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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗80-89

80 :げらっち
2024/05/10(金) 10:37:35

第8話 試金石


 あの負けイベ、《雨天の戦い》から数日が経過、今度は中ボス戦だ。

 5月2日、月曜日。新緑の候、ゴールデンウィークなど無用の長物。
 お試し月間は終わり。必修科目と各クラスの専門科目を受けながら、日々を過ごすことになる。
 第一関門は、入学して最初のテストだ。
 そこまで難しい内容では無いようだ。それでもこの1か月は、クラス決めや戦隊のメンバー集め、多忙かつ真新しいことばかりでくたくたになったので、勉強時間はほどんど取れていない。

 私と楓は朝食の席でも戦隊の歴史の暗記を続けていた。楓は教科書を見ながら問題を出してきた。
「戦隊の祖と呼ばれているのは?」
 私はすかさず答える。
「戦闘部隊ゴリンジャー」
「戦隊で最初に巨大兵器を運用したのは?」
「超高層タワーマン」
「あたり! すごいね七海ちゃん!!」

 入学してから確実に知識を増やしている。まあ実戦で相手が「戦隊の祖と呼ばれているのは?」などと質問してくるわけが無いので、こんなのは学校のテストという敵を倒す以外役に立たないだろうけど。
 それでも成長を実感できるのは良い事だ。
 カレーの食べ過ぎで体重も成長したし……

 楓が見ていた教科書を借り、今度は私が問題を出す番だ。

「じゃあ問題です。戦隊の祖と呼ばれているのは?」
「えーと、ゴリンジャー」
「戦隊で最初に巨大兵器を運用したのは?」

 今しがた楓が出した問題だ。単なる腕試し、のつもりだったが。

「えーと……え?」

 楓はパックごはんを食べる手を止めフリーズしてしまった。
「もう1回言って?」
「戦隊で最初に巨大兵器を運用したのは? さっきあなたも同じ問題出したでしょ?」
「そうだっけ? それは教科書を読んでただけだから……えーと、えーと」
「タだよ、タ」
「タレンジャー?」
「なんじゃそりゃ。タワーマンだよ、そんな調子で大丈夫?」

 楓は追い詰められた顔になってしまった。ちょっと言い過ぎてしまったみたいだ。
 楓は頭が良さそうでは無いが、この記憶力は少し異常なんじゃないか。

「あはは……あたし昔から物覚え悪くてさ。同じ間違いを3度する人だから」
「3度で済めばいいのだけど。ま、誰にでもそういうのあるよね」

 誰にでも少しの欠陥はあるものだ。

 御馳走様、と唱えた後、朝食後薬。
「そーいや七海ちゃん、そのお薬どこで貰ってるの?」
「薬剤戦隊メディスンジャーから毎月貰うことになってるよ」
「めりすんじゃあ!?」
「メディスン、薬のことね」

 入学前、採寸などで一度学園に来た際に、持病のある人は校医の医療戦隊ファイブドクターの診察を受けた。そこで処方箋を書いて貰い、在学中は毎月無料で薬を提供して貰えることになったのだ。助かる、というか当然の事だが。

 5月になって部屋に新しい薬が届いた。
 幾つもの錠剤を、水無しに飲み込むのが私の特技だ。

 服薬を終え、私と楓は早めに部屋を出ることにした。遅刻したらマズいし、勉強の続きはテストの行われる教室ですればいい。

[返信][編集]

81 :げらっち
2024/05/10(金) 10:43:33

「ブヒお~い!! 七海ちゃん! 楓ちゃん!」

 中央校舎の入り口に人だかりができている。大柄な豚ノ助は周りから頭2つほど抜けていたので、すぐに見つけることができた。いつものピンクの着物姿という事もあって、紺ブレザーの森でランドマークになっている。
「おっはー!」と楓。
「ブヒようございます」
 豚の後ろに公一と佐奈の姿もあった。豚が大きすぎて小柄な佐奈とひょろひょろな公一は隠れてしまっていたのだ。口々に挨拶する。
「おはでーす」と佐奈。
「やあ」
「おう。朝は嫌やな気怠いな。くらくらしてまう」
 公一は大きな欠伸をした。
「ってか何やねんお前ら! いつも2人で行動して、つきあっとるん?」
 公一は私と楓のことを言った。私たちは手をつないで歩いてることも多いので周りから百合と思われている可能性がある。そんな綺麗な花畑では無いのだが。
「あ~、公一くん妬いてるな?」
 楓が茶化した。
「妬くも何もけしからんやん!」
「別に。同室だから一緒に居るだけだよ」
 私がそう言うと、佐奈が凝縮された体から負のオーラを発し始めた。
「同室だからって同じ戦隊になってる人はそう多くないですよ。現にうちは、相部屋の奴が大っ嫌い……深爪になればいいのに……もしくはニキビ跡できろ……」
「やめーや佐奈!! 今そんな話聞いたら頭に詰め込んだ単元が全部鼻から空気中に漏れ出すやん!」
 公一が止めてくれた。それが良策だろう。
「で、この人だかりは何?」
「クラス表が貼り出されてるブヒ。クラスごとに受けるテストが少し違うみたいブヒね」


