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┗265.VigilanteーThe Masked Riderー(21-40/45)
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21 :迅
2022/04/16(土) 17:45:29
すると、目尻に涙を浮かべた誠と目が合う。
育ちの良さが生んだ傲慢さ───実に不愉快だ。
「先に言っておくが、こちとらお前らのせいで一族共々、一度路頭に迷ってんだよ。お前のパパがどのくらい偉いのかは知らねーが、偉いのはお前じゃなくて、お前のパパだ」
「そ、それは……」
「お前が影で何を言おうが勝手だが、二度とそのツラを俺に見せるな。お前の親父の名前も出すな。言いたいのは、それだけだ」
誠の胸ぐらを突き放し、斗真はポケットに手を入れて歩き出す。
柄にもなく、説教じみた事をしてしまった。
今回の件をきっかけに、これからの高校生活が台無しにならなければ良いのだが───。
「はぁ……縁起悪いなぁ……」
街灯に輝く街中で、彼は本日三度目のため息をついた。
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22 :迅
2022/04/16(土) 21:46:06
「おはー」
「おはよー」
「でさー、この前吉田がさ───」
「まじでー?」
コミュ障にとって最も退屈な時間は、ホームルームが始まるまでの空き時間と言っても過言ではない。
一体何が悲しくて、イケイケなギャルに囲まれなければならないのか。
「……チッ」
斗真は頬杖をつき、窓の外を見ながら舌打ちをする。
昨日の一件以来、苛立ちが何故か治らない。
言いたい事は言ってやったはずなのに、なぜか靄がかかったみたいに、どこか釈然としない。父が、家族が味わった苦しみを、本人にぶつけたはずなのに。
それなのに……なんだろう。
この、行き場の見つからない苛立ちは。
「ホームルーム始めるぞー」
「きりーつ、れー」
そして、神谷教諭の入室を合図に、ホームルームが始まる。
いつもと変わらない、平凡で平穏な日常が。
Episode2・見てて下さい、俺の変身
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23 :迅
2022/04/20(水) 19:58:01
大通りから外れた、薄暗い路地裏。
そこは、活気に溢れた表舞台とは打って変わり、犯罪者を中心とした、社会の逸れ者達の巣窟となっていた。
「誰か……食い物くれ……」
「ひゃひゃひゃ!お前が悪いんだぞ……!俺に楯突いたお前が悪いんだ……!」
薄暗い地に響く、ホームレスの呻き声やヤク中の下卑た笑い声。
混沌ひしめく路地裏では、法も無法も存在しない。
路地裏を占めるある組織を除いて、この路地裏で生き残る為に必要なものはただ一つ、『力』だ。この世界でも『法』に縋っていては、あっという間に淘汰されてしまう。
そして今日もまた、社会に追い出された者の一人が、路地裏で生きる力を求め、売人と接触していた。
「な、なぁ、本当にコレさえあれば、誰も俺に手出し出来なくなるのか?」
「えぇ、勿論でございます。これは、神が我々に授けて下さった『力』なのですから」
痩躯の男の問いに、ローブを纏った女はどこか宗教家じみた答えを返し、手に持っていたアタッシュケースを開ける。
その中には、5つの錠剤が入ったケースと、ケースの個数分のシリンダーが用意されていた。
表舞台に暮らす平和ボケした人間なら、興味本位で手に取ってみるだろう。しかし、彼は腐っても路地裏の人間。目の前の女と、彼女が見せてきた品々から滲み出る異様で不気味なオーラを、感じ取れないはずが無い。
だが、彼はそのうちに1セットを手に取った。
答えは簡単。
彼の力に対する執着が、理性を凌駕したからだ。
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24 :迅
2022/04/23(土) 22:54:14
「コイツさえあれば、俺は最強になれるんだ……へへへ」
男の顔から、理性が消えて行く。
彼は路地裏の出身でありながら、表舞台できちんと働いて生計を立てるなど、比較的マシな部類の人間だった。
