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193.『戦隊学園』制作スタジオ
 ┗76-95

76 :第2話 1
2021/06/04(金) 22:46:09

私は布団にくるまって、モゾモゾと体を動かしていた。
眠れない。
枕を甘噛みし、ティッシュの横のスマホを引き寄せて時刻を確かめる。

「2時――」

午前2時。明日は早いのに。
私は面倒くささを押し潰し、布団から出ることを決意する。
「トイレ。」

部屋に隣接するトイレで用を済ませる。
ウォシュレットも完備されており大変助かる。
布団の中では目が冴えたのに何故だろう。暖かい便座の上で、私はついうとうとしてしまった。


――僕が何故君をこの学園にスカウトしたと思う?ずっとこの時を待っていたからだ――
――白は素敵な色だ。何色にでも塗れる。今は白でも、君の好きな色に染めればいい。卒業するころには君は、掛け替えの無い仲間たちに囲まれ、色とりどりになっているだろう――


私がレジェンドレンジャーになったのはつい先日のことだ。
思い起こすと体が火照っている。
この学園を志望したのも元々、仲間が欲しい、認められたい、そんな愚直な願いからであった。
それがこうも上手くいくとは。
転がり込んだ幸運、
「これって高校デビュー?」
便器から腰を上げ、水洗レバーを捻る。
「柄じゃ無いよね七海。」

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77 :2
2021/06/04(金) 22:47:56

寝室に戻る。


ふすまを開けると私はゾッとして硬直した。

薄暗い部屋、畳に敷かれた布団。
その上では女がうつ伏せでスマホをいじり、脚をブラブラさしていた。

「ねえ、そこ私の布団なんだけど。」

女はこちらを見た。
「よくね?」
「どいて。寝るから。」
私は女をどかせようとする。しかし相手の方が先に手を出し、私の手首を掴んだ。
「そんなに楽しみなのかな?」
彼女は私の1つ年上の先輩であり、この学生寮のルームメイトである。
「離してくださいミドリ先輩。」
私は手を引き抜こうとするも凄い力で掴まれ痛い。

「素直に言っていいんだよ?明日が楽しみだから。早く寝たいから、ウザ絡みすんなって。」

面倒くさい。
でも正直に言う方が得策だろう。

「明日がどうとか関係なく、夜中まで動画見てるのは非常識だと思います。しかも大音量で。ちっとも眠れないです。あと痛いから早く離して。」

「わーざーとぉですぅー!!」
ミドリは鼻の穴を膨らませて笑った。
「うちは何度もLR(LEGEND RANGER)落とされてんのに、あんたは入学初日に決まるなんて――ねぇどんな手を使ったの?お金?それともあの変人好きの先生に、身体で払ったのかな?」

私は衝動的に腕を振り払った。
「先生をそんなふうに言わないでください。」

「わぁ怖~い。好きな男のために必死だね?でもさ知ってる?志布羅一郎という男を。」
ミドリはゲス笑いすると、私の目鼻の先にスマホを突き付けた。

私は眉間にしわを寄せて眩しい画面を見た。
ぼやけている上に遠目でわかりづらいが、男性教師が女子生徒と人目をはばかって校舎裏に居るのを上階から隠し撮りした、そんな写真に見えた。

「これうちの体育館なんだよね。」と、ミドリ。
「4年前、それに去年、それぞれ教え子の女に手を出してる。ちょぉーっと、左巻きの子ばかりを狙ってね。」
ミドリは指をくるくる回転させて小馬鹿にする。
「まさか・・・!」
確かに写真の教師は、志布羅一郎の背格好に近かった。

「これはうちがこっそり撮ったやつ。彼、校長のお気に入りだからどちらも無かったことにされたけどね・・・あんたもその1人・・・かもね。」
ミドリはしてやったりの表情だ。

私は相手の顔に掴みかかった。

「人でなし!!」
ミドリは「変身!」と叫ぶとミドリ色の戦士となり後ろにステップした。
「先輩に手を出したら、退学――」
ミドリは何か小さな道具を取り出す。メタルの持ち手に、鋭い針の付いた武器。
「マイナスドライバー!」
私は間一髪で左にかわす。反応が遅れれば私の右肩に針が貫通していただろう。

「でもさ、後輩をしごくのはおっけいなんだよねぇ。つまりうちはあんたを半殺しに出来る!あんたはやり返そうもんなら、校則違反で退学となる!単純明快!!」

ミドリはマイナスドライバーをひゅんひゅんと突いて攻撃する。
私は転がるように避ける。「そこ!」ドライバーが突き下ろされ、ドスッという音と共に畳に突き刺さった。
私は枕元のガクセイ証を手に取り、
「変身。」
白の戦士となる。
「やり返すのかな?」
「上等です。」

「プラスマイナス!!」
ミドリは両の手に武器を構え同時に突いた。
「ぎゃう!!!」
私はけだもののような声を出して。
その針を手のひらで受け止めた。
「!!?」
針は2本とも、ポッキリと折れていた。