 クラスごとのテスト会場が、昇降口にデカデカと貼り出されていた。

 ○エリートクラス 担任:世川秀秋(せがわひであき) 首席:エリートワン 301教室
 ○格闘クラス 担任:代田大五郎 首席:ヨコヅナレッド 体育館
 ○化学クラス 担任:青竹了 首席:アルゴパープル 実験室
 ○武芸クラス 担任:緑谷筋二郎 首席:トルネマゼンタ グリーングラウンド
 ○機械クラス 担任:黄瀬快三 首席:メカニイエロー 地下ガレージ
 ○生物クラス 担任:桃山あかり 首席:ズーツートン 201教室
 ○魔法クラス 担任:赤坂いつみ 首席:ミコゴールド 801教室
 ○忍術クラス 担任:和歌崎女 首席:ソウサクブラウン(停学中) 202教室
 ○スペシャルクラス 担任:水掛葵子 首席:? 美術室


「じゃあ折角5人そろったけど、ここでお別れだね」
 私たちはそれぞれの会場に向かう。
「それじゃあまたあとでね!」
 楓とパン、とハイタッチしてお別れ。
「健闘を祈る!」
「あなたもね」

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82 :げらっち
2024/05/10(金) 10:46:03

 私は魔法クラスのテスト会場に着いた。
 いつもエキセントリックな教室は、今日は整然と机が並べられていた。新入生たちは自席に着いて最後の猛勉強に取り組んでいる。漂う緊張感の中に踏み入れると、喉の渇きが伝播し、落ち着かなくなった。もう一度トイレに行こうかな。
 何を緊張してるんだ私。こんなのはちょっとしたお試しテストに過ぎない。重要なのはこれから何を学ぶか、だ。こんなペーパーテストごときで腹痛を起こしていたんじゃ3年間を生き抜けない。
 見ると、ぐるぐる眼鏡の男子が、手に人人人と書いてべろべろ舐めていた。相当緊張しているようだが、魔法クラスの癖に陳腐なまじないに頼るとは滑稽だ。彼のお陰で逆に緊張が解けてきた。

 出席番号1番の定位置、上座の一番前の席に座る。生徒たちは復習に必死で、私には目もくれない。
 ノートを開こうとして、やめた。この数分間で勉強できることなんてたかが知れている。できるだけの勉強はしたのだから、後はただ待つだけだ。


 やがて、金髪の女性が入室した。
 ウェーブした長髪は輝いており、秘めたるイロも同じく金。珍しいイロだが、いつみ先生の光りと比べたら大したことない、ただの金メッキだ。
 その女はテスト用紙を教卓に置いた。テスト監修はいつみ先生ではなく、この見たことの無い先生なのか。
「みなさん、ごきげんよう。初めましての方は初めまして。魔法クラス首席、ミコゴールドの金閣寺躁子(きんかくじそうこ)です」
 げ。大人の女性に思えたが、センパイだったのか。金閣寺は巫女の装束を着ていた。
「おほ。かわいい後輩ちゃんたち、首席というのが何かわからない子も居るかもしれないので、説明しますわね。首席とは、そのクラスで最も優秀な生徒の事です。大抵は3年生から選ばれます。先生の補佐をしちゃったりなんかします。今日は赤坂先生は臨時の仕事でおられないので、わたくしがテストを取り仕切ります」

 いつみ先生のキラキラが見たかった私は、ちょっと失望した。

 テスト用紙が配られた。

「皆さん、これは単にあなたたちの適性を図るテストです。リラックスして解いて下さい。但し、リラックスし過ぎて、寝落ちすることのないようにね? もし寝てしまったら、謝罪して貰いますよ? つまり……ブフッ」
 金閣寺は、何故か、堪え切れなくなったように、吹き出した。

「つまり……睡魔に負けてスイマせんでした、ってね。ギャッはっはっ!!」

 金閣寺は唾を撒き散らして一人で大笑いしていた。教卓寄りの席じゃなくて良かった。
 まともにしていたらそこそこ美人なのだろうが、ババ臭い喋り方と、この変な性格で、損してるなこのパイセンは。

「ふう。それでは開始します」
 語尾のしますにちょうどかぶさるように、始業のベルが鳴った。
 生徒たちが一斉に答案用紙を表に返し、問題用紙を開く、乾いた音の重奏。私も問題を解く姿勢になる。

