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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗319-333

319 :げらっち
2024/07/15(月) 16:26:06

第29話 白亜紀からこんにちは


 先生に救助され、私たちはやっと学園に辿り着いた。結局自力での帰還は叶わなかった。
 曇天が私たちを見下ろしている。いや、本当は晴天なのかもしれない。
 私にはもう、曇り空にしか見えない。

 正門が開き、学園が私たちを迎え入れる。私たちの家。悪の組織も怪人も居ない、安全な場所。
 それが今は人を喰らう魔窟に見えた。戦隊学園の真の価値。怪人を殺す兵士を作り上げる工場。

 教師たちに囲まれ、コボレメンバーは門をくぐっていく。楓は担架で運ばれていく。
 私は入るのをためらった。
「どうした? 入れ」
 私はいつみ先生に背を押され、よろよろと敷地に入った。

「小豆沢七海!」

 聞き覚えのある声がした。
「お前のせいでエリートファイブの連中は使い物にならなくなった上、僕も便が止まらないぞ! どうしてくれる!!」
 誰かが何かを言っている。
「お前を殺すと言ったが、父上に頼んで社会的に抹殺してやるからな!!」
 なんて言ってるのか、よくわかんないや。
「おい小豆沢!! 聞いているのか!!!」
 私はうつむいたまま、うるさい人の横を素通りした。

 校庭では、多くの生徒たちがこぞって私たちの帰りを見ていた。歓迎でも無ければ批判でもない。同情の目で。私たちが遠征し、怪人に襲われたことは、もう知れ渡っているのだろう。

 やだ。
 そんな目で見ないで。そんな犯罪者を見るような目で。
 大丈夫、私が怪人を殺したことはいつみ先生しか知らない。
 いや、バレてるよ。
 私には、べっとり、血と断末魔がこびり付いているもの。もう取れないよ。潔白なんて、真っ白なんて、私にはもう無い物。
「うっ」
 マズい。
 アレがくる。こんな時に。
 心臓が凍ってしまったかのように、血が全身に巡らなくなる。寒くて寒くて、小刻みに震えながら、自分を抱き締め、うずくまる。
「七海!?」
 公一が駆け寄って私の体を支えようとした。
「こないで」
 私は声を振り絞った。
「さわらないで」
 私の穢れが、あなたにまでうつっちゃう。
 私は地面に倒れ込む。意識の消失に身を委ねておやすみ。

[返信][編集]

320 :げらっち
2024/07/15(月) 16:26:55

《楓》


 帰還から早5日。

 カツン、カツン。
 あたしは歩く。

 カツン、カツン。
 保健室。

「あああ……ぅああ……」
「押さえて!!」
「はい!」
 悲痛な悲鳴。ベッドに押さえ付けられている生徒。目元に巻かれた包帯は赤く染まり、片腕が無い。
「竜が……竜がぁあああああ……!!」
「鎮静剤!!」
 校医のヤブイ先生に注射を打たれ、患者はようやく落ち着いてきた。

 毎日ここに通っているから、痛々しいものを見るのにも慣れてきた。

 カツン、カツン。
 これは靴音じゃない。杖を突く音。

 カツン、カツン。
 白いパーテーションで仕切られた真っ白い空間を、奥まで進む。白いベッドの上、白い体が横たわっている。
 まるで白に擬態してるみたい。なんてことを言ったら、白いことを気にしているあの人は怒るかな。ま、怒らせてからかうのも面白いかもだけど。

「元気?」

 七海ちゃんは、白い枕に白い髪を乗せて、白い壁を見ていた。つまり、あたしに背を向けていた。

「元気じゃない」

 淡白な答えが返ってきた。無視されなかっただけまだいい。
 喋れるほどには元気になったということ。七海ちゃんの冷たい声はかまくらの中に居るみたいにあったかいから好き。
 七海ちゃんは顔をこちらに向けて、声を掛けてくれた。
「そっちこそ大丈夫?」

 ほら、あったかい。

「痛いけど生きてる! 五体ほぼ満足!」
 あたしは松葉杖と左足の三脚で体を支え、右足を浮かせながら、ウィンクして無事をアピールした。
「まだちょっと痛いけど、もうこんなに回復した。驚異の生命力! 若さは強さ!!」
 あたしは杖でバランスを取りつつピースマークを送る。メールの文末に絵文字を添える感覚で。

 七海ちゃんは目つきの悪いまま、口だけでにこり笑った。

「ヤブイは癒しの水使えなかったの?」
「うん。ダメだった」
「医者にも使えないような魔法を、どうして楓が使えたのかな?」
「あたしが七海ちゃんを想う気持ちが奇跡を起こしたんだよ!!」

 校外学習で七海ちゃんが致命傷を負った時、あたしは蘇生魔法でそれを救った。
 あの時のことは、今でも信じられない。

「七海ちゃんは調子どうなの? まだ不安定?」
 5日前、七海ちゃんは学園に帰るなり持病の発作を起こして倒れた。

「不安定というより、悪いので安定してる」

 あたしはベッド脇のパイプ椅子に腰掛けた。
 何て硬い椅子だろう。お見舞いの生徒を長居させない作戦だろうか。
 あたしは持参した《週刊☆戦隊学園》を広げて、その内容を七海ちゃんに話して聞かせた。

「すごいよ! 戦ー1もついに残り5戦隊! しかもそこにコボレの名前が載ってる!!」
「やったね最高。戦隊名読み上げて?」
「うんいいよ」

[返信][編集]

321 :げらっち
2024/07/15(月) 16:27:19

 メカニ戦隊デザインジャー 人数:5 代表戦士:メカニイエロー
 楽団戦隊ピアノマン 人数:∞ 代表戦士:ピアノ・ワン
 絶滅戦隊ジュラシックファイブ 人数:5 代表戦士:レッドザウルス
 遁走戦隊ニゲルンジャー 人数:3 代表戦士:ニゲレッド
 虹光戦隊コボレンジャー 人数:6 代表戦士:コボレホワイト


 あのムカつく天堂茂のエリートファイブは、校外学習でコボレに負けたため、既に脱落扱いとなっていた。

「ニゲルンジャーはずっと逃げ続けてまだ負けてないんだって!! 笑えるね!」
「それよりもピアノマンの人数が∞ってのが気になるのだけど」
「確かにね」
 コボレが優勝するには、残る全ての戦隊に勝たなくちゃならない。いずれピアノマンとも対決する日がくる。
「情報収集しなきゃだね」
「うむ」

