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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
┗439-448
439 :げらっち
2024/08/15(木) 11:12:40
第40話 虹色のコボレンジャー
赤坂いつみ、レプリエルは、レッドエンジェルに変化した。
とにかく強い強い光りを放つ赤の戦士。背中からは真っ赤な翼が生えている。
「冷たい弾丸!!」
私は指から氷の弾を打った。だが。
「ゆきどけ」
赤い戦士が熱発し、弾丸は届きもせず水滴の姿にほどけた。
「業火絢爛!!」
炎の十字に、切り裂かれる。
「デコードブレス」
飛一郎が大きく息を吐き、火種の接近を防いだ。炎は私の目と鼻の先で十字に花開いた。
私は後ずさりした。飛一郎が囁いた。
「ナナミ、相手は炎と光りの塊だ。雪や闇では分が悪い。俺はスバルを連射する。お前も天に虹を掛けた時の技、ニジヒカリを使え。2人で攻めれば奴を倒せる」
「うんわかった」
ふう。大きく息を吐く。ここまできたら、戦うだけだ。
恐れることは無い!
狙いを定めようとレプリエルを直視するとその時。
「光り魔術:スポットライト」
恐れることはあった。
アルビノの弱点。どうしても克服できない恐怖。羞明。
レプリエルの体は激しく光り輝いた。私は咄嗟に両目を瞑り、両手で覆う。それでも体を突き抜けるほどの強烈な光りが、私のか弱い目に突き刺さった。
「やああああっ!!」
私はひれ伏すように、体を折った。目が燃えるように熱い。
「ぐあ……あああ!!」
隣では飛一郎も同様に突っ伏しているようだ。彼の悲痛な声が聞こえる。顔を地面に擦り付けても、光源に背を向けても、どこまでも追ってくる光り。
これはアルビノでなくとも耐えられるものではない。
このままでは失明する。強すぎる光りは、永遠に光りを消してしまう!
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440 :げらっち
2024/08/15(木) 11:12:54
「負けるか……!!」
飛一郎の声。
私は目を開けることができないが、音と気配で、彼が立ち上がったのがわかった。
「まだ邪魔をする気かい。死ねよ♪」
「死に急がないで!!」
私は必死に叫ぶ。
「あなたは生きて、もう一度ヒカリさんと会うんだから!」
「俺は大丈夫だ。ヒカリは体の内側から起こった炎で焼かれた。外側からいくら燃やされようと、ヒカリの痛みと比べればどうということは無い」
飛一郎はヒカリさんとの思い出を、罪悪の暗い過去と決め付けていた。
だがようやく解放されようとしている。現実を受け入れ、未来へ進もうとしている。
「それじゃあ、私も、負けない……」
私も立ち上がる。
目を強く瞑って、攻撃的な光りに耐えながら、レプリエルに向けて宣言する。
「私の友達を返して!!」
レプリエルの鼻につく笑い声が聞こえた。
「うふっ。友のために犠牲になる気かい? 泣けるねえ。いいだろう、僕はきみさえ手に入れば、後のことはどうでもよくなった。一緒に光りになろう♪」
それはノーサンキューだ。
「犠牲心って、大嫌い」
生憎私は、そんな美徳を持ち合わせていなくて。
「友達を返して貰っても、私が居ないんじゃ意味が無い。私は私のままで友達と一緒に居たいんだ!! 自分だけが犠牲になって皆を助けるなんておこがましい。コボレは7人、誰が欠けても務まらない!! 私は、楓に、会いたいんだ!!」
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441 :げらっち
2024/08/15(木) 11:13:30
私は目を見開いた。その瞬間死の光りは消えていた。視界はまだチカチカしていたが、それよりも、癒しの青が目に入った。
青いニジストーンが発光し、浮遊し、主張している。レプリエルは狼狽えていたが、次の瞬間、青い光りの筋に首を貫かれた。
「ひぃっ!!!」
レプリエルはしばらく体を震わせていたが、やがてあえなくひっくり返った。光りの筋はそのまま空を切り、公一たちの捕らえられている牢を焼き切った。透明な球体が割れ、皆が助け合いながら出てくる。