「その程度だから留年して今年も1年生なんですよ、ミドリ“先輩”――」

ミドリは私と同級生なのだ。

ミドリは一心不乱に、私に飛び掛かった。
「なめんなよおおおおお!!!」

「针!」

まるで、ハリセンボン。
私は体中から棘を出した奇怪な格好になった。ミドリは串刺しになり甲高い悲鳴を上げ、倒れ、床を転げまわった。

「いだああああああああい!!!!」

「同級生じゃその校則は適用されませんし、そもそも、後輩に負けたなんて誰にも言えませんよね。ではおやすみなさい。」

私は横になると、頭から布団を被った。
運動したので今度こそよく眠れそうだ。

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78 :3
2021/06/04(金) 22:53:39

早朝5時――
私は音の立たぬように扉を開け、ひっそりと部屋を抜け出す。

本日は土曜日。明後日からの本格的な授業に備えて、ほとんどの生徒はまだ寝ている頃だ。
靴下でペタペタと廊下を歩き、突き当りの下駄箱に到着。自分のスニーカーを取り出し、しゃがみ込んで履く。
入り口の自動ドアは電源が切られているようで、私が傍に立っても開かない。
私はガラス戸を自力で横に引いて開け、学生寮の外に出た。


早朝の戦隊学園はすっぽりと霞に覆われていた。
てくてくと道を歩いていくと、ランニングをしている2、3人の生徒とすれ違った。自主練とは偉いものだ。
校庭脇のトイレを抜けると赤い石像が目に入った。
「誰なんだろ。」
よくわからないが由緒ありそうな戦士たちの像が、10mおきに5つ置かれていた。
「赤・青・黄・緑・ピンク。」
私はその横を通るたびに色を口に出した。誰なのかは台座の説明書きを見ればわかっただろうが、読む気も起きず、素通りした。


やがて私は東門に辿り着いた。
水門のように大きくて威圧的な正門とは違い、東門は実にこぢんまりとしていた。
民家の勝手口ほどの大きさしかない木の門。背の高い男性なら頭をぶつけてしまいそうだ。
「こっそり出るにはうってつけ」

門の傍には5人の大人が立っていた。

「おはよう!」
1人は志布羅一郎だ。燕尾服を着ている。
「おはようございます!」
私は明瞭に発音した。

「今何時かわかってるのか?2分遅刻だぞ!チーム戦は1分1秒が運命を決めると習わなかったのか?」
こう告げたのは青い蝶ネクタイを付けた男性教師。
「・・・授業はまだ始まっていないか。このへんは全クラス必修の“戦隊体術基礎”で叩き込んでやるからな。」
彼、つまりレジェンドブルーは早口でそう言った。

「ごめんなさい。学園がこんなに広いとは知らなくて。校庭をぐるーっとを迂回してきたんですけど。」

「言い訳はいい。その恰好は何だ?」

楽団のような正装をしている5人。
それに比べて私は水色のパーカーを頭からすっぽりとかぶり、ポケットに手を突っ込んでいた。
しかもサングラスをかけて。
教師陣からすれば私は、柄が悪く礼儀をわきまえない、非礼な生徒に見えただろう。

「問題ない。」
と、志布羅一郎。
「出立だ。」
彼が指揮棒を上げると、ガコンと門が開く。
ピンク・緑・黄・青の順で身をかがめて素早く門を出る。
「君もだ。」
先生が私を見る。
「先生。」
私は門を出る際に、1つだけ訊こうとした。
「何だ。」

――先生が生徒に手を出したという、あの噂――

「やっぱり何でもないです。」
私は門をくぐった。

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79 :4
2021/06/04(金) 22:56:11

Mt.(マウント)マンス
 ――機械で出来た人工の山であり、イヤー軍の本拠地である――

まるで廃墟の中を歩いているかのようだった。

「不気味ですね。」

自分の声がぐわんぐわんとこの空間をこだまする。
志布羅一郎が振り向いて「どうした?」という顔をする。
「先生、私おなかすきました。このままだとダウンするかもです・・・」
「さっきL-jetで食べた分が全てだ。腹が減っては戦はできぬと言うが、その反対も然り。満腹になると眠くなる。少しおなかがすいているくらいが一番神経が研ぎ澄まされるんだよ。」
「なるほど。」
私は適当に相槌を打った。


私たち6人は高台に立つ。本日も曇天。

見渡す先には巨大なビル群が、ジェンガの様にアンバランスに積まれていた。そのどれか1つを取っても今にも崩れ落ちそうだ。
これが敵の本丸か。

ブルーが呟いた。
「二千は居るな。」

鳥肌が立った。
不格好な天守の周りはしづかであった。
だが眼下をよく見ると、灰色の迷彩に身を包んだ無数の兵士たちが、銃を構えまるでチェスの駒の様に佇立している。

「デー兵だ。」
「動かないの?」
「命令があるまでは――もしくは、こちらが攻撃しない限りはね。七海、これは実に簡単な任務だ。」
先生は私の背中に回ると、両肩に手を置いた。
「校長からのお達しは、将軍プリエルの死でお留守になったイヤー軍の本拠地を攻め落とすこと。それはつまり、世界を征服せしめんとすイヤー軍を、壊滅させろということだ。」

