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193.『戦隊学園』制作スタジオ
┗196-205
196 :第7話 1
2021/07/12(月) 22:14:41
豚之助は土俵のド真ん中に大の字に倒れていた。
負けた。
これで一勝四敗、負け越しとなる。それはオチコボレンジャーの戦-1敗退を意味する。
だが。
「コボレイエロ~!」
「ブヒ?」
軍配は西――つまり、豚之助に上がっていた。
青龍丸は観客にも聞こえるような大声で問いただす。
「おかしいだろうがぁ!!」
「お静かに。」行司は言った。
「四つに組み合ってヒットウブルーが俵に左足を掛けた際、親指が蛇の目を掃った。これによりコボレイエローの寄り切りとなる。」
会場は騒然となった。
だが一番驚いているのは豚之助の様だった。まだ起き上がることもできぬまま目をぱちくりとさせている。
青龍丸は憤怒の表情で観客席に目をやった。東の砂かぶりに居た赤鵬がのしのしと進み出た。
「俺は見ていたが指は出てなかった。いんちきを言うんじゃねえよ行司。バラされてぇのか?」
「何やて?行司の言うことが信じられへんのか!?」
「あ!」
七海は察した。あの関西弁は。
「公一!」
変装しているがよく見ると公一だった。紫の行司衣装を身に着けている。
館内に放送が入った。
『軍配は西に上がりましたが、ビデオを確認したところ、そのような事実は確認されませんでした。よって、行司差し違えとなります。』
「何やて?」
青龍丸はガッツポーズをし、行司に思い切り肩をぶつけた。
「撮ってんなら最初から言わんかい!行司の居る意味ないやんか!」
七海はあちゃーという顔をしうつむき、楓は苦笑いしている。
「じゃ、じゃあこんならどうや!ごほん――青龍丸は立ち合いできちんと両手を付かなかった。よってこの一番は無効、取り直しとなる。」
これも公一のでっち上げだろうか、だが今度こそ行司の判断は正とされた。
「きゅ、九死に一生ブヒ!」
豚之助はようやく起き上がり仕切り線に戻った。愚鈍な豚之助は行司の正体が味方であると気付いていないようだ。
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197 :2
2021/07/12(月) 22:16:20
豚之助と青龍丸は仕切り線に両手を付いて睨み合う。
「しゃらくせぇさっさと勝負をつけてやる。」
取り直しの一番、青龍丸は最初の仕切りで突然立った。
「ブヒ!?」
奇襲、豚之助は一気に徳俵まで持っていかれる。
「負けるかブヒ!」
豚之助は相手の顔を思いきり張った。パァンと言う音がし、青龍丸は仁王立ちになる。
「てめぇ!」
青龍丸も張り返す。
「ブヒブヒ~!!」
張り手の応報、喧嘩相撲だ。
豚之助は太い腕で相手を仕留めようとするも機動力で負け、顔に数発喰らって鼻血を噴いた。
「助けてぇ!」
豚之助は行司の後ろに回り込み背中に引っ付いた。
「あ、何しとんねんあほ!」
「邪魔だ行司、どけやゴラァ」
青龍丸は行司である公一にも容赦なく突っ張りを入れた。
「行司に手を出したら反則やで~!」
ひょろひょろな公一は一撃で升席の方まで吹っ飛んで行った。
「邪魔者はもう居ねぇ、サシで勝負だ」
真下の砂かぶりから七海が怒鳴る。
「負けんな!!」
「七海ちゃん!」
豚之助は相手のかいなを掴む。投げの打ち合いとなり、両者の体が土俵外に飛んだ。
七海にはそれがスローモーションのように見えた。2つの巨体が回転しながら落ちてくる。
「うわ!」
ドスンと言う凄い音、七海は豚之助のでかい腹に押し潰された。
土がついたのは青龍丸だ。
「ビデオ判定だ!ビデオ判定しろ!」
青龍丸は土俵下で顔面血だらけになって叫んでいる。だが青龍丸が先に落ちたのは誰の目から見ても明白だった。
