天堂茂たちもこのバスにピックアップされたのだろう。

 長井は不服のようで、小柄な教師に詰め寄った。
「華は負けてません! 負けたのはコイツらだけです!!」
 長井はハートのステッキを倒れている男たちに向けた。
「コイツらが使えないから!!」
 だが桃山先生は冷めた目で彼女を見た。

「舐めないで。戦隊はチーム戦なのよ。チームとして負けた時点であなたも負けですし、メンバーを見捨てようとした時点で戦隊失格です」

「……ッ!」
 長井はハートのステッキを地面に叩き付けた。ステッキは折れた。

「ヤレヤレ、飛んだタイムロスだったな。早く行こうぜ」
 凶華は匂いを辿って進み出した。

「残り5戦隊ね。武運を祈るわよ、イラちゃん!」
 桃山先生は楓に銀幕スターのようなウィンクを送った。
「はーい!」と楓。


 蒸し蒸し蒸れている中、私たちは歩いた。
 雲に隠れて太陽の位置は見えないが、恐らくはもう、午後に差し掛かっている。リュックを背負う肩は重だるく、歩き疲れた足の裏はうず痛い。
 水筒は残り2本にまで減っていた。

「凶華くん、本当にこっちであってるブヒ?」
「ああ。こっちからニンゲンの残り香がするぜ」
 先頭を行く凶華は、屈み込んで匂いを嗅いでいた。
「見ろよ、これ」
 犬は草を掻き分けた。私たちはそれを覗き込んだ。

 黒く固められた地面。雑草に侵食されているとはいえ、これはアスファルトだ。

「ていうことは……あっ、察し」
 佐奈が上を見た。
 木だと思っていた物は、ツタに覆われた電柱だった。私はツタを掴んで引き剥がした。「文」のマーク。ここは赤の日以前、通学路だったらしい。
 今は自然に奪還されたものの、真っ直ぐに舗装された道が続いているようなのだ。
 文明の遺物に、胸が騒いだ。
「行ってみよう」

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287 :げらっち
2024/07/12(金) 20:46:08

 自然が開けた。

「ここは……」

 私たちの居る場所は高台になっており、人類の痕跡が見渡せた。

「学園じゃないことは確かだね」

 学園ではない。
 シティでもない。
 街だ。
 詳しく言うと、赤の日以前には機能していた、元・街だ。

 荒廃した街を見渡す。
 かつては繁華な眺望だったに違いない。だが、今は景色全てが死んでいた。
 ビルはジェンガのように崩れ、広場には大きなクレーターがあり、そこら中に壊れた建物や車が散らかっている。その全てが灰に包まれている。生命は見当たらず、その遺品があるのみだ。

 赤の日、日本は人口の半分を失った。行政も機能しなくなったとされる。
 赤く塗られなかった集落の人々は、懸命に生き続けようとしただろう。それでも赤血球を失えば栄養が滞る。白血球を失えば外敵から無防備になる。血小板を失えば傷が治らなくなる。戦争や怪人の襲撃により、人類はみるみるうちに激減したのだろう。

「降りてみよう」
 私がそう提案すると。
「やめーや!」
 公一が言った。
「寄り道せんではよ学園に帰らへんと。見てるだけで胃がむかむかしてまう」
「凶華がさっき言ってたでしょ? 暗くなる前に安全地帯を見つけなきゃって。ひとまずここで態勢を整えよう」
「街が森の中より安全とは限らないぜ? 何かが潜んでいるかもしれないのは、ここも同じだ」と凶華。
「じゃあせめて荷物は置いて行きましょう。重くてもう限界ですし……」と佐奈。

 私たちはリュックを下ろし、木陰に置いた。

「街の中がマズかったらここに戻ってこよう」
 私は斜面を降り、街へ入って行った。凶華が、佐奈が、楓が続いた。
「ど、どうする? 豚」
「七海ちゃんが行くなら行くブヒよ」
「しゃあないなあ……」