 リラックス、ねえ。
 無理でしょ。
 と思いつつ、ふうと深呼吸し、肩の力を抜いてみる。

 あれ? ちょっと楽だ。

 体の緊張が取れてきた。

 私は水色の筆箱から、シャープペンを取り出した。漫画を読むように気楽に問題用紙に目を通す。
 ん?
 テスト問題の文字が、ぐにゃとブレた。
 全身が弛緩し、手がシャープペン如きの軽い物すら持っていられなくなり、取り落とした。カラン。
 深呼吸の効能が凄まじく、緊張がほぐれ過ぎたのだろうか。そんなはずはない。

「!!」

 アレが、やってくる。
 全身が保冷材のように冷たく、ガクガクと細動している。
 何でだ。ちゃんと薬は飲んだはずなのに。薬さえ飲んでいればこの数年間、アレはこなかったのに。何でこんな時に。
 なんで
 だが思考はカイテンしてそれいじょうすすめなくなった
 めのまえがぐるぐるぐるまわり、まよこにくずれるようにたおれた

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83 :げらっち
2024/05/10(金) 10:49:15

 ?



「七海ちゃん!!」


 ななみちゃん?

「七海!」
「七海ちゃん! おーい!!」

 ななみちゃん。
 だれだ、それ。

 わたしはゆっくりまぶたをあけた。まっしろいてんじょうがみえる。ここはどこ。

「七海ちゃん!?」

 だれかがわたしのかおをのぞきこんだ。
 よくわからない。
 わたしはもういちどまぶたをとじた。 


「七海ちゃん!!」

 ななみちゃん。

「起きて!! いつまで寝てんの!」


 ああ、私のことか。


 私は今一度、瞼を開けた。
「七海ちゃん! 生きてる!?」
 誰かの声が聞こえる。何か言おうと思うも、言葉が出ない。体が動かない。

「七海!!」

 誰かが私を呼んで、体をゆすった。がく、がく。
 魔法が解けたように、指先がピクっと動いた。それからはすぐに体の操作法を思い出した。
 私は体をもぞもぞと動かし、意味を持たない声を発した。次第にそれは、ひらがなで表せる言葉になれた。

「あぁ」

「自分の名前が、わかりますか?」
「小豆沢七海」
「ここが何処か、わかりますか?」
「学校」

「もう大丈夫ね」
 私は30度ほど角度の付いたベッドに寝ていた。Yシャツ姿で、ブレザーは脱がされ、脇の椅子に掛けられていた。その椅子の隣に白衣を着たおばさんが立っていた。首から下がっている名札には「医療戦隊ファイブドクター ブルードクター 籔井弘子(やぶいひろこ)」と書かれていた。校医の1人か。

「七海ちゃんが生き返ったあ!!」
「よかったブヒ~!!」
 向こうで楓と豚が手を取り合って喜んでいた。涙ぐんでいる。何があったか知らないが、大袈裟だな。
「こら、静かになさい。保健室ですよ」とヤブイ。

「ったく、心配したんやで!」
 ベッドの傍には公一の姿もあった。心配って何が。
「あ、聞いてよ七海ちゃん!」
 楓が私の手に触れた。あったかい。
「公一くんたら七海ちゃんが起きないのをいいことにさっき胸触ったんだよ! ヘンタイだ!」
「はぁ!? 触っとらん冤罪や!! 俺は七海が起きひんから揺り動かしたんや! そのお陰で目覚ましたし!!」
「嘘だぁ! いつも七海ちゃんの胸チラチラ見てる癖に!! 見るならあたしを見てくれていいんだぞ!」
「お前は見るとこないやん!!」
「うわひど!」

 何か、ギャーギャーと言い合っている。
 仲良いな。


 なんでみんな、こんなに私を心配しているんだ?


「おかえり七海さん」
 よく見ると、ヤブイの影に佐奈が居た。小さいので気付かなかった。
「うんただいま」
「七海さんは倒れたんだよ。テスト中に発作起こして」

 ……ああ、発作か。
 しばらくぶりだな。死なずに戻ってこれたのは幸運だった。
 私は自分の体を観察する。いつも以上に真っ白で、まるで死人のようだ。

 全然思い出せない。
 テスト? なんだっけか。最後に記憶があるのはどこだろう。
 入学式で挨拶をしたのは、鮮明な記憶としてプリントアウトされている。でも、傍に居る友達の名前がわかるということは、その後のネガも全廃はしていないようだ。コボレンジャー、だったな確か。ブラックアローンに負けて、それで……
 テスト。
 どうしても思い出せない。セーブする前に電源を切ってしまったから、最後にセーブした所で記憶が止まっているのだ。
 何が起きたのだろうか。記憶を後ずさりすると、道は無かった。完全に崩落し、断崖になっていた。また落ちるのは嫌なので、前に進むことにしよう。

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84 :げらっち
2024/05/10(金) 10:52:25