観客たちは溜め息を漏らした。
「な、七海ちゃんダイジョウブヒ!?」
「勝ったね。」
下敷きとなりながらも七海は笑顔を見せる。
「無事ブヒか!じゃあ勝利のちゅーを・・・」
「やめてよ!ていうかどいてよ重い!」
「ごめんごめん」
豚之助は勝ち名乗りを受けに土俵に戻ろうとするが。
「う!!」
立ち上がることが出来ず、七海の傍にうずくまる。
「豚之助?」
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198 :3
2021/07/12(月) 22:18:55
夕刻。
七海は自室からの梯子をつたい、階下の佐奈の部屋にやってきた。
佐奈は机で原稿用紙と睨み合っていた。
下書きを何度も消して書き直したのだろう、紙は消しゴムの跡で真っ黒になっていた。
机の上には筆記具の他に、購買のおにぎりの包みが散乱している。
「おにぎり好きなの?」
「作業をしながら食べるのは、炊き込みご飯のおにぎりが一番効率いいって、公一くんが言ってたから。」
佐奈はブツブツと答えた。
「どうしてもバランスが取れない。」
「4つじゃね。五体(身体の五つの部分)のロボを作るなら、5体のロボにしたら?」
佐奈は七海をじろりと見た。
冷笑を浮かべて。
「笑えるじゃん。」
「まぁまぁ、ピリピリしないでよ社長。これでもどうぞ、オススメだよ。」
七海は缶コーヒーを机の上にトンと置いた。さっき自販機で買った物だ。
「コーヒー好きじゃないんだけどな。紅茶党だから。」
「そっか、メモっとこ。」
七海は卑屈な佐奈にイライラしつつも何とか自制を保ち、缶のタブをプシュと開ける。
「これは私が飲んじゃうね。」
佐奈はノートを開いた。
「とりあえずこれが仮の案。4体のロボが合体して、大きな1つのロボになる。デザインジャーの技術を盗んだものだから間違いない。七海さんが人型のロボ、うちが象、楓さんが蟻、公一くんが・・・」
「パクリだからダメなんじゃないの?」
佐奈はにっこり笑った。
「え、何?」
「デザインジャーのを真似たんじゃ、負けるか良くて同じにしかならないよ。勝ちにいくなら、全然違う、新しい物を作らなきゃ。」
佐奈はしばらく七海の目をじっと見つめていたが、笑顔のまま。
「買いますよ、喧嘩」
「喧嘩したいんじゃないよ。そもそもこれじゃ豚之助のロボが無いし、別の案の方がいいと思っただけ。」
「豚之助なんかにロボは必要ない!」
佐奈は机をバンと叩いた。
「とにかく、この案で何とか完成させるから――」
「あっごめぇん!」
七海はノートにコーヒーをぶちまけた。一面が茶色に汚れ、図案は読めないほどに霞んだ。
「何すんの!?」
「わざとじゃないよ、本当に手が滑って。」
「絶対わざとでしょ!!もうやめた!」
佐奈はノートをビリビリに破いた。
「出てってよ。」
「わかった。」
七海は立ち上がる。
「最後にこれだけは言わせて。」
「何?」
「ちゃんとお風呂入ってる?」
佐奈は5日間同じパジャマを着ていた。
「もう5日も缶詰じゃん。気晴らしに北寮の大浴場でも行ってみたら?広いお風呂で足を伸ばすのって、気持ちいい!夜11時以降にいくのがオススメ。その時間なら誰も居ないから、1人でくつろげるよ。」
佐奈は返答しなかった。
「そんだけ。」
七海は梯子を上がって行った。
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199 :4
2021/07/12(月) 22:21:54
夜11時、大浴場――
扉を開けてきょろきょろと脱衣場を覗き込む、小柄な少女の姿があった。
「だぁれもいない。」
佐奈だった。
替えのパジャマと洗面用具を手にとことこ入って来る。
「来るのはじめて~」
佐奈は少しワクワクしていた。
脱衣場は熱気が凄いが、首を振っている扇風機のおかげで涼しくもある。