「壊滅?」
今日はレジェンドレンジャー出動の日、そうとだけ言付かっていたのだが。
「か、簡単な任務じゃないんですか?」


「君が居れば、簡単なんだよ。」


先生は私の髪を撫で下ろした。
「終わったら2人で食事をしよう。」
「や、」
私は咄嗟に振り向いてその手から離れた。
先生は困った顔をして笑った。
「嫌だったかい?」

「嫌ではないんですけど・・・」

私はサングラスを下ろすと、青い瞳で先生をじっと見た。
先生はにっこりと笑った。


「ごめんなさい。私、先生のことすきかもです。」

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80 :5
2021/06/04(金) 22:57:44

レジェンドレンジャーの他の4人たちは、完全に蚊帳の外に締め出され、ポカンとしていた。

だが志布羅一郎だけは豪胆に笑った。
「奇想天外だね!何故この状況で!」

私自身わけがわからなかった。どうしてあのような言葉を発するに至ったのか。
私はまだ先生のことを何も知らない。その片鱗に触れただけだ。
私の知らない過去、あやまち、コンプレックス、様々な面を持ち合わせているに違いない。

それでも今は。
少なくとも現時点での、私の純粋な気持ちを知っていてほしかった。

「だ、だから!行きたいんです食事。ふ、2人で・・・」
私の白い頬は赤く染まっていただろう。

「オーケーわかった。任務が終わったら、美味しいご飯を食べよう。」

「や、やった!」

私は柄にもなく浮かれてステップを踏んでしまった。
軽率な行動だった。
「駄目だ!」とブルー。
私が蹴り上げた礫がコロコロと坂を転がり落ち、兵士の1体に、命中した。

バツンッと、何か大きなスイッチを押すような音が響いた。

「攻撃されたと判断したようだ。」
「う、うそ!」
見ると眼下の兵士たちが一斉に行進を始めた。こちらに向かいゆっくりと坂を上って来る。
更にはビル群の1つから青白いレーザーが放たれた。

志布羅一郎は言った。
「約束だ。まずは敵を片付けるぞ。」

私はガクセイ証、先生たちはブレスレットに呪文を吹き込み、瞬時に変身する。
「変身!!」
「レジェンドレンジャー!!」
この間約1秒。
レジェンドグリーンが巨大なシンバルを叩く。ジャァンという轟音がレーザーを霧散させた。

「Forward March!」

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81 :6
2021/06/04(金) 22:59:46

レッドの指揮の下、LRは各々の武器を持ち坂を駆け下りる。

「カラーガード!」
ピンクは大きな旗を振りながら先陣を切り、兵士たちを蹴散らしていく。

続くのはシンバルのグリーン、バスドラムのイエローから成る打楽器組。大きなモーションと共に道を切り開く。

私とブルーはその後に続く。
バチバチと、ビルが二発目のレーザーを充填し始めた。
「了さん!」
「かわれ!」
私はしゃがみ、後ろに居たブルーがトランペットを吹いた。突き抜けるような快音が飛び、ビルを破壊した。

鼓笛の通り過ぎた後、指揮者であるレッドがしんがりを務める。

「将軍の仇!」
伏兵の1人がダガーを手にレッドに飛び掛かった。
ピッと指揮棒をかざすと兵士は空中で身動きが取れなくなる。
「Dress Right Dress」
指揮棒をひょいと動かす。
「お次はLeft」
兵士は右に左にと、操り人形のようにブンブンと振り回された。
「やめてぇー!」
「了、お前に任す。」
兵士はトランペットのすぐ先に放り出された。金管楽器はプゥンと唸り声をあげ、兵士はバラバラになった。
「チューニングの足しにもならん。」


私たちは数多の兵士を相手に、順調に進軍していた。
そう思っていた。しかし私の前を行く3人の身に何かが起きた。
黄・緑・ピンクの3人が手足をばたつかせ、私の後方に吹っ飛んでゆく。

私は何か強大な兵器や、熾烈な攻撃が3人を襲ったのだと考えた。
だが。

荘厳で、風格のある音色が聴こえた。


何ということだろう。
戦地のど真ん中に、グランドピアノが置いてある。
正装した男性がピアノを弾いていた。
男性の頭はすっぽりと立方体の箱のようなものに覆われていた。その箱にはにこちゃんマークが書いてある。

男性は鍵盤を叩く。
心臓を直接叩かれたような衝撃が走り、私は苦しみのあまりのけ反った。
「しっかりしろ!」
背中を支えられる。
「先生、これは・・・!」
「Erlkönig(魔王)だ。お前を殺しにかかっているぞ。」

