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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
┗46-58
46 :げらっち
2024/05/04(土) 19:57:52
第5話 滅茶苦茶な夜
3人寄れば文殊の知恵、戦隊は成立する。
私は魔法クラス、楓は生物クラス、江原公一は忍術クラス。クラスを跨いだユニットというのは珍しいが、取り敢えず規定人数には達したことになる。
でも虹を作るためには7人、せめて5人は欲しい所だ。
とある夜、楓が部屋に巨大な水槽を持ち込んできた。
「何それ?」
「カエルの王様と鉄のハインリヒ!」
「いや、名前を聞いたんじゃなくて……」
楓は水槽の中に住む生物の名前を答えた。ごめん、あまり知りたくもない情報だ。
「あのね、生クラに入ると何か動物を飼育しなきゃいけないの! だからビオトープで出会ったカエルの友達を連れてきた! これからは4人部屋! ほら同室の七海ちゃんにご挨拶!!」
水槽の中からゲコゲコという挨拶が聞こえてきた。
水槽の中には岩や水草があり、水は緑色に濁っているので、カエルの姿は見えない。人が1人すっぽり入れそうなほど大きな水槽だ。ハッキリ言って邪魔だが、楓のクラスの課題なら仕方ない。
「オスとメスだから、交尾も見れるかもよー!」
「やめてよ……」
戦隊学園の夜は静かだ。
唯一活動している忍術クラスは、夜の闇に忍んで物音を立てない。
ホテルのような学生寮は、静寂によって監視されている。
でも、私たちの部屋だけは違った。
23時過ぎになってもGフォンから大ボリュームで音楽を流していた。Gフォンには音楽を流したり録音する機能もあるのだ。隣の部屋からクレームが来ようが知ったこっちゃないと無視を決め込んだ。
私は2段ベッドの上段に寝っ転がって天井を見上げていた。下段から「アバ・アバ・アバ・アバ・アバズレンジャ~!!」とメロディが聞こえる。
「何この曲?」
「アバズレンジャーのテーマ曲だよ!」
「ふぅん……楓にぴったりの曲だね」
「え、何か言った?」
「別に何でもナイデスヨ」
楓に江原公一。メンバーが着々と集まっている。悪くない状況だ。
江原公一は渋々とだがコボレンジャーへの加入を許諾した。でも彼とはあまり関われてないな。彼は忍術クラスで夜活動し、昼は寝ているから、なかなか会えない。また夜の活動で喘息が悪化してないか、いじめられてないか、などつい心配になってしまう。他人事なのにおかしいな。
土日は休みだろうし、一緒にご飯でも食べようかな?
……私は彼のことが少し気になっているようだ。似た者同士にも思えるし、私もどこかでは他人を色眼鏡で見ている、という事に気付かせてくれたからだ。
すると突然、ピンポンパンポーンという音が鳴った。
「音楽止めて!」
「えっ」
楓は急いでGフォンの音量を落とした。館内一斉放送だ。怪人が現れた時のことを思い出す。緊急事態だろうか。
『女子寮A棟に男子生徒が侵入した模様。戸締りに注意し、何かあれば事務レンジャーかガードレンジャーに内線を入れろ。繰り返す、女子寮A棟に男子生徒が侵入した模様――』
「A棟、この建物だ!」
「ふむ」
私はベッドから飛び降りた。
「ヘンタイかな? 七海ちゃん?」
楓は何故だか少し嬉しそうにしていた。
「とにかく鍵が掛かってるか確認しよう」
私と楓は、ごちゃごちゃした部屋の狭い隙間を抜けて、扉に向かう。
私は前開きの水色のパジャマ、楓はゴキブリ柄、ではなくカブトムシとクワガタ柄の特殊なセンスのパジャマだ。
サムターンは縦になっていた。つまり鍵は掛かっていない。
「不用心だよ楓」
「はい? 七海ちゃんがジュース買いに出たのが最後じゃん!」
「あ、そうだった。ごめん」
そういえば、じゃんけんに負けて私が自販機に買い出しに行ったのだった。その時に両手が塞がっていて閉め忘れたに違いない。
私は扉に近付いて鍵を閉めようとする。
すると外から足音がした。こちらに向かってくる。男の荒い息が聞こえる。
「楓、もうそこまで来ているみたいだよ」
「えっ!?」
こうなれば迎え撃つしかない。
「私が魔法で目をくらませるから、相手が怯んだところに、楓が椅子を振り下ろして」
「お、おっけい!」
楓は座椅子を持ってきた。
私は「ブレイクアップ」と変身し、扉に標的を合わせた。
ハァハァという息遣い、ドアノブが回り、扉が開く。
「ブリザード!」
冷気が不審者にまとわりついた。
「冷た! 何すんねん!」
「え」
今の関西弁は。だが止める暇もなく楓は座椅子を振り下ろしてしまった。
「うぎゃあ!!」
江原公一は殴り倒された。
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47 :げらっち
2024/05/04(土) 19:58:07
私は改めて施錠した。
突然の闖入者は、コボレンジャー3人目のメンバー、江原公一だった。いつもの緑ジャージ姿で、部屋の中に座り込んで涙目になっている。
「痛い~! 死んでまう~!!」
「ごめんって! ほら冷やしたげるから!」
江原公一の額には、漫画のようなデカいたんこぶができていた。楓が濡れたタオルを患部に当てている。
「ほらイイコイイコ! これくらいじゃ死なない死なない!」
「ン? なんやこのタオル、くっさいで」
「臭くなんて無いよ!」
そう言うと楓は、部屋にある水槽にタオルをひたした。
「待たんかい!! 水槽の水で濡らしてたんかい!! ふざけんなや、なんやねんこのえっらいごっつい水槽は!」