青いニジストーンは、キラキラ優しく輝いて、浮いたまま私に近寄ってきた。
色々なことがあった。色々なことがあり過ぎて、考えは二の次になった。
私は変身を解き、深く頭を下げ、ただただ、彼女に言おうとしていたことを言った。
「ごめんなさい」
許して。
私と仲良くして。
明るい答えが返ってきた。
「こっちこそごめん! これからも、よろしくね!」
顔を上げると、ニジストーンは楓の姿に戻っていた。楓は私の懐に落ちてきた。
私は彼女を思いっきり抱き締めた。
「会いたかったああ!!!」
「あたしも会いたかったよ!」
私は華奢な熱源を抱き締めた。このぬくもりを欲していた。寒くて寒くてたまらないので、なるべく心に近付けたくて、強く抱き寄せた。
「聞こえていたかも知れないけど。私が殺した怪人は、楓のお父さんだったんだ。嘘吐いて、隠し事して、1人で背負いこんで、ごめん。一緒に背負って生きていくべき事だったよね」
「当然だよ! あたしと七海ちゃんは一心同体だもんね!!」
楓も私を抱いた。私たちの心は、あったかくなって、くっついた。悲しさで何度も泣いたが、今度は嬉しさで涙が止まらない、どうしよう。
ずっとずっとこうしていたかった。
友達、できてよかった。
「これからもずっとよろしくね」
「オイ!! 2人きりでキャッキャウフフすんなや!!」
「オイラたちも戻ったぜリーダー! 一緒に遊ぼう!」
「何泣いてんですか。コボレがみんな一緒なんてのは、わかり切った事ですよ?」
「七海ちゃんはああ見えて結構ナイーブブヒからね! 僕と同じで!」
「黙れ豚」
公一が、凶華が、佐奈が、豚が走ってきた。
私は涙ぐむ目で、全員を見回した。良かった、みんな居る。
「ぐすんっ、それじゃあお待ちかねの、7人目のコボレ戦士を紹介しまーす!」
私が突如明るく言ったので、みんなキョトンとしていた。
「えー、何でこのタイミングなん!?」
「誰ブヒ誰ブヒ!?」
「誰であっても歓迎しよう!!」
私は倒れていた天堂茂を引っ張って、皆の前に立たせた。そして彼を小突いた。
「て、天堂茂だ。いいか落ちこぼれ共。僕が来たからにはオチコボレンジャーは学園一のエリートになるのだ。そしてエース兼新リーダーは、この僕だ!!」
案の定、大ブーイングが起きた。
最も怒っていたのは誰であっても歓迎しよう、との前言があった楓。
「はぁ? ふざけんな!!!」
佐奈は佐奈で何かブツブツ言っている。
「七海さんクレイジーなのは知ってるけど信じらんナイ。コイツはコボレの敵ですよ何度も何度も嫌がらせされましたよね? コイツがうちらに侮蔑的発言をしたという事実は銀河が滅びようと永久に消えませんのよ。忘れたんですか記憶障害ですかケツひっぱたいて思い出させてさしあげましょうか」
「まあでもコイツのお陰でコボレは成長できたのもあるしな」
公一は勇ましく茂に詰め寄り、面と向かって悪態をついた。
「絶対認めへん。ぶっ殺したる」
茂は少し怯みつつも眼鏡を押し上げる。
「ふん、認められないのも無理ないだろうな。僕が入れば、お前らの出来の悪さがより明白になるからな」
「何やねんコイツ!!」
豚もブーブー言っている。凶華はゲロかよー、と言って笑っていた。
楓は私に肘鉄を決めてきた。ニジストーンのレーザー並みに痛かった。
「七海ちゃん、コボレンジャーは、2人で立ち上げたんじゃん! また勝手に決めて、おこだよ!!」
膨れっ面の彼女の肩に、私は手を掛けた。
「まあまあ親友。友達が増えて、悪いことは無いでしょ? 茂は友達になりたいんだって!」
全員が茂の顔を見た。茂は顔を赤くして、「だ、誰がそんなことを言った!? 僕はレッド、戦隊の顔だぞ!? お前らとは格の違いが……」などと弁論していたが、尻すぼみになり、みんなやれやれと首を振った。
「ようやく7人そろったのか。めでたいな」
飛一郎が、そう言った。
「ナナミ、お前の虹を見せてやれ」
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442 :げらっち
2024/08/15(木) 11:13:50
ついに、7人そろった。