しかし、彼は力という名の悪魔に、酷く魅力されていた。
もう誰にも、彼を止める事は出来ない。
「それは、ここぞと言う時に服用下さい。神が授けて下さった力は、きっと貴方を新たな境地に導いて下さるでしょう」
───貴方にも、神の祝福があらん事を。
胸の前で両手を組み合わせ、まるで神に祈るような姿勢をとった女は、修道女のような微笑を浮かべその場から去って行く。
一人残った男は、手渡された品々をまじまじと見つめていた。
「6万円の出費は痛いけど、これで社会の役に立てる力が手に入ると良いな……」
男は苦笑を浮かべ、踵を返して歩き出す。
あの女曰く、最初に手に入る能力は不確定……つまりランダムだが、2回目以降の服用時は、最初に得た能力が使えるようになるそうだ。
───これで、もっと社会の役に立てる。
「ちょっと待ちな」
そう期待していた矢先、男の前を数人の男女が囲んだ。
彼らは、この辺りでは有名な半グレ組織のメンバーだ。
そのうちのリーダー格と思しき男が、余裕そうな笑みを浮かべて前に踊り出る。
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25 :迅
2022/04/23(土) 22:54:48
「おっさん、今買ったヤツ置いてけよ。俺らの事を知らねー訳じゃあねーだろ?別に断っても良いけど、断った場合は痛い目見る事になるぜ?」
そう言うと男は懐からナイフを取り出し、刀身の腹で頬をペチペチと叩く。
「なぁ、痛いのは嫌だろ?さっさと出すもん出して消えろよ」
半グレは威圧を続けるが、男は微動だにしない。
と言うかする理由がない。
百獣の王たるライオンが、なぜ、獲物であるウサギやコヨーテに怯えなければならない?
彼らは、自分がライオンだと思っているのだろうか?
仮にそうだとするのなら───
馬鹿馬鹿しい事、この上無い。
「クククッ……」
「あ?何が可笑しいんだよ」
男の態度が気に入らなかったのか、半グレは声のトーンを下げる。どうやら、目の前の半グレはどちらの立場が上なのかまだ分からないらしい。
どちらが捕食者で、どちらが獲物かを。
「もう良いや、死ねよ」
半グレはナイフを突き出す。
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26 :迅
2022/04/23(土) 23:04:19
男をすり抜け空を切るナイフ、その異様な光景に、半グレ達の顔は瞬く間に青褪めて行った。
「な、何だよコイツ!?」
「化け物……!?」
「う、撃て!撃ちまくれ!」
リーダー格の怒号を合図に、半グレ達は銃を撃ちまくる。
だが、放たれた銃弾は1発たりとも男に当たる事はなく、彼の身体をすり抜けて行く。まるで、男の背後の空間に吸い込まれるかのように。
「何で当たらねェんだよ!?」
「クソッ!クソが!」
半グレ達が恐れ慄く中、男は一人手を開閉させながら、己に宿った能力の全貌を分析する。
如何なる物質もすり抜ける能力───透過。
それが、彼に宿った能力だ。
「良いね」
男は微笑み、半グレ達の方を向く。
彼らは、いったい何を感じ、何を考えていたのだろうか。
「さ、仕事に行こうか」
男は、鼻歌を歌いながら表舞台に向かう。
路地裏に、5つの死体を残して。
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27 :げらっち
2022/04/30(土) 21:13:35
本スレに感想書いていいのかわからなかったので、ダメだったら消します。
『MÖBIUSーThe next HEROー』や『ハイスクール・ライダーズ』のリベンジ的作品。
前者とは題名が似ているし、後者とは人名が違うだけでプロットが酷似している。また、ライダーズの時と同じく戦隊学園の裏視点が描かれている。
「戦隊だらけの世界で肩身の狭いライダーが戦うプロット」は、戦隊小説が牛耳るゲラフィ小説界を風刺していて面白いw
天堂誠が一度だけ茂って書かれてる……
CGRの世界(2022)で茂は生まれたばかりなので、ルルが高校生だとするとパラドクスが生じる。ここはおいおい明かされていくのかねえ。
硬派でかっこいい。変身シーンや悪との戦いも見たいっす。
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28 :迅
