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┗265.VigilanteーThe Masked Riderー(1-20/45)
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1 :迅
2022/04/10(日) 16:57:05
この街は、戦隊によって守られている
しかし、天下の戦隊でも、手の届かない場所はある
これは、戦隊が社会を守るようになったはるか前から、全世界を守っていた者の物語
その名も───
『仮面ライダー』
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2 :プロローグ・決別と決意
2022/04/10(日) 16:58:55
公園のど真ん中に倒れた、傷だらけの少年。
そして、少年の隣で啜り哭く少女。
人は生まれながらに平等だが、平等なのは生まれた時だけで、成長するにつれて個人差が如実に現れていく。
十歳の夏、俺はその現実を嫌と言うほど味合わされた。
「ごめ……なさい、ごめんなさい……」
意識が朦朧とする中、少女の謝る声だけが鮮明に響く。
事の発端は、公園を巡る言い争いだった。
最初に使っていたのは少女たちだったのだが、途中からやって来た別の少年たちが、少女たちを公園から追い出すような言動をした。
その横暴を、少年は見過ごす事が出来なかった。
───その結果が、このザマか。
しかし今思えば、過ぎた正義感だったと自分ですら思う。
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3 :プロローグ・決別と決意
2022/04/10(日) 16:59:56
相手はクラスのガキ大将で、一対一の殴り合いを申し込まれた。
少年はもちろん受けたし、なんなら一時は優勢だった。
しかし悲しいかな、旨い話には必ず裏がある。
『このまま行けば勝てる』。
そう確信して油断していたからこそ、背後から忍び寄って来る仲間の存在に気づく事が出来なかった。
『オラァッ!』
『な───ッ!?』
マズいと思った時には、既に手遅れだった。
背後から羽交締めにされ、動きを封じられた後は殴る蹴るのオンパレード。
口から血を吐こうが、顔面に痣が出来ようがお構いなしだった。
途中、少女の友人が助けを呼びに行ってくれた事もあって一命を取り留めたが、あのまま続けられていたら、正直どうなっていたかは分からない。
───力だ。力が、必要なんだ。
弱きを助け、悪を挫く。
空虚なうわ言を実現するには、力を得るしかない。
少年は、気持ち悪いほど晴れ渡った空に向かって弱々しく手を伸ばした。
そして、それから五年の時が経ち───
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4 :迅
2022/04/10(日) 17:02:25
目覚まし時計のアラームが鳴り響く。
春の朝日が、カーテンの隙間から部屋の中に差し込んで来る。
「くぁ……」
アラームを止めた青年は上半身を起こし、大きく伸びをする。隣では黒猫が気持ちよさそうに寝ており、起こさないように気をつけながらベッドから出る。
カーテンが閉まった部屋は薄暗く、差し込む陽光が青年の輪郭をぼんやりと映し出していた。
「斗真ー、ご飯出来たわよー」
暫くして、下から母の声がする。
おそらく、父もいるだろう。
青年はカーテンを開け、部屋の鏡の前に立つ。
あの日の翌日から、青年は筋トレを始めた。
腕からプチプチと嫌な音が鳴ろうと、脚が棒のように動かなくなろうと、二度と誰かを泣かせない為に、強くなる為に筋トレを断行した。
楽して力を得ることは出来ない。強くなるには、自分を極限まで追い込むしかないのだ。
その結果、中学校に上がる頃には、素手の殴り合いで勝てる奴はいなくなった。
「もう、五年か」
鏡の前で、青年は呟くように言う。
