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┗283.短編小説のコーナー(9-28/207)

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9 :げらっち
2022/06/29(水) 01:25:25

 俺は職員室に通された。
 ここは居住スペースの中で唯一の安全地帯に違いない。職員たちが滞在し、リビングに通ずる大きな窓と、無数の監視カメラで、利用者たちの所在を確認している。
 先程の糞便はというと、職員の1人が片付けに向かった。あの程度なら、いつものことというように。

 俺はようやく気を取り直し、自己紹介を済ませた。2人の先輩職員が俺を出迎えた。
「よろしくお願いします。佐水(さみず)と申します……。吉良くん、資格は持ってないんですかね……?この業界でやっていくには、資格が重要ですよ……ゼッタイ。」
 中年男性の佐水職員は、小柄で線が細く、なんだか女々しい。喋り方もどこか毒をはらんでいる。オツボネ様みたいなもんだろうか。俺はなよなよした奴が嫌いだが、先輩相手なので一応頭を下げておく。
「まぁた、佐水さんは新人いびりですか?私は川口(かわぐち)です。よろしくねぇ。吉良さん、若いのにこの仕事しようって思うだけで偉いヨ。」
 川口職員は大柄で髭もじゃ、眼鏡を掛けていて濃い顔だ。だが発声は明瞭で、動きも機敏。若々しい。
「よろしくお願いします!全くの未経験ですので、色々教えて下さい!」
「すばらしい心がけですね!もちろんですヨ!即戦力です!」と川口職員。佐水職員は「コラコラ……ちがうでしょ。しばらくは見学。」と言い、キャスター付きの椅子に座ってデスクワークを始めた。
 川口職員が俺にわざとらしく、ひそひそと話し掛けた。
「大丈夫でしたか?はじめたばかりは吐き気を催す人も多いんです!私も最初は毎日えずいてましたヨ!」
 川口職員の話によると、環境に耐えられず、すぐにやめてしまう職員も多くいるらしい。

 だが俺はきっぱりと言った。

「俺にはやるべきことがありますから。」

 川口職員はうんうんと頷いた。
「すばらしい。じゃあまずは基本的なことから。ここには知的障害のある方々が、44名入所されています。男女は別のスペースで暮らしていて、私たちが受け持つのは男性21名です。障害の程度は割と幅広いです。」
 川口職員は窓の向こうを指さし、障害特性について語り出した。
「すごいですヨ。」
 動物園というよりは水族館のようだ。ガラスの向こうで、不思議なカタチの魚たちが回遊している。
 リビングには大きなソファがあり、そこに5名の入居者が座っていた。皆そこそこ年のようだが、小柄で、胡坐をかいて、共鳴するように、ゆさゆさと体を前後に揺らしている。あれはダウン症。
 部屋の中をうろうろと行ったり来たりしている入居者も数名(川口職員曰く、本来はうろうろという表現はふさわしくないとの事)、急に叫んだり、椅子をガタンと倒したり、服を脱いだり、何かを思いついたように走って居室に行ってしまう。あれは自閉症。

 何かと覚えることが多い。

「寛風園では、シフト制により24時間体制で入居者さんを見ています。食事介助や入浴介助、夜間見守りが主な業務です。入居者さんたちは自由奔放で楽しいことばかりですヨ。」
 川口職員はニコニコと話していたが、目は笑っていなかった。
 この人は俺を試すつもりだ。相当の手練れだ。

 だが、どうであれ俺の目的は1つだ。

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10 :げらっち
2022/06/29(水) 02:11:48

 俺は居住スペースを見て回った。
 入居者さんに挨拶巡りをすると見せかけ、目指す場所は決まっていた。
 殺風景な廊下を歩き、居室の1つに入ってゆく。「あますが」という表札は剥げかけている。

「失礼します。」

 俺はサッと身なりを整えた後、そろりとドアを開けた。
 部屋は仄暗かった。壁際を探り、パチンと電気をつける。
 限りなく質素な部屋だ。扉の外れた箪笥が1つ、ベッドが1つ。そのベッドの上に、男性がひとり、仰臥していた。

 俺にはそれが、赤ん坊のように見えた。

 明らかに、通常の赤ん坊より大きい。明らかに、大人の体格と顔つきをしている。
 それなのに、その光景は赤ん坊が寝ている様を思い起こさせた。というより、それ以外のことは想起できなかった。
 それはつまり、ベッドで仰向けになっているこの男が、赤ん坊以上の知識を、経験値を、存在感を秘めていないということだ。
 眼を見開いて、両手を虚空に突き出し、ひらひらと動かしている。まるで空気をこねているみたいに。
 俺はすり足でベッドの傍に寄り、片膝をついてかがみ込んだ。