「えーと、他には……」
 あたしは記事を目で追う。


《恐竜大脱走!!!》


 まるで漫画みたいな見出しがあった。
 でも本当のことだ。生物クラスの絶滅戦隊ジュラシックファイブや恐獣戦隊ダイノマンは、恐竜を現代に復活させようとムキになっていた。恐竜を手なずければ、悪の組織と戦うのに大きな力になるからと。
 それがついに成功したみたいだ。
 タイムマシンに乗って、ジュラ紀や白亜紀から恐竜が、未来のあたしたちに会いに来る。考えただけでワクワクしちゃう。

 その恐竜が、昨夜檻を破壊し、脱走したらしい。
 恐竜は学園内を逃げ回っている。ニゲルンジャーのように。
 恐竜は人を襲う可能性があるため、十分に気を付けるようにとの注意喚起と、見つけた場合は直ちに届け出るようにとの警告文があった。匿った場合は罰せられるとの事。恐ろしい……

 まあ、この記事を七海ちゃんに伝える必要は無いよね。

 硬い椅子のせいで、お尻がむずむずしてきた。
「じゃ、あたし帰る! 早く部屋に戻ってきてよね! 1人きりの夜は長くて辛い!」

 あたしが立ち上がると同時に、七海ちゃんは言った。
「ねえ楓、空は何色をしている?」

 保健室の窓を見る。半開きになった窓から、夏の光りと風が入り込み、カーテンを揺らしていた。
 窓の外に見えるのは、のびやかな、夏の青空。
「何色って、空色。海よりも広くて青い」
「そうか。空は青いのか」
「ベッドからでも見えるでしょ?」
 七海ちゃんの位置からでも空は見えるはずだ。でも七海ちゃんは窓を見ようともせずに、白い壁を向いてしまった。

「私には灰色にしか見えないや」

[返信][編集]

322 :げらっち
2024/07/15(月) 16:27:39

「七海まだ調子悪いん? 発作とは別に何か気に病んでるようやな」
 そう言う公一くんはなんだかカレシぶって癪だから、適当な返答。
「さあ? マタニティブルーじゃね?」

 あたしは公一くんに付き添われながら女子寮に帰っていた。もう夕方。

 あ、寮の建物が見えてきた。もうお別れか。寂しいな。最後に一芝居……

「おっとぉ!」
 あたしはわざとバランスを崩してよろけた。
「楓!」
 隣に居た公一くんは咄嗟にあたしの脇の下に手を入れ、支えてくれた。腐っても鯛、中古でもベンツ、ひょろひょろでも男子。力がある。
 ごつごつした手で掴まれると、ワニに抱擁されてるみたいでドキドキする……
「ありがと公一くんっ!」
「気い付けえや」
 あたしの目と、公一くんの目が合う。

 あたしはウィンクした。

 公一くんは目を逸らし、カエルの卵を見た人のような表情をした。
 もう、恥ずかしがっちゃって……!

「それでさ、楓、1つ言いたいことがあるんやけど……」
「なになにっ?」
 公一くんはパプリカみたいに顔を赤くしていた。
 まさか、愛の告白!? 七海ちゃんからあたしに機種変しちゃう気ー!? いいよ、あたしはいつでもカモンだよ!! なんなら七海ちゃんよりサービスいいよ! 七海ちゃんに内緒で密会とか!? キャードキドキしちゃう! 罪悪感でとろけちゃうね!!
「頼みがあるんやけど……」
「頼み? 何でもこの楓ちゃんにお任せ!!」
 キスしてほしいとか!? 七海ちゃんとキスしたいから、その練習台に!? それでもいいよ一度キスしたらもう、楓ちゃんにメロメロになっちゃうから!!!
 あたしは口をチューの形にして待った。

 でも公一くんは予想外のことを言った。
「は、歯ブラシを……七海の歯ブラシを、こっそり、持ってきてほしいんやけど……」

「?」

 なんじゃそりゃ。

 公一くんは人差し指同士をツンツン。
「お前なら持ち出せるやろ? 今七海おらへんし」
「そりゃできるけど。歯ブラシなんて何に使うの?」
「えーと、それは……」
 公一くんは髪をガリガリ掻いた。
「使い古した歯ブラシはシンクの掃除に使えるやん!!」
「へぇー……公一くんって金持ちなのに貧乏臭いんだね。明日持ってきてあげてもいいけど……」
「よ、よっしゃ、七海には絶対バレへんように頼むで!!」
「OKやん」
「変な関西弁使うなや……」

 これより先は男子禁制区域。有刺鉄線が張り巡らされており、入り口にはガードレンジャーが立っている。
「こっから1人で大丈夫か?」
「うん。なんとか平気! じゃあまた明日!!」

 あたしたちは本物のカップルのように、手を振り合って別れた。

「よし」
 あたしは公一くんが視界から消えたのを確認すると、右足を地面に着けて松葉杖を抱えた。
 二足歩行開始。足はもう治っていた。公一くんに介助して貰えるからまだ痛いふりしてる。男の子は怪我した乙女に弱い。はず!
 こっそりのお願いをしてくるってことは、公一くんの気はだいぶあたしに向いてるってことだよね!!
 七海ちゃんはともかく、あのヒキコモリのさっちゃんにさえ豚というお相手が居る。コボレガールズであたしだけカップルになれないなんてことがあっていいはずがないんだ。

 まあ、もし公一くんがダメでも、あたしにはパートナーが居るけどね!
「ふふん♪」
 あたしは鼻唄交じりに寮に入り、エレベーターで5階の自室に戻った。
 ポケットから鍵を出す。鍵はチェーンでスカートにくっ付いていた。以前あたしが鍵を無くし、七海ちゃんと2人で夜通し探したことがあった。あの後七海ちゃんはあたしが鍵を無くさないように、チェーンを付けることを義務付けてきたのだった。

 扉を開ける。

「ただいま」

 誰も居ない部屋に向けて挨拶する。誰も居ない?
 いや、居る。
 夕日の射し込む薄暗い室内に、大きなシルエット。

 [キシャアアアア!!!]