2022/05/04(水) 11:27:09
「えー、ご存知の通り、ニッポンジャーが統治する現代社会では、戦隊至上主義が掲げられてるのは分かってる筈だ」
一方その頃、斗真たちは神谷教諭が受け持つ歴史の授業を受けていた。
クラスの中心人物が『自己紹介の続きをしたい』とのたまっていたが、神谷教諭は「それなら休み時間にやってろ」と軽く一蹴し、パソコンと黒板を使って授業を始めた。
今回の授業は一回目ということもあり、戦隊の発足と彼らが掲げた思想を学ぶ事になった。クラスメイトたちは真面目に聞いているが、斗真はいつもの如く、頬杖をついて窓の外を見つめる。
気が抜けてしまいそうなほど、空は青かった。
「この戦隊至上主義ってのは、『戦隊ならざる者戦士にあらず』と言う、天堂任三郎の理念を体現したものだな。俺は進路指導もやってる。どうせ、この中から戦隊志望者も出て来るだろうから、一応基礎は教えておいてやる」
神谷教諭は衝撃の事実をサラリと告げ、黒板に文字を書いていく。
普段から無表情だが、黒板に向かって文字を書く神谷教諭の姿は、いつも以上に無機的に見えた。
「そんで戦隊が発足し、他のヒーロー達の淘汰を始めた日を何と言うか分かる奴は?」
───『赤の日』だな。
クラスメイトが首を傾げる中、斗真は心の中で答える。
その日は忘れたくても忘れられない、斗真にとってある種のトラウマを刻み込んだ日なのだから。しかも、その日は彼の父・龍馬の誕生日と重なったのもタチが悪い。
斜め前を見てみると、ルルも訝しげな表情をしている。
彼女にとっても、何か因縁があるのだろうか?
「戦隊の発足以降、連中は『ずっと前から守ってました』アピールを欠かさないが、結局のところ、それは一つの洗脳教育だ。戦隊よりも前に、仮面ライダーがこの国を守っていたことは前に言ったな?」
神谷教諭は続ける。
仮面ライダーの始まりは今から約400年前、江戸幕府8代将軍・徳川吉宗公が設けた御庭番が起源とされている。
非番の日に、火付盗賊改方の目をすり抜けて行われる軽犯罪や暴行を未然に防ぐべく、揃いの面を被り自警活動を行ったのが始まり……と、祖父から教わった。
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29 :迅
2022/05/04(水) 14:36:55
「言っちまえば、戦隊は仮面ライダーのパク───リとまでは行かないが、まぁ似てはいるな」
神谷教諭は本心を言いかけるが、何処からか放たれたキツい視線に気付いたのか、そっとオブラートに包み込む。
斗真はその視線を追ってみると、彼の目線の先には、黒髪ロングのお嬢様然とした女子生徒が座っていた。その周りを囲むに座っているのは、彼女の親衛隊か何かだろう。
そこで彼は察する。
───あの女は、アイツと、天堂誠同じ類の人間だ。
関わらないに越した事はないだろう。自ら進んで藪を突かなければ、蛇が出る事も鬼が出る事もないのだから。
どうやら彼方もこっちの視線に気づいたようで、刃物のような鋭い視線を向けて来る。目が合う寸前に目を逸らしたが、仮に逸らさなかったらどうなっていたのか気にならない訳でもない。
あの雰囲気を見るに、彼女も戦隊関係者なのだろう。
そうでなければ、余程熱狂的……いや、狂信的なファンでもない限り、戦隊に対する悪言に怒りを覚える理由がない。
それを察したのは神谷教諭も同じようで、上手く話題を切り替えた。
「現代社会では、国防を始めに医療や建築、司法関係など、様々な分野を戦隊が取り仕切っている。前に言った『戦隊至上主義』の賜物だ。同時に、これは戦隊以外のヒーローの存在の全てを否定する思想であり───」
神谷教諭は今までと変わらない無感情な声色で言う。
だが、その判断は正解だ。戦隊関係者がいる場所で、変な事を言ったらどうなるか分かったものじゃない。
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30 :迅
2022/05/05(木) 12:31:37
戦隊の情報共有率は無駄に高い。
かつて、ちょっとした一言が原因で戦隊総出で袋叩きにされた政治家を見た事がある。『戦隊至上主義』に一般人の人権など、あってないような物だ。
「さて、今日の授業はここまでだ。明日小テストをやる。各自、しっかり復習しておくように」
───ちゃんと宣言したぞ?