入学して以来の、いや、それ以前からの、白に生まれてからずっと抱いてきた、カラフルな友達に囲まれる、その夢が叶った。
楓は青。とても深い海のイロ。深淵には私なんかよりもずっと強い思いがある。一番最初の友達で、ずっとずっと一番の親友だ。
公一は緑。いつもは薄くて頼りないが、いざという時は濃くなり私を助けてくれる王子様。
佐奈は黄。小さな体に、稲妻のように激しい熱意と閃光のようなインスピレーションを持っている。コボレのブレーン。
序ノ助は桃。大柄だがイロは乙女チックで繊細だ。優しい土台は私たちには必要不可欠だ。コボレのボディ。
凶華は紫。悪の組織星十字軍の後継ぎで闇の力を持つが、同時に純真な心を持っている。忠実かつ世界の分別がわかる犬。
茂は赤。正義だのエリートだのを気取りコボレの裏の存在で居続けたが、本当は仲間が欲しいだけのかまちょ。他メンバーたちにボコボコにされている。
そして私は、白。
白も良い色だ。
「なんだよなんだよ、なんかいい雰囲気じゃないか」
レプリエルは立ち上がった。
「僕が負ける雰囲気じゃないか。でもね、ただでは負けないよ♪ 七海、きみの力を見せてくれよ!!」
翼を開き、飛翔した。高い高い位置から、私たちに狙いを付けている。
「最終決戦だ。みんな、変身だ!」
「おっけー!」
「了解や!」
「もちです」
「餅ブヒ」
「あいあいさー!」
「お前が、仕切るな!」
「ブレイクアップ!!!!!!!」
7人は一斉に変身した。
「コボレホワイト!!」
「コボレブルー!!」
「コボレグリーン!!」
「コボレイエロー!!」
「コボレピンク!!」
「コボレスター!!」
「コボレッド!!」
「虹光戦隊コボレンジャー!!!!!!!」
それだけで、勝ち確だった。
私たちの七色の光りは、上空の赤より、余程輝いていたのだから。
だがレプリエルは撤退の道など選ばず、イロそのものを降らした。
「神・魔・術 アガペー」
「いくよコボレンジャー、必殺技だ!!」
私の音頭にて、7人は上空に向け、それぞれのイロを飛ばす。赤と青と黄と緑とピンクと紫と白が練り合わさったこれは。
「オチコボレーザー・ヘプタ!!!!!!!」
私たちは、虹を描いた。
初めて本物の虹を見た。いや、本物の虹なんかより、余程美しく価値のある、コボレンジャーの仲間たちが描く虹。
7色で白い空間が塗られて行き、レプリエルの飛ばした術を塗り潰し、彼を包み込んだ。レプリエルは笑っていた。
「ははは……きれいだ……きれい……」
「勝ったようだな。やはりこの僕が居るのと居ないのでは戦隊としての力が雲泥の差なのだ!」と茂。全員が彼を白い目で見た。
油断は禁物だった。甘かった。勝ち確などでは、なかった。
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443 :げらっち
2024/08/15(木) 11:14:09
「アガペー」
レプリエルは術を強めた。虹がイロに押され、落ちてくる。
「みんな気を緩めない!」
私たちは重心を低くし、足に踏ん張りを効かせ、最大限に力を込める。だが押されている、何故だ。
「疲れたよ七海ちゃん!!」
「アイツめっちゃ強い……分が悪いですよ、ここで全員が一度にやられたら……!」
7人の本気でも勝てないのか!? 最悪の考えが頭をよぎる。
私は周りを見渡し、光明を見出した。
「飛一郎! あなたも力を貸して!!」
少し離れた位置に立ち尽くす大柄な黒い戦士。彼はためらっていた。
「だがナナミ、虹はもう七色そろっている。黒は虹には無い色だ。俺が力を貸せば、虹は闇に染まるかもしれない」
「またそんなこと言って!!」
もどかしい。
私はゴーグルの下から彼を睨みつつ、彼に手を差し出した。
「虹は何色(なんしょく)でも良いんだよ。8色でもそれ以上でも良いし、黒があっても良いんだよ。来て!」
飛一郎は大きい手で、私の手を握った。
「あなたはもうアローン(孤独)じゃないんだ」
「……そうか、ありがとう」
彼は私たち7人に加わり、イロを放出した。
「ふんっ……!」
虹に黒い線が追加された。白と黒の両面を併せ持った私たちだけの虹が、レプリエルの術をゆっくりと押し返す。
「あ!! 七海!」
「うわ、すご!!」
「ブッヒャ~!!」
?