ネットで調べても、この空気は実際に肌で感じねば味わえないだろう。いつも来ない空間に来るのは、それだけで刺激になる。
「本当に居ないよな?」
大きな棚に多数のカゴが置かれているが、使用中の物は無いようだ。
もう一度辺りを見渡し人が居ないのを入念に確認すると、佐奈は服を脱いだ。
裸になると、誰も居ないと思いつつ、一応タオルで体を隠す。
ふと体重計が目に入った。足を乗せてみる。アナログ式のもので、目盛りがカタカタと進む。
「嘘、やばぁ・・・」
目盛りは50の一歩手前で止まった。
「5キロも増えてんじゃん。身長は伸びないのに・・・くそ。」
浴室に向かい、扉を開ける。
「にゃあ!」
眼鏡が真っ白に曇った。
「あふ・・・取るの忘れてた・・・。」
眼鏡をカゴに戻し、改めて浴室に入る。
お湯の匂い。裸足で濡れたタイルを踏みつける。中は広く、温泉旅行に来たかのような気分だ。
しかし。
「ン?」
奥の方からザーザーと、シャワーの水音が聞こえる。
「誰か居る・・・?」
人見知りの佐奈はこのまま帰ろうかとも思ったが、取り敢えず相手の姿を確認しようとした。
髪の長い女子だった。
かなり太っていて、浴用椅子がでかい尻の下で押し潰されそうになっている。
それだけならいいが、佐奈は何故かこのシルエットに見覚えを感じた。
「ん・・・?」
裸眼を凝らしてよく見る。
すると、そのシルエットが振り向いた。
女子ではなかった。
「ブヒ?」
豚之助だった。
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200 :5
2021/07/12(月) 22:23:19
ちょんまげを下ろした豚之助は、女子のように髪が長かった。
「わぁあああ!?」
佐奈はパニックを起こし逃げようとした。だが不運にも足元のタイルに泡があり、思いっ切り転んだ。
「ぎゃあ!!」
「さ、佐奈ちゃん?」
豚之助はようやく佐奈が来ていたことに気付いたようだ。
佐奈はうつ伏せに倒れたまま起き上がれない。
「あ、あしがぁ・・・うごけぬぅ・・・」
「ダイジョウブヒ?」
豚之助は混乱しつつも佐奈を助け起こそうとする。しかし佐奈は「くんなぁ!」と叫んで足をばたつかせた。
「落ち着いて!」
豚之助はタオルで佐奈の体を覆い隠す気遣いを見せた。
「あ・・・ありがと・・・。」
「どこかぶつけたブヒか?」
豚之助は屈みこみ、患部を確かめようとする。
「いや、そうじゃなくて・・・転んだ途端に足がつったの・・・。」
「運動不足ブヒね。」
「うっさいなぁ。ていうか何で女湯にいるの?ヘンタイなの??」
「え――ここは男湯ブヒよ。ここ23時以降は、男湯に切り替わるから。」
佐奈は硬直した。何なら憤死するところだった。
「七海さん殺してやる」
「え?なんか言ったブヒ?」
佐奈は豚之助の肩に掴まって立ち上がると、足を引きずりながら浴室から出ようとする。
「もうちょっとあったまるブヒ!どうせこの時間はあんまり人来ないし。僕も楓ちゃんに言われて、初めて来たんだけど。」
「楓に?」
佐奈は全てを察した。
「・・・うちらを引き合わせようって魂胆か・・・」
佐奈はよろよろと歩いて行く。
だが扉を開けた瞬間冷風に吹かれ、温度差がヒートショックを引き起こした。立ち眩みに襲われ佐奈は再び倒れた。
「佐奈ちゃん!」
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201 :6
2021/07/12(月) 22:24:58
豚之助の大きな腕の中でタオルにくるまれ、まるで赤ん坊のような状態で浴室を出る佐奈。
「ち、ちからもち・・・」
「これくらい余裕ブヒね。」
長椅子の上に横たえられる。
「ちょっと待っててね。」
豚之助はその場を離れる。
そして1分と経たないうちに、ドスドスと戻ってきた。
