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┗193.『戦隊学園』制作スタジオ(121-140/850)
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121 :第3話 1
2021/06/15(火) 20:55:17
2041/4/16 (火) 赤口
私たちは校内の階段を上がっていく。抜け駆け授業の学校探検。
「ね、手つないでいい?」
楓がそう言った。私は、
「だめです。」
「え・・・?」
「冗談。もちろんおっけい。」
楓はきゃははと可笑しそうに笑う。私は彼女の手を握ってぎゅっと指を絡めた。
「最初はどこ行く?」
「そうだな。」
戦隊学園にあるのは10のクラス。
興味深い物もあれば、まったくどんな活動をしているか見当がつかない物もある。
それぞれの得意分野を極め、様々な技能を持った戦隊を輩出している。
「そういえば、戦隊以外のヒーローやヒロインが居ないのはなんでなんだろう。」
「知らないの?」
楓は信じらんないとでもいうような顔をして。
「2025年、“赤の日”。真っ赤な巨人が現れた。日本中のヒーローが立ち向かったんだけど、全部倒されて――」
巨人をいさめたのが千野武大、のちの戦隊学園校長その人である。
千野武大はヒーローを司る存在となり、彼にカラーを与えられた者だけが戦士になれるようになった。
「カラー・・・つまり戦隊か。」
入学式では音声だけの訓示を贈り、姿を見せなかった校長。
赤の日についてはTVなどで何となく聞いたことは有ったが詳しいことは知らなかった。
「ちょうど私たちの生まれた年なんだね。」
「うん。あたしのおばあちゃんもそれで死んじゃったから・・・あ、見て七海ちゃん!」
5Fの踊り場に到着した。古めかしい扉に、『実験中』という札が掛けてあった。
「化学クラス!ここから見よ!」
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122 :2
2021/06/15(火) 20:57:27
化学クラスの教室は現代アート展の会場のようだった。
何十ものフラスコがあちこちに置かれ、ボンと小さい爆発を起こしては色とりどりの液体を噴火させている。
壁は赤や黄色や青の染みだらけ。
生徒たちも全身に薬品を被りながら忙しそうに走り回っている。
「あのー、すいませーん!クラス見学に来ましたー!!」
楓がそう叫ぶ。だがこの喧騒の中で彼女の裏声は忽ち掻き消された。
「かわる。」
今度は私が言う。
「こん!聞こえますかー!!」
私が進み出ると、生徒たちは一斉に振り向いた。
「オチコボレンジャー、あぶれちゃった人でもOK。どのクラスでも受け付けます。」
「何だ唯の勧誘か。実験中の札が見えなかったのかい。関係者以外立ち入り禁止なんだよ!」
巨大なフラスコの中にすっぽり入り、色とりどりの薬品を浴びている男子生徒が叫んだ。
「あなたは?」
「元素戦隊アルゴレンジャーだ。理系を極めた我らに落ちこぼれなどいない、他をあたってほしいね!」
「はいはい。」
実験は再開される。薬品がビチッと飛び、私の白い腕に青い斑点が付いた。
「いこう楓。ここの人たちは、私たちとは無縁だよ。」
「え!何て?」
実験の騒音で私の声が聞こえないようだ。
「出よ!!」
私たちは実験室を後にする。固い木の扉をバタンと閉めると、喧騒から切り離された外の世界に戻った。
楓がこう訊いた。
「――ねぇ、あたしが叫んでも誰も聞かなかったのに、七海ちゃんが言ったらみんなが注目したのは何で?」
「それはたぶん、私の声を聞いたんじゃなく、私の外見を見て振り向いたから。」
そう。
私を見れば誰もが振り向くし、私の容貌を一般的だと思う人はいない。
「鳩たちの中にたった一羽、白い鳩が居たらそれは私。真白き鳩が目立つように、私も目立って居るからね。」
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123 :3
2021/06/15(火) 20:59:11
次に私たちは、専用エレベーターに乗って地下に向かった。
「地下には何があるの?」
「見てて。すっごいから!」
外は真っ暗で、ガラス戸に反射した私の顔が映っている。
すると突然、電車がトンネルから出た時のように、地下とは思えないほど広い空間が目に飛び込んできた。
「すっごいでしょ?」
私はガラス戸にへばりついて眼下のガレージ(整備工場)に見入った。生徒たちが運んでいる部品は巨大なプラモのパーツのようだ。
そこでは奇抜なデザインの車や飛行機などが整備されていた。
エレベーターが到着する。ガラス戸が開いたため私はずっこけそうになった。
「あはは!クールな七海ちゃんでも興奮するんだ!」
私はエレベーターを出て金網の上をカンカンと走る。
ヘルメットを被ったいかつい男共が、巨大なパワーショベルを見上げていた。
「あの、工学クラスの生徒さん?」
男共は私を一瞥した後。
「その端くれだ。俺たちは建築戦隊ジュウキマン。メカの設計をしているのは俺たちじゃない、メカニ戦隊デザインジャーだ。しっかし大した仕事っぷりだぜ・・・」
男共は巨大な重機を見て惚れ惚れとしている。
「その方たちはどこに?」
「Dガレージだ。しっかしお高い連中だからな。態度には気をつけろよ。」
「わかった。ありがとう。」
私は道しるべをたどってDガレージに到着した。
腰を抜かしそうになった。
古都の大仏ほどもあろう巨大ロボットが胡座をかいていた。
頭はすっぽりと白い布に覆われている。
「パンフにもあったけど本当だったんだ。学園がロボの開発をしてるって話・・・。」
近付いてみると更にド迫力だ。
ロボットの傍では白衣を着たポンパドールの女子がノートパソコンをパチパチと打っている。それに呼応するように、ロボットは手をグッパーと動かした。
「近づかないで?」
次の瞬間ロボットが腕を伸ばし、私の胴体を掴んだ。
「うわ!」
「七海ちゃん!」
私は軽々と宙に持ち上げられてしまった。
「下ろしてよ!」楓が叫んでいる。