 時計は11時を指していた。
 午前だろうか、午後だろうか。外がうすら明るいので午前だろう。

 私はまだベッドに居た。しばらくは安静にしていなさい、との事だった。水銀の体温計で熱を測ったり、バイタルを取られた。

「最後に発作があったのは何年前?」とヤブイ。
「だいぶ前です。小6とか。薬を飲み始めてから発作は無かったのに……」
 私がそう言うと、ヤブイは「外してくれる?」と言って楓たちをパーテーションの外に追い出した。
 目の下に染みのあるヤブイは、真剣な目を向けてきた。
「よく聞いて。あなたの飲んでいた薬を調べさせてもらったわ」
 ヤブイは5月分の薬の袋を取り出した。寮に置いてあった物だが、勝手に取ってきたのだろうか。
「この薬はただのビタミン剤だった。メディスンジャーに問い合わせたけど、彼らはちゃんとした薬を調合したと言っていたわ。彼らは信用に置ける存在だし、そんなことをしても得をしないから白と見ていい。とすると配達戦隊ユウビンジャーという、学園内で届け物を専門に行う職業戦隊が怪しいわ」

 話が呑み込めない。
 ヤブイは声のボリュームを落とした。

「いい? これは本当にここだけの話ですよ。ユウビンジャーはただの雇われ戦隊だから上の力には弱いわ。問い詰めても白を切るだろうけど、そういう可能性は濃いわ。小豆沢さんを退学にさせようとしている人に心当たりは無い?」

 ビリッ、心臓に電流が走り高速で拍動を始めた。
 心当たりがあり過ぎる。私は真っ白いシーツを強く握り締める。

 天堂茂!!

 許せない許せない許せない。いくら私が嫌いでもフェアじゃ無さ過ぎる。
 テストで私が倒れれば、0点扱いになり、退学になるという筋書きか。
 薬という物を発作という物を持病という物を何だと思ってやがるんだ。私は死ぬ可能性だって十分あった。二度と目覚めない可能性だって十分あったんだ。そうしたら楓や公一や佐奈や豚と二度と会えなかったんだ!!

「……私が伝えられるのはこれだけです。声を上げれば消されるから、気の毒だけど泣き寝入りするしか無いわね。ちゃんとした薬は私が責任を持って届けておくから」
 ヤブイは去って行った。

 私は唇を噛み締めた。目から涙が滲み出た。

 悔しい。

 するとパーテーションの向こうから楓たちが入ってきた。
「どったの~?」
「あれ? お目目がちょっと赤いですね」
「まさかあのヤブイに変なことされたんじゃ!?」
「何やて許せへんあのババア!!」

 私はYシャツの袖で涙を拭いた。
 コボレの4人はずっと保健室に居てくれている。友達とは有難いものだ。

「ねえ、私、退学になるのかな」

「え? なんて?」
 楓が聞き返した。
「私、テスト中に倒れたんでしょ? それじゃあ0点扱いだ」
 天堂茂はかつて、「最初のテストで赤点を取ればすぐにでも退学だ」と私を脅した。
 気にしないようにしていたが、私はその台詞を、今の今まで覚えていた。そして精神の弱ったこの瞬間に、記憶の前面に浮かび上がった。
「そもそも、私みたいな障害持ちは戦隊になれないって言われるかもしれない」
 弱音ばかりを吐いている。失いたくないから。

「みんなとお別れしたくないよ」

 楓たちは必死に言う。
「何言ってんの七海ちゃん! 病気で倒れたんだからノーカンだよ!」
「せやで。もしそんな理不尽な理由で退学にすんなら俺が抗議の意を込めて切腹したる」
「本当ブヒか?」
「御免流石に嘘です」
「てかあたしもあのテスト全然できなかった! もし退学になるならその時は一緒だよ!!」
「俺も!」
「僕もブヒ!」
「うちは退学したくない」
「佐奈!!!!」

 くだらないやり取りに、私はくすっと笑った。

 すると。

 白いパーテーションの向こうから、見覚えのあるキラキラが近付いてくるのがわかった。
「あ、いつみ先生」
「え?」
 楓たちは振り返った。

「あたり♪ 相変わらず良い目をしているね」

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85 :げらっち
2024/05/10(金) 10:57:12

 屏風の様なパーテーションを押し開けて、いつみ先生が現れた。
 接近に気付いていなかった楓たちは驚いてワッと叫んだ。

「七海、大丈夫かい? テストの時は居てあげられなくてすまなかったね。ちょっくら怪人退治の仕事が入ってね」
 先生は朗らかに話しているが、何気にスゴイことを言った。楓が「怪人ー!?」と言ったがスルーされた。
「お見舞いに来たよ。これでも食べてくれ」
 先生は真っ赤なリボンの施された真っ赤な箱を、ベッド脇の机にドンと置いた。軽やかな手つきでリボンを解き、蓋を開ける。
 中には、チョコがずらり並んでいた。
「神ー!」
 楓たちは大はしゃぎ。
「うまそうブヒ~~~!!」
「ちょっと、相撲取りにお菓子はご法度でしょ? それだからだらしなく太るんですよ」
「うるさいブヒ!」
 しかし公一は冷静に言う。
「おいおい、これは七海へのお見舞いやろ? お前らが食べてどうすんねん!」
「あ、そうでした」
「ブヒめんなさい」