「王城四郎今直様、忠臣の吉良で御座います。お迎えに参りました。」


 ときに、俺は現代を生きる忍者だ。
 そう聞くと大方のアホは、俺が手裏剣や刀で戦うヒーローじゃないかと勘違いする。
 でもそんなんじゃない。
 忍者は戦士ではない。分身したり、水の上を走ったり、壁をすり抜けたりするのは架空の忍者だ。
 忍者ってのは、スパイだ。何処かに潜入し、情報を収集するのが主な役目だ。潜伏期間は何十年にも上ることがある。まあ俺は、大学生活中にいくつか仕事を請け負っただけだから、最大でも6か月の潜伏経験しか無いんだけどな。あの時は、引っ越し業者のアルバイトとして潜伏して、目当ての家の間取りを調べるのに半年掛かった。地味で、静的で、報われない稼業だ。最も必要な資質は我慢強いことだ。特定の記事が切り抜かれた新聞のように、情報の一部を隠し、小出しにし、駆け引きする。体術はその補佐をするために研鑽すべきものにすぎない。

 新社会人となった俺に、華々しく会社に勤める朝など来るわけがない。そんなものは俺の人生にはなから存在しない。
 俺には使命がある。俺のタマシイが雨になって、偶然吉良家の遺伝子の大河に降り注ぎ、合流した時から、逃れることのできなくなった使命が。

 王城四郎今直は、500年前に自害した。転生すべく。
 もう一度天下を取るつもりだったのだろう。だが誤算があった。この世は合戦が消え、暴力よりもインテリジェンスの支配する、ガチガチの資本主義世界となっている。
 そして第二の誤算。
 転生先は選べなかった。
 彼は「最重度認定」の知的障害者として生まれ変わった。

 それでも俺の使命が消えるわけではない。
 俺は吉良家の伝承に従い、忍者として育てられ、転生先を示す痕跡を辿り、遠い先祖がしたように、主の元に馳せ参じた。


 そんな説明をしようが、レスポンスは得られない。

 俺はベッドにそっと手を置いた。
 これまでに見て回った入居者さんたちも、知能が低く、言葉を喋れないケースが多かった。俺が挨拶をしても、アーとかウーとか、そういう声しか返さない人も大勢いた。
 それでも、何らかの反応は示してくれたものだ。

「あますがさぁ~ん」

 俺は、ドキリとして振り向いた。
 軽いノックがあり、ドアが開かれた。川口職員がそこに居た。
「あれま、吉良さん。勉強熱心ですね!でも最初からあますがさんの対応をするのはちょっと大変ですヨ!もっと手頃な方から接してみるべきです!あますがさん、服薬のお時間ですよ。」
 川口職員は、ベッドに近付きかがみ込むと、「ヨイショ」と言ってあますがさんの体を起こした。

 このあますがさんからは、生命の痕跡は見えても、意識の吐息は感じられなかった。果たしてその肉体の中にかつての大名のタマシイが息づいているのか、俺にはわからない。だがそれが再び目を覚ますことを信じ、仕えるしかない。何年の辛抱になろうか。1年か、5年か、10年か、20年か、いつまで尽くしても、その成果は得られないかもしれない。
 忍者とは報われない、因果な商売だ。それでも任務を、ひたすら忠実に繰ってゆく。

 それが忍者としての俺の使命だ。

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11 :げらっち
2022/06/29(水) 02:33:50

以上、げらっちによる>>>184.243の三題噺でした。

私の勤務経験を脚色してみました。
実は『魔王と呼ばれた天才魔法師ミナ』のプロットを意識しています。
カンフーの要素が薄すぎる?気にするな!(最初はカンフーを扱う敵忍者を出す予定だったが、それだと長くなりすぎるので削った)

〆切の目安は6月中だったが他の参加者たちは

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12 :黒帽子
2022/06/29(水) 07:32:56

今日明日で書く
🍊でも明日中に出す

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13 :げらっち
2022/06/29(水) 14:58:45

>>12
偉いぞ!

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14 :迅
2022/06/30(木) 18:10:02

来た来た来たァ!インスピレーションが湧いて来たァァァァァッ!!今週末には出せるかも知れねぇ!

