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168 :92
2023/02/26(日) 19:29:28
よかったー。(´∀`*)ホッ
私も短編ぐらいかくか。
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169 :ダーク・ナイト
2023/02/26(日) 19:33:49
ラピスさんのノベルアップを参考にさせていただきました。
勉強になりました。
ありがとうございますm(_ _)m
さっそく「悲しみの花束」に取り入れます。
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170 :てふてふ
2023/03/21(火) 18:23:13
そろそろ短編を書くとするかφ(-ω-。`)
リンゴおいしい
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171 :げらっち
2023/03/21(火) 19:13:52
しんでふですか?(心中)
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172 :げらっち
2023/08/21(月) 14:41:06
・・・執筆中・・・?
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173 :げらっち
2023/08/27(日) 00:00:39
夏にぴったりのホラー短編!
『残ってしまった物』
遠い夏の思い出。
俺のクラスに令(れい)が転校してきた時、俺に初めての友達ができた。俺達はすぐに打ち解け、親友になった。2人で毎日遊んだ。令は毎日学校に来るのが楽しいって言ってた。
それなのに、さ。
令は呆気なく死んじゃった。登校中に、石垣が倒れてきて、頭に当たって。病院に運ばれたけど、殆ど即死だったって。
その日は俺、日直当番で早く登校してたんだけど、いつもみたいに一緒に登校してたら令のこと守れたんじゃないかって思って、すごく悔しかった。
人はすごく簡単に死んでしまうんだなあと思った。
大事な、大切な、唯一の友達。消えてしまって、俺はもう、友達なんか、欲しくない。
1週間くらい経って、クラスでは噂が流れていた。令の両親が、危険な石垣を撤去しなかった市に対し裁判を起こすという噂だ。
俺はそんな話は聞きたくなかった。何をどうしようと令は戻らない。喪失感だけが俺の中にあった。
自分の席で俯いていると、イトウさんが俺に話し掛けてきた。
「汚い話って、思うよね?」
イトウさんはいつも1人で居て、周りに壁を作っている感じがする不思議な女子だった。
俺はそんなイトウさんから、初めて話し掛けられて、戸惑った。それだけでなく、イトウさんが俺の心を読んだような気がして、怖かった。
「でもね、令君の御両親は、何かを恨みたいの。何かを憎しみたいの。それがあの方たちの一時の生き甲斐になるの。すぐにそれは消えてしまって、喪失感だけが残るけど。それがわかっていても気を紛らわしたいんだよ」
「それが何だよ」
俺はまた俯いた。
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174 :げらっち
2023/08/27(日) 00:01:50
忘れもしない。
茹るような暑い日。俺は学校に遅刻しそうになって、急いでた。表から入ると先生に見つかって怒られるから、裏の階段からこっそり上がって教室までショートカットしようと思った。これなら出席を取り始める前にギリで教室に着くかもしれない。よく使う手だ。
裏の階段はひっそりしていてひとけが無い。ダッシュで上がろうとしたその時、人影が目に入った。
階段の中腹に座って、うずくまっている。顔は見えないが、間違えるわけない。
令だ。
一瞬、普通に声を掛けそうになった。でもすぐに気付いた。
令は死んだ。
身震いして、全身を冷たい血が駆け巡った。鳥肌が立ち毛が逆立った。心臓がすごい速度で脈打っている。
幽霊だ。
どうしよう。
麻痺した頭脳でも考え続けることができたのは、遅刻して先生に怒られるのは嫌だという、平凡な事だけだった。俺は止めていた足を動かし、令の隣を横切って、階段を上がろうとした。
すれ違いざまに、俺は令を見てしまった。まずかった。令は顔を上げて俺を見た。目が合った。令が何か言おうとした。やばい。俺は無我夢中で足を回転させ、階段を駆け上った。意識が無くなるくらい走った。次の瞬間、教室に着いていた。遅刻していた。先生に怒られた。
1・2時間目のことはよく覚えていないが、時折背後から視線を感じては、振り向いていた。
30分休みになった。
裏の階段には、絶対行ってはいけないような気がした。
