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┗193.『戦隊学園』制作スタジオ(141-160/850)

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141 :げらっち
2021/06/15(火) 21:44:28

第4話からは戦隊同士の潰し合い、戦-1グランプリ編です。
各話を短くして、1話につき1戦隊と戦う予定です。
天堂茂も出るよ

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142 :げらっち
2021/06/16(水) 02:56:30

>キャラ設定集

#コボレホワイト 小豆沢七海(あずさわ ななみ)
 性別/Female
 クラス/文学→魔法
 カラー/White
 生年月日/2025・4・2
 身長/159(自称160だが160を計測したことは一度も無い)
 体重/53

 本作の主人公。いつもクールでエキセントリックだが気に喰わないことがあると誰にでも喧嘩を売ってしまう困った性格。アルビノで光に弱く(羞明という)、見ることのできない虹に憧れている。いろんな色が好きだが特に好きな色は水色で、小物などは水色でそろえている。意外と大食で辛いもの好き。甘いものは嫌い(理由は吐きそうになるから)。弱視だが共感覚で五感を補完しているという都合のいい設定。ブチ切れると獣のような姿になる(パーソナリティ障害の一種)。髪は長いが爪は短い。CGRにも名前がほんのちょっと出るが、別人ということで。アルビノと共感覚と戦隊カラーの取り合わせが出色だったと思います。

#コボレブルー 伊良部楓(いらぶ かえで)
 性別/Female
 クラス/生物
 カラー/Blue
 生年月日/2025・8・24
 身長/154
 体重/46

 七海の親友。カチューシャを付けたショートカット。明るくてちょっと下ネタが好きな…普通の女の子。大の動物好きだが犬猫より爬虫類や両生類、魚類、昆虫などグロイのが好き。5人の中で一番友達になりやすいタイプ。しかし感性が若干ズレているのが七海の親友となり得た一番の要因であろう。七海の相棒兼サブリーダーになるキャラとして「あ」の次に来る「い」を考え、最初は「伊東萌」にしようと思ったがそれでは普通過ぎるので現行のものになった。実は名前の由来はイラブ(ILLUSTBOOK)。

#コボレピンク 鰻佐奈(うなぎ さな)
 性別/Female
 クラス/工学
 カラー/Pink
 生年月日/2026・1・17
 身長/143
 体重/43

 兵器開発担当。丸眼鏡をかけている。低身長がコンプレックスであり、巨大ロボを完成させた暁にはチビと馬鹿にした奴らを踏み潰すつもりだ。内気で繊細で花粉症だが多分芯は強い。他の4人の名前がたまたま「あ」「い」「え」「お」で決まったので「う」で始まる珍しい苗字を調べてこれにした。佐奈は適当。

#コボレグリーン 江原公一(えばら こういち)
 性別/male
 クラス/忍術
 カラー/Green
 生年月日/2025・11・28
 身長/161
 体重/47

 甲賀の有名な忍者の家計、江原忍一の息子。ハスキーボイスのもやしっ子。関西弁書くのに苦労したキャラ。多分七海に惚れる。苗字、関西弁、カラーなどでわかると思うが母は藤田玲子。だが裏設定なのでタレが作中に出ることはない…と思う。

#コボレイエロー 大岩大之助(おおいわ だいのすけ)
 性別/male
 クラス/格闘
 カラー/Yellow
 生年月日/2025・6・6
 身長/189
 体重/127

 通称豚之助。相撲専攻の巨漢(2041年は肉体改造術の発達により平均身長男子185女子162です)。他の4人がセンチメンタルなので、重いドラマの無いコメディリリーフのキャラとして考えるのに時間がかかった。浮きすぎないかと思ったが結構楽しく書けました。豚之助はイケメン。名前の由来は戦隊ファンならわかると思うが大岩大太。え、本人に失礼?…え、なぞなぞをやれ?

★ミルキーメイ
 性別/Female
 クラス/なし
 カラー/Black若しくはInvisible
 生年月日/2025・4・2
 身長/195(平均的な女子の2倍はありそうな体躯とありますがあくまで比喩です)
 体重/88

 本名芽衣。小学校時代の七海の同級生だがひょんなことから七海を憎悪するようになる。「見た目は真っ白だが中身はカラフルな七海」の対象の存在として「見た目はカラフルだが中身は真っ黒な敵」を作りました。序盤から強敵を出したかったのでギロチンショックという初見殺しの即死技でレジェンドレンジャーを壊滅させ七海の目を潰すという恐怖の演出。本当はもうちょっとしつこく出すつもりがプロットが変更になり即退場しました。イヤー軍、プリエール(エイプリル)、メイなど序盤の敵は年月を現す英語で統一しています。

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143 :げらっち
2021/06/17(木) 22:11:33

戦隊学園はマイノリティが集まってマジョリティに一矢報いる話です

キャッチコピーは
 凹凸だけど組み合わせれば立方体!

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144 :第4話 1
2021/06/18(金) 02:19:01

戦隊学園のガクセイ掲示板に、1枚のポスターが掲示された。
それはカラフルな各戦隊の人員募集の張り紙の中でもひときわ大きくて目立って居た。

――――――――――――――――――――――
    戦-1グランプリ開催!!!!

学園内で戦隊同士対決し、勝つと1ptゲット。
負けると即敗退が決まります。
10pts以上集め勝ち残った戦隊だけが決戦に進出。
決戦では直接対決し、勝った戦隊が優勝です。
学園№1戦隊を決めろ!


