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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
┗218-230
218 :げらっち
2024/06/08(土) 12:22:26
第20話 お金の力は素晴らしい
コボレンジャーの部室は、中央校舎7階にあるこぢんまりとした和室だ。
9畳程の、1人では広い、10人では狭いというような部屋。
戦隊の定石である5人ならばちょうどいい。
だけれど今日からは、ここに1人加わる。
5人でも10通りのペアになれる。6人ならば、何通りだろう。1人仲間が増えるだけで、それほど多くの、イロの掛け合いが見られるようになるってことだ。
虹が見られる日は近いかもな。
楓の食べかけの菓子、公一の脱ぎ捨てたジャージ、佐奈の漫画と資料本、豚の等身大力士フィギュア。
5色の趣味で統一感なく彩られた部屋。
中央に茶ぶ台があり、そこにコボレの5人が集っていた。
今夜は星十字凶華の歓迎会をすることにしたのだ。
購買でたっぷり食べ物を用意し、黒烏龍茶でノミニケーションだ。
「はいはーい、それじゃ、改めて名乗ってもらいましょう。6人目のコボレ戦士です!」
私は陽キャのように音頭を取った。
私は、いわゆる陽キャではない。だからといって陰キャとも思わない。太陽は誰にでも日を落とすし、日の落ちない時もある。つまり誰もが陰になり陽になる。だから今夜の私は、パリピっぽい。
楓と豚はノって拍手してくれたが、公一と佐奈は白けた顔をしていた。
それが空飛ぶ絨毯であるかのように、隅っこの畳の上にちょこんと正座して乗っていた凶華が、ぴょんと飛び出てきた。
癖のある黒髪に、ぱっちりした目、口の中で遭難した際はランドマークになるであろう対の大きな犬歯。
「星十字凶華だ。よろしくな!!」
その名前を聞くなり、コボレのみんなは凍り付いてしまった。それほどこの言葉は恐れられているようだ。
私はパンパンと手を叩いた。
「ほらほら、どうしてみんな固まってるの? 待望の新メンバーだよ!」
みんな黙って無言の押し付け合いをしていたが、じれったく思ったのか、佐奈が代表して口を開けた。
「七海さんどうにかしてる。星十字はシャレになんないですよ」
「ん? オイラはシャレなんて言ってないぞ! オイラは正真正銘の星十字だぞ」
佐奈は絶句した。
代わりに、楓が言う。
「ま、まあいいじゃん!! よろしくね凶華くん!!」
「よろしくブヒ~!」
「だからあんたたちは緊張感が無いって言われるんですよ……」と佐奈がぼやいていたが、スルー。
「よろしくよろしく!」
凶華は私と楓の隙間に入った。
この犬が加わったことで5人の間隔のバランスが崩れたので、皆ちょっとずつ体をずらして、均等に間を取った。
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219 :げらっち
2024/06/08(土) 12:22:45
コボレの6人が茶ぶ台を囲んで座っている。
「じゃあ冷める前に食べちゃおう! 今夜はハンバーガーパーティーだよ」
私は茶ぶ台の上に掛けていた白い布を取り払った。30個近いハンバーガーが、所狭しと乗っていた。
戦隊学園は食事はタダだし、こういった嗜好品も格安で入手できるので助かる。
「うまそー! 良い匂いしてたんだよな!」
凶華は鼻からハンバーガー群にダイブした。
「凶華くんって七海ちゃんみたいに共感覚あるんだよねー?」と楓。
「え、なんて?」
挨拶もせずにチーズバーガーをむさぼり始めた凶華は、楓の質問を聞いていなかったようだ。
「こらいただきます言わんかい!!」と公一。
「あ、いただきます」
「ったく、許可も無しに女子の匂い嗅ぐし、お前にはマナーってもんが無いんとちゃう?」
公一はわざわざ立ち上がり、ハンバーガーの山越しに文句を言った。公一は育ちが良い。
「意地悪しないでよ公一。妬いてんの?」
凶華はマイテンポに言った。
「あ! 自分が嗅いでもらえなかったから妬いてるんだ!!」
いや、そういう「嫉妬」ではないと思うんだけどな……
「いいよ、オイラ嗅いであげるよ!」
凶華は茶ぶ台の円周をぐるりと回り、公一の元に走った。
「くんくん」
「やめーや!」
公一は腕を振るった。そこから小型の刃が飛び出して凶華を襲った。あれは確か、袖箭(しゅうせん)という、袖の下に隠し暗殺などに用いる初歩的な暗器だ。初歩的だが、オフ会で忍ばしておくには残忍であり、彼が凶華に殺意を持っているのが窺えた。
しかし凶華の方が数枚上手だった。彼はパシッ、両手を閉じ、飛んでいる蝶を捕まえるかのように、刃を受け止めた。
白刃取り。
「オイラと遊んでくれるのか? それとも、オイラがお前で遊ぶか?」
凶華は子供みたいにひゃはっと笑った。
公一は初手を封じられて成す術も無く突っ立っていた。2つ3つと手を用意しておかない辺り、公一に暗殺者の資質はなさそうだ。
凶華は公一の懐に顔を寄せて、匂いを嗅いだ。
「あ、うっすいけど、よく嗅ぐと、森林みたいな良い匂いするんだなお前! 気に入ったぞ!」
「は? きっしょ、寄んなホモ!」
「ホモ? でもオイラは……」
「あのね公一、凶華は男の子じゃないんだよ」
私がそう言うと、公一のみならず、その場に居た全員が「ゑー!!」と言った。
「ま、ま、まじ? あたしてっきり……」