「これ飲んで!」
豚之助は飲料を持ってきた。
佐奈は椅子に腰かけ、それを飲む。
「ごく・・・!」
甘く冷たく、朦朧としていた意識が戻ってきた。
「うちの好きな、ミルクティ」
「ブヒヒ。喜んでもらえたブヒか。」
「ていうかさ、来てるの気付かなかった。カゴ無かったんだもん。」
「ここにあるブヒ」
豚之助は手を伸ばして棚の一番高い所にあるカゴを取った。そこには彼の衣類が入っていた。
「うわ、いいなぁ。うち届かないとこじゃん・・・とりあえず着替えるからさ、見ないでくんない?」
「了解ブヒ。」
豚之助はカゴを持って棚の裏側に回った。
佐奈は眼鏡を掛け、着替え始める。すると棚の向こうから、豚之助の声だけが聞こえて来た。
「デカくても良いことだけじゃないブヒよ。」
「え~?」
「頭をぶつけたり体を持て余すことも多いブヒ。それに女子は、ちっちゃいのがかわいいって思うブヒよ。」
「かわいいって誉め言葉とは限らないよ。あんたもいつもうちのこと、チビって馬鹿にしてたけど・・・。」
佐奈はモノクロのシックなパジャマを着てボタンを留める。
すると棚の上から、太い腕が伸びて来たではないか。
「なに・・・?」
豚之助が写真を差し出していた。
佐奈は背伸びして手に取ってみる。そこに写っているのは、小柄でやせっぽっちな、少年。
「僕ブヒ。」
「え・・・えっ?」
佐奈は目を丸くした。
「嘘?」
「嘘じゃないブヒ。僕、小学生まではチビって馬鹿にされてたブヒ。だからムキになって、中学生から体を鍛えて大きくなった。佐奈ちゃんが気になったのは、僕に似てるって、思ったのかも・・・。」
「ふーん、」
佐奈は写真の中の少年をじっと見る。
「でもそれは、男の子のほうが大きくなれるポテンシャルがあるからで・・・」
「イダダ!!」
「え?」
突然豚之助の悲鳴が聞こえた。佐奈は棚の裏を覗いた。
寝巻に着替えた豚之助がうずくまっていた。
「大丈夫!?」
「ブヒ・・・青龍丸戦の怪我が、意外とこたえたブヒね・・・」
「け、怪我してたの!?それなのにうちを抱っこして?」
豚之助はブヒヒと、細い目をもっと細めて笑った。
「相撲は怪我との戦い、どんなにボロボロになっても、七転八倒ブヒ。」
「七転び八起きでしょ?明日・・・相撲は取れるの?」
「わからない。でも不戦敗にはできないブヒ。何とか土俵に立たなくちゃ。コボレンジャーを、勝たせなきゃ。」
「それならうちに考えがある。」
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202 :7
2021/07/12(月) 22:28:24
六日目の土俵。
控えに座るドスコイジャーの黒ノ不死は、身長335㎝・体重350㎏。
平均身長の高くなった2041年でも突出している学校一の巨漢だ。肌は黒く、いかつい風貌で恐れられている。
横綱である赤鵬よりも強いのではないかと噂されるほどだ。
時間が近付いても豚之助はなかなか現れない。
「まさかあいつが怖くて逃げ出しちゃったんじゃ?」と楓。
「それよりも昨日の怪我が深刻だったのかもしれない。」七海。
「大丈夫、豚之助はゼッタイ来るから。」
砂かぶりには胡坐をかいている佐奈の姿もあった。
「そして勝つから。」
観客席がやにわにざわつき始めた。
ガッチャン、ガッチャンと、足音を鳴らして。
巨大なロボットのようなものが歩いてきた。いや機械の鎧と言うべきだろうか。
顔の部分だけは生身の人間、豚之助の顔だった。
「ぶ、ぶたのすけぇー!?」
佐奈は自信満々に言う。「違う。あれは――メカ之助。」
メカ之助は土俵に上がった。鉄の足に踏み付けられ土俵はメコっとへこむ。
今やその体は黒ノ不死より一回り大きい。
黒ノ不死は初めて出会う自分より大きな相手を前にして困惑している様子だった。赤房下の赤鵬が怒鳴った。