追伸 優勝すると校長からスゴイのが貰えるよ。
――――――――――――――――――――――

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145 :2
2021/06/18(金) 02:21:34

私は魔法クラスに転入した。
1年の前期は“戦隊の歴史”、“戦隊体術基礎”などつまらない必修科目を受けて過ごすようだ。

放課後、部活のようにオチコボレンジャーの皆と集まる時間だけが楽しみだった。


「よぉ七海!」
「あれ?一番乗りだと思ったのに。」
和室には公一の姿があった。畳の敷かれた居心地の良いこの部屋を部室のように使用することにしたのだ。
「俺んとこ昼ないねん!」
「あ、そだったね。」
私は教科書の入ったカバンを置くと、靴下を脱いで自室のように寛ぐ。
「佐奈もおるで。」
「え?」
よく見ると狭い和室の隅っこに、寝そべってパソコンを打つ佐奈の姿があった。
私は「お疲れ様ー」と声をかける。だが佐奈は返事をしなかった。

「お取込み中みたいだね。」

ふと、公一が私の足の指をじっと見ていることに気付いた。
「みんなよ、スケベ。」
「え?い、いやそういう意味ちゃうねん!!足の先まで真っ白やなあと思って。ハーフなんやっけ?」
私は足の指をうにゅうにゅと動かしながら言う。
「違うよ。これはアルビノって――」

するといきなり戸がバンと開いた。

「うぁーめっちゃ疲れた!糞つまんない名乗りの作法で居残りさせられた!」
楓は入室するなりカバンを放り出し畳に寝転んだ。
「俺はこの後授業やで!深夜の授業めっちゃしんどいねん。昼夜逆転するし!」
「えーまじ?あたし朝早いほうが苦手だよ!交換する?」

フランクに会話する楓と公一。
中学時代は一匹狼的だった私にとっては何ともほほえましい光景だった。

「でね。私の肌についてだけど――」
「なに?何の話?」
楓が喰い付いた。
「白い理由を聞いとんねん!」

混じり気のない真っ白な髪、乳白色の肌、澄んだ青の瞳は私のトレードマークのようなもの。

「ああこれはアルビノって言ってね、遺伝子疾患なんだよ!メラニンが無いから光に弱いんだけど、それ以外は普通の人と変わらないから!」

何故か楓が張り切って説明した。

「いやなんでお前が全部説明すんねん。お前は七海の何なん?」
「あ・・・」
楓はお喋りが過ぎたと思って苦笑いしながら口をパクパクさせた。私は一言、
「楓は私の彼女だからな。」
「え?」
「そういう関係?」と佐奈。

「ブヒ~!お待ちかね!」

豚之助がドスドスと入室した。100キロ超の巨体に踏みつけられ畳がめこっとへこんだ。
そして彼と共に、食欲をそそるいい匂いが部屋の中に飛び込んできた。

「大之助特製ちゃんこブヒ!僕の地元から送られてきた魚介類をたーっぷり使ってるブヒよ!」

豚之助は手に持っている大きな土鍋の蓋を開けた。
豆腐や野菜と一緒に、ぷりぷりの海老や帆立が煮込まれているではないか!

「わあ!」
「すご!」
「うっまそ!」
皆目を輝かせる。

「これで1日の疲れを取るブヒ!」

「俺は授業まだやけどね」
私たちは5人そろって鍋を囲み、「いただきまーす」と詠唱した。小鉢は使わず直接箸で突っついて食べる。
「うま!最高や!」
「佐奈もたっぷり喰って大きくなるブヒよ。」
「ありがと・・・って、暗にチビって馬鹿にしてる!七海さん、こいつ馬鹿にしたよ!」

「まあまあ。」
私は海老を掴み取り、まだ熱いまま噛みちぎる。
「おいしいじゃん豚之助。よし、もっとおいしくしよう。」
私はカバンから携帯唐辛子を取り出すと、鍋全体に多量に振りかけた。
「わあ!なにしとんねん!!みんなの鍋を!!」
「プピー!」

「辛くて食べられないんだったら残していいよ。私が全部食べるからね」

私はハハハと不敵にに笑う。
湯気に包まれる中、楓が隣から囁いた。
「ねえ、彼女って本気?」
「んなわけあるか」

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146 :3
2021/06/18(金) 02:23:41

鍋を囲んで和気藹々していると、再び戸がバンと開いた。
「ハァ、ハァ。」
皆の目が釘付けになる。そこには眼鏡をかけた男子生徒が立って居た。


「頼む、オチコボレンジャーに入れてくれ!!」


「・・・何であなたが?」

そこに居たのは天堂茂だった。

[返信][編集]

147 :4
2021/06/18(金) 02:24:31

「なーんてな。」

天堂茂は相手を蔑むいつものいやらしい表情に戻り、土足で畳に上がり込んだ。
「ちょっと。靴くらい脱いでよ。」

「ちょっと。靴くらい脱いでよ。だと?一体誰がこの部屋の使用を許可したんだ?」

天堂茂はずかずかと侵入すると、ゴミでも見るような目で鍋を見た。
「まずそうな鍋だ。」
「ああっ!」
天堂茂は土鍋を蹴飛ばした。半分も食べていない御馳走は無残にもひっくり返り、宙を飛び、具材が虚しく散乱した。
「ブヒー!僕が心を込めて作ったちゃんこが!」