鍛えていた時期は長く感じて仕方なかったが、いざ過ぎると妙に短く感じる。
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5 :迅
2022/04/10(日) 17:03:19
「さてと、行きますか」
青年は扉を開け、部屋着のまま階段を降りていく。そしてリビングに入ると、弟と妹がテレビの画面をいつになく真剣に見詰めていた。
───アイツらがテレビを観るなんて珍しいな。
「なぁ、母さん。なんで日向と蓮はテレビに夢中なってんの?しかもニュースだし、なんか変なもんでも食わせた?」
「なんでって、子供達は戦隊が好きでしょ?」
「戦隊ねェ……」
母の言葉に納得し、椅子に座った青年は頬杖をついて外に目を向ける。
西暦二〇四一年、社会では『戦隊』と呼ばれる組織が国防や警察を担っている。
当然弟と妹は戦隊世代真っ盛りだし、熱中するのも別に解らなくはない。だが、青年───緋月斗真だけは、周囲と違かった。
なにせ、彼は戦隊があまり好きではない。
別にアンチとかそう言う訳ではないのだが、なんと言うか他人と協力するのが苦手な斗真にとって、戦隊の見事なチームプレーは目に痛い。
分かり易い話、ただの嫉妬だ。
自分には出来ない事が出来る者への、憐れな嫉妬。
だから、戦隊育成校への入学も断念したのだ。
「ごちそうさま、先部屋に戻ってる」
斗真は食器を下げて部屋に戻り、クローゼットを開ける
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6 :迅
2022/04/10(日) 17:05:25
中には、ハンガーにかけられた新品の学ランが吊るされていた。
「俺だって、今日から高校生だもんな」
誰もが一度は、戦隊への入隊を憧れるだろう。そして戦隊に憧れる者なら、当然国内最高峰の育成機関・戦隊学園への入学を目指す。
しかし、それでは周りと合わせてるだけで、何かが違う気がする。
───だって、俺はいつも、父の背中を追い続けて来たのだから。
「行ってきまーす!」
「はーい、いってらっしゃい」
「気をつけて行け」
「「いってらっしゃーい!」」
学ランに着替え、玄関を出た斗真は自転車に跨り、ペダルを漕ぎ出す。
自転車で片道約三十分程、斜面は険しいが桜並木が美しい峠道を越えたその先に、国立院丁学院は存在する。
「おはよー」
「おーっす」
「私、文学科に入学したんだ!よろしくね!」
「マジ!?ウチも文学科!よろしく!」
「(ここが院丁学院……)」
───今日から、俺が『正義』を執行する場所。
ここでは、一体どんな出逢いが待ち受けているのだろう。
高鳴る鼓動を抑え、斗真は院丁学院の門を潜った。
これは、『戦隊』の手が届かない弱者に手を差し伸べる、影の英雄《ヒーロー》の物語。
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8 :迅
2022/04/10(日) 18:23:33
ヒーローと言えば、みんなはやはり『戦隊』と言うだろうか。
『赤の日』以来、戦隊は他のヒーローたちの存在を排斥し続け、いつしか『戦隊以外のヒーローが存在しない国』を創り出した。日の丸戦隊ニッポンジャーを始め、多くの戦隊が他のヒーローの存在を否定した。
まるで、『お前らは戦隊の紛い物だ』とでも言いたいように。
もちろん、それで割を食らうのはその仕事で生計を立てていた者だ。
中には、テロリストに加担する者、平凡なサラリーマンとして……社会の潤滑油として生きる者、はたまた、周囲から差別の目を受けながらも戦隊に入隊し、ヒーローとしての新たな一歩を踏み出す者など、多岐に渡る。
そして、『赤の日』によってヒーローとしての存在意義を奪われた者の中には、俺の父も入っていた───
Episode1・相入れない二人
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9 :迅
2022/04/10(日) 20:27:54
「えーと、1組1組……」