[返信][編集]

323 :げらっち
2024/07/15(月) 16:27:54

 咆哮。どんな怖い武器でもこんな恐ろしい音は出せない。獣にだから出せる声。身がすくむ。
 [シャアアアアアアアア]
 怪人程もある巨大な生物が、あたしに飛び掛かってきた。鋭い鉤爪があたしを乱暴に押し倒す。牙が綺麗に並んだ大きな口が開き、熱い吐息が掛かる。たまらない。

「おかえりって言ってくれたんだ! おりこう、ミドリ!!」

 あたしは恐竜を抱き返した。
 [シャアアア♪]
「あーん、もうかわいい!! もっと乱暴に押し倒して!」

 今朝、寮の裏の森で見つけた恐竜。お菓子をあげたらなついた。体色が緑なのでミドリと名付け、こっそり部屋に連れてきた。
 最初はコモドレンジャーが飼育しているコモドドラゴンかと思った。恐竜が脱走したという記事を読んだ時は、正直びびった。恐竜図鑑によると、ディノなんとか? みたいだった。恐竜のことはよくわからん……
 でもめちゃめちゃタイプだし、これはもう婿養子にするしかないっしょ! ってことで、同棲を始めた。これでカレシ居ない歴と年齢のシンクロを終わらせることができる。
「ご飯にする? それとも一緒にお風呂?」
 [シャアン]
「よしよし、作るから下がって!」
 ミドリちゃんはあたしから離れ、数歩下がった。
「じゃあ今夜は特製楓ちゃんライスを作っちゃおうかな!」

 短い玄関廊下を抜けると。 

「うっわ、酷っ!!」
 ダイニングも寝室も滅茶苦茶に荒らされていた。クローゼットの中身がぶちまけられ、服はズタズタにされ、食べ物は喰い荒らされ、壁は穴だらけになっている。
 あたしは唖然として、ミドリちゃんを見た。ミドリちゃんは、キョトンと首をかしげた。その瞬間、怒りよりも胸キュンが勝った。
「こらもうやんちゃ!」
 あたしはミドリちゃんにハグして、鼻と鼻をくっ付けた。爬虫類の荒い鼻息が掛かった。

「七海ちゃんが帰るまでに片さなきゃじゃん!」

 七海ちゃんが居たら、恐竜との同居など絶対に叶わなかった。
 七海ちゃんは動物への関心が薄く、ペットへの理解が浅い。この前はゲジゲジのげじたろうを飼おうとしたら猛反対したし、カミツキガメのゆにかちゃんも同じく。ヒデユキとその後援会は外で放し飼いしろと言うし、タガメファミリーに至っては七海ちゃんは勝手に裏の池に捨ててきてしまった。あの恨みを忘れたわけではない。

「1人部屋は気楽でいいなぁ!」
 あたしは2段ベッドの梯子を登る。あたしが使っているのは下段だが、段々と七海ちゃんの使っている上段が羨ましくなっていた。七海ちゃんが王様であたしはしもべ。まるでヒエラルキーみたいじゃない?
 煙と馬鹿は高い所が好きとは言うけど。あたしはベッドに登頂すると、七海ちゃんの布団に寝転び、枕に顔を埋めた。

 [……シャア]

「うわ!!」
 ミドリちゃんがベッドにもたれかかり、首をあたしの方に伸ばしていた。背かなり高い。
「脅かすなよー」
 [ハッ、ハッ、ハッ、ハッ]
 ミドリちゃんは口を開けて、ずらっと整列している鋭い歯を誇張してきた。ミドリちゃんのことは好きだけど、本能が恐怖を抱き、鳥肌が立つ。ぞくぞくする。
 だらだらよだれが垂れ、七海ちゃんのシーツにおねしょのような染みを作った。あー、これは怒られるよ……
「あ、もしかしてご飯ねだってる? 駄目だよー、冷蔵庫の中身全部食べちゃったじゃん」
 [?]
 ミドリちゃんはまた首をひねってキョトンとした。愛嬌あるけど、2度は通用しないぞ。

「今日はもうご飯ナシ!」

 [キシャアアアアアアアア!!!!]

 ミドリちゃんは竜のような咆哮を上げた。そういや恐竜は、恐ろしい竜と書くんだっけ。
 唾液がシャボン玉みたいに飛び、あたしは体中ベトベトになった。

「……まさかあたしがご飯?」

[返信][編集]

324 :げらっち
2024/07/15(月) 16:28:24

「すりるすぱーく!!」
 [ギヤアアアアアアアアア]
 ミドリちゃんの顔が視界から消えた。
「ミドリちゃん!?」
 あたしが下を覗くと、ミドリちゃんはベッドから転落し、びくびくと痺れて倒れていた。
 その隣にコボレイエロー。
「楓さん大丈夫だった?」
 さっちゃんは両の手のひらから電流を出している。電気の魔法でミドリちゃんを失神させたらしい。
「さっちゃん何でここに?」
「すごい音がしたから助けにきました」
 さっちゃんの部屋はあたしと七海ちゃんの部屋のちょうど真下に位置し、梯子でつながっている。あたしが恐竜に襲われていると勘違いしたのだろう。
 あたしはベッドから飛び降りた。右足がズキッと痛む。無理は禁物だな……
 そんで叫ぶ。

「邪魔すんなよ、お楽しみタイムだったのにぃ!!」

「……は?」
 ゴーグルの下からさっちゃんの三白眼があたしを睨み上げていた。
「……アンタ正気?」
「正気のガチ恋! あたしのお婿さんになんてことすんの?」
 さっちゃんはドン引きという綱引きがあったら5年連続優勝できるような凄まじい顔をしてあたしと距離を置いた。
「えっきもい。コモンセンスが通じないとは思っていたけどここまでとは驚き呆れる」
「古門扇子って何? 豚と付き合ってる癖に」
「付き合ってない!!」
 さっちゃんは声を荒げた。
「とにかくそいつを匿うのは処罰の対象ですから」
「知ってるよ!!」
「知っててやってるの? なら尚たち悪い」
「関係ないじゃん! 部屋に帰ってよ。ハウス!」

「スタン・ガーン」
 慈悲の無い電撃が走った。全身が痺れ、1秒だけ呼吸が止まる。ショックのあまり転倒し、ベッドに頭を打って、そのまま転げた。長時間正座した後のように全身の感覚が無くなり、目の前がチカチカする。呼吸再開と共に、あたしはぼえっと酸っぱい液体をちょっとだけ吐いた。

「こ……うげきするな……んて」

「アンタが単独で罰せられるならいいけどコボレ全体が責任を負わされる。サブリーダーとか気取ってる割に緊張感が無さ過ぎやしませんか? これだからアンタのことが嫌い」
 さっちゃん、いや、佐奈は、そう言った。
 あたしもお前なんか大嫌いだ、そう言おうとしても呂律が回らなかった。すると。

 ドンドン!

