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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗231-242

231 :げらっち
2024/06/10(月) 12:39:55

第21話 おいしい黄桃


AYANA『今日も授業疲れちゃった(>_<) だいすけくんはどうだった?』

DAISK『僕も疲れたけど、アヤナちゃんとお話したら、疲れも吹き飛ぶよ! 授業中もずっとアヤナちゃんのこと考えて、集中できなかったくらいだからね(^_^)』

AYANA『うれしい~♡ アヤも今日1日中だいすけくんのこと考えちゃった!!』

DAISK『そうなの? やった~♡ アヤナちゃんはどんなかわいい顔してるのかなって、いつも考えてるよ!』

AYANA『ニャンニャン~はずかし~ だいすけくんもどのくらいイケメンなのかきになる( ^ω^ )』

DAISK『いっそのこと、会っちゃうニャン~?(笑)』

AYANA『会いたいニャン~!! ハフハフ~ いっぱいいっぱい可愛がってあげたいな♡』

DAISK『可愛がられたいよ~♡ アヤナちゃん背高いんだよね、子供みたいに甘やかして欲しいニャン♡ 会うとしたらいつかな?(無理しなくていいよ!)』

AYANA『無理なんかじゃないよ♡ いっそのこと今週末にしちゃう? でもあんまり期待値高くしないでね💦』

DAISK『今週末にしよう!! 楽しみだね!(僕も言う程イケメンじゃないかもしれないから期待しないで~)』

━━━━━━━━━━

 ガガガガガ……
 私は魔法クラスの授業を受けていた。いつみ先生は実践的でない授業を「時間の無駄」と目の敵にしているが、今日は先生の気まぐれだとかで珍しく座学をしていた。
 ゴゴゴゴゴ……
 呪文の必要性についての講義だったが、全然集中できない。
 ドガガガガガ!!

「ああもう!」

 騒音のストレスか、顎を触ると、1つニキビができていた。高校生の大敵だ。
 私は席から立ち上がった。教室内の同クラの生徒たちも気が散っているようだ。凶華だけは机に突っ伏して、いびきをかいて寝入っていたが。

 いつみ先生は教壇で笑い転げていた。座学に最も不向きな今日、あえてそれを敢行した先生にはテンガロンハットで脱帽したい。
「気になるようだったら見てきてもいいよん♪」

 私は廊下に出た。
 8階からは工事の様子がよく見えた。グラウンドに巨大ロボの姿があり、損壊した校舎の補修工事に当たっている。あの校舎はメカノ助が相撲を取った際に壊したのだ。騒音の元凶は私たちコボレにあった。

 かのロボは、建設戦隊ジュウキマンの乗るジュウキオウだ。
 かつて巨大化戦に用いられたが、こんな実用的な使い方もあるとは。
 5台の重機が組み合わさってできた巨体は、左腕のクレーン車で資材を吊り上げ、右腕のミキサー車でコンクリートを流し、豪快に、かつ効率よく、校舎を修補している。

 踏み台に乗って窓からその様子を見ている小柄な少女の姿があった。高い位置で括られたポニーテールが、肩甲骨の辺りまで垂れている。我が戦隊のブレーンだ。私は彼女の背中をトンと叩いた。
「佐奈、どうしたのこんな所で」
「わお七海さん。奇遇ですね、そりゃわかるでしょジュウキオウの観察ですよ」
 佐奈は木のスケッチボードを持っていた。そこには数枚の紙が重ねて留められており、彼女は鉛筆でジュウキオウのスケッチをしていた。
 コボレに巨大戦力を持ち込むために研究を重ねる佐奈。
「えらい!」
「別に偉くないですよ。趣味のような物ですので」
 今日の佐奈はツンケンモードだ。

[返信][編集]

232 :げらっち
2024/06/10(月) 12:41:11

 すると廊下の向こうから何かが近付いてきた。
 工事の騒音で気付かなかったが、十分うるさい排気音。ゴーカートのような乗り物が2台走ってくる。廊下を車で走るなって習わなかったのだろうか。赤と青の2台は止まり、男女の運転手が降りてきた。

「やあやあコボレンジャー!」

 背が高くスレンダー、お団子を2つ結った女子生徒と、小柄でこちらも痩せており、坊ちゃん刈りの男子生徒。2人とも顔が長細く、生身の流線型を思わせた。そして、そろいのクリーム色のレーシングスーツを着ていた。
「誰? あなたたち」
「アタイはエフワンレッド穂村愛瑠(ほむらあいる)! 3年生!」
「同じく、エフワンブルー穂村瀬那(ほむらせな)! 2年生!」
 愛瑠と瀬那はポーズを取る。