青年・緋月斗真は、受験票を片手に自身が所属するクラスを探していた。
この院丁第二高校は成績だけで言えば極々平凡だが、全国的な数値で見るとかなり高い名門校とされている。
一体、どこがどう言う理由で名門扱いなのかは謎だが。
「おい」
すると、背後から声をかけられる。
声の方に振り向くと、黒縁眼鏡をかけた如何にも『私はエリートです』感が満載な男が立っていた。正直、この手の手合いに関わると碌なことが無いのは分かりきっている為、斗真は見なかったフリをして歩き出す。
が
「おい待て、この僕が声をかけてやったんだぞ?」
超上から目線な言葉と共に肩を掴まれ、強制的に振り向かされる。
お?何だ喧嘩か?喧嘩なら買うぞコラ。
しかし、人が多いこの場所で騒ぎを起こそうものなら、確実に生徒指導室と言う名の地獄へゴートゥーヘルされる。
入学初日に生徒指導部に行こうものなら、確実に全校生徒からの笑い者にされる。間違いなくされる。
それだけは絶対に避けたい。
「はぁーーーーー……朝っぱらからなんすか?」
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10 :迅
2022/04/10(日) 20:29:03
普通の相手ならこれで折れるかキレるかのどちらかだが、男は余裕そうな笑みを浮かべると、フフンと得意げに鼻を鳴らした。
「お前は運が良い。何せ、かの天堂任三郎の息子こと、この僕、天堂誠に声をかけられたんだからな」
男が名乗った途端、周囲の目線が集中する。
そして「天堂任三郎って、あのニッポンジャーの?」「マジかよ本物のエリートじゃん」「仲良くなったら紹介して貰えるかな?」など、ギャラリーがざわめき始める。
しかし、当の本人は眼鏡をクイっと上げて言った。
「周りのクズどもの言葉は気にするな。君は、僕の言葉に耳を傾けていれば良い」
「あ?」
瞬間、斗真の体から怒気が噴き出す。
この世で最も聴きたくない名前を出された挙句、その最も嫌いな男の息子の言葉にだけ耳を傾けていろだと?
冗談じゃない。
それに、先ほどのクズ発言も見逃せない。
「まぁ、これから仲良くしようじゃないか」
だが、誠はどこ吹く風と言わんばかりに手を差し出す。
「そう言えば、まだ聞いてなかったね?君の名前───」
「悪いけど、自慢したいならオーディエンスの奴にすればいい。俺は、お前みたいな七光のボンボンじゃないんでね」
斗真は誠の言葉を遮ると、侮蔑の言葉をプレゼントして歩き出す。
そして斗真の言葉が効いたのか、誠は声を荒げて叫んだ。
「こちらが下から出てやれば……!調子に乗るなよクズが!お前の顔は覚えたぞ!父さんに言い付けてやるからな!おい!聞いてるのか!この僕を馬鹿にした事、後悔させてやるからな!!」
まさに、虎の威を借るなんとやら。
───しかし、初日から面倒な奴に絡まれたな。
斗真は、本日二度目のため息をついた。
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11 :迅
2022/04/10(日) 20:52:36
教室に入ると、彼は早速孤立した。
元より人付き合いが下手なのもあるが、中学校時代は殆ど同級生と絡まなかった事が起因して、何を話せばいいのかが分からないのだ。
窓側の席だから良かったが、もし廊下側の席だったらと考えるとゾッとする。
前や隣の席に人間は座っておらず、早速出来た新しい友人の下で談笑している。
どうしよう、本気で帰りたい。
斗真は頬杖をつき、窓の外をぼんやりと眺める。
活気に満ちた大通りでは、若者や戦隊が路上パフォーマンスを行っており、もはや軽いお祭りと化していた。
「くだらねぇ……」
無意識的に、否定的な言葉がこぼれ落ちる。
彼が変わったのは、あの『赤の日』が原因と言っても過言ではない。父は職を失い、戦隊以外のヒーローは『紛い物』として差別されるようになり、国防や医療と言った、様々な分野にも戦隊がのさばるようになった。
かつてはヒーローだった父も、今ではしがない中間管理職。