楓は目を輝かせてレスポンスする。
「カエルの王様と鉄のハインリヒ!」
「いや、名前は聞いてへんから」
公一はばつの悪そうな顔で楓を見る。たんこぶの痛みは消えてしまったのだろうか。
私は尋ねる。
「それで、不審者の真似事をしていたのはどういう用件?」
江原公一は涙目になって答えた。
「不審者ちゃうで! た、助けてほしくて!! 俺、狙われとるんや! 匿って!」
「ねらわれてるぅ?」と楓。
江原公一の様なひょろひょろで弱そうな学生を狙う輩とは誰だろうか。
「あ、公一くんのパパは有名な忍者の江原忍一さんだから! その息子である公一くんは狙われる身にあるわけか!!」
楓は1人、合点がいったという顔をしていた。
「なんだかワクワクじゃん! 匿うよぉー! 今夜は一緒に夜を過ごしちゃおう!!」
楓は非常事態なのに嬉々としている。
「ちゃうちゃう! 勝手に妄想の世界に深入りすんなや。俺が狙われとるんは全然別の理由やで」
次の瞬間、部屋の扉がドンドンと叩かれた。
「居るんだろう!! 出てこい江原公一!!」
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48 :げらっち
2024/05/04(土) 20:00:03
雄々しい声。何故女子寮に男子集団が居るのか。
「早く開けろ!! こちらにはマスターキーがある!! 応じないなら無理矢理開けるがそれでもいいか!!」
「喚かないでよ。ちゃんと開けるから」
私はゆっくり鍵を解除した。
廊下には4人の男子生徒が立って居た。皆長身痩躯で制服をきちっと着ている。
「夜中にうるさいんだけど」
「どの口が言うか! 夜半まで騒音を流していた事実は知れているぞ! 14件の苦情が、我々風紀戦隊ソウサクジャーに届いている! 22時には消灯しろ、さもないと校則違反となる!!」
ソウサクジャー、忍術クラスに所属する、学園の風紀を取り締まる戦隊だ。
堅苦しいことを言ってるが、そんな規律を守る人など誰もおらず、殆どの生徒が夜更かしをしているようだし、守る義務も無い。
「あなたたちの方がうるさいよ」
「何ィ!!!」
「シャラップ。落ち着きなさい」
廊下の奥から、5人目の男が現れた。
長身に、茶髪のマッシュルームカット。女々しい表情。くねくねとした歩き方。でも角ばった骨格から、男であるのはわかる。他生徒とは違いシルバーのブレザーを着ていた。
「あ、最首さん! こいつらが減らず口を!!」
「アタシにお任せなさい」
茶髪は私たちの部屋に、長い首を突っ込んだ。
「おばんどす。3年生、ソウサクブラウン・最首権(もくびけん)よ。忍術クラスの首席アンド風紀委員長も務めているワ。アタシの茶色は、学園一美しいの」
最首はサラサラの茶髪を棚引かせた。
確かに美しいのは認める。髪も眉毛も睫毛もネクタイの色も、そしてイロも、綺麗な茶色に統一されている。
でも、何だか気持ち悪い。
「髪染めるのも規則違反じゃないの?」
「あらァ、おナマな子ね。先輩には敬語をお使いなさい。アナタこそ白く染めてるじゃないの? それにそのカラコン」
最首は私の頬をペチペチ叩いた。触れんな。ていうか、私の白は染髪だと、私の青眼はコンタクトだと、本気でそう思っているのだろうか。こんな男が風紀委員長で、大丈夫か戦隊学園。
「まぁそんなことは仏壇の前にでも置いときましょう。江原公一が此処に逃げ込んだのは、お見通しなのよ」
最首は化粧で小綺麗にされた顔で、吐き気のする作り笑いを見せると、ずかずかと部屋に押し入った。
「こらあ! 女子の部屋に勝手に入らないでよ!」
楓が両腕を広げて通せんぼする。
「伊良部楓、アナタが制服のスカートを短くしてはしたない格好をしているのにも苦情が出てるのよ?」
「ダンシに構ってほしかったんですぅー!」
「正直だね楓」
最首は、白い手袋をはめた手で、四つ折りの紙を取り出す。パッと開いたその紙は、歴史の授業のレジュメと大差ないように思えた。
「これが捜査令状よ。ほら早く捜しなさい! ちゃっちゃとやるの!!」
最首がパンパンと手を叩くと、ソウサクジャーの4人の男が部屋に入った。2人部屋に男が5人も入ると窮屈だ。空間が狭く思われた。
男たちは部屋を物色し始めた。クローゼットを開けたり、座椅子をひっくり返したり、ベッドのシーツを引き剥がしたりと、かなり横暴な振る舞いをする。ベッドのシーツの隙間に人が居るわけないのに。家宅捜索の大儀の元に部屋を荒らすサディストだ。
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49 :げらっち
2024/05/04(土) 20:00:16
「誰も匿っていないから。江原公一って誰? 私たち知らないよ」
すると最首は、目を光らせ、私の顎を強く掴んで上を向かせた。
「お黙りなさい!! アナタたちが江原公一と戦隊ユニットを登録しているのは知れているのよ! アタシに嘘は吐かないこと!!」
最首の顔が、私とキスしそうなくらいに近付く。こいつと接吻するくらいならペットのカエルとする方がまだましだ。
最首の茶色い虹彩が、私の青い虹彩を捉えた。私の瞳孔が大きくなり、脈拍が上昇している。嘘がバレたな。
「フン、かわいい顔して。アタシを騙せるもんなら騙してみなさい? 拍手してあげるワ」
最首は私から手を離し、今度は作り笑いではなく、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「江原公一を匿うならこの部屋しか無い。あの子の犯した校則違反は重大よ」
彼は校則違反を犯し追われていたのか?