でも気になるのは、令が何か言いかけていたことだ。令は何かを訴えたかったのかもしれない。令は俺の親友で、俺は令の親友だ。俺に伝えたかったことを、無視するわけにはいかない。
俺は恐る恐る、裏の階段に向かった。
その時、俺にとって都合の良い様な考えも浮かんでいた。もしかして、あれは急いでいた俺の見間違いだったのかもしれない、と。夏の揺らめきの生み出した、幻だったのではないかと。
令はまだそこに居た。
先程そうしていたように、うずくまっている。
その姿を見た瞬間、心臓の鼓動が早くなった。やはり見間違いなんかでは無かった。
俺はすうっと息を吸うと、それでも落ち着かない胸の高鳴りを隠すこともできないまま、階段を降りて行き、令と同じ段までくると、話し掛けた。
「よぉ、令」
馬鹿げている、そんな言葉が、俺の頭をよぎった。
それでも令は、顔を上げて、俺を見て、答えた。
「カンタ」
令は俺の名を呼んだ。
令は、生きていた時のそのままの姿だった。足もあれば、服も着ている。大事に飼っていた金魚が死んでしまった朝のような、落ち込んだみたいな顔して、そこに居て、そして言った。
「どうしよう」
俺は心臓をバクバクさせながら、次の言葉を待った。
「僕の席が無いよ」
一瞬、何のことかと思ったが、すぐにわかった。
教室の机は、令の分は片付けられてしまったのだ。令の席は、もう無いのだ。
俺は言った。
「だってお前、死んだじゃん」
令の目が、天を仰いだ。そして言った。
「あ、そっか」
そして令は消えた。
俺は叫び出しそうになった。
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175 :げらっち
2023/08/27(日) 00:02:59
こんなことは、誰に言っても信じてもらえまい。
それでもそのことを彼女に話していたのは、彼女ならわかってくれる、そんな気がしたからだ。
「ふうん、カンタ君。令君に会ったんだ」
イトウさんは、さも当然の事のように言った。
「信じなくても良いよ。写真も無いし」
「写真なんて撮っても、映らなかったと思うよ」
イトウさんは席に座ったまま、俺の顔を見上げた。
「臨死体験って知ってる?」
「あ? 知ってるよ、仮死状態になった人が生き返るって体験だろ? その間、魂は肉体を抜け出して、周りで起こってることとかを、知ることができるって。夢みたいなもんだろうが」
「魂なんて、古風な言い方。私は意識って言ってるよ。その方が適切だからね。死んだ瞬間、意識は体を脱出する。それは夢なんかじゃない。先天盲の臨死体験者は、その瞬間にのみ、視力という物を獲得し、世界を見ることができた。これは夢や空想では説明が付かないよね?」
別に臨死体験の説明など聞きたくもない。
「知るか。臨死体験した人は居ても、完全に死んだ人に、死後の世界を聞く事はできないだろ」
「臨死体験も、本当の死も、本質は同じだよ。死ぬ期間が短いか、永遠かの違いだけだ」
小柄なイトウさんは、すっと立ち上がった。
「彷徨っていた意識が、生前仲の良かった人や、関係の深かった人の、意識に引っ掛かり、対話をするってことは、珍しい事じゃない。カンタ君は令君と一番仲が良かったから、令君の意識がそこに居る事に気付いた。意識でキャッチしたものを、脳が、目が、補足したから、身体もそこに居るように見えたんだ。本当はもう存在しない身体を、或いはその服装も、見ることができたんだ」
イトウさんは、熱っぽく語っていた。こんな彼女の姿は見たことが無い。ある種、楽しそうに、彼女は語るのだ。
俺は少し戸惑ったが、冷静に彼女の言葉を飲み込んだ。
「俺が見たのは令の意識だった、と言いたいのか?」
「物分かりが良いね。消えることができて良かったよ。淡々と対応したのが良かったんだね。もし中途半端に同情なんかしてたら、ずっと付きまとわれることになったかもね」
ずっと付きまとわれる。それを考えると、少し嫌な気持ちになる。
「そんなことになったらカンタ君も嫌だろうけど、令君はもっと、気の毒だからね?」
「どういう事だ?」
イトウさんは眉間にしわを寄せてニヤリと笑うと、「物分かりが悪いね」と言った。
「命が死んだとき、意識も消えられるように、未練の無い生き方をしないとね。それでも、もしも、意識が残ってしまったら、誰かに見つけて貰って、消える手助けをして貰えるように、しないとね。だから令君にはカンタ君が居て本当に良かった」
その時の俺には、まだ、彼女の言葉の意味がわからなかった。
今考えれば、簡単なことだ。彼女は忠告してくれていたんだ。
あの夏から何年が経ったろうか。
何十年、いや、何百年という単位かも知れないが、あの夏の記憶だけは鮮明に残っている。
彼女がにっこり笑って、言ったことは、ずっと俺の中にある。
俺は今も消えずに残って居る。