先生は敵に向けて三日月形に指揮棒を振る。
「クレッセントムーン!」
バコッという音がしてピアノから火花が散り、演奏は一時中断する。
敵は低い声でこう言った。

「音楽で、勝負しろよ。」

「お前がイヤーだな?」

「Ja. 私がイヤー軍総統、イヤーである。音楽には音楽で勝負しろよ。」

「いいだろう。」

私はというと、リコーダーを握りしめていた。
先生は赤いマスクをこちらに向け、こくりと頷いた。
私も頷く。
ウインドウェイ(息を吹き込むところ)をマスク越しに口付け、優しく息を吹き込んだ。

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82 :7
2021/06/04(金) 23:01:29

これは昔の吹奏楽コンクールの、課題曲ともなった旋律。
晴れ渡る空を想起させるこの曲は。


 『 ブルースカイ 』


イヤーの弾く威厳のあるクラシックにも負けず。
私のリコーダーから、透き通った音色が飛んだ。

その音は素朴で、どこか、儚かった。

「ああああ!!」
「ああ・・・うああ!」
兵士たちはダガーを、ライフルを、ウォーハンマーを次々と取り落とした。
この無垢な音の前に、戦意は役に立たなかったのである。

イヤーは淡々とピアノを弾き続けた。
「武器を拾え。イヤー軍が世界に秩序と安寧をもたらすんだ。」
だがその声は、明らかに狼狽していた。
「世界は独裁者を必要としていない!」
先生は叫んだ。
「世界が求めているのは、自由だ。」

曲目はサビに差し掛かった。
頭の中に浮かぶのは、自由で広い大空。

「優美な音色ときめ細かい指使い。目が見えない者は聴覚が優れると言うが。」と、先生。
「だが小豆沢七海は盲じゃないだろ?」とブルー。


ドレミファソラシド、その七音が七色の虹となった。


「私、一度この目で虹を見てみたくて。この曲を聴いて、青い空にかかる虹は綺麗なんだろうなって思うんです。」

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83 :8
2021/06/04(金) 23:03:47

「ぐぅうう!」
イヤーは拳で鍵盤を叩き破壊した。ガァンという音、血飛沫が飛ぶ。
「何だ・・・この感動は・・・!」
「音楽に於いても僕らの勝ちだ!」
先生は指揮棒をクロスに振る。イヤーは切り裂かれ、悶絶して倒れた。

「レジェンドタイフーンでとどめだ。Pink!」
「Green!」
「Yellow!」
「Blue!」
「White!」

お決まりの技、光の弾がこちらに飛んでくる。
「先生!」
私はキックで最後の一撃を先生に託した。

「Finish!!」

先生は大きくジャンプし空中で弾を蹴る。
弾はへろへろと飛び、ポトリと落ちる。
「え?」
着弾と同時に深緑色の重機が現れた。
見た目はタンクローリーのようで、ホースが付いている。そのホースが蛇のように伸び、イヤーに吸い付いた。

「レジェンドタイフーン・バキュームカー。」
キュボボという嫌な音、哀れイヤーは吸い込まれる。
「む、無念・・・!」
バキュームカーはホースをシュルシュル収納すると、何事もなかったかのようにどこかに走り去って行った。

私は尋ねた。
「バキュームカーって何ですか?」
「何ていおうか・・・汚物を吸い込む車だよ。知らないのも無理ない。僕が生まれたころには既に見かけなくなっていたからね。」

武装解除された兵士たちは白旗を振っている。

「ブラボーだ。」
先生は変身を解いて、パチパチと拍手しながら私に歩み寄った。
「ありがとうございます!」
私も変身を解き、サングラスを外す。

いつもムスッとしている私。でもこの時だけは、自分がにかっと微笑んでいることに気が付いた。

次の瞬間どす黒い刃が先生の胸を貫いた。

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84 :9
2021/06/04(金) 23:04:50

「先生?」
先生は、バッタリと倒れた。
「羅一郎!」
「罠だ!」
「ぎゃああああ!!」
何か大きくて真っ黒なものが駆けまわり、敗残兵たちの命を次々と刈っていった。
だが私には周りの状況などどうでもよかった。ただ先生に駆け寄り、起こそうとした。
先生はうつ伏せに倒れた状態で腕をピクリと動かした。
「まだ生きて――!」
「小豆沢七海、もう一度変身しろ!」ブルーの声。
私はガクセイ証を手にしようとするがそれよりも先に。
「!?」

頭部に熱いものを感じた。
私が、いちばん苦手なもの。
日差し――
でも今の今まで、曇り空だったはず。
私は迂闊にも空を仰いでしまった。

曇天が、パッカリと割れた。

空だと思っていたものは空ではなく、巨大なスクリーンに映し出された幻影であった。
本当の空は真っ青の、快晴であった。

「ああ・・・あ・・・!」
私の視界が白んでゆく。
「ああああああああ!!」

空の中心にあったのは、大きな大きな太陽。

「どうした小豆沢!」
私は目を両手で覆い、地に突っ伏した。
「やだあああああ!!!!」


私は失明した。

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85 :10
2021/06/04(金) 23:06:31