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15 :げらっち
2022/06/30(木) 18:18:41

黒帽子の三題噺が楽しみだ。

やっきーへの感想をこっちにも書いとこう。

>>2
3行目でオチが読めてしまった…
やっきーが作者ということ、ボクという一人称(ポーク?)もヒントになってるのかな。
いつものファンタジーとは違ったシニカルなギャグ短編(というかSS SSSくらい)
色んな作風が書けていいなー。
通話では迅がこの豚の声真似をして大盛り上がりでした。豚(cv:迅)

>>3
こちらはかつて、ねむねむに依頼されて書いた詩だという。
豚と同じ動物目線の悲哀を感じる一作だが、こちらはギャグ色が弱め。
いつも何にも考えてなさそ~な金魚だが、何か考えてるのかな?と考えさせられる作品でした。

>>4
豚の時と構成は似ているが、今回はオチが読めなかった!
読み返すと色々わかって面白い。

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16 :ラピスラズリ
2022/06/30(木) 19:14:59

小指、贈り物、止まるっていう三題噺?お題で書いたときのやつ見つけたからよかったらみんなにも書いてほし〜てなってる。

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17 :ラピスラズリ
2022/06/30(木) 19:15:53

「小指」「贈り物」「止まる」より
☆.。.:*・°☆.。.:*

 あいしてる、なんて言葉だけでは不安だったのです。
 わたくしのあまりにも低い自己肯定感が邪魔をするのですから。今のように楽しく談笑していたって、貴方の心がわたくしではない他の何者かに向けられているのではないか、と怖くなります。
 だから、いっそのこと、と。別れ話を切り出したのでした。
 貴方の表情は固まり、時間が止まるようにも錯覚しましたが、わたくしが次の言葉を紡ぎます。

「愛を証明してください」

 わたくしの故郷には、古い習わしがあります。真実の愛を誓うとき、想い人にとある贈り物をするのです。
 彼もそれを知っていましたが、きっとそんな古びた文化に従う気はないのでしょう。こんなに怯えた顔をしていますもの。
 つまりは、その程度のことなのでしょう。わたくしはひと粒涙を溢して、部屋を出ていこうとしました。でも、掠れた声に引き止められます。
 彼は微笑んでいました。そうして、台所から持ってきた包丁を右手にしっかりと握っています。笑顔のまま、彼は床に置いた左手に、包丁をゆっくり近づけます。狙ったのは小指でした。
 古い習わしとは、真実の愛を証明するとき、想い人に体の一部を差し出すというものでした。

 ああ、わたくし達の愛は本物のようです。

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18 :げらっち
2022/06/30(木) 20:08:04

私もそのお題を見て(ラピスのを読むより前に)やんでれ系の指詰めを想像しちゃったんだよねえ…
「小指」「贈り物」とくれば割と同じ場所に着地するかも。
思いついたら書いてみーる。

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19 :迅
2022/06/30(木) 21:14:21

 あの日、俺は逃げ出した。
 大事な決闘から、誇り高き騎士から。土下座をして無様に情けを乞い、当時の相手だった幼馴染との絶対的な実力の差を前に絶望し、みっともなく逃げ出した。
 彼女は、正々堂々とした勝負を望んでいた。
 剣の実力で俺を打ち負かし、自分こそが最強であると、自分はもう守られる存在ではない事を証明してみせると、彼女は試合が始まる前に俺に告げた。
 ……それなのに、肝心の俺はこのザマだ。
 あの時の彼女の軽蔑に満ちた瞳は、今も脳裏に刻み込まれている。
 彼女の瞳に映っていた感情は、怒りでも、憎しみでもない。
 彼女は、失望していたのだ。
 自分の憧れだった人間の、情けない姿に対して。
 
「私はもう、貴方を好敵手《友》とは思いません」

 それが、最後の会話だった。
 それ以来、彼女と俺とで大きな差が生まれ始めた。
 彼女は生徒会長にまで上り詰め、『雷電女王』と言う異名と、学園一位の座を手に入れた。対する俺は留年し、あの情けない戦いぶりから、『恥知らずの騎士』の異名を手に入れた。
 そこからは、簡単だ。
 かつては、最も高い実績を収めた騎士に与えられる称号である、『英傑』の筆頭候補にまで上り詰めた誇り高き少年の姿は、見る影も無くなった。
 他の生徒達から送られるのは羨望の眼差しではなく、侮蔑の視線。
 クラスの低い騎士からは、日頃の鬱憤を晴らすためのサンドバッグにされ、上級生との模擬試合では、彼らの引き立て役として必要以上にボコボコにされた。もちろん、止める者は現れない。尤も、その理由も『助けたら標的にされる』恐怖で助ける事が出来ないのではない訳だが。
 それだけならまだ良いのだが、女子は力で敵わないと理解している分、更に陰湿な事をする。
 私物を捨てたりと言った、ちょっとした悪戯ならまだしも、部屋の中で乱交に及ばれた際は、マジに退学寸前まで追い込まれた。
 あの時は、現在の理事長と一部の教師が弁明してくれなければ、今頃は学園を追い出されていたどころか、豚箱の中にぶち込まれていた事だろう。
 その代わりと言う訳か、不審な行動や暴行に走った瞬間、即退学という理不尽極まりない条件を突きつけられた。
 もちろん抗議しようとしたが、彼らの期待を裏切った報いと考えれば、納得出来ないことも無かった。
 他にも色々あるが、現理事長のおかげで何とか生きて行けている。
 そして、あの日から約一年。
 