「命を無くして、身体を無くして、でも、意識だけは消えないで、残ってしまったら。誰にも見つけられないで、ずっとずっと、彷徨うことになってしまったら。それはすごく、寂しくて、悲しい事じゃない?」
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176 :ベリー
2023/09/01(金) 00:55:14
【絞めて抱くのが快楽の骨頂であった】
潮風がねっとりと耳の付け根に絡みついた。嫌な顔するにも値しない不快感を、少女はわざわざかき上げる。真っ黒な髪がゆらゆらと、不格好に目の前の波を宙で真似た。
そんな些細な事にも怒り、癇癪を起こすぐらい少女の気は短い。しかし今回だけは大人しく、黙って遠くを見ていた。
夕暮れ時の浜辺。と聞くと、綺麗な黄金色の海と空を浮かべる。少女の頭上を覆う空は、想像通りの色をした空が囲っている。しかし海は思った以上に暗かった。黒か青か見分けがつかない海に、太陽から漏れ出た黄金色が微かに溶けている。それでも、十分綺麗だ。
ざぱん、ざぱんと音が鳴る。水が打ち上げられた音、水風船が割れたみたいな音、砂に擦られた海の悲鳴の残滓の音、豪華メンツが奏でる不揃いの波の音が、なんともまあ心地よい。
黄金色はあるくせに、黄金比を美しく思う心が無い自然が生み出した不揃いの景色は、なぜこうも美しいのだろうか。ノスタルジックな気分の少女は思うが、別に思う事があったから、風情な考えは波と一緒に消えてしまった。
「アキ」
たった二文字が少女の夢想を切り裂く。聞き覚えがある、なんて思考すらしないでもアキと呼ばれた少女は振り向いて言う。
「トミ。何でここにいんの」
トミと呼ばれた青年は、ばぁ、なんて両手を広げておどけてみせる。
徒桜 秋。それが少女の名で、青年は同じ苗字に富をつけて、徒桜 富だ。
ふさふさと、砂を押し潰してトミはアキの元へ歩いてきた。
「美人が黄昏てたから、なんぱ?」
「兄弟にそういうのキツイ。私、もう十七なんだけど」
「あは、僕も十七〜」
ウザイ。浸っていた所を邪魔されたこともあり、アキはチッと大袈裟な舌打ちを噛ます。
いつもの事だと、トミはそれを澄した顔でサラリと流した。
「そろそろ晩飯の時間だよ」
「お夕ご飯……。要らない」
「トミちゃんが腕を奮った料理は例え毒入りでもチョーウルトラスーパーハイパー美味しいよ? マジで要らんの?」
「だから嫌なの」
「そんなこと言わないで。ホラ、晟大も地獄で泣いてるよ?」
勝手に人の親を地獄送りにしないで。なんてツッコむ気力も失せた。アキははぁ、と大袈裟にため息をつく。
先日、アキは父親を失った。トラックに跳ねられそうになったアキを庇い、父親はその場で息を引き取った。
徒桜家は母親がおらず、父親とトミとアキの三人暮らしだった。それが急に、トミとアキの二人暮しに変わったのだ。様子を見にやってくる親戚の大人達は、誰が引き取るかとか家庭裁判所がどうかとか、息が詰まりそうな空気で話をするものだから、アキには窮屈だった。
それも、今日海に来た理由の一つかもしれないな、とアキはぼんやり考える。
「てか、なんで海に来たん? 海なんて通学路で毎日嫌ってぐらい見るのに、わざわざ砂浜まで降りてきちゃってさ」
アキにとってプチタイムリーな質問がトミの口から放たれた。
遠くの世界に、アキは思いを馳せる。そこは今と同じ浜辺で、でも今と同じとは思えない場所だった。砂の山を作る黒髪の少女と、呆れ笑いながら、その山を城に作り替える父親が居る。
遠い昔の記憶に思いを馳せるとき、自分の記憶の筈なのに、別世界を第三者として覗いているような、不思議で儚い感覚をいつも覚える。
「ここ。幼い頃、親父と遊んだ場所、だから」
アキの父親と母親はアキが幼い頃に離婚している。この記憶はきっと、二人が離婚する前の記憶だ。
お夕ご飯の準備をする母親に手を振り、海へ走る自分と父親の様子がアキの脳裏を過ぎる。
そこに、徒桜 富は居ない。
それもそうだろう。トミは二人の離婚後、アキが母方の元にいる間、父親が養子として迎えた子なのだから。
アキが小学生の頃。母親が病気で亡くなって、アキは父親に引き取られた。その時、アキとトミは初めて出会った。血の繋がらない兄弟なのだ。
ふぅん。と、トミは上の空で返事をする。
自分が入る隙もない思い出に潰されそうになるこの感覚には、もう慣れたつもりだから。
気まずくなった訳でもそういう決まりがあった訳でも無いのに、二人は黙って同じ場所を眺める。
太陽が海に溶け始めた。水平線は金色に縁取られ、遠くへ続く黄金色の橋が海にかけられる。波の音はもう、意識に入り込むことすらできないBGMと化す。
無音と表現してしまうぐらい静かな砂浜で、トミは潮風をたらふく肺に送り込んだ。
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177 :ベリー
