スレ一覧
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212.小さな殺し屋さん
┗3-6,11-16,28,50,56,57,84,86-88,98,99
3 :ねむねむ
2021/09/23(木) 15:32:17
第一話 小さな殺し屋さん
『次のニュースです。
○○市在住の△△さんが、刃物で襲われ、死亡しました。
警察は、【小さな殺し屋さん】による犯行とみて現在捜査中です。』
……またか。
警察官である俺は、今朝のニュースを見てため息をついた。
【小さな殺し屋さん】とは、5年前から現れた殺人鬼だ。
その名の通り、とても小さい。
まだ中学生くらいの年齢で、身長は135cm。
とても素早い動きと、天才的なハッキングの技術を兼ねそえているため、防犯カメラの画像操作や防犯システムの乗っ取りをされたりしてなかなか捕まえられず、警察は手を焼いている。
刃物による刺殺と、自作の毒を使った毒殺が多い。
ショートカットにくりくりした目と、小顔な顔。かわいらしい容姿をしている少女が、【小さな殺し屋さん】だ。
少女は、整形手術を受けたことがないため、容姿は何も変わっていないはずなのに捕まえられない。噂によると、裏の闇組織とつながっていて、幼いころから殺人関係の英才教育を受けていた、らしい。
結果、少女は【小さな殺人鬼】と呼ばれる殺し屋となり、闇組織の仲介の元、殺人依頼を受けてこなしているという。
今月だけで被害件数は約20件。
一週間で4~5人殺している、というペースだ。
しかも一人で。
ある警察官が鉢合わせたときは、小さな体に見合わない強烈な蹴りを頭にくらわせ、倒れた警察官の首を絞めて殺している。
人外の強さなのだ。
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4 :ねむねむ
2021/09/23(木) 15:34:38
第二話 新事実
だが、俺ら警察だって何もしていなかったわけではない。
少女と繋がっていると言われている闇組織に所属している男を一人捕まえたのだ。
今現在、取り調べ中である。
―1時間後―
どうやら、例の男が口を割ったらしい。
闇組織の名は、ポーカージャック。
やはり少女と繋がっていた。
その男は、ある幹部の1人の側近だったため、いろいろな情報を知っていた。
そこには、驚くべき事実があった。
少女の親は、少女と同じく殺し屋だった。
殺し屋同士が愛し合い、少女を生んだ。
少女の両親は、己の職業が[殺し屋]という黒に染まったものだったため、少女も普通の人生を歩めないだろうと考え、身の安全を守る術すべとして、空手などとナイフの扱い方などを教えた。
少女は才能があったのか、みるみる上達した。
それを偶然、ポーカージャックのリーダー、通称ポーカーに見られてしまった。
ポーカーは少女を攫い、毒殺とハッキングの技術を教えた。そして5年前、殺し屋になることを拒み続ける少女に対し、少女の両親を連れてきて拷問を始めた。苦痛にあえぐ両親を目前にして固まっている少女に対して、ポーカーは言った。
「君が殺し屋になれば、君の両親は助けましょう。お金も上げます。
さあ、どうしますか?」
最愛の両親を人質にとられ、少女は殺し屋をせざるを得なくなった。
報酬は、一人殺すごとに500万。
子供には大きすぎる額だ。しかし、人、1人の命が500万でやりとりされていると思うと、安いし、何よりひどいと思う。
とにかく、少女は脅されているから人を殺しているだけであり、本当はやりたくないらしい。
報酬のお金の一部で花を買い、殺した人の墓に供えているそうだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
と、涙をこぼしながら。
本人だって分かっているだろう。
たとえ謝ったとしても、死んだ人の命は帰ってこないと。
それでも、謝るしか懺悔のすべを知らないから、ひたすら謝る。
そんな姿をひそかに見守っていたという男は、「どうか少女を助けてやってください」と言っているそうだ。
今の話は全て、同期の坂本から聞いた。
俺は、【小さな殺し屋さん】の事件の担当チームではないから、その事件の担当チームにいる坂本から、こうして情報を取得している。
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5 :ねむねむ
2021/09/23(木) 15:39:09
第三話 ブラックキャット
そういえば、と坂本が言った。
男が言ったらしい。
次の集会は、月明かりの下、黒猫の目が光る場所だと。
その場所の名だけはどうしても口を割らない。
他のことは話すのに……。
なんとも不思議な話だ。
月明かりの下、ということは夜の可能性が高い。
黒猫の目が光る……どこだ?