「反則だろうがぁ!」
だが公一の変装である行司は淡々と仕切った。
「かまえて!」
行司の居場所が無いほど土俵は窮屈になっていた。少しぶつかり合っただけでもすぐに土俵から出ていしまいそうだ。
楓は焦って聞く。
「さっちゃんアレは?」
「足怪我したっていうから、最初は補助具を作ろうと思ったの。でも作ってるうちに、全身改造しちゃえ!・・・って思った。そんだけ~」
「すご!天才か?」
「天才です。今さら気付いたの?」
「やってくれると思ったよ佐奈。」七海はニコッと笑う。
「時間です!待った無し!」
2つの巨体は蹲踞の姿勢を取る。これだけでも踵が俵にくっ付きそうなほどだ。
場内はシンと静まって。
黒ノ不死は雄叫びを上げ突っ込んだ。
常人ならひとたまりもないだろう。だが全身を機械で固めたメカ之助は違う。
ドガァンと言う音、メカ之助は一歩も退かず、いとも簡単にその突撃を受け止めた。
「そっちが重戦車ならこっちはジェット機ブヒ。ブースト寄り切り!」
メカ之助は背中から炎を噴いた。
ジェットエンジンで電車道、一気に黒ノ不死を土俵の外に寄り切った。
砂かぶりに居た赤鵬とドスコイジャーの面々は哀れ黒ノ不死の下敷きとなる。
「グああ!」
「ブヒトリー!(ビクトリー)」
豚之助は星を五分に戻した。
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203 :8
2021/07/12(月) 22:31:39
豚之助の快進撃により急遽、戦隊首席会議が行われた。
10のクラスにはそれぞれ首席が居り、それの会合が戦隊首席会議となる。
首席は大抵3年生から選出されるが、成績・功績・戦績次第ではその限りでない。
文学クラス・天堂茂は、テストでの優秀な評定と偉大な父の影響により、1年にして首席の座を勝ち得た数少ない1人だ。
彼は会議室の椅子でふんぞり返っていた。
「このザマは一体どういうことですか。」
「坊ちゃん申し訳ねぇ。」
赤鵬は首席の1人であるにかかわらず椅子も与えられず、ドーナッツ型の円卓のぽっかり空いた中心に、デカい身体を折り畳んで跪いていた。
「返す言葉もねぇ。」
「オチコボレンジャーのような卑劣で、低俗で、下賤な戦隊が優勝となればとんだ恥晒しだからな。もっとしっかりしてほしいものですね?赤鵬先輩。」
赤鵬はぺこぺこと頭を下げる。
「既に武芸・忍術クラスの戦隊が不覚を取っている。戦-1で優勝するのは僕のエリートファイブだとそう言う筋書きだろう?小豆沢七海には僕の個人的な恨みもあるんだ。さっさと潰せ。」
円卓を取り囲んでいる8人の首席のうちの1人が発言した。
「・・・私的には。」
魔法クラス主席・金閣寺躁子(きんかくじ そうこ)。
金髪で、巫女の衣装のよく似合う、学園有数の美女。
「あんま乗り気じゃないですね。小豆沢七海は魔法クラスのかわいい後輩ですものね。」
「そうでぇす!」
続いて金閣寺の隣に座す生物クラス主席・PP(パンダパンダ)チョウスキー。
パンダのキグルミに身を包んだ異様な男。
「生物クラスは今、戦隊動物園のオープンに尽力でぇす!あなたのおままごとに付き合っている暇はありませぇぬ!」
「黙れ。」
天堂茂は姿勢を正すと、眼鏡の下の目をギラつかせた。
「わかっているだろうが、僕の父上は、本学園の理事長も務められているのだぞ!!」
首席たちは黙り込んだ。
一変、天堂茂はパッと笑顔になる。
「・・・どうした?もっと気楽にしていいぞ。僕は先輩方の自主性を尊重するつもりですからね!これは命令ではないのだ。僕からのただの“お願い”だ。」
首席たちは更に縮こまってしまった。
赤鵬はスッと立ち上がる。
「俺が明日、最後の相撲に勝つ。コボレンジャーは敗退待った無しだ。」
「だが奴らにはロボがあるんだろう?」と天堂茂。
すると彼の隣でノートパソコンを打っていた女子が叫んだ。