「LRの惨劇を招いた不幸の少女、小豆沢七海。もう1人はというと芋ね。私たちは学園中の戦隊のオーダーを受けてメカを設計しているの。この神聖な空間に何の用かしら?」
女子生徒は10人くらい固まってけらけらと笑っている。
私はムッとして返した。
「ユニット組んでくれる人を探しに来たんだけどやめにした。」
「へえ、何で?」とポンパドール。
「あなた青でしょ?青じゃ楓とダブるから。同じ青なら楓の方が、よっぽど綺麗だから。」
ポンパドールの顔から笑いが消えた。
「見えてんの?」
「七海ちゃん・・・」不安そうな声を出す楓。
だが私は売られた喧嘩は買う主義だ。親友を芋と呼んだ奴らは許さない。
「うん見えてるよ。汚れた青だね。」
「プはッ」
女子生徒の1人が笑い声を漏らした。
「笑うな、うざい」
ポンパドールは怒りに震えているようだ。
「変身メカニブルー!」ガクセイ証に呪文を吹き込み青い戦士に変身した。
本当に濁った青だ。
「自分の置かれている状況をご存じなくて?ダイブツジン!握り潰せ!」
ロボットは作り主の命令を受け指の関節を曲げていく。
「ううっ!」潰される。息ができない。
「他人のカラーが見えてるなんて、あんた気持ち悪いよ。」
苦痛と同時に思い出した。小学生の頃、皆に言われたあの言葉。
「何やってんの?七海ちん。」
「え?みんなの色をメモッてるだけだよー。できればいろんな色の人と友達になりたいなと思ってさぁ。」
「で、私は黒だからって、遊ぶ約束破ったわけ?」
「違うよー。あれはごめん、本当に忘れちゃった・・・芽衣はたしかにぞっとするほど心が黒いけどね。」
「へぇ。」
「本当に気持ち悪いことばっか言うね。美鈴ものぞみも萌も、あんたのこと気持ち悪いって、言ってたから。誰もあんたの友達にはならないよ。」
ロボットはパッと手を開き、私は金網の上に崩れ落ちた。
「七海ちゃん大丈夫?」
「平気。お昼だしもう行こ。」
私は立ち上がると、踵を返してエレベーターに向かう。
「なかなか人が集まらないねぇ・・・。」
エレベーターに乗り込む時、女子生徒のうちの1人がこちらを見ているような気がした。
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124 :4
2021/06/15(火) 21:02:03
男子も女子も成長期真っ盛り、食堂ではおなかを空かした生徒たちがずらーりと列を作っている。
私と楓はその最後尾に並んだ。
すると私の後ろに、丸眼鏡をかけたポニーテールの女子がくっついた。
特徴としてはかなり身長が低い。制服を着ていなければ、小学生が迷い込んだのか思ってしまっただろう。
「今日のメニュー何だろ?」と楓。
私は「くんくん。この匂いはカレーだな。」
「すご!よくわかったね。」
香辛料のいい匂いがする。
「戦隊学園名物ゲキカラカレー、一度食べてみたかったんだ。」
トレイとスプーンを取ってカウンター沿いに進む。
やがて楓の番が来た。
「180!」
「あいよー」
厨房のおばちゃんがリクエスト通りのグラムの米を盛る。
その上にルゥがたっぷりかけられる。おいしそう。
楓は「お先に~」と言ってテーブルの方に向かって行った。私はというと
「350で。」
「350って・・・」
私の後ろの丸眼鏡の女子が喋った。
空気の漏れるような小さな声だった。
「おなかすいてるから余裕。それに、カレーは好きだから。」
「へぇー・・・うち150が限界・・・ねぇうちは何色に見える?」
相手の色彩を読み取るなど朝飯いや昼飯前だ。野にひっそりと咲く花のような、
「ピンク。」
「ピンポーン。わぁ、嘘じゃなかったんだ・・・佐奈(さな)って呼んで。」
トレイを支えているので握手ができない。私はペロッと舌を出して挨拶代わりとする。
「私七海。よろしくね佐奈。さっきガレージに居たよね?濁った青にどやされていたけど。」
「そうそう!」
佐奈と名乗った少女は途端に饒舌に話し始めた。
「工学クラスのやつらはほんと、性格悪い!だから勝手についてきちゃった。オチコボレに入れてほしいです。七海さんからは強いバイブレーションを感じるので。」
「ありがと。あと、敬語じゃなくていいよ。」
仲間が増えるのは嬉しい。だがその喜びも蛮声により台無しにされる。
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125 :5
2021/06/15(火) 21:04:17
「オラ邪魔だぁ!食堂はスポコンジャーが使わせてもらう!失せろやあ!」
どやどやと巨漢の集団が入って来た。
皆2m近い体躯である。この2041年、肉体改造術の発達によりこの位の身長は珍しくもないのだが。
「よせ。食堂はみんなのものだ!」
男子生徒の1人が果敢にも立ち塞がる。
「どけと言ったのが聞こえなかったのか?俺たちは武芸&格闘クラスの精鋭だぞ。食事を優先してとる権利があるだろうがぁ!」
スポコンジャーの丸刈りの男が変身を決めた。
「サッカーレッド!」
赤い戦士となりボールを蹴る。
「根性落シ!」
ボールは回転しながら飛び上がりドリルの様に急降下。歯向かった男子生徒は腹部への直撃を受け吹っ飛んだ。
食堂は忽ち戦場と化した。
変身の掛け声と共に多数の生徒が武装し激突する。皿やコップの割れる音、カレーが床に飛び散った。厨房のおばちゃんは「やめて下さい!先生方を呼びますよ!」と叫んでいる。
「何?あの野蛮な奴らは」
「任侠戦隊スポコンジャー、スポーツマンシップとは無縁の不良集団です。や、やばい。隠れなきゃ・・・」
佐奈は明らかに怯えていた。
「ブヒ~!今日はカレーブヒ!うまそうブヒ。先に喰わせろや。」
豚を擬人化させたような醜男が現れ私と佐奈の間に割って入った。
髷を結っており、制服ではなく着物姿だ。スポコンジャーの一味か。
「おばちゃ~ん、500で頼むブヒ。」
「ちゃんと並んでよ。」
「ブヒ?」
豚は目を丸くして私を見た。
傍若無人な豚は、自分に逆らう者の存在が信じられないようだ。
「ブヒヒ・・・僕が誰か知らないブヒ?スポコンジャーのスモーイエロー!女の子なら張り手一撃で脳震盪。」
豚は張り手を取る真似事をした。威嚇のつもりだろうか。
「女に手を挙げるのを自慢げに話すんだ。私を殴るのはいいよ、やり返すから。でもちゃんと並んでよ。次佐奈の番だから。」