最初、何故皆が私を見ているのかわからなかった。だがようやく気付いた。
「小豆沢、自分の体をよく見てみろ!!」
私の体は、虹色に輝いていた。
私は両手を見る。
白に、赤に、青に、黄に、緑に、ピンクに、紫に、七色に、いやそれ以上に。
黒に、オレンジに、藍に、水色に、金に、銀に、プラチナに。十四色に、二十八色に、七十七色に、私の体は、無限のグラデーションに輝いている!!
「お前自身が、虹になったか」と飛一郎。
私は名乗った。
「コボレインボー!!!!!!!」
レプリエルの術でダメージを受けていた目は完全に回復したどころか強化され、赤外線も紫外線も全て見える。この世のどんな色もイロも全部見える。無限のイロは、移り変わる1つのレインボー。鮮やかになり過ぎた視界では、レプリエルのイロは褪せて見える。
レプリエルは無限のグラデの虹に、胸を貫かれた。変身を壊され、翼が捥げた。
「ああああああっっ!!!?」
レプリエルは悲痛な声を上げた。
「殺してやれ!!」と凶華。だが私は犬を制する。
「殺しはしない」
「何でだよ!!」
「アイツは校長を殺したんだろう? 報いを受けて貰う必要があると考えるが!!」と茂。
奴が校長先生を殺した罪は消えないが、だからと言って私たちが奴を殺せば校長先生が戻るわけでもない。
仲間たちは帰ってきた。
「もう二度と私の仲間に手を出さないならそれでいい。光りに帰って」
私がそう言うと、コボレの仲間たちも一応は納得したようだ。
レプリエルは、赤坂いつみは、光りに包まれ、見えなくなっていく。
「うわあ……やるなあ、ななみ……! 僕の見込んだ、とおり……」
「あなたのお陰で虹を見れた。虹になれた。あなたは恩師だ」
彼は最期に、子供みたいに、無邪気に笑った。
「うらやましいなぁ」
輝くアーチと共に、彼は消えてなくなった。
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444 :げらっち
2024/08/15(木) 11:14:37
私たちは変身を解いた。
「ありがとう、いつみ先生」
紆余曲折はあれ、戦隊学園に入学し、いつみ先生と出会ったお陰で、カラフルなメンバーに出会えた。
「よっしゃ、帰るか!」と公一。
「じゃー七海ちゃん! みんなにメーワクかけた罰として、みんなにおごること!」と楓。
「よっしゃー! ティラミス1年分!! ゲロの分は無し!」と凶華。
「何でだよ!」と茂。
私はふっと笑った。おごるのは絶対に嫌だが、この先もカラフルな彼らと過ごせると思うと喜ばしい。
だがまだ終わりでは無かった。
ドゴオン!!!!
大きな揺れがあり、私は突っ伏した。震度8。白い空間が細動し、砕けていく。操縦士であるレプリエルが退場したらピカリポットが崩れるように設計してあったのか?