「何すんの!?」
私は衝動的に立ち上がり天堂茂の胸ぐらを掴んだ。

「おっと、すぐに手の出る悪い癖が治って居ないようだな、躾のなっていない白豚。暴力はやめた方がいい。退学になりたくないならな。」

私は自分に言い聞かせる。
冷静になれ、暴力では解決しない――

私は何とか自制を効かせ、奴の胸ぐらから手を離した。

「お利口だな。」
天堂茂は私に触れられた箇所が汚らわしいとでもいうようにパッパッと払い除ける。
「それで何の用?」
「クズのお前がクズを寄せ集めて戦隊を組んだと聞いたのでな――」

「おい!」
ドスの利いた声。私はちょっとびっくりした。

「七海になんてこと言うねん!俺がお前を半殺しにしたろか?俺を退学にしたいならしてみいや。いっぺんは退学を決めた身やからな。」

公一が、私と天堂茂の間に割り入った。

「お前は江原公一だな?お前の父は有名だったようだがこんな奴らと付き合うとは地に落ちたものだな。僕の父上をご存じか?天堂任三郎、ニッポンジャーの隊長だぞ。」

「てめぇ、なめんなよ。父親の名前出さな喧嘩できひんのかてめぇ。しばいたろか。」

公一、口は達者だがひょろひょろで弱そうだ。
天堂茂は暫く公一を睨んでいたが、やがてニヤリと笑った。

「父親の面汚しの不良息子に・・・不良集団のパシリだった豚に・・・重度のコミュ障のチビ娘に・・・それに」
誰かが天堂茂に殴りかかった。
楓だ。
だがその渾身の一撃は届くことも無く、何者かの攻撃によって阻まれた。
「楓!」
楓は「ぎゃん!」と叫んで畳に転げた。室内に大柄な4人の男たちが突入し、天堂茂を守ったのだった。

「ご苦労。」

「へぇ・・・卑劣なあんたにも仲間がいたんだ。どうせ父親絡みの脅しか、金の力で仲間にしたんでしょうけど。」

「見当違いだな。」
天堂茂はガクセイ証を取り出し、口元に当てた。

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148 :5
2021/06/18(金) 02:26:18

「変身。」
天堂茂と4人の男たちはガクセイ証に呪文を吹き込み、変身を遂げた。

「レッド戦隊エリートファイブ!」

「嘘・・・。」
戦隊と言えばふつう色とりどりである。だがそれは真っ赤な壁を見ているようだった。

5人全員が赤の戦士だった。

「どうだ、驚いたか?僕たちは先日の考査で学年1~5位を獲った、エリートだけの集団なんだ。その全員が、エースの資質を持つという赤のカラーを有する者だ。そしてエースの中のエースである僕は・・・」

天堂茂は珍妙なキメポーズを取った。

「エリートワン!テストで1位を獲ったのはこの僕だ。」

「テストがどうしたっていうの?あんなのお試しみたいなもんじゃん!実技無かったし!」
楓は唇を切ったのか血を垂らしながら叫んだ。

「じゃあお前は何位だったんだ?落ちこぼれの名がよく似合う、伊良部楓。」

「・・・499。」
「え?」
悪いと思ったが私は聞き返してしまった。1年生の総数は500だったはずだ。
楓は涙目になっていた。どうやら本当に499位だったらしい。
「安心して楓。私は500位だったから。」
「ま、まじ?」
「まじ。」
というかその時はまだ入院中でテストを受けられなかったのだが。不参加で0点、つまりビリだ。

「ひゃっはっは!本当に落ちこぼれの集団のようだな!!」
天堂茂は笑い転げた。それにつられて他の赤の4人も笑う。
「それにお前らには赤が居ないじゃないか。赤が居ない戦隊など有るものか。お前らは戦隊でも何でもない、唯のゴミの寄せ集めなんだよ。」

「くたばれや!」
ヒュンと言う音。公一が手裏剣を打った。
「わあ!」天堂茂は悲鳴を上げた。私は手を伸ばし、親指と人差し指でピッと手裏剣をキャッチした。
「七海!何で邪魔すんのや!!」

「あなたを退学にはさせたくない。」
刃を直接つかんだため、指先がじわっと熱くなった。血が滲み出る。
「挑発に乗っても無意味だよ。みんな、こいつのことは無視しよう。」

「では戦隊ではないと認めるんだな?色彩の無い、小豆沢七海。」

天堂茂は私に詰め寄る。
「じゃあさ、こうしようよ。」
私はさっきポスターで読んだ催しを思い出した。


「オチコボレンジャーは戦-1グランプリで優勝するから。そうしたら私たちの方がすごいって、証明できるよね。」


その時天堂茂の冷笑は最高潮に達した。
「ぎゃっはっはっはっ!!!!聞いたか!今のは全校に放送して聞かせてやりたいくらい、傑作だったぜ!優勝は僕たちと相場が決まっているだろう。お前らは初戦敗退がいいとこさ。」

天堂茂は「いくぞ」と他の4人を率いて部屋を出て行った。
扉が閉まると、私はその扉に向けて手裏剣を力強く打ち込んだ。

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149 :6
2021/06/18(金) 02:28:15

「死ね!!!」

私は佐奈が即席で開発した天堂茂ロボに飛び蹴りした。
ロボは粉々に砕け散る。恨みは到底晴れないが、多少のストレス発散にはなる。
「次あたしにやらせてね」と楓。

佐奈はパソコンを打ちながら私に言った。
「ねえ。残念な仮説を述べていい?」
「どうぞ。」
「優勝は絶望的だと思うの・・・まず、学園に何個の戦隊があるかわかってる?」
「うーん。」
考えたことも無かった。
「50くらい?」

「違うよ七海ちゃん。1000の生徒、200の戦隊ブヒよ!」
こぼされたちゃんこをかき集めて食べている豚之助が答えた。「うちと七海さんが話してんのに邪魔すんな!」と佐奈。