はっ、と思い当たる場所があった。
黒猫をそのまま英語に直すと、ブラックキャットだ。
ぼったくりバーで有名なそういう名前の店がある。
しかもそこには黒猫が一匹いて、目が自ら光を発しているようで怖いと聞いたことがある。
警察官という職業柄、不思議なことを言われると謎解きだと思って深く考えてしまうことが多いだろう。
そこを突いた問題だったのだろうか。
坂本に伝えて、確認をとってもらうと、男はこう言ったらしい。
「やはり、謎解きは慣れている人が作らないと単純になって面白くないですね。
明日、十時から貸し切りです。どうか、間に合ってください。
あの子が、暴れる前に。」
『あの子』とは、少女のことだろうか。
とりあえず、何かしら騒動が起こることは間違いなさそうだ。
気を付けて行かねばならない。
俺は、担当チームではなかったが、もちろん行くつもりである。
いや、行かねばならないのだ。
なぜなら俺は……。
……もしかしたら、忘れたほうが楽だったかもしれない……
懐かしい「あの人」のことを思い出し、俺は悲しく笑みを浮かべた。
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6 :ねむねむ
2021/09/23(木) 15:49:03
第四話 5年前の事件
ー翌日ー
午後10時。俺たち警官は、ブラックキャットの裏口など、出入りできるところで待ち伏せをしていた。
あとは人が出てくるのを待つだけだ。
しばらくして、何やら争う音が聞こえてきた。
そして、2分くらいで静かになる。
俺は、周りの警官たちにバレないようにこっそり建物に侵入した。
「どういうこと?」
話し声が聞こえたので、そちらのほうに行き、物陰に身を潜めながら耳をそばだてる。
なにやら剣呑というか、不穏な雰囲気だ。
「だから、君の両親はもう死んでいるんだ。」
「は!?なんで!!」
「5年前の拷問の時に、出血量が多すぎてな。
拷問師の腕が悪かったらしい。」
「そんなのウソっ……!じゃあ、今まで何で私は殺し屋を……っ!」
「一応言っておくが、もう普通の生活には戻れないぞ?」
「……そんなの知ってる。でもなんで今、私に、親が死んでいることを話したの?」
「そんなの決まっているだろう。今から君にも同じところに行ってもらうからだ。」
「……なんですって?」
「【小さな殺し屋さん】はもういらない。
君は強くなりすぎた。ボクを超えられたら困る。ボクが最強じゃなくなってしまうからね。」
「ポーカー、あんた……っ!」
どうやら少女とポーカーが言い争っているようだ。
「さよなら、【小さな殺し屋さん】」
「絶対に許さない。」
そして、争う音が聞こえる。
ナイフなどが当たる音、拳銃の発砲音……多くの音が聞こえる中、俺は物陰でそのままじっとしていた。
心臓がばくばくと音を立てている。
争っている二人に聞こえたらどうするか。
そんなありもしない考えを浮かべ、恐怖する。
どれくらい時間がたったのだろう。とても長い時間だった気がしてならない。
血しぶきがあがった。
俺が潜めている物陰にまで飛んできた。
真新しい赤色が目の前で薄暗くほのめいている。
そして、音が止んだ。
「死んでも許さないから。それにしても残念だったわね。
すでに最強なのはアンタじゃなくて私だったみたいよ。」
ドサッと人が倒れる音がした。
どうやら少女が勝ったようだ。
「あんたを殺しても、私は親と、もう会えない……」
泣いている。
そして、ポーカーの懐をあさりはじめた。
「拷問師……拷問師……これね。
絶対に殺してやる。コイツがもっている名刺の人、全員殺してやる。」
今、少女は復讐で燃えているし、狂乱状態だ。
俺が動いても返り討ちにされてしまうし、なりふり構わず誰でも殺すだろう。
外にいる警察官たちにも、無線で手を出さないようにと言っておいた。
「……一気に殺ったほうが早いか。」
少しして、少女が言った。そして、名刺を見ながら電話をかけ始めた。
どうやら、名刺の人全員を同じ場所に集めて殺す魂胆のようだ。
午後11時に宮崎倉庫で待ち合わせらしい。
止められない自分の弱さが歯がゆいが、今はまだじっと待つ時だ。
そして少女はすべてのところに電話をかけ終えたらしく、ブラックキャットから出て行った。
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11 :ねむねむ
2021/09/25(土) 10:19:58
第五話 地獄絵図
少女が去ったのを確認し、ポーカーと少女が争っていた部屋に入ると、ひどい光景が広がっていた。
ポーカーの部下らしき人たちは心臓か喉を刺されて絶命している。ポーカーに至っては、喉と心臓、さらには腹を切られ、よく見れば臓器が見えている。床も壁も天井も、血だらけで真っ赤だ。部屋に足を踏み入れれば、ぴちゃりと血の音が鳴る。まるで水たまりに入ったような。