と言い残し、神谷教諭はパソコン片手に教室を出て行く。
斗真もいつも通り教室の外に目を向けると、こちらに向かって来る三つの足音を聞き取る。
その足音は、斗真の席の隣で止まった。
「……」
斗真は知らないフリをしたまま、窓の外を眺め続ける。
背後からタンタンと爪先で床を叩く音が聞こえるが、それもスルー。相手は、粗方予想出来ているからだ。
しかし、相手は一向に去ろうとしない。
耐久力の勝負なら負けるつもりはないが、クラスメイトの視線が集中するのは望ましくない。斗真は、ゆっくりと来訪者の方に身体を向けた。
相手は大猿のような巨漢と、細身の少年。
───そして、先程神谷教諭に鋭い視線を送っていた、黒髪の少女。
「……えーと、なんすか?」
ワザとらしさを隠さない第一声。
巨漢が掴み掛かろうとするが、それを制する黒髪の少女。
猛る巨漢を下がらせると、彼女は小さく微笑んだ。
「こうして話すのは、初めてですわね。私、虎洸メアリと言う者ですわ」
───以後、お見知り置きを
と、礼儀正しく挨拶する少女。護衛達は一言も発さないまま、手を後ろに組んでメアリの後ろに待機している。
斗真も柔かに挨拶を返すが、内心は穏やかではなかった。
「(思ったより、大物に話しかけられちまったな……)」
『虎洸』と言えば、武闘派戦隊の頂点と呼ばれる『神拳戦隊ゴウレンジャー』のリーダーを受け継いでいる家系だ。
となれば、目の前の彼女は勿論、背後に控えている二人も相当な手練れの可能性が高い。味方になってくれるなら頼もしいが、敵として対峙した場合は、厄介極まりない相手だ。
「お会い出来て光栄ですわ。緋月さま」
しかし、彼女は柔和な笑みを浮かべたまま、優しい声色で近づき、彼の耳元で思いもよらぬ言葉を囁いた。
「(貴方……仮面ライダーの息子、ですわよね?)」
「ッ!」
思わず目を見開き、メアリを睨み付ける斗真。
対する彼女は、してやったりと言いたげな表情を浮かべた。
「此処でお話になるのもどうかと思いますし、少し歩きませんこと?」
斗真は、彼女の指示に従う他無かった。
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31 :迅
2022/05/05(木) 20:21:17
院丁第二高校は、特殊災害避難所にも指定されており、あの夢の国と同等以上の敷地面積を誇る。故にコンビニなどもあり、その気になればここで暮らす事も可能だ。
その広大な敷地を移動する時間を配慮してか、ここの休み時間は少し多めに設けられている。(無論、その分授業時間も長めだが)
中でも、中庭は人気の休憩スポットだ。
「ん〜♪やっぱり、マスターの作るお弁当は美味しいですわ♪」
そう言って幸せそうにサンドイッチを食べるのは、先程知り合った正真正銘のお嬢様・虎洸メアリ。
「はい、あーん♪」
出逢って数分、何故か斗真は彼女に懐かれていた。
困惑の中、斗真の脳内に一つの言葉が過ぎる。
「(一体、どうしてこうなった……)」
事の始まりは、数分前に遡る───
「よう、虎洸」
「こんにちは、倉敷さま。今日も良いお日柄ですわね」
「メアリちゃーん!おっはー!」