「男の子かと思ってました。FtMの方? 言われてみればそう見えなくもないかも……」
「嘘やろ!? てことは変身祭に百合カップルとして来てたん? うわー最悪やー!!」
「男女比が2:1、偏ってるブヒ!! 男である僕と公一くんの肩身が、どんどん狭くなるブヒよ!!」
4人は、凶華が女子であると決めつけたようだ。
「男じゃなかったら女だって、どうしてそう短絡的なんだ?」
凶華のその台詞で、再び全員がフリーズした。
凶華はズボンを穿いて、小ざっぱりとしたボーイッシュななりをしているが、この紫式部は、男と女に二分されないのだ。
「と、いうことは……」
「うん。そういうことだよ。私が確認した。お風呂で」
「一緒にお風呂入ったんかーい!!! 地球の終わりやー!!!」
そんなことでこの星は終わらない。
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220 :げらっち
2024/06/08(土) 12:23:04
「凶華がどんな性別であれどんな生まれであれ私がこの犬を仲間認定したんだからそれで決まり!」
「うーわ、暴君や。コイツの亭主になる男は一生尻に敷かれる覚悟をせなアカン」
私は柏手を打つ。
「一緒にご飯を食べれば友達! 早く食べよ、腐っちゃう!!」
「七海ちゃんがそう言うなら文句はないブヒ。頂きます!!」
豚はハンバーガーをもぐもぐ食べ始めた。
楓はわたわたしていたが、改めて凶華に質問した。
「あ、しっつもーん。人から感じる匂いってさ、ご飯の匂いとかとは別なの?」
「そうだなー。別っちゃ別だし、同じっちゃ同じ」
凶華のその回答は、なんとなく理解できた。
私も、景色の覚知と、共感覚としてのイロの認知を、同じ視覚情報として扱っている。それでも別のものだとは理解できているし、切り離して捉えることができる。
凶華は私と同じ、共感覚の持ち主だ。
だから私はつい、この犬に愛着を感じ、世話を焼いてしまっているんだな。
なんてことを考えていると、楓たちが凶華相手に自己紹介をしていた。
「あたし伊良部楓! よろ!」
「じゃあお前はカエだな!」
「カエ? うわ、かわいいあだ名考えてくれてありがと!!」
「僕は大口序ノ助ブヒ!」
「お前は豚だな!」
「それはみんなと同じ呼び方ブヒ……」
私がハンバーガーを5つ平らげた頃には、凶華は楓たちと打ち解けていた。
「ねえ、戦隊学園に来る前はどうやって暮らしていたか、詳しく話して貰いたいんですけど……」と佐奈。
「前のガッコに入る前は、《外の世界》でブラブラしてたぜ! シティの奴ら、オイラの名前を聞くと出てけって言うんだもん」
「そ、外の世界で生きてきたんですか!?」
「ああ。野宿とかしてたぜ」
「た、逞しいですね……」
焚き火の傍で野宿している凶華の姿が、何故かありありと想像できた。
「前のガッコってどこブヒ?」
「ビラ校!」
「な、何やて!?」
「ビラ校って何? ビラビラ高校?」
「伊良部さんそんなことも知らないの?」
「そんなことも知らなくて、悪い?」
「あのね、ビラ校はヴィランズ高等学校のことですよ。戦隊学園とは真逆の悪の養成学校で――」
ちなみに私のお気に入りは、カレーバーガーだ。
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221 :げらっち
2024/06/08(土) 12:23:24
しばらくして楓が言った。
「ドリンク切れちゃったー! じゃんけん負けた奴が買い出し行こーぜー!!」
「あ、じゃんけん? おもしろそ! 遊ぼ遊ぼ!」と凶華。
6人で最初はグーする流れになったが、その前に佐奈が言い出した。
「うちと七海さんで行きますよ。ちょっと飲み過ぎちゃって外の空気吸いたいので」
「烏龍茶で酔ったブヒか?」
そんなわけない。
「え? 私しらふ」
すると佐奈は私の腕をつねりつつ引っ張った。私は悲鳴を上げそうになりながら、無理矢理立たされた。
佐奈は私の耳にはまったイヤホンのように、私にしか通じない小声で「いいから」と言った。
私と佐奈は新婚カップルのように腕を組んで茶室の外に出る。
「あ、ちょい待ち! 俺も行く!」と、何かを察したのか、公一もオマケに付いてきた。
佐奈と公一。珍しいペアだけど共通点がある。
凶華加入反対派のメンバーだ。
暗い廊下、私は佐奈に腕を引っ張られてよたよたと歩く。佐奈、小柄なのに凄い力だ。
公一は私たちを追いかけながらぼやいていた。
「ったく、近頃の七海は変や! あの凶華とかいう男か女かもわからん奴に骨抜きにされとる!!」
「別に、骨はあるよ」
「慣用表現や。俺が渡したクローバーはどしたん?」
公一から貰った四つ葉、凶華に燃やされちゃった。
でもそれを言うと、公一と凶華の仲が更に険悪になるかもしれないので、ここは、狼少女になろう。
「ごめんなくしちゃった」
「はぁ!?」
公一は石化した。
「俺が渡したクローバー……なくすなんて……やっぱ俺の事なんて……」
佐奈は立ち止まって言った。
「あいつ、変、ゼッタイ。星十字軍の子孫でしかもビラ校出身。ビラ校って知ってます? 悪の学校ですよ。星十字軍の次世代の悪の組織、犯罪組織スライムとか秘密結社タコスとか改造実験法人オスとかとかとかを輩出してるんですよ何が言いたいかって、あいつをうちらの戦隊に入れちゃダ・メ・で・す。七海さんがクレイジーなのは知ってるけど、サイコパスにはならないで。戦隊はチーム戦なんでしょ? 人の意見を聞かないのは政治家と同じ。リーダーならうちらの意見を聞け」