まさに地獄絵図。俺は今までの警察官としての人生の中で、これまでにひどい惨状は見たことがなかった。
一生トラウマになるような光景に絶句したが、我に返ると俺は無言でその場を立ち去ろうとした。
少女が言っていた場所に向かうためだ。もうすぐ午後11時になってしまう。
すると、坂本が言った。
「どこに行くつもりだ?目撃者なんだから、いなくならないでくれよ?」
俺は真剣な表情で返した。
「頼む。どうしても行かなきゃならないんだ。」
目をしっかり合わせて言うと、坂本は渋々といった様子で
「……なるべく早く帰って来いよ?あと、一応行き先を教えてくれ。
もし遅かったら迎えに行く。それまでに用事を終わらせとけよ。」
と言ってくれた。俺は、
「宮崎倉庫」
とだけ言ってかけだした。
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12 :ねむねむ
2021/09/25(土) 10:46:26
第六話 ごめんなさいと、ありがとう。
宮崎倉庫につくと、そこではすでに死闘が始まっていた。
少女1人VS屈強の大人50人近く。
しかし実力の差は明らかだった。
月明かりの下で返り血を全身に浴びながら戦う少女は、むしろ美しかった。
すぐに50人あまりの男たちは死体と化した。
その中にはきっと、拷問師もいたのだろう。
それでもなお、少女は泣いていた。
「こんなことしても意味はない……私のお母さんとお父さんは帰ってこない……」
俺は思わず言ってしまった。
「ああ、そうだな。」
「だれ!?」
少女が瞬く間に殺意をみなぎらせる。
俺は低い声で言った。
「俺は、お前に愛する人を殺されたものだよ。」
少女が息をのむ。大きく見開いた目から、涙をさらにあふれさせる。
俺はさらに言った。
「お前と一緒だ。お前と同じように愛する人を突然奪われた。
家に帰ったら、血だまりができていた。驚いたよ。まさか、ってな。
悪い予感は的中した。血だまりの中に、俺の愛する人はいた。
その日は、婚姻届けを出す予定の日だったんだ。
お前のせいでっ!!俺の幸せな日になるはずの一日が、絶望の日に変わったんだ!!!」
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13 :ねむねむ
2021/09/25(土) 10:46:46
私は、はっとした。
今まで、「殺してごめんなさい」と、死んだ人に対してはたくさん謝ってきた。
でも、遺族の人のことは考えてなかった。
何も言い返せない。
ただ命じられたまま人を殺していた。
だから私は悪くないなんて、通用しないのは分かっている。
実際に手にかけたのは私なのだから。
私と同じ、だったのだ。
私が親を殺したポーカーを、そして拷問師を恨むように、この人たちも私を憎んでいた。
どんな理由がそこにあろうと、憎かったのだ。
しかし、しばらくして私の口から出た言葉は、謝罪ではなく、ひたすら願ってきた願望だった。
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14 :ねむねむ
2021/09/25(土) 10:48:04
「……私は、普通の女の子になりたかった。
ハッキングの技術も、ナイフの使い方も知らない、普通の女の子になりたかった。
人殺しなんて、本当はしたくない。」
そう言って、少女は泣いた。
ずっと耐えてきた、少女の心の叫びだった。
「今着ているこのパーカーだって、もとは真っ白だった。
初めて野村輝樹さん、という人を殺した時もこのパーカーを着ていた。
すぐに真っ赤に染まった。この色が、ずっと嫌だった。
殺した人の名前はすべて覚えて、墓に行って花を供えて毎日謝った。
でもそれで罪悪感が消えるわけじゃないし、殺した人の命は戻ってこない。
それでもただ、謝るしかなかった。
ずっと、人を殺す前も、殺すときも、殺した後も、悲しくて苦しくて申し訳なくて。」
真っ赤に染まったパーカーを着て、返り血をポタポタと髪から垂らしながら、泣きじゃくっている。
「初めて人を殺す前に、髪を染めた。
金髪にした。
早く警察に捕まえてほしかったから、目立つ色がいいと思った。
警察官と鉢合わせて殺したのは、あの人がもともとターゲットだったから。捕まりたくないわけじゃなかった。」
皆が恐れる、【小さな殺し屋さん】も子供だった。
「お父さんとお母さんに会いたい。
誰かに愛されてみたい。
お金じゃなくて、愛が欲しい。
【小さな殺し屋さん】じゃなくて、『私』を愛してほしい。
帰ったら「おかえり」って、お父さんとお母さんに言われたい。
いただきますも、ごちそうさまも、家族でっ………みんなで一緒にしたかったッ!!