「あんなのロボじゃないのよ。鉄くずをセロハンテープで止めただけ。鰻佐奈!工学クラスの裏切り者のチビ。うざい、」
彼女はデザインジャーとして学園のロボ開発を担当している茶髪のポンパドールの女子。
その卓越した才能で、天堂茂と共に1年にして主席の座にあるのだ。
天堂茂は少し閉口した。
「おかしな髪型だな。」
「ポンパドールです。」
「そうだな・・・ではポンパドーデス、赤鵬先輩のためにロボを作って差し上げろ。」
「ポンパドールです。」
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204 :9
2021/07/12(月) 22:40:19
赤鵬と豚之助の大一番は通常の土俵では行われなかった。
昨日のメカ之助の進撃により土俵に亀裂が入ったのもその一因ではあるが、それよりも――2人ともデカすぎて、土俵に入りきらなかったのである。
千秋楽は巨大兵器同士の相撲となった。
校庭に敷設された専用の土俵は東京ドームほどの大きさもある。
観客たちは校舎の窓から戦いを見るのだが、ジュウキオウの時とは違い、高さのある土俵を見上げていた。
館内放送が入る。
『心はレディーのジェントルメンも!見た目はボーイのガールズも!実況はおなじみ、配信戦隊ジッキョウジャーの実況者YUTA!まずは西から、オチコボレンジャーの巨大兵器、メカ之助の入場だ!学園最弱とも噂されたオチコボレンジャーは、この一番に戦-1の進退を賭ける!』
メカ之助は昨日よりも遥かにデカくなっていた。
もはやアーマーと言うより豚之助の形をした巨大ロボだ。のしのしと土俵に登る。
『遅れて東から、オチコボレンジャーに胸を貸す、相撲戦隊ドスコイジャーの・・・おーっと、これは!』
こちらは更なる異形が現れた。
3体のロボである。しかもその3体とも、人間のカタチではない。
上半身だけの力士が2本の腕で地面を歩行しているという妖怪のような気味の悪い姿であった。
3体のそれは土俵によじ登った。
『なんだこれは!どうやらデザインジャー製のロボのようデスが。そもそも相撲は1vs1の勝負のはずなのに、3体も居ていいのか!?』
「まあこっちは5人居るんだけどね。」
メカ之助のコクピットに座って居たのは七海だった。
「いぇい!」楓、
「なんやねんあれきっしょいな!」公一も搭乗している。
ディスプレイに、前方でうごめく3体の異形が映っている。
『では立ち合いデス!見合って見合って!』
ドスコイジャーの3体のロボは縦に積み重なり合体を始めた。
相撲取りの顔が3つ団子の様に重なっているというやや手抜きなデザインだが、最大の特長は腕が4本ある事だろう。
土台部分になったロボの腕は脚になったが、腹部と頭部のロボの計4本の腕は、自在に動いていたのだ。
「完成、奇塊鵬(きかいほう)。」
奇塊鵬のコクピットに乗っているのは赤鵬。
「大岩大之助、顔じゃねぇよ。」
奇塊鵬は4本の腕のうちの2本を太い仕切り線に付けた。
メカ之助のコクピットには佐奈も座っていた。
機器に埋没していた小さい彼女だが、大きな声で叫んだ。
「メカ之助!あんな気味の悪い奴らさっさと倒しちゃお!」
「了解ブヒー!」
豚之助の声がコクピットにこだまする。豚之助は意思を持つ巨大ロボに改造されてしまったのだ。
メカ之助は仕切り線に両腕を付いた。
次の瞬間、2つのロボがぶつかり合った。
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205 :10
2021/07/12(月) 22:42:55
ガンッという金属のぶつかり合う衝突音、幾つかのパーツが外れ校舎に降り注ぐ。
力士同士のぶつかり合いは凄まじいが、それが巨大ロボともなると尚更だ。
生徒たちは息を呑んでこの押し相撲を見守っている。
奇塊鵬がやや優勢に見えた。