 ノックの音。
「ちっ、リフトアップ」
 佐奈は電流にてあたしとミドリちゃんを吊り上げた。痛みはなく、ただ見えない腕によって持ち上げられているような感覚。あたしはベッドの下段、ミドリちゃんは上段に押し込まれた。ミドリちゃんの重量でベッドがミシッと軋んだ。

[返信][編集]

325 :げらっち
2024/07/15(月) 16:28:44

《佐奈》


 校外学習でメカノイアの戦争機と対決し、メカノ助はボロ負けした。操縦者のうちにはこれっぽッちも非が無かった。メカノ助に飛び道具が無いから。ただそれだけの理由で負けた。それが悔しくて悔しくて。思い出しただけでも悔しさが核爆発を起こして……
「クソッ!!!」
 うちはキーボードをブッ叩いた。
 うちはPCで、メカノ助に関するプログラミングをしていた。アップデートにアップデートを重ね、メカノ助に新装備を追加する。
 校外学習から帰ってからというものの、そのことで頭がいっぱいだった。

 ドスン! ドスン!

「……ちっ」
 上の階で重い物が飛び跳ねるような騒音。静寂を求めせっかく1人部屋になったのに、これじゃあ意味が無い。
 イヤホンを耳に埋め込んで音楽を流し込み、気を紛らわせる。
 ドスンドスン!!!
「ああもう!!!」
 イヤホンを貫通するほどの爆音と振動。うちはイヤホンを引っこ抜き、投げ捨てた。机の上の、昔の女児向けアニメのグッズの時計を見る。
 アナログ時計の針は6時を示していた。
「誰だこんな朝っぱらから騒ぐのはよ!」
 と思い、我に返る。
「……あ、夕方か……」

 学園に帰ってからというものの、カーテンを閉め切ってずっと部屋に籠っていた。部屋の中央に置かれた勉強机の周りに、カップ麺の容器などが散乱している。たまにトイレに行ったり部屋のお風呂に入ったりはしているものの、時間の感覚は完全に狂っていた。

 ドンッ!!!

 夕方だとしても、あの音は何だ。
 うちは天井を見上げる。上の階に住んでいるのは七海さんと楓さん。七海さんは学園に帰ってすぐ入院したので、今も上の階には居ないだろう。となると、あの馬鹿ではしたない伊良部楓が戦犯。ふしだらなアイツが、七海さんが居ないのをいいことに、男子共を呼び込んで、乱痴気パーティーをしているのではなかろうか。その可能性は十分ある。うちは苦労してコボレの為に巨大戦力の改良に当たっているのに、あのサブリーダー気取りは何してやがるんだ! もう限界だ!!

 うちは梯子を登って上の階へ。文句の1つや2つや3つや4つ、言ってやる。
 でも予想だにしない状況だった。上の部屋は滅茶苦茶に荒らされていて、ベッドには全長3メートル近い緑色の恐竜がもたれかかっていた。うちはヒッと悲鳴を上げた。ベッドの上には、楓さんが居るようだ。そういえば何時間か前にテレビで学園内のニュースを見た時、脱走した恐竜に注意、と言っていたっけ。あの騒音は入り込んだ恐竜によるもので、楓さんは恐竜に襲われているのか。だったら助けないと。気に喰わない奴でも一応だ。

 うちは変身。
「すりるすぱーく!!」
 [ギヤアアアアアアアアア]
 恐竜に電撃を浴びせ、失神させた。恐竜は倒れ、ひときわ大きなドスンという音が響いた。
「楓さん大丈夫だった?」
 ベッドの上から楓さんが顔を出した。
「さっちゃん何でここに?」
「すごい音がしたから助けにきました」
 楓さんはベッドから飛び降りて、あたしに迫った。足を怪我していたなんて嘘みたいだ。

「邪魔すんなよ、お楽しみタイムだったのにぃ!!」

「……は?」
 伊良部楓、狂ったことを言いやがる。
「とにかくそいつを匿うのは処罰の対象ですから」
「知ってるよ!!」
「知っててやってるの? なら尚たち悪い」
「関係ないじゃん! 部屋に帰ってよ。ハウス!」

「スタン・ガーン」
 うちは伊良部楓の胸に電気を撃ち込んだ。一応弱めの攻撃にとどめたが、本当ならその無知蒙昧な脳味噌を焼き切ってやりたいくらいだ。
 伊良部楓は後ろに転び、ベットに頭を打って、床に倒れた。白目を剥いて、ぴくぴくしながら、口から臭い液を吐いた。

「こ……うげきするな……んて」

「アンタが単独で罰せられるならいいけどコボレ全体が責任を負わされる。サブリーダーとか気取ってる割に緊張感が無さ過ぎやしませんか? これだからアンタのことが嫌い」

 ドンドン!

 ノックの音。
 これだけ騒げば他の生徒も異変に気付く。
「ちっ、リフトアップ」
 恐竜を匿ったことが他者にバレたらコボレ全体が退学だ。うちは電気魔法で伊良部楓と恐竜を吊り上げ、ベッドの中に隠した。

[返信][編集]

326 :げらっち
2024/07/15(月) 16:29:06

 うちは変身を解いて、咳払いすると、チェーンを掛けたまま、ドアの鍵を開けた。
 解錠するなり外からドアノブが引かれる。でもチェーンのお陰で半ばでガッと止まり、訪問者は嫌な顔をした。
 半開きのドアからこちらを覗き込んでいる女は見知った顔。というより、うちが誰よりも恨んでいる顔。伊良部楓に天堂茂に両親、気に入らない奴はいっぱい居るけど、その番付で一人横綱に君臨しているこの顔は。

「ポンパドーデス」

「ポンパドーデスじゃない、ポンパドールです! ていうかそれは髪型であって名前じゃないし」
 うちの所属する機械クラスの首席ポンパドーデス。本名は忘れたし、わざわざ覚えたくないし、七海さんの付けた異名が流通してる。でこっぱちで、薄茶色の頭髪を分けて垂らしているのが恐ろしく似合わない。まあこいつに似合う髪型なんて無いが。禿げろ。
 この女は1年生にして、学園のロボ市場のトップに立つデザインジャーのリーダーでもある。うちの方が天才なのにこいつの能力が評価されてるのムカつく……
 性格はカス。フンコロガシに転がされればいい。地味に背高いの嫌いポイント。こいつの身長は171.4と高め。うちは学園の機密ファイル「身体測定結果」をハッキングしてるので全生徒の身長を知っている。うちは一番低かった……