「でね、戦-1グランプリは全戦隊が強制参加。優勝を狙っている戦隊はまず弱い戦隊から潰してptを稼ぐと思うの。」

「理解したけど、それはどの戦隊も同じ条件じゃない?」

「違くて。うちらは一番新しく結成された戦隊ってリストのおしりに乗ってるし・・・名前的にもだし・・・それに色んなクラスから寄せ集めてるって思われてるし、つまり・・・」

「つまり?」

「オチコボレンジャーは一番弱い戦隊って思われてるから、色んな戦隊が真っ先に潰しに来るって思うんだ。」

その台詞を言い終わるかと言ううちに和室の扉がドンドンとノックされた。
「たのもう!魔球戦隊ホームランジャーだ!試合の相手を願いたい!」
「芸術は爆発だー!オチコボレンジャーを倒すのは、前衛戦隊ピカソマンだ!!」
「無能な絵描きはどけ!カロチン戦隊ニンジンジャーがオチコボレンジャーを倒す!」


「予言的中やな。」

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150 :7
2021/06/18(金) 02:29:35

オチコボレンジャーの初戦の相手は、真っ先に扉を叩いた魔球戦隊ホームランジャーとなった。

ホームランジャーは9人による大人数戦隊だ。
2つの戦隊を合わせた14人は、狭い和室から昇降口に移動した。

主将は2mはあるかという坊主頭の好青年で、土だらけのユニフォームを着ていた。

「自分は武芸クラス3年 野中球(のなか きゅう)である。君たちのチームの代表は誰だ?」
「小豆沢七海です。」
私は手を差し出した。
「私、高校野球って大好き!球児たちが暑い日差しの中汗を垂らしてる姿って、感動する!プロ野球と違って1回こっきりの勝負だし。私アルビノじゃなかったら野球やりたかったな。」

身長差があったため私はかなり上を向いて喋る必要があった。
野中は大きな手で私の手を握り、ニコッと微笑んだ。

「では野球の試合を願いたい。校庭で、今すぐにもプレーボールだ。」
「え?」
ホームランジャーのメンバー達は校庭に通ずる大きな扉を開ける。日差しが差し込み、私の視界は真っ白に霞んだ。
「ああっ」
私は目を押さえてうずくまる。
「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ。」
目をしばたいているうちに視界は元に戻った。だがまだ少しチカチカする。

「ねね、七海さん。」
振り向くと佐奈が私の服を引っ張っていた。
「カラーについて解析してみたんだけど、あれはUVカットの役目も果たしているみたい。つまり変身すれば、日中でも外に出られるよ。」

「な、なるほど。」
ガクセイ証に呪文を吹き込む。
「変身!」
私は校庭に飛び出した。

バイザーはサングラスのように光から私の目を守り、全身を覆うスーツは日差しから私の肌を守った。
「結構簡単な問題だった!」

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151 :8
2021/06/18(金) 02:31:13

日差しの下、広い校庭にて。
ホームランジャーの9人とオチコボレンジャーの5人が変身し向かい合って立っている。
「ねえ、こっち5人しか居ないんだけど。」
「自分たちで調達しろ!友達を呼べばいいだろう!」野中は変身すると別人のように厳しくなり、無責任な言葉を叫んだ。

私は公一に尋ねる。
「友達、いる?」
「おらん。」

「七海さんうちに任せて。」
佐奈が言った。
「量産したこいつら使お・・・」
佐奈の隣には、5人の天堂茂――ではなく5体の天堂茂ロボが並んで居た。
「げ!なんやねんこれきしょ!」
不気味でならない。天堂茂のお面をつけたそのロボたちは首振り人形のようにガクガクと動いている。
「まあいないよりはましだから・・・あと、うちは運動嫌いだから、補欠ってことで。」
「え・・・」

先攻 オチコボレンジャー
1 コボレグリーン
7 コボレブルー
2 コボレイエロー
6 コボレホワイト
3 天堂茂ロボⅠ
4 天堂茂ロボⅡ
5 天堂茂ロボⅢ
8 天堂茂ロボⅣ
9 天堂茂ロボⅤ

後攻 ホームランジャー
8 オレンジセンター
7 ゴールドレフト
1 レッドピッチャー
2 ブルーキャッチャー
3 イエローファースト
4 グリーンセカンド
5 ピンクサード
9 シルバーライト
6 パープルショート


明瞭で力強く、どこか物悲しいサイレンの音が鳴り響く。試合開始。

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152 :9
2021/06/18(金) 02:32:35

「ストライク!」
「くぅ!」
レッドピッチャーの剛速球に、公一は大きく空振りした。
私はベンチから声を掛ける。
「公一!そんな大振りじゃ当たんないよ!」
「知らん!野球なんて初めてやし見たことも無いんや!できるわけあるか!」

レッドピッチャーは振りかぶって、投げる。

「こんニャロ!」
ズバン!とミットに命中する轟音。公一は空振り三振となった。
「バッターアウト!」

バットを引きずり帰ってくる公一。楓が叱責する。
「何してんだよぉ!」
「あんなん打てるか!投げたと思ったらもうキャッチャーのミットの中やねん!お前が打ってみぃや!」
「いいよ!あたしも初心者だけど、ビギナーズラックでホームラン打っちゃうかもよ?」
楓が打席に向かう。
「楓、塁に出ることを考えて。私に打順を回して。」
「えー?」
私は叫んだ。
「ホームランじゃなくて、塁に出ることを考えて!!」