私は真っ暗闇の中で。
楽器の不調和音、惨たらしい殺戮の喧騒、死にゆく仲間たちの悲鳴、それらをただ聞いて居る事しか出来ない。
「なんだああああ!!」
「罠だ!」
「グリーン、しっかりしろ!」
「撤退だ」
「やめろ、うわあああああああ」
「立て!」
「野郎!!」
「ああああああああああ」
私の周りで。
すぐ近くでの出来事なのに、それを視認することが出来なかった。
「戦うってレベルじゃねーぞおい!」
指揮者を失った楽団は未知の敵の前に歯が立たなかったのだろう。青、黄、緑、ピンクの光が消えていくのがわかった。

「見えないぃ・・・」
私は地を這って、白い靄のかかった真っ暗な世界からの脱出を試みた。
次にそれ以上の恐怖が訪れた。



ぴたりと静寂。



全ての音が消えた。



「誰か!!」

自分の声が空しく聞こえた。どうやら耳を潰されたわけでは無いらしい。
ビクンと1つ、私の心臓が大きく脈動した。

何かが近付いて来る。
視覚情報ではなく直感から察した危機だ。
するりするりと私に向けて、邪悪が迫っている。
私は残る4つの感覚と、全神経を集中させて、それが何か探った。


「真っ黒。ていうか、黒すらない、何も無。ぽっかり空いた穴みたい。」


「正解だよぉ!!」
この血なまぐさい状況とは不釣り合いな、甲高く、甘ったるい声が答えた。

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86 :11
2021/06/04(金) 23:08:17

敵は女か。

「久しぶりだねぇ!はいこんにちはぁ~!!元気がないね?こ~んに~ちはぁ~~!!」

呼吸が止まるかと思うほどの勢いで下腹部を蹴られ、私は飛んだ。
「げほっ!」
4、5回転して固い地面に叩きつけられる。

「挨拶くらいしてよぉ!やだなぁ!」

まるでブラックホールのような。周りのヒカリを、色を、全て喰い尽くしてしまうほどの闇が、私に話しかけていた。
この闇には覚えがあった。

「ちっとも変わらないねぇ。七海ちん。」

「芽衣。」

小学校の時、毎日のように一緒に帰った、クラスメイト。

「ブッブーはずれぇ!七海ちんにいじめられていた、芽衣じゃぁりませ~ん!!アタシはミルキーーメイ!アンタを真~っ黒に染める者。」
そいつの声を聞いていると私の頭はガンガンと痛んだ。
何が何だかわからない。だが断片的に認識した情報が、私の記憶との齟齬を生んでいた。
「私、人をいじめたことなんて、無い!」

「どぉかなぁ。真っ白な七海ちん。アンタが光に弱いって知ってんだよねぇ。1年中長そでにサングラス。光が強いとナンにも見えなくなっちゃう。だからぁ、アンタをここにおびき寄せて、とーっておきの罠で、目潰ししたのぉ!」

待ち伏せされたんだ。
芽衣は私を憎悪し、殺そうとしている――!

激痛が走った。

鋭い刃を、みぞおちに押し付けられた。
「ぐぅっ!!」

「聞いてるぅ?アンタを真っ暗闇に閉じ込めてあげたんだよぉ。一生ね」

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87 :12
2021/06/04(金) 23:09:51

焦げ付くように熱く、息ができないほど重い。
刃でみぞおちを抉られる。体がよじれ、感覚が痺れていく。
「っっっっ!!!」
私は悲鳴を押し殺し、歯を喰いしばって耐えた。
痛い、怖い、苦しい、やめて、助けて、許して――そんな弱音は、絶対に口にしたくない。

「カワイイ顔が台無しじゃんかぁ。ブッさいくぅ。泣き叫んで、命乞いするのが見たいのぉ!」

次に私は毛髪を掴まれ、無理矢理起こされた。
ことのほか大きい手だと感じた。
相手は女のはずだ。だが私の足は地面を離れ、宙ぶらりんになった。相手は剛力で、背が高い。

「なーなーみちんっ」

鼻の頭に生暖かい息がかかる。
不気味でどこか、甘美な吐息。私の顔のすぐ近くに相手の顔があるようだ。

「かわいいいい!!」

バキッとすごい音。私は殴られた。
鼻がひん曲がり、口の中が血の味で一杯になった。
仰向けに倒れる。
目は見えないが、日差しが私を照らしているのがわかった。メラニンの無い私の肌が、焼けるように痛む。