2023/09/01(金) 00:55:44
さっきまで親戚と大事な話をしていたトミにとって、この静けさは染みた。疲れ果てた心にも、えぐり取られた傷口にも。
彼らの話だと、我も我もとアキの里親に名を挙げる者は多くいるが、トミの里親には誰も立候補していないそうだ。それどころか、トミは施設に預けるという話が今のところ一番の案だそう。
どちらにしろ、アキとトミは離れ離れだ。
養子だから。たったそれだけの理由は、ここまでついてまわるものだっただろうか。まるで他人事のようにトミは透明な声を海に落とし入れた。
ボチャン、なんて音は鳴らない。だって心の言葉だもの。その代わり──
「うわぁっ──!」
ぱしゃん! 水が物質を拒絶して、受け入れた音が飛び散る。それと重なったのはアキの驚嘆。
突き飛ばされたアキの右半身が海に浸かる。タイミング悪く波もやってきて、アキの口内に塩水が入り込んだ。しょっぱい。
咳をしながら体勢を整えて、アキは頭上の人物に叫びをぶつける。
「何!」
彼女の怒りはトミの悪感情宛ではなく、常日頃からふざけているトミ自身にぶつけたものだと、トミは分かってしまう。
「クソッタレが」
言語化できない感情をトミは雑にまとめる。体を起こそうと動くアキの顔面に膝蹴りを食らわせてやり、勢いそのままにトミはアキに馬乗りになった。
「むぎゅ、ぷはっ」
アキの顔が海に浸かる。もちろんそのままでは息ができないため起き上がる。と、こちらを見下してくるトミと目が合った。
「──なんのつもり?」
なんだろう。トミ自身にも分からない。湧き出る憎悪そのままに動いたのだろうか。いや、この憎悪はそこまで大きくない。
他の感情に操られて押し倒したのだろうか。憎悪と溶け合った、言い表しがたい感情に。
いや、ただ単に自暴自棄になっただけか。だって、これからやろうとしている事が成功した後なんて、頭にないんだもの。
トミは、そこで思考を止めた。
「なんだと思う? 正解したらトミポイント三つ贈呈」
「──いらない」
チカチカ点滅する世界にいることを悟られぬよう、アキは平気なフリをして顔を拭う。それが妙にヌメってて、アキは拭った手に視線を移した。赤い爪痕が残っていた。赤い水がサラリと手首に樹形図を作る。
鼻血だ。顔全体に残る痛みを堪えるだけでいっぱいいっぱいなアキへ、更に血が出たという事実が追い打ちをかける。
涙。出るな。ここで泣いたらトミの思い通りになってしまう気がするのだ。アキは歯を食いしばってトミをキッと睨む。
犬の様にパッチリした目がつり上がった。腕も足も首も細い癖に。腰なんてトミがこのまま倒れ込んだら折れてしまいそうだ。弱っちい体なのに、一丁前に反抗心をむき出しにするアキが愛おしくも腹立たしい。そう思うトミの口から、
「あぁ──」
と唸り声が漏れ出てしまって、「そう」と慌てて返事に変える。
トミは傾きそうな感情のバケツを必死に支える。けれど少しでも傾いてしまったバケツは、止められなかった。
「そぉーやって、何でもかんでもイヤイヤ言ってたら済むとでも思ってるのか」
「え」
ざぱん。大きな波音がアキの言葉をかき消した。いつも飄々としているトミから嫌味が出てくる事なんてない。それなのにと、アキはフリーズする。
「あー、心当たり無い感じ? あーはいはいそういうパターンね、はいはいはい。分かってるけど」
もう五年近くは同じ屋根の下で一緒にいるのだ。アキがイヤイヤしか言わない我儘娘ではないことぐらい、トミも分かっている。常に人を見下す立場に居ると思いやがっている傲慢娘であることも、トミは分かっている。
それでもでっち上げた嫌味を吐いて悦に浸りたかったのだから、僕は悪くない。トミはそう、無理のある自己完結をした。
「ねぇ。初めて会った時。君、僕に何言ったか覚えてる?」
「急に何。トミが何をしたいのか分からないのだけれどっ」
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178 :ベリー
2023/09/01(金) 00:56:08
本当は分かってるんじゃないか? 僕がアキを知るように、アキも僕を知っているんじゃないのか? その問いかけは今必要ないと、トミはゴクンと飲み込む。
「『親から捨てられた汚い奴と、それに汚染された家で一緒に暮らしたくない』だよ」
「なんで一字一句完璧に覚えてるわけ。気色が悪い」
「お褒めに預かり光栄だ」
ついに今度の波で、制服のスカートがべっとりと太ももに張り付いて、トミは不快感を覚える。でも、トミはそんな些細なことに思考を邪魔されるような器じゃない。アキとは違って。
「というか、私は母さんを捨てた親父と一緒になりたくなかっただけで“も”あって──」
「言い訳にはナンセンスな言葉選びだね。“も”、だなぁんて?」
失敗した。とでも言いたげにアキは口を薄く開き、固まった。どうも隙をありがとう。そうトミはアキにグッと顔を近付ける。