 彼の人生を運命づけた祭典が、再び始まる季節となった。


短編読み切り
─恥知らずの刺客騎士《ステイヤー》─

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20 :迅
2022/06/30(木) 21:15:59

 『恥知らずの騎士』こと石動竜真《いするぎりゅうま》は、理事長室に向かって一人で歩を進めていた。
 周囲から刺すような視線が飛んで来るが、喉元過ぎれば熱さを忘れると言うように、一年も過ぎればその視線の数々も、もはやステージ中央に立つアイドルを照らすスポットライトにしかならない。と言うか、これから起こる事を考えると、その程度で一喜一憂するわけにも行かないのだ。

「おい、『恥知らず』が来たぞ」
「アイツ、どのツラ下げてここに来てんだよ?」
「マジ退学してくんねーかな〜、居られるだけで士気が下がるわ」

 聞こえないフリをしているのを良い事に、生徒達は口々に彼の悪口を言い続ける。
 廊下の真ん中を歩くだけで注目を集める人物となると、学園長か生徒会長か、落ちこぼれのどれかだろう。尤も、その視線も立場によって全く違う意味を成すのだが。
 羨望、尊敬、侮蔑
 ───人の目は、口以上に物を語る。
 どれだけ良い顔を繕っても、洞察力に長けた者であれば、声のトーンや眼の動きから言葉の真意を見抜くことは、そう難しい事でもない。
 周囲の視線や小言を気にせず、竜真は理事長室の扉をノックして入る。
 中には、恩人である現理事長・上條玲奈《かみじようれな》が待っていた。

「来たか、『恥知らずの騎士』」
「……聞き慣れた汚名でも、恩人に言われると流石に響くんですよねぇ」

 玲奈の一言にも顔色を変えず、竜真は苦笑いを浮かべる。
 それでも反論しないのは、玲奈は竜真がマトモに暮らせるようにしてくれた大恩人だからだ。強姦冤罪で捕まりそうになった時も、退学ではなく留年が受理されたのも、彼女の影響が大きい。
 そう言う事もあり、竜真は彼女に対して頭が上がらないのだ。
 その為、定期的に理事長室に呼ばれる羽目になったのだが。

「最近はどうだ?」
「相変わらず、いじめられっ子やってますよ」
「まぁ、そんなところだろうな。……ところで、そろそろ『闘覇祭』が始まる訳だが、お前は参加するのか?」

 扉を閉めると、唐突に玲奈の質問が飛んで来る。
 『闘覇祭』。
 それは、4500名いる全校生徒が、『東軍』と『西軍』に分かれ戦う、蓬莱学園最大規模の一大イベントだ。この祭典は毎年4回、三日かけて開催され、今月開催されるのは、前期の締め括りである『夏の陣』に当たる。
 そして、卒業間際の2月頃には、一年間の総決算である『冬の陣』が開催される。
 この祭典には、一般人や現場で活躍しているプロの騎士が来ると言う事もあり、普段は怠けている学生も、その日ばかりは本気で闘いに臨んでいる。素晴らしい実績を残したり、両軍を率いる『総大将』や幹部を務めれば、現役騎士や大手企業直属のスカウトが来る事だってある。
 その点を踏まえると、闘覇祭が開催される期間中は、彼ら若しくは彼女らにとって、まさに運命の一週間と言って良いだろう。

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21 :迅
2022/06/30(木) 21:46:27