「ブヒヒ?」
佐奈は「うちはいいから!」と小声で叫んだ。
だが豚は佐奈の姿を捉え、目を細めブーブー鳴いた。
「チビの鰻(うなぎ)じゃないブヒか!こんなところで会うとは奇遇ブヒね。」
「チビって、言わないで・・・!」
佐奈は顔を赤くしていた。
「七海さん聞いて!こ、この人、チビって言って、毎日嫌がらせしてくるの!やめてって、言ってるのに!」
「落ち着いて。」
私は冷静に言う。
「豚、じゃあ私と勝負しよう。」
「僕を豚だと?生意気な娘ブヒ。いったい何で勝負するブヒ?」
「カレーで。」
私は大盛りのカレーの皿を手に取った。
「負けたら佐奈に謝って貰う。」
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126 :6
2021/06/15(火) 21:06:43
不良集団は厨房のおばちゃんたちの変身したお勝手戦隊キッチンジャーにより一掃された。
今はただ割れた食器が散乱している食堂。
そんな場所でカレーの大喰い対決が始まった。
息を呑んで見守る佐奈。そこに楓が合流した。
「見てて。七海ちゃん最強だから!あたし楓。ヨロ!」
「鰻佐奈です。ヨロシク。」
「うさぎ?」
「うなぎです。」
私の口の中はカレーで一杯だった。
最初は美味しく感じた学園名物ゲキカラカレーも食べているうちに舌が麻痺してくる。
もはや食事というより、ぐちゃ混ぜのルゥとライスをスプーンで口に運ぶだけの作業となってしまっていた。
そんな中で何とか皿を平らげる。
「おかわり。350。」
「ブヒ・・・」
相手は巨漢の相撲取りだけあってよく食べる。
だがどうやら辛口が苦手と見える。汗をダラダラ流しながら懸命に口を動かしていた。
「私、辛いの平気。カレーは、飲み物だから。」
ハムスターの様にパンパンに頬に詰めては多量の水で胃に流し込む。
私は苦しさのあまり涙目になった。
「七海さん!」佐奈が叫んだ。
空き容量を少しでも確保するために、立ち上がって膨満した腹をさする。
私は佐奈に「まだいけるよ」と、ピースマークを送った。
やがて豚は苦しそうな声を上げた。
「1000完食・・・ブヒ・・・」
私は皿に残ったルゥをかき集めて飲み込む。
「苦しいの?言っとくけど、これ3杯目だから。計1050。」
「ぶ・・・」
豚は真っ青になり黙り込んでしまった。
「オーケーあなたの負けね。あとで佐奈に謝ってね。」
私は席を立つ。
「七海さん、どこ行くの?」
「ちょっとトイレ――」
スタスタと食堂脇の女子トイレに入る。
個室に入った瞬間。
「おえ!!!」
私は胃の内容物を全て吐き出した。
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127 :7
2021/06/15(火) 21:08:49
「七海さんありがとう。」
「いいって。」
「女子3人は確定だね!あとはダンシもほしいなー。」
「フランクだね楓。」
私、楓、佐奈の3人は食堂を後にし次のクラス見学に向かう。すると後ろから、ドスドスと重い足音が追いかけてきた。
「待ってブヒ~!」
先程打ち負かしたはずの豚だ。汗をかきながらあたふたと走ってくる。
「そうだ、まだ謝って貰ってないよ。」
豚は女子3人の視線を受け縮こまった。
「ごめん・・・ブヒ・・・」
私は怒鳴った。「小さい!」
「ごめんなさい!!」
豚は屈みこんで額を廊下にぺったりと付け、土下座の姿勢を取った。
佐奈は「あのさぁ、あたしすっごく傷ついたんだからね?」とか「次チビって言ったら七海さんに言うからね?」とかブツブツ言っていた。
「ごめんブヒ・・・僕は相撲も弱くて、スポコンジャーの中でもパシリ扱いだし・・・だから・・・あの・・・」
豚は顔を上げて私を見た。
「仲間に入れてください!食べっぷりに惚れたブヒ!!」
「はぁ!?」と言ったのは楓と佐奈。
私はただ唖然としていた。
クレイジーだ。
だが、クレイジーな私たちにはお似合いだ。
「あなた黄色だったね。いいよ、まだ誰ともダブってないからね。」
「えぇ!?」
「ちょっとぉ、七海さん。おかしいじゃん・・・!」
「いくらダンシが欲しいって言ったからってさ!」
猛反対する2人。
だが豚は「ブヒ~!」と言って私に抱き着いた。丸々肉付いた汗だくの顔を私の頬に擦り付けてくる。
「やだ!やめてよ。」
「やめないブヒ!」
豚は私を軽々と持ち上げた。
高い高いをされたのは幼稚園ぶりだろうか。私は宙で足をばたばたさせる。
「ブヒブヒ。かわいい七海ちゃん、一生ついていくブヒよ。僕は格闘クラス相撲専攻、大岩大之助(おおいわ だいのすけ)。ナイーブな男だがよろしくね。」
楓は口をあんぐりと開け、佐奈はあからさまに嫌そうな顔で舌打ちした。
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128 :8
2021/06/15(火) 21:11:26
「僕が学園を案内するブヒ。こう見えて学園の事情には詳しいブヒよ!」
「じゃあお願いね豚之助。いや大之助。」
出発しようとすると、いきなり横から楓に肘鉄を喰らわされた。
「つぅ!」
「ねぇさすがにやばくね?」
楓が私を睨んだ。
「あ、楓が怒るの珍しい。」
「とぼけんな!」
楓は手を伸ばして私の両頬をつねった。
「オチコボレンジャーは、2人で立ち上げたんじゃん!七海ちゃんがリーダーでもいいけど1人だけのものじゃないからねっ」
「ぇへん。」
結構強い力でつねられてるので痛いし喋りにくい。
「かええ(楓)がサブリでいいかぁさ。」
「そういうイミじゃありませーん!」
すると突然太い腕が伸び、楓はひょいと上の方に消えた。
「うわ!」
豚之助が楓をお姫様抱っこしていた。
「ブヒブヒ。早く行くブヒよ。学園は広いから、のんびりしてちゃ日暮れまでに回り切れないブヒ。」
「わ、力持ち!」
軽々と運ばれる楓。何故かまんざらでもないという顔をしていた。
私もその背中に続こうとすると、佐奈に声を掛けられた。
「七海さん言っとくけどさぁ、うちはあいつ大っキライ。いじめっ子だし頭悪いし。デブだし。」
「大丈夫、またいじめたら私がトンカツにするから。」