「いや、これはきみたちチームへのプレゼントだ。みんなで食べていいよ♪」

「よっしゃ!!」

「赤坂先生、困ります! 勝手に患者に差し入れをされちゃあ!」
 ヤブイが戻ってきて、憤慨していた。

 私は甘い物が好きではないが、体が糖分を欲していたようで、手を伸ばしてチョコを取り、いただきますと頬張った。
 甘い。元気が脳に全身に染み渡っていく。パクパクと競うように食べ尽くした。私が17個、豚が14個、楓が10個、佐奈が6個、公一が2個くらい食べた。
「公一くん食べなさすぎ!」
「ピーナッツアレルギーなんや!! ナッツ使われてないチョコ探しとったらみんなどんどん喰いはるんやもん!」

「さて、腹ごしらえをしたところで七海」
 いつみ先生が言う。
「校長が、きみに会いたがっている」
「え? 校長?」
 寝耳に水というか熱湯を流し込まれたようなものだ。テスト中に倒れた生徒に会いたがる校長とは何なのか?
「すげーじゃん七海ちゃん! 校長センセなんて滅多に会えないよ! 無料レストランの数増やすようにリクエストしてきてくんない?」

「立てるね?」と先生。

「はい、立てます」
 それはもうバッチリだ。私はベッドから立ち上がった。
「じゃあ行こう♪」
 先生は私の手を掴んだ。不意打ちにビクリ。太陽に触れられては、私の手は焦げ付いてしまう。
「困りますったら!」とヤブイが叫んでいる。
「おやおや、邪魔はしないほうが良い。校長がお呼びなのだし、七海は僕のクラスの生徒だ。僕の好きにさせてもらうよ♪」

 なかなか自由人な教師だ。
 私は先生に連れられ、保健室を出た。


 私はいつみ先生とエレベーターに乗った。
 機械クラスに向かった時とは違い、下ではなく上に向かっている。中央校舎は10階建てとなっており、非常に高い。その最上階に校長室があるという。

 私はちょっとムカついていた。
 先方が私に会いたがったのであって、逆ではない。それならば先方のほうが私に会いに来るべきだ。いつみ先生を呼びに来させて、仮にも発作で倒れた病人を、こんなに遠い校長室に来させるとは、校長だからといって偉ぶり過ぎだ。
 私は目上の人に対しても間違っていると思えば文句を言う主義だ。校長と対面したら、つい不遜な言葉を吐いてしまいそうだ。でもいつみ先生は、そんなところも買ってくれるかもしれない。ともかく、相手が戦隊学園の校長という大物であれ、いつも通りの自分で臨もうと思った。

 最上階に到着し、エレベーターが開いた。
 先生が開ボタンを押し、私が先に出た。窓の無い短い廊下の先に、大仰な扉があった。戦隊証と同じく、戦隊学園の校章が描かれている。先生は扉の脇についている呼び鈴を鳴らした。
「緊張しなくていいよ」
「元よりそのつもりです」
 先生はクスッと笑った。その後で、
「七海、今から対面するのは戦隊の祖と呼ばれるお方だ。わかっていると思うが、礼節には十分注意するように」
 と言った。

 ちょっと信じられなかった。
 あのいつみ先生が、そんなことを? 常識という縄に束られても、即座に縄抜けしてしまうような柔らかさを持ったいつみ先生が?
 あなたも上の者には媚びるタイプなのか?

 私は先生を軽く睨んだ。
 すると先生は、私の頭をポンポンと叩いた。少しでも和ませるため?
 私は佐奈の真似をして、言った。

「やめて。頭触られんの嫌いなの。子供扱いしないで」

 いつみ先生は、目を細めた。
「本当に面白いねきみは♪」
 物凄くイジワルそうだった。

 ほどなくして、重そうな扉が自動で開いた。

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86 :げらっち
2024/05/10(金) 10:59:18