 下手に難しい試験を受けるより、己の実力を見せつけるに越した事はないからだ。

「……あぁ、もうそんな時期ですか」

 しかし、この少年だけは違った。
 石動竜真は、闘覇際に対して一切の興味を持っていない。
 何故なら、決闘から逃げ出した『恥知らずの騎士』など、スカウトするだけ無駄だからだ。寧ろ、スカウトしたらしたで、その企業にとっては汚点にしかならない。
 それ故に、定期的に来る推薦票に竜真の名前はなかったし、それ関連で職員室に呼ばれた事は一度もない。大一番で情けない姿を晒した男に惹かれた騎士もいる筈がなく、彼は誰からも興味を持たれる事がないまま、実りの無い不毛な一年間を過ごす事になったのだ。
 まぁ、自業自得と言えばそれでお終いなのだが。
 とは言え、「頑張っても意味ないなら、別に頑張らなくても良いじゃん?」と言うのが彼の見解であり、彼が闘覇祭の参加に消極的な理由だ。

「……辛くなったら言えよ?すぐに退学届を出してやるからな」
「うーん、退学する前提で話進めないで貰えます?」
「ん?違うのか?」
「普通に考えて違うと思いますけど!?」

 ───それに、今回はチャンスなんですよ。
 と、竜真はポツリと言う。
 彼が逃げ出したのは、去年の夏の陣での大将戦。当時二年でありながら東軍の総大将を務めた竜真は、メンバーから輝かしい期待と、鉛のような重圧を寄せられていた。
 竜真の敵前逃亡により、東軍はあえなく敗退。それまでは優位に戦況を進めていたものの、彼の失態一つで大きく逆転を許してしまったのだ。その時は、『仕方なかった』と言う事で無罪放免となったが、冬の陣となるとそうも行かない。
 冬の陣は三年にとって最後の闘覇祭であり、彼らの今後を決める分岐点であり、今迄注目されて来なかった者にとっての、最後のチャンスだからだ。
 その時は西軍の中堅として参加したが、不調と八百長が相待って敗北せざるを得ず、結果的に自軍を敗北に導く事となった。
 もちろん弁明しようと試みたが、誰も耳を貸そうとしない。
 それ以降、竜真は晴れて不名誉この上ない『恥知らず』の異名を頂戴し、全校生徒から煙たがられるようになった。
 まるで、彼女と逆の人生を歩むように。

「あいつに謝らなくちゃいけないし、今年こそはマジにやりますよ」

 竜真は絞り出すように、ぎこちない笑みを浮かべて言う。
 彼女の誇りを傷付けてしまった今、彼に出来るのは謝罪だけだ。
 下っ端の使い走りでも構わない。
 彼女に一言謝る事が出来るなら、それでいい。
 それに、二年である彼は今回を含めると四回、闘覇祭に参加出来る。だが、三年の彼女は今回の夏の陣を含めても、あと二回しか無いのだ。
 竜真は壁をもたれかかり、天井を見上げながら続ける。

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22 :黒帽子
2022/07/01(金) 00:00:53

超掌編
「忍者・雲隠十三 盆邪城の巻物」

江戸内海に突如流れ着いた巨大な城があった。その名は盆邪城。
異国のにおいが立ち込める盆邪城、その中には膨大な秘宝が数多く眠っているようだった。
幕府はこの城を怪しく思い、兵を出しては追い払おうとしたのだが、城の守りは堅い。よほど秘密にしたいものが保管されているのだろう。
ここで最終兵器ともいうべき忍者、雲隠十三を呼び、盆邪城への潜入任務を言い渡した。
十三は生きて帰れる保証のない魔城へと足を踏み入れたのであった。

「これが盆邪城、それにしてもけったいな見た目だな。城も門番も。」
門番も某氏を外せば半球上、詰襟の服を着ていた。門番は城に入れる唯一の橋を通せんぼするかのように守っている。堂々と近づくことは死を意味するものである、十三はそう認識し、クナイを門番の首にぶつけた。

「あべし!」といったかどうか定かではないが門番はそのまま海へと落ちていった。
次の門番が出る前に十三は橋を渡り、盆邪城の中へと入っていった。
次から次へと怪しそうな集団が現れる。面と向かって戦いが長引くと確実に殺されるため、十三は的確に急所を狙う作戦を実行した。一瞬にして積み重なる兵の山。十三は大急ぎで城の上部を目指した。

城の最上階にて主が待ち構えていた。主は鎖で繋がって二本の鉄の棒を規制を上げながら振り回している。
「アチョオオオオオオ!」
迷わず忍者刀で応戦する十三、つばぜり合いがしばらく続いたが壁に追い詰められ、城主が優勢となってしまった。
十三は迷わず股の下を潜り抜けるよう滑り、背後からぶすりと一撃をくらわした。

「そ、そこの巻物だけはくれてやる。これで勝ったと思うなよ」
城主はこう言い残し、息絶えた。

十三は大凧で城を脱出し、江戸城に巻物を献上した。しかしそれは白紙であった。
これは現代でいうトイレットペーパーのようなものであったからだ。

十三は試合に勝ったが勝負に負けてしまったのであった。

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23 :げらっち
2022/07/01(金) 00:09:50