「あらあら、こんにちは、桐崎さま」
隣を歩くのは、道行く人から挨拶を送られ、気を悪くしないどころか、柔和な笑みで丁寧に返すお嬢様。
精巧な笑顔を貼り付け、それを相手に悟られる事なく利用する。
良くも悪くも、筋金入りなのは確かだ。
そして、彼女ほどの有名人となれば、その所作の一つ一つや近くにいる人間一人ですら、噂話のネタになる。
「(虎洸さんの隣にいるのって誰?)」
「(護衛じゃね?)」
「(でもよ、護衛って確か、あのゴリラみてーな奴と、ヒョロヒョロな奴だったよな?)」
「(もしかして彼氏とか!?)」
「(ンな訳ねーって)」
彼女の後ろで、思い思いの事を言い合う生徒達。
普段なら聞くに堪えない戯言として聞き逃していただろうが、今は違う。何故なら───
「な、なぁ。どこまで行く気なんだ?」
隣を歩く少年・緋月斗真は、そっとメアリに問いかける。
彼は今、メアリと手を繋ぎ(正確には『繋がれて』が正しい表現だが)中庭に向かっている最中なのだ。
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32 :げらっち
2022/05/05(木) 20:55:58
江戸時代までに歴史がさかのぼるというのが本格的で面白い。
お嬢様などクラスメイトが増えてきてこれから楽しそうだ。
内容は良いのだが誤字が少々ッ
剥き的→無機的?
「投稿者パス」は校閲に活用してくれよな
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33 :迅
2022/05/05(木) 21:02:27
>>32
投稿者パス設定し忘れた場合ってどうすりゃ良い?
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34 :げらっち
2022/05/05(木) 21:15:27
えーと……
諦めてください(笑)
次からは設定するようにして
個々のレスで設定できるからね
誤字はこちらで直しとけばいい?
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35 :迅
2022/05/05(木) 21:37:02
ん、頼んます
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36 :迅
2022/05/06(金) 11:10:34
見ず知らずの他人ならどうでも良い。
だが、話題の中心になる事を極端に嫌う斗真にとって、この状況は恐ろしい程に好ましくない。
「(しかも、この女は『何故か』俺が仮面ライダーの息子だって事も知ってやがる……!)」
チームワークが重要視され、高い情報共有率を持つ戦隊とは違い、あくまでも個人活動である仮面ライダーの情報は、そう簡単に漏出する物ではない。
にも関わらずだ。
仮面ライダーどころか、むしろ敵対関係にある戦隊の娘である彼女はどう言う訳か知っている。
冗談と言えばそこまでだが、全く笑える冗談じゃない。
「さ、着きましたわ」
───どうぞお掛けになって?
