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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗90-101

90 :げらっち
2024/05/10(金) 11:12:56

第9話 白球勝負!


「なーんてな」

 天堂茂は、相手を蔑むいつものいやらしい表情に戻り、土足で畳に上がり込んだ。
「僕の演技は主演男優賞物だったか?」
「ゴールデンラズベリー賞が相場ね」
 ゴールデンラズベリー賞は最低な映画を表彰する賞だ。今はそんなの無いけど。
「靴くらい脱いでよ」

「靴くらい脱いでよ、だと? 一体誰がこの部屋の使用を許可したんだ?」

 天堂茂は畳に黒い足跡を残し、ずかずか侵入すると、ゴミでも見るような目で鍋を見た。
「不味そうだな」
 天堂茂は土鍋を蹴飛ばした。
「ああっ!!」
 半分も食べていない御馳走は無残にもひっくり返った。具材が散乱し、畳に汁が広がっていく。
「ブヒ~! 僕が心を込めて作ったちゃんこが!!」
 豚は屈み込んで鍋を拾い上げ、布巾で汁を吸い取る。
「何すんの!?」
 私は衝動的に天堂茂の胸ぐらを掴んだ。

「おっと、すぐに手の出る悪い癖が治ってないようだな、躾のなっていない白豚。暴力はやめた方がいい。退学になりたくないならな」

 前にも私は奴の挑発に乗って、先に手を出してしまったことがある。悪いのは私の方だとまた新聞に書き立てられてしまう。
 私は自分に言い聞かせる。冷静になれ、暴力では解決しない……

 私は何とか自制を効かせ、奴の胸ぐらから手を離した。

「お利口だな」
 天堂茂は、私に触れられた箇所が汚らわしいとでも言うように、パッパッと払い除けた。

「退学退学って、脅し文句が一辺倒だよ。お生憎様、あなたの目論見は外れて私はまだ退学してないのだけど」
 私の薬をすり替え、私を退学させようという奴の魂胆は、校長先生の懐の広さにより失策に終わった。
「茶ぶ台返しに来たのはどういう用件?」

「挨拶に来てやったのさ。クズのお前がクズを寄せ集めて戦隊を組んだと聞いたのでな」

「!!」
 私は再び衝動的な暴力に訴えそうになったが、何とか抑え、両手で髪を掻き上げる。

「私はクズでいい、みんなのことを悪く言うな!!」

 天堂茂は私の反応を楽しんでいるかのようだ。

「おい!!」
 ドスの効いた声。私はちょっとびっくりした。
「七海になんてこと言うねん! 半殺しにしたろか? 退学にしたいならしてみいや」

 公一が、私と天堂茂の間に割って入った。この男は頼もしく思える瞬間がある。
 天堂茂は小首を傾げ、公一を眺め回した。2人の背は同じくらいで、男子としてはあまり高くない。
「お前は江原公一だな? お前の父は有名だったようだがこんな奴らと付き合うとは地に落ちたものだな。僕の父上をご存じか? 天堂任三郎、ニッポンジャーの隊長だぞ。日本を統治する戦隊連合の議長だぞ」
「てめぇ、なめんなよ。父親の名前出さな喧嘩できひんのかてめぇ。しばいたろか」

 私は公一の骨ばった腕にしがみ付いた。ひょろひょろだが彼が頼れる男に思えたからだ。
 天堂茂は暫く公一を睨んでいたが、やがてニヤリと笑った。

「惚れているな?」

「な!」
 公一の耳がみるみる赤く染まった。
「低俗な者同士下品に乱れ合っていればいい。おい、その女の出身を知ってるのか?」
 天堂茂は私を指さして言う。その腕には金持ちですよと誇示するような金時計。

「そいつの出身はシティ13(サーティーン)だ」

 楓も佐奈も豚も、エッと声を上げた。
「おやおや聞いてなかったのかい。まあ言えるわけもないだろうがな。お前らの戦隊のリーダーとやらは、まだまだ隠し事をしているかもしれないぞ?」

 シティ13というのは、46ある日本のシティの中で最も治安が悪いと言われるスラムだ。
 戦争で家族を失った子供たちや傷病兵、障害者などが集められ囲われている場所で、無法者たちがよく事件を起こしている。
 確かに皆に言いたくなかったのは事実だが、自発的に言わなかっただけで、訊かれれば答えるつもりではあった。それをこんな形でバラされることになろうとは。

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91 :げらっち
2024/05/10(金) 11:24:38

 私はコボレメンバーの顔を見回し、改めてそれを告げる。
「私はシティ13の生まれだよ。それが嫌でコボレ辞めたいんなら抜けてもいいよ」
 楓はニッと笑みを見せた。
「んなわけねーじゃん! 水臭いぞ! ねっみんな!」
 みんなそうだそうだと賛同してくれた。ほわっとお風呂に入ったみたいに心が、温まる。ありがとう。
 公一が奴に怒鳴る。
「あほやな。そんな出身とか家系とかに拘るお前の心の方がスラムや。さっさと失せろやかまちょ。でないと八つ裂きにしたるからな!!」