 コボレの面々は三々五々、散らばった。6人しか居ないけど。


 街にはひとけも無ければイロも無かった。

 灰色の街をスニーカーで歩く。

 ショッピングモールには飛行機が落っこちている。かつて親子が買い物を楽しんだであろう建物に鉄の翼が突き刺さっている。現実離れした様は芸術作品のようですらあった。
 信号機は折れ曲がり、車の通らなくなった道に首を垂れている。バスは横転したまま、誰かが抱き起こしてくれるのをずっと待っている。
 駅のような建物の前に着いた。駅前広場はかつての喧騒を忘れ去り、ぽっかり開いた大穴に占拠されている。これでは政治家が演説を行うことも、路上ミュージシャンが見向きもされない曲を弾くこともできまい。二階建ての駅舎は穴だらけになり、電車が飛び出し、ぶら下がっている。

 多くの死を感じた。それは、かつての生。

 自然と合わせられた両手を見て驚愕した。私はいつの間にか、拝んでいた。
 私は神も仏も信じていないのに。死んだのは顔も声も知らない人たちなのに。それでも人類の一員として、彼らを追悼しようという心が私にあるらしかった。

「珍しいね」

 声の主は佐奈。無音の街では、彼女の小声もよく聞こえた。
「同情なんてしない主義の癖に」
「別に同情ではないよ」
「じゃあ何なのさ?」
 私はちょっとだけ考えて言う。
「せめてもの礼儀、かな」
 佐奈は乾いた声で笑った。「らしくなーい」と言って。
「それで佐奈、水とか食糧とか、使えそうな物はあった?」
「んなのあったらとっくに腐るか誰かが取ってますよ。それより……」
「それより?」
 佐奈はもじもじと足をくねらせた。
「トイレ……どこ……? もうガマンの限界……」

 そういえば私も、出発してから一度もトイレに行ってないではないか!

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288 :げらっち
2024/07/12(金) 20:46:26

「最悪そこら辺ですればいいんだよ。誰も見てないだろうし」
「は? それじゃ男子とおんなじですよ。江原くんと豚はさっき立ちションしてたけど」
 ナニ!? 佐奈はそれを目撃したのか……?
「七海さんそんなんでいいと本気で思ってるの?」
「いや、私にも女の子のプライドがあるし、できる限りは御手洗いでしたいけど」

 私と佐奈は尿意を必死に封じつつ、死に物狂いでトイレを探した。そして、ついに見つけた。
 自動ドアは粉砕されており、辛うじて剥げ掛けた看板が、ここが元々コンビニであったことを示している。商品の類は既に先客たちによって持ち去られたようで何も残っちゃいないが、その奥に何よりも欲していたお宝発見。

 トイレットである。
 たった1つしかない。

「じゃ、うち先でいいよね?」
「ど、どうぞ。り、リーダーとしては当然、譲るよ」
 佐奈はるんるんスキップして個室に入った。
 余裕ぶっこいてしまったが、私も限界が近いのだ。手のセルフマッサージをしたりして気を紛らわせつつ、待つ。佐奈、トイレ長い……
「くうっ」
 店の外に出て忙しなくその場足踏みしていると。

「ナナ」

「うわ!!」

 いきなり背中に声をぶつけられ、飛び上がった。下手するとお漏らしする所だった。振り向くと凶華の紫。
「び、びっくりさせないでよ」
 嗅覚や聴覚は背後の情報も拾えるが、視覚は視野の外にある物は捉えられない。それが私の共感覚の盲点だ。
「無警戒過ぎるんじゃねえのか?」
「要点は何?」
「つまりだな」

 凶華は私の鼻を、つんっと触った。

「まだ気付かないのか? って言いたいんだ」

 凶華は目を閉じ、鼻をぴくぴく動かした。
 この犬の嗅覚の共感覚は、時として私の視覚よりも広範な情報をキャッチする。
 私は周囲を見渡す。凶華の紫、トイレを終えてやってきた佐奈の黄を視認。目を凝らすと、離れた位置に青、緑、桃も感じられた。だがそれ以外は何も感じられない。
「どったの七海さん」と佐奈。