いや、そんなわけはない。ピカリポットが攻撃を止めたのをいいことに、学園の戦士たちが反転攻勢に移り、上空のピカリポットを総攻撃しているのだ。私たちが敵を倒したことに下界の奴らは気付いてない。
「全員脱出だ、早くしろ!」と飛一郎。
「けどどうやって?」と楓。
私たちが歩いてきた虹はもう消えてしまった。
「豚を巨大化させます」と佐奈。「メカノ助に乗って、ここから飛び降りればいい。豚はちゃんと着地できるだろうし」
「責任重大ブヒ~!!」
佐奈はコボレイエローに再変身し豚に電流を浴びせた。豚の質量が膨らむ。
その時、巨大な硬球が白い地面を突き破り、穴を開けた。穴の遥か下にはホームランジャーの巨大ロボ・ホームランオーがバットをスイングした後の姿があった。
『逆転サヨナラ特大ホームラン!! 決まったぜ!!』
「こらー、いつも活躍しない癖にこういう時だけ余計なことをするなー!!」
白が崩壊した。私の這いつくばっていた地面が陥没し、落下。
「わあああっ」
落ちて行く。
「七海!」
「七海ちゃん!!」
1人でスカイダイビング。真下に見えますのは、焼け跡となった戦隊学園。
絶景を堪能している暇は無い。ビュオオオオオオ凄まじい風音、皮膚も毛も内臓も風圧に引っ張られ苦しい。息ができない。
このままでは校庭に叩き付けられて死ぬ。
私の人生、素晴らしかった。最後の最後に虹を見れた。終わりは華やかカラフルだった。夭折、それもいいじゃないか。
いいわけない。ここからが本番なんだ。
「死んでたまるか!!」
私は宙を回転する。目下に、黒く煤けた時計塔が目に入る。
「雪クッション!!」
時計塔の屋根に雪を積もらせ、そこにダイブ。多少衝撃は和らいだが、全身を強打し、雪まみれになって、そのまま屋根を転がり落ちた。
「ぐううう!!」
手を伸ばし屋根のへりに掴まる。
爪が割れたようなむごい激痛が末端に走る。全身がボロボロで、これ以上掴まっていられない。私は強く目を瞑った。
「七海!!!」
名を呼ばれて、目を開く。
緑の戦士、公一が雪の上に尻餅を突いた。私を追って飛び降りてきたのか?
「手を!!」
公一は腹這いになって手を伸ばし、私の手を掴もうとした。だが僅かに間に合わず、私の指は滑り落ちた。
「うわ!!」
「七海!!」
公一が屋根を蹴って飛び降りるのが見えた。空中で彼にぶつかられ、抱き締められ、体位が入れ替わった。彼が私をお姫様抱っこしているような状況になった。
「死んでも離さないで、七海姫!」
助けてくれハズイ。これなら転落死した方が恥をかかず良かった。だが、嬉しかった。地面が迫る。
公一は上手く着地できるかな?
予想通り、着地に失敗した。公一は私を抱えたまま左右の足で着地するも、すぐに「あかんわ重!」と言ってバランスを崩し、私は地面に落っこちた。その上に公一が倒れ、覆い被さった。
取り敢えず、死なずに済んで満点だ。
私の見上げるすぐ先に公一の緑のマスク。
「ありがとう。あなたは私のヒーローだ」
「ほんまに重いなあ。俺より体重あるんとちゃう?」
「!!」
野暮なことを。まあ私は公一より重い可能性は十分にあるが。
「あなたがひょろひょろなんだよ」
ちょうどその時上空のピカリポットが限界を迎えた。巨大な物が壊れる音が響いて、私も公一も天を見た。
ひびまみれのピカリポットは粉々に割れて、光りと成って消えた。メカノ助は落っこちて、時計塔のすぐ先に着地した。ドスン!! 物凄い騒音と揺れが走った。みんな無事脱出できたようだ。めでたし。
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445 :げらっち
2024/08/15(木) 11:14:56
「いい加減どいてよ」
公一は私に覆い被さり、地面ドンしたままだ。