 自分の煽りのせいで逆に結束力が高まった事で、天堂茂は一瞬だが顔をしかめた。だがそれも傲慢に早戻り。

「そんな口聞いていいのかな? 教えてくれよ小豆沢。13のお前が僕に逆らってもいいのかな?」

 せっかくのお風呂も窓が割られ、冷たい風が吹き込んだ。
 返す言葉も無く、私はただ奴を睨み付ける。
「どうしたの七海さん。じゃんじゃん逆らっちゃって下さいよいつもみたいに。あのチンパンジーの言いなりになる必要皆無です」と佐奈。

 だが私は逆らえなかった。
 私は奴に、いや正確には奴の父親に、恩があるからだ。私は押し黙った。

「ふんっ、それでいいんだよ。父上が居なければお前は生きてさえいないだろうからな」

 シティ13は、自分たちの力だけでは生きていけないような孤児や障害者が集められている。このご時世、そんな弱者は切り捨てられても文句が言えない。でも奴の父・天堂任三郎率いる戦隊連合の施しによって13の人々は食事に有り付けてきたし、私は生きてこれた。戦隊連合がそんなチャリティーをするのは恐らく善意の行動ではなく、自分たちが正義であり倫理であると日本中に誇示するためのパフォーマンスだろう。動機はどうあれ私が彼らに恩があるのは、事実なのだ。そんなの関係無い、嫌がらせをされれば反発もするさ。でも私の心にも恩義とかいう楔があって、そのせいで私は天堂茂に100%の反抗ができないでいる!

 それは何よりの屈辱だった。
 悔しさのあまり目を固く瞑り、顔をしわくちゃにして、涙を流した。

「フザけんな!!」

 !?
 怒鳴ったのは誰だ、楓だ。
「七海ちゃんにこんな顔させんなよ!!!」
 楓は天堂茂に殴り掛かっていた。彼女は奴に恩は無い。借りは無い。気の済むまでぶん殴れる。
 だが天堂茂は気を付けの姿勢で動じない。
 楓の渾身の反抗は届くことも無く、何者かによって跳ね返された。
「ぎゃん!!」
 楓は畳に転げた。室内に大柄な4人の男たちが乱入し、天堂茂を守る壁となったのだった。私は楓に駆け寄る。
「大丈夫!?」

「茂さん、お怪我は無いですか?」
「ご苦労」
 4人の男は天堂茂を気遣っていた。

「へぇ……卑劣なあなたにも仲間が居たんだ。どうせ父親絡みの脅しか、金の力で仲間にしたんでしょうけど」

「見当違いだな」
 天堂茂は戦隊証を取り出し、口元に当てた。

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92 :げらっち
2024/05/10(金) 11:28:01

「ブレイクアップ」
 天堂茂と4人の男たちは、戦隊証に呪文を吹き込み、変身を遂げた。
 天堂茂の赤が増幅する。
 悔しいが、迫力があった。
 私たちコボレンジャーには不足しているものがある。赤だ。やはり赤は戦隊の華であり、センターであり、大抵の場合エースであり、或いはリーダーである。炎の赤は主戦力となる。コボレンジャーには赤が居ないため、やはり脆弱さを感じてしまう。

 天堂茂たちの戦隊は、コボレンジャーとは真逆だった。


「赤春(せきしゅん)戦隊エリートファイブ!!!!!」


 私たちは口々に叫んだ。
「嘘!」
「何やねんあれ!!」
「ブーヒー!」
 戦隊といえば、カラフルである。色とりどりである。私はそれに憧れて入学し、今もそれを目指している。
 でもそんな大前提を、彼らは否定し、くつがえし、塗り替えてしまった。
 エリートファイブの5人は、天堂茂をはじめ、5人全員が、赤の戦士だった。
 真っ赤な壁を見ているようだった。4人の大柄なレッドたちは、エースを囃し立てる、炎のような赤。彼らに囲まれ、扇の要は、やや小柄な天堂茂。日の丸の国旗の中央に位置するような、見栄えの為に作られたような赤。

「どうだ、驚いたか?」

 私は皮肉で返してやる。
「驚いた。色盲でイロの違いも分からないなんて」
 佐奈はきゃはッと笑った。
「そうそう。戦隊メンバーは全員違う色である必要がある。同じ戦隊の中に同じ色が1つでもあるのはイレギュラーとされるのに、全部同じ色だったらバランスは壊滅的ですよ」
「黙れチビ」
「チビって言うな!」
 チビと言われると佐奈は途端に語彙を無くし、逆上する。

 赤い戦士は高らかに言った。
「赤の欠如しているお前たちが、羨ましがり否定したくなるのも無理は無いがな。バランスというのは、赤だけの戦隊では強くなりすぎるからタブーとされるのだろう? であれば何の問題も無い。僕たちは青春をキャッキャウフフしたいお前らとは違い、戦隊の真の頂点を取る。赤春戦隊という名には、くだらん青春を赤く染め上げるという意味が込められているからな。では、名乗りだ。照覧あれ!!」