「オイラは感じるぜ? 死臭を」

 たらり汗をかく。それは蒸し暑いせいだけではない。
 凶華に気付けて、私に気付けない事。
 私は人間以外にはイロを感じない。でも凶華はそうでないとしたら? 凶華は私なんかよりよっぽど鋭敏で、霊長類ヒト科以外の存在も覚知できるとしたら?

「おーい、七海さん。トイレ空きましてよ?」
「シッ静かに」
 私は佐奈を制し、平均台の上に居るかのように、佇立しバランスを保った。迂闊に動けない。何も知らずに歩いてきた道が薄氷の張った池で、引き返したくとも、身動きが取れないかのように。目だけを動かして周りを見た。
 共感覚なんかに頼らずに見れば、それは見えた。

 ぶるっ

 全身を寒気が走り、私は失禁した。ジャージが足元まで濡れ、ぽた、ぽた、まだ生きている証が地面に垂れた。
「うわ何してんの七海さん!! ガマンしきれなかったの!? きちゃなっ!」

 そんなことはどうでもいい。

 灰色の街に潜む灰色。あっちにもこっちにもそっちにも。
 怪人、怪人、怪人だ。
 瓦礫の隙間から、死んだ顔が幾つも幾つも飛び出して、こっちを見ていた。どっちを見ても目が合った。恐怖ですくみ、動けない。逃げなきゃ、叫ばなきゃ、仲間に危険を伝えなきゃ。変身しなきゃ。戦わなきゃ。すべきことはわかるのに、何1つ行動に移せない。

 私は凶華のジャージの裾を引っ張った。

「どうするんだよ、リーダー」

 私は雑巾をひねるように、かすれた声を振り絞る。

「逃げて」


 爆音。

 それがスターターであるかのように、私は佐奈の手を取り、そして叫んだ。
「走って!!!」
 小学校の運動会だってこんなに全力では走らなかった。
 先頭を行くは俊足の凶華。怪人たちの合間を抜け、逃げ切る道筋を見つける。私と佐奈はがむしゃらに足を回転させ、それを追う。
 怪人たちは全身灰を被ったようにグレイで、灰色の街と同化していた。静かにホーミングしてくる様は生気が無いが、目だけは血走っていた。何故私たちを追うのか。餌に群がる鳩のように、光りに集う虫のように、久々にこの街に入り込んだであろう生命に、すがりたくてすがりたくてたまらないのか?

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289 :げらっち
2024/07/12(金) 20:46:55

 とにかく長い距離を走ったように感じたが、実際は50メートルと離れていなかっただろう。

 背中を預け合って怪人と対峙する、公一と豚の姿があった。公一は持参したらしい愛刀コウガを構えているが、その刃はブルブルと震えていた。
「どけよ!!」
 凶華は公一と向かい合っていた怪人の背中にキックをお見舞い。怪人はくの字に曲がって倒れた。
 私と佐奈は膝に手を突いて荒く息をした。
「オイ七海! どういう事やねん!! ここ怪人の巣窟やったんか?」
「みたいだね。とにかく、みんなそろって早くここを出ないと。楓は?」
「し、知らん。お前たちと一緒やなかったん?」
「えっ!?」

 楓はどこだ? 目を細めて辺りを見渡す。あの青が、灰色の街の彼方に感じられた。

「楓を助けないと!」
「でもそっちは街の出口とは反対だぜ? 早くここを出るんじゃなかったのか?」
 凶華は、私たちがさっき居た緑の高台を指す。楓とは真逆の方だ。
「みんなそろって、が抜けてるよ!」
「それともう1つ気になりますよね」
 そう言ったのは佐奈。
「さっきの爆音。怪人が起こした物ではないと思いますが」


 ドォン!!!