読み終わった
まさに3つのお題を対等に詰めましたという感じ
某氏は帽子?
センガクの時から相変わらずの淡々とした飾らない描写
小説としてどうなの?と思うところこそあれオチは笑ったのですべて許すwww

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24 :げらっち
2022/07/01(金) 00:47:42

>>19-21 読了。
女子からのいじめ、乱交の濡れ衣をかけられるってのはなかなかハードだね。

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25 :迅
2022/07/01(金) 14:37:03

「有終の美……なんて洒落た言葉を使うつもりはないですけど、せめて最後の闘覇祭くらい、アイツには心から楽しんで欲しいじゃないですか」

 竜真はそう言って、玲奈の方を見る。
 その顔に迷いはなく、『何があっても成し遂げる』と言う確固たる決意が宿っていた。

「説得するだけ無駄……って奴だな。良いだろう、そこまで言うならやってみせろ、石動竜真」

 玲奈は小さく微笑み、竜真の肩を叩く。
 その言葉に込められた声色は、かつて『比翼』と呼ばれ畏怖と尊敬を集めた最強の騎士の声ではなく、生徒の背中を押す教師そのものだった。

***

 『雷電女王』こと学園一位の騎士・一ノ瀬彩華《いちのせあやか》は、書類を脇に一人で廊下を歩いていた。

「あの人、『雷電女王』の一ノ瀬会長だよな?」
「あぁ、今日もなんてお美しい……」
「でも怖くねぇ?なんかこう、すげーピリピリしてそうで」

 廊下、大通り、教室と言った学園内を歩く度に、畏怖と尊敬の念に満ちた視線が送られて来る。一年間も浴び続ければ、もはや慣れた物だ。
 ここ最近発行された学園新聞では、彼女の話題で持ち切りだった。その内容は、『大型デパートを占拠したテログループの鎮圧』と言った実戦記事や、『校内での霊装使用規則の改定及び改善』など、多岐に渡る。生徒会室には連日新聞部や外部企業が押し寄せており、その予約の数はなんと、卒業する間近まで埋め尽くされていると言う。
 容姿端麗、才色兼備、文武両道
 史上最年少で『英傑』の称号を得た彩華は、紛れも無い天才騎士であるが、彼女は決してその才能を無闇に振りかざそうとはしない。
 何故なら、彼女は理解しているからだ。
 この力は、悪を挫き弱きを守る為に在る物であり、決して私利私欲のために振るって良い物ではない事を。彼女が放つ抜刀術は、轟く雷鳴の如く悪を斬り断つ。

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26 :迅
2022/07/01(金) 14:59:04

 故に、着いた二つ名を『雷電女王』。
 彼女の才能と、鬼神の如き闘いぶりから、畏怖と尊敬の念を込めて付けられた二つ名。
 彼女は全校生徒から慕われているが、同時に恐れられてもいる。彼女の怒りに触れようものなら、一瞬のうちに切り刻まれると言う、脅し文句が生まれるくらいに。

「あ、あの、会長。荷物、お持ちしますか?」
「お気持ちだけ頂戴します」
「会長、昼の会議ですが……」
「今は多忙ですので、草加さんに向かわせます」
「か、会長!お誕生日……おめでとうございます!」
「後にして頂けますか?今は雑用に割いてる時間はないので」

 次々とやって来る生徒達に対応しながら、彩華は生徒会室の扉を開ける。
 そして机の上に書類を置くと───

「あぁ〜ん!疲れたぁ〜!」

 溜まっていた本音を盛大にぶちまけた。

「もうやだぁ〜!生真面目生徒会長やだぁ〜!彩華、コーヒーじゃなくてタピオカ飲みたい〜!」

 机に突っ伏し、言いたい事を叫ぶだけ叫ぶ。
 キャラ崩壊も良いところである。

「……そんなに疲れるなら、素で行けば良いのに」

 漫画を読みながら彼女を慰めるのは、副会長である木美月蓮《きみづきれん》。情報収集を得意としており、自ら前線に立つ事は少ないが、裏方作業で彼以上に頼りになる者はいない。