私は死を予期し、声を枯らして、叫んだ。

「学園が総力を挙げれば、あなたなんて、て、敵じゃないから!」

その時の私は威勢がいいというよりむしろ、雑魚の台詞を吐いているようだった。
「・・・ふぅん。いいね、今の。必死さが伝わってキュートだよぉ。」

相手はけらけらとか細く笑う。
そして。
「じゃあアタシ、もう行くから。」

「え?」
邪悪がフッと、私の傍から消えた。
「どこ!?」
完全に消えていた。
敵は私にとどめを刺さずして、去ったというのか。


再びの静寂の後、絶望的な音声が流れた。


『イヤー敗北により、Mt.マンスは1分後に爆破される。誰も、生きては出られない。絶望を、恐怖を、感じて、しね。』

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88 :13
2021/06/04(金) 23:11:21

1分以内にここから脱出するのは不可能だ。
何しろ私は視界を塞がれている。
視界――
そうだ。

私にはもう1つの、視力があるんだ。

私は“目”を凝らした。
この真っ暗闇の中、“色”を探すため――

あった。

向こうに、赤い光が見える。
弱々しくても間違いない。あれは。

「先生。」

あれは先生、志布羅一郎だ。
声を発することも、動くこともできないのだろう。
それでもまだ生きている。
私は地面を這いつくばり、その赤い光に近付いた。

「あの時みたいに。昔、カイブツとなった私を救ってくれた時みたいに。お願いです、私に話しかけて下さい。」


「七海。」

願いは叶った。

「せんせ!!!」

志布羅一郎の声が、私の心に直接語り掛けてきた。

「君との約束、守れなくてすまない。だが僕の弱さ故に、君を死なしてしまうことはできない。僕の指揮棒を取れ。これでL-jetを呼ぶことができる。」

「失礼します。」
私は手探りで、先生の燕尾服の胸ポケットに手を入れた。そしてあの指揮棒を引っ張り出した。
指揮棒を天に掲げ叫ぶ。
「来いL-jet!」
すぐさまキーンという轟音が近付いてきた。
停泊していた専用機が私のすぐ傍にやってきた。アームが伸び、私をピックアップする。

爆発までの猶予はもう10秒と無かったろう。
「先生もいっしょに!」

「僕はもう助からない。5人が死んでも、1人が任務を全う出来ればそれでいい。それが戦隊だ。君だけは生きろ。」

「そんな!」

「何もできなくてすまない。最後に君に、光をあげよう。さようなら七海――」

「先生!!」
私はL-jetに収容された。何も見えない目から一筋の涙を流して。
「さようなら!」

L-jetは上空に向けて垂直に飛翔した。ぐんぐんと高度を上げていく。
直後、Mt.マンスは崩壊した。
何もかも消し飛んでしまうような爆音で空間が揺れ、衝撃波が走った。


あの赤い光は消えてしまった。

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89 :14
2021/06/04(金) 23:13:08

真っ暗闇――















―――――。

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90 :15
2021/06/04(金) 23:13:32

真っ白だった視界に、ぼんやりと色が戻ってきた。
「ん――」
私は固いベッドの上に居た。
自分の部屋でないのは確かなようだ。左向きに寝転がると、薄暗い机の上で見慣れぬ置時計が針を打っている。
今が何時なのか、目が霞んで読み取れない。
体を起こし、顔をぐーんと時計盤に近付ける。

針は4時10分を指していた。

午前だろうか。午後だろうか。
薄暗い部屋はパーテーションに仕切られており、隣の部屋から漏れている光で何とか周りが見渡せる程度だった。

私はベッドから足を下ろす。
「っ!!」
しかしすぐには立ち上がれなかった。ひどい頭痛と眩暈、全身がズキズキと痛んだ。私はベッドに座り込む。
この痛みでようやくわかった。

「私、生きてんだ。」

私はあの地獄のような場所から生還した。
それもおそらく、1人だけ――

「!?」

誰かと目が合った。
青い目が私を見ている。いや、青い目の持ち主などそうそう居ない。

「やっぱり私だね。」

机の上の小さな鏡に、私の顔が映っているのだった。
「見えてる。良かった。」
視力が戻った事には驚いた。

「きっと先生が、最期に奇跡を起こしてくれたんだ。」

時計と、鏡と、もう1つ。机の上にはピンクの包みの小さな箱が置いてあった。
「なんだろ。」
手に取ると軽かった。べりべりと包装紙を剥がし、小箱の蓋を開ける。
いいにおい。
「チョコだ!」
バレンタインデー、カレシに送るチョコの様だった。(七海にそんな経験はないのだが。)

犬や猫など動物の形をしたカラフルで賑やかなチョコレートが6つ入っている。
私は空腹のこともあってその1つをすぐさま口に放り込んだ。

「酸っぱ」

ことのほか酸味が強かった。

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91 :16
2021/06/04(金) 23:15:02

「誰からだろ・・・」

毒が入って居る可能性など微塵も考慮しなかった。
だがこんなおしゃれな贈り物は、私へのお見舞いに誰かが置いてくれたと考えるのが妥当だろう。
だとしたら誰か。
私は机の上に、1枚の紙が置いてあるのを発見した。
紙には