私は佐奈の頭をポンポンと叩く。
佐奈は首を曲げてそれを振り払った。
「やめて。頭触られんの嫌いなの。ちっちゃいからって、馬鹿にしてる。」
「あ・・・ごめん。」
「気を付けてね。」
佐奈は足早に豚之助を追いかけて行った。
「これから大変そうだな。」
私もそれに続いた。
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129 :9
2021/06/15(火) 21:13:07
4人はまず体育館に到着した。
中学の体育館とは比べ物にならないほど広い。
学生たちが竹刀で打ち合っている。道着のような戦隊スーツと、剣道の面のようなマスクを身に着けている。
「あれは武芸クラス、剣客(けんきゃく)戦隊バットウジャーだブヒ。」
「武芸クラスはどんなクラスなの?」
「ブヒヒ。七海ちゃんいい質問だね。武芸クラスは主に武芸十八般を極めるブヒ。すなわち――剣術・抜刀術・弓術・槍術・柔術・砲術・・・えーと・・・水泳術・・・」
「7個しか言えてないじゃん。」
「馬術もあるよ!」と楓。
「ブヒ!よく知ってるブヒね。」
「生物クラスに蹄(ひづめ)戦隊キバレンジャーってのがあるからね!あたし馬乗ってたら、落ちて膝にでかいあざ作っちゃったんだけどね」
楓はスカートをぺろりとめくって青あざを見せた。
「わあ、すごい」と佐奈。
「校庭にも武芸のやつらが居るはずブヒ。」
豚之助は体育館脇の扉から外に出ようとする。
「あ待って」
「どしたブヒ?」
窓から日差しが差し込んでいた。私は立ちすくむ。
「七海ちゃんは太陽が苦手なの!だから昼間は、外に出れないんだよ!」
楓が代わりに説明してくれた。
私の白い肌は少し日差しを浴びただけでも火傷を負うように痛み、赤くただれてしまう。
「大丈夫、日傘取って来るから。」
サングラスと真っ黒い日傘を装備。そして日焼けクリームを全身に塗ることによって私は校庭に繰り出した。
気温はそう高くないのだが、私にとってこの広い校庭は砂漠を横断しているかのように感じる。
向こうに蜃気楼のように霞む時計塔が見えた。
「あれは?」
「校長室のある中央校舎(セントラル)ブヒね。」
時計塔の三角屋根から避雷針が天に向かって鋭く伸びていた。
「突き刺さったら痛そうだな。」
「あは!七海ちゃんのそう言う感性好きだよ!」楓が笑った。
白い砂を踏んで歩くと、ドォンという銃声が間近で聞こえた。
「ひゃあ!」
佐奈が女子みたいな声を出した。女子だが。
「ブヒヒ。弱虫。」
「違うから!」
豚之助は目を細めてブヒヒと笑う。
見ると生徒が2人、睨み合って立っていた。カウボーイの様な意匠の赤と緑の戦隊スーツに身を包んでいる。
赤の方がバッタリと、膝をついて倒れる。
撃たれたようだ。
「け、決闘!?」
更に2発3発と銃声が轟き、私たちは地面に伏せた。
色とりどりの戦士たちが銃を持って現れ、今度はがむしゃらに撃ち合い始めた。先程倒れた赤の戦士も立ち上がり銃を撃つ。
「ガンマンジャーのやつらが実践訓練中ブヒね。まずいとこに来ちまったブヒ。」
豚之助は必死に縮こまって居るが、巨体が仇となり、そのでかい尻のすぐ上を銃弾がかすめた。
私たちは豚之助を盾にすることにした。
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130 :10
2021/06/15(火) 21:15:34
その後のクラス見学でも物珍しい光景を見たが、“5人目”はなかなか見つからなかった。
芸能クラスのメンバーはまるで小規模な部活の様に教室に集まっていた。
「我がクラスからはまだプロの戦隊が生まれていない!どういうことだー!」
「ギャグレンジャーはお笑いで天下を取るぞ!台本を書いて来たので、見てくれ!」
などと輪になって叫んでいるだけだったので、ほぼ素通りした。
他にもクラスはあるようだが、全部回り切らないうちに6時限目の授業が終わる時刻になってしまった。
生徒たちは1日の疲れを取るため食堂や浴場、寮へと向かって夕暮れの校庭を歩いてゆく。
「何クラスが残ってるんだっけ?豚之助。」
「魔法クラスとか・・・あと10個目のクラスは限られた生徒しか入学できない、秘密のクラスらしいブヒ。」
「そんなのもあるんだ。」
「じゃあ僕は男子寮に帰るブヒね。また明日、七海ちゃん!」
「じゃあね、案内ありがと。」
私がお腹をポンと叩くと、豚之助は照れながらがにまたで去って行った。
女子3人は女子寮へと向かう。
佐奈は寮の部屋割り表に目を通していた。
「ぅわ、うちの部屋と七海さんたちの部屋遠い・・・やだなぁ。そうそう、日差しの件だけど、よかったらうちが今度、日差し除けの機械作ってあげるから。」
「本当?ありがとう。」
日差し除けの機械、それ自体も嬉しいのだがそれよりも。
「さっき頭撫でたのもう怒ってなくてよかった。」
「別に、根に持つタイプじゃないのでぇ・・・」
そう言うと佐奈は自分の寮の方へ歩いて行った。
私は手を振った。
「何かあったら遊びに来てね!深夜でも。」
「じゃ、いこっか。」
再び楓と2人きり。
私たちは旅館のような学生寮の3Fに向かう。
「ここ!」
廊下の突き当りの部屋だ。
私は楓から鍵を借りて扉を開けた。
「おじゃまします・・・」
「かしこまんなよ!今日から七海ちゃんの部屋でもあるんだから!」
私と楓はルームメイトになったのだ。
「わあ――」
ミドリとの相部屋とは何もかも違った。生活感のある部屋、友達の家に遊びに来たみたい。
そして一番に目についたのは、巨大な水槽だった。
「魚飼ってるの?」
「魚じゃなくてカエルだよ!別れられなくて家から連れてきちゃったんだ。」
悪趣味とまでは言わないが、カエルを飼うにはなかなか勇気がいるだろう。
大きな水槽には岩や水草があり、まるで一個のジャングルの様だった。カエルは隠れているのか姿が見えない。
「この季節は交尾も見れるんだよ。」
「よしてよ!」
続いて目に入ったのは大きな2段ベッド。
「どっちがいい?」
「どっちでも。」
「じゃあ七海ちゃん上ね!あたし下だから。」
「OK。」
私は木の梯子を上って上段に行く。するとそこには、ミドリの部屋から今朝送った私の荷物一式が置かれていた。