 男たちは両端の者から順に名乗る。
「エリートファイブ!」
「エリートフォー!」
「エリートスリー!」
「エリートツー!」
 そして中央、天堂茂。
「僕たちはテストで学年1~5位を獲った、エリートだけの集団だ。その全員が、エースの資質を持つという赤のカラーを有する者だ。そしてエースの中のエースである僕は……」

 天堂茂は早送りでラジオ体操をしているような珍妙な動きをし、キメポーズを取った。
 名乗りの作法の授業のたまものだろう。

「エリートワン!! エリート中のエリートだ」

 楓が叫んだ。
「テストの順位がどうしたっていうの? あんなんじゃ人間の価値は決まらないよ!!」

「どうだか。そういう台詞はテストで満足のいく点を取れるようになってから言うものだぞ。そうでなければただの負け惜しみにしか聞こえんからな。お前は何位だったんだ? 落ちこぼれの名がよく似合う、伊良部楓」

 楓はへたり込んだまま天堂茂を睨み上げている。
 確かに楓は何位だったのだろう。

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93 :げらっち
2024/05/10(金) 11:32:09

 楓は口チャックを閉めたまま喋らない。
 するとエリートツーとかいう戦士が天堂茂に紙を渡した。
「茂さん、一般公開はされてませんが入手した順位表によりますと……」
「でかした。ほう!!」
 それを見てゴーグルの中の奴の目は、満月みたいに丸くなった。

「学級委員長からのお知らせだ。伊良部楓の順位は、なんと、1000位だぞ!!!」

 天堂茂に合わせてエリートファイブのメンバーたちは腹を抱えて笑い転げた。
 公一も佐奈も豚もちょっと驚いたという顔をしていた。悪いけど私も驚いた。
 楓は両手で顔を覆ってうつむいてしまっていた。

 私は彼女の肩に手を置いた。
「……私は1001位だったから。仲間だよ」
 途中退場で私の順位はビリとなったのだ。

「ひゃっはっは! 本当に落ちこぼれの集団のようだな!!」
 天堂茂は笑い転げている。
「赤の居ないお前らなんか、戦隊でも何でもない、ただのゴミの寄せ集めなんだよ!」

「くたばれや!!」
 空気が切れる音。公一が手に隠していた手裏剣を天堂茂に向け打ったのだ。
「お、お前ら僕を守れ!!」
 天堂茂は悲鳴を上げた。エリートファイブのメンバーが彼を守る前に、私は手を伸ばし、親指と人差し指で飛翔する手裏剣をキャッチした。
「見事な車止めの術! ってちがーう!!! 七海! 何で邪魔すんのや!!」
 公一は地団太を踏む。
「あなたを退学にはさせたくない」
 刃を直接掴んだため、指先がじわっと熱くなった。血が滲み出る。
「挑発に乗っても無意味だよ。みんな、こいつのことは無視しよう」

「では戦隊ではないと認めるんだな? 色彩の無い、小豆沢七海」

「じゃあさ、こうしようよ」
 私はとっておきの提案を思い付いた。

「コボレンジャーは戦ー1グランプリで優勝するから。そうしたら私たちの方がすごいって、証明できるよね」

 その時、天堂茂の笑いは最高潮に達した。
「ぎゃっはっはっはっ!!!! 聞いたか! 今のは全校に放送して聞かせてやりたいくらい、傑作だったぜ! 優勝は僕たちと相場が決まっているだろう。お前らはどんなに頑張っても所詮、初戦敗退だろうな」
 天堂茂は他の4人を率いて部屋を出て行った。
 引き戸が閉まると、私はその戸に向けて、力任せに手裏剣を打ち込んだ。ガッと鋭い音がした。

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94 :げらっち
2024/05/10(金) 11:36:44

「死ね!!!」

 楓が天堂茂に飛び蹴りした。
 ガシャン!!!
 天堂茂は倒れ、手足が外れ、バラバラになった。いい気味だ。


 まあそんなことをしたら退学になるので、これは佐奈が即席で開発した「天堂茂ロボ」なんだが。
 楓は天堂茂ロボの残骸をガシガシと踏ん付け、息を荒げていた。恨みは到底晴れないが、多少のストレス発散にはなる。
「あいつむっっっっっかつく! まっじで戦ー1で勝って泣きべそかかして退学にしてやろ!!」
「次俺にもやらせろや!」と公一。

「でも、勝算はあるブヒか?」
 こぼされたちゃんこをかき集めて食べている豚が、胡坐をかいている私に尋ねた。
「ハッキリ言って、僕らには学力も戦力も経験も、まだまだほとんど無いブヒ」
 豚は大柄な割に気弱だ。

「いつみ先生は、どんな手を使ってもいいって言ってた。単純な戦力なら負けても、立ち回りによっては私たちでも勝ち残れる」

 すると、パソコンと見つめ合っていた佐奈が、画面をパタ、と閉じて言った。
「ねえ。残念な仮説を述べていい?」
「どうぞ」
「優勝は絶望的だと思うの」
 そう単刀直入に言われた私の顔は、さぞかしムッとしていただろう。
 佐奈は淡々と続ける。
「まず、学園に何個の戦隊があるかわかってる?」
「うーん」
 考えたことも無かった。
「50くらい?」
「違うよ七海ちゃん。2000の生徒、400の戦隊ブヒよ!」
 豚は屈み込んで、畳に染み込んだちゃんこの汁を舐めていた。
「うちと七海さんが話してんのに邪魔すんな豚!!」
 佐奈は豚のでかい尻をキック。ブヒィ!!