「校則違反って何なの?」
「あらァ、知ってるでしょう? あの子は忍術クラスの学費を横領したのよ」
横領? アイツ、そんなことができる玉かな?
最首は呟いた。
「見つけ次第、退学とする……」
「やめて、酷いことしないでよ!!」
楓の叫び声。
男の1人が水槽をガンガン叩いていた。
「何だこの悪趣味な水槽は! 寮へのペットの持ち込みは禁止されているはずだが!」
「生クラの課題で飼育してるんだよ!」
「大概にして!!」
私は怒鳴った。
「江原公一は居ないってわかったよね? 間違いを謝罪して出てってよ!」
最首は茶色い眉をひそめる。男の1人が彼に「確かに、何処にも居ませんね」と報告した。
「ちっ」
最首が撤収の合図をし、男たちはぞろぞろと部屋を出て行く。
「ごめんなさいも無し!?」
ソウサクジャーは私を無視し、勢いよく扉を閉めた。
私は扉に忍び寄り、鍵を閉めた。
「……OK」
「し、心臓止まりそうやった!!」
水槽の浮き草の下から江原公一が顔を出した。見事な狐隠(きつねがくれ)の術であった。
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50 :げらっち
2024/05/04(土) 20:12:22
水草などを被り、水中に潜む忍術を狐隠の術という。
水槽は濁っていたし、江原公一のイロは薄い緑だ。こんなにピッタリの隠れ場所は無い。私がかくれんぼの鬼だったとしても、共感覚を駆使しても見つけられないだろう。
パンツ一丁の彼は全身ヌメヌメになっていた。しかも臭い。
「キャー、裸ー!!」と楓。
彼はガリガリであばらが浮き出ており、正直、黄色い声を上げるような体型ではない。しかも脛毛は一丁前に生えていた。
「さ、寒くて死にそうや! はっクション!!」
くしゃみの音で見つからないか心配だ。楓が洗面所からバスタオルを持ってきて、プールから出た時みたいに羽織らせた。
「あなたの犯した校則違反って何なの?」
「ぬ、濡れ衣なんや。はっクション!!」
「どういうこと?」
「俺、忍術クラスの集金係しとんねん。1年生のみんなから預かったお金を金庫に入れとったんや。そしたら、金庫の金が……全部、消えとったんや。鍵を持ってるのは俺と先生だけやから、俺が盗んだってことにされたんや……」
沈黙。
「いくらくらい?」と楓。
「いくらって……忍術クラスは他クラスより専門的なことするからなあ。補助対象外なんや。忍器代やから結構高いで。手裏剣・鉤縄・苦無(くない)……1人10万で、計300万」
「300万!」
江原公一の親は有名忍者なのでそれくらい払えるだろうが、このご時世10万を払えない家庭も多いだろう。忍術クラスの生徒が少ないのは、そういう経済的理由もあるんじゃないのか。
300万ともなると結構な大金だ。
私も楓も公一をじっと見た。彼は半裸のまま後ずさりし、ゴキブリみたいに部屋の隅に逃げた。ぽたぽたと水が滴り落ちた。
「お、俺は盗ってないんやで! ほんまに!!」
「本当に?」
彼は上級生に虐められ金を巻き上げられていた。金欠になり盗ったという可能性も……
彼は手や首のみならず全身をブンブン横に振って無罪を主張した。
「ほんまやほんま!! ふざけんなや!!!」
「静かに。男の声がするとバレるよ」
消えたクラスのお金。私は考えを巡らせる。
「金庫に他の物は入ってた? 他の人が盗ったとは考えられる?」
「金は茶封筒に入れとった。他にはナンも入れてへん。さっきも言うたように、鍵は俺と和歌崎先生しか持っとらん。ちゃんと施錠しといたし、鍵は肌身離さず持っとるから他の人が盗ったとは考えにくいんやけど……」
江原公一は白いブリーフの下から、小さい銀の鍵を取り出した。
「俺はほんまにナンもせえへんのに! ど、どないしよ!? こんな理由で退学になりたないねん!! オ、オトンに合わす顔が無くなってまう!!」
彼は崩れ落ちた。
「大丈夫だよ! あたしたちが何とかするってぇ! 公一くんの忍術と七海ちゃんの魔法があればもう無敵!!」
楓はいつも悪意は無いが配慮が足りない。江原公一は過大評価されると追い詰められてしまう。
「し、信用できへん!! 伊良部! 小豆沢! どうせお前らも俺をソウサクジャーに突き出して褒賞金を貰おうとか思っとるんやろ!?」
そんなことないのに。
すると楓は、「水臭いな、楓と七海って呼んでよ!! あたしたちも下の名前で呼ぶから!」と言った。指摘するべき場所が違う。
江原公一は体が冷えてきたのか、ゴホッ、ゴホッ、と激しく咳き込み出した。私は彼に近寄り、背中をさすった。
「私たちの部屋に来たのは英断だったね、公一」
楓をいつも呼び捨てているお陰で、相手を下の名前で呼ぶのに抵抗感が薄れていたが、異性をそう呼ぶと、また違った摩擦があった。
「私たちはコボレンジャー、同じ戦隊の仲間だから。信用してよ」
「戦隊か……ゲホッ、そうやな」
公一は私を見上げた。
「わかったよ、七海」
「まず服着たら?」
私たちのジャージと混ぜてカゴに放り込んでいた公一のジャージを、彼に渡した。