「何でここに居んの、チビ」

 うちはドアを蹴っ飛ばした。
「チビって言うな。のっぽ」
「あら誉め言葉をどうも。大は小を兼ねるけどあーたみたいのは一生ビッグになれないのよ」
 うちは致死量の電力を溜めておく。
「さっきからスゴイ物音がするから様子見に来たけど、何であーたが居んのよ」
「戦隊メイトの部屋に来ちゃ悪い? 同性の他の部屋に入るのは禁止されてないと思うんですけど。左様なら」
 うちはドアを閉める。ポンパドーデスのドカ足がストッパー代わりに挟まれ、閉まり切らなかった。
「怪しい。中見せなさいよ。何か隠してるでしょ?」
「アンタなんかに入られたくない」
「生意気! ブレイクアップ!!」
 ポンパドーデスはメカニイエローに成る。
「ザッピング!」
「きゃうっ」
 ドアノブに静電気が走り、うちは触っていられなくなり手を離した。チェーンが切断され、ポンパは部屋に闖入した。

 恐竜によって荒らされた部屋。

「きったな。へぇ~、茂がよく、落ちこぼれ共は部屋も汚いのだろうな、って言ってたけど、本当なんだ」
「余計なお世話ですよ心が汚いゴミ」
「下がれエレホルダー!!」
「ギャ!」
 電気がうちを押し飛ばし、四肢を壁に釘付けにした。標本の昆虫のように、動けない。

「ベッドに居るのは?」
 ベッドの下段では伊良部楓が気絶したように寝ている、というより、本当に気絶してる。
「ああ、茂がよく話してる学年最下位の落ちこぼれ女ね。寝顔もブッサイク! 学年女子1位の私とは雲泥の差ね。私は雲の上の存在。あーたは泥沼で溺れてる虫けらってワケ」

 うちの心はふつふつと煮沸してきた。
 伊良部楓は確かに馬鹿で、ムカつくくらい要領が悪く、自分勝手で、趣味がきもい。
 でもポンパドーデスほど、クズじゃない。

「雲の上に居すぎて自分の居場所がわからなくなったんじゃない? そこ愚者が集う死の国ですよ」

「エレストライク!!」
 ポンパドーデスはこっちに向けて腕を振るった。
 電気の釘が、うちの胸に打ち込まれた。
「あううううううううう」
 壁に磔にされて動けない。電気が胸に喰い込み、心臓が裏拍を打つ。手足が小刻みに震え、視界がポリゴンショックを起こし、体中が燃えるように熱い。

「上は?」
 ポンパドーデスはベッドの上段に目を向けて言う。ピンチ。そこには恐竜が居る。覗き込まれたら……!

「上は七海さん。うちらのリーダー。今体調悪くて寝てるからそっとしといてあげて」

 それを聞くなり、ポンパドーデスはポンと両手を合わせ、わかったというジェスチャーをした。
「あー、小豆沢七海! 落ちこぼれの大統領!! みそっかすを集めてマグレで勝ち残ってイキってるって、茂が言ってたわ。校外学習で余程酷い目に遭ったのね。いい気味~!」

 それでうちはキレた。壁にくっ付いた体を無理矢理引き剥がす。べりっと音がして、壁紙が剥がれた。ポンパの魔法の束縛を力ずくで打ち破った。
「ブレイクアップ!!」
 コボレイエローに変身。
「ポンパドーデス、死ね~~!!」
 うちは電力を最大限まで溜めると、相手に両手を向け、魔法を放とうとする。ポンパドーデスも交戦の構えを見せた。でも乱入者があった。ポンパの背後のベッド、上段の布団が持ち上がって、中から、緑の巨体が現れた。

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327 :げらっち
2024/07/15(月) 16:29:35

 [キシャアアアアアアアア!!!!]

 ベッドの上から恐竜が降ってきた。
「な、何よこれはっああああああああ!!」
 ポンパドーデスは恐竜に押し倒され、床に頭を打つ。恐竜が覆い被さる。獰猛な口を開き、黄色いどたまに、かぶりつく。

 うちは心で唱える。
 殺れ。

「昇雷!!」
 雷が天井に向けて走り、恐竜は飛び退いた。
 バックステップを踏む恐竜。その顔が、うちの方を向いた。ぎく、うちを狙う気か?
 でも恐竜はうちには目もくれず、散らかる家具の隙間を縫って、ドアから外に駆け出して行った。
「クッ……やはり隠していたのね。あーたたちは退学だから……」
 体を起こしつつぶつぶつと文句を言うポンパドーデス。うちは駆け寄り、その顔面を、思いきり蹴ってやった。
「帯電キック!」
「ぶぎゃあ!!」
 ポンパドーデスはテレビにぶつかり、崩れ落ちた。

 き、きもちいっ

 でも余韻に浸っている場合じゃない。
 うちはベッドに走り寄り、下段に居る馬鹿を叩き起こす。
「いつまで寝てんの楓さん! アンタのせいで全部オシマイだ。恐竜が逃げた! このままだとコボレそろって退学になる!!」
「恐竜じゃなくてミドリちゃん!」
 楓さんは跳ね起きた。
「退学のことより、このままじゃミドリちゃんが殺処分されちゃう!! 生物クラスなら全部の生き物を愛し、生かさないと!! ミドリちゃんを追うよ!!!」
「え、わ、わかった。うちは機械クラスだけど」

 うちは楓さんの気迫に負け、2人で恐竜を追うことにした。

「ミドリちゃ~ん!!!」
 楓さんは階段を高速で駆け下りる。足はいつの間にか完治したみたいだ。
 ロビーでは女子生徒2人が抱き合って震えていた。恐竜を見かけたらしい。
「恐竜を見ませんでしたか? とってもかわいい子なんですけど!」
「あ、あっちに行きましたよ」
「ありがとうございます!!」
 楓さんは目撃証言を頼りに、寮舎を飛び出した。
「ミドリちゃ~ん!!!」

 うちも懸命に追いかける。

「ミドリちゃ~ん!!!」

 あ、何でうちまでミドリちゃんって呼んでいるんだ……

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328 :げらっち
2024/07/15(月) 16:29:49

 外は夜。
 楓さんはなかなかにすばしこく、闇の中に消えて行った。
 反対にうちは足が遅い。認めたくはないが足が短いし……きんにくもたいりょくもないもの……
「ぜえ、楓さ、まって、はあ、」
 うちは膝に手を突いて呼吸を整える。貧血で倒れそうな上、両足が同時につった。
「くッほお!!」
 汚いオホ声を出し地面にうずくまる。