メカ之助は土俵の端に押されていき、ズズズと言う音、土煙が上がった。
「いなして!」
佐奈はレバーを思いきり引いた。
メカ之助は相手の力をうまく逃がし、一瞬の隙を突いて鋼鉄の太い腕で相手を突いた。
ドォンと言う破壊音、その一撃は強烈。
奇塊鵬は大きくのけ反る。明らかな死に体(しにたい)だ。
「やったか!?」
まだだ。
奇塊鵬はぐるんと逆立ちした。腕だった部分が足となり、足が腕となる。そして何事も無かったかのように動き出した。
『やはりこのロボにも一工夫あった!デザインジャー製にハズレなしぃいい!!』
観客たちから万歳三唱が湧き上がる。
「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」
奇塊鵬は4本の腕で万歳をした後、その4つをフル回転させメカ之助を滅多打ちにした。
「いや、手付いた時点で負けっしょ?はぁ!?」
佐奈は怒鳴った。
「意味わかんねぇ!おい七海、楓、公一!!さぼってねぇで動力を送れ!メカ之助、しっかりやれ!やらねぇとスクラップにすっからな!!」
「スクラップは嫌ブヒ~!」
怒号を飛ばす佐奈に七海が声掛けする。
「佐奈?オーバーヒートしてるみたいだし水入りにしたほうが・・・」
「るせぇ!俺に指図はいらねぇんだよ七海!!喋ってねぇで手を動かせっつってんだ手を。」
「あ、はい。」
楓はドン引きしていた。
「佐奈のキャラが違う・・・」
大打撃を受けコクピット内は高温になっていた。
メカ之助は体中から煙を上げながら退こうとするも、4本の腕でガッチリと掴まれ、吊り上げられた。
「まずいブヒ!」
観客たちは大歓声、メカ之助は土俵の外に思い切り投げ飛ばされた。
「ブヒ~!!」
しかし、
『飛んだ!』
土俵から落ちたはずのメカ之助は、宙に浮かんでいるではないか。
「八艘フライング!!」
佐奈はもしもの時のために搭載していた機能を使った。メカ之助はジェットエンジンで空を飛んでいた。
『メカ之助、空を飛んでいる!!勝負は最後まで分からない!!』
「反則だろ!」
赤鵬は拳を操縦席に打ち付ける。
七海はつぶやいた。
「反則はお互い様。」
「行くよメカ之助。デザインジャー製の合体ロボは接続部が弱い。だるま落としの要領で!」
「オッケーブヒ!」
メカ之助は降下すると、奇塊鵬の胴体に思い切り張り手を放った。
パシンと言う音、胴体を形成していたロボが分離し、土俵の外に飛んで行った。
頭部と脚だけがその場にとどまっていたが、それも次の瞬間には崩れ落ちた。爆炎が上がる。
赤鵬は操縦席から土俵の上に放り出された。
「つぶーす!」
佐奈は容赦なくメカ之助の足を上げる。
「やめろぉ!!」
赤鵬は両腕を上げ、迫りくる巨大な足の裏を必死に支えるも、限界が来る。
「ぐあああああ!」
メカ之助は赤鵬を踏み潰した。
『こ、これはオチコボレンジャーの勝利だ!決まり手は・・・踏み潰し!』
呆然としている観客たち。
佐奈は恐ろしい提案をした。
「七海さん、さっきはつい怒鳴っちゃってごめんね。ねぇいいこと思い付いちゃった。このまま観客たちも踏み潰してさ、10pts分稼いじゃお・・・?」
七海は目をぱちくりとさせたが。
「さすがに私でもそれは思いつかなかったよ。クレイジーで、イかしてるね。」
「わかってるじゃん。」
佐奈はレバーを引いた。
「止めてブヒ~!!」
メカ之助は校舎に突撃した。
校舎の一部が崩落し、観客たちは散り散りに逃げ惑う。佐奈はメカ之助を操縦し、蟻を踏み潰すように人々を踏み潰した。
「今までよくもチビって言ったな!チビ共潰してやるぅ!ほら逃げ惑えぇ!!」
佐奈はヨダレを垂らしていた。
七海は、死者が出ないよう祈ることにした。
つづく
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