公一は変身を解き、素顔で私の顔を見た。私は私の顔があまり好きではないので、見られたくない。目を逸らす。横を向こうとしたが、両手で顔を掴まれ、無理矢理上を向かされてしまった。公一は重くないがのしかかっており動けない。まあ本気で抵抗すれば股間を蹴り逃走を図れるが、今はされるがままだった。
公一は睨むように私の目を見ていた。
「で、次は何?」
「す、するぞ」
「何を?」
「キスを」
あちゃー、だめだな。断りを入れてからやろうとしてしまうのはやはり野暮だ……
男らしくひと思いにしてくれたらいいのに。以前は変身したままマスク越しにし、ノーカンとなったわけだが、素顔で生で触れ合うのは緊張感が違う。公一は私がゴーサインを出すのを待っているのかいつまでも私の目を見たまま動かなかった。私はすっかり白けてしまった。すると。
「ぴぎゃあ!」
横から炎がぶつかってきて、公一は裏返った声を出して吹っ飛んだ。私は重りから解放され体を起こした。
公一を攻撃したのは赤い戦士だった。
コボレッド、天堂茂だ。手から炎を出しつつこちらに歩いてくる。
「衆目に晒される中で不埒なことをするとはどういう神経だ? 世の風紀を乱すのは常に落ちこぼれの障害者だ」
私は立ち上がる。
「落ちこぼれの障害者だけど悪い?」
「研鑽を怠るのは悪だ。小豆沢七海、今こそ決着を付けようではないか!! お前のようなふしだらで教養の無い女には務まらん。コボレンジャーのリーダーはこの僕が務める!!」
「何言ってるの、リーダーは私と紀元前から決まっているよ!」
「実力で決めようではないか、いかがか!」
「言われるまでもなく!」
私は戦隊証を取り出し、改めて変身。
「コボレインボー!!!!!!!」
茂は明らかに狼狽えていた。私がコボレホワイトに成ると思っていたのだろう。残念ながら、虹の余韻で、強化形態のコボレインボーに成れる。
私は茂に狙いを付ける。
「ニジヒカリ!!」
茂も攻撃。
「アカいハル!!」
2つの魔法がぶつかり、接点には巨大なエネルギー。押し合いをするもケリがつかず、魔法の塊は破裂した。火の粉がべしべしと体中に当たった。熱い。
「レインボーブリッジ!!」
攻撃の手を緩めない。虹はくるっと1回転し茂を襲う。
「秀才カウンター!!」
茂は燃える手で虹を叩き割った。
「バーニングヴァルナ!!」
そのまま炎で身を包み、猛牛の様に突っ込んでくる。
「貰ったり!」
「虹リボン」
私は新体操のように虹をくるくると回し自分の体を包む。
「七色ヨロイ」
茂は私に頭突きを噛ました。私は虹の守りでそれを耐える。
「うおおお……!!!」
虹色の火花が散る。私の虹は越せまい、というのは奢りだった。ついには茂の炎が、私の虹をほどいた。7色の線は散り散りに消え、私は生身の七海に戻った。
「どうだ、ま」
「虹返せ!!」
私は素手で茂の頬をぶちのめした。彼の変身も解け、ひび割れていた眼鏡は完全に砕け散り、彼は尻餅を突いた。
「よくもッ!!」
茂は立ち上がり、私の頬に拳を命中させた。そんなに痛くはなかったが。
「やっと自分の力で戦えるようになったか」
「黙れこの落ちこぼれがッ!!」
「じゃあ落ちこぼれに負けるあなたは何なの?」
私は彼の腹にハイキック。彼は吐血し、真の意味で赤い戦士に成った。
公一が、楓が、凶華が、佐奈が、メカから戻った豚が、私たちの戦いを見ていた。
ボロボロになった戦隊学園。
虹の下の校庭で、私たち2人武器も持たず、魔法も使わず、変身さえもせずに、子供の喧嘩のように、ただ体同士をぶつけて争っていた。
「決着がつかないな、小豆沢七海」
「うん。私たちは互角」
私も茂も全身を使って大きく息をし、汗にまみれている。髪は乱れ、服はボロボロだ。
体力も限界に近い。どちらか一方が倒れれば、残る一方も倒れ、この勝負は痛み分けに終わるに違いない。
「次の一撃で終わりにしよう」
私は握り拳を掲げた。
リーダーとしての実力を示して、今度こそ茂を完全にコボレンジャーの仲間にするんだ。