「何言ってんの?塁に出ても点にはなんないじゃん!ホームラン打ったら得点!見てて!!」

「素人は・・・」
私はベンチに座り込む。

ズバンと言う轟音、楓のきゃあという悲鳴。案の定、空振り三振に終わった。

「豚之助、あなたならやれるよね?期待してるから。」
「ブヒー。七海ちゃんに応援されると照れるブヒ。必ず七海ちゃんに打順を回すからね。」

豚之助は大きな体でバッターボックスに入る。
球が投げられた。
バキッと言う音、この試合で初めてバットがボールに触れた。豚之助は流石の強肩でボールを三遊間に飛ばした。
これならば間違いなく出塁できる。私に打順が回ってくる。

だが豚之助は有り得ないほどに鈍足であった。ぼてぼてと、まるで水の中を歩いて居るのかと言うようなスピードで走る。しかも、
「馬鹿!そっちは三塁だよっ」
「ブヒー!間違えた!」
豚之助は間違えて三塁方向に走ってしまっていた。ホームランジャーの面々は笑い転げる。遊撃手が球を一塁に送り、アウトとなる。
「スリーアウト、チェンジ!」

「馬鹿之助・・・」
ついに打順は回ってこなかった。

攻守交代。ホームランジャーの攻撃、恐ろしい時間の始まりだ。
「い、いくでー!」
ピッチャーの公一はキャッチャーの豚之助めがけて球を投げる。


顔面に激痛が走り私は倒れた。

「か、かんにん!!」

その球はボールになるどころか、何故かショートである私の顔にめがけて飛んだのだ。またもやホームランジャーは爆笑する。
「公一。あとで金玉潰すからね。」
「ボーク!」

公一はガクガクと震えている。
「焦らなくていいから、手裏剣の練習だと思ってやってみて。」
「よ、よし。」

公一は2球目を投げた。今度はまっすぐに飛んだがヘロヘロ球だ。
カキンと言う快音。
球は青空を飛び校舎の裏に消えて行った。場外ホームラン。


そしてツーアウト(私の好守備によるもの)を迎える頃には、ホームランジャーは私たちに33点と言う大差をつけていた。


緑のバイザーの下に、目を真っ赤にして鼻水を流している公一の無残な顔が見えた。
「公一、変わろっか。」
「もっと早めに変わって!?」

私はマウンドに立つ。

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153 :10
2021/06/18(金) 02:37:26

バッターはレッドピッチャー、野中球その人だ。
「悪いけど、ここで負けるわけにはいかないから。どんな手を使ってでも勝たせてもらう。」
私は球を投げた。公一といい勝負の遅い球だ。
レッドピッチャーは余裕綽々というようにバットを振る。だが。

「あれ?」

バットは空を切っていた。
球はバッターボックスのほんの手前、空中でぴたりと停止していた。直後球は動き出し豚之助のミットの中にバスンと収まる。
「ストライク!」
「魔球か――?」

続く2球目。
レッドピッチャーは次も同じ戦法で来ると思ったのだろう。警戒し球を見送った。
「ツーストライク!!」
「え。」
ドバンと言う音、球はまっすぐに豚之助のミットへと飛んでいた。
「七海ちゃん、いい球ブヒ。」

3球目。
レッドピッチャーは主将の意地で球を打った。
だが球は飛距離が伸びず、私のミットに吸い寄せられるようにして落ちた。パシっとキャッチする。
「スリーアウト、ようやくチェンジ。」
私は手裏剣を的に当てた時の要領で、隠し持ったタクトで球の動きをコントロールしたのだ。


2回表、オチコボレンジャーの攻撃は私から。
レッドピッチャーはマウンド上でキャッチャーとサインのやり取りをしている。

私は魔法でホームランを打ってやろうと考えていた。
「魔法は奥の手にするつもりだったけど、こう大差付けられちゃ仕方ないよね。」
勝ち目のない勝負を真面目にやる必要は無い。
「待てよ。」
そもそも――

「そもそも戦-1グランプリは野球の勝負じゃないし、野球やろうって言ったのは向こうの押し付けルールじゃん。」

私はバットを捨てた。
「試合放棄か?」

「みんな集まってー!」
私はタクトを振って楓たち4人を集める。
「コボレーザー決めよう!」
「ブヒ!?」
「まじで言うてるん!?」
「七海ちゃん!そういう無茶苦茶なとこ大好き!」
「じゃあやっちゃおっか・・・。」

「ブレイクアップ!オチコボレインボー!!」
私は皆のカラーを受け虹色になり、必殺技を放つ。
「コボレーザー!!」
唖然とするレッドピッチャーの元に光線が飛んだ。彼は「わあ」と言って咄嗟に避けたが、マウンドは爆発。虹色の弾があちこちに飛び散り、守備についていたホームランジャーたちに直撃した。試合続行不能。オチコボレンジャーの勝ち。
「まずは1pt、あと9つ。」


つづく

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154 :第5話 1
2021/06/24(木) 21:16:57

戦隊学園の夜は静かだ。

唯一活動している忍術クラスは、夜の闇に忍んで殆ど物音を立てない。
旅館のような学生寮はひっそりと静寂に包まれている。

だが、私たちの部屋だけは違った。
夜になってもスマホから大音量で音楽を流していた。隣の部屋からクレームが来ようが知ったこっちゃないと無視を決め込んだ。

私は2段ベッドの上段に寝っ転がって天井を見上げていた。下段から『おジャ魔女登場 ドッカ~ン!』とメロディが聴こえる。
「何この曲?」
「40年前のアニソン!」
「ふぅん。」
私は起き上がって下段を覗き込む。
「あ!見たな。」
楓はT字で足の毛を剃っていた。
「あたし濃くて困ってるんだぁ。七海ちゃんはどう処理してる?」
「私は白くって目立たないからそのままにしてるよ。」
「うわ!うらやまだなぁ。」