もう、お父さんとお母さんにハグしてもらえることだってない。
誰かの「行ってきます」も、「ただいま」も聞くことはできない。
愛してるよ、大好きだよ、って言ってもらえることもない。
喧嘩もできないし、仲直りだってできない!!!!」
あの拷問事件から5年経って、少女は中学生くらいの年になったはずだ。
それでも、心は、愛されたいという気持ちは、あの頃のまま止まっているのだ。
「たくさん人を殺してごめんなさい。
その分たくさん謝るし、お金も払うから、お願い。
私のお母さんとお父さんを、返して……!!!」
お金も払う、というその言葉で、少女がどんなに治安の悪いところで過ごしていたのかが伝わり、痛々しさを増す。
お金がすべての世界で過ごしてきた少女。
大人としては、「よく耐えたね。」と言ってあげたいような気もする。
でも遺族としては、どんな理由があってもなお、許せなかった。
でも、同じ悲しみを少女も味わっていることを知り、心が揺れる。
大人の俺でもこんなにつらいのに。少女にとって、どんなにつらい悲しみだったか知れない。
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15 :ねむねむ
2021/09/25(土) 10:48:26
それでも、一つだけ少女は間違っている。
「あんたを愛しているかは知らないが、【小さな殺し屋さん】じゃなくて、あんたを見てくれていた人はいたよ。
それに気づかなかったのは、あんただ。
その人は、墓に花を供えて泣いているあんたを見て、同じように悲しんでくれていた。
あんたのことを、【小さな殺し屋さん】と呼ばず、「あの子」って、まるで我が子を呼ぶかのように呼んでいたよ。」
少女が目を見開く。パーカーに涙がしみていく。
赤色じゃないモノが、悲しい色をしたそれが、パーカーに染みていく。
「お願い、します。」
しゃくりあげながら、少女は言った。
「あなたが、持っているその、銃で、私を、こ、殺して、ください。」
俺は、静かに見返すだけだった。拳銃は構えない。
「お父さんとお母さんに会わせて……罪を償わせて……!
殺してっ……殺してッ!じゃなきゃ殺す!」
ナイフを持った手に力を込め、泣きながら少女は叫んだ。
「それは」
「早くっ!!!!」
俺の言葉を遮り、ナイフを握りしめ、一直線に走ってきた。
俺が狙いを定めやすいようにだろう。重心を少しも傾けずに。
バン!!!!!
拳銃の発砲音がした。
少女が、目を見開き……そして、ゆっくりと倒れる。
パーカーに、少女自身の赤色が染みていく。
「あり、が、とう……ごめ、んな、さい……」
と言って一滴の涙と笑みを浮かべ……それが少女の最後の言葉だった。
後ろを振り向くと、坂本がいた。
彼が拳銃を握っていることから、彼が撃ったのだろう。
肩で息をしている。今、到着したばかりで、俺が殺されそうになっていたように見えたに違いない。
少女は、俺を殺す気などなかった。
人殺しなどしたくないと言っていた人が、自分の意思で人を殺すとは思えない。おそらく、もし撃ってもらえなければ、俺から拳銃を奪って自決するつもりだったのだろう。
坂本が言った。
「あの男、ついさっき死んだらしい。」
少女を見守っていた男のことだろう。
「何か悟ったような顔をして、悲しそうに笑みを浮かべ、服毒自殺したそうだ。」
……少女が死んだことが、伝わったのだろうか。
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16 :ねむねむ
2021/09/25(土) 10:49:03
私は倒れながら見た。
自分の両親の姿を。
『私もやっと、そっちに行けるんだね。』
涙を流し、私は最後の言葉をつぶやいた。
「あり、が、とう……ごめ、んな、さい……」
両親にだけでなく、目の前の警察官にも、遺族の人にも、そして何より殺した人全員に向けて。
死ぬ前に、言わなければならないと思う言葉を言い終えることができた。
そんな私を、両親は暖かく見守ってくれていて、そして。
「あなたは天国には行けない。だから、『一緒に』地獄に行きましょう。」
「……なんでお母さんたちまで……?」
「ごめんね。お母さんたちが殺し屋だったから、あなたをつらい目にあわせてしまった。
本当に、本当にごめんね。」
強くかぶりを振る。新たな涙があふれてくる。
「一緒に地獄に行こう。
死んでも、あなたは私たちの大切な娘よ。
ずっとずっと、愛してる。」
私は、ずっと言われたかった言葉を聞けて、泣いた。
たくさん、たくさん、泣いた。
この温もりを、忘れない。もうこの手を離さない。
今から地獄に行くというのに、私は幸せだった。
「私のことも忘れないでください。」
「……あなたはッ!お墓に行くとき、送り迎えしてくれた……!」
「私だって、あなたのことを見ていました。
あなたに罪があるのなら、私も一緒に背負いますよ。」
「ごめんなさいっ……気づけなくて、ごめんなさいッ……!!」
「もう、いいのです。さぁ、行きましょう。私も一緒に、行きますから。」
「ありがとう。ごめんなさい。ありがとうっ……!!!」
幸せだった。ただただ、幸せだった。
もう、何もいらない。
ありがとう……………。
少女たちは、闇に消えていった。
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28 :ねむねむ
2021/09/25(土) 16:52:34
最終話 TRUE END
「良いゲームだった……」
俺は感動して泣いていた。なんて素晴らしいゲームだろう。
少女は死んだが、幸せになったのだ。
お母さんとも、お父さんとも出会えて。
地獄に一緒に行った。
なんて良いゲームだろう。
これ以上に素晴らしいゲームを、俺は見たことがなかった。
ただ、いくつか気になることがある。
俺がこのゲームを始めたのは、このゲームを作った人が自身のブログで言った言葉が気になったからだ。
「絶対にTRUE ENDを迎えてはならないゲーム」
と言っていた。
最後に映し出された、『TRUE END』という文字も、血文字で不気味だったし……なぜだ?