佐奈がコボレをチームと認め、チーム全体の利益になるよう私に進言するようになった。これは大きな成長で喜ぶべきことだ。
でも、コボレの躍進の為には、新たなイロを加える必要がある。私は頑固なので考えを曲げない。
「佐奈が言ってるのは凶華のバックグラウンドだけじゃん。あの子自身を見れば、あの子が悪い子じゃないってわかるはずだよ。差別・偏見は意見とは言えない」
佐奈は私の腕に凄い力で爪を立ててきた。
「っった!!!」
振り払うも、白い前腕に爪痕ができ血が滲んでいた。
佐奈は何も言わず獰猛な三白眼で睨み付けてくる。この子だけは敵に回しちゃダメだ……
「佐奈の言う通りや。初対面でいきなり鼻をすり付けてくる奴なんか信用したらアカンって!」
「公一くんはただ妬いてるだけでしょ?」
「はぁ? 妬いてへん妬いてへん。あいつがおかしな奴なのは佐奈お前も同意見やろ?」
「まあね。それはそう」
今はいがみ合っていても、雨降って地固まるようにさせたらいい。
「じゃさ、私たちでチョット探りを入れてみようよ。あの子の潔白が証明されれば、文句は無いでしょ?」
雨が降った後に出るのは、虹だ。
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222 :げらっち
2024/06/08(土) 12:23:39
私たちはロッカーのある昇降口に向かった。
電気を点けると、暗闇の室内が色で満たされた。私は自分のロッカーを開く。寮からいちいち持参するのが面倒なので、宿題に使う以外の教科書はここにしまってある。
ロッカーの中では教科書たちが、整然と背の順に並んでいた。
「うわ、めっちゃきれいに並べられとるやん! 何で?」
「何でって? 理由はないただの自閉症」
公一は腐ったジャムパンを食べたような顔をした。障害を嫌がられること自体は問題ない。私も嫌だから。
私はロッカーから戦隊の歴史の教科書を引っ張り出し、索引から該当ページを開いた。
『2020年5月13日、採石場の戦いにて、隊長・天堂任三郎(当時29)率いる日の丸戦隊ニッポンジャーは、日本を侵略しようとした星十字軍を討伐し、総統・星十字楼也(ほしじゅうじろうや 当時33)を処刑した。
ニッポンジャーの敢闘により日本の平和は守られ、世界の均衡は保たれ、人類の未来は拓かれた。
ニッポンジャーは護国戦隊として不動の地位を築き、天堂任三郎は戦隊連合の議長ともなった。翌2021年には戦隊連合の尽力により戦隊学園が開校。これにはニッポンジャー及び金融戦隊ギンコウジャーが多大な出資をしている。
ニッポンジャーの功績は、未来永劫語り継がれてゆくだろう』
何だこのニッポンジャー賛美は。
ご丁寧に、若かりし天堂任三郎が天に向かって拳を突き上げている写真が添えられていた。
「処刑された星十字楼也の跡取りが居たんだとしたら大問題ですよ。教師陣は何をしてるのやら」
「でも見方を変えることもできるよ」
「どういうことや?」
私は頭の中でパズルをした。
普段使わない知能の裏側までひねったので、脳がかゆくなりそうだった。
「星十字軍はスケープゴートで、戦い自体ニッポンジャーが名声を得るための欺瞞だったのかもしれない。星十字軍が世界征服を企む悪の組織だったって言うのも、いわば御伽話のようなものでしょ?」
私の仮説を聞いて、佐奈はきゃはッと笑った。
「いつにも増してクレイジーだね七海さん。本当好きですよ。うちが男なら、プロポーズしてるくらいには」
でも私は大真面目に言う。
「ニッポンジャーの御曹司と持て囃される天堂茂があんな性格だし、反対に星十字軍の子孫だという凶華はイイ子だ。可能性、あるんじゃないかな?」
「どっちみちこんな少ない情報じゃ何もわからへん! こうなったら気の済むまで調べようや」
「じゃあ図書室がイイかもですね。夜遅くまで勉強する生徒の為に、21時まで開いてますしあそこ」
私たち3人は、図書室に到着した。
赤レンガで造られた平屋。図書室というより、図書館だ。建物1つ丸ごと書庫となっており、膨大な数の資料や小説、漫画なんかも収蔵されている。
空調の整備された館内、本棚が軍隊のように整列している。
歴史の本の区画。
「骨の折れる作業になりそうだけど、手分けして星十字軍の情報を探そう」
「ほいさっさ」
私たちはそれぞれ怪しいと思った本を取り出して、パラパラめくった。虱潰しに当たるしかない。
『戦隊の台頭とライダーの衰退』という本。
ライダーは、かつて戦隊と共に二大ヒーロー群として日本を守っていた。赤の日以降、戦隊が力を持つようになると、ライダーは急速に力を失い、2044年現在は活動が見られていない。そういう内容だった。
授業で習わない歴史の、何と多い事か。
「オイ! これ見てみ!」
公一に呼ばれて彼の元に走った。彼は何故か天文学のコーナーに居た。
「UFOの目撃談、それに写真も!」
公一の開いたページには、白黒ではあるが、市街地の空に円盤が浮いている写真が刷られていた。どう見ても合成だ。
「あなた幽霊の話もしてたし、オカルトに興味があるの? 今はそんなのを探しにきたんじゃないでしょ?」
公一はムスッとした顔で、本を乱雑に閉じた。
「お前とは趣味が合わへんなあ」
「それが何か問題でも」
「夫婦喧嘩してる場合じゃないですよ、ちゅうもくちゅうもく」
佐奈が小声で叫んだ。私と公一は彼女の元に走る。
佐奈は真っ黒い表紙の分厚い本を手にしていた。題名は埃に霞んでいるけれど何とか読める。『星十字白書』。見た目は黒いのに。