『 あなたの親友より!! 』


そう書かれていた。
親友いや、友達と聞いて思い出すのは私の人生でたったの1人しか居ない。

しかもそのひとはもう、居ないはず――

「七海ちゃん!!」

私はドキッとして危うくチョコの箱を落としかけた。
パーテーションが開き光が差し込んだ。そして有り得ないことが起きた。

「楓!」

私は今度こそチョコの箱を取り落とした。そのかわりに飛び込んできた親友を両腕で抱きしめた。


「会いたかったぁぁああああ!!!!わぁああああああ!!!」


私はボロボロと涙を流し大声で泣いた。
もう我慢できない。入学したあの日からとにかく色々なことが起こりすぎていて、私にはこれしか出来なかったのである。

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92 :17
2021/06/04(金) 23:15:59

午前4時半。

「ぐずっ」
「大丈夫?」
私はベッドに座り込んで鼻をかんでいた。

「こんなに泣いたの、生まれて初めてかもしんない・・・」

楓はくじらの描かれた青いパジャマを着て私の隣に座っている。
「・・・似合ってるね、そのパジャマ。」
「ありがと!」
楓はにっこり笑った。
「また話せてめっちゃうれしい。そういえば会ったの入学の日だけなんだよね!もっとずーっと、一緒にいるみたい。」
「だね。」
色々訊きたいことはあるが、一番最初に浮かんだ質問をする。
「今日何日?」
最後に記憶があるのは4月6日なのだが。

「15いや、16だよー。もう授業も大分進んでる。あたしが退院したすぐ後に七海ちゃんがICU(集中治療室)入ったから。ほんと、入れ違いって感じ。」


私は驚嘆した。
自分が10日間も眠っていたことにではなく、楓が恐ろしい体験を平然と話していることに。

「――楓が大怪我したのは私のせいだよね。」
私は楓が死んだと思っていた。だからもう二度と、償えないものと思っていたけれど。


「本当にごめんなさい。」


「は」
楓はものすごくいやそうな顔をした。
「やめんか!生きてんだから、それでいーじゃん!それよりも七海ちゃんが心配だったよ。」
「え。」

「先週ね、羅一郎先生たちのお別れ会があったんだ・・・。」

私のみぞおちがズキッと痛んだ。
もうわかってはいたけれど。
「私以外、みんな殺されたんだ。」

「悪夢だよね・・・。」

「悪夢なら、まだいいよ。悪夢ならば醒めるから。夢じゃないこれは現実。私は明日からも、生きて行かなくちゃ。」

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93 :18
2021/06/04(金) 23:17:38

生還した私への反応は冷ややかなものだった。


文学クラスの授業は、10日分遅れている私に何の遠慮も無く進められた。
志布羅一郎に変わって文学クラスの担任となったのは、村田という、とっくにリタイアしたような教師だった。
若かりし頃はとある戦隊の司令官として腕を鳴らしたらしいその老教師の呪文のような授業を聞きながら、40居るクラスメート達は黙々とノートを取っている。

私はというと、新品でなかなか開いたまま固定できない教科書を押さえながら、何とか授業について行こうとしていた。
「先生!」
私は挙手した。
しかし耳の遠い老教師は、黒板を向いたまま答えない。
私は立ち上がって叫んだ。

「先生!!あの!!!」

「えぇ~・・・」
やっと気が付いた。老教師は名簿と私の顔を3回ほど交互に見た後。
「アズキさん。」

「アズサワです。すいません先生。私目が悪いので、一番前の席に変えてもらえないでしょうか?」

私は授業用に、分厚い黒ぶちメガネをかけていた。

アルビノは目が悪い。
日常生活に支障が出るほどではないが、小さい文字などは読めない。そしてこの老教師ときたら、豆粒ほどの文字を黒板にびっしり書くのだ。

「そりゃぁね~、生徒が1人なら、いいんですよ。」
老教師はゆっくり喋って私をイラつかせた。
「目が悪い子は他にもいるんですよ。みなさん前の席には行きたいわけですし、1人だけ贔屓するなんてことは、私の教師としての、ぷらいどって言うものが許さないわけですよ。それに最近の子は、ネットの使い過ぎなんですよ。あんたも、やるでしょ?ゲーム?それで、目が悪くなっちゃうわけですよ。アズキさん。」

「アズサワです。」
私は着席した。
と同時に、隣の席の男子生徒から声を掛けられる。

「まさか生きていたとはな。」

天堂茂である。
私は無視して、辛うじて読み取れた字をノートに書いていく。

「聞いているのか?なあ、LRが全滅したのはお前が足手まといだったからではないか?お前だけのこのこと逃げ帰って、恥ずかしくはないのか?」

私は無視を決め込む。
だが耳は塞げない。天堂茂の小声の嫌味は私の耳に入り、私の思考を釘づけにしてしまった。
気付くと私は、ノートに一度書いた文章を何度も何度も書いていた。