すると突然、ピンポンパンポーンと言う音が鳴った。
「音楽止めて!」
「えっ」
楓は急いでスマホの音量を落とした。滅多に使われることの無い館内一斉放送だ。緊急事態だろうか。

『女子寮南棟に男子生徒が侵入した模様。戸締りに注意し、何かあれば寮長に内線を入れろ。繰り返す、女子寮南棟に男子生徒が侵入した模様・・・。』

「南棟、この建物だ!」
「ふむ。」
私はベッドから飛び降りた。
「ヘンタイかな?七海ちゃん?」楓は何故だか少し嬉しそうにしていた。
「とにかく鍵が掛かってるか確認しよう。」
私と楓はごちゃごちゃした部屋の狭い隙間を抜けて扉に向かう。

サムターン(内側から鍵を掛ける取っ手)は縦になっていた。

「不用心だよ楓。」
「はい?七海ちゃんがジュース買いに出たのが最後じゃん!」
「あ、そうだった。ごめん。」
そう言えばじゃんけんに負けて私が外の自販機に買い出しに行ったのだった。その時に両手が塞がっていて閉め忘れたに違いない。

私は扉に近付いて鍵を閉めようとする。すると外から足音がした。こちらに向かってくる。男の荒い息遣いが聞こえる。

「楓、もうそこまで来ているみたいだよ。」
「えっ!?」
こうなれば迎え撃つしかない。
「私が“キララ”決めるから、相手が怯んだところに、楓が椅子を振り下ろして。」
「お、おっけい!」

私はタクトを扉に向けた。
ハァハァと言う息遣い、ドアノブが回り、扉が開く――

「キララ!」
星屑が不審者を襲った。
「わぁ!何すんねん!」
「え。」今の関西弁は。だが止める暇もなく楓は座椅子を振り下ろしてしまった。
「うぎゃあ!!」

公一は殴り倒された。

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155 :2
2021/06/27(日) 01:11:13

「痛い~!死んでまう~!!」
「ごめんって!ほら冷やしたげるから!」
公一の額には漫画のようなでかいたんこぶが出来ていた。楓は私物であるカブトムシ柄のタオルを濡らして患部に当てた。
「ン?なんやこのタオル、くっさいで。」
「臭くなんて無いよ!」

そう言うと楓は部屋にある巨大な水槽にタオルをひたした。

「待たんかい!水槽の水で濡らしてたんかい!ふざけんなや楓!なんやねんこのえっらいごっつい水槽は!」

楓はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに目を輝かせてレスポンスする。
「カエルの王様と鉄のハインリヒ!ハインリッヒは女の子なんだけど王様のことが大好きでね・・・!」

要するにこのゴージャスな水槽には雌雄のカエルと淡水魚、井守が棲んでいるわけだ。
公一はばつの悪そうな顔で楓を見ている。たんこぶの痛みは消えてしまったのだろうか。

「楓はオトメチックだからね。」
私と公一は顔を見合わせる。

「それで、不審者の真似事をしていたのはどういう用件?」

公一は涙目になって答えた。
「不審者ちゃうで!た、助けてほしくて・・・」

「kezuriで連絡くれればよかったのに。」
「そんな暇ないねん!俺、命を狙われとるんや!匿って!」
次の瞬間、部屋の扉がドンドンと叩かれた。「いるんだろう!!出て来い江原公一!!」

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156 :3
2021/06/27(日) 01:17:37

「早く開けろ!こちらにはマスターキーがある!応答しないのなら無理矢理開けるがそれでもいいか!!」

「喚かないでよ。ちゃんと開けるから。」
私はカチリと鍵を解除した。

廊下には5人の男子生徒が立って居た。

「こんばんは。夜中にうるさいんだけど。」
「どの口が言うか!夜半まで騒音を流していた事実は知れているぞ!14件の苦情が、我がソウサクジャーに届いている!これは寮則違反となる!」
「ソウサクジャー?」
「風紀戦隊ソウサクジャー、校則違反を取り締まる戦隊だよ。」楓が耳打ちした。

「ふぅん。あなたの声の方がうるさいよ。」
「何ィ!!!」

「シャラップ。」
大声で威張り散らす小男を、茶髪のマッシュルームカットがなだめた。

「我々が来たのはそんな理由ではありません。ソウサクブラウン・風紀委員長です。ボクの茶色は、学園一美しい。」

「美しい?なら見せてよ。」
「残念ながら、ボクは犯人逮捕の瞬間にしか変身しない主義なんですよ。」
委員長はあからさまな作り笑いを浮かべると、ずかずかと私と楓の部屋に押し入った。

「ちょっと。仮にも女子の部屋に、断りも無しに入り込んでいいと思うの?」
「令状は取ってあります。」
委員長は白い手袋をはめた手で四つ折りの紙を取り出す。パッと開いたその紙は、戦隊の歴史の授業のレジュメと大差ないように思えた。

「江原公一が此処にいるはずだ。隈なく捜せ!」

委員長の指示のもと4人の男が部屋に押し入る。狭い部屋に5人もの男が入り、非常に窮屈に見えた。
男たちは棚を開けたり、椅子のクッションを外したり、ベッドのシーツを引き剥がしたりとかなり横暴な振る舞いをする。