ベッドの上から部屋を見渡す。
あまり広くもない部屋は水槽とベッドでほとんどが埋まっている。
ほんの隙間に机が置かれ、楓のものと思われる教科書やノート、そして大量のカップ麺やお菓子が置かれていた。
「非常食!はい。」
楓はカップのカレーうどんを掲げた。
「ごめんカレーはもう無理。そっちのシーフードにして。」
「あはは!冗談だよ。」
楓はシーフードヌードルにお湯を注いでくれた。
3分後私はベッドから降り、割りばしでそのヌードルを食べる。
「お風呂はどうすんの?」
「部屋についてるよ!大浴場もあるけど食堂と同じでうるさいからなー。行くなら夜中がオススメ!今度2人で行ってみる?」
「やだよー。楓と2人きりだと何されるかわかんないからな。」
「よくご存じで」
私はヌードル、楓は焼きそばをずるずるとすすり完食した。
壁からホッホーという声がする。見るとフクロウ型の時計が時刻を知らせていた。
「6時か。」
楓は立ち上がった。
「実は戦隊学園は夜の授業もあるんだなー。これなら日差しが嫌いな七海ちゃんでも、ダイジョーブ。」
「え?」
「2人で体験授業してみようよ!その名も“忍術クラス”。」
[
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131 :11
2021/06/15(火) 21:19:43
戦隊学園7時限目の開始時刻は夜7時。
現在6時45分、忍術クラス在籍の生徒たちが寮を出てぞろぞろと校舎に向かい始めた。
私と楓もC校舎に向かう。
「なんだかお祭りみたいね。」
夕方家を出て地元のお祭りに向かう、そんなワクワク感だ。
しかし校舎に到着したところで・・・。
「ごめん楓。」
「何?」
「トイレ。」
「早くしてよ!」
私は女子トイレにて用を済ませる。
窓の網戸に巨大な蛾が張り付いていた。夜のトイレはひっそりとして、気味が悪い。
手を洗って急いでトイレから出る。
「あれ?」
楓の姿が無い。
「か、楓?」
無音の廊下、蛍光灯だけが光っている。その時
「わかったいうてるやん!!」
ビクッとした。向かいの男子トイレから怒声が聞こえて来るではないか。
続けてドスッ、ドスッと鈍い打撃音。
「いたい!ほんまにもうやめて!俺が何したっていうねん!」
「るせぇ。自分みたいなの見てるとイライラしてくるんじゃ。」
私は急いで女子トイレに隠れた。
男子トイレから背の高い生徒が出てくる。
そして周りに誰も居ないことを確かめると、猫背気味に廊下を去って行った。
私は男子トイレに駆け込む。
タイルの上に男子生徒が倒れていた。
「大丈夫?」
男子生徒は私を見るなり目を丸くし、個室に転がり込んだ。
「わああお化け!」
「ひどいな・・・お化けじゃないよ。」
今のはなかなかグサッときた。
夜の男子トイレに私のような異様な見た目の女子が入ってくれば、驚くのも無理ないかもしれないが。
「女子トイレで昔自殺した生徒おるって聞いたで!それやろ?」
「でもここは男子トイレでしょ。これは生まれつきだから。入学式の時一度見てると思うけど。」
「しらん!俺ハライタで式出てへんのや!」
確かに体の弱そうな男子だ。
「ふぅん・・・殴られてたみたいだけど大丈夫?」
「何言うとんねん。大丈夫なわけあるか!痛うて死にそうやでほんまに!」
声変わりを迎えたばかりかというハスキーボイスで、ペラペラとよく喋る。
私は手を差し出した。
「しゃんとしてよ、男でしょ。」
「なんやねんそれ。弱い男もおるんやで。性別で判断すんなや!」
彼は私の手を借りて立ち上がった。
「一理あるね。じゃああなたも私を外見で判断したからおあいこね。名前は?」
「先に名乗るのがベターやろ。」
私はちょっと閉口した。
「意外と抜け目ないんだね・・・小豆沢七海。」
「クラスは?」
「まだ迷い中。忍術クラスに体験参加しようと思ってるとこ。」
「そんなんあるんか。俺は江原公一(えばら こういち)。忍術クラスやで。」
彼はひょろひょろと痩せっぽっちな上、立ち上がっても女子である私とさほど身長が変わらなかった。
その時チャイムが鳴った。
「まずい時間だ。行こう公一。」
「い、いきたくない。」
公一は動こうとしなかった。
「どうしたの?」
「もういやや!成績悪いし、いじめられるし、もう学校やめたいねん!」
悲痛な叫びだった。
「そういう気持ちは知ってる。オチコボレンジャーに入ってよ。」
「何やオチコボレって。そんな験の悪いんに入りたくないねん。」
「いいから来てよ。あなたの深緑、気に入ったの。」
私は彼の手を掴んでトイレから引っ張り出した。
「あなたが5人目ね。」
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132 :12
2021/06/15(火) 21:22:42
「あれ?行き止まりだ。」
そこにはただ壁があるだけだった。手元の見取り図と比べてみる。
「確かにここに教室があるはずなんだけど・・・」
「絡繰り扉、忍者の常識やで。」
公一は壁をトンと叩いた。扉がぐるりと回転し教室が姿を現した。
蝋燭で照らされている暗い教室。
「やっぱ嫌やな。い、胃が痛くなってきた・・・」
「嫌だ嫌だって思うから痛くなるの!いこ!」
私は彼を教室に押し込んだ。
2、30人の生徒が畳に正座している。そのうちの1人が私に手を振った。
「七海ちゃんごめん!先来てた!」
「楓!」
「遅刻ですよ。人を待たせイライラさせ虚をつく“怒車の術”を使ったというなら責めはしませんが。」
暗闇から女の声がした。
「みなさん揃いましたね。これより7時限目――忍術クラス1時限目の授業を始めます。今夜は他クラスから来た生徒さんも居ますので、自己紹介をしておきますね。わらわは忍術クラス1年担任の和歌崎(わかさき)。」
忍び装束に身を包んだ背の高い妖艶な女性の姿があった。
大人びているが実年齢はよくわからない。
私は楓の隣に座して話を聞く。
すると公一が、その身長の半分はあろうかという長大な刀を携えて傍に来た。
「それ、何?」
「これはkougaって忍び刀(しのびがたな)やで。オトンの形見で、お守りにしてるんやけど。」