「現場を見れば何かわかるかもしれない」
「え!? そんなん自殺行為や! 外はソウサクジャーの連中が目を光らせとるんやで! 相手は3年、しかも首席となれば玄人中の玄人や。校舎まで行けるわけないやん」
「何弱気になってるの。潔白なんでしょ? それならこっちが折れる必要ない。とことん戦って無実を証明するだけだ。汚名を返上しないと」
寮から忍術クラスのある校舎まではかなり離れている。
人目を避けるならバスは使えないので、徒歩で行く必要がある。そもそも、夜間はバスは通っていない。
私は不敵に笑った。
「忍者は夜の闇に隠れて行動するものでしょ……?」
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51 :げらっち
2024/05/04(土) 22:09:20
0時を過ぎた戦隊学園。
私たちは……つまり、私と私の腕に引っ付いている公一は、車道の脇の森を歩いていた。木々の間からは、虫たちの話し声が聞こえている。
楓はうるさいから置いてきた。「絶対行く!」と駄々をこねた彼女だが、私が「留守番も大事な仕事」と言うとなんとか納得し、「じゃあお2人さん仲良くね~あたしはカエルの王様と鉄のハインリヒと3Pで待つから!」と色々意味深なことを言っていた。
パンツ姿ではなくなった公一はガクガクと震えていた。
「なぁ、見つかったらどないしよ……」
「ビクビクしないで。この暗さじゃ顔は見えないし、こそこそしてたら余計目立つから」
女子寮から校舎まで、徒歩約30分。暗い中だが、車道に沿って進んで行けば何とか校舎に辿り着けるだろう。
よく見ると闇の中にぽつりぽつりと生徒の影があった。寮を抜け出しているのは私たちだけでは無いようだ。
夜の森で自主練に励む者、夜空を見ながら散歩している者。
道路脇のベンチに座って見つめ合ったり、手をつないで歩いてるカップルなんかはまだ良い。
森の中でおおっぴらにいちゃついている男女もある。ソウサクジャーは、こっちの風紀を取り締まったらどうだろうか。
「きっしょいな。何でわざわざ外でやるんやろ。頭わいてるんとちゃう?」
「男子寮は女子禁制、女子寮は男子禁制。校舎は見回りがあるから、外でやるしかないんでしょ」
「成程な」
ふと思った。
公一はさっきから、私の胸元をちらちらと見てくるではないか。
「助平」
「そっそんなんしてへんで!」
公一は飛び退いた。
私は胸が平均よりは大きいサイズなので、男子に、稀に女子にもちらちら見られる。さりげなく見ているつもりでしょうけどしっかりバレてるから。
私は車道のアスファルトを踏んで歩いた。電灯がシルエットを照らし出している。私は、いつもの制服や緑ジャージではなく、水色のパーカーにジーンズという私服を着ていた。
公一が数メートル後ろを付いてくる。
「なあ七海」
私は振り向くことはせず、言葉だけを後ろに返す。
「何?」
「……きれいやな」
私は振り返った。
「お化けと言ったり綺麗と言ったりどっち? 鑑賞対象にして欲しくないのだけど」
私はこの見た目を綺麗、と言われるのが嫌いだ。
だが彼は立ち止まり、空を見上げていた。私の容貌について言ったのではないようだ。早とちりしてしまった……恥ずい。
私もつられて上を見た。
満天の星空だった。
濃紺に白が散りばめられている。見上げる先は、どこまでも何も無い。突然重力のブレーカーが落ちたら、どこまでもどこまでも落ちて行っちゃいそう。
どっちが上でどっちが下かもわからなくなって、自分が広大な宇宙に属しているんだと思い知らされた。
「ほんと、きれいだね」
虹も見たいが、夜の光りも綺麗だ。太陽や晴れ空と違って、私の目でも見ることができる。
いつの間にか公一が私の隣に立っていた。
私たちは宇宙の彼方を見るのを止め、お互いの顔を見た。
何だかムーディだ。男子と2人きりで夜道を歩いて、夜空を見上げるなんて、ついこないだまでの私には想像もできないことだった。状況はともかく、高校デビュー、しちゃったかもしれない。
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52 :げらっち
2024/05/04(土) 22:11:43
星空の下で見つめ合っている私と公一。
「キスでもしてみる?」
私は、柄でも無いことを言ってしまった。
夜は静かだが恐ろしい。月明かりは闇の中の男女を覚醒させる。
公一は、口を真一文字に結んで私の目をじっと見ていた。数秒が経過。彼はフッと笑った。
「やめとこ。返り討ちにされたないねん」
「お利口だね」
下り坂を歩き、しばらく行くと中央校舎が見えてきた。
すると突然、後ろから肩を掴まれ、茂みに引きずり込まれ、押し倒された。こんな暴挙に出たのは公一だ。
「わあ! 後ろから襲うとは意外と……」
「静かに!」
私と公一は落ち葉の中で息を潜めた。
校舎の方から集団が走ってくる。走ってはいるが、足音が無い。忍者の集団だ。