「排気戦隊エフワンジャー!! 電車戦隊トレインジャーや大食い戦隊デカモリファイブを下したのはアタイたちだよ!!」

 大仰な名乗りだ。先方はこっちのことを知っているようなので、自己紹介は省略する。

「コボレンジャー、これ見てよ」
 愛瑠は紙面を差し出した。《週刊☆戦隊学園》だ。戦ー1で勝ち残っている戦隊の、優勝予想ランキングが掲載されていた。


 1位 エリートクラス 赤春戦隊エリートファイブ
 2位 機械クラス メカニ戦隊デザインジャー
 3位 格闘クラス 柔道戦隊イッポンジャー
 4位 機械クラス 建築戦隊ジュウキマン
 5位 機械クラス 排気戦隊エフワンジャー
 6位 エリートクラス ドル箱戦隊リッチマン
 7位 エリートクラス 検索戦隊グーグルファイブ
 8位 スぺクラス 楽団戦隊ピアノマン
 9位 生物クラス 絶滅戦隊ジュラシックファイブ
 10位 化学クラス 超戦隊サイコマン
 11位 忍術クラス 死間戦隊カンカンジャー
 12位 武芸クラス 羽人戦隊バドレンジャー
 13位 格闘クラス 力戦隊ムキムキマッスルレンジャー
 14位 武芸クラス 飛行戦隊テンクウジャー
 15位 生物クラス 深海戦隊リュウグウジャー
 16位 武芸クラス 弓道戦隊サンアーチャー
 17位 格闘クラス 空手戦隊カワラバスターズ
 18位 化学クラス UFO戦隊タキオンジャー
 19位 スぺクラス 乳上戦隊ボインシスターズ
 20位 生物クラス 爆牛戦隊トーギューファイブ
 21位 忍術クラス 強生戦隊サバイブマン
 22位 スぺクラス 配信戦隊ジッキョウジャー
 23位 忍術クラス 遁走戦隊ニゲルンジャー
 24位 クラス混合 虹光戦隊コボレンジャー


 私は顎ニキビを触りながら表を黙読した。
 おっと、悪化するので余りいじらない方が良い……
 コボレはここまで快進撃を見せているに関わらず、どん尻のどん尻だった。しかし24(ニジ)、良い順位じゃないか。
「で、これが何?」
「要領悪いな高速で理解してよ! アタイたちエフワンジャーは同じ機械クラスのジュウキマンがちょ~っとジャマなのさ。目の上のタンコブなのさ」

 言われて見れば、あのジュウキマンもまだ勝ち残っている。どの戦隊も、圧倒的な大きさを持つジュウキオウに太刀打ちできずにいるのだ。

「そこで提案さ。コボレンジャー、アタイたちとちょ~っと手を組まないか? 2vs1ならジュウキマンを潰せるかもしれない」

 戦ー1はどんなことをしても勝ち残ればいいので、談合も八百長も教師陣が公認している。
 どんな手を使ってでも勝つのがプロの戦隊だ。

「悪くない提案だけど、私たちに何か得があるの?」
「得も何も優勝を目指すなら全戦隊を潰す必要がある。残った者で団結してなるべく強い戦隊を潰しておかないと優勝はジュウキマン!! なんてことになる、そしたらちょ~っと都合悪いだろ?」
 愛瑠は私や佐奈以上の早口でそう言い終えた。
 この女が信用できるかは微妙だが、コボレを優勝に導くには駆け引きも必要になりそうだ。
「……いいよ、でも何で私たちに声を掛けたの? 手を組むならもっとおあつらえ向きの戦隊がいくらでも居ると思うんだけど」
 瀬那が「最下位だから」と言いかけたが、愛瑠がその口を塞ぎ、
「コボレンジャーが一番役立ちそうだからさ!」と言った。

「ふうん、まあいいよ」

 私が承諾すると姉弟は「じゃあ工事が終わった明日ね!」と言って車に乗り、Uターンし去って行った。
 私は佐奈に言う。
「というわけだから、明日メカノ助を出撃させてほしい。巨大化戦は佐奈の担当だ」

 佐奈はスケッチを続けながら「うゆ」と言った。

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233 :げらっち
2024/06/10(月) 12:41:30

《赤坂いつみ》


 昼は生徒たちであんなに賑わっている食堂も、夜はしづかだ。
 薄暗い中、赤ちょうちんだけが灯る。カウンター席に5人の教師が横並びに座って居た。

「あの頃はみんな若かったよな」
 僕の右隣の青竹了は、カウンターの奥に飾られている写真を見ていた。
 Gレンジャーの5人がそろってうつる、僕たちが学園に赴任したての頃の写真だ。並びは今の席順と何ら変わらない。
「あれは、赤の日の直後のことだったな」
 かく言う彼は41歳。長身痩躯、目の下にはクマ、口の周りには青髭。青いスーツを着ている。

「懐かしいわね! あの頃私はピッチピチのハタチ……おっと、年がバレちゃうわね! みんなもまだ20代だったのよね! 今はもうおじちゃんおばちゃんの集団……」
 僕の左隣に座って居る紅一点・桃山あかりは、年齢非公開の36歳。桃色の口紅と白粉でバッチリ若作りしている。ピンクのブラウスにチェックのスカート。
 首から下がっている銀のペンダントの蓋を開ければ、彼女の愛娘の顔が目に入るだろう。今年小学校に上がったと聞く。

「女性は化粧で隠せるからいいけどな」
「うるさいわよ了! あなただけもう40代だからってひがまないの!」
 了はチッと舌打ちした。

「でもあんな所に若かりし日の写真が飾られていたんじゃ、私たちが年取ったって、生徒たちに晒してるような物だよなぁ……キッチンジャーのおばちゃんに言って、いい加減片して貰おうか」
 あかりの左隣に座る、黄瀬快三。38歳、小太りで頭髪は既に薄い。黄色いポロシャツを着ている。
「変わっていないのは1人だけ……」