公一は鞘から刀身を引き抜いた。その刃は根元からスッパリと折れていた。
「折れてんじゃん。」
「しっかりと授業を聞くこと。忍者は一体何をするために存在するか、答えてみなさい。」
先生に詰問される。楓が答えた。
「手裏剣とか分身の術でかっこよく戦ったりするやつ!TVでやってた!」
「それは大間違いです。」
先生は少しイラッとしたようだ。
「忍者はスパイです。かっこ悪くても、どんな汚い手を使ってでも、己の任務をやり遂げるのが使命です。戦うのが目的ではなく、しかも分身の術など存在しません。忍術はこの上なく現実的な科目なのです。今夜もみっちり基礎体力をつけていきますよ!校庭に出なさい!」
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133 :13
2021/06/15(火) 21:24:27
ランニングに筋トレ、忍術クラスの活動は意外にも地味だった。
先生曰く1年のうちはこういった基礎トレと、心理学のような内容ばかりをやるらしい。
楓は走りながら「来なきゃよかったー」「眠いー!」などと言っていた。
私は夜の雰囲気が好きだった。
太陽の照り付ける昼間は闇に隠れて歩かなくてはならない私。だが夜は、こんなにも自由に駆けまわれる。
「このクラスにしようかな。」
私は周りを見渡した。そう言えば、公一の姿が無い。
「公一?」
私はあの深緑を探す。
木陰で1人、何かを投げている公一の姿を見つけた。
「何やってるの?」
公一は私を無視し、何かを投げ続ける。
カンッという音がして、投げた物が木に跳ね返って落ちた。
「公一!!」
「やかましいな!集中してんやから静かにせえよ!」
公一は忍び刀を背負った背を向けたまま怒鳴った。
「ごめん・・・あ、手裏剣投げてんの?」
公一は小さな十字の刃物を片手でひゅんと投げた。木に取り付けられた丸い的には刺さらず、カランと落ちる。
「手裏剣は投げるって言わへん。打つって言うんや。それに手裏剣ってのは手の裏に隠す剣のこと。ナイフでもフォークでもスプーンでも、攻撃に使えば手裏剣になる。俺が今打っとるんは専用の忍び手裏剣や。」
「理屈はいいんだけど。」
公一は手裏剣を打つ。またもや的には刺さらない。
「さっきから1つも当たってないじゃん。」
「やかましい言うとるやん!!」
公一は今度こそ振り向いて怒鳴った。私の顔に唾がかかる。
「面白そうだから私にやらせてよ。」
「やめーや!素人のできる事じゃあらへん。」
「いいからさ。」
「しゃあないな。」
公一は渋々手裏剣を手渡す。
軽く片手にフィットするが、刃は鋭く、使い方によっては十分に人を殺傷できる武器だとわかる。
「じゃあいくよー。」
手裏剣は的のど真ん中に命中した。
「ま、まぐれやろ。」
私はドヤ顔で公一を見る。
「もっかいやろっか?」
もう一度手裏剣を打つ。
的のど真ん中に、サクッと突き刺さった。
「う、嘘やろ!お前何者や!」
「ふふ。」
私は左手で隠し持っていたタクト(指揮棒)を取り出し振ってみせた。的に刺さっていた2枚の手裏剣がふわりと宙に浮き、私の手に戻った。
「ま、魔女やああ!わああああ!!」
「どんな汚い手を使っても任務を遂行するのが忍者なんでしょ?」
公一は畏怖の目で私を見た。
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134 :14
2021/06/15(火) 21:26:42
「ねえ。オチコボレンジャーに入ってよ。あなたの緑で全部揃うの。」
公一は後ずさりしてこう叫んだ。
「怖っ。」
私はそれこそ、胸に手裏剣を突き付けられたような鋭い痛みを感じた。
馬鹿にされるよりも、気持ち悪がられるよりも、同情されるよりも、怖がられるのが、一番つらい。
胸が苦しい。
「・・・わかったごめん。そうだよね。怖いよね。そう簡単にいくわけ、ないものね。」
私は公一に背を向けた。私は忍術クラスにも馴染めなそうだ。
瞬間、眩暈がした。
何だろう何かがおかしい。邪悪が、絶望が、百足の様にかさこそと這い寄って来る。
「ねぇ。」
木々の合間から声がした。
「わああ!!」
公一は立て続けに悲鳴を上げ飛び退く。
森の中からおんなのこが現れた。小学校低学年くらいの、おんなのこ。
「みぃつけた。」
おんなのこは不自然なまでに口角を上げて笑った。その目は真っ黒な、死んだ目だった。
「芽衣。」
私は全てを察した。
「公一逃げて!」
芽衣が牙を剥いて襲い掛かる。
私は2枚の手裏剣を打ち付けた。両の目に刃が刺さり、芽衣はキャァと短い悲鳴を上げ破裂した。
「やるじゃぁん!!」
上空から声。
私はドキリとして夜空を仰ぐ。
満天の星空に、月のように輝く女が浮いていた。
平均的な女子の2倍はありそうな体躯。
編み込まれた長い髪、派手なドレス、リボン、ヒール、その全てが、ピンク・緑・紫・金・銀などうざったいほどカラフルだ。
だが感じる色彩は、真っ黒。
「あなたが本物の芽衣だね。」
「あってるようでぇ、違うよぉぉ!!アタシはミルキーーメイ!前にも言ったよねぇ?七海ちん。」
私は指揮棒を上空の芽衣に向けた。
「誰でもいい。あなたが先生と、レジェンドレンジャーの皆を、殺したんだ。」
やつがMt.マンスで志布羅一郎先生を殺した。
「あいつら殺し甲斐なかったよぉ!アタシはアンタしか眼中になかったからね。子供の頃はた~っぷりいじめてくれたよねぇ。でも見えてるみたいでよかったよぉ。アンタの青い目を、もう一度潰せる。」
芽衣は地面に降り立った。
「芽衣ちゃん人形!」
私を囲むようにして大量の芽衣が現れた。こちらは小学校の記憶そのままの、小柄で地味な普通の芽衣だ。
「変身!」
私はガクセイ証に声を吹き込み白の戦士となる。
「かなしい、あそび」
芽衣たちは手を繋いでぐるぐると回り始めた。
私はタクトをぐるんと反対回りに回転させまばゆい星を振り巻いた。「キララ!」光に触れた芽衣たちは順に血飛沫を上げ破壊される。
「キュートだよぉ!でもこれはどうかなぁ。」
「ぎゃあああああ!!」
再三の悲鳴。
「公一?」
振り向くと、公一が芽衣の1人に頭を丸呑みにされるところだった。
「卑怯者!」
「どんな汚い手を使っても――とか何とか。」