咄嗟に茂みに隠れなければ見つかっていた。公一はその気配に気付いたのだろうか。すごい。忍者の素質あるんじゃないか。
集団の中には忍術クラスの担任・和歌崎、そして最首の姿もあった。
「クラスの威信に懸けて、必ず捕まえなさい」
「もちろんおっしゃる通りに。虱潰しにやれば、必ず見つかるワ」
ソウサクジャーおよび忍者の戦隊が、寮の方角に向けて走り去って行った。あいつらは星空を見上げたりしないだろうし、見ても綺麗と思わないだろうな。
集団が完全に去ったのを確認すると、私たちは茂みから出た。
「やったね公一! これで校舎はもぬけの殻だ」
「逃げたと見せかけ侵入する、逃止(とうし)の術やな」
「ん?」
私は最首たちが走って行った、舗装された道を見た。何かある。あれは足跡だろうか。いや違う。茶色い物が、点々と地面に残されている。最首が残していったイロか? こんな現象は初めて見た。気持ち悪いので踏まないようにしなくては。
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53 :げらっち
2024/05/04(土) 22:13:16
忍術クラスの教室。畳の敷き詰められた部屋は伽藍堂。
体験授業の時は蝋燭で照らされていたが、今は白色電球を点けたので明るい。
「金庫どこ?」
「隣や」
ふすまを開けて隣室に入る。途端、強烈な重力を受け成す術も無く落下した。畳が開き、足を突っ込んでしまったのだ。
「七海!!」
公一がパーカーのすそを掴んで支えてくれた。穴底には、先の尖った竹が上を向いて並べられている。落ちていたら串刺しになっていただろう。生徒相手に容赦の無い罠だ。毎年生徒に戦死者が出ているという噂もあるほどだ。
「忍者屋敷やで。ちっとは気ぃつけえや。油断厳禁や!」
公一は私を引っ張り上げた。ひょろひょろだが流石男子、力持ち。
「ふぅん、やるじゃん。ありがと」
「ほんじゃレディーファーストやで」
「私の嫌いな言葉をどうもありがとう」
私は助走をつけ四角い穴を跳び越えた。それに続いて、公一も難なく飛び越えた。
床の間に、大きな木の箱が設置されていた。和風な金庫だ。
「開けてみて」
公一は銀の鍵を取り出し、鍵穴に刺して回す。
扉が開き、中に光が射し込んだ。木目があるだけで、何も入っていない。
「空っぽやろ」
何も無い。
いや。
それは、一般的な目における感想だ。
私には他人には見えない特殊な物が見える。
イロだ。
そこには、イロがあった。
「茶イロい」
「何やて?」
私は金庫に顔を突っ込み、暗い中、目を細めた。
微かだけど、茶イロが残っている。さっき道に落ちていたのと同じような物だ。
「最首か!? 茶色は美しいとかけったいなこと言うとった!」
「そう。奴の自慢のイロだ。独特のイロだから見間違うはずが無い」
「最首が金を盗んだ真犯人か!? 横領した上に罪をなすり付ける風紀委員長とはとんでもないやっちゃな!! どうなっとんねん!!」
公一は吠え、地団太を踏んだ。やはり世の中は理不尽で、上の者を信用すべきではないってことだ。
「……あだっ!!」
私は頭を上げようとして、金庫の天井に思い切り頭頂部をぶつけた。
「いったあ!」
「あほか!」
私は頭をさすりながら、金庫から這い出た。
「……けどこれでわかったね」
「でも鍵は?」
「ソウサクジャーはマスターキーがあるって言ってた」
「それや!!」
謎解明。私と公一は手を取り合って喜んだ。
「……でもそれだと証拠不十分やな」
「うん。金庫に茶イロが残っていると言っても、イロを見られる人は私しか居ないからね」
「のこのこ出てってこいつが真犯人やーいうても逆にとっちめられんのがオチや。まだ見つかるわけにはいかへんな」
「そうだね。ん?」
私は何かに気付き、公一の足を見た。
「あ!!」
「何や?」
「足に茶イロが付いてる!」
「はあ? ふざけんなや! ばっちいばっちい!」
公一は足をぶんぶん振った。毛の生えた細い足に、最首の茶イロが付着している。
最首が地面に撒いて行ったイロを踏んだんだ。
最首はイロを残していくことで、気配を張り巡らせていたんだ。そうすれば私たちの気配を読んで、動きを察知することができる。
「あーあ、あいつの罠に掛かって。忍者の癖にちょっとは気を付けてよ。油断厳禁でしょ?」
公一は恨みがましい目で見てきた。なじりたいが、私以外にはイロは見えないからやむなしか。
空間の気配を把握するとは、さすが忍術クラス首席というだけはある。胡散臭い奴だったが実力はあるらしい。
「最首は私たちの動きにもう気付いてるかも。捕まえに来るよ」
「ど、どないしよう……」
私と公一は、見つめ合った。瞳と瞳が一直線につながった。目と目で会話するとは、こういうことだろうか。
[
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54 :げらっち
2024/05/04(土) 22:15:53
「もう逃げ場は無いかもね。潔く出て行って、最首と直接対決すれば?」
「はあ?」
公一は口をあんぐりこと開けた。