 中は校長室とは思えない空間が広がっていた。むしろマンションの一室のようだった。
 玄関部分で先生は赤いブーツを脱いだ。私もそれに倣って上履きを脱ぐ。先生は赤い靴下、私は黒。玄関の段差にはスロープが付いていた。バリアフリーか。
 中は落ち着いたグレーのカーペットが敷かれていた。広くはないが、居心地が良さそうだ。先生はそこをすり足で歩いて行く。私もそれに続く。書類が山積みになったデスク、大量の本が詰まった棚、その横を抜ける。窓はカーテンが閉じられていたが、ここは10階。さぞかし良い景色が見られるのだろう。生徒たちを高い位置から見下ろす王様ってわけだ。
 奥の部屋には、ベッドがあった。校長室は校長の住居でもあるのか。しかもあのベッドは、介護用の、電動で高さや頭の角度を変えられるやつだ。校長が老齢だということだろうか。ベッド上に校長は居ない。何処だ?
「失礼します」
 いつみ先生が赤いポンチョのフードを取るのを、私は初めて目撃した。予想通り、真っ赤な毛の草原だった。先生は部屋の隅に向けて頭を下げた。
 私は驚いて「わあん」と叫ぶ2歩手前だった。いつみ先生の見た方向に、車椅子に座った、小柄な老人の姿があった。

 入学式に映像の姿で登場した校長。顔はその時と全く同じだった。
 だがその体、胸から下を見たのはこれが初めてだった。

「私は、アカリンジャー・落合輪蔵。戦隊の祖と呼ばれたゴリンジャーのエースで、本学園の校長です」

 式に直接参加しなかった意味、私をわざわざここに来させた理由、バリアフリーと介護ベッドの必要性、説明の言葉が無くとも、全てが一度に理解できた。

 校長は下半身不随になっていた。

 70くらいの老人は、顔はまだ威厳を保っていた。年の数だけしわが刻まれているも、年の割には肌が綺麗で、引き締まった表情をしている。黒ぶちの眼鏡をかけており、レンズの奥に目が小さく見えている。白髪は整えられ、髭も綺麗に剃られている。整容を諦めた時、人は文化的ではなくなるので、その点は気を使っているのだろう。
 しかし下半身は既に衰え切っているようだった。車椅子に座っており、足はフットサポートに乗せてある。4月の室内、生暖かい空気が流れているが、それでも寒く感じるのか、足には布が掛けられて、腰から足首まで覆い隠されていた。

 私はついその姿に見入ってしまい、挨拶を忘れていた。いつみ先生から圧をけしかけられ、私はハッとした。
「あ、小豆沢七海です。お世話になっております」
 私は深々と頭を下げた。

 すると、車椅子が私のほうに近寄ってきた。電動車椅子か?
 いやそうではなかった。私はまたもや驚かされた。車椅子の後ろに人が居た。ヘルパーだろうか。
 その人は車椅子を押して、私と先生のすぐ近くまで寄せると、屈み込み、キュッとタイヤのブレーキを掛けた。その動きは洗練されており、今まで数え切れない程その動作を繰り返してきたことが窺えた。
 ヘルパーは黒いおかっぱ頭で薄い顔、上下黒の服を着ている。背はあまり高くなく、一見して男か女かわからなかった。それどころか生気すら感じられなかった。車椅子を押すためだけに作られた人形だと言われても、私は信じるだろう。目を凝らしてイロを見ると、公一なんかとは比べ物にならないほど薄い、希釈に希釈を重ねたような、白だった。白いイロを見るのは極めて珍しい。だが、これは本当に白か? 薄すぎて透明にさえ近い。ヘルパーである彼は、気配を消すことを心得ているのか?

「呼びつけてごめんなさい。私がこのような体たらくだから」
 校長は、ゴホゴホと咳き込みながら話した。
「ゴリンジャーについては知っているかな? 知らなくても、じきに授業で習うはずです。悪は倒したが、その代償で仲間たちは死に、私はこのような体になってしまった。もう戦うことはできない」

 校長のイロは、赤かった。かつてはいつみ先生のように煌煌と輝いていたに違いない。
 でもその炎はもう、消えそうなまでに弱り切っていた。

「そこで後進の育成にあたるべく、戦隊学園を開校した。君のような若い戦力は、戦隊界の宝物だ。君は今日のテストで満足いく結果を残せなかったね? でもそれを気にする必要はない。つまり、退学になることは無い。そう伝えたかったのだよ」

「あ――ありがとうございます」
 私は再度、深く頭を下げた。
 校長はこのような状態になっても、いや、この状態になったからこそか、無上の存在感を醸し出していた。世界の平和のために、その身を犠牲にした男。そして今も戦い続ける男。
 少しでも上に立つ者を打ち負かしてやろうと思っていた、不敬な自分が恥ずかしい。

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87 :げらっち
2024/05/10(金) 10:59:44

「七海は特別な力を持っている。テストなんかじゃ実力は測れない」
 いつみ先生がそう言った。
 校長の前で、学力に対するアンチテーゼを掲げていいのか?