「一緒に暮らし始めた頃、よく僕とイタズラごっこしたよね」
弾む声とは裏腹に、トミの目は笑っていない。
「僕の紅茶に洗剤を入れてくれたり、イスに画鋲を置いてくれたり。ああ、パンに彼岸花の液を塗ってくれたこともあったね。ゲロだすぐらい美味かったよ。言葉通り」
アキの双眼がワナワナと震える様子を、超直近の特等席でトミは見つめる。
「それから、君が来てから晟大は君にご執心だったね。酷いことしちゃった分、これからはアキの為に働くんだー、て。良い親バカだね」
アキの左頬と黒髪の間を、トミの白皙の指がサラリと入り込んだ。どちらも海に浸かって体は冷たい筈なのに、アキは熱した鉄みたいに熱い。トミの手元には無い温かみをアキは持っていた。
「ま、僕はどーなるんだって話なーんーだーけーどっ。どーなったと思う?」
「え──」
「ソー! 君に保護者を奪われて疎外感を感じる寂しー寂しー生活をしておりました!」
自分で質問したくせに、お前に喋る権利なんか無いと言わんばかりにトミはニッコリ笑う。
さっきまで彫刻みたいな微笑みをしていたのに、急にデフォルメが強いアニメみたいにニッコリとトミが笑う。アキの心にまた恐怖が乗せられた。
「家族にして貰えたと幸せを噛み締めてたらこの仕打ち。結局、僕は代わりだったんだよ。実娘と離れて暮らす寂しさを埋めるための、さ」
途端にトミの声色が一オクターブ落ちた。トミの横顔が夕日に照らされる。それはきっと幻想的な風景に見えるはずなのに、アキの美しいと思える感性を恐怖が蝕んだ。
スッと。アキのもう片方の頬にも指が滑り込む。それらはゆっくり、アキの頬をなぞって下に移動していく。
やめて。この後の展開が想像できて、アキは絞りだした声をトミに向けた。それでもトミの手は止まらなくて、ついにアキの首に辿り着いてしまう。
「お前さえ、いなければ──」
ゆっくりトミの手が絞まる。首を絞める。ドクドクと、血管の働きが皮膚越しに伝わって、トミは少し血の気が引く。
まって。裏返ったアキの声が、トミの気まぐれを動かした。首を絞める力が緩む。
「ならなんでっ、助けてくれたの!」
「助けた? 何を。誰が。君が飛躍させた話題を戻すお助けならナウでできますがいかがいたしましょうか、お嬢様?」
アキはトミにギョロリとした目で睨まれて、言葉を飲み込んでしまいそう。何も言わなかったらきっと、こんな怖い思いは薄くなってくれる。しかし、それを天秤にかけても尚伝えたいことがアキにはあった。
「私に嫌なことするお友達から、いつもトミは助けてくれるっ!」
「──」
今度はトミの言葉が詰まった。
嫌なことするお友達。アキのいじめっ子達のことだ。器が小さくプライドが高いアキにトミは慣れたが、集団生活ではそうもいかない。アキは女子からは冷ややかな目で見られ、男子からは触らぬ神に祟りなしと無視され、なのに彼らはアキの物を盗んだり壊したりすることにご執心だ。
「私の物を盗もうとした男子を追い払ってくれたし、集団行動はいつも一緒に組んでくれるし、帰り道だって、一緒に帰ってくれる!」
男子は追い払ったんじゃなくて、現場に訪れた第三者に、男子の方が勝手に怯えて逃げただけだ。集団行動のときは、馴染みがある人物と組んだ方がパフォーマンスが上がるからだし、一緒に帰る、のは。えっと。
トミは頭の中で言い訳を構築するも、それらはトミも自覚できるぐらい無理のある論理だった。
「なのになんで、トミは私を嫌っちゃうの!」
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179 :ベリー
2023/09/01(金) 00:56:54
今までアキがトミにした仕打ちを無視した、純粋な問いかけだ。アキがトミに嫌がらせをしていたのは、アキがここへ来てばかりだった四年前の話だ。とても最近とは言えない出来事だが、無かったことにできるほど時間が経った訳でもない。トミは四年前の事なんて気にしていないだろうという、アキの無意識の驕り。それがトミの苛立ちを加速させる。
「誰が嫌ってるって、言ったんだよ──!」
ガバ、と。トミのセーラー服が擦れる。軽く首にかけていただけの手に、力が込められた。
トミにとって四年前の出来事なんて、とうの昔に水に流している。それをアキの傲慢さに言い当てられたのが、トミは悔しかった。
「くぁっ、かっ──」
苦しそうにもがくアキ。ここで上半身も海につけてしまったら、酸素がない世界で首を絞められてしまう。死が現実味を帯びてしまう。そう、アキは腹筋で体を起こしたまま、アキの腕を首から離そうと掴んで引っ張る。
首の中央部にある筋肉が、強く締められる感覚がする。青じんだ部分を強く押されるような痛み。その倍の不快感がアキの頭に広がった。
怖い。死の恐怖から逃れたい。背筋の寒気からくる欲求がアキを動かす。しかしアキの理性には、もっと大切なことがあった。