「勝手に開けないで!」と楓。
「やめてくれない?ここに公一は居ないから。」
「そんな筈はありませんね。彼がこの寮内に逃げ込んだのはわかっていますし、匿うならこの部屋しかありませんから。」
委員長は今度は作り笑いではなく、嗜虐的な笑みを浮かべた。

「奴の犯した校則違反は重大です。見つけ次第、退学とする――」

「やめて、酷いことしないでよ!!」
楓の叫び声。
男の1人が水槽をガンガンと叩いていた。
「何だこの悪趣味な水槽は!寮へのペットの持ち込みは禁止されているはずだが!」

「大概にして!!」

私は怒鳴った。
「公一は居ないってわかったよね!?間違いを謝罪して出て行ってよ!」
委員長は茶色の眉をひそめる。男の1人が彼に「確かに、何処にも居ませんね」と報告した。

「ちっ、」
委員長は二本指を振り撤収の合図とする。男たちはぞろぞろと部屋を出て行く。
「ごめんなさいも無し!?」
ソウサクジャーは私を無視し扉をバタンと閉めた。


「――OK。」

「し、心臓止まりそうやった!!」
水槽の浮き草の下から公一が顔を出した。見事な狐隠(きつねがくれ)の術であった。

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157 :4
2021/06/27(日) 01:22:19

「あなたの犯した校則違反って何なの?」

「クション!俺は何もしてへんで。」
公一は腰にタオルを巻き、水槽の水でずぶ濡れになった体を拭いていた。
「ぬ、濡れ衣なんや。クション!!」

「どういうこと?」

「俺、忍術クラスの集金係しとんねん。みんなから預かったお金を金庫に入れとったんや。そんでさ、今夜そのお金を先生に渡すために、金庫開けたら――」

「全部、消えとったんや。」


沈黙。

少しして楓が口を開く。
「いくら?」
「いくらって・・・忍器代やから結構高いで。1人1万で、30万くらい。」
「さ、30万かぁ・・・」

30万と言えば結構な大金だ。

「お、俺は取ってないんやで!ほんまに!!」
「本当に?」
「ほんまやほんま!ふざけんなや!!」

「静かに、男の声がするとバレるよ。」
消えたクラスの金――
「他の人が盗ったとは考えられる?お金は、何かに入れておいたの?金庫に他の物は入ってた?鍵は?」

「茶封筒に入れとった。他にはナンも入れてへん。鍵もちゃんと掛けといたし、鍵は俺しか持ってへんはずや。」
公一は畳んだズボンのポケットから小さい銀の鍵を取り出した。
「先生に言うたら、あいつが“俺がくすねた”って言い出して・・・逃げて来たんや。俺はほんまにナンもせえへんのに!」


再び沈黙。

「何か言うてよ!ど、どないしよ!?こんな理由で退学になりたないねん!!」
「現場を見れば何かわかるかもしれない。教室に行ってみよう。」
「え!?そんなん自殺行為や!外にはソウサクジャーの連中がうじゃうじゃおるんやで!」

忍術クラスのあるC校舎までは割と離れている。

「忍者は夜の闇に隠れて行動するものでしょ・・・?」

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158 :5
2021/06/27(日) 01:27:54

1時を過ぎた戦隊学園。敷地内の森から虫の音が聞こえている。
私たちは――つまり、私と私に引っ付いている公一は――校庭脇の道を歩いていく。
「なぁ、見つかったらどないしよ・・・」
「ビクビクしないで。この暗さじゃ顔は見えないし、こそこそしてたら余計目立つから。」

よく見ると闇の中にぽつりぽつりと生徒の影があった。寮を抜け出しているのは私たちだけでは無いようだ。
それはカップルの姿であった。
校庭脇のベンチに座って手をつないだり、接吻したり、おおっぴらにいちゃついている男女もある。

「きっしょいな。何でわざわざ外でやるんやろ。頭わいてるんちゃう?」
「男子寮は女子禁制、女子寮は男子禁制。校舎は見回りがあるから、外でやるしかないんでしょ。」
「成程な。」

ふと思った。
公一はさっきから、私をちらちらと見て来るではないか。
いつもは制服でピチッと決めているためラフな私服が気になったようだ。ボーダーのトップスに水色のカーディガン、スキニー。
「これだと目立つかな?」
「べ、別に。」
公一は目をそらしたふうに見せかけて私の胸元をちらっと見た。
「助平。」
「そっそんなんしてへんで!」

電灯がシルエットを照らし出している。私はぴょんとステップを踏んだ。
「妖精さんみたいやな。」
「え?」

私は、公一のほうを振り向いて。
「そんなの言われたの、はじめてだ。」

なんだかちょっと嬉しい。

「お化けとか、カイブツって言われたことはあるけど。そういえばあなたも最初、お化けって言ったよね。」
「それはごめんって!言わない約束や!」

立ち止まる。人目はほとんどない。

「襲うなら今だよ。キスくらいできるよね。」

公一は口を真一文字に結んで私の目をじっと見ていた。数秒が経過。
「やめとこ。返り討ちにされたないねん。」
「お利口だね。」
私は手をひらひらさせてちょっと相手をたぶらかしてみる。自分、こういうキャラじゃなかったはずなのに。

C校舎が見えてきた。すると突然後ろから肩を掴まれ茂みに押し倒された。
「わぁ!後ろから攻めるとは意外と――」
「静かに!」

道の向こうからぞろぞろと集団が歩いて来る。

「見つけられないとは言っておりません。時間と人手があれば確実に仕留められます。寮内に居ることはわかっているのですから、しらみつぶしにやればいいだけの話だ。」
「クラスの威信に懸けて、必ず捕まえなさい。」