「あんな写真、生徒は誰も見ちゃいないさ」

 僕はセンターの席で、バーテン代わりにグラスに赤ワインを注ぎ、魔法で皆の元に届けた。

「それじゃ乾杯だ♪」

「何に?」
 無粋なことを訊くのは了の右隣に座る、緑谷筋二郎。39歳、筋肉がはみ出しているタンクトップに、緑のボンタン。
「そんなの、各自心の中で崇める物に献杯すればいいじゃないか♪」
「では私は、この磨かれた筋肉に!!」
 ムキムキ男は太い腕でグラスを掲げた。
「俺は化学に」と了。
「僕は工学に」と快三。
「もうっ、みんな自分のことしか頭に無いの? 私は、生徒たちに!」
 あかりは僕に目線を送ってきた。
「あなたもそう思うでしょ、いつみ?」

「そうだなあ、僕は、小豆沢七海に」

 僕はグラスを小さく掲げると、くいっと口に流した。僕のグラスにだけは、白ワインが満たされていた。
 芳醇な香りで鼻腔が満たされ、頭がポワッと熱くなる。悪くない。

「呆れたな。1人の生徒に肩入れするとは」
 了はグラスを置いて僕を睨んできたが、その糾弾は、筋二郎の「おいしかったー! おかわりー!」に掻き消された。
「そういや筋二郎、和歌崎先生は? 彼女も誘ったんだがな」と了。
「和歌崎先生は今日は夜勤で来られんようだ!! 残念・無念・再来年!!」

 快三は隣席のあかりに、どんどんワインを注いでいる。
「ほらあかりちゃん、飲みなよ飲みなよ。ところで水掛先生は?」
「葵子ちゃんはお酒ダメなのよ、知ってるでしょ? もう!」
「そうだったかなぁ?」
 快三はハイペースで酒を飲む。既に赤ら顔だ。

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234 :げらっち
2024/06/10(月) 12:41:44

「見てくれよGレンジャーの同士諸君。戦ー1の残り24戦隊の表だが……上位5位に僕のクラスの戦隊が3つも!! うひゃひゃ! 他のクラスは一体どうしちゃったんですかねえ」

 快三は表をカウンターに置き、パシッと叩いたが、誰もそれを覗き込もうとはしなかった。
 戦ー1の経過など全教師の頭の中に叩き込まれているからだ。
 了は呪文を唱えるように「俺のクラスからは2つだけ……俺のクラスからは2つだけ……」と言っていたが、やがて僕に話題を飛び火させた。
「いつみ、お前の魔法クラスだけは1戦隊も残って居ないぞ。余りにも不甲斐無いんじゃないのか?」

 見当違いだな、

「心配ご無用さ♪ コボレンジャーのリーダー・小豆沢七海は、僕の教え子だ。それだけで充分さ」

「七海、七海、七海ねえ……」
「確かに見所はあると思うけど」

 僕は椅子をくるっと回転させる。
「コボレンジャーは既に忍術・生物・武芸・格闘・そして我が魔法クラスの首席を下している。大大大金星と言えるだろう」

「私のクラスの佐奈ちゃんもコボレンジャーの一員だ。佐奈ちゃんは自慢の生徒だよ!」と快三。
「私のクラスのイラちゃ……伊良部さんもですっ」とあかり。

「俺の武芸クラスにはコボレンジャーの生徒が居ない!! 何故だぁ!!」
 筋二郎は握力でグラスを割ってしまった。そこで大きな手を器にしてワインを注いで飲み始めた。こぼれる量の方が多い。

「チッ、俺の化学クラスにも居ねえよ……」
 了は黒い髪をガリガリと掻いた。

「僕のクラスには、もう1人、宮ノ凶華も居る。コボレンジャーは日に日に存在感を増している。目が離せないだろう?」

 僕はグラスに残ったワインを飲み干した。

「何しろ今年の新入生は《赤の世代》だからね」

「だからこそ、このタイミングでの校外学習というわけか」

「そゆこと♪」


 小豆沢七海、きみが虹を見たいという願い、叶えてやろう。だがその見返りに―――――

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235 :げらっち
2024/06/10(月) 12:42:24

《七海》


 翌日。

 私はメカノ助のコクピットに居た。
 佐奈のサイズに合わせて作られたこのコクピット、私には手狭だ。何しろ私と佐奈では頭1つ分身長差がある。
 機械が敷き詰められた操縦席。佐奈に教えられた基本の操作法を、何度も何度も頭で復唱する。
「にしても蒸し暑いな、エアコン」
 私は空調のスイッチを入れた。ひんやりした風が吹き付けた。

 目の前のスクリーンには、レッドグラウンドにて対峙する2台の巨大ロボの姿が映されていた。

 片や、獣機王。30メートル近い、学園の中でもかなり巨大なロボットだ。ショベルの頭部にドーザブルの胴体、オフロードダンプの脚部。ギシギシと金属の軋む音を鳴らし、その大きさだけで相手を怯ませる。
 片や、Fダッシュロボ。20メートル程度と中庸な大きさだが、機動力に優れていそうだ。レーシングカーから手足が飛び出したような見た目で、ピョンピョンと飛び跳ねている。