「ダイジョウブヒ?」

 この声は!
 涙目で顔を上げると、豚、公一くん、凶華くんの3人がうちを見下ろしていた。
「3人でご飯食べに行こうとしてたら、走ってる楓ちゃんとさっちゃんが見えたから……」
「ぶた、くっ、来るのが遅い!」
 うちは起き上がって豚の腹を叩いた。
「説明は後、早く楓さんを追って!!」
「了解ブヒ!」
 豚はうちを抱擁するように抱っこした。
「にゃ、にゃんにゃん、それやめて、すきになる」
 うちは豚の体にしがみ付いた。
「で、楓ちゃんはどっちに行ったブヒ?」
「くぉら豚!! わかってなかったんかい!」

「カエの匂いを辿ればすぐ見つかる!」と凶華くん。
「犬やん」
 凶華くんは四つん這いになり、目を瞑り、辺りの匂いを嗅ぎ始めた。
 まるで地面に見えない手を滑らせて、遠くに落としたコンタクトを探しているかのように。

「見つけたぞ! こっちだ!!」

 凶華くんは走った。
 公一くんと、豚に担がれたうちがそれに続き、草むらに入る。
 うちは子供みたいに抱き上げられている羞恥心と満足感とまろやかさで夢見がちだったが、そろそろ真面目にやらねば。
「いい加減下ろせ、豚」
 飛び降りて、地面に足を着けた。
 丸眼鏡を押し上げ、口元を引き締める。
「楓さん、どこ?」
「しっ」
 茂みから手が伸びてきてうちの口を覆った。そこには楓さんが居た。
「あれ? みんなも来てくれたんだ」
「楓、足怪我してたんとちゃうんか?」
「あ!!」
 公一くんにそう言われ、楓さんはうちの口から手を離し、所在無さそうにもじもじした。
「あ、あははははー。急に治っちゃったみたーい!」
「痛いふりしてたんやな……」
 公一くんは白い目で楓さんを見ていた。うちはきゃはッと笑った。

「ミドリちゃんはあそこに居る」
 楓さんは木の向こうを指さした。闇と森に溶け込んで、恐竜が佇んでいる。
 恐竜はグルグルと喉の奥のほうを鳴らして、誰かと対峙しているようだった。

「落ち着け! オラっぺはお前の生みの親だ!! つまり……ママでちゅよ~~」

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329 :げらっち
2024/07/15(月) 16:30:03

 恐竜と睨み合っているのは、土臭い声でママを名乗る、大柄な赤い戦士だった。
「あれ誰ブヒ?」
「よく見て」と楓さん。
 その男は、背中の後ろに猟銃を隠し持っていた。
 うちは手が汗ばんでいるのを感じた。

 [キシャアアアアアア!!!!]

 恐竜が男に襲い掛かる。男は猟銃を構え、狙いを定める。
「やめて!!」
 二者の間に楓さんが割り込んだ。
 恐竜は急ブレーキをかけるも間に合わず、楓さんの背中に突っ込み、男は慌てて照準をずらした。乾いた銃声、弾丸は明後日の方向に飛んだ。
「何をする! 危ないだろ、引っ込め!!」
「そっちこそ引っ込め! ミドリちゃんを殺すなんて、許さないから!」
「ミ、ミドリちゃん?」

「ミドリちゃん!」
 楓さんはくるり回れ右し、恐竜の方を向いた。そして腰に手を当て、小さい子供を叱るようなポーズを取った。
「暴れちゃ、めっ! いけないよ! 変な人たちがお前を狙ってる。でもおりこうだって所見せてあげなきゃ! 危険じゃないってわからせてあげよ!」

 恐竜は、[シャア]と吠えた。

「何言ってるんだ! そいつは危険だ! 脱走した際にオラっぺの仲間を傷付けたんだっぺ!!」
 男がそう言ったので、楓さんは今度は回れ左をして向き直る。
「おっさん誰?」
「おっさんじゃない、生物クラスのお前の先輩だ! ジュラシックファイブのレッドザウルス! 恐竜を蘇らせた、その恐竜の生みの親!」

「……へえ」
 楓さんは腕を組んで、じと目でレッドザウルスを見た。
「生みの親なのに、都合が悪くなると殺そうとするとかサイテー」

「ぐぬぬ……」
 赤い戦士は猟銃を構え、恐竜を狙う。楓さんは仁王立ちし、腕を広げて、恐竜の前に立ち塞がる。
「そこをどけ。被害者を増やさないために仕方の無いことだっぺ。自分のしたことに始末を付ける」

 そこに。

 漆黒の夜空をかち割って、楓さんと恐竜の背後に、白い稲光が落ちた。
 黄色い戦士。ポンパドーデスだ。しつこい奴。
「もうほんっと頭にきた! でもねいいこと思いついちゃった。この恐竜、私が使わせてもらう」
 嫌な予感がした。
「電気魔法アップデート!!」
 ポンパドーデスは、電流を浴びせた。恐竜とそれを守る楓さんに。
「きゃあああ!!」
 [シャアアアアア!!]
 うちは草むらから飛び出し、楓さんの手を掴んで、電気の渦から引っ張り出した。うちと楓さんは、そろって草の上に倒れた。
「チビめ邪魔を」とポンパドーデス。
「チビって言うな!」
「まあいいわ。最強の巨大兵器の誕生よ!!」
 [シャアアアアアアアアア……]
 恐竜の咆哮は次第に消えていった。その喉を突き破って、もう1つの頭が飛び出した。機械の頭。恐竜の体に次々と部品が継ぎ足され、体積が増えてゆく。夜空を覆い尽くすほど巨大に。恐竜は恐ろしい龍になった。
 ポンパドーデスは電子となり、巨大ロボに注ぎ込まれるように乗り込んだ。

『完成・双頭龍(ソウトウリュウ)』

「ミドリちゃん!」
「逃げますよ!」
 うちは楓さんの背を押して木の後ろに逃れる。
「ぐああっぺ!!」
 逃げ遅れたレッドザウルスは双頭龍に踏み潰され、土に埋没した。

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330 :げらっち
2024/07/15(月) 16:30:18

 楓さんがミドリちゃんと名付けた恐竜は、巨大な龍に成り果てた。
 喉元から機械の顔が突き出て、そこがコクピットになっている。操縦者のポンパドーデスの台詞が拡声されて降り注ぐ。

『コボレンジャー! ここで戦ー1敗退よ!! 茂の仇を討ってあげる』

 双頭龍はメタルで覆われた足を持ち上げた。
 潰される。
「楓さん何やってるの! 早く走って!」
 うちは呆然とする楓さんの手を引っ張って逃げる。重い足が落ちてきて、うちらの近くにあった木が、ペチャンコにプレスされた。