「聞けよ!」

天堂茂は私の筆箱を机から払い落とした。
筆箱の中身がばらばらと散らばる。
私は黙ってしゃがみ込み、それらをかき集める。

振り向いて笑う男子生徒、ひそひそ話をする女子生徒。老教師は見向きもしない。

「やはりお前がLRになるのが間違いだったんだ。僕が入っていれば、全てうまく行っただろう。」

筆箱の中に入れていた先生の形見の指揮棒が、コロコロと転がった。
手を伸ばして取ろうとすると。天堂茂はわざわざ立ち上がり、指揮棒を踏みつけた。

「志布羅一郎は人の見る目が無い馬鹿だ。死んだのも、当然かもな。」

「返してよ!!」
私は天堂茂を突き飛ばした。
「よせ!いきなり手が出るとは頭がおかしいのか?」
私は指揮棒を拾い相手の額に突き付ける。冷静になれと心の声が言う。だが止まれない。

「ぶっ殺す!!」

「品が無いな。」
天堂茂は目を細めて笑うと、ガクセイ証を取り出し顎に当てた。
「変身。」
真っ赤な戦士に姿を変える。

「見ろよ、選ばれし者だけがこのカラーを手にするんだ。お前みたいな色の無い奴とは誰もチームを組まないだろうな。」

「そっちこそ。そんなに性格悪きゃ、友達出来ないんじゃない?」

天堂茂は「聞いたか今の!」と大げさに言い、クラスから嘲笑が湧き上がる。
「僕は学年一のエリートだ。誰もが僕とユニットを組みたがる。まあ僕は選び抜かれた相手としか組まないが。僕を敵にすれば、クラス全部を敵にするぞ。」

「それ脅し?」

「お前は戦隊にはなれない。ならせないぞ。」

「マズルフラッシュ!」
指揮棒の先端から炎が噴き出す。天堂茂は悲鳴を上げて飛び退き、椅子ごとひっくり返った。
老教師はようやくクラスの誰一人として授業を聞いていないことに気付き声を上げた。

「何してる!アズキさん!」

「先生。私、文学クラスやめます。」

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94 :19
2021/06/04(金) 23:21:23

午前10時を前にして、購買では慌ただしく開店の準備が進められていた。
私はベンチに腰掛けその様子を眺めている。

まるで蟻の様にてきぱきと動いている従業員。あの1つ1つに感情があって、ドラマがあって、人生があるなんて不思議だ。

思えば私もちっぽけな1人。

私がクラスを飛び出したことなんて、誰にとってもどうでもいいことで・・・。
でももうあんな所には居たくない。居られない。
私はふと親友の顔を思い出した。
「今何してるかな。」

楓にメッセージを送る。
kezuri(けずり)というアプリ。音声を文章に変換して送る、2041年のトレンドだ。

『授業抜けてきちゃった。』

ものの数秒で返信が来た。

『まじ?』

この短いメッセージを貰うだけでも私の心は軽くなる。
続けてスマホに音声を吹き込む。

『午後、暇なんだけど。一緒に学校探検でもしない?』
『いいよ!ちょうど午後の授業、“変身と名乗りの作法”ってタイクツなやつだからさ!今どこおる?』
『購買の近く。』
『え。』

一寸間があって。

『右、むいてみて!』

私は言葉に従いスマホから目を離し右を向いた。
なんという偶然。

「楓!」
「やほ!」

10mほど離れたベンチに、楓が座って手を振っていた。

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95 :20
2021/06/04(金) 23:23:11

「やあやあ。」
楓は私の隣にちょこんと腰かけた。
「ここ、お昼になると人ヤバイよ。あたしいっつもせり負けてどん尻なんだぁ。」

今は授業時間のはずである。

「まさか楓も・・・?」
「そ、あたしもおサボり!」
楓は自分の耳たぶを触りながら照れ臭そうに笑った。
私は何と言おうか迷いながら購買のほうを見て黙っていた。少しの間言葉は交わされなかったが、楓が「あたしさ!」と言う。

「あたしさ。戦隊のこと、かっこいいヒーローって認識しかなかったんだ。未経験でもやる気があれば何とかなるって。でも結局は、実力がなくちゃやっていけない。周りはもう戦隊ユニット組んでるのに、自分だけ1人ぽっち。あたしは力不足だって、そう思っちゃった・・・」

楓のトーンはいつになく暗かった。

「あたし、落ちこぼれって言われたんだ。」

「そっか。」

私は思ったことをそのまま口にした。

「私も落ちこぼれ。すぐカッとなって自制できないし、いつもトラブル起こしてばかり。集団から落伍した少数派。でもさ、落ちこぼれでもいいじゃん!私、七色の虹になりたかった。でも1人じゃ意味ないの。カラフルなみんなと虹になりたい。」

転がり込んだ幸運よりも、今度は自分で掴み取る。

「前にも一度言ったの覚えてくれてるかな?一緒に戦隊ユニット組もう。」

すると、楓は勢いよく立ち上がった。
「その言葉を待ってたぞ親友!ユニット名は?」
私は飄々とした態度で。
「オチコボレンジャー。」
「最高!それに決定!」

「購買開店で~す!」

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