 空には実況ヘリも飛んでいた。
『さあさあ戦ー1も佳境デス! 実況はわたくし、配信戦隊ジッキョウジャーの実況者YUTA! 建築戦隊ジュウキマン、排気戦隊エフワンジャー、虹光戦隊コボレンジャー、3戦隊のうち勝ち残るのは1つだけ!!』

 相撲なら3人で同時に取り組むことは無いが。

「巴戦ブヒね」

「いや、それは意味が違うでしょ?」

 私は豚と会話をしていた。彼の声は耳元のスピーカーから聞こえてくる。今私は彼の頭の中に居るようなものだ。一心同体だ。
 豚は佐奈の「電気魔法アップデート」により、25メートルの巨人になり、鋼鉄のメットと、化粧廻しのような装甲を付けている。
 メットの中にコクピットがある。本来ならここには佐奈が座るべきだ。豚と一体化するのにふさわしいのは佐奈なのだ。でも佐奈は直前になって、
「やっぱ七海さんが乗って。大事な一番だし、うちが乗る気分じゃない」
 と言ったのだった。大事な一番だからこそ豚と以心伝心の佐奈が乗るべきような気もするが、やる気の無い佐奈が乗るよりは私の方が良いだろう。

「佐奈どうしたんだろうね」
「さあ……わからないブヒ……」

 生徒間ではこの勝負に対する賭けも行われているようで、コボレは大穴扱いのようだ。でも知ったこっちゃない。
 今更後には引けない。

「勝つよ、豚ノ助!!」
「もちろんブヒ。負けるつもりで相撲を取る力士は居ない。よろしく七海ちゃん!」

 見ると、Fダッシュロボは、私たちにサムズアップを送っていた。


『では立ち合いデス! 八卦良い……』


 ジッキョウジャーの仕切りなど無視して、私はいきなり仕掛けた。レバーを思いきり倒した。
 ドガアン!!
 豚は頭からジュウキオウにぶつかった。胴体のブレードで防がれる。
「クラクラブヒ~!」
「しっかりする!」
「ブヒブヒ~!!」
 豚はジュウキオウに突き押しをお見舞いする。私の指示とはいえ鋼鉄の巨人に押し相撲で挑む豚に漢気を感じる。
 パァン、パァン、パァン、相手の胴、胸、所構わず張る。
「手形押しまくって鍛えたんだから負けないブヒよ!!」
 だがジュウキオウも押されるばかりでは無かった。左腕のクレーンで廻しを掴んでいた。
「ブヒわ~!!」
 豚は吊り上げられた。ブンブンと振り回され、シートベルトを締めていなかった私は頭からコントローラーにぶつかった。
「くっ……何してるんだ、エフワンジャーは」

 エフワンジャーが言い渡した作戦は、メカノ助が囮になっている間に、機動力のあるFダッシュロボがジュウキオウの裏に回り、奇襲で一気にケリを付けるという物だった。
 ブルンブルン、排気音が聞こえた。来る。

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236 :げらっち
2024/06/10(月) 12:42:37

「待たせたなコボレンジャー!!」
 爆音が響き、豚はクレーンから解放され、地面に叩き付けられた。物凄い衝撃、スクリーンが真っ暗になった。豚が突っ伏しているのだ。
「立て、立つんだ豚!!」
 豚は体を起こした。スクリーンに、戦闘の様子が映された。Fダッシュはロボモードからレーシングカーモードに変形し、ビームを撃ってジュウキオウに攻撃していた。ジュウキオウはコンクリート砲で狙撃するも、Fダッシュはドリフトを決め、素早くそれをかわす。ビームは重機の接続部に的確に撃ち込まれていき、ジュウキオウは崩れ出す。バラメカが合体して作られたロボは巨大になれる利点があるものの、壊れやすい欠点もあるのだ。

 ジュウキオウは白旗を振った。
「俺たちの負けだ、もう攻撃するな、ジュウキオウを壊されちゃ溜まらねえ」

『お~っと、意外や意外!! 優勝予想4位のジュウキマンが早くも降参の姿勢を見せマシタ!! 校舎の修補に役立つジュウキオウを失うよりは、負けを認めた方が良いという判断デショウか~~っ!!』

「よしっ」
 私はガッツポーズを作った。
「お疲れ豚ノ助。囮の役目はこれで終わり……」

 そこまで言った時だった。
 キィィィィン!!!!!!
 恐ろしい大音量を受け失聴した。無音の中操縦席を飛び回りあちこちに体をぶつけ、墜落した。痺れていた耳が聴覚を取り戻すと、スクリーンが割れて外気が吹き込むフロントから、こちらに向けて飛んでくる無数のミサイルが見えた。
 Fダッシュが攻撃しているのだ。

「あっの裏切り者!!! 豚ノ助大丈夫!?」
「どちらかといえば大丈夫じゃないけど、力士は耐えるのが仕事ブヒ~!!」
 私は変身し、魔法のバリアを展開。
「アイスバリアLサイズ!!!」
 ミサイルは氷の守りにぶつかって爆裂。だが狙いは私たちだけでは無かった。メカノ助の傍で白旗を振っていたジュウキオウに幾つものミサイルが命中、ジュウキオウは爆炎を上げた。

「この際コテンパンに潰しておかなきゃね!!」と愛瑠の声。
「コボレンジャー囮ご苦労様! 一緒に滅びてね!」と瀬那の声。

 あの姉弟最初からこのつもりだったようだ。そんな気はしていたが。

 ジュウキマンの声が聞こえた。
「コボレンジャー、アイツらに一矢報いてくれ。これを使え……」
 ジュウキオウは右腕を離脱させた。ミキサー車が変形した砲台が地面に落ちた。