「でね、優勝を狙っている戦隊はまず弱い戦隊から潰して実力を誇示していくと思うの」

「理解したけど、それはどの戦隊も同じ条件じゃない?」

「違くて。これを見て」
 佐奈は《週刊☆戦隊学園》を取り出した。彼女もこれを購読していたのか。
「ここに学園の全ての戦隊名と、戦ー1の優勝予想が載っているんで見て」

 私・楓・公一・豚は集結してその一覧を見入った。

 王道なものから奇抜なものまで戦隊名がずらりと並んでいる。○○レンジャーが大多数、○○○マンや○○○○ファイブが続く中で、アーミー電兵隊、バトルボブスレーJ、ボインシスターズなど戦隊離れしているものまであった。
「オチコボレンジャーなんてまだましなネーミングやな」
「ましとは」
「でも状況は最悪だよ。ほらうちらの順位を見て」

 コボレンジャーは、長~いリストのお尻のお尻に載っていた。401位となっている。
 つまりシンブンジャー調べの優勝予想は最下位ということだ。

「なんでブヒ~~~~!!!」
「わかれ豚。名前的に弱そうだし、1年だし、クラス混成だし、寄せ集めの余り者って思われて舐められてるんですよ」
「実際にそうだからね。それが下剋上するんだよ」
 私がそう言うと、佐奈は子供みたいに地団太を踏んで怒鳴った。
「あのね~、要点はそうじゃ無いの! これはつまり、どの戦隊も真っ先にコボレンジャーを潰しにくるってことですよ!!」

 その台詞を言い終わるかといううちに、部室の戸がドンドンとノックされた。

「たのもう! 野球戦隊ホームランジャーっす! 試合の相手を願いたい!」
「芸術は爆発だー! コボレンジャーを倒すのは、前衛戦隊ピカソマンだ!!」
「無能な絵描き共はどけ! 落ちこぼれの相手は、このカロチン戦隊ニンジンジャーなり!」
「海魚戦隊ヒラメイジャー参上!」
「便乗戦隊リュウコウジャーも便乗!」
「排球戦隊バレーシックスも……」
「小説戦隊〆キレンジャー……」
 部室の前に大量の戦隊が押しかけているようだ。最も潰しやすい戦隊を潰して弾みを付けようというわけだ。

「予言的中やな」

 あちらから戦いに来てくれるなら、むしろ都合がいいではないか。

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95 :げらっち
2024/05/10(金) 11:38:33

 虹光戦隊コボレンジャーの初戦の相手は、真っ先に扉を叩いた野球戦隊ホームランジャーとなった。

「自分は伝令っす。ホームランジャースタメンは下の昇降口で待ってるっす」
 伝令に連れられ、7階の部室から1階の昇降口を目指すことになった。

 既に戦ー1は始まっていた。校内の至る所で多数の戦隊がぶつかり合っていた。

 廊下に線路が引かれており、赤・青・黄の3両の電車が突進してきた。
「優勝は俺ら電車戦隊トレインジャーじゃああああああ!!! オーバーラン!!」
 それに立ち向かうは、カラフルなゴーカートに乗った戦士たち。
「ちょ~っと引っ込んでてくれるかな? 排気戦隊エフワンジャーの勝利だよ!」
「いや、酩酊戦隊スイケンジャ~だよぉ~」
「採食戦隊ベジタリマンの野菜攻撃!!」
 戦いに巻き込まれないよう足早に階段を降り、昇降口に到着。

 そこでは9人もの男子生徒が整列して私たちを待っていた。
 全員坊主頭で背が高く、土だらけのユニフォームを着ており、みんな同じように見える。まあそれは外見上の問題であり、私の目には、彼らはカラフルに見えたが。
 余りにも威圧的なので、私たち5人は縮こまった。
「なな何か強そうやな。初戦の相手があんなガタイ良い先輩らで大丈夫なんか? 人数的にも負けてるし」
「ま、どのみち最後の1戦隊に勝ち残るには全部潰す必要があるからね」
「でもさでもさ! あたしたちって巨大ロボどころか、必殺技さえまだ無いじゃん! 必殺技撃ち合い勝負だったらどうするの? 決めとこーよ!」
「うん。考えとくね」
 私がそっけなく返したのが気に障ったのか、楓は「もう嫌いっ」と言った。あらあら。どうせまた私を好きになるのでしょうあなたは。