「何言うてんねん! 投げ槍になんなや!」
「投げ槍じゃないよ。男なら正々堂々と勝負しなくちゃ」
「男も女も関係あらへん!! その場でフルボッコにされてお縄やもん! 嫌や!!」
「いくじなし」
公一はじろ、と私を睨んだ。
「何やて? もう一度言ってみぃ」
私は相手によく聞こえるように、明瞭に言う。
「何度でも言ってあげるよ、意気地無。そもそも自分の問題でしょ。自分で片を付けなくてどうするの?」
「ああん!?」
ドスの効いた声で、空気が冷え切った。こんな男っぽい声も出せるのか彼は。
「前から思ってたねんけど何でそう上から目線なんや? そんなんじゃ友達できひんよ。もうコボレンジャーやめさせてもらうわ」
「やめたら受け入れ先無くなっちゃうんじゃないの? 1人ぽっちの戦隊になっちゃうかもね。あ、それより先に、最首に逮捕されて退学か」
「うっさいな!!」
公一はステップを踏み、私と間合いを取った。まるで忍者みたいな動きだ。
私と公一は、ほぼ同時に戦隊証を取り出し、唱えた。
「ブレイクアップ!!」
息ピッタリだ。
私は白、公一は緑。私はスカート、公一はパンツスタイルの戦士に成る。透明のゴーグルの下、目と目が合う。
「コボレホワイト!!」
「コボレグリーン!!」
「あ、コボレグリーンって名乗っちゃってるじゃん。コボレンジャー抜けたんじゃなかったの?」
「あーうるさいうるさい聞こえへんな。他に名乗りようがないねん。上げ足取りやめーや。いっぺん痛い目に遭ったほうが良いんとちゃう?」
公一は壁を叩く。絡繰り扉が反転。中にはびっしりと忍器が収納されていた。彼はそれを手に取る。
「女だからって容赦はせえへんで!」
「いいよ、男も女も関係無いんでしょ? 本気でやろうよ、2人きりなんだし」
「上等や。苦無や喰らえ!」
ドスッ!
黒いナイフのような忍器が、私の足下の畳に刺さった。
「当たってないよん。手裏剣と同じで、的外れ」
「黙れや!!」
手裏剣が空を切り、私の真横を掠め、背後の壁に突き刺さった。避けていなければ顔面に直撃したかもしれない。
「ふうん。本気でやればできるじゃん」
「余裕ぶってられるのは今のうちや」
公一は新たに2本の苦無を構える。
私は先程公一が投げた苦無を、畳から引き抜いた。
公一は2本の苦無を手に歩を詰める。だがなかなか攻めてこない。いっちょ挑発してやるか。
「おいで? メンズファーストだよ」
「このアマ!!」
彼は右手の苦無を振るい、私の顔面目掛け刃先を突き出した。苦無で切り結ぶ。金属のぶつかる音。腕力で相手が勝り、押し負けそうになる。
「もらいや!!」
公一は左の苦無で私の心臓を狙った。そういやこいつ左利きだったな。でも甘い。
「アイスバリア!!」
私の身体が氷の守りをまとった。
「何や?」
苦無の刃先がバリアにぶつかり氷の粒が散る。攻撃は私に届かない。
今だ。
「スパイラルスノウ!!」
私は吹雪を生み出した。公一は情けなく悲鳴を上げ、障子を突き破り、夜の校庭に落っこちていった。
「魔法は卑怯や言うてるやろ~~!!」
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55 :げらっち
2024/05/04(土) 22:17:59
私は校庭に降りた。
公一は変身が解け、霜にまみれた間抜けな状態で仰向けに倒れ、ぴくぴくしていた。
「はいあなたの負け」
私は公一の髪を掴んで引きずる。
「な、なにする気や……」
「最首に突き出してやる」
「みいつけた」
夜の闇の中から、茶髪のマッシュルームカットがぬるっと現れた。
最首権その人だ。
「江原公一、逮捕するワ。やはり小豆沢七海、アナタが匿っていたのね?」
「そ。だけどやめた」
私は公一を蹴飛ばして、最首の前に転がした。
「最初は助けてやろうと思ったんだけど、こいつ弱虫でムカつくから、あなたに突き出すことにした。煮るなり焼くなり、好きにして」
公一は呻く。
「う、裏切り者……!!」
「最首、あなたが真犯人なのはわかってる。でも私はこいつが退学になってももうどうだっていいから、あなたの罪については公にしないつもり」
「あらァ。意外と物分かりがいい子ね」
最首は不気味な笑みを見せた。
「小豆沢七海、アナタが江原公一を逃がそうとした蔵匿罪は、これでチャラになったワ。かわいい子。気に入った」
「だったらどうしたって言うの?」
「口の減らない子ねぇ」
最首はヤレヤレと肩をすくめた。
「まあいいワ。江原公一を逮捕する瞬間を見せてあげましょう」
最首は、足元でのたうち回る公一を見下し、告げた。
「アナタを横領罪で、逮捕します」
彼は戦隊証を取り出した。
「ブレイクアップ!!」
彼の体が、自慢の茶イロに包まれる。
「風紀の守護者、ソウサクブラウン!!」
彼は艶やかなブラウンの戦士に変化した。ゴーグルの代わりに赤外線スコープのような物が付いており、手には白い手袋、黒いベルトからは幾つもの手錠がジャラジャラと垂れている。
「江原公一、アナタには黙秘権が……!」
「はい、そこまで。盛り上がってるとこ残念だけど」