いや、中間管理職でも十分な立場ではあるが。
ただ、それを抜きにしても、斗真は元から戦隊が好きではない。
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12 :迅
2022/04/10(日) 21:39:12
かつて参加していたコミュニティでは、彼だけが戦隊以外のヒーローを好んでいたせいで、疎まれていたくらいだ。
それに、先ほどの天堂誠と言い、コミュニティの先輩と言い、なぜ戦隊に関する者はこうも戦隊至上主義なのだろうか。
だからネットのサジェストには『戦隊ファン DQN』だの『戦隊ファン めんどくさい』だの身も蓋もない事を書かれるのだ。
尤も、戦隊全盛の世の中にも関わらず、一定の否定派がいる事に当時は驚いたが。
「ま、それでも戦隊ファンが大多数だろうけどな」
「君、戦隊が嫌いなの?」
「うぉっ!?」
突然の問いに、柄にもなく素っ頓狂ない声を上げる斗真。
声の主は、隣の席に座る色白の少女。
そして一瞬、その少女の顔に夥しい数の傷跡が見えた。
「(今のは……!?)」
「答えてよ。君、戦隊嫌い?」
少女は小首を傾げ、再び問いかける。
なんと言うか、掴みどころのない不思議な少女だ。
「好きか嫌いかで言えば、嫌いだな」
頭を掻きながら、斗真は答える。
こう問いかけて来るのなら、おそらく戦隊のファンなのだろう。好きと答えてやっても良かったが、嘘だと見抜かれる可能性も、ゼロとは言い切れない。
だったら、最初から本心を言った方がいい。
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13 :迅
2022/04/10(日) 22:13:56
だったら、最初から本心を言った方がいい。
「君は、戦隊が好きなの?」
「好きも何も、私前まで戦隊やってたし」
「マジかよ……」
衝撃の事実だ。
まさか女子高生が戦隊の元メンバーだったとは。
「でも、今は正直分からない」
少女は続ける。
彼女曰く、当時は戦隊のエースとして、日々悪の組織と戦って来たが、途中から何の為に戦っているのか分からなくなってきたと言う。
───そう言えば、父も似たような事を言っていたか。
「CGRって知ってる?私がいた戦隊なんだけど」
「CGRゥ?」
聞いた事がない。マイナーな戦隊なのだろうか?
「メンバーがすごくてね、殆どが小中学生だったんだ」
「なぁ、それコンプライアンス的に大丈夫なのかッ?」
思わず反射的にツッコミを入れる。
これは偏見かも知れないが、戦隊メンバーの年齢層は、20代や30代───若くても大学生くらいだと思っていた。
まさか、小中学生でも戦隊になれたとは。
一人で感心する斗真を横目に、少女は続ける。
「でも、解散しちゃったんだ。……いや、私が逃げ出した。怖かったんだ。自分を、見失いそうで」
「……なんか、ごめん」
「いいよ、謝らなくて。それに、みんなも元気にやってるだろうしさ」
少女はそっと目を伏せると、静かに微笑む。
「自己紹介、まだだったね。私はルル。君は?」
「緋月斗真。ルル……だっけ?苗字は?」
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14 :迅
2022/04/11(月) 08:10:47
「私、親は居ないようなものだから」
「お、おう」
再び知った衝撃の事実に、斗真は動揺を隠しながら相槌を打つ。
何となく、この少女とは仲良く出来そうだ。
「おーし、授業始めるぞー」
程なくして、担任の教師と思われる男性が入って来る。
眼鏡をかけた、無精髭を生やした30代程の色男……と言ったところだろうか。男は教卓に出席簿を置くと、片手をついてやる気なさそうにクラスを見渡す。
「あー、俺がお前らの担任を務める神谷だ。最低限のマナーさえ守れば、何しても構わん」
やる気なさげに自己紹介を済ませ、「次はお前らの自己紹介な」と告げる。出席番号一番は、言わずもがな斗真だった。