 私たち5人はホームランジャーの前に横一列に並んだ。

 ホームランジャー代表は特に背の高い好青年だった。

「自分はホームランジャーの主将! 3年武芸クラス、野中球(のなかきゅう)である! 君たちのチームの代表は誰だ?」

「小豆沢七海です」
 野中主将は大きな手を出した。私も手を出す。彼は私の手を掴み、ぎゅっと握ってくれた。
「勝負を受けてくれたこと、感謝する! 正々堂々挑みたい!!」

 私はその男らしさに惚れ惚れとした。
 高校野球。今でもシティ同士の対抗戦が行われることがあり、テレビで見たことがある。球児たちが暑い日差しの中汗を垂らしてる姿は、うらやましいと共に感動する物だった。アルビノに生まれなければ、日差しの下で思いっきりスポーツをしたかったな。

「私たちも正々堂々挑みたいです」

 野中はニキビだらけの顔で、白い歯を見せて笑った。
「ではレッドグラウンドで、今すぐにもプレーボールだ」

「え?」
 ホームランジャーのメンバーたちは、校庭に通ずる大きな扉を開けた。太陽光が射し込み、私の視界は明度が最大限まで高まり、コントラストが薄くなり、ぼやけて霞んだ。
 私は腕で目を覆い、光りに背を向け、影の方へと逃げ込んだ。
 白内障でも緑内障でもない、これは羞明(しゅうめい)というアルビノの症状。色素の薄い私の瞳は、日光のような強い光りに耐えられない。
 コボレの仲間たちはそのことを知っているので、口々に「大丈夫?」などと言ってくれた。
「大丈夫ではないけどまあ平気」

 しかしこれではホームランジャーと対決できない。
 試合を受けた以上、不戦敗にでもされたらコボレのみんなに申し訳ない。

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96 :げらっち
2024/05/10(金) 11:41:29

「ねね、七海さん」
 目を開けると、小柄な黄色い戦士の姿があった。コボレイエローに変身した佐奈だ。ゴーグルの下は裸眼の三白眼。
 私の顎の下に頭頂がきている。改めて、小さいな佐奈は。ちょっとかわいいなと思ってしまう。ちっちゃいのはそれだけで武器になる。すると私の心をクレヤボヤンス、彼女は眉根を寄せた。
「ねえ、今ゼッタイちっちゃい、かわいいって思ったよね? そういうお顔してたよお見通しですよ。七海さん他人に白いって思われてどう感じるの? 口には出さなくとも同じ事ですよ。二度とそんな考えを捨てること。お約束できる?」
 私はたじろいだ。
「……約束はできないけどその言葉は忘れないよ。それは約束する」
「まあいいですよ」
 佐奈の両手が魔法により、プラスドライバーとマイナスドライバーに変化した。
「七海さんも変身してみて」
「わ、わかった」
 私はブレザーのポケットから戦隊証を取り出す。

「ブレイクアップ!!」

 すると佐奈は、私に狙いを付けて唱えた。
「UVカッター!!」
 ドライバーから電気が流れ、静電気を全身に受けたように、頭から爪先まで、バチッと衝撃が走った。
 しかし痛みはさほどなかった。
「外に出てみて」

 私は外を見た。
 あれ。

 さっきほど、日差しが邪魔じゃない。
 ゴーグル越しの視界はクリア。太陽光線がちょっかいを出してこない。明度も彩度も正常だ。

「今の魔法で、変身中のみ太陽の影響を受けなくなったよ」
「え、本当?」
「本当のはずだよ」
 私は目をぱちくりさせながら、恐る恐る、太陽の下に出てみる。イクチオステガも初めて海から陸に出る時、こんな風にドキドキしたのだろうか。片足ずつ日陰から日向に踏み入る。まるで地雷が埋まっていないか警戒するかのように。

 大丈夫だ。

 陽光は程良い明るさで私を照らしている。まぶしくないし、肌も痛まない。
 変身した状態ではあるがお日様の下に出られた。これは夢か?

 佐奈も後からついてきた。
「効果切れたらまた魔法かけるね? 副作用も無いはずです。学校のサーバーにアクセスしてちゃんと調べておいたから」
 佐奈がパソコンに憑りつかれたように見入っていたのは、このためだったのか。
 私は佐奈に走り寄り、屈んで彼女を抱きしめた。
「ありがとう佐奈だいすき!!」
「な、七海さん照れるよ!」
 私は涙ぐみながら佐奈を強く抱き締めた。
 楓も公一も豚も目を点にして私たちを見ていたが、やがて楓が「まじか、良かったじゃん! えも!」と言った。

 私はハグを終えると、遊びに行く子供のように、日差しの下を駆け出した。
「それじゃグラウンドまで競争だよ!」
「あっ待ってよ七海さん、うち走るの嫌いなんだよ」
「七海、フライングは卑怯やで!!」
 みんなが追いかけてくる。青空の下を走るのが、こんなに気持ちいなんて。

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97 :げらっち
2024/05/10(金) 11:41:43

 日差しの下、広い校庭にて。
 私たち5人は、ホームランジャーの9人と向かい合って立っていた。全員が変身した状態で。

「ねえ、こっち5人しか居ないんだけど」
「自分たちで調達しろ! 友達を呼べばいいだろ友達をっ!」
 野中は変身すると別人のように厳しくなり、無責任な言葉を叫んだ。何だこいつは。