 しかし、校長はおかしそうに笑った。
「そうだそうだ、クリームソーダ!」

 あ、おやじギャグだ。

「くだらねえ♪」
 いつみ先生と校長はあっはっはと笑った。この2人仲良いのか。私も「あはは……」とお寿司のバラン程度に意味の無い苦笑をしたが、本心は全然笑っていなかった。この空間で笑っていない人間は私とヘルパーのみだ。ヘルパーが人間ならの話だが。
「テストは学校の風物詩で、少年少女の思い出だ。10年もすればテストで四苦八苦した思い出が輝く。ただそれだけだ」と校長。
 私はつい口走った。
「え、それだけなんですか?」
「いやいや。実際の理由は他にもあるがね。戦隊連合が、テストを定期的に実施しろとうるさいのだよ。理事長の天堂任三郎はテストでふるい落とした生徒を退学にしろとまで言う。可愛い生徒たちをそう簡単に退学などするものか」

 天堂任三郎といえば天堂茂の「父上」だ。
 校長が奴の自慢のお父上をシニカルにあしらっているのを見て、私の気分は晴れ晴れとした。

「今後の《イベント》こそが、真の実力を測る試金石となる」
「おやおや校長、生徒1人だけに情報を開示するようなことをしていいんですか?」といつみ先生。
「何を今更。君こそ彼女をヒイキして個人レッスンをしておるのだろう。下手をしたら減給ものだぞ?」
「あ、バレてましたか♪ ただでさえやっすい給金を減らされちゃ困るなあ」

 いつみ先生、随分と失礼なことを言っている。
 ギリギリな会話を楽しむのがこの人たちのたしなみなのだろう。身体障害を持つ人は、自分が動き回れない分、他者から世間についての情報を得る。つまりお喋りを楽しみに生きているのだ。

 校長は言った。

「今月から一大イベント、《戦ー1グランプリ》が開催されます」

 戦ー1グランプリ?
 お笑いの賞レースだろうか。
 いつみ先生が脚注を付ける。
「学園内の戦隊同士で総当たりし、ナンバー1の戦隊を決める競技だよ。今年が初の開催となる」
 学園総当たり? つまり2・3年も含むということだろうか。それなら勝ち残れる気がしない。

「戦隊同士は、いつどこで戦ってもいい。正々堂々勝負するのもよし、卑怯な手を使ってもいい。寝込みを襲ってもいいし、食事中でもお風呂の中でもOKさ♪ 負けたら敗退となり、最後まで残った戦隊が優勝となる。あ、もちろん負けても退学にはならずに授業は受け続けられるよ。イベントから脱落ってだけだ。期間は夏休み前までなので、その間隠れてもいいし、ガンガン攻めてもいい。どんな手を使ってもいいんだ。ま、殺すのはナシだけどね」

 ルールを聞くうちに、少しずつワクワクしてきた。
 どんな手を使ってもいい、か。
 弱小のコボレンジャーでも、勝ち進めるかもしれない。いや、ここは貪欲に、優勝を狙ってもイイかもな。

 校長は震える手を持ち上げて、ガッツポーズを見せてくれた。
「実力を見せてくれ。虹光戦隊コボレンジャー」

 こんな私のこんな一戦隊など、取るに足らない存在と思われている、そう決め付けていた。だが校長先生はきちんと私の名前、私の戦隊名を覚えていてくれた。
 この人は尊敬できる人だ。この学園で学ぶことは、意義のある事だ。
 私は二つ返事する。
「はい!」

 その時、いつみ先生が小声で言った。
「実力を証明する……」

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88 :げらっち
2024/05/10(金) 11:05:09

 私は退学などにならず、学校生活は続いた。

 大抵の戦隊は同じクラスのメンバーでユニットを組んでいる。でも私たちコボレンジャーは、例外的に全員クラスが違う。各クラスの落ちこぼれと呼べる者たちの集合体だからだ。つまり、顔を合わせるのは必修科目の時と、放課後のみになる。
 放課後、部活動のようにコボレンジャーの皆と集まる時間が楽しみだった。

 私は廊下をスキップして、和室の引き戸を開けた。
「よぉ七海!」
「あれ? 一番乗りだと思ったのに」
 室内には漫画を読む緑ジャージの公一の姿があった。9枚の畳が敷かれた、程良い広さの部屋。真ん中には茶ぶ台が置かれている。
 中央校舎7階にあるこの和室は、かつて茶道戦隊ウラセンジャーや百忍一首カルータファイブが使っていたらしいが、そういった戦隊が居なくなったため、いつみ先生がコボレンジャーの部室として使用することを許可してくれたのだった。
「忍術クラスは昼ないねん!」
「あ、そだったね」
 私は教科書の入ったバッグを置くと、黒い靴下を脱ぎ捨てる。素足で畳を踏むと心が静まる。
 公一は私の25.5センチの足をじろじろ見ていた。
「見んなよ、スケベ」
「え? み、見とらん見とらん! 意識し過ぎや!! ていうか少しも見ちゃダメとかどういう扱いやねん!」
 彼は焦って漫画に視線を落とした。
「何その本」
「佐奈が貸してくれたんや」
 和室の隅っこに、寝そべってパソコンに向かう制服姿の佐奈が居た。例によって小柄なので、公一の影に隠れて見えなかった。
 私は「お疲れ様ー」と声を掛ける。でも佐奈は返事をしなかった。
「お取込み中みたいだね」