「きら、いじゃ無い、なら。なん、で。こんな──」
なんでなんだろう。トミでもトミの行動が説明できない。トミの、保護者からの愛情を奪ったアキへの憎悪は本物だし、それと同じぐらい──いや、下手したらそれ以上にアキを愛おしく思っているのも事実だ。
そうだとしても、トミがアキの首を絞めたがるのはおかしい。トミも分かっている。けど仕方ないだろう? 事実、アキへの憎しみも愛情も、アキを絞め殺す事を望んでいるのだから。これはトミが欲望に忠実に行動した結果だ。
「好きだよ」
トミの嘘偽りない憎愛がこぼれ落ちる。
「キュアァ──」
声でも言葉でもない。絞められた気管から発せられた“音”が、合図となった。ついに力が尽きたアキが押し倒される。パシャン。宙に揺蕩う水しぶきが、歪んだ夕暮れの空を映す。アキの全身は海水に使ってしまった。
アキの歪んだ表情が水面越しに見えた。ボコボコボコと、ひっきりなしに二酸化炭素が海水を押し出す。アキが何かを言っている。何を言っているのだろう。アキの事だから叫喚しているだけか、と。そう思ったら、トミの憎悪が晴らされ快感に、愛情は深くなり悦楽となった。アキの生きる証が首から伝わり気持ち悪いが、加速する劣情がそれを上回ってしまい、余計手に力が入る。
この感情をどう形容したらいいのだろう。アキを傷つけている事実に興奮しながら、トミは考える。初めは本当に、自分を虐めるアキを憎んでいた。きっかけはそう。アキが学校で虐められる側となったときだった。いつも自分を見下すアキが虐げられ、綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしていた。なんとまあ、愛おしいのだろう。どういう訳か、トミはそう思った。発散しきれなかった憎悪が、途端に愛へ変わってしまう感覚を、その時強く感じたのだ。
アキが憎くて、共に愛おしくて。矛盾する感情に気を狂わされながら、トミは思った。アキと離れたくない、と。
「──」
首の脈が無くなった。恐る恐るトミは手を離す。アキの首には、痛々しい紫色の線が一本引かれていた。目玉は空を向いて動かない。とても綺麗とは言えない、アキの醜い顔が美しい。トミはアキの体をゆっくりすくい上げ、抱きしめてみる。海水に浸けたからか、はたまたアキの中で燃えていた火を消し去ったからか、体は氷のように冷たかった。
ああ、死んだんだ。僕の手で。トミは口を綻ばせてアキを強く抱き締めた。
「あーあ、死んじゃった」
これからどうしよう。そう思うまもなく、トミはアキを抱いて海を歩く。初めから薄らと想像していた未来設計図にしたがって、トミは夕日に向かって進む。アキと共に海に沈めたら、どれほど悔しくて憎くて、嬉しいだろうか。高まる憎悪がトミの愛情を加速させる。深くなる愛情がトミの憎悪を加速させる。
気持ちが矛盾している違和感なんて、どうでもいい。双方の感情にしたがって、一番快感を得られる道を選べれば、トミはそれでいい。彼の場合、アキを絞めて抱くのが快楽の骨頂であっただけだ。
トミの全身を海が包む。アキの黒髪がトミの体に絡みつく。苦しくなる息でさえ、今ではトミの興奮を加速させる材料だ。このまま死んだら、僕らは水に溶けて体がぐちゃぐちゃになって、原型を留めない姿に成り果てるのだろう。そんなアキの様子を間近で感じ取れるなんて、これ以上無い喜びだ。恍惚するトミは、すっかり冷えた肉塊と共に、消えかかる夕日の橋を渡った。
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180 :ベリー
2023/09/01(金) 01:00:24
カキコの企画で書いた海の短編、せっかくだから自己満投稿。
俺為の方で、自分の憎しみを言葉に表さず飲み込んで隠していたヒラギにイラついて、「お前、ヨウ×しちゃっても許されるよ?! ねぇもっと怒ろうよ?!!」と燻った思いを発散したものとなります()
>>173-175
途中まで幽霊化した友との不思議な体験談、て話かと思ったら最後に全部持ってかれた……。イトウさん、どこか七海ちゃんを感じる。体言止めが多いからかな? 雰囲気というか優位にたっている状況で余裕綽々と話す感じが、戦隊学園思い出して懐かしくなりました……。
わー! げらっちさんの文だー! てなった。語彙がねぇ。
「だってお前死んだじゃん」からの「あ、そっか」て即落ちて面白かったです……。
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181 :げらっち
2023/09/04(月) 11:27:07
>>176-179 また徒桜!!!相当気に入ってますな。
そして晟大。そして白皙。そしてトミポイント
そしてキュアァ。やっきーに褒められたから気に入っているな?