佐奈が開いているページを覗くと、彼女の指さす先に、セピア色の写真があった。佐奈の爪は少々伸びていてどす黒いものが詰まっている。あれは私に爪を立てた時に私の皮膚と血液がこびり付いたのだろう、というのはどうでもよく、その写真にうつっていたのは。
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223 :げらっち
2024/06/08(土) 12:24:02
「凶華!?」
ちょっと癖のある髪。両端が持ち上がった口角からはみ出した、対の犬歯。
どんな物でもきれいに見えてしまうんじゃないかというような、邪気の無い澄んだ目。
そこには凶華の顔が載っていたのだ。
「でもこれ、結構古い本みたいだよね?」
「ボケないで七海さん。これは星十字凶華じゃないよ」
佐奈は写真の下の文字を指で叩いた。
『星十字楼也』
星十字軍総統その人の名前だった。更にその下に「30歳の頃の写真」と書かれていて目玉が飛び出んばかりに驚いた。
この写真の人物は、どう見たって凶華や私たちと同じくらいの青少年にしか見えない。
邪気や煩悩は人を成長させるが、老けさせもする。それらが無いという事は、いつまでもピーター・パンと一緒に夢の国に居られるという事だ。
それにしても、似過ぎている。
凶華がこの男性の子孫だとしたら、似るのは当たり前かもしれない。それでも奇妙なほどに瓜二つ。正確な模写、正に生き写しのようなのだ。
逆に謎が増えてしまった。
「どういうこと!?」
「しぃ。図書館ではお静かに。ビンゴです。あのコは星十字軍の忘れ形見だったと見て間違いない、黒ですよ。うちの言う通りでしたね星十字凶華は追放ですコボレの参謀であるうちの助言は聞いておくべきなんですよね最初カラネ」
「それよりさ」
私は佐奈の手から本を奪った。佐奈は「ああん!!」と大袈裟に喘いだ。
「これが星十字軍についての細かな報告書だとすれば、ニッポンジャーが星十字軍を倒したのは八百長だって証拠があるはずだ」
私は他のページにも目を通そうとしたが。
「不法侵入! モーモタロサン!! モーモタロサン!!」
「え?」
「金太郎クラーッシュ!!」
まさかり担いで熊に乗った金太郎が私に体当たりした。
「ぎゃあ!!」
私は大きく吹っ飛ばされ、本を取り落とした。すぐに拾おうとするも、本は消えており代わりに謎の赤い戦士が立っていた。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? 銀の斧ですか? それとも大きいつづらですか小さいつづらですか」
「いや、どれも違うのだけど。私が落としたのは黒い本。それに、何か色んな御伽噺が混ざってる気が……」
だが公一はあほみたいに「金の斧です!!」と言ってしまった。
「嘘吐きの欲張りのあなたにはこの金の斧で頭を割ってやる!!」
赤い戦士は斧を振り上げた。私は咄嗟に「違います、つづらです」と言った。
するとつづらが落ちてきて開いた。
「浦島太郎タマテバコーッ!!」
私たちは煙に包まれ、老人老婆になるどころか、図書室の外に飛ばされてしまった。
「な、なんや今のは! 無茶苦茶や!!」
「もっかいあの本の所に行きましょう!」
私たちは今一度図書室に入った。すると受付には、さっきの赤い戦士が居た。
「ストーップ! 私は読書戦隊エホンジャーのエホンレッド!! 図書室はたった今より、入場に料金が発生するようになった!!」
なんだその暴論は!!
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224 :げらっち
2024/06/08(土) 12:24:19
「500円お払いください」
「ええ~、500円!?」
私たち3人は呻き声でハーモニーを奏でた。500円は高すぎる……
「でもコボレにとって必要経費じゃん。七海さん出してよリーダーでしょ?」
「いやいや、ここは実家が金持ちのミスター公一に任せよう!」
私は彼の肩をドンと叩いた。
「なんでやねん!」
私と佐奈は女子であることを利用してえへらえへらと彼をおだてた。公一は渋々払うことを了承し、ガマグチから大きな硬貨を取り出した。
「しゃあないな、次は無いからな? ほい500円」
「申し訳ありませんが、1人500円です」とエホンレッド。
「ええ~~!!?」
納得いかない。
図書室は今までタダで利用できていたはずだ。
「変じゃない? 学習のための施設なら学生は無料で使えて当然だと思うのだけど」
「変なのはどーっちだ。よーく考えてみてぇ?」
読書スペースの方から光り。
金の屏風を背景に、誰か歩いてきた。いつみ先生のような太陽のまばゆさでもなければ、金閣寺躁子のような金メッキの明るさですらない。単に金の衣装で身を包んだだけの女。背は平均程度だが、金色のブーツで底上げしてこれなので、実際は低いのだろう。金のミニスカートに金のセーター、金のハンチング帽を被った、黒髪ショートヘア。
誰だコイツは。
「わたしは板金京兆那(ばんきんけちな)。金融戦隊ギンコウジャー・トウトリゴールドの一人娘だよー! よーく覚えておいてね」
板金は幼女のような声で名乗り、金色の名刺を差し出してきた。名前の中に、数字の単位を示す語がひしめいているが、何だかけち臭い。