 言う傍から、再度の爆音。
 皆一斉にその方向を見た。駅舎が完全に倒壊し、灰色の巨大な機械が現れた。あれは戦車か、気動車か。きちんと視認している暇は無い。
「楓を助けて、みんなで逃げる!!」
 私は青を感じる方に走った。
「仕方ねえなあ!」と凶華。
「ブレイクアップ!!」
 私たちは変身して走る。怪人は私たちを追尾し、包囲網を狭めてくる。
「僕が道を開く!!」
 豚は怪人を、自慢の突っ張りで散らす。
「悪いが邪魔だ、ブヒ!!」
 鉄球で殴るような激しい張り手に、肉片が飛ぶ。包囲を穿った。
「今だ! みんな急げ!!」

 マシンが砲撃した。

 目の前で大きな爆発。数体の怪人が消し飛ぶ。でも一刻も早く楓の元に行かなきゃという思いが、勇気を呼び起こした。私は真っ黒い爆炎の中に突っ込み、ひたすら走った。
「七海!!」後ろから公一の怒鳴り声。
 視界不良、楓の青を見失う。
 ぬちゃ、何か柔らかい物を踏んだ。

 足元を見ると、怪人の、顔だった。

 火傷にまみれた怪人は目を見開き、すきっ歯から咆哮を漏らした。
 [バ亞!!]
「うわ!!」
 私はすぐに足をどけ、無我夢中で走った。煙が晴れる。後ろを確認すると、世にも恐ろしい物を見た。
 怪人が這い這いで追いかけてくる。その口はハエトリグサのように大きく開き、口の中は真っ赤に染まっている。
「!!!!」
 私は声にならない声を上げ、西も左も南も右もわからずとにかく街の中を行き当たりばったりで逃げた。楓はどこ、皆はどこ、もう何もわからない。10歩走るごとに後ろを向く、ずっと付いてくる黄泉の国の這い這い。
「ブリザード! スパイラルアイス!!」
 魔法を投げ付ける。だが手元が狂い、当たらない。当たってもそんな物お構い無しで追ってくる。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ」
 私は涙目で逃げ続ける。このまま地球一周してしまうんじゃないかというくらいに走ったが、絶対止まれ、赤信号。私は急ブレーキ。

 目の前に広がる赤。

 愕然とした。この街も半分が塗られていたんだ。塗ったくられて瓦礫さえ無い真っ赤な地平。
 赤き地には近付くな、赤の地に追い込まれると、逃げ場が無くなってしまう、そう言ったのは豚だったか。
 恐る恐る振り向くと、怪人は猛牛のように突っ込んでくる。怖くて怖くてたまらないが、もうちびる体液も無い。
 覚悟を決める時だ。
「ツララ、ブレイド」
 私は手から氷柱の刀剣を生やした。ふぅ、ふぅ、息を整える。
 相手は怪人。生命ではなくとも、もしかしたら自我があるかもしれない。考える葦かもしれない。僅かな躊躇いがあった。だが生きるか死ぬかなら、生を選ぶ。怪人を殺してでも。
 私は剣を構え、迎え撃つ準備をする。四つん這いの怪人が5メートルに迫る。大丈夫だ、できる。2メートル。いやできない。怪人が生き物ではなかったとしても、殺すなんてできない。1メートル。甘ったれるな七海。20センチ。やらねばお前がやられるぞ。1センチ。体が勝手に動いた。

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290 :げらっち
2024/07/12(金) 20:47:11

 私はボールに喰らい付くゴールキーパーのように横っ飛びに動き、怪人をかわしていた。怪人は勢い余って赤き地に突っ込んだ。
「よ、よし、」
 私は拳を握り締めた。赤き地を踏めば死ぬ、凶華がそう言った。これで怪人もお終いだ。自分の手を汚さずに、怪人から、逃れられた……

 そんな考えは甘く甘く甘い物だった。
 怪人は赤い地面を走り、大きく弧を描いて、私の方に戻ってくる。目の前は真っ赤だが、頭は真っ白になった。

 なんで怪人は赤に入っても無事で居られるの?