「そうですよ!アヤセンパイは可愛いんだし、きっとモテますよ!」

 トレーニング機材をガシャガシャ鳴らしながら励ますのは、会計を務める柳瀬清丸《やなせきよまる》。こんな名前だが立派な女子であり、二年生にして学園三位の実力者だ。
 二人の言いたい事も分からなくはないが、彩華は自身が『雷電女王』として周囲から畏敬の念を集める事で、蓬莱学園の平和は保たれていると考えている。その考え自体は間違っておらず、事実彼女が生徒会長となってからはある一例だけを除き、蓬莱学園の生徒による一般人への暴力沙汰や、生徒間での大規模な喧嘩の数は見る見る内に激減した。
 それも全て、彼女が『雷電女王』として粛清に回っていたからだ。
 情け容赦の一切を無くし、冷酷に振る舞わなければならない。
 『一ノ瀬彩華』は全校生徒から慕われる生徒会長であり、『雷電女王』は、学園内の人間から畏怖される存在でなければならない。
 この身一つで学園内の平和が約束されるなら、それは生徒会長として本望と言うもの。

「私が恐がられてるから、この学園は平和なんだよ?それなら───」
「それは違いますよ、彩華さん。あなたの身体一つで、この学園の平和が保たれている訳ではありません」

 彩華の口から出かけた言葉は、背後からの声でかき消される。
 その声の主は、つば広帽子を被ったお嬢様然とした装いの少女・桐生院佳奈子《きりゅういんかなこ》。生徒会書記を務め、彩華に次ぐ学園二位の騎士。
 時には『特務騎士』として、彩華と共に犯罪者の鎮圧に出る事もある。
 彼女とは小さい頃からの付き合いで、一人で全てを背負い始めようとした彩華の良き理解者だ。

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27 :迅
2022/07/01(金) 21:26:46

 佳奈子は彩華の背後から手を回し、優しく抱きしめる。

「この学園が平和なのは、生徒達の協力があってこそです。貴方一人の責任でもなければ、貴方だけの使命でも無いのです」

 そして、まるで子供を諭す母親のように彼女は告げる。
 しかし、彩華の方から帰って来たのは、歯切れの悪い返事だった。

「分かってる、分かってるよ……。でも、私がちゃんとやらなきゃ、アイツはいつまで経っても認めてくれないんだもん……」

 彼女は、自身の思いを打ち明けるように言う。
 彼は、常に彩華の事を第一に考えてくれていた。同時に不治の病に侵されていた幼少期の彼女は、彼を必然と頼らざるを得なかったのだ。
 だが、今は違う。
 不治の病に見事打ち勝ち、剣の腕を鍛え、13歳になる頃には、本気の大人に勝てる程に成長した。
 それなのに───

「それなのに!なんでアイツはあんな醜態を晒した訳!?」

 先程の落ち込みようはどこに行ったのか、彩華は頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。それ程までに、あの決着のつき方に対して、彩華は納得していなかった。
 当たり前───と言えば当たり前だろう。
 相手の試合放棄による勝利など、偽りの勝利でしか無い。

「しかも、あろう事かアイツは!まるで何事もなかったかのように平然と接して来たんだよ!?」

 彩華の怒りに呼応するように、蒼白い稲妻が彼女の身体から迸る。
 行き場のない怒りが充満し始める中、平静を取り戻した彩華は小さくため息をつくと、意中の男性への想いを絞り出すように呟いた。

「……私は、アイツが逃げた理由を知りたい」

 ───そして、本当の意味での決着をつけたい。
 目尻から蒼い雷光を靡かせながら、彩華は続ける。『恥知らず』と呼ばれた幼馴染・石動竜真が、自分の前から逃げ出した真相を知り、それを理解した上で、完膚なきまでに叩き潰す。
 それが、今の自分が出来る最大限の恩返しなのだから。

「私が闘覇祭に参加出来るのも、今回を含めてあと二回……最後くらい、アイツにも華持たせてやりたいじゃん?有終の美……なんて言うつもりは無いけどさ」

 先程までの迷走ぶりが嘘のように、彩華は凛とした表情で言う。
 その為にも、今月開催される『夏の陣』では、西軍総大将を務める『一ノ瀬彩華』として、蓬莱学園一位の座に君臨する学園最強の騎士・『雷電女王』として、もう一度自分に挑んで来るであろう『恥知らずの騎士』と、全力を以って対峙しなければならない。
 きっと───いや、あの男は絶対に東軍総大将の座に返り咲き、私を待ち構えるだろう。
 そうなった暁には、彼は数多の人間を味方につけている筈だ。
 彼女は椅子から立ち上がると、今最も信頼に足るメンバーの顔を見渡し、彼らに伝える。

「私は、石動竜真に完膚なきまでに完璧な勝利を収めたい。だから───」

 私に、力を貸して下さい。

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28 :迅
2022/07/01(金) 21:29:22