そのとき、だった。
カタ、と後ろで音がした。
1人暮らしの俺の家に、誰か、いる……?
おそるおそる後ろを見ると、『まだ』真っ白なパーカーを着た、ショートカットでくりくりした目の愛らしい少女が立っていた。
必死に泣かないようにしていて、悲しそうに苦しそうにしていて……。
左手に、ナイフを持っていた。
う、嘘だろ……どういうことだ……
俺は、ハッとした。
TRUE ENDを迎えてはならない理由、血文字で映し出された文字、妙にキャラクターがリアルだった理由、ゲームで最初の被害者の名前の部分にプレイヤー自身の本名を入力させた理由―――――。
全部、全部つながる答えが、ひとつだけある。
―――――ッ、まさか……!
あたりに鮮血が飛び散った。
少女のパーカーが、真っ赤に染まる。
「……ごめんなさい……」
本当に、あのゲームが、現実になってしまったというのか……
視界が、闇に包まれていく。
少女の顔が目に映る。
パーカーのフードをおろした少女の髪は、綺麗な金髪だった。
ここからが、本当の話。
きっかけは、たったひとつのゲーム。
【小さな殺し屋さん】の、悲劇の開幕である――――――
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50 :ねむねむ
2022/01/17(月) 19:12:28
番外編
No.1 『ひとりぼっちの彼女』
ー25年前ー
「なぁ、野村。」
「なに?」
「アイツ、髪の毛、金髪にしてるぜ。やばくね?」
ギャルではなかった。
どちらかと言えば、黒髪のショートカットがよく似合うような、大人しい、だが少し大人びた子だった。
「なんで染めたの?」
「いや俺は知らねぇけど……ほら、アイツの家庭って複雑じゃん?まぁ、アイツも寂しいんじゃね?」
親に愛されていない子だった。
だから気を引こうとしたのだろう、よくそういう……不良じみたことをしていた。
僕は知っている。そんな彼女に、いつも熱い視線を向ける人がいることを。
だがその熱い視線は何だか変だった。
どちらかと言えば、ストーカーよりのような……少し怖い目だった。
その彼の名は、山本といった。
「ねぇ、彼女のどんなところが好きなの?」
僕が日直の日だった。
職員室に日誌を届けに行く僕と、担任に用事があるらしい山本。
必然的、というか、なんとなく一緒に行くことになった。
その時、なぜかは未だに分からないが、そう聞いた。
聞かなければ良かった。
あいつと関わらなければ良かった。
そう後悔するのは、僕が大人になってからの事だ。
この時は、まだ知る由もなかった。
僕の質問に、山本は恍惚とした表情で答えた。
「だって……素晴らしいと思わないか?
愛を求めてもがく姿は哀れだが美しい。
これ以上の芸術はない。
いや、芸術とひとまとめに言っていいものではない。
芸術を超えた……なにかだ。
なんて言えばいいんだろう……色で表すことにはできない、そう、絵にすらできない何かだ。
人の心に突き刺さる……そんな……何かだ。」
なるほど、かなりの変質者だったようだ。
「彼女」を愛しているのではなく「彼女の姿や行動」に何やらときめくものがあるということだろうか。
僕にはよくわからなかった。
ただ、なんとなく嫌な予感がした。
コイツと関わるとヤバいかもしれないという予感。
だがそんな予感はすぐに消え去ることになる。
なぜなら、僕は、それ以上に戦慄する出来事に立ち会ってしまったから。
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56 :ねむねむ
2022/01/24(月) 14:23:06
No.2 『赤色』
そうして若干引いた僕と山本は職員室の前に立った。
どちらが扉を開けたのだろう……たしか山本だった気がする。
扉を開けた途端に聞こえた怒声と悲鳴、そして真っ赤に染まった床……それらに僕らは硬直してしまった。
先生たちの混乱が僕らにも伝わり、僕の頭は何があったのか整理しようとする。
先生たちは怯えている。何にだ?