私と公一は、同時に、最首に苦無を突き付けていた。
「あなたの自白に当たる台詞はGフォンに録音したから」
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56 :げらっち
2024/05/04(土) 22:19:22
『最首、あなたが真犯人なのはわかってる。でも私はこいつが退学になってももうどうだっていいから、あなたの罪については公にしないつもり』
『あらァ。意外と物分かりがいい子ね』
ポケットに隠したGフォンでの録音。この部分は自白に当たり、決定的な証拠となるだろう。
「ど、どういうこと!?」
公一が立ち上がった。
「俺と七海は喧嘩したフリしてお前を油断させたんや。敵に寝返ったと見せかけ味方に戻る、これぞ山彦の術や。忍術クラス首席なら当然知っとるやろ?」
「あなたが公一に付着した茶イロを通じて音声を盗聴していると思ったから、徹底的に演技させてもらったよ。作戦会議も目線を交わせるだけで済ませたし」
ソウサクブラウンこと最首は、余程悔しいようで、ぷるぷる震えている。
「騙せるもんなら騙してみなさい、って言ったよね。名演技だったでしょ?」
「く、くぅ~!」
最首はパチパチと拍手をした。
公一は私に駆け寄った。
「にしても七海やり過ぎや。ほんまに死ぬかと思ったで!」
「そっちこそなかなかやるじゃん」
最首はガクッと膝を突き、黙り込んだ。私と公一はそんな彼に、苦無を向ける。
「教えてよ。どうしてお金を盗んだの?」
最首は白状した。
「就活のために金を積むつもりだったのよ……」
「呆れた。規律を取り締まる人が何をやっているの?」
「でも……甘いわね。まだアタシの負けじゃないワ」
最首は学園中に響くような大音量で叫んだ。
「助けて!!!!! 逃亡犯がアタシを殺そうとしている!!!!!」
その声を聞きつけ、校庭のあちこちからソウサクジャーのメンバー、および忍術クラスの生徒たちが集まってきた。
この状況を見た彼らの目には、犯人である私たちが追い詰められて、最首に襲い掛かっているように見えただろう。
「おのれ江原公一、忍術クラスの恥さらしめ。神妙にしろ! ブレイクアップ!」
生徒たちは各々変身を始めた。
忍び装束の様な衣装に身を包んだ戦士たち。色とりどりだが、どれも暗めの目立たない色だ。派手な赤や明るい黄色は、忍者として活動する上で目立ってしまうので、必然的に目立たないイロを持つ生徒ばかりが集まるのだろう。
「や、やばい! 無勢に多勢や!!」
「逆でしょ。不利でも最後まで戦うんだ。コボレンジャーの実力を見せてあげよう!」
「わ、わかった!」
「ブレイクアップ!!」
私と公一は再び変身を決める。
「コボレンジャー!!」
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57 :げらっち
2024/05/04(土) 22:21:14
「お前ら、行け!」
ソウサクジャーに指示され、5人組の忍者の戦隊が私たちを取り囲んだ。
「あの戦隊は何?」
「あいつらは忍法戦隊シノブンジャーとかいう1年生の組みたての戦隊やな」
「じゃあアドバンテージは無いね。何とかなるはずだ」
シノブンジャーの5人は、素早く時計回りに動き回りながら、包囲を狭めてくる。
私は公一と、ピッタリ背中をくっ付けた。
「ど、どうすんねん?」
「しっかりしてよ。私と戦った時くらい本気でやれば大丈夫だよ。背中、預けるからね」
シノブンジャーたちは手裏剣を手にしている。
あいつらは5人居るが、全員忍術クラス。対してこっちは2人だが、忍術クラスと魔法クラスの混合だ。じゃんけんで相手は1つの手しか出せないのに、こっちは2つの手を持っているような物だ。
敵が手裏剣を打つ姿勢。戦闘は青信号。
私の白いイロが、氷の魔法を生み出す。想像次第で、どんなこともできるのが魔法だ。
「氷晶(ひょうしょう)手裏剣!」
大きな氷の結晶を装備した。
「な、なんだあれ!」
「ひ、怯むなぴよ!」
私は大きく振りかぶり、氷の手裏剣を打った。冷たい刃はキラキラ輝きながら飛んで行き、忍者たちの忍び装束を裂いた。忍者たちは音も無く分散し、手裏剣の応酬。
「危ない!!」
私と公一は180度回転し、公一が忍び刀で手裏剣を叩き落とした。
「オトンに貰った愛刀コウガや!!」
忍び刀は太刀なんかと比べて小さくて携帯しやすいが、まさか持ち歩いていたとは。
「おっと、手裏剣が帰ってきたで!」
私の打った氷の手裏剣はブーメランのように戻ってきたようで、公一がそれをキャッチした。
「もっぱついくで!!」
公一がそれを再度打つ。
私と公一は背を密着させたまま反時計回りに回り、私は氷の手裏剣を打ちまくり、公一は防御をしつつ戻ってきた手裏剣を更に打った。がむしゃらな戦法だが意外と隙が無く、シノブンジャーは攻めかねている。
「何してるの、ちゃっちゃとやっつけちゃいなさい!! それでも忍術クラスなの!?」
ヒスを起こす最首の声。あんたは戦わないのか?