「いいだろう。此れは究極の頭脳戦だ。最も混じり気の無い手の内の読み合いだ。シンプルに互いの実力、経験値、そして運がわかる」
茂はにやつき、拳を掲げる。
「じゃーんけーん」
私たちは拳を振りかざした。
「ぽん!!」
茂はグー。
私はパーだった。
「私の勝ちだね」
「ぢぐじょおおおおおおお!!!」
茂は地をのたうち回って悔しがった。
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446 :げらっち
2024/08/15(木) 11:15:13
戦隊学園はピカリポットの支配下から解放された。
コボレンジャーは、赤坂いつみの正体を、青竹先生に報告した。
詳しい話の内容は忘れたが、先生たちはコボレを労い、私たちが事件の核に居た事は公表しない、と誓約してくれた。
今はそれを信じることにした。
半壊した学園は、戦隊たちが力を合わせ復興することになった。
幸いにも生徒の死者は出ていなかった。一連の事件で亡くなったのは、落合輪蔵校長先生、ただ1人。
校長先生のお葬式は、しめやかに執り行われた。
私は制服に、きっちりとネクタイを結んで、焼香した。
遺影の中の校長先生は私に微笑みかけていた。校長が代わっても、アカリンジャーである彼が立ち上げた学園はこれからも続き、彼の闘志を受け継ぎ続けるだろう。
「ずっと学園を見守って下さい」
そう言って目をつむった。
長めの夏休みが設けられることになった。
正門は、帰省する生徒たちでごった返していた。
私たちコボレの7人は門前に集まっていた。
「うわー、帰りたくないよ!」と楓。
「俺も帰るのいやや~!! オトンにみっちりしごかれてまう~~!!」
麦わら帽子の公一はしゃがみ込んでしまった。
「うちも帰りたくないですね……」
「僕は帰りたいブヒ!! パパやママや弟の序二郎(じょじろう)、妹の三々子(みみこ)に会いたい!!」
「オイラは家自体がねえぜ!!」
コボレメンバーは家族に闇を抱えている者も多い。
「日頃の行いが悪いから、そうやって家族に顔向けできないのだ!!」
茂はふんぞり返って言った。
「僕は父上に直談判してやる。僕こそが真の息子であるとな!!」
その時茂の顔から憎たらしい笑みが消えた。
両親と見られる大人の男女に連れられて、女子生徒が歩いてきた。両親は大きなトランクを抱えている。
女子生徒はポンパドーデス、芽加子だった。
彼女は腕を負傷したため精密なメカが作れなくなり、退学の道を選んだ、という噂があったが、デマではなかったらしい。
すれ違いざま、茂は、少し気まずそうに、頭を下げた。
芽加子も少しだけ頭を下げ、門の敷居を跨いで、学園の外に消えて行った。
[
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447 :げらっち
2024/08/15(木) 11:15:29
私たちは学園の外に出た。
夏の太陽は眩しい。
私はどんなに暑くても長袖長ズボンを着て、日傘とサングラスで色素の無い身体を守る。障害とはずっと付き合っていかなくてはならない。
7人はぞろぞろと草の茂る道を歩き出した。
「ってオイ、外の世界を無防備に歩いて大丈夫なのか? 学園の送迎バスに乗ればよかったものを……」
憂う茂の背中を、凶華がブッ叩いた。茂は前のめりに倒れた。
「怪人が襲ってきてもオイラたちコボレの敵じゃねえよ! 怖気づいてるのか?」
「そ、そういうわけでは……ないが……」
茂は匍匐前進を始めた。
「敵に発見されないよう身を屈める! これはセオリー中のセオリーだ! 緊張感を持て落ちこぼれ共!!」
佐奈は荷物を全部豚に任せ、頭の後ろで手を組んで歩いていた。
「あ~あ、嫌ンなっちゃいますよね。コボレンジャーあんなに活躍したのに一切合切無かったことになるなんて」
「まあ注目されるのも大変ブヒよ。平凡が一番ブヒ」