 友達なんて居ない。
 私は公一に尋ねる。
「ねえ、友達、居る?」
「おらん」
「七海さんうちに任せて」と佐奈。
「え、佐奈友達居んの?」
「居るわけないじゃんわかり切った質問はしないで。そうじゃなくて、量産したこいつら使いましょう」

 佐奈の隣には、5人の天堂茂……ではなく5体の天堂茂ロボが並んで居た。
「げ! なんやねんこいつらきっしょ!」
 不気味でならない。天堂茂のお面を付けた粗悪なロボたちは、首振り人形のようにガクガクと動いていた。佐奈が校庭脇に落ちていたガラクタに、両手のドライバーから電気を流し、作り出したのだ。
「まあ頭数合わせってことで……あと、うちは運動嫌いだから、補欠ってことで」
「え」


 先攻 オチコボレンジャー
 1 コボレグリーン
 7 コボレブルー
 2 コボレイエロー
 6 コボレホワイト
 3 天堂茂ロボA
 4 天堂茂ロボB
 5 天堂茂ロボC
 8 天堂茂ロボD
 9 天堂茂ロボE

 後攻 ホームランジャー
 8 オレンジセンター
 9 シルバーライト
 1 レッドピッチャー
 2 ブルーキャッチャー
 3 イエローファースト
 4 グリーンセカンド
 5 ピンクサード
 6 パープルショート
 7 ゴールドレフト

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98 :げらっち
2024/05/10(金) 11:59:23

 試合開始。

「ストライク!」
 野中の剛速球に、公一は大きく空振りした。
「くそぅ!」
 私はベンチから声を掛ける。
「公一! そんな大振りじゃ当たんないよ!」
「知らん! 野球なんて初めてなんや!! できるわけあるか!」

 野中は振りかぶって、投げる。

「こんニャロ!」
 ズバン! とミットに命中する轟音。公一は空振り三振となった。
 裁定者シンパンジャーは告げる。
「バッターアウト!」

 バットを引きずって帰ってくる公一。楓が叱責する。
「何してんだよぉ!」
「あんなん打てるか! 投げたと思ったらもうキャッチャーミットの中やねん! お前が打ってみぃや!」
「いいよ! あたしも初心者だけど、ビギナーズラックでホームラン打っちゃうかもよ?」
 楓が打席に向かう。私はその背中に声を投げ付ける。
「楓、塁に出ることを考えて。私に打順を回して」
「えー?」
 私は叫んだ。
「ホームランじゃなくて、塁に出ることを考えて!!」

「何言ってんの? 塁に出ても点にはなんないじゃん! ホームラン打ったら得点! 見てて!!」

「シロートは……」
 私はベンチに座り込む。

 3連続の轟音、楓の悲鳴。案の定、空振り三振に終わった。

「豚ノ助、あなたならやれるよね? 仮にもスポーツ選手なんだし。期待してるから」
「ブヒ~。七海ちゃんに応援されると照れるブヒ。必ず七海ちゃんに打順を回すからね」
 豚はだらしなく身をよじりながら、バッターボックスに向かった。

 力士が打席に立っているのは異様だ。体がボックスからはみ出してしまっている。

 球が投げられた。
 バキッという音、この試合で初めてバットがボールに触れた。豚は流石の強肩で、ボールを三遊間に飛ばした。
 これならば間違いなく出塁できる。私に打順が回ってくる。

 でもここは、コボレンジャーの落ちこぼれっぷりを余すことなく見せつける羽目になった。

 豚は有り得ないほどに鈍足であった。ぼてぼてと、まるで水の中を歩いているようなスピードで走った。しかも、
「豚ノ助!! そっちは三塁だよ!」
「ブヒー! 間違えた!」
 豚は間違えて三塁方向に走ってしまっていた。ホームランジャーの面々は笑い転げた。遊撃手が球を一塁に送り、アウトとなる。
「スリーアウト、チェンジ!」

「馬鹿ノ助……」
 ついに打順は回ってこなかった。

 攻守交代。ホームランジャーの攻撃。恐ろしい時間の始まりだ。

「い、いっくでー!」
 ピッチャーの公一は、キャッチャーの豚めがけて球を投げる。
 ひょろひょろとはいえ、女子の私よりは力があるだろう。さあ、どうなるかな。

 ……
 だあああああああああ!!!??