ミルキーメイは大きな手で私の顔面を掴んだ。暗転。
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135 :15
2021/06/15(火) 21:30:30
ポツン、と。
瞼に水滴が落ち私は目を覚ました。
目は見えるが、動けない。鎖で固い床に縛り付けられているようだ。
屋内なのか屋外なのかさえよくわからない場所だ。
星空からから2本の鋭い針が伸びていた。それは私の両眼の15㎝程先に突き付けられていた。
そして恐ろしいことに。
その針は少しずつ、私の目に向かって、進んでいた。
「や・・・!」
ポツン、と。針先から水滴が落ち目に入る。手も顔も動かせず、私は目をしばたいて水を払い除けた。
「なんやねんここは。」
小さな声がした。
「公一!!」
私は叫んだ。右隣で公一も束縛されているようだ。
「星が綺麗やなあ。」
「言ってる場合?あなたのせいで捕まった。意気地なし。」
「ごめんな・・・」
公一は黙ってしまった。
またもや水滴が落ち、私は目を瞑る。気が狂いそうだ。
「こ、ここから逃げなきゃ。公一、あなた忍者なら、関節外して縄抜けくらいできるよね?」
「関節外しても骨が無くなるわけちゃうから、縄抜けはできひんで。忍者は小さい刃物を手に隠し持ったりして縄を抜けるんや。」
「じゃあその刃物で・・・」
「刃物忘れて来たねん。」
「馬鹿!」
再び沈黙。
針はじりじりと迫っている。
「なじってる場合じゃなかった、ごめん。」
返答がない。
針はもう5㎝程先まで迫っている。私は両眼をぎゅっと瞑って叫んだ。
「公一聞いてるの?わ、私目を潰される。助けて・・・!」
再び暗闇に戻るのだけは死ぬより嫌だ。
だが公一はもう助からないと思ったのか、吞気に身の上話を始めたではないか。
「俺のオトン、江原忍一(えばら にんいち)って言うて結構有名な忍びやねん。俺はその後継ぎとして、ホープとしての入学やった。」
「今そんな話・・・!!」
「でも俺には才能が無い。こんななら学校入らなよかった。ああオトン、オカン・・・」
「ねぇ。」
私のフラストレーションは限界に達してしまった。
「うじうじすんな!!!!うざったい!!」
私は刺々しい見た目に変わり鎖をはち切った。自由を得ると同時に両腕で針を掴み、ボキリとへし折った。
「な、なんや!?」
「パーソナリティ障害が身体にまで現れてるだけ。個性ってぼかした言い方は嫌いなの。」
私は公一の鎖をも掴んで粉砕し、荒い息を上げながら彼の首根っこを引っ張って立たせた。
「私の仲間になりなさい。オチコボレでもいいの、見返してやりましょう。今から反撃開始。」
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136 :16
2021/06/15(火) 21:32:27
「反撃開始ってぇ、何のことぉ?」
真っ黒い地面の上にミルキーメイが立っていた。
カラフルなフェイスペイントの施された不気味な顔面。
「七海ちん、あんまりいい加減なこと言ってると、そろそろ・・・怒るよ?」
ミルキーメイの背後から膨大な芽衣が千羽鶴のように飛翔した。
「公一、変身しよう!」
「う、うん!」
「変身!!」
私は白、公一は緑の戦士となる。
「キララベール!」
私はタクトを短剣のように突き刺す。光の壁が現れ、私たちに飛び掛かってくる芽衣たちをバラバラにした。
「あなたも戦って!」
「ダメや、忍器なんも持ってへん!」
「そのお守り貸して!」
私は公一のkougaをひったくると、刃にタクトを突き付け唱えた。
「フィクス!」
kougaの折れた部分がキラキラと光りながら鋭く伸び、元通りに修復された。
だがそれは同時に、タクトで展開していた壁の効力を消してしまった。幾千もの芽衣が私たちに飛び掛かる。
「やばいっ」
「点!」
公一が刀で芽衣の顔面を抉った。
芽衣は「イタァイ!」と叫んで鮮血を吹き出す。
「横!」
続いて刀を真一文字に振り後続の芽衣を薙ぎ払う。
芽衣たちはお構いなしに、飛び出してくる3D映画のように束になってこちらに突っ込んで来た。
「縦!」
更に縦に振り降ろす。芽衣たちは1枚、2枚と引き裂かれて行く。
「うおお!」公一は刀を強く握り決して手放さない。芽衣たちの戦列は1人残らず待っ二つに千切れて散った。
「やればできるじゃん公一。」
「うざいよぉ。フィクス!」
ミルキーメイは私と同じ魔術を行使した。
右半身だけの芽衣には左半身が、左半身だけの芽衣には右半身が補完され、総数は二倍となる。
「人形を攻撃しても無駄、クレッセントムーン!」
私はミルキーメイに直接攻撃した。
「ざーんねーんブラックアウト!!」
暗黒が私を襲った。
私の身体からカラーが引き剥がされる。私も公一も変身を解かれ仰臥する。芽衣たちが蝿の大群のように私たちに群がる。
「引き裂け、殺せ。」
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137 :17
2021/06/15(火) 21:33:45
「あれは――」
夜空に流れ星。いや違う、あれは飛行機だ。見覚えのあるあれは・・・
「L-jet!」
レジェンドレンジャーの戦闘機。
「先生!?」
志布羅一郎が私を助けに来てくれたのか。
機銃の掃射音、L-jetが芽衣たちを四散させた。轟音が近付いて来る。
停泊したL-jetから出て来たのは。
「やほ!」
「楓!」
「七海ちゃん助けに来たブヒ~!」
「豚之助!」
「よいしょ。L-jet設計したのうちだって、言い忘れてた。」
「佐奈!」
オチコボレンジャーの3人の仲間だった。
「だ、誰や?」
私は怯える公一の肩をポンと叩く。
「私の友達!」
「友達。」
見ると、ミルキーメイはにっこりと笑っていた。
「信じらんない。七海ちんに友達なんていないよぉ。全員死ね」
倒されたはずの芽衣たちがゾンビのように湧き出す。
「じゃあ、本当に反撃開始だね。名乗ろう。」
「この状況で?」と楓。
「名乗りは戦隊の力、チームワークを高める儀式のようなもの。これがなくっちゃ始まらないからね。」
私たち5人は横一列に並ぶ。
「変身!」