「ごっつぁんです!!」

 豚は立ち上がると、それを拾い、右腕に装着。コンクリート砲を射出した。白い塊が、走行するFダッシュのすぐ近くに着弾。Fダッシュは方向転換し逃げていく。
「逃がすか、追って豚!!」
 私はコントローラーに散らばるガラス片を払い除けると、レバーを倒し豚を走らせた。豚はドスドスと走りながらコンクリート砲で砲撃する。
「当たれブヒ!!」
 だがFダッシュの走力は中々で、砲弾をかわしつつ校舎の間を縫って逃げていく。悲鳴を上げて逃げ惑う生徒たちを踏み潰さないよう繊細な操縦が要求された。実況ヘリが何か喚き散らしながら私たちの後を追いかけてくる。

[返信][編集]

237 :げらっち
2024/06/10(月) 12:42:50

「ええい、豚なら豚の走り方をしろ!!」
 私は無茶ぶりをしコントローラーを出鱈目にいじった。
「ぶひゃ~!!」
 豚は前のめりに倒れたが、地面にぶつかる寸前に前足を出し、豪快な四足歩行で猛進した。この方が速い。Fダッシュに追いつく。
「今だ!!」
 豚は跳び上がると、ミキサー砲を分離させて投げ付けた。ミキサー砲はFダッシュのすぐ近くに落ち大爆発、Fダッシュは吹き飛んだ。
 だが終わりではない。Fダッシュは空中で変形すると、ジェットエンジンを噴かせて飛翔、大空を旋回し、ビームを乱射しながらこっちに突っ込んできた。

 愛瑠の高笑いが響く。
「秘密兵器は最後の最後に取っておくものさ。Fダッシュ・ジェットモード!! コボレンジャー、善戦したけどアタイらにはちょ~っと敵わなかったみたいだね!!」

 無差別爆撃によりあちこちの校舎から火の手が上がる。折角ジュウキマンが修補したのに台無しだ。

「飛んで豚!!」
「よし、僕に正面から挑んだらどうなるか見せてやるブヒ!」

「八艘フライング!!」

 豚は背中と足から炎を噴いて飛び上がる。
 空中でのぶつかり合い、豚はFダッシュのコクピットに正確に張り手を噛ました。

「心・技・体において僕の勝ちだな、ブヒ!!」

 ドォン!!!
 Fダッシュはハエの様に叩き落とされ、グラウンドに墜落し、猛火を上げた。豚は校庭に着地。学園全体が起震車になったかのような、大きな揺れ。

『すごい! すごすぎる~!! 勝者は虹光戦隊コボレンジャー!! これは金星のみならず殊勲賞・敢闘賞・技能賞・三賞トリプル受賞!! 人気の低かったコボレンジャーの株もうなぎ登りではないデショウか! この戦いはわたくしのYUTAチャンネルで見逃し配信する予定デスので、是非チェックと、高評価、チャンネル登録をお願い致シマス。ではまた次の戦ー1の勝負でお会いしマショウ!! さよ~なら~!!』

 実況ヘリは去り行こうとしたが、私が止めた。
「待て」

『え?』

「ジッキョウジャーもまだ勝ち残っていたよね? 他戦隊が潰し合ってるのを、そうやって高みの見物して、ちゃっかり生き残って、優勝をかっさらう気でしょう」

『ええ!?』
 実況ヘリは豚の目線の高さを、プロペラを回して飛んでいる。そこに乗っているYUTAは必死に弁解した。
『まさかまさかそんなそんな滅相も無い無い無いデスデスデス』

 私はコントローラーを操作し、豚に握りこぶしを作らせる。
「七海ちゃん、相撲はグーで殴るの反則なんだけど……」
「これは相撲じゃない!!!」
 私の操作で、豚はグーパンチでヘリを撃墜した。
『物理的な炎上は嫌~!!』
 ヘリは燃えて落ちて行った。


 その後、罹災した学園の修復費用はエフワンジャーが全て弁償することになった。

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238 :げらっち
2024/06/10(月) 12:43:27

 3戦隊を下したのは良い気分だが、気になる点がある。何故佐奈は、豚への搭乗を拒んだのか。
 夜、自室の床下収納もどきから、階下の佐奈の部屋に降りた。私の部屋と佐奈の部屋はメゾネットになっているのだ。

 梯子を下りて入室。
 佐奈の部屋に来ると、いつも不思議な気分になる。私の部屋と間取りは同じなのに、雰囲気はまるで違うからだ。
 私の部屋は、9割楓の仕業とはいえ、ごちゃごちゃと散らかっている。
 佐奈の一人部屋は整然としている。壁は本棚で埋め尽くされており、その隙間に小さなベッドがある。猫ちゃん柄のシーツに、猫ちゃん、犬ちゃん、豚ちゃん頭のケルベロスちゃんぬいぐるみが置いてある。

 以前は部屋の隅にあった子供用と思わしき勉強机は、部屋の中央に動かされていた。
 モノクロームのパジャマを着て、腰まで届く長い黒髪を下ろした佐奈が、パソコンと見つめ合っていた。