「あんたたちは今まで、無料で学園の施設を使ってきた。それだけじゃない。タダ飯を喰い、水道も電気も使いたいホーダイ。おねしょをすればまっさらなリネンに取り換えて貰える。でもそれって変だよねー、普通はお金を払うべきなんだよねえ?」
喋り方にムカついたか、佐奈がつっかかる。
「戦隊の養成は世界の最優先事項です。戦隊連合が補助金を出しているから、生徒側は多くのお金を払わなくてもいいわけですよ。お金持ちしかヒーローになれないなんてことになったら世界は終わるってことくらいわかるでしょ?」
「黙ろうねおチビさん」
「!!!」
佐奈は語彙を無くし板金にタックルしようとしたが、公一に止められた。
板金はチッチッ、と、金のマニキュアの塗られた人差し指を振る。
「こうなったのもあんたたちのせいなんだよねぇー。あんたたちが巨大なガラクタで校舎を壊しまくったから、復興財源が必要で、それで増税となったのだあ!」
「メカノ助をガラクタって言うな!!!」と佐奈。
「増税ってなんやねん」と公一。
板金はあかんべえ。舌に砂金がくっついていた。
「このままだと赤が出るって、パパ率いるギンコウジャーが算出したんだよね。学園の首席たちが会議を開き、増税案が可決されたんだよー」
首席と言えば、天堂茂の顔が思い浮かぶ。
「じゃああなたも天堂茂側の人間?」
「別にそうとは言ってないよぉ。税は金脈、金のなる木! これからは何をするにも税を取られるから覚悟しときなよー! 読書税に食事税、ウォシュレット税なんかもね!! にゃはは、お金が増えるのはきもちーなあ!!」
板金はふんぞり返って去って行った。
というわけで、図書室への再入場はできなかった。
夜の廊下を歩き、部室に戻る。結構時間が経ったので、楓たちは勝手に二次会を始めているかもしれない。
私はへこたれず言った。
「アイツも天堂茂とグルだ。アイツが私たちを図書室に入れないようにしてたってことはつまり、天堂茂は星十字軍についての情報を隠匿したいんだ」
ニッポンジャーが星十字軍を討伐したというのは、プロバガンダに違いない。
それを隠すために増税なんて馬鹿げたことを……
「陰謀論はもういいやろ」
公一がそう言った。
「え?」
「星十字軍は悪で決まりや。凶華を認めることはできひん」
「そんなのないよ! 凶華はイイ子だし……」
公一は意を決したように、言った。
「お前は凶華のこと好きなんやろ!?」
え。
「え、それは違うよ。濡れ衣戦隊ゴカイジャーだよ」
「白を切んなや!」
本当に違う。
私は単に、凶華のイロに惹かれ、共感覚持ちというところに自分との共通点を見つけ、近付いてみたいと思っただけだ。でもそんな弁論の余地も無く、公一はそっぽを向いて行ってしまった。捨て台詞をポイ捨てして。
「七海なんてめっちゃ嫌いやねん!!!」
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225 :げらっち
2024/06/08(土) 12:24:37
翌日は昼過ぎからの授業で、午前は暇だった。
私はむしゃくしゃしたので髪をバサッとやった。胸に届くくらい伸びていた白い髪が、肩に掛かるくらいになった。これから夏だし、だいぶさっぱりした。
別に失恋のショックではない。
ゼッタイに違う。
自室にて。
「七海ちゃん、髪切った?」
髪が切られていることは一目見ればわかるのに、わざわざ言質を取ろうとしてくる愚かな楓には愛の返答を。
「私は切ってない。切ったのは美容師さん」
「うわー、くっさい屁理屈だ」
楓は臭気を払うジェスチャーをした。
美容戦隊オシャレンジャーという学園専属の職業戦隊が、無料で生徒の髪を切ってくれるのだ。
「よっしゃ、あたしも今日髪切ろ! 七海ちゃん付き添って!」
「暇だからいいよ」
右手に日傘を装備、左手で楓と手をつなぎ、アウトレットを歩く。
学生銀座に立ち並ぶ店は盛況で、「アルバイト募集中!」などという看板も見られた。生徒は学内でバイトをしてお金を稼ぐことも可能なのだ。
美容院に到着。
楓は「たのもう!」と勢いよく扉を開けた。
するとオシャレッドが言った。
「あらぁ~、ごめんなさいねえ。うち今日から料金とらなきゃいけなくなったのよねえ。増税とかで」
「まじ? じゃあ切るのやめよ! 七海ちゃん払ったの?」
「え、私払ってない」
「ごめんねぇ~、七海ちゅわん。さっき請求し忘れちゃったのよねえ。800円払ってもらうわよぉん!」
「高!!」
私はずっこけた。こんなの後出しじゃんけんだ。先に言ってくれれば切ってもらわなかったのに……
オシャレッド、憎い男だ。
やむなく800円を払って退店すると、他の店もザワついていた。
「オイ! なんでレッドブル値上げしてんだよ!!」
「ノートくらいタダにしてよ! 勉強に必要じゃない!」
「仕方ないんですよ。首席会が増税を決めたので……」
突然の増税、増税、増税。
天堂茂のことは増税メガネと呼ぶことにしよう。
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226 :げらっち
2024/06/08(土) 12:24:51
その後も増税の影響が各所に出ていた。
お昼ご飯を食べに行くと、学生食堂でも怒号が飛んでいた。
ご飯1杯はこれまで通りタダだが、2杯目以降はおかわり税を取るというのだ。
生徒たちはデモを起こしている。
「増税ハンターイ! 食べ盛りの俺らに愛の手を! タダでいっぱい食わせろー!!」
「すまないねえ。首席会の決めたことには逆らえないからねえ」
とキッチンジャーのおばちゃん。