と、メアリは中庭のベンチに座るよう促し、その愛らしい仕草に、不覚にも心臓がドキッとなるのを感じる。
斗真はなるべく上品に腰掛けようと心掛けるが、メアリはさも当然の如く上品に座って見せる。優雅さを感じさせながら、付け入る隙を見せない所作だった。
「さ、お昼にしましょうか」
彼女が指を鳴らすと、護衛二人がまるで分かっていたかのように、籠とティーセットを用意する。
こう言うのは、ドラマや小説の中だけではなかったのか。
「しっかし、お前も大変だな」
小鳥の囀りが心地よい昼下がり。
ベンチに座った斗真は、重い出したように言う。メアリは彼の言いたい事を察したのか、小さく微笑んだ。
「そんな事はございませんわ。相手が怪人以外であれば、誰であろうと分け隔てなく接する。それが、淑女としての礼儀でしてよ?」
「それが、仮面ライダーの息子だとしてもか?」
「勿論ですわ」
───それに、同業者と話すより、大分楽ですもの。
と、彼女は続ける。
その横顔は、まるで何かを嘆くような表情だった。
「……何か、悩みあるなら聞くぞ?」
「……私───」
刹那、中庭に響き渡る悲鳴と爆発音。
その轟音は、良い感じな雰囲気をぶち壊すには十分だった。
「今のは……!?」
斗真が立ち上がると同時に、袖を引っ張られる。目線の先には、小さく頷くメアリ。
彼女も、腹は決まっているらしい。
彼女は凛とした目を斗真に向け、力強い声で言う。
「行きましょう」
「言われなくてもッ」
悲鳴の出所は、おそらく校舎内。
メアリは護衛二人に素早く指示を出し、避難誘導と現場の偵察を任せる。
そして二人は、黒煙立ち昇る校舎に向かって走り出した。
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37 :迅
2022/05/06(金) 19:04:32
悲鳴と黒煙が上がってから数分後、斗真達は校舎へと入る。
校舎内は、怯える生徒達で溢れかえっていた。
「おい!早く逃げろよ!」
「みんな!指示に従って避難するんだ!」
「馬鹿野郎!そんな事言ってる場合か───ッ」
「先生はどこ行ったんだ!?」
「いいから、早く逃げるぞ!」
廊下に響き渡る、男女問わない様々な絶叫と悲鳴。
逃げ惑う生徒達の流れに逆らい、斗真とメアリの二人は現場に向かって廊下を走っていた。
「貴方、さっきロッカールームに行ってましたよね!あれは一体、どう言う意味ですの!?」
「ちょっとした野暮用だ!」
メアリからの言及を、斗真は軽く受け流す。
あそこに向かった理由はただ一つ。
彼の目的の物は、ロッカールームにあったからだ。
「……」
斗真は銀色の縁が光るアタッシュケースに目を向ける。
それは、戦隊が使用する持ち運び易いようにコンパクト化されたそれとは異なる、無骨ながらもシャープなデザインをした仮面ライダーが使う『変身アイテム』。
彼の持つアタッシュケースに、それが入っているのだ。
「兎に角!詳しい話は、現場に行きゃあ分かる!」
人の間を縫うように廊下を駆け抜け、とおまわりにはなるが、成るべく人通りの少ない場所を通っていく。
斗真の健脚を使えば、人混みを通るよりも時短になるからだ。
そして、教室の近くに差し掛かった瞬間───
「ぐあぁぁぁあぁあ!」
「ひぃぃぃぃっ!」
聞き覚えのある二つの悲鳴が、廊下に響き渡った。
「今の悲鳴は……!」
「村木さん!」
メアリは自身の部下の名を叫び、先を走っていた斗真が悲鳴の出所であるB組の扉を勢いに任せて蹴破り、突入する。
そして、教室の中に広がる光景は───────
「アハッ☆やっと来たァ♪」
まさしく、地獄絵図だった。
Episode3・見てて下さい、俺の『変身』(結)
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38 :迅
2022/05/07(土) 11:42:56
「遅いよぉ〜、待ちくたびれちゃったじゃん☆」
血に染まる教室、周囲に散乱した机や椅子。一昔前までは二次元の世界でしか見る事はなかったが、今となっては、もはや当たり前となった惨状。
視界の端に映るのは、教室の隅っこで縮こまって怯える少年と、脇腹を負傷したのか、左手で患部を抑える少年。
相手はパワードスーツらしき物を纏ってこそいるが、声と体付きから、ギリギリ女性と判断出来る。
だが、この惨状を引き起こしたのは、紛れもなく彼女だ。
「アンタ、一体何もんだ」
メアリは自然な動作で要救護者二名の側まで移動し、斗真は教卓に座って足をぶらぶらさせる女に問いかける。
しかし、彼女からの返答は言葉ではなく、冷たい視線だった。
「君ぃ、聞いて何に成るの?だって、君はもう死ぬんだよ?」
刹那、女の姿が霞の如く掻き消える。
まずい。
そう思った瞬間、凄まじい衝撃が斗真の側頭部に襲いかかった。
「ぐぅぅおッ!!?」
何だ?何を食らった!?