「お邪魔しまーす」

 佐奈からの応答は無かった。佐奈は気分屋なので無視されることなどしょっちゅうだ。気にせず彼女の後ろに歩み寄り、もう一度声を掛ける。

「迷子のお知らせです。鰻佐奈さんいらっしゃいますか。至急七海の所までお越し下さい」

 それでも返答は無い。よく見ると佐奈は、パソコンにイヤホンを繋いでいた。何か音楽でも聴きながら作業しているのだろう。それなら聞こえないわけだ。
 私は画面を覗き込んだ。
「わ~~~~っ!!!!!」
「わ!!」
 突然の佐奈の悲鳴に、こっちがびっくりした。佐奈は飛び退いたのでイヤホンが耳から抜けた。佐奈は焦ってパソコンをバンッと閉じた。
「無許可で勝手にパソコンを覗くな!! あなたあれですかスカートの中覗かれても更衣室を覗かれても怒らない人ですか!!?」
「いや、それは怒るけど……ごめんって」
 佐奈の余りの剣幕に、私は後ずさり、本棚に背をぶつけた。

 佐奈はバキッと指の関節を鳴らした。
「あのねえ七海さん人として当然のマナーですよ最低限のモラルですよ常識のルールですよ、次やったらいくら七海さんでも一生無視しますからね」

 佐奈のことだからガチで無視してきそうだ。この子にレスバで勝てそうも無いので、私は素直に「もうしません」と頭を下げた。

 すると佐奈は私の懐に入ってきてニコニコ顔の甘え声で「いらっしゃい七海さん♡ そんなにうちに会いたかったの? 御用は何?」と言ってきた。情緒がコロコログラグラぽてぽて変わり過ぎてゾッとする。
 私は言うべきか迷いながら、顎下のニキビを触った。痛い。いじり過ぎて大きくなってる気がする。やだなあ。脳内の花占いの結果、「言う」になったので、私は言う。

「豚ノ助となんかあったの?」

 やはり地雷でした。佐奈はニコニコから真顔になって、丸眼鏡の三白眼で私を見据えてきた。怖い。

「い、いや、でも、佐奈&豚ペアは変身祭で優勝したんでしょ? 息ピッタリなんでしょ? 何がマズかったの?」

「それが問題なんですよ」

 佐奈は語り出した。

[返信][編集]

239 :げらっち
2024/06/10(月) 12:43:43

 ――第2位、銀賞は、格闘クラス・双子戦隊ツインレンジャーの、アニレンジャー&オトレンジャー!! 完璧にシンクロした動きで我々を虜にしてくれマシタ!
 ――そして第1位、ゴールド金賞は!! クラス混合・虹光戦隊コボレンジャーの、コボレイエロー&コボレピンク!! 完璧なシンクロだけが華ではありマセン! 小さな黄と大きな桃!! 凸凹コンビによる黄金律、調和がお見事!! かくして、優勝はこのペアデス!! 盛大な拍手を!!!


「え、いいじゃん」
「良くないの!!」
 佐奈は黒い靴下で床をダンッと踏んだ。
「小さな黄、とか言われたのもムカつきますし結局周りはうちらのことを凸凹コンビとしか見てないんですよ。小さい奴と大きい奴が一緒に居る、面白いね、ハイ優勝ってわけ。それ以外の所なんて1つも見てない。あの豚と居る限りうちは《小さい方》でしかなく余計に小さく思われる。うちが欲しいのはそういうのじゃない。小さいのと大きいのじゃなくてうちと対等な存在になれるそういう白馬の王子様に来て欲しい訳ですよわかる?」

 それじゃ、周りの評価を気にしてるだけじゃないか。そう言おうとしたけどまた逆鱗に触れそうなのでやめた。
 コンプレックスは人それぞれだ。確かに私も、公一が黒人で、白黒コンビとか言われたらどうかと思うだろう。

「だからね、うちは豚とは別れようと思うんですよ」
 佐奈はパソコンをコツコツ叩いた。
「え、それは困る。佐奈も豚もコボレの仲間であり、大きな戦力だ。居なきゃ困るよ」
「別にコボレを辞めるとは言ってない。コボレ抜けたらうちの居場所なんてどこにも無いですし……ただ、豚とのコンビを解消するってだけ。今日の巨大化戦もすごかったじゃーん。七海さんの方がメカノ助を自在に操れるみたいじゃん?」

 佐奈は座って、パソコンを開き、マウスをカチャカチャといじり出した。

「覗かないでよ?」

「勿論」

 次覗いたら絶縁される。その代わりに私は本棚を眺めた。ずらっと漫画が並んでいる。
「これ見ていい?」
「どうぞ」
 私は無作為の1冊を手に取った。開くとキラキラの少女漫画だった。顎の尖った成人男性2人が、手を繋いで夜景の海を歩いている。何だこれ。たまたま数奇なページを開いてしまったのだろうか。だがそれは都合のいい解釈だった。他のページをめくっても大体同じような塩梅だった。
「……これってBL?」
「見ーたーな」
 佐奈がすりすりと近寄ってきた。髪の長さも相まって結構恐ろしい。
「うちってBL症候群なんですよねぇ」
「あー、その病気なら私も中学の時に罹患したかも……」
「それならお仲間ですね♡」
 佐奈の両眼がハートになった。
 佐奈は私から本をひったくった。
「でもこの漫画打ち切りになっちゃったんですよね。ラストがどうなるかとっても気になるなる」
 そのカバーを見ると、題名は『顎長男のラバーソール』となっていた。筆者はマンガピンクとなっていた。