「やめろ!やめるんだ!!落ち着け!!!」
先生たちの恐怖が混じった視線の先に、ポツンと一人で立っている女子生徒がいた。
彼女だった。
だが彼女は制服を着ていなかった。
……いや、違う。アレは制服だ。
でも、でも……色は真っ赤だ。
あの色は……まさか……
先生たちの方を見る。
男の先生たちの後ろで、保健室の先生が『何か』を必死に冷やしたり布を巻いたりしていた。
アレは、人だ。布じゃなくて、包帯だ。
彼女の方に視線を戻す。
危ない。逃げろ。
頭の中ではそうしなきゃいけないと思っているのに、体が石のように固まったまま動かない。
金縛りにでもあったかのようだ。
先生たちもそうなのだろう。
皆、手の先が震え、目を大きく見開いている。
「大人なんて、信用できない。」
うっすらと笑みを浮かべて彼女は言った。
あの時彼女はたぶん、悲しい、寂しい表情をしていた。
どこか諦めたような、それでも縋り付きたいような、そんな自分を抑え込むような、そんな顔だった。
でも、その時は身の危険に気を取られて、そんなことはもちろん考えられなかった。
怖い。逃げなきゃ。危ない。
彼女は自身の左手にあるものを自分のハンカチでこすった。
キラリと、それは光った。
赤で光があまり反射していなかったのだろう。
今までは目立っていなかったが、彼女よりも、刃物の方に目が向く。その場で最も存在感を放つものが、彼女から刃物に変わった。
拭き取り切れなかった赤を、彼女はペロリと舐めた。
一回やってみたかった、とでもいう風に。
「まず。」
顔をしかめる。
きっとあれは、彼女の赤じゃない。
アレは……。
保健室の先生が懸命に手当てをしていた人のことが頭をよぎった。
どくん、どくん
胸の鼓動がやけにうるさい。
彼女に聞こえたら殺されるかもしれない。
息が苦しい。
知らず知らずのうちに呼吸を止めていた。
震えながら、浅く息を吐き、薄く息を吸う。
彼女から目が離せない。
誰も、何も言わない。
ただ、重苦しい緊張感だけが、その場を支配していた。
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57 :ねむねむ
2022/01/24(月) 14:37:38
No.3 保健室の先生の追憶
そんな緊迫した状況の中、震え、怯え、恐れ、そうした感情の渦に呑み込まれそうになりながらも興奮している者がいました。
25年経った今でも忘れられません。
とりあえず職員室に来ていた生徒たちを逃がさなければと、扉の方を見ました。
そこに、目を大きく見開いて彼女を食い入るように見つめている子がいました。
最初は、怖くて逃げられず固まってしまっているのだろうと思いました。
でも、よく見ると違いました。
彼は、らんらんと目を輝かせていたのです。
私はそんな彼を見て、震えました。
狂っている、そうとしか言えないのです。
彼は血に興奮していたのでしょうか。
それとも、事件を起こした彼女に興奮していたのでしょうか。
25年経った今でも、それは聞けないままになっています。
それを聞いてしまえば、彼は彼女と同じようなことをしてしまうような、そんな気がしたからです。
彼女は、傷害事件だけでなく、殺人も犯しました。
ですが、少年院のようなところには入りませんでした。
なぜか?
彼女は、いなくなってしまったのです。
失踪?
いいえ、違います。
彼女は、殺したのです。
自分を。
それが、彼女が起こした殺人なのです。
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84 :ねむねむ
2022/01/24(月) 20:53:14
No.4 『彼女の最期』
あっという間のことだった。
彼女はふっと笑みを浮かべると、
「知ってたよ。こんなことしても、嫌われるだけだって。
お母さんには愛されないって。
知ってたよ……」
そう小さく言って、あきらめたように笑った。
彼女は最後まで、独りぼっちだった。
寂しそうだった。
そのまま、一筋の雫を頬に伝わせ、彼女はその手に光る刃物を自分の胸に突き立てた。
よく見ると、その手は細く儚かった。
彼女は、儚かった。
床に広がる血の海に、自身の悲しい赤色を交えながら、沈んでいった。
その儚い命をすくいあげるかの如く、そよそよとやわらかい春風が通る。
先生も、僕も、救急隊員や警察の人たちが来るまで動けず、ただじっと彼女を見つめていた。
やわらかい春の日差しに抱かれながら、彼女は静かに眠っていた。
とても、美しかった。
ぽとりと、彼女の頬から雫がこぼれ落ちた。
つい先程、彼女が流した涙だった。
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86 :ねむねむ
2022/01/24(月) 20:55:07
No.5 『現在』
彼女が自殺してから、25年経った。
俺も、一人称が僕から俺になったり、まぁ、人並みに成長した。
そろそろ彼女欲しいなぁとか、そんなことを考える余裕があるくらいには平和な日常を送っていた。そう、アイツ……山本と再会するまでは。
『やぁ。』
電話がかかってきた。俺の友人から電話番号を聞いたらしい。
「ひ、久しぶり。」
声が裏返りそうになった。