 楓さんは叫んだ。
「な、何であたしだけ助けたの!?」

「甘いこと言うな! あの状況じゃ恐竜まで助けるなんて無理だった。アンタを助けるだけで手いっぱいでね。それよりこれから先のことを考えろ」

 うちは豚をコールした。
「豚ノ助、巨大化ー!!」
 豚は鈍足でうちの方に駆けてくると、ジャージを脱ぎ捨て、半裸の背中をうちに向けた。土俵に向かう関取が、付け人に気合を入れてもらうみたいに。
「ブレイクアップ! 電気魔法アップデート!!」
 うちはそこに容赦なく電流を浴びせた。
「ブヒィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
 ただでさえ大きかった豚の背中が、みるみるうちに膨らんでいく。ビッグになっていく。うち自身は大きくなれなくても、こんなに大きなことができるんだ。ポンパドーデスに目に物見せてやる。
「もっともっと大きくなれぇ~!!!」
 うちはいつも以上にたっくさん電流を浴びせた。
「や、や、やり過ぎブヒィ!!」
 太くなった豚の声がこだまする。豚はパンパンに膨張していた。
 ふん、これくらいで勘弁してやろ。

 25メートル超の巨人になった豚。
 コクピットも兼ねているメットを被り、裸の上半身を装甲で覆い、鋼鉄のグラブとブーツを着け、化粧廻しを締めた巨人、メカノ助。
 うちは満面の笑み。
 この巨大メカに搭乗し、うちをチビと呼んだ奴ら全てを踏み潰してやるんだ。うふ、楽しみ。

 自分を電子に変えてコクピットに乗り込もうとすると、それを止める者があった。
 楓さんがうちの両肩を掴んだ。
「さっちゃんあたしに乗らせて」
「は? うちの楽しみの邪魔すんな!!」
 勿論うちは首を縦に振らない。
「アンタに操縦は無理!」
「やってみなきゃわかんないよ。ミドリちゃんがこうなったのはあたしの責任だし……落ちこぼれでもやれるって、見せてやりたいんだよ!!」
 楓さんはうちの肩を掴んだまま、必死に頭を下げてきた。
「お願い!!」

 ……反骨心にまみれているのはこいつも同じか。

「仕方ない、今回だけだよ」

 うちがそう言うと、楓さんはキラッキラの顔を上げた。
「サンキュ!!」
「じゃあ変身して」
「ブレイクアップ!」
 楓さんはコボレブルーに変身。うちはその手に、USBメモリを押し付けた。
「コクピットに乗り込んだら、このUSBを操縦席の右側にあるポートに刺して下さい。デバイスが起動したら暗証番号を入力して、ソフトを起動して下さい。新装備が起動しますんで」
「は? ユーエツピー? ポート? レバいす?」
「時間が無いからフザけないで。一度しかいいませんよ、いいですか? 暗証番号は066117です」
「06……? 何その数字?」
「余計な質問はするな、早く行け!! 電化移乗!!」
 うちは青い戦士を電子に変え、メカノ助のコクピットにワープさせた。

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331 :げらっち
2024/07/15(月) 16:30:51

《楓》


 あたしはさっちゃんに志願して、メカノ助のコクピットに乗せてもらった。

 途端に後悔しそうになった。

 豚の頭部に位置するコクピットは機械だらけで、何が何だかわからない。さっちゃんはこれを電気魔法で操っているのだろうが、あたしが使えるのは水魔法、こんな所で発動したら大変なことになる。さっちゃんのサイズに作られたであろうシートはあたしには若干だが狭い。
 スクリーンからは双頭龍の姿が見えた。改造された恐竜は、噛み付いてきた。メカノ助は突っ張りでそれを弾き返した。龍は大きく後退し、木々をなぎ倒した。
「ミドリちゃん……今元に戻してあげるからね」
「……あれ? 今回のパイロットは楓ちゃんブヒ?」豚の声が響く。
「うん。悪かった?」
「悪くないブヒよ!」
 とは言うものの、豚とさっちゃんはお似合いのカップルだ。搭乗者がさっちゃんじゃなくて豚は内心落ち込んだかもしれない。

 しかもあたしは右も左もわからない。わかるのは脱出ボタンくらいだ。右上に「緊急脱出」と書かれた赤いボタンがあるので、すぐにわかった。
 あたしは握り締めていた、ユーエツピーとかいう小さな硬い消しゴムみたいな物を見た。
 えーと、さっちゃんはこれをどうしろと言ったっけ?
「これを左の……レバいすに刺す? レバーと椅子の間ってことか?」
 あたしはレバーと椅子の間の至る所にユーエツピーを突き刺しまくった。しっくりくる場所が無い。突き刺した場所によっては、豚は「イタァ!」と叫んだりした。

「ま、まあこれは後ででいいや。よろしくね豚!」

「よろしく楓ちゃん。あ、シートベルトは締めたほうがいいブヒよ? 前に七海ちゃんがベルトを締めずに乗って、えらい目に遭ったブヒからね~」

 そうなのか。あたしはシートベルトで体を座席に固定する。

「まずは土俵入りブヒ~!!」
 メカノ助は四股を踏み始めた。ドスン、ドスン、揺れが起こる。
「そんなことしてる暇ないよ!!」
「相撲は伝統、作法が大事ブヒ。これをしなきゃ始まらないブヒよ。戦隊が戦闘の前に名乗るのとおんなじブヒ」
「いいから攻める!!」
 あたしは手元のレバーを適当に引いた。
「ブヒ!?」
 するとメカノ助は後退した。

「あぶなっ!! 俺らを潰す気か!」
 足元で散り散りになって逃げる公一くんたちの姿が見えた。

「メンゴ!! 今度こそ突撃!」
 あたしはレバーを前に倒す。メカノ助は龍にぶつかった。
「目を覚ましてミドリちゃん!」
「ブヒィ!」
 頭に大きな張り手。だがもう一方の頭、凶悪な機械の頭が、メカノ助の腕に噛み付いた。
 ガブ!!
「痛いブヒ~~!!」

『白旗を振るまで痛め付けてやるわ』

「メカノ助! 持ち上げて!!」
 あたしはレバガチャ。電気魔法が使えないので明確な指示を与えることもできない。
「吊り落としブヒ~!!」
 メカノ助は龍を掴む。相手も相当な重量だが、上空に高々と持ち上げる。力持ち。そして、地面に叩き付けた。土煙が起こり、スクリーンが黄色い砂埃で覆われた。
 見えない。
 あたしはワイパーのボタンを探した。
「これか!」
 ウィーン。ワイパーが作動し、スクリーンを綺麗にした。視界がクリアになると、鋼鉄の歯を噛み合わせてこちらを威嚇する頭が見えた。ミドリちゃんの物ではないあの頭が厄介だ。
「とにかく攻める!!」
「ま、待ってブヒ。がむしゃらに攻めてもまた噛み付かれちゃうブヒ~!」
「弱虫毛虫なんだから!!」

 とはいえ豚の言う通り、噛み付かれたら豚は負傷、コボレンジャーは敗北してしまうかも知れない。戦隊の運命が掛かっていると思うと、ぬるい汗が垂れた。メタルの頭はリーチが長く、近付けない。

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332 :げらっち
2024/07/15(月) 16:31:06

「やっぱりこれを使うしか、無いかも……」
 あたしはユーエツピーをつまみ上げ、見つめる。でもどこに刺せばいいんだろう?