 佐奈はすごすごとパソコンの前のホームポジションに戻った。画面を見ながら「はぁ本当にどうするかなこれ」等と言っていた。

「パソコンで何してんの?」
「教えない」
「教えて」
「やだ」
「譲歩を」
「…………」

 佐奈はしばらく私の顔を見つめた後。
「じゃあこの謎々を解いたら、七海さんにだけ特別教えてあげちゃう」

「わかった」
 謎々はあまり得意じゃないけど。

 佐奈は指を1本上げて。
「七海さん」

「私?」

 2本上げて。
「ブラックアローン」

「ブラックアローン!?」

 3本上げて。
「赤坂先生」

「いつみ先生?」

 最後に佐奈は、自分の胸を指さした。
「そして、うち」

 なんじゃそら。

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240 :げらっち
2024/06/10(月) 12:44:02

 自室にて。
 佐奈に課された謎々が気になって、他のことは何も手に付かずにいた。

 私・ブラックアローン・いつみ先生・佐奈。
 何かの順番だろうか。背の順でも無ければ体重順も違いそうだ。
 私と佐奈が対極になり、その間にブラックアローンといつみ先生が入るとは、一体どういう並びだろう。
 私が先頭にくるもの。アイウエオ順……

「あっ」

 誕生日順か?
 と思ったが、ブラックアローンといつみ先生の誕生日がわからないし、特にブラックアローンの誕生日を佐奈が知っているとも思えない。

 もしかしたら人物のまま考えず、イロに置き換えてみる必要があるのかもしれない。

 白・黒・赤・黄。
 何か浮かびそうだ。

 トリアージか? いや、トリアージは黒・赤・黄・緑だ。
 白・黒・赤・黄の並びの国旗でもあっただろうか? と考えるも、思いつかない。
 もしかしたら順番を入れ替えても良いのだろうか。

 私はGフォンでメールをやり取る。
 私が連絡先を知っているのは楓・公一・佐奈・豚の4人のみ。凶華は配布されたGフォンを捨ててしまったそうだ。
 私は佐奈に向けて送信した。

『なぞなぞは不可逆か?』

 するとものの5秒で変身が来た。

『はい♡』

 じゃあ白→黒→赤→黄の順で固定という事か。
「わからんなぁ……」
 私は顎のニキビをポリポリと掻いた。またデカくなった気がする。フラフラと、洗面所に来訪。
「げっ」
 鏡を見ると、ニキビはぷくっと腫れ上がっていた。白い肌にあって赤ニキビは大変目立ってしまっている。
「あ!!」


 私は深夜であるに関わらず佐奈の部屋に降りた。案の定佐奈は起きていて、またパソコンに向かっていた。
 私は謎々の答えを突き付けた。

「答えはニキビだ! 白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビ、黄ニキビの順で悪化する!!」

 佐奈は溜息をついた。
「解かれるとは思ってなかったなぁ……やっぱ七海さんは頭良いなあ……」
 佐奈は足をぶらぶらとさせていたが、やがて意を決したようだ。
「約束は約束だから。これ見ていいですよ」
 佐奈はパソコンをこちらに向けてくれた。画面にはチャットが表示されていた。
「ナニコレ……」
 私は文を読んでいく。誰か2人が恋人同士のような甘々なやり取りをしているようだ。♡まみれの文章、ニャンニャンなどというけしからん語尾。読んでいくと胸糞悪くなってきた。
「これが何なの? 佐奈が超嫌いそうな奴じゃん」
「いや、それうちなの」
「え!!!」

「うち身長175の美少女アヤナちゃんって設定にしてラブレンジャーの運営するガクセイサーバーの出会い系チャットに参加してたんですそしたら男の子に声掛けられちゃってキャー♡ ウフフフフフフってなってその設定のまま会話が弾んで気付いたら明日学園内で会うことになっちゃったんです。たすけて」

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241 :げらっち
2024/06/10(月) 12:46:53

 徹夜で作戦会議をしたが、何も妙案は出ず、佐奈は目の下にクマを作って、頭を抱えていた。
「あああああ……どうしよう……」

 このままではにっちもさっちゃんも行かないので楓、凶華も呼び、秘密を打ち明けて、一緒に考えてもらうことにした。

「そのダンシは学園の生徒なんだよね?」と楓。
「いえす。身長160の小柄な甘いマスクのカワイイ系ダンシで頭が良くて戦士としても優秀なだいすけくん」
 そんな生徒、学園に居たっけか。
「マジ? そんな子に声掛けられたの?」
 楓は右目で引いてるような目を、左目で羨ましがってるような目を佐奈に向けた。
「で、だいすけくんは、さっちゃんのことを175センチの美少女だと思ってるんだよね?」
「いえす」