「文句は上の人に言ってくれないとねえ」
しかも1杯200グラムまでとの事。
私はシャウトした。
「たった200で6時間目まで耐えられるかあ! せめて400は食べさせろ!!」
「七海ちゃんは大喰いだからね……」と楓。
でもお金を取られるのは癪なので、200で我慢するしかない。
ミニマム茶碗、小盛りの白米に点々と黒ゴマだけが乗っている。ひもじい……
私もデモに加わろうかと思った。
食堂脇の学生掲示板には、大量の貼り紙がされていた。そのどれもが、「○○増税」という内容だった。
生徒たちは貼り紙を見て怒ったり嘆いたり失禁したりしていた。私と楓は人混みを突き進み、掲示を見た。
おかし税やジュース税など比較的納得できるものから、教科書税や鉛筆削り税など必要な物品に関する課税、遅刻税や赤点税、夜更かし税など処罰に近いもの、ほくろ税や身長税など理解に苦しむ物まで様々だった。
「身長税って何!?」
身長税に関する貼り紙を見ると、平均身長より高ければ、1センチにつき毎日10円取られると書いてあった。
私は167とややデカく、2044年の女子の平均身長より5センチ高い。つまり毎日50円搾取される。これは痛い……
「うわー、まじか。七海ちゃん大変だねえ」
楓は他人事だ。
「あたし平均身長よりチビで良かったぁー! ま、低いからってお金がもらえるわけじゃないけど……」
「豚ノ助は大変だなこりゃ」
「あ!」
楓は何か閃いたように言った。
「ドスコイジャーの奴らはもっと大変だよ! 2メートル以上あったし!!」
「確かに。ナイス楓、あいつらが毎日大金を払う羽目になると考えれば、少しだけすっきりするね」
「あんだとう!?」
だみ声がした。
振り返って見ると、ピザのようにペラペラな男が歩いてきた。
あいつは。
「赤鵬さん、そんなに縮んでどうしたの?」
「てめえらのロボに潰されたんだろうが!!」
メカノ助にプレスされて哀れな姿になった赤鵬楼太郎その人だった。
「その姿じゃ身長税を払わなくてよさそうじゃん。良かったね……プププ」
「笑うなあ!!」
ほくろ税は、ほくろが顔に10個以上ある人はその数につき10円払うという物だった。該当しない。
[
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227 :げらっち
2024/06/08(土) 12:25:10
その上、体重税もあるらしい。
体重を測って申告し、平均体重より重い分は払わねばならない。
私は最近体重計に乗る労力を惜しんでいて自分の重さを把握していないので、部屋に帰って測る必要があった。
寮のロビーに到着。
私がエレベーターを呼び出すボタンをタップしようとすると、慌てて楓が私の手を掴んだ。
「あ、七海ちゃん使っちゃダメ!! エレベーター税取られるらしいから」
「そんなのまで取んの!? ちくしょう増税メガネめ……」
私たちは5階まで登山する羽目になった。3合目で一度休憩して。
自室の脱衣場で下着姿になり、体重計に向き合う。
女子平均が54らしいので、それより重ければアウトだ。ギリギリ大丈夫なんじゃないかと思うが……
私は片足ずつ、体重計に乗った。計測が始まる。ドキドキ。すると。
「相乗りさせてーっ!!!」
楓が走ってきて、体重計の上に飛び乗った。2人でせっまい体重計に乗っている。計測が終わった。
107キロ。
「楓、何キロ?」
楓は華奢で貧乳、肉付きが薄い。
「んーとね、45くらい?」
「……」
太ったな私。学園に入ってから食事に困らなくなって、際限なく食べていたら、10キロも……
このわがままボディめ。
「てか、何で私の測定を邪魔すんの?」
私たちは体重計の上でバランスを保ったまま話す。
「虚偽申告しちゃおうよ。1人53.5キロだったってことにして。それなら2人とも課税対象じゃなくなる」
楓が107÷2を間違えずにできたことに感心した。
確かに、体重税を払うなんてことになったら恥ずかしいし、何よりそんなお金は払いたくない。
ここは楓の好意に甘えるとするか……
というわけで53.5キロと嘘の申告書を送ったが、私と楓が同じ体重に見えるわけは無いため、当然バレ、程なくして、『脱税が発覚しました。罰金10000円を払ってください』という紙が送られてきた。
「もう我慢できるか!! 私たちもデモに参加しよう!!」
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228 :げらっち
2024/06/08(土) 12:27:01
学園各地で暴動が起きている。こんな不条理な増税を行ったのだから当然だ。
カラフルな戦士たちが校舎の壁に火を放ったり椅子で窓を割ったり屋上から机を落としたり、狼藉を働いている。飛んだ不良高校だ。
私たちコボレも、「増税ヤメロ」のプラカードを持って校庭に出た。既に生徒たちが隊列を組んで声を上げている。
「さーて、私たちもひと暴れしますか!」
「あれ、七海髪切ったん?」
公一は、昨日大嫌い宣言した割に、馴れ馴れしく話し掛けてきた。
「私は切ってない。切ったのは美容師さん」
「長い方が良かったのに……」
「そういえば凶華くんは?」と楓。
コボレの元祖5人しか集まっていない。
「実は、まだ連絡先がわからなくて」
「ほっとけあんな奴! まだコボレのメンバーって決まったわけでもあらへんやろ」
「まだそんなこと言ってるの?」
「とにかく叫ブヒ! 体重税やめろー!!」
「増税やめろー!!」
ドォン!!