そんな俺為のエッセンスを感じつつ、短編にしては導入の情報量が多すぎるか?と思ったものの、それを挽回する内容で面白かった。
心中物はあるあるっちゃあるあるだが、心情が丁寧に描かれていたので良かった。
てふてふの代わりに心中物を書いてくれたんですね?
あれ❓トミは男?女?男と思ったが、スカートはいてるから女?と、家庭環境の複雑な説明があった割にそれがわかりづらかったのが気になった点。
やはりベリーは長編向きだとも思った。
[
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182 :てふてふ
2023/09/04(月) 21:43:38
え、私の代わりに短編を!?
ありがとうございます(((
心中小説、待たせてごめんね。
出す気はありますが、もう少し時間がかかりそうです。
ベリちの小説のトミポイント、もしかして元ネタこれだったり?
ncode.syosetu.com
勝手な憶測です。まじょまじょーー
[
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183 :ベリー
2023/09/04(月) 23:39:50
>>181
復讐編のヒラギとヨウをぶっ込んだものなので、俺為臭がするのはご愛嬌。苗字はヒラギ→故郷→タツナ→徒桜 繋がり。
マモン→富→トミ
玫瑰秋→秋→アキ
首締め音鳴りは前々からお気に入りでごぜぇやす。
心中ものになったのはガチでたまたま() トミは、どっちでしょう。ヒラギが元だから、雌雄同体のつもりで書いたんですよね……((
家庭環境は頑張って分かりやすく書いたつもりだったんですがね、やっぱり読み取るのはエネルギー使いますか……。読みやすい文書けないぃ……。
>>182
どういたしまして(???)
あー! それ知ってます懐かしい。2chまとめ動画で見たことある……。
いや、モデルにしたつもりは無いですね。ライフポーションっていう、勇者が吸ってた葉巻が微元ネタの創作薬ならありますが。いや、でも、うーん……。無意識下でモデルにしてた、かも?
まじょまじょ(?)
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184 :ラピス
2023/09/05(火) 22:19:37
私もベリーさんと同じ企画参加したので、その時のss失礼しますわ。
【52ヘルツの怪物】
真昼の海は青。夜中の海は黒だ。まるで絵の具で一筆、塗りつぶしたような単色。
青はまだ透き通るが、黒は吸い込む。正に今、一人の女を飲み込もうと、怪物のような黒が大口を開けているのだから。
「何をしている、止めなさい」
星月夜の明かりだけが頼りの白い砂浜。女は何も聞こえないふりをして、黒の波に足を沈めていった。途端、全ての温度を奪い取ろうと水温が絡みつく。足指の隙間を水流に浚われた砂が逃げていった。
ただの人間でしかないその身体が、海水に溶けて泡となることはない。分かっていても、少しだけ期待した。“あんなふう”に儚く消えてしまえたら、誰かが同情してくれたかもしれないから。
波を掻き分けて進むたび、黒い水が衣服にまとわりつき、彼女を引きずり込もうと指を這わせてくる。海は冷たかったが、陸よりもずっと女を歓迎しているふうであった。
沈む。水温に四肢が痺れていく感覚。腹や背中を撫でる寒気に思わず身が竦む。少しだけ立ち止まって、でもそれがいけなかったのだろうか。いつの間にか追いついた男が、女の腕を掴んで、陸へと引き寄せた。女は無抵抗だった。というよりは何もかも諦め、海月のように水を漂った、という方が近かったかも知れない。
身を任せた結果が、波打ち際の砂に転がることだった。濡れた肌に張り付くジャリとした感触と、夜風の温さに押し付けがましい生を感じる。
「……涙の味がする」
彼女の第一声は、助けて下さってありがとうございますなどでは無かった。
別に女は泣いてなどいなかった。ただ暗い緑色の瞳を虚空に漂わせているばかり。黒い水平線を名残惜しそうに見ているようで、ただその辺の白い砂の粒を眺めてるふうでもあった。
「海水の味だろう。口に入ったんだ」
「つまらない答えですわね、アンデルセン。貴方、作家のくせに案外退屈なこと言うのね。安心しましたわ」
「作家も一人の人間だからね。君も作家のくせに入水か。退屈な死に方じゃないか。君も同じだ、作家なんて物語から離れればつまらない人間なのだよ」
アンデルセンと呼ばれた男は、言いながら濡れて張り付くシャツを捻った。染み出した雫が砂浜に点々と染みを作る。女はそれを見て、でも同じように海水で重たくへばりつく服をどうするでもなかった。