自己紹介とは、コミュ障にとってトップクラスの難題である。
だが、流石に時間が押しているので、斗真は渋々教団の上に上がる。
「あー……なんだ、春賢中学校出身の緋月斗真っす。中学ん時はボクシングのライト級チャンプやってました」
クラスメイトからの「おぉー」と言う声。
『チャンピオン』と言う安直な響きに感心したのだろうが、そこはどうだっていい。しかし、斗真も舌が回ってきたのか、趣味や苦手な事などを話した。
「あとは親が───」
そこまで言った辺りで、斗真はハッとする。
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15 :迅
2022/04/11(月) 19:14:08
しまった、調子に乗って話し過ぎた。
しかしクラスメイトたちは、期待の眼差しで斗真を見ている。
歯切れが悪くなった事に違和感を感じたのか、神谷が助け舟を出してくれた。
「言いたくない事なら、無理に言わなくてもいいぞ」
「あはは……そう、ですよね。兎に角、ヨロシク」
神谷教諭の質問に首を振ると、適当に挨拶を済ませて逃げるように自分の席に戻る。下手すると、『ボクシングの人』で覚えられたかも知れない。
後悔先に立たずと言う諺があるとは言え、良い自己紹介とはお世辞にも言えなかったと後悔する。
こうしている内にも、後続に控えるクラスメイトの自己紹介は進んでいく。
あのまま行けば、『親は仮面ライダーでした』と言っていた。
勿論、良い目で見られるわけがない。
仮面ライダーは、『赤の日』の被害を一番大きく受けたヒーローだ。人知れず街を守る、今で言う『戦隊』が担う役割を、彼らは一人で行っていた。
警察や消防隊という公的な組織よりは、火消しや自警団に近いが、それでも人々は、『赤の日』の前日まで彼らを頼っていたのは事実だ。
だが、『赤の日』以来、最も疎まれるようになったヒーローも、他でもない仮面ライダーだ。
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16 :迅
2022/04/13(水) 20:48:35
ただでさえ、天堂誠とかいう戦隊至上主義の最右翼とも言える男もいるのだ。
絶対に、知られる訳にはいかない。
「さて、ご存知の通り現代の社会情勢は、日の丸戦隊ニッポンジャーを始めとした、戦隊至上主義社会だ」
自己紹介が終わったのか、神谷の気だるげな説明が始まる。
「もちろん、お前らの中には戦隊志望のやつも何人かいるだろう。だが、かつてこの国を守っていたヒーローは、誰か分かるか?」
神谷は斗真をチラッと見た後、クラス全体に目を向ける。
───まさか、バレたのか?
「(いや、そんな事はないはずだ……)」
父が仮面ライダーだった事は、ここにいる誰にも明かしていない。
担任からも、「推薦状に父がライダーである事は書いていない」と言われている。少なくとも、彼の素性を一切知らない神谷が察するのは、限りなく不可能だ。
斗真を他所に、神谷は続ける。
かつて、戦隊がこの国の防衛を始めるずっと前、彼らに変わり人知れず国を守っていたヒーローがいた。
その名は───
「『仮面ライダー』だ」
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17 :迅
2022/04/16(土) 08:29:32
「なぁ、先生よ。何で、仮面ライダーの名前を出した?」
放課後、夕焼けに染まる教室で、斗真は神谷教諭に問う。
戦隊至上主義の現代社会では、他のヒーローの名前を出せば罰則の対象になる。例え歴史担当の教師とはいえ、逮捕されるような真似は出来る限り避けたいはずだ。
「そうだな。強いて言うなら、仮面ライダーの息子がいたからか?」
───不自然なタイミングで言葉を切らせるもんだから、もしかしたらと思ってな。
と、神谷教諭は書類を整理しながら言う。
何と言う慧眼、察しが良いとかそう言うレベルではない。
あの数分に満たない自己紹介の───あの言葉を途切らせたタイミングだけで、ここまで見抜けるとは。この男の前では、嘘はつかない方が良さそうだ。