 顔面に激痛が走り、私は尻餅を突いた。

 目がチカチカする。何が起きたか理解できないが、とにかく鼻が痛い。痛い痛い痛い……
 硬球はボールになるどころか、何故かショートである私の顔にめがけて飛んだのだった。鼻に命中した。私は咄嗟に氷魔法でクーリングする。
 変身して防御面が上がっていたからまだいいものの、素顔だったら鼻の骨が折れていただろう。
「ごういぢ。あどで金玉潰すがらね……」
「かんにん!!!」

「ボーク!」

 またもやホームランジャーは爆笑する。

 公一はガクガク震えている。私は鼻を押さえながらアドバイスする。
「あぜらなぐていいから、手裏剣の練習だと思っでやっでみて」
「よ、よし」
 公一の2投目。今度はキャッチャーミットに向けて飛んだが、ヘロヘロだ。
 カキンと快音。
 球は青空をまっすぐに飛び、校舎の裏に消えて行った。見事な場外ホームラン。
 いや、感心している暇は無い。ここからが大変だ……

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99 :げらっち
2024/05/10(金) 12:01:29

 ツーアウト(私の好守備によるもの)を迎える頃には、ホームランジャーは私たちに33点という大差をつけていた。


 ゴーグルの下に、目を真っ赤にしている公一の無残な顔が見えた。
「公一、代わろっか?」
「もっと早めに代わって!?」

 私はマウンドに立つ。

 打席にてバットを構えるのはレッドピッチャー、野中球その人だ。
 しかも塁に5人出ている。ナンセンスな状況だが、ホームランジャーはどんどん塁に出るため一塁に2人、二塁に1人、三塁に2人居るのだ。この状況でホームランが出れば一気に6点入ってしまい大変不利だ。

「悪いけど、ここで負けるわけにはいかないから。どんな手を使ってでも勝たせてもらう」
 私は振りかぶり、球を投げた。
 公一といい勝負の遅い球だ。甲子園の只中に始球式をするような物だ。
 野中は余裕綽々というようにバットを振る。今だ。

「フリーズ」

「あれ?」と野中。

 バットは空を切っていた。
 球はバッターボックスのほんの手前、空中でぴたりと停止していた。私が魔法で球を硬直させたのだ。メルトと唱えると球は動き出し、豚のミットの中にきちんと収まった。
「ストライク!」
「魔球か!?」

 続く2投目。
 野中は、次も同じ戦法でくると思ったのだろう。警戒し球を見送った。チョロいな。
「ツーストライク!!」
 球はまっすぐに豚のミットへ収まった。
「七海ちゃん、良い球ブヒ~」
「おのれ小豆沢七海、なかなかやるではないか……」

 3投目。
 野中は主将の意地で球を打った。ま、それも狙いなのだけど。
「ブリザード!」
 私は吹雪魔法で空中の球を操作した。球は私のミットに吸い寄せられるようにして落ちた。私はそれをキャッチ。
「スリーアウト、ようやくチェンジ」

 野中は私の居るマウンドにずかずかと突き進みながら叫んだ。
「魔法を使うとは卑怯だぞ!!」

「どんな手を使ってもいいから。そもそも、野球が不得手な私たちに一番に勝負を仕掛けてくるあたり、あなたたちも球児としての潔さは無いんじゃない?」

 野中は何も返せず、うつむいた。
 私はマウンドを降り、野中が入れ替わりでそこに立つ。攻守交代、次のイニング。


 2回表、コボレンジャーの攻撃は私から。
 野中が球を投げた。さあショータイムだ。初めての太陽の下の白球勝負、魔法でホームランを打ってやる!
「スパイラルスノウ!!」
 パコーンと気持ち良い音が鳴り、硬球は高く飛んだ。飛距離は魔法のアシストを受け伸びた。しかし同時に出塁せねばならない。走りながら飛ぶ球に魔法の意識を傾けるのは至難の業で、1年生の私が勘だけで行うには経験不足であり、途中でボールが魔法の届く範囲を超えて圏外になった。それでもボールはかなり遠くに飛んだ。私は足は余り速くないが、二塁か、最低でも一塁までは行けるはず……

 すると野中はとんでもない指示を出した。
「イエローファースト!! 塁を破壊しろ!!」
「うっす!」
 一塁手は何故かバットを持っていて、それを振り降ろし、ファーストベースを真っ二つに破壊した。スポーツマンシップを踏みにじる行為だ。しかもそいつは塁の残骸を放り投げてしまった。
 私はようやく一塁跡地に辿り着いたけど。
「ちょっと! 塁を踏めないじゃん!」
 イエローファーストは知らんプリしている。マウンドの野中が大声を張り上げた。
「これでお前らは点を取れない! 俺たちの勝利が決まりだ!! どんな手を使っても良いんだろ? いーだ!!」
 大人げない。というか野中の性格が豹変している。
 そのうちにゴールドレフトがボールを取ってきて私をタッチアウトにした。なかなか泥試合になってきた。

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100 :げらっち
2024/05/10(金) 12:04:24

 一塁が無いため私たちは点を取れない。
 ホームランジャーは舐めプをしどんどん回が進んでいく。
 4回表までゲームは進んだ。このままでは33対0で負けてしまう。

「どおりゃあ!」
 公一は何とかボールを打つも、フライに終わりワンアウト。

 ベンチにて。
「どうすんの七海ちゃん? このままじゃ負けちゃうよ!」
「そうだ、良いこと思いついた」
 私は楓の耳に、ひそひそと作戦を教えた。
「あっいいねぇ七海ちゃん!」