というのも、彼がよほどの変人だということを、俺はしっかりと覚えていたからである。
たとえ、25年前、あの事件が起こった日、たった数分の間一回きりしか喋ったことのない相手だったとしてもだ。
『ちょっと話があるんだ。会わない?』
俺はこの時断るべきだったんだと思う。
でも、
「いいよ。」
と答えていた。
[
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87 :ねむねむ
2022/01/24(月) 20:55:41
No.6 『再会』
待ち合わせ場所のカフェに行くと、すでに山本はいた。
にっこりと、少し不気味ともいえる笑みを浮かべてこちらに手を振っている。
「君、彼女いる?」
いきなりそう聞いてきた。
「いや、いないけど?」
まさか彼女が出来たから誰かに自慢したかったとか言うんじゃないよな。
あからさまにムッとした感じで返すと、山本は目を細めてさらに言った。
「欲しいの?」
まるで俺を試しているかのような……そんな目で、俺をじっくりと見ている。
「そりゃ欲しいだろ。」
「でも合コンとかには行ってないでしょ。」
「行ってねーよ。」
半ば不貞腐れながらそう答える。
じーっとこちらを観察している山本の目に、何か恐ろしいものを感じ、ふっと目をそらした。
窓から外を見ると、ちょうど交通事故が起こった。
赤信号を無視して歩行者を吹き飛ばすトラック……
宙を舞って鮮血をまき散らし、歩行者は道路に打ち付けられた。
ふいに、あの日の事件がフラッシュバックする。
ぐしゃ、という音を聞いた気がした。
「ねぇ、君はなぜ彼女が欲しいと思いながらも積極的に行動しなかったのかな?
合コン行ったりさ、いくらでも方法はあったのに。」
人の恋愛事情を探って何が楽しいんだろう。
コイツの目的は何だろう。
ただ、目の前の山本が薄気味悪かった。
面白そうに俺を見ながら話を続ける山本。
「面倒くさかったから?違う。
そこまでして彼女が欲しいわけではなかったから?違う。
伝手が無かったから?違う。」
そこでいったん言葉を切り、満足げに俺を見た。
彼は、窓の外を指さして言った。
「君は、あの時、恋してしまったんだろう?
僕みたいに、彼女の『哀れな姿』にさ。」
にやりと不気味に笑いかけてくる彼は、気持ち悪かったが、少しだけ間違っていないところもあったので、
「まぁな。」
と頷いた。
実際、彼女は美しかった。
「僕、今さ、ゲームを作ってるんだよ。」
「は?」
いきなりゲームの話をされて戸惑う。
「僕はね、彼女をゲームにしたいんだ。」
「何言ってんだお前。」
冗談にしても、とても普通の人間が言うこととは思えない。
眉を顰め、その言葉の意味を考える。
「彼女の哀れな姿を、美しい姿を、ゲームにしたいんだ。」
俺は、ひらめいた。
そうか、それなら……
「わかった。手を貸す。」
真剣な顔で頷いた。だが、と付け加える。
「最後の仕上げ、少し俺に手を加えさせてくれ。」
山本は了承し、契約が成立した。
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88 :ねむねむ
2022/01/24(月) 20:56:15
No.7 『TRUE END』
そして、2年がかりでそのゲームはようやく完成した。
最後に俺は少し手を加え、彼に手渡した。
「ちょっと念のためプレイしてくれ。」
要するに、プレイして問題がないかチェックしてほしいと言ったわけだ。
もうすでに俺たちは試作品をプレイし問題がないか確認していたが、念のためだ。
それで何も問題が無ければ、製品を売り出す。
スマホをいじり、山本のブログを開く。彼はしょっちゅうブログを投稿している。
『TRUE ENDを迎えてはならない。』
と彼自身が書き込みをしていた。
どうしてTRUE ENDを迎えてはならないんだ?
俺たちの中でそんな話は一度も出なかったというのに……。
俺は不思議に思い、山本に渡したものとは別の自分用に作ったゲームを起動し、プレイした。
そして、TRUE ENDを迎え、死んだ。
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98 :ねむねむ
2022/01/24(月) 21:09:54
No.8 悲劇のはじまり
山本は一人不気味に嗤う。
だって仕方がないよね、と。
「君が、僕を殺そうとしたから、いけないんだよ。」
わからないとでも思ったのかなぁ、とおかしそうに嗤う。
「君が最後に仕上げとして手を加えたのは……
ゲームの内容や機能とかじゃなくて、爆弾なんだから。」
にやりとわらう山本。彼は知っていた。
野村が、山本を殺そうと、最後に念のためチェックしてほしいと渡してきたゲーム機に爆弾を仕込んでいたことを。
だから山本は、ゲームが現実に反映されるようにゲームを作り替えた。
そうすれば、TRUE ENDを迎えれば必ず、プレイヤーは一番最初に死ぬから。
そして、野村は制作者であるため、ゲームのストーリーでの正しい選択肢を知っている。
よって、誰よりも早くTRUE ENDを迎えるのは、野村の可能性が高い。
そう考え、山本は細工を施したのだ。
なぜ野村は山本を殺そうとしたのか?