「でも、他のヒーローの名前を出すのは、罰則対象だろ?」
「生徒に社会の歴史を教えるのが、俺の役目なんでな」
「アンタ、結構熱血なんだな」
「……そう言う顔に見えるか?」
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18 :迅
2022/04/16(土) 17:22:57
「いいや?全然」
「なら言うなよ……」
などと軽口を交わしながら、二人は会話を続ける。
その中で、神谷教諭は色々な事を教えてくれた。
仮面ライダーに助けられた事、実は戦隊が嫌いな事、母親が戦隊崩れの犯罪者に殺された事など、大っぴらには言えないような事を、腹を割って言ってくれた。
「もう話したろ。さっさと帰って寝ろ」
「おいおい、まだ5時だぜ?」
「良い子は帰る時間だろうが」
「じゃあ、俺は悪い子だな」
斗真はニヤリと笑い、踵を返して教室を後にする。
渡り廊下を通り、階段を降りて昇降口に向かう。
上履きから靴に履き替え、玄関を出る。
そして、人通りもまばらになった大通りで、斗真は徐に止まり、背後を見ずに問いかけた。
「なぁ、気付かないと思ったか?悪い事は言わねェー。さっさと出てきな」
すると、舌打ちと共に複数の足音。
なるほど、大勢で尾行していたらしい。狡い連中だ。
数人の男が斗真を囲むと、リーダー格と思しき男が現れた。
「よぉ、クズ」
その男は、天堂誠。
彼の顔は、怒りで真っ赤に染まっていた。
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19 :迅
2022/04/16(土) 17:43:11
「今朝は、よくもこの僕を馬鹿にしてくれたなぁ……」
震える声で、今にも爆発してしまいそうな怒りを押し殺しながら、誠は呪詛を吐く。
「何だお前か。声も掛けずに付いてくるとは、随分と良い度胸してるじゃあねーか。もしかして、俺に惚れたか?」
しかし、斗真は気にした様子もなく煽る。
奴の目的は、おそらく昼間の仕返しだろう。
「ちゃんと自慢のパパに紹介してくれたか?『我儘で高慢ちきな僕に説教してくれた良い友達が出来た』って」
「そう余裕ぶってられるのも今のうちだ。お前は今から、死ぬんだからな!やれ!お前ら!」
誠の叫びを合図に、四方八方から男が殴りかかってくる。
あの七光の取り巻きともなれば、多少なりとも格闘術の訓練は受けているだろう。おそらく、次世代のニッポンジャーの候補もいるのかも知れない。
一般人なら、死ぬ危険性があるのを理解しているのだろうか。
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20 :迅
2022/04/16(土) 17:43:49
尤も、斗真には関係ない話だが。
「情けねぇなぁ。大の大人が高校生を集団リンチとか」
斗真はスマホをいじりながら、男たちが繰り出す拳や蹴りを風に飛ばされたハンカチのように避けていく。
軌道の分かりきったテレフォンパンチなど、目を瞑っていても避けられる。
斗真は反撃の合図として、間合いに入り込んだ男の顎を蹴り上げた。
「さぁ、俺もアゲてくぜ」
そこからは、一方的な蹂躙だった。
男たちは病葉の如く吹き飛ばされ、地面に、壁に打ちつけられる。土埃が晴れる頃には、服についた埃を払う斗真と、顔面蒼白の誠の二人が残っていた。
「う、嘘だろ……?僕の部下が、一瞬で……?お、お前!こんなことしてタダで済むと思うなよッ。ぼ、僕がパパに言えば、お前なんか家族ごと路頭に迷わせる事だって───」
などと、誠は訳の分からないことを喚き散らす。
このボンボンは、こんな状況になってもなお、誰かが守ってくれると思っているのだろうか。
どこまでも───救えない。
「おい」
「ヒィッ!」
斗真は一声で誠を黙らせ、その胸ぐらを掴み上げる。
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