 そこに、引き戸を大きな音を立てて開け、4番乗りが入ってきた。
「うぁーめっちゃ疲れた! 糞つまんない名乗りの作法で居残りさせられた!」
「お疲れー楓」
 楓は青いネクタイをほどきYシャツを第二ボタンまで開けており、みだらな格好だ。
「おつかれい七海ちゃん」
 楓は入室するなり畳に寝転んだ。公一の膝枕に頭を乗せそうになったので、公一は急いで避けた。
「お前らは今日もう終わりだからいいやん! 俺はこの後授業やで! めっちゃしんどいねん!!」
「ああ~公一くんはそうだったねぇ。サボっちゃえば?」
「そういうわけにもいかないねんアホ」

「ブヒ~! お待ちかね!」

 豚がドスドスと入室した。100キロ超の巨体に踏みつけられ、畳がめこっとへこんだ。
 彼と共に、食欲をそそる良い匂いが部屋の中に飛び込んできた。彼は大きな土鍋を持っていた。

「豚ノ助特製ちゃんこブヒ! 僕の地元から送られてきた魚介類をた~っぷり使ってるブヒよ!」

 豚は土鍋を茶ぶ台の上に置き、蓋を開けた。
 豆腐や白滝、野菜と一緒に、ぷりぷりの海老や帆立が煮込まれているではないか!

「わあ!」
「すげえ!」
「うっまそ!」
 私たちは目を輝かせる。

「これで1日の疲れを取るブヒ!」

「俺はこれから疲れるんやけどね」と公一。
 私たちは5人そろって鍋を囲み、「いただきまーす」と詠唱した。小鉢は使わず直接箸で突っついて食べる。
「うま! 最高や!」
「佐奈ちゃんもたっぷり喰って大きくなるブヒよ」
「ありがと……って、暗にチビって馬鹿にしてる! 七海さん、こいつ馬鹿にしたよ!」
「まあまあ」
 私は海老を掴み取り、まだ熱いまま噛み千切る。弾力のある至高の歯応え、優しい味付け、海の香り。最高だ。
 皆、はふはふと幸福な咀嚼音を鳴らしながら味覚を満たしている。そうだ、ここらでローブローを決めてやるか。

「みんな、テストの順位どのくらいだった?」

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89 :げらっち
2024/05/10(金) 11:12:29

 それは氷魔法の呪文だった。その場のほぼ全員が凍り付いた。ほぼというのは、佐奈だけが例外で、ふうふうと熱い豆腐を冷ましていた。彼女だけは順位が良かったようだ。
 他の3人はもうご馳走の味などわからなくなってしまったようだ。
「はい、ここはダンシから発表!!」と、楓が沈黙を破った。
「なんでやねん! 男女雇用機会均等法や!!」
「いや、ここは男らしく先陣を切るブヒ。待ったなしブヒ……」

 豚から発表する。
「僕は985位ブヒ……」

「えっまじ?」
 次は公一。
「俺は984位や。くやし!」
「1位負けたブヒ~~!!」

 1年生は1001人居るので、2人とも大分悪い。

「佐奈は何位なん?」
「……21位」
「ええ~~~~~!!!!」
 楓も公一も豚も絶叫した。まさかの二桁とは。
「落ちこぼれじゃないじゃん!」と楓。
 まあそれは言えてる。
 佐奈は賞賛などどこ吹く風、豆腐を頬張った。
「で、楓ちゃんは何位ブヒ?」
「せやで。他人に聞いておいて自分だけ隠すなんて最低のさいちゃんや!!」
 楓は赤面した。
「やだ! 教えない!!」
 男子2人に詰め寄られ楓は必死そうだ。同室のよしみで助け舟を渡してやるか。私はバッグから赤唐辛子を取り出し、鍋に容赦なく振り掛けた。
「わあ! なにしとんねん!! みんなの鍋を!!」
「プピー!」
「辛いほうが美味しいもん。みんな話してばっかで食べてないし」
「お前が順位訊くから話しとったんやないかい!」
「七海さん性格スパイシー……うち辛いの食べられないです。おくちのなかが痛くなってしまうので」

「辛くて食べられないんだったら残していいよ。私が全部食べるからね」

 私は不敵に笑った。公一も豚もあんぐりこと口を開けていた。
 楓への追及は、未達に終わった。楓は私に向けて手刀を切って、「サンキュ」と口を動かした。

 すると、引き戸が勢いよく開いた。
 皆の目が釘付けになる。そこには赤いネクタイを締め、眼鏡を掛けた男子生徒が立って居た。


「頼む、オチコボレンジャーに入れてくれ!!」


「……何であなたが?」

 そこに居たのは天堂茂だった。


つづく

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