考えが追いつかないまま吹き飛ばされ、受け身を取る事もままならず、斗真は机を吹き飛ばしながら背後の壁に激突する。
激突の瞬間で口の中を切ったのだろう。
口の中にサビ臭い鉄の匂いが広がる。
「緋月さま!大丈夫ですの!?」
既にグロッキー状態の彼を気遣うように、駆け寄って来たメアリが肩を貸す。
対するパワードスーツの女は、まるで空間を飛び越えて来たかのような軽やかな動きで着地する。透明化か、単なる高速移動か。
しかし、戦隊はまだか?
そろそろ通報を受けてこちらに来ても良い筈だ。
「おい、お嬢。あの女相当ヤベーぞ……!」
斗真は口元の血を拭い、揺れる頭を左手で抑える。
強烈な一撃をモロに食らったせいで、未だに意識が漠然としない。
肝心のアタッシュケースは、蹴りを喰らった時に手放してしまった。
「おぉ〜、あれ食らって生きてるんだぁ。君、すごいね!」
「そりゃあ、どーも……!」
口だけの賛辞に、斗真は強がって見せる。
しかし、参った。
強がってみたは良いものの、全く勝機が見えない。
万事休す。
斗真たちは逃れられない死を覚悟した瞬間、校舎の外からけたたましく鳴るサイレンの音が聞こえて来た。
「「「「「!!」」」」」
全員の視線が外に釘付けにさせられる。
そして、サイレンは校門前で停止し、校庭から聴こえて来るは、マシンガンやカラビナを擦らせながらこちらに向かって来る複数の足音。
どうやら、対怪人犯罪の専門家・機動戦隊サイレンジャーが到着したらしい。
『犯人に告ぐ!破壊活動を辞め、直ちに投降せよ!投降を拒否した場合、実力行使に移らせて貰う!繰り返す!破壊活動を辞め、直ちに投降せよ!』
[
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39 :迅
2022/05/07(土) 13:29:38
メガホン片手に、こちらに向けて警察官が叫ぶ。
窓が全開だった事と、刑事の声が大きかった事が幸いし、その警告は二階にあるこの教室までスムーズに届いた。
足音はすぐそこまで迫っている。
フラッシュバンが投げ入れられる事を考慮して、直ぐにでもパワードスーツ女以外の三人を抱えて逃げ出すのが、今出来る最善策だろう。
脳の揺れも治って来た。
後は、タイミングを見計らうだけだ。
だが───
「ん〜、もしかして君たち、助かったと思ってる?」
その考えは、相手の一言によって打ち消された。
「どう言う事だ?」
「だからぁ〜、君たちはこれで助かったと思ってる?って聞いてるの〜」
女はフルフェイスヘルメットの奥から、間伸びしつつも透き通った声で、斗真の問いかけに答える。
今思えば、この女は余裕綽々とした態度でいる。
警察が来ているにも関わらず。
身構える斗真を尻目に、女は続けた。
「私の実力ならぁ、君たちを殺す事なんて造作も無いんだよねぇ。それにぃ、ケーサツの人たちが来てもぉ、逃げ切るまでに2〜30人くらいは殺せるかなぁ」
ヘルメットで表情こそ分からないが、その下ではニマニマと不敵な笑みを浮かべているのが裕に想像できる。
それくらい、目の前の怪人は余裕に満ち溢れていた。
「お前!僕にこんな事をして、タダで済むと思うなよ!?僕は天堂任三郎の息子だぞ!今から、ニッポンジャーを呼んでやる!覚悟しろよ!お前はもう死ぬんだ!」
そんな中、教室の隅で縮こまっていた少年・天堂誠が喚き出す。
さっきまでビビり散らしてた癖に、なぜ強気になれるのか。
だが、パワードスーツ女はその脅しに屈する事なく、それどころか、まるで誠を小馬鹿にするように首を傾げ、クスクスと小さく笑っていた。
「君、馬鹿だねぇ」
───君のパパが来るまで、待ってると思う?