砲撃があり、デモ隊は静まり返った。
キュルキュルキュル、キャタピラの回転する音。校庭にメタリックゴールドの戦車が侵入してきたではないか。戦車は容赦なく生徒たちの群れに突っ込んでくる。
「何やねんあれ轢き殺す気か!!」
「退避退避!!」
私たちは逃れた。
生徒たちは変身し、それぞれの武器や魔法で戦車を攻撃する。
「天功戦隊ゴマジシャンのエース、炎の奇術師レッドマジシャンが相手だ!!」
レッドマジシャンは炎の輪を生み出した。戦車は砲撃。レッドマジシャンは一撃で吹っ飛んだ。
「これにて終幕ー!」
「私たちも戦おう。ブレイクアップ!!」
私たちは変身し攻撃。
「スパイラルスノウ!!」
「タチウオみねうち!!」
「すりるスパーク!!」
「苦無3レンチャン!!」
「合掌ひねりタイフーン!!」
それぞれの技を黄金の戦車にぶつける。しかし装甲によって簡単に弾かれる。
戦車は変形を始めた。
まるで映画トランスフォーマーを見ているように、金属は変形し、立ち上がり、巨人となった。
『変形、ゴルトギガス!!』
全長は5メートル程。学園のロボにしては小柄な部類だ。その胸部コクピットから、見知った女が顔を出した。
「あんたたち、あんまり攻撃しないほうがいいよー!」
板金京兆那だ。
「またあなたの?」
「またけちなだよぉー」
いかついロボのみぞおち部分の王座に座る板金は、よけいに小さく見えた。
「何で攻撃しないほうがいいか親切に教えてあげるよぉ! このゴルトギガスはあんたたちの血税で作った超高性能ロボでねー、原子力で動いているんだよ! ぶっ壊したら学園が死の廃墟になるよおー!」
なんかもうめちゃくちゃだ。
私たちはドン引きしていた。
「ほらほらさっさと税を払ええ~! 秘技ゴールド・ラッシュ!!」
「待て~っ」
聞き覚えのある声がした。
「オイラも混ぜろ~っ!!」
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229 :げらっち
2024/06/08(土) 12:27:17
「ナナ、オイラも遊びに混ぜろ!」
ゴルトギガスに立ち向かったのは、例の愛犬だった。凶華が猛ダッシュしてきて、私とロボの間に割り込んだ。
「面白そうな遊びだと思ったが、何してんだ? お前ら、ここは戦隊の学校なんだよな? 身内の争いばかりしていてヒーローが務まるのか? ビラ校とどっこいどっこいだぜ。この学園にもい~やな臭いがプンプンしてる! そいつら全部オイラがやっつけてやんよ」
凶華は戦隊証を取り出し、変身する。
「ブレイクアップ! コボレスター!!」
私はグッと握りこぶしを作った。
「よし、勝ち確だ」
私の後ろに居た楓たちは凶華の変身を初めて見て、ざわついた。揚羽のような、紫の戦士。
「ドッジボール!!」
紫の戦士は紫の球を投げまくる。ゴルトギガスはそれらの直撃を受け、砂塵を上げ大きく後退した。
「やめやめ待ってえ! 放射能が漏れちゃうよおお!!」
「オラオラァ、タンマは無しだぜ!!」
小さいまま巨大勢力に太刀打ちするとは大した力だ。
「わたしの話をよーく聞いて! わたしは首席会の決めた税の取り立てをしているだけだよー、汚い仕事を引き受けてあげてるんだよぉ! そもそも、納税しないあんたたちが悪い。コボレンジャーの破壊行為のせいで学園は今大赤字なんだよ! それだけじゃないよ」
ゴルトギガスの腕の砲門が、凶華に向いた。
「星十字凶華。あんた個人が破壊した学園の施設、大浴場・イエローホール・階段・トイレの弁償をして貰おうかぁ!?」
「うぐ……」
凶華の動きが止まった。確かに、凶華は短期間で多くの施設を破壊し過ぎである。
「オイラ、お金無い」
板金は操縦席という高所から凶華を見下して言う。
「お金無いじゃ済まされないんだよねぇー。此の世は金兼ね金、お金が全て!! お金を払えない奴が文句を言う資格はないんだよぉー!!」
ゴルトギガスは金の火炎を発射、爆発が起き、凶華は尻尾を巻いて逃げ出した。
「わおーん、だってオイラ親居ないし! どうしようもないんだよ!!」
ゴルトギガスと凶華の追いかけっこ。しまいに凶華は吹っ飛ばされ、変身が解けた。流石の凶華も金の力には勝てないのか?