 なんで?

 私の頭は銀世界。考えがまとまらない。このまま怪人に、ころされる

 突如後ろから腕を引っ張られ、現実に釣り上げられる。
「何しとんねん七海!!」
 緑の戦士、公一だ。
「怪人は赤き地の中でも活動できる!! 知らへんのか!?」
「え? え?」
「しっかりしろ!! おい!!」
 私は頬を二度ほど強く叩かれた。脳が揺り動かされる。
 [亞亞亞!!]
 怪人が大きな口を開け、飛び掛かってきた。公一はコウガを構える。
「怪人相手に容赦すんなや!!!」
 ザ!!
 公一は刀を一振り。怪人は両足を切断され、地に落ちた。汚い赤で灰色が染まる。怪人はのたうち回る。

 すごい。

 いつもはヘタレと思っているけれど、やっぱり男だ。私なんかよりよっぽど強いし、度胸がある。安堵でちょっと涙ぐんだ。
 でも安心するのはまだ早い。

 爆音がした方を見ると、ビルの隙間、巨大化した豚が先程の気動車と対決しているのが見えた。
「メカノ助!!」
 鋼鉄のメットを被り、装甲と化粧廻しで身を固めた、超巨大なお相撲さん。操縦者は佐奈だろうか。私は両手を握り締め、勝てるように念を送る。
 鋼鉄の手で強烈な突っ張りを繰り出す。生物相手なら殺せる。だが兵器は硬く、傷1つ付かない。衝撃で腕と腹の肉が波打つ。豚は劣勢だった。砲撃を何発も何発も喰らい、後退する。私たちが乗り込んでいる時はコボレーザーを撃てるが、基本的にメカノ助は突き押しで戦う巨大な力士であり、飛び道具が無いのだ。遠距離戦は不利である。

「あっちは任せるしかない。楓を探すんやろ?」
 その通り、楓を探さなくては。

 [グガア!!]
「キャー!!」

 怪人の声と悲鳴。
 私と公一は声の方に走る。

 しだれ柳のような髪を振り乱し、両腕からツタが垂れているグロテスクな怪人が、楓にその腕を伸ばしていた。
 [グガアエ!!]
「キャーー!!!」
「楓!!」
 怪人相手に容赦をするな。公一の教訓を記銘する。楓は私が守る。
 練習は何度もした。いつみ先生の訓練通りにやればいい。剣の柄を握る。
 私は怪人に駆け寄ると、剣を振り上げ、冷酷に振り下ろした。斬首。死肉を引き裂く刃。だが1ミリの甘さがあった。首の皮一枚でつながれた頭が私を見ていた。怖い。怪人は刃先を掴んだ。顔から飛び出した充血した目玉が弾丸となり、私を殺しにかかった。
「!!」
「鏢刀!」
 カッ!
 鋭い音が殺意の眼球を真っ二つに割った。公一が三日月形のカッターの様な暗器を飛ばしたのだった。
 私は剣を振るって怪人を倒した。ドチャ。怪人は、地を這いながらも私を追おうとしている。

 いつみ先生の言う通りだ。

 死して尚、人を襲う。破壊本能だけで動く非人間。

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291 :げらっち
2024/07/12(金) 20:47:27

「楓! どうして勝手に居なくなったりしたの!!」
「だ、だって! 街の奥なら使える物あると思ったんだもん……!」
「心配させないでよ!!」
 私は友と抱き合った。

「おいおい百合は後にせえや!! まずはこの街から脱出や!!」

 私、楓、公一は走る。街の至る所が燃えていた。
「ここは楓ちゃんの出番だよ! ウオデッポウ!!」
 楓は変身し手から水を出すも、水鉄砲程度の弱い物で、鎮火の役には立たない。
「私がやる。フリーズ!!」
 私は炎を凍らせて道を作った。