 楓が打席に立つ。
 相手を甘く見ている野中により甘々のボールが投げられた。楓はそれを引っかけ、ボールは一塁方向にぼてぼてと転がった。イエローファーストがそれをキャッチするも。
 楓はその隙に、二塁方向に全力でダッシュしていた。予期せぬ事態にホームランジャーは唖然として対応できない。
 楓がピッチャーマウンドの傍を走り去り、野中は驚いてバタッと倒れた。
「いえーい! 二塁到達!!」
 楓は二塁から手を振っていた。私も手を振り返す。一塁を省略して直接二塁に出るというのが、このゴミのような野球の攻略法だ。

 倒れていた野中は、腹筋のストレッチをするように、グググと上体を起こした。
「舐めやがって、コボレンジャー。ホームランジャーの本気を見せてやる」


 そこからが地獄だった。
 楓は調子に乗って盗塁しようとしたところを刺され、豚も打ち取られた。
 本気を出したホームランジャーはパカパカとホームランの大安売りで点を取った。他方、私たちコボレンジャーは全てのイニングを三者凡退で終えた。


 9回表。

 99対0。

 この回で100点取らなければ私たちの負け。コボレンジャーの戦ー1敗退が決まる。
「やばいやん! 天堂茂にあんなビッグマウス叩いてここで負けるとか最低や! 何か作戦があるんやろ七海?」
「別にないよ」
 公一は口をあんぐりこと開けた。
 野球の上での作戦は、何も無い。
 すると、ずっとベンチに座っていた佐奈が言った。
「あのさ七海さん。暇だから《週刊☆戦隊学園》のバックナンバーを読んでたら面白いものを見つけたんだけど……」
「ほい?」
 私は佐奈の差し出した冊子を見た。そこには《夏の夢、無残に散る!》と書かれていた。
 にやり。
「確かに面白い記事だね。お手柄だよ佐奈」
「わかってるね七海さん」
 私と佐奈は、くひくひと女のゲス笑いをした。
「それのどこが面白いブヒ??」
「女って怖いねんな」

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101 :げらっち
2024/05/10(金) 12:04:42

「オイ! 早く打席に立て! 負けが決まってるからってぐずぐずするな!」
 野中の声が聞こえた。

 私は天堂茂ロボを全て破壊し打順を無視して打席に立つことにした。

 バットを持って、青空の下に出る。

 こんな内容になってしまったが、私は今、太陽を浴びて、外でスポーツをしている。土の匂いに暖かい空気。晴れ晴れとした気分。

 マウンド上の野中と、目が合った。すると彼は無粋なことを言った。
「どうだ? 敗北の味は。戦ー1も高校野球と同じで一度負けたら次は無い。よくよく悔しがることだな」
 面白いじゃん。
「ふーん、敗北の味ならあなたの方が良く知っていると思うのだけれど。去年シティとの対抗戦でぼろ負けしたから戦ー1で憂さ晴らししようとしてるんでしょ。名前が弱そうってだけの理由で、真っ先に私たちを潰しにくるなんて。敗北の味は、余程苦かったのでしょう」

 野中はビクッと体を強張らせた。図星のようだ。

「私はまだその味を知りたくはないな」

「ほざけ!! どのみちお前らが逆転するなど不可能だ。どんな手を使ってもいいというのはお前らの公認だ。では、デッドボールで気絶させてやろう」

 野中は振りかぶった。私の頭に狙いを付けて。

 さあどう料理しようか。勝ち目のない勝負を真面目にやる必要は無い。
「待てよ」
 そもそも。

「そもそも戦ー1グランプリは野球の勝負じゃないし、野球やろうって言ったのは向こうの押し付けルールじゃん」

 私はバットを捨てた。
 野中は怒鳴った。
「小豆沢七海、試合放棄か!?」

「みんな集合ー!」
 私はコボレンジャーの4人を集める。

「私たちのイロを合わせて、必殺技を撃っちゃおう!」

「ブヒえ~~!?」
「まじで言うてるん!?」
「きゃはッ! さっすが七海さん! 平常心がクレイジー!」
「七海ちゃん、そういう無茶苦茶なとこ大好き!!」
 4人の同意――同意か怪しい意見も幾つかあったが――を得て、私たち5人は星形の陣形を組み、アドリブで必殺技を放つ!
「その名もオチコボレーザー・ペンタ!」
 ペンタは5という意味だ。確か。
「うっわ相変わらずネーミングセンスが壊滅のかい子ちゃんや! 神様七海にネーミングセンスを与えて!」
「うるさい。さっさと撃つよ」
 Gレンジャーがやったように綺麗にはいかないけれど、私たちは5つのイロを掻き混ぜて、乱暴なヒカリを、相手にぶつける!

 唖然とする野中に向けて光線が飛んだ。彼は「わあ」と言って咄嗟に避けたが、マウンドは爆発。無数の光の弾があちこちに飛び散り、そのうち100個ほどが場外まで飛びホームランとなった。ついでに守備についていたホームランジャーたち全員に直撃した。試合続行不能。オチコボレンジャーの勝ち。
「初戦敗退すると言ったのはどこの誰?」


つづく

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