「君は、好きだったんだよね。『彼女自身』が。」
そう、野村は彼女の『哀れな姿』が好きだったのではなく、ただ『彼女』が好きだったのだ。
普通の恋愛感情を、彼女に抱いていたのだ。
山本は、彼女の母や父を洗脳し、彼らが彼女を愛さないようにした。
要するに、彼女を追い詰め、殺したも同然である。
だから、野村は山本を恨んだ。憎んだ。
好きな人を殺されたのだ。当たり前といえば、当たり前なのかもしれない。
それをせっかく忘れ去ろうとしていたのに、いきなり会おうとか言われて再会してゲームを作ろうなどと言われたら、誰だってはらわたが煮えくり返る。
では、なぜ山本は彼女を追い詰めたのか。
洗脳など、面倒くさいことをしてまで。
それは愚問である。
「だって、美しいだろう?すべては、芸術のため。
そのためなら、僕はあらゆる努力を惜しまない。」
ふふふ、と嗤う。
そう、彼は狂っているのだ。
25年前のあの事件よりも、もっと、ずっと、ずっと前から。
「さぁて、物語のはじまりだ。
野村君は気付かなかっただろうなぁ、『俺』が婿入りという形で、結婚しているだなんて。」
あはははははは!!!
腹を抱え、嗤いだす。
「最後まで俺のこと、山本って呼んでいたなぁ……今はもう、山本じゃないのに。
『僕』はとっくの昔に『俺』になったんだから。」
山本がゲームを作ることを考え出したのは、19年前だ。
くくく、と嗤う。
「俺は今、警察官だ。
今日は、俺と妻が婚姻届けを出す日……つまり、妻が死ぬ日。
そう、俺は、あのゲームの主役さ!
野村、気の毒だなぁ……お前を殺す気はなかった。
お前が俺を殺そうとさえしなければ、今お前は、愛する妻を持って、婿入りして、”坂本”の役をやっていたっていうのに……。
最高の悲劇を間近で見て、演じられたのに……
アハハハハハハハハ!!!!!!
ざまあみやがれ!!!!!」
高らかに勝利を叫ぶ彼は、気づかなかった。
背後に刃物を持って忍び寄る、ところどころ赤に染まった白いパーカーを着た金髪の少女の姿に。
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99 :ねむねむ
2022/01/24(月) 21:10:24
真っ赤な鮮血が、宙を舞った。
どしゃ、と山本は崩れ落ちる。
薄れゆく意識の中、彼はにっこりと嗤っている野村を見た気がした。
「保険って、かけておくべきだよね。」
そういうことか……山本は全てを理解した。
野村がゲームに仕掛けたものは、1つではなかった。
そう、野村は、言ったのだ。
「最後の仕上げ、『少し』俺に手を加えさせてくれ。」
と。1つだけしか手を加えないとは言ってなかった。
野村の『少し』は、一体どれくらいだったのだろうか。
ひとつは、山本に手渡したゲームに、爆弾を。
ひとつは、試作品に、”もし野村輝樹が死んだら、少女は山本を殺す”と。
試作品は、いつでも問題を見つけられるようにしておこうと、ずっと電源をONにしていた。つまり、まだプレイ中と認識される。よって、試作品に書いたものも、現実世界に反映される。
そして、山本は死んだ。
山本のブログは、『TRUE ENDを迎えてはならない』という投稿を最後に、ぱったりと途絶えた。山本が死んだ後に起こったことで、山本が知ることはなかったが……
野村は、こうも書いていた。
“少女は、もし山本を殺したら、自殺する。”
少女の持つ刃が、彼女の喉を切り裂いた。
少女は、ロボットである。山本が作り出した。
ただ、野村を殺すためだけに。
現実世界に、悲劇を作り出すために。
ゲームが現実になるとは、そういうことだ。
山本はかつて、こう言ったことがある。
「みんな、世の中はクソゲーって言うだろう?
だから、悲劇の名作に変えてあげたんだ。この世界をね。
これでクソゲーじゃなくなった。だから、みんな悲しむわけがないじゃないか。」
彼は、人を殺すことがなぜいけないのか、それがさっぱりわからなかった。
感情が欠落した人間だった。
鮮血は飛び散らない。
ロボットの少女は、壊れる寸前に、もう一つ、野村が書いたプログラムを実行した。
“もし少女が自殺したら、少女は幸せそうに笑って目を閉じる。”
あどけない笑顔で、少女は永遠の眠りについた。
少女は、ロボットである。
だが、私は感情を持っていると主張するかの如く、人間らしい、だがどこか寂しいような、あの事件の日の彼女と似た微笑みを顔に宿し、それきり、動くことはなかった。
悲劇は、まだ始まったばかりだ。
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