パワードスーツ女の姿がまた消える。
誠は状況が理解出来ていないのか、「おい、勝手に動くんじゃねぇ!」だのと喚き続けている。
メアリは護衛の介抱に手一杯だ。このままでは、誠は死ぬ。
正直死んでくれた方が嬉しいが、それが原因でこの学校の信頼が落ちては、少し面倒な事になる。しかも、今殺されようとしているのは、ニッポンジャー司令の息子だ。
下手したら、この場に居合わせている斗真たちにも火の粉が飛んで来るかもしれない。
それだけは、絶対にごめんだ。
「んにゃろぉぉぉぉぉお!」
斗真は反射的に飛び出し、誠の眼前まで迫ったパワードスーツ女の身体にタックルをする。
硬質な装甲が生身とでは強度は全く違うが、彼女自身の体重はそれほどでもなかったのか、彼のタックルによって簡単に軌道を逸らし、掃除用具入れに激突する。
よし、力自体はこっちが上だ。
「この───ッ!」
「させるか!」
振り解こうとするパワードスーツ女の関節を絞り上げ、斗真は極技の状態に持ち込む。いくらパワードスーツの補助があっても、関節を固定されてはどうしようもない筈だ。
だが、この拘束もいつまで保つかは本人にも分からない。
故に、斗真はメアリに向かって叫んだ。
「お嬢!二人を連れて逃げろ!」
「で、でも緋月さまはどうするんですの!?」
「俺が逃げるまでの時間を稼ぐ!」
「でしたら私も───」
「邪魔だ!さっさと行けッ!」
「ッ!」
───死なないで下さいまし!
メアリは二人に肩を貸し、教室から出て行く。
同時に、パワードスーツ女は極技を無理矢理振り解くと、強化された脚力で斗真を蹴り飛ばす。
しかし、彼とて馬鹿ではない。
彼は蹴り飛ばされたと同時に前転して距離を取り、落ちていたアタッシュケースを手繰り寄せる。
そのまま鍵を開け、中に収められたベルトを取り出した。
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40 :迅
2022/05/07(土) 15:34:01
パワードスーツ女は立ち上がり、怒気を隠さない声で言う。
「友達逃して英雄気取りかな?」
「別に、そんな間柄でもねェよ」
「ふーん。じゃあ、犬死って感じかな?」
「そりゃあー、少し違うな」
「は?」
「お前を倒すのに、邪魔が居ない方が楽なだけだ」
────お前をぶっ倒すのに、全力が出せるからな。
そう言って、斗真は右手に持ったベルトを腰に巻き付ける。
そして、流れるような動作で右ポケットから小型のディスクを取り出し、両掌で押し込むようにバックル中央のスロットに装填。
右腕を左肩の方に構え、左手を腰骨の辺りに添える。
変身準備の完了を確認したベルトから、軽快なBGMと共に電子音声によるアナウンスが流れ始める。
『Stend by……Stend by……』
「変───身ッ!!」
『Up Date!』
教室内に吹き荒れる疾風。
遍く全てを平等に吹き飛ばす疾風は、やがて彼の下に収束して行き、黒を基調としたアンダースーツと、白を基調としたアーマーを形成して行く。
風によって形作られたヘルメットの複眼部分は、夜空を照らす月光のように淡く輝いた。
『Get To the Speed!Aiming for the Future!』
仮面ライダーブラスト。
戦隊が現れる前、この国を守り続けて来た疾風の戦士。
風が止み、変身を終えた斗真は叫ぶ。
「さぁ、白黒付けようぜッ」
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