 顔が見えないチャットでの交流は恐ろしい。相手が自分を偽っていても気付きにくいのだ。相手は猿かもしれないし、AIかもしれない。

 楓は親指と人差し指でチェックマークを作りその上に顎を乗せ、何か考えている素振りを見せたが、実際は頭は回ってないのは見え見えだった。
「牛乳を飲んで30センチ伸ばすとか!!」
「ふざけてないで実現性のある提案をしてくれる?」
「……! 折角さっちゃんのために考えてるのに! ていうか例え身長を誤魔化せても《美》少女ってとこはどうにもできなくない?」
「あもしかして喧嘩売ってます? いいんですよあんたのGフォンをハッキングしてヤバい画像を引き出して校内に拡散させることぐらい簡単にできますし」
「何だと! 蠍軍団けしかけるぞ!!」
 私は殺意のガールズトークに割って入り、まあまあとなだめた。

 佐奈はやつれて肌は土気色になり、黄疸ができていた。
「会ってみたら身長143のインキャメガネだってわかったら失望しますよね……会うの中止します……チャットの中だけで愛し合うことができればそれで良いの……儚く切ない、叶う事無き恋なの……」

「凶華、あなたはどう思う?」

 犬は漫画でドミノを作って遊んでいた。
「わ、何それやおい?」と楓。

「オイラには何が問題なのかわからないな。会ってみりゃいいじゃん。実際に顔を合わせて、本物のお前を見せてやりゃいいじゃん! 本当に好き同士なら、姿は関係無いんじゃねえの?」

 よく言った、凶華。
 だが佐奈は納得せず避難訓練のように机の下に引き籠ってしまった。

「しょうがねえな、だるまさんの一日!! だーるーまーさーんがー、着替えてトイレ済ませて歯も磨いてだいすけに会いに行く!!」

 魔術が発動した。凶華の俺様ルールに逆らえず佐奈は机から飛び出し着替えてトイレに行き歯を磨き猛ダッシュで部屋を出た。
「止めてえ~~!!!」
「佐奈、待ち合わせ場所はどこなの?」
「時計塔~~!!」
 佐奈は足をぐるぐる回転させ走る。私たちは彼女に続いて時計塔に向かう。
「待って、止めて、心の準備がまだだし会うなら会うでもっとオシャレしなきゃだしコンタクトも~~!!」

 そうこう言ってるうちに時計塔に着いた。大時計は10時の5分前を示している。
 体力の無い佐奈はそこに来るまでに疲れ果ててしまい、膝に手を突いて、ぜえはあと荒く息をしていた。髪も乱れまくっている。
「待ち合わせは何時なの?」
「10時……」
「あと5分じゃん!」

 佐奈は逃げようとしたが、楓と凶華がそれを羽交い絞めにした。

 長針に連れられ、短針も動く。10の字に重なる。

「だいすけくんが来る……」

 その時、時計塔の裏から男子の声が聞こえた。

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242 :げらっち
2024/06/10(月) 12:47:39

「ったく、意気地無しやなあ!!」
「だってえ……こんなデブだと知られたら嫌われちゃう……」
「男は見た目じゃないって言うとるやん! 相撲取りなら真っ向勝負せんかい!!」
「でもでも~!! 勢いで会うなんて言っちゃったけど、やっぱり帰るブヒ!!」
「なよなよすんのええ加減にせえこら!!!」
「ブヒ~!!!」

 痩身の男子に蹴飛ばされ、足袋を履き、ピンクの着物に巨体を包み、大銀杏を結った男子が姿を見せた。

 見慣れた豚ノ助の姿だった。
 豚と佐奈は取組前のように目線を交わした。そして、事態に気付いたようだ。

「え!!! だいすけくんって豚だったの!!」
「アヤナちゃんってさっちゃんだったブヒ!?」

 なんとまあ、そういう事だったのか。元の鞘に収まるように、運命とはよくできている物だ。
 私は安堵していたが、当人たちはそうでもないようだ。相手の姿を見たまま硬直していた。

「動いていいぞ!」
 凶華がそう言ったのを合図に佐奈が怒鳴った。
「はあ、ふざけるなぁ!! 何が身長160の小柄な甘いマスクのカワイイ系ダンシで頭が良くて戦士としても優秀なだいすけくんだ!! デブで豚のマスクの家畜系ダンシで頭が悪くて戦士としても無能なぶたすけくんじゃねえか!! うちに淡い期待を抱かせるなそれに加えて、豚の癖に出会い系チャットを使うな!!! うちの許可無く、かわいい女子を探そうとしたのか? かわいい女子だと思った相手に♡を送りまくったのか!? この浮気豚!!!!」

 豚は縮こまって本当に小柄な男子になっていたが、ぼそぼそと反論した。
「え~、だってさっちゃん最近冷たかったんだもん……そう言うさっちゃんこそ浮気を! 全部ブーメラン、お互い様ブヒよ」

 佐奈は全身真っ赤になっていた。恐らくは私の見間違いだろうが、頭に鬼のような2本の角も生えていた。

「だまれえ!!! 二度とうちに逆らわないよう魔改造してやる!! ブレイクアップ!!!」
 佐奈は変身し、電気を投げ付けまくった。豚はぶひゃ~と叫んで逃げて行く。傍からは、2人は校庭で仲良く鬼ごっこをしているように見えた。

「お似合いやな」と公一。
「だね。めでたしめでたしだ」
「これ喰う?」
 凶華は何か果実をくれた。黄色がかった桃だ。
 私はそれを丸かじりした。酸味ある白桃とは違い、甘々だ。
「おいしい黄桃だ」


つづく

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