 気動車が砲撃を繰り返し、車輪を回転させ街を蹂躙している。ビルに追い詰められたメカノ助は、満身創痍の青色吐息だ。
 豚があの気動車を何とかしてくれないと、私たちは町から抜けられない。あの戦火の中を通り抜けるなど自殺行為だ。

 救世主の音。
 空の向こうから5色のジェット機が飛来し、ブルーインパルスのように、雲の足跡を残して旋回した。金属のぶつかり合う音。5つの機体が空中で合体し、巨大なロボが、街に降り立った。衝撃で私たちは跳び上がった。

『世界戦隊ワールドファイブ!! ワールドジェットロボ!!』

「プロ戦隊だ!!」
 巨大ロボと巨大兵器が対峙する。ワールドジェットロボは両腕を合わせ銃の形にし、敵兵器を射撃した。
『セカインパクト!!!』
 波動が一直線に気動車にぶつかった。炎に包まれる。
「今だ!」
 私たちは巨人の足下を走り抜け、街から脱出。
 リュックを置いておいた場所まで戻り、先に逃れていた佐奈・豚・凶華と合流した。
「無事で何よりブヒ!」
 元の大きさに戻った豚は、半裸で、体のあちこちが煤けていた。
「そっちもね。よく頑張ったね」
 私はその大きな腹を、ポンと叩いた。

 私たちは街を見た。
 既に火の海になっていた。気動車は燃えながらも車輪を回転させ進撃する。車体を覆う多数の砲門から次々に砲撃。
「あの兵器は何なん?」
「あいつは戦争機だな」
 凶華は頭の後ろで手を組んで、吞気に言う。
「マシン兵団メカノイアが量産している兵器だぜ。1機でシティを制圧できるほどの強さがあると聞いたが、好戦できている相手のロボもメチャクチャ強いなー」

 メカノイア……悪の組織の1つがお目見えになっていたとは。ていうかシティを制圧できるほどの強さとはエグいな……

 ワールドジェットロボは炎の紅海を飛翔した。空中から戦争機を爆撃する。戦争機も抵抗しているが、ワールドジェットロボは機動力に長けており、勝敗は見えている。
 やはりプロ戦隊は強い。皆、その光景に見とれていた。

 ひときわ大きな破裂音がした。勝負が決まった。

 戦争機が爆炎を上げ、バラバラに壊れていく。その断末魔と共に黒い弾が発射された。最期の足掻きは空中のワールドジェットロボに直撃した。
 凶華が叫ぶ。
「あれはてつはうだ!!」
 黒い弾はクラッシュした。その一撃でワールドジェットロボは四肢がもげ、木っ端微塵に吹き飛んだ。破片が落ちていく。

「ああ……そんな」

 ロボの残骸は燃え盛るシティに落ち、炎と炎が合わさって1つになった。
 5人の戦士も助かるまい。ここまでの人生も、訓練も、団結も、全て一瞬にして燃やされてしまった。
 勝ちも負けも無い。両者共に滅んでしまった。これが戦争で、現実なのか。

「人間は、どうして戦争するの?」

 私の言葉は、質問というよりは単なる呟きだった。宛先の無い問い合わせを拾い、凶華が答えた。

「深い理由なんて無いんだよ。子供のアソビとおんなじだ」


 勝って嬉しい花いちもんめ
 負けて悔しい花いちもんめ

 隣のおばさんちょっと来ておくれ
 鬼が居るから行かれない

 お釜被ってちょっと来ておくれ
 お釜底抜け行かれない

 布団被ってちょっと来ておくれ
 布団ビリビリ行かれない

 あの子が欲しい
 あの子じゃワカラン

 世界が欲しい
 世界じゃワカラン

 戦争しよう
 そうしよう


つづく

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