ガクセイ証に呪文を吹き込むと、戦隊学園校長室からカラーが送られ、私たちは色とりどりの戦士に変身する――
「コボレホワイト!」
「コボレブルー!」
「コボレピンク!」
「コボレグリーン!」
「コボレイエロー!」
「学園戦隊オチコボレンジャー!!!!!」
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138 :18
2021/06/15(火) 21:36:37
「ハッキヨイ!」
大柄な黄色の戦士となった豚之助。
「のこった!」
立ち合いのかち上げは凄まじい衝撃だ。
芽衣たちは結合し大きな芽衣となり、豚之助と四つに組む。
「ブヒ~!女の子と相撲を取るのは初めてブヒ。がぶり寄り!」
豚之助は大きな体をゆさゆさと揺らし、芽衣を追いつめていく。
「寄り切り~!」
「何言ってんの。これは相撲じゃないでしょ。」
冷静に指摘するのはピンクの戦士、佐奈。
ダダダという音、薬莢がカランカランと落ちる。
小柄な体に似合わぬ大きなマシンガンで豚之助と組んでいた芽衣を蜂の巣にした。
「永字八法!」
公一はkougaを振り芽衣たちを細断。
「これも使ってみて!」
楓が何か星形の物を手渡した。
「な、なんや?」
「ヒトデ手裏剣!」
それは黄色いヒトデだった。うにょうにょと動いている。
「き、きしょいでそれ!!」
「かわいいヒトデにきしょいとか言わないで!使ってみてほら!」
「かわいいヒトデを武器に使うのはどうなん?」
公一はビビりながらもヒトデを掴み、芽衣に照準を合わせ打った。
「でえい!」
ヒトデはくるくると宙を飛びながら鋭く変わり、芽衣の顔面にクリーンヒット。芽衣は血を吹いて倒れた。
「よっしゃ!はじめて当たった!」
私、七海は白い戦士となり、まっすぐにミルキーメイの首を取りに走った。
「ブラックアウト。」
「ホワイトアウト!」
ミルキーメイの暗黒に私のヒカリが立ち向かう。相殺された。
「も~、うざいなぁ。友達ならまとめてじごくに落ちてもいいよねぇ!」
ミルキーメイの身体が発光し始めた。
何か、強烈な一撃が来ることが予期された。
「伏せて!!」
「ギロチン・ショック」
私は素早く身をかがめた。直後周りに居た全員が首を刎ねられた。
だが間一髪のところで私の叫びは届いたらしい。
楓・公一・佐奈・豚之助は縮こまってこの悪辣なる魔法を回避した。周りを群れていた芽衣たちの首だけが嫌な音と共に飛んだ。
「この攻撃が、レジェンドレンジャーを全滅させたんだ。あなたは、どれだけ、真っ黒なの――」
ミルキーメイの顔が歪む。
「アタシは真っ黒じゃないぃぃいいいい!!」
その言葉とは反対に、彼女の身体はどす黒く染まり膨れ上がる。
彼女は少女の顔を捨て、醜いバケモノとなった。
「アタシはいじめられた。アンタに真っ黒って言われて、そのせいでみんなから気味悪がられたの。悪いのはどっち?七海ちん」
[
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139 :19
2021/06/15(火) 21:39:14
「みんな集まって!」
私の指揮に従い楓が私の右肩、佐奈が私の左肩に手を回し、さらに楓の後ろに公一、佐奈の後ろに豚之助が付き陣形を取る。
「私にカラーを!」
「オッケー!」
「いくよ七海さん!」
「いくでー!」
「受け取るブヒ!」
4人がそれぞれのカラーを私に送り込む。
「ブレイクアップ!」
楓の透き通った青、佐奈の可憐だが芯のあるピンク、公一のひっそりと熱い緑、豚之助の逞しい黄色が、私の体の中に入って来るのを感じた。
「オチコボレインボー!!」
「す、すごい。七海さんの身体が虹色に・・・」
夜空にかかる虹、それはオーロラ。
「ざんこくなこうげき」
芽衣が襲い掛かる。
「コボレーザー!」
私はタクトからカラフルな魔光を放った。ミルキーメイは「ぐぅう!」と呻きその光を受ける。「浄化されろ!」
だがミルキーメイは持ちこたえ、黒い爪で私を一突きにした。
「ん゛あああ!」
「七海ちゃん!」
「アクメか?」
「うう・・・」
だが私はそれを堪えた。私の身体は膨れ上がり、ミルキーメイと対等になる。
「負けるか!!」
私はケダモノとなり敵に飛びかかった。
「ぎゃうう!!」
「かーわいい七海ちん。ぶちごろすよぉお!!」
私とミルキーメイは揉みくちゃになり、真っ暗い闇へと落ちる。
「な、七海ちゃ~ん!!」
[
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140 :20
2021/06/15(火) 21:42:39
私とミルキーメイは暗闇を落ちて行く。
バキバキとケダモノの鱗もカラーも剥がれ落ち私は元の少女に戻る。
真っ逆様になりながら現在地点を確かめる。
真下に見えたのは
「戦隊学園!」
私たちは今まで学園の上空で戦っていたのだ。
ビュオオという凄まじい風音、このままでは校庭に叩きつけられて死ぬことになろう。
「真っ白に、戻ったねぇ。アタシも、元に戻して。戻してよぉお!!死ぬのはアンタだけだからぁあ!!」
ミルキーメイはこの状況でも殺意を露にし、黒い爪で私の首根を引っ掻いた。
「あう!」
血飛沫、そして時計塔が目に入る。
「死ね七海!」
「芽衣危ない!!」
悲しくも予想通りの顛末になってしまった。
ミルキーメイは重力のままに時計塔の避雷針に首を貫かれた。ドスッという鈍い音、彼女の頭部は暗闇に飛んで行った。
私は時計塔の屋根に全身を強打し、そのままゴロゴロと屋根を転がり落ちる。
「ぐううう!」
手を伸ばし屋根のへりに掴まる。
全身がボロボロで、これ以上掴まっていられない。
私の指が屋根から外れた。
「わあ!」
落ちてゆく。今度こそ、地に落ちて、死ぬ――
私は目を瞑った。
「七海!」
ハッと目を開く。戦士が空中で私を受け留めていた。
「先生?」
違う。
緑の戦士、公一だった。彼はその身軽さで宙を自在に移動したのだ。
私を抱きかかえたまま校庭にひらりと着地する。
「ありがと。かっこいいとこあるじゃん。」
公一はフンと言った。これがオチコボレンジャーの初陣である。
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