「ハッ、あかん火縄の匂いや!!」
「火縄銃!?」
洒落にならない武器を出してきたな。私は身を翻し、闇の遠方に灯る火種を見た。銃口をこちらに向けている忍者の姿。
「アイスバーン!!」
私は校庭に拳を下ろした。地面が一直線に凍り付き、直線状に居た射手は霜柱に呑み込まれた。
「よし!」
「とどめは鉤縄や!!」
公一が鉤縄を投げ、シノブンジャーの1人に引っかけた。私たちは回りながら忍者たちの周りを回り、忍者たちをぐるぐる巻きに縛り上げ、一網打尽にした。
「いっちょ上がりや!!」
「目回った……」
私たちはふらふらとよろけた。
「ま、まさかシノブンジャーがやられるとは……」とソウサクジャー。
「どうします? 最首さん」
「あれ? 最首さんはどこ?」
すると、森の中に逃げて行く茶イロが目に入った。
「最首! あいつだけは許さない!!」
私は最首を追いかける。
「待てや七海!!」
私はアイスバーンで凍った面を、スケートのようにつるつる滑るように進んだ。
私は森の中に入った。最首はここに逃げ込んだはず……
共感覚を駆使しあの茶イロを探す。落ちている茶イロは、大木の根元で途切れている。
どこだ?
「甘いんジャー!!!」
背後の土が盛り上がりソウサクブラウンが飛び出した。土中に埋まって忍んでいたようだ。
私は咄嗟に魔法を出そうとするも、さっきの戦いで魔法を乱発した疲れもあり、敵に上手を取られた。
「アナタを逮捕しまぁぁす!!」
枷が飛び、私の両手両足を拘束した。特殊な手錠は変身の自由をも奪う物だったのか、変身が解け素に戻り、身動きが取れなくなり棒のような状態で倒れた。鼻を思い切り木の根に打った。これはきつい……
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58 :げらっち
2024/05/05(日) 00:07:39
「あぁら、かわいい顔が台無しねぇ!」
地面に倒れ身動きが取れない私に、ソウサクブラウンが近寄ってきた。
「小豆沢七海、勝ったと思った? アナタと江原公一を始末すれば済む話だワ。安心なさい? 1年坊主が厳しい戦隊道に耐えかねて、4月に退学する事なんて、毎年あるんだから」
最首は私の髪の毛を掴み、引っ張った。毛根1つ1つが千切れそうに痛み、悲鳴を上げている。
「よくもアタシをコケにしてくれたわねぇ!」
奴は私の顔を、思い切り地面になすり付けた。肌と赤土がこすれ合う。
「うぐう!!」
私は地面と接吻した。
鼻も唇も擦れ痛い。それに何より、屈辱的だ。いじめられた時もここまでのことはされなかった。
「アナタには黙秘する権利があります!!」
というか、喋れない。
「なァ」
「ン?」
誰かが最首に話し掛けていた。私は顔を持ち上げた。
緑の戦士が、最首と対峙していた。公一だ。彼の薄かった緑が、濃く染まっている。
公一が、怒っている!
「七海にてぇだすなや!!」
公一は忍び刀を構えた。
最首は公一をも捕縛しようとした。だが奴が手錠を投げ付けるより先に、公一が刀の峰で奴を打った。
ドガッ!! 硬い棒で叩きのめす重い音。最首は木に叩き付けられた。
「おやめなさあい! 不意打ちとは卑怯!!」
「黙れや! 卑怯は忍者の常套手段!! それに……」
公一は私の体を起こして、手と足の枷を刀で壊してくれた。
「人に罪をなすりつけるお前の方が卑怯やないんか!?」
最首は攻撃しようとした。だが奴は戦闘は意外と不得手だったらしい。
公一は最首を滅多打ちにした。顔に首に胴に手に足に刀を打ち付けボコボコにする。
「やめてええ!! わかったワ、罪を認めるから!!」
「くたばれや!!」
このままだと公一が最首を殺してしまう。私は三度変身し、唱えた。
「フリーズ!!」
最首を凍らせた。巨大な氷と化した風紀委員長は、滑って倒れた。変身が解けた彼は氷の中で目を見開いていた。
「なんで邪魔すんねん!!」
「殺さなくていいよ。殺したらあなたが退学になっちゃう。それよりもこいつを先生に突き出して、あなたの無実を証明した方がずっといい」
「……なるほどな」
公一は刀を下ろした。
「ありがとな七海」
「いえいえ、こちらこそ助けてくれてありがとう」
私たちは変身した姿のままで互いの姿を見あった。
「私たち結構頑張ったね。コボレンジャーの初陣にしては上出来だ」
「そうや、キスでもしてみようか?」
「ええ?」
まさか公一のほうからそんなことを言うなんて。いつもは気弱だが意外と大胆な男だ。
月明かりは狼男を変身させるように、闇の中の男女を変えてしまうようだ。
「ちょ、ちょっと待って。10秒待って。心の準備が……」
「今しかできひん気するから今しとくわ!」
公一は私の肩を掴んで、キスをした。
「あ……バカ」
一瞬で終わった。
2人とも変身したまま、マスク越しにするというのはいかがなものだろう。何かがマスクの向こうから唇に触れる感覚がした、それだけだった。これはファーストとしてはノーカンなのでは。でもドキッとした。健気な私の心臓は、何か緊急事態が起きたと勘違いして、素早く血液を体中に巡らせている。公一は一瞬の至りに今更恥ずかしくなったか、「よっしゃ、帰ろ!」と行ってしまった。
いつかあなたがもう少し度胸を持ったら、変身を解いて、素顔の状態でしてね。
待ってるから。
つづく
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