「あ、でも……あいつが退学したってことは、機械クラス首席の座はうちに……あっ」
佐奈はブヒヒと笑った。豚がうつってる。
「それはいいとして帰りたくないですね……あの両親の顔を見るのもヤダ」
「じゃあうちに泊まるブヒ?」
「えっ」
突然の提案を受け、佐奈は頬を赤らめた。
「えっ……じゃあそうしちゃおっかな。あ、部屋は別で。食器も別で。お風呂は一番最初で。あとうちのリクエスト通りのメニューにすること。できればトイレもうち専用のを決めていただけると……」
豚はメモを取り始めた。
「何だかてんぱっとるなあ。七海も俺んちに……」と公一。
「やだよあなたの家関西でしょ、遠い却下」
「七海ちゃんは結局どうするの?」と楓。
「一度、私の育ったシティ13に帰ろうかな」
でもまたすぐに学園に戻るかもしれない。戦隊学園は私の家だから。
進む先は十字路になっていた。私たちはめいめい家に帰る。
「ここで一度お別れやな!!」
「うん。また新学期会おうね!!」
皆手を振りあって別れを惜しむ。
私も彼らに手を振る。しばしのお別れだ。
「じゃあね、またね」
空には綺麗な虹が掛かっていた。
白紙だった私の人生に色が塗られた。私の人生ここからが始まりだ。
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448 :げらっち
2024/08/15(木) 11:22:01
《飛一郎》
俺は重い扉を開けた。
どんな格好をして行けばいいか、迷いに迷った末、黒いスーツを着て行った。着慣れないし、不格好だっただろうか。
ヘルパーが頭を下げて、何か言って、入れ違いに部屋を出て行った。俺は緊張のあまり挨拶を返し忘れた。
俺は恐る恐る、ベッドを見た。
痛々しい姿があった。
全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。昨今の医療技術をもってしても、命をつなぐのが精いっぱいだったのだ。
顔も包帯で覆われ、辛うじて目と口の位置がわかる。
ヒカリは目を閉じていた。眠っているのだろうか。
こういう時は、何て声を掛ければいいのか。
しばし迷った後、俺は彼女の名を呼んだ。
「ヒカリ」
ヒカリは、目を開けた。
包帯の隙間に、焼かれずに済んだ、清い目と、エメラルドグリーンの虹彩。
そこだけ時が止まっているかのように、俺の青春が、そこにはあった。
赤い眼が、驚いたように、俺を見た。
「ひ、久しぶりだな」
俺は持っていた花束を、ベッド脇の机に置いた。
「これ、学園で摘んだ花だ。何て言う花かはわからないが、お前みたいな、赤い花だ」
ヒカリは何も言わなかった。
「……ごめん。14年も見舞いに来なくて。いきなり押しかけて。ヒカリをこんな目に遭わせたのは、俺だというのに」
ヒカリは、机に手を置いた。花束を取ろうとしたのか?
いや、花束の下にある何かを引っ張り出そうとしていた。
スケッチブックだ。物の上に花束を置いてしまった俺は馬鹿だ。
ヒカリはスケッチブックと鉛筆を持った。
包帯で巻かれた手はミトンをはめたようになっていて、不自由そうだった。それでもヒカリは、震えながら文字を書いた。
ヒカリは声までも失ってしまったんだ。
申し訳ないと思う気持ちが、俺の体を黒く染める。
ヒカリが、ポンと俺の足を叩いた。
俺はかがみ込んで、目線の高さをヒカリに会わせた。ヒカリはスケッチブックに書かれた言葉を見せてくれた。
「……そうか」
俺の黒は、光りに照らされた。
黒はそこにあっても良いのだ。何色でも良いのだ。
何があっても、お前は俺の光りだ。
「ありがとう」
にこり、ヒカリは包帯越しに、笑ったようだった。
俺も微笑み返すが、どうしたって、ヒカリほどうまくは笑えなかった。
おしまい
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