『そっちから来ないのなら、こっちからお見舞いするわよ。この意気地なしの、オーチーコーボーレー!!』

 ポンパドーデスの操縦で、龍は後ろを向いた。鞭を振るうように恐ろしい勢いで尻尾が振られ、メカノ助の顔面にヒットした。
「ブヒィ!!!」
 豚は横に弾き飛ばされ、上下真っ逆様。シートベルトをしていなかったら天井や壁に頭をぶつけて馬鹿な頭がもっと馬鹿になっていたかも……
 でもその時奇跡が起きた。
「あれっ」
 ユーエツピーが操縦席の右にある穴に、すっぽり刺さっていたのである! その上にある小さなパソコンが暗証番号入力画面になっていた。
「暗証番号は……えーと……」
 さっちゃんに教わった暗証番号は……

 忘れた……

「1……あれ? 0……」

 ???

「どうしたブヒ楓ちゃん?」
「豚、操縦席のパソコンの暗証番号教えて!」
「僕も知らないブヒよ!?」
「えっ」
 どうしよう、一度脱出してさっちゃんに番号を聞き直して、また戻るわけにもいかないし……
 落ちこぼれの脳をひねってねじって、何とか記憶を絞り出す。

「0……6……えーと……」

「あ、もしかして」
 豚が言う。
「066177ブヒ?」
「そうかも?」
 あたしは急いでその数字を入力。ソフトが起動した!!
「やったぁ! その数字何なの?」

 豚は恥ずかしそうに言った。

「6月6日と1月17日……僕とさっちゃんの誕生日ブヒ……♡」


「な、なんだよなんでそんなにラブラブなんだよ……」
 同じ戦隊だっていうのに。何で特定の2人ばかり結ばれるんだ。妬くよ……
 でもそんな場合ではない。画面には「新装備追加完了」の文字。

 メカノ助の左手のグラブが、大砲に変化していた!!

「プログラムが脳に届いたブヒーーッ!! 相撲取りが飛び道具を持てば鬼に金棒ブヒよ!!」

 豚は大砲で狙いを付ける。龍はたじろいだ。
『な、何よあのチビ。小癪な改造を!! おナマな!!』

「波離間クラッシュ!!!」

 砲撃。青白い光りの弾が飛び、龍の近くに落ち、輝きながら大爆発。
「まだまだブヒ!!」
 何発も何発も撃つ撃つ撃つ。
「待って豚、相手はミドリちゃんだ。やり過ぎないで!!」
 あたしはレバーを引いて、攻撃を止めさせた。
「何でブヒ!?」

 甘かった。

 龍はその一瞬の隙を突き、攻撃に転じていた。光りの中突如現れた2つの頭が噛み付いてくる。
「ヤバいッ!!」

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333 :げらっち
2024/07/15(月) 16:31:37

 ぴた。

 攻撃が止んだ。

 機械の頭は、ガチンガチンと牙を開閉し、殺意をみなぎらしている。一方で生物の頭のほうは、攻撃する意思が無いように見える。
 いくら改造されたとはいえ、双頭龍のベースは生きた恐竜であり、ミドリちゃんだ。ミドリちゃんはアタシに攻撃する意思は無いのだ。

 機械の頭のコクピットに乗るポンパドーデスが、焦ってレバーを動かしているのが見えた。
『何してるの! 動け! 動け! 早くあのガラクタを噛み千切ってしまいなさい!!』

 その上部、ミドリちゃんの顔がこちらを見ていた。
 ミドリちゃんは、何もわかっていないのか、キョトンと首をかしげた。

「ごめんねミドリちゃん」

 あたしはレバーを倒した。

 ドオン!!!

 手刀が下ろされ、ミドリちゃんの首元の、機械の首が、切断された。

『クッ……落ちこぼれ如きに……』
 ポンパドーデスを乗せたコクピットは、地面に落ち、転がった。

「今だ!! 電気魔法アンインストール!」
 地上に居るさっちゃんが電気を飛ばす。機械の装甲が剥げ、ミドリちゃんはシュルシュルと縮んでゆく。
「ミドリちゃん!」
 あたしは脱出ボタンを叩いた。操縦席がびよ~んと跳ね、あたしはコクピットの外に放り出される。回転しながら、夜の空気を落ちて行く。
「って、これじゃ地面に落ちて死んじゃう!!」
 フツーに考えて、25メートルの高さから落ちたらヤバい。

 すると何かが飛んできて、空中に毛布のような物を作った。
「ヒデユキとその後援会!!」
 あたしがかつて飼っていて、七海ちゃんが放し飼いにさせた蛾の大群だ。
 蛾たちは空飛ぶカーペットのようにあたしを受け止め、ゆっくりと地上に下ろしてくれた。
「ありがとー、大好きだよ!」
 蛾たちにお礼を言って、ミドリちゃんを探す。

「ミドリちゃ~ん!!!」

 ミドリちゃんは倒壊した木々の間に倒れていた。
「しっかりして! 死んじゃダメだよ」
 あたしはミドリちゃんの体を揺らす。ミドリちゃんは、ゆっくりと頭を持ち上げた。
 [キシャアアア!!!]
 ミドリちゃんはあたしの肩を甘噛みした。過激な愛情表現だ。
「いたいぃ! でも良かったー!!」

 あたしはミドリちゃんを強く抱き締めた。恋人なんて居なくても、あたしには恋竜が居るもんね……!


 デザインジャーとジュラシックファイブが敗退。
 ニゲルンジャーがピアノマンに降伏したため、残りはコボレンジャーとピアノマンの2戦隊のみとなった。


つづく

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