恥知らずの刺客騎士《ステイヤー》
これ以上投稿すると10レス超えるんで、今回はここまでにします。一人で使う訳じゃないし、流石にね
本当は、竜真が逃げ出した理由や、彩華の竜真に対する本音も描きたいところだけど……まぁそこはボチボチ書いていこうじゃねーかって事で

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12 :黒帽子
2022/06/29(水) 07:32:56

今日明日で書く
🍊でも明日中に出す

2 :やっきー
2022/06/20(月) 16:15:31

 ねえ、認めてよ。
 ねえ、なんで?
 ボクがいくら問いかけても、柵の向こうの奴らは、ボクの声を無視する。
 短い手足も、太い首や体も、ボクの個性じゃないか。確かに君たちとは違うかもしれない。でも、だけど、これがボクなんだ。
 ねえ、認めてよ。
 ねえ、なんで?
 答えてよ。ねえ。ねえ! ねえ!!
 ボクを柵の中に閉じ込めて、何がしたいの?
 ううん、本当はわかってる。彼等が何を望んでいるのか。
 ボクと同じように閉じ込められた仲間は、欲だけで動いている彼等に連れていかれてしまった。
 嗚呼、ボクの番が来たようだ。彼等の仲間が、|足枷《あしかせ》と首輪を持って、ボクに近付く。
 もがいてもがいて。でもそいつは、ボクの動きを無理矢理封じる。

 ボクは最後の足掻きで、こう叫んだ。
















「出荷しないでええええ! プギイイイイイイ!」













 ※この物語はフィクションです。

3 :やっきー
2022/06/20(月) 16:23:38

※カキコにも載せたことがあるものです。

ねえねえ、ぼくたち綺麗でしょ?
ふわふわな衣に鮮やかな赤。きらきらの水によく映える。

ねえねえ、わたしたちかわいいでしょ?
小さなガラスに閉じ込められて、小さくて弱くて。まるでただの鑑賞物。

ねえねえ、ぼくたち綺麗でしょ?
なのに水は汚れてる。酸素をちょうだいご飯をちょうだい。

ねえねえ、わたしたちかわいいでしょ?
なのにどうしてこっち見ないの? あなたが連れてきたんでしょ?

ねえねえ、ぼくたち綺麗でしょ?
君たちとは違う儚い命。もっと大事にしてよ、ねえ。

ねえねえ、わたしたちかわいいでしょ?
動かなくなっても水槽の底に沈んでも。

ねえねえ、ぼくたち綺麗でしょ?
ぼくたちこのあとどうなるの? 箱の外を見たかった。

ねえねえ、わたしたちかわいいでしょ?
ふたりでゆらゆら。ふたりでひらひら。

ねえねえ、ぼく綺麗でしょ?
沢山いたのに一人になった。

ごめんね、君を残してもういくね。

4 :やっきー
2022/06/20(月) 16:29:56

 おれはずっと前から、『奴』の存在を知っていた。
 だけど、見ないふりをしていた。だって、見たくないのだから。
 そうやって、限界まで、今日まで、『奴』を無視して生きてきた。
 そして今日、『奴ら』はおれたちの前に現れた。おれたちの人数分、『奴ら』はいた。

 これは罰だ。怠惰の限りを尽くした、おれへの。

『奴』の存在。襲ってくる時間。現れる場所。おれはその全てを知っていたのに、それらを無視した。
 なんの準備もしないまま、なんの備えもしないまま。

 あるものは勇敢に戦い、あるものは戦いを放棄し。おれも、戦わなければならない。

 わかったよ。もう、逃げない。

 いや、この感情は、『諦め』に近いだろうか。
 なんでもいい。とにかく戦おう。剣よりも強いこの武器を手に取って。

 おれは『奴』を睨みつけた。『奴』はピクリとも動かない。ただおれを嘲り笑うかのように、そこにいるだけだ。

 おれは『奴』に向かって、武器を突き立てた。やや丸みを帯びたその武器は、『奴』の体を貫通することは無い。
 そのまま滑らかに武器を動かす。『奴』は動かない。ただそこにいるだけなのに、おれは押しつぶされそうなプレッシャーを感じる。

 小一時間ほど、おれは休むことなく戦った。やがて『奴』は、『奴ら』のボスにより撤退させられた。

 終わったのだ。勝利も敗北もない、ただお互いの意思をぶつけ合うだけの、無駄な戦いは。

 おれは歓喜のあまり、腹の底から叫んだ。






「ぃよおおおおっしゃぁぁああああああ!!!!!! テスト終わったあぁぁぁあああああ!!!!!!」