委員長と、担任・和歌崎率いる忍術クラスのメンバー30余名が、大股で校舎から寮の方へと歩いて行った。

「やったね公一!これで校舎はもぬけの殻だ。」
「逃げたと見せかけ侵入する、逃止(とうし)の術やな。」

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159 :6
2021/06/27(日) 01:32:54

がらんとしたC校舎・忍術クラス。畳の敷き詰められた部屋。
前に体験授業に来た時は蝋燭で照らされていたが、今は照明をつけたので明るい。

「金庫どこ?」
「隣や。」
ふすまを開けて隣室に入る。すると畳がパカっと開き、私は足を突っ込んだ。
「わあ!」
「七海!」
公一が服のすそを掴んで私を支えた。穴底には、先の尖った竹が上を向いて並べられていた。落ちていたら串刺しになっていただろう。

「忍者屋敷やで。ちっとは気ぃつけえや!」
「ふぅん、やるじゃん。」

私は四角い穴を跳び越える。
床の間に、大きな木の箱が設置されていた。和風な金庫だ。

「鍵貸して。」
公一が銀の鍵を投げてよこす。私はそれを鍵穴に刺し、ガチっと回す。
扉が開いた。

「空っぽだね。」

空っぽ。
目で見える“手がかり”のようなものは何もない。
「待てよ。」
私は金庫のあちこちをペタペタと触り、次に顔を突っ込んでみる。
「何しとんねん!」
じっと目を細め、金庫の中の暗闇を、見つめた。


「茶色い。」


「――え?」
「微かに、茶色い。茶色が此処に来た。今じゃないけど、確かにここに訪れた。カラーの足跡が残っている。」

「茶色・・・委員長や!茶色は美しいとかけったいなこと言うとった!」
「そう・あだっ!!」
私は顔を上げようとして金庫の天井に思い切り頭頂部をぶつけた。
「あほか!」
「いたた・・・けどこれでわかったね。」
「でも鍵は?」
「鍵・・・マスターキーがあるって言ってた。ソウサクジャーなら全部の鍵を持っててもおかしくない!」
「それや!!」

私と公一は手を取り合って喜んだ。

「――でもそれだと証拠不十分やな。」
「うん。私も彼の変身した姿を見たわけでは無いからね。変身したカラーを見れば確信に変わるんだけど。」
「でもあいつは犯人を逮捕するまで変身しない言うてたで。」

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160 :7
2021/06/27(日) 01:35:43

「あなたが変身するよう頼みに行けばいいでしょ。」
「無理や!その場でフルボッコにされてお縄やもん!嫌や!!」
「いくじなし。」

公一はじろりと私を睨んだ。

「何やて?もう一度言ってみぃ。」

「何度でも言ってあげるよ、意気地無。そもそも自分の問題でしょ。自分で片を付けなくてどうするの?」

「うっさいな!!」
公一は私に掴みかかった。私は咄嗟に男の急所にキックをお見舞いする。
「ぎゃああああ!!!」
痛い一撃だ。
「何すんねん!!コドモできなくなるやろがぁああ!!!!」
「知ったことか。」

私はガクセイ証を取り出す。ほぼ同時に公一もガクセイ証を取り出していた。

「変身!!」

私は白、公一は緑の戦士となる。

「息ピッタリだね。」
「女だからって容赦はせえへんで!」
「いいよ。本気でやろうよ、2人きりなんだし。」
「上等や。」

公一は壁をドンと叩く。絡繰り扉がくるりと反転し、中にはびっしりと暗器が収納されていた。
「苦無(くない)や喰らえ!」
黒いナイフのような暗器が私の足下の畳にドスッと刺さった。
「もういっちょ!」
公一は2本目の苦無を手に歩を詰め、私の顔面目掛けてシュっと刃先を突き出した。私は咄嗟に足元の苦無を引き抜いて切り結ぶ。チンと言う金属のぶつかる音。腕力では相手が勝り、私は押し負けそうになるが。

「ボウライド!」

私は火球となり突進した。
公一はそれを全身で受け止めるも踏ん張りが効かない。私は壁を突き破って相手の体を屋外に放り出した。
「嘘やろ!反則やん!」
「本気でやるっつった!」

2人まとめて夜の校庭に落っこちた。


「何をしている。」
変身は解け、私は満身創痍の公一の毛髪を掴んで立たせようとしていた。そこに来たのは、委員長だった。
「!・・・これはこれは、誰も居ない筈の校舎から明かりが漏れていると思って来てみたら、江原公一。こんなところに居たのですね。」

「そ。」
私は公一を蹴飛ばして、委員長の前に転がした。
「本当は助けてやろうと思ったんだけど、こいつ弱虫でムカつくから、あなたに突き出すことにした。煮るなり焼くなり、好きにして。」
委員長はにんまりと笑った。
「小豆沢七海、君の蔵匿罪は見逃してあげましょう。気に入った。」
「だったらどうしたって言うの?」
「口の減らない女だ。」

公一はまるで叩き潰され瀕死になった虫けらの様にのたうっている。


「あなたを横領の罪で、逮捕します――」


委員長はガクセイ証を取り出し唱えた。
「変身。」
彼の体がカラーに包まれる。
独特の茶色だった。彼の自負する通り美しく優雅な色だ。金庫に残っていたカラーと、全く同じであった。


「はい、あなたの負け。」
「何――?」
私と公一は委員長の首筋に同時に苦無を突き付けた。

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