満身創痍の凶華は私に飛びついてきた。
「助けてリーダー!!」
黄金のロボは私の目の前に迫り、私に砲門を向けた。シューッ、シューッと熱い煙が私の顔に掛かり、切り揃えられた髪が棚引いた。
「あんたがリーダーならあんたが立て替えてくれてもいーんだよぉ? それか、コボレンジャーの連帯責任か」
「ち、違います違います!!」
と公一。
「星十字凶華がコボレの一員なんて大嘘や! 勝手に言ってるだけや。俺たちは関係ありません連帯保証人なんかじゃありません!!」
「こら公一」
凶華は涙目で、私の前に跪いた。
「ナナ、オイラお金払えないよ! 色々壊したのも、悪気は無かったんだよ~!!」
「大丈夫、リーダーの私が何とかするよ」
と言っても私だって貧乏だ。
私は公一に、無心した。
「公一お願い。この通り」
プライドも何もかも捨て、地面に膝を突き、校庭の砂に額を付け、土下座した。
「はあ!?」
「お願いします。この窮地を救ってくれるのは公一様しか居ません。コボレのみんなで虹を見たいんです」
「お願いします!!」
凶華も私の隣で土下座した。
「な、何やねん。何で俺がこんな犬の為に……」
私は顔を上げ、口の前で両手の指を組み合わせ、上目遣いに公一を見た。公一は顎を掻いたり、せわしなくその場を行ったり来たりしていたが、やがて目が合って。
「私の為に、お願い。もし払わないとリーダーの責任になって退学になっちゃうかもしれないから」
「くっ……」
公一はきゅっと目をつぶった。
「……仕方あらへんなあ。七海のためやで、感謝しろよ犬!!」
凶華は飛び跳ねた。
「くうん、ありがとなイチ!!」
「イチ!? 何やその犬みたいな呼び名は!!」
よし、九死に一生だ。やっぱりあなたは王子様だ。
「でもいくら俺のオトンが有名忍者で俺んちが金持ちだからって、学園の赤字を埋め合わせるくらいの大金は払えへんで!?」
「え、そうなの?」
「仕方ないな」
意外な人物が声を上げた。
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230 :げらっち
2024/06/08(土) 12:27:30
「うちも出しますよ」
佐奈がそう言ったのだった。
「え、まさかさっちゃんの家って金持ちブヒ?」
「金持ちって程でもないけど……ママが昔、そこそこ稼いでて……まあともかく、少しなら負担できますよ」
「いいの?」
佐奈は頬を赤らめて、目線を逸らしながら言った。
「そりゃ、七海さんが退学になったら、やだから……」
「ありがとう、やっぱり佐奈だいすき!!」
私は小柄な彼女を思い切り抱き締めた。
「七海さっ、やめてよっ、みんなの前で!」
佐奈は逃れようとするが、ガッチリホールド。
「ちょいちょい!! 主に払うのは俺やで!! 俺にも抱き付いてくれていいんやで~!!」
「良い仲間たちだな!!」
凶華はニヤついた。
公一と佐奈は即金で大量のお金を払った。板金は拍子抜けしていたが、やがて言った。
「や、やるじゃん。それは全部学園の予算としよう」
ゴルトギガスはしゃがみ込み、鋼鉄の腕で、札束の山を拾い上げた。
凶華は言った。
「嘘臭いぞ!!!」
板金は目を見開き鼻をひくつかせ口を真一文字にした。つまり露骨にギクッとした。
「嘘の匂いがプンプンするぜ! ネコババする気だな?」
「な、何のことかなぁー……」
板金は滝のような汗を流していた。ポケットマネーにするつもりだったのだろう。金払いの良い金持ちとケチで強欲な金持ちが居るが、コイツはその後者だ。
「みんなで退治してやろうぜ!!」
凶華の音頭で、私たちは改めて変身する。
「ブレイクアップ!!」
「コボレホワイト!」
「コボレブルー!」
「コボレイエロー!」
「コボレグリーン!」
「コボレピンク!」
「コボレスター!」
「虹光戦隊コボレンジャー!!!!!!」
ついに6人で声をそろえ、変身することができた。虹に向けての大きな進歩だ。
「えーい、生意気! ギンコウジャーの娘であるわたしに逆らうの!?」
ゴルトギガスはこちらに砲門を向ける。が、凶華が札束を盾にした。板金は手を止めた。
「お、お金は撃てないいっ!!」
その隙に6人でゴルトギガスににじり寄る。
「や、こないで! このロボは原子力で動いているんだよぉ! やたらに手を出すと……」
「原子力? 何それ良い匂いなの?」
凶華はゴルトギガスを片手で持ち上げた。
「にゃぎゃあ! やめてって言ってるでしょ!! 危険性がわからないの!?」
「わからないなあ」
凶華は巨大ロボをヘディングして遊んでいる。
「凶華!! それ、捨てて捨てて!」
「捨てるってどこに?」
「遠くに!!」
「おっけー!」
凶華は振りかぶり、ゴルトギガスをぶん投げた。お空の向こうに。板金は機体から飛び降りた。
「よし、コボレーザーであれを宇宙まで飛ばそう!」
「そんなことできるん?」
「6人の力を合わせればできるよ!」
私たち6人は円陣を組み、それぞれのイロを組み合わせ、上空へと飛ばす。
「オチコボレーザー・ヘキサ!!!!!!」
色鮮やかな魔光が、悪辣なる機械を上へ上へと持ち上げていく。やがて雲の先、もしかしたら宇宙に届くほどの高さにまで行き、
バカァン!!
大きな花火となった。
ゴルトギガスの破片が金粉となり、学園に降り注いだ。これだけでも、学園の赤字を黒字にひっくり返せるくらいの額はあるだろう。放射線で汚染されていなければの話だが。
校庭に不時着した板金は三輪車に乗って逃げようとしていた。でも彼女の前に光りの弾が落ちて、緑色の車に変化した。見た目はタンクローリーのようで、ホースが付いている。そのホースが蛇のように伸び、板金に吸い付いた。
「うげぇ!! 何でバキュームカーなのぉー! わたしは汚物じゃないよおー!!」
哀れな吸引音と共に、板金は吸い込まれていった。車はホースを収納すると、何事もなかったかのようにどこかに走り去った。
私は尋ねた。
「バキュームカーって何?」
「俺は知らへん」
「あたしも知らない」
「うちも」
「僕もブヒ」
「あ、みんな知らないのか! 排泄物を除去する車だよ。あいつくっさいからそれがお似合いだと思ってな!!」
凶華は無邪気に笑っていた。不思議な術を使う子だ……
増税騒動は収束した。
税に関する貼り紙が全て剥がされたその下に、最も重要な、真っ赤な貼り紙があった。
《校外学習のお報せ》
つづく
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