「あなたの作品を読みましたわ」
女が独り言みたいに口にする。アンデルセンは、そういえば先日新作を発表したばかりだったな、と彼女の次の言葉を待った。
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185 :ラピス
2023/09/05(火) 22:20:19
「読んで感じたのは、深い絶望でした。敵わないって思ったんです。あなたの描く海がきれいだった。同じくらい穢らわしかった。読まなければよかったって思うのに、私、こんな作品に出会えて幸せだと思う」
滔々と語られる言葉に抑揚は無く、何処か夢でも見ているような、うつつとした口調だった。
「そうか。作者冥利に尽きる。熱烈なファンレターをありがとう」
アンデルセンの声を聞くと、女は彷徨わせていた視線を彼の顔に縫い付ける。奈落の底から這い上がろうとする亡者のような、恐ろしい目をしていた。
女は急に立ち上がり、震える声で捲し立てた。
「ファンレター? 笑わせないで下さる? これは呪詛ですわ。貴方の描く物語が憎くて憎くて仕方がないの! 同じ時代に生まれた作家として、これほどまでに人を恨まなければならないこと、こんな身を焦がすような、体の内側で火炙りにされるような気持ち、知りたくなかった!」
女が言葉を切り、肩で息をするのを眺めて、アンデルセンは嗚呼、と短く声を零す。
「それで入水か。内なる炎は消えたかい」
「馬鹿言わないで。貴方が止めたから私、まだ陸にいるのでしょう? 貴方さえいなければ、きっと海の泡になって可哀想にって、誰もが同情するような最期を迎えられたのに」
「残念だが現実に泡沫と消えるお姫様なんていない。あのまま止めていなければ末路は水死体だ。君は死ぬまで塩辛い海水を飲み続け、醜く膨れた体で明日の朝、鯨のように浜辺に打ち上げられる。想像してみなさい」
白い腹が、四肢が、顔が、塩水をたらふく飲み込んで、赤子のようにブクブクとくびれのない肉塊として、朝陽の差す波打ち際に転がっている。飛び出た目玉が黒黒として虚空を見る。その黒の上、蝿が手足を擦り合わせている。煩い羽音。絶えず寄せては返す波の音。わかめのように波に揺れる頭髪。アンデルセンは言葉で女の死骸を鮮明に描写して見せた。美しい架空の物語を描いた男が、今度はまざまざとグロテスクな現実を突きつけてくる。
吐き気に顔を歪めた女を見て、アンデルセンはそのまま続けた。
「現実にファンタジーは起こらない。だから物語は、人に特有の光を与えるのだろう? そして、その光を与える者が作家だ。君も作家ならば、呪詛より物語を紡ぎ給えよ」
女は大きく目を見開いて、深く、乾いた空気を吸い込んだ。そうして、痛々しげに息を吐く。次に紡ぐ声は、か細かった。
「ねえ、アンデルセン。打ちのめされるって、どんな気持ちか知っていて? 銀のナイフで心臓を抉られるような苦しみを知っていて? 王子様に声が届かないように、私ではどれだけ手を伸ばしても届かない。地獄は常に陸にあるのだわ。貴方の描くような海に、逃げたかったの。泡になれたらどんなに幸せだったかしら。この身を焼き尽くす苦痛を消したかったの。ねえ貴方、作家のくせに人の気持ちを想像できないのね。私、貴方のこと大嫌い……」
二人は口を噤んだ。きっと、黙ったままでは痛みのある沈黙。波の音は静かにその傷を埋めてくれた。
「……私にはこの海、真っ黒な筆で塗り潰したようにしか見えない。でも貴方は、星月の煌めきが溶け込んで、パレットに乗せられた色以外の、ずっと鮮やかで、ずっと繊細で、いっとう美しい何色かに見えているのでしょう?」
海は黒く蠢く。規則正しい音を繰り返しながら、星月の明かりを舐るように揺らしながら。ただ、黒くゆっくり鼓動しているようだった。女には、そういうふうにしか見えないのだ。
「さてな。しかし、俺にはこの海が黒には見えない。俺の見える景色が唯一無二だとして、お前の見る世界もまたお前だけのものだろう。誰一人として同じ色彩を見ることはないのだから、お前も作家なら、お前の思う色彩で筆を執れば良いだけではないのか」
アンデルセンはあっけからんと言ってみせる。その姿が忌々しかった。
「簡単に、言わないで」
女が唸るかのような声で口にすると、アンデルセンは興味を失ったふうに水平線を眺めた。
「そうかい。……ところで大変申し訳無い。君が作家であることは辛うじて覚えているが、名前は知らないな。どちら様で? 作家の集まりに顔を出していた気がするから、見覚えがあるのだがね。ほら君、特徴的な緑目をしているから」
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