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┗193.『戦隊学園』制作スタジオ(201-220/850)
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201 :6
2021/07/12(月) 22:24:58
豚之助の大きな腕の中でタオルにくるまれ、まるで赤ん坊のような状態で浴室を出る佐奈。
「ち、ちからもち・・・」
「これくらい余裕ブヒね。」
長椅子の上に横たえられる。
「ちょっと待っててね。」
豚之助はその場を離れる。
そして1分と経たないうちに、ドスドスと戻ってきた。
「これ飲んで!」
豚之助は飲料を持ってきた。
佐奈は椅子に腰かけ、それを飲む。
「ごく・・・!」
甘く冷たく、朦朧としていた意識が戻ってきた。
「うちの好きな、ミルクティ」
「ブヒヒ。喜んでもらえたブヒか。」
「ていうかさ、来てるの気付かなかった。カゴ無かったんだもん。」
「ここにあるブヒ」
豚之助は手を伸ばして棚の一番高い所にあるカゴを取った。そこには彼の衣類が入っていた。
「うわ、いいなぁ。うち届かないとこじゃん・・・とりあえず着替えるからさ、見ないでくんない?」
「了解ブヒ。」
豚之助はカゴを持って棚の裏側に回った。
佐奈は眼鏡を掛け、着替え始める。すると棚の向こうから、豚之助の声だけが聞こえて来た。
「デカくても良いことだけじゃないブヒよ。」
「え~?」
「頭をぶつけたり体を持て余すことも多いブヒ。それに女子は、ちっちゃいのがかわいいって思うブヒよ。」
「かわいいって誉め言葉とは限らないよ。あんたもいつもうちのこと、チビって馬鹿にしてたけど・・・。」
佐奈はモノクロのシックなパジャマを着てボタンを留める。
すると棚の上から、太い腕が伸びて来たではないか。
「なに・・・?」
豚之助が写真を差し出していた。
佐奈は背伸びして手に取ってみる。そこに写っているのは、小柄でやせっぽっちな、少年。
「僕ブヒ。」
「え・・・えっ?」
佐奈は目を丸くした。
「嘘?」
「嘘じゃないブヒ。僕、小学生まではチビって馬鹿にされてたブヒ。だからムキになって、中学生から体を鍛えて大きくなった。佐奈ちゃんが気になったのは、僕に似てるって、思ったのかも・・・。」
「ふーん、」
佐奈は写真の中の少年をじっと見る。
「でもそれは、男の子のほうが大きくなれるポテンシャルがあるからで・・・」
「イダダ!!」
「え?」
突然豚之助の悲鳴が聞こえた。佐奈は棚の裏を覗いた。
寝巻に着替えた豚之助がうずくまっていた。
「大丈夫!?」
「ブヒ・・・青龍丸戦の怪我が、意外とこたえたブヒね・・・」
「け、怪我してたの!?それなのにうちを抱っこして?」
豚之助はブヒヒと、細い目をもっと細めて笑った。
「相撲は怪我との戦い、どんなにボロボロになっても、七転八倒ブヒ。」
「七転び八起きでしょ?明日・・・相撲は取れるの?」
「わからない。でも不戦敗にはできないブヒ。何とか土俵に立たなくちゃ。コボレンジャーを、勝たせなきゃ。」
「それならうちに考えがある。」
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202 :7
2021/07/12(月) 22:28:24
六日目の土俵。
控えに座るドスコイジャーの黒ノ不死は、身長335㎝・体重350㎏。
平均身長の高くなった2041年でも突出している学校一の巨漢だ。肌は黒く、いかつい風貌で恐れられている。
横綱である赤鵬よりも強いのではないかと噂されるほどだ。
時間が近付いても豚之助はなかなか現れない。
「まさかあいつが怖くて逃げ出しちゃったんじゃ?」と楓。
「それよりも昨日の怪我が深刻だったのかもしれない。」七海。
「大丈夫、豚之助はゼッタイ来るから。」
砂かぶりには胡坐をかいている佐奈の姿もあった。
「そして勝つから。」
観客席がやにわにざわつき始めた。
ガッチャン、ガッチャンと、足音を鳴らして。
巨大なロボットのようなものが歩いてきた。いや機械の鎧と言うべきだろうか。
顔の部分だけは生身の人間、豚之助の顔だった。
「ぶ、ぶたのすけぇー!?」
佐奈は自信満々に言う。「違う。あれは――メカ之助。」
メカ之助は土俵に上がった。鉄の足に踏み付けられ土俵はメコっとへこむ。
今やその体は黒ノ不死より一回り大きい。
黒ノ不死は初めて出会う自分より大きな相手を前にして困惑している様子だった。赤房下の赤鵬が怒鳴った。
「反則だろうがぁ!」
だが公一の変装である行司は淡々と仕切った。
「かまえて!」
行司の居場所が無いほど土俵は窮屈になっていた。少しぶつかり合っただけでもすぐに土俵から出ていしまいそうだ。
楓は焦って聞く。
「さっちゃんアレは?」
「足怪我したっていうから、最初は補助具を作ろうと思ったの。でも作ってるうちに、全身改造しちゃえ!・・・って思った。そんだけ~」
「すご!天才か?」
「天才です。今さら気付いたの?」
「やってくれると思ったよ佐奈。」七海はニコッと笑う。
「時間です!待った無し!」
2つの巨体は蹲踞の姿勢を取る。これだけでも踵が俵にくっ付きそうなほどだ。
場内はシンと静まって。
黒ノ不死は雄叫びを上げ突っ込んだ。
常人ならひとたまりもないだろう。だが全身を機械で固めたメカ之助は違う。
ドガァンと言う音、メカ之助は一歩も退かず、いとも簡単にその突撃を受け止めた。
「そっちが重戦車ならこっちはジェット機ブヒ。ブースト寄り切り!」
メカ之助は背中から炎を噴いた。
ジェットエンジンで電車道、一気に黒ノ不死を土俵の外に寄り切った。
砂かぶりに居た赤鵬とドスコイジャーの面々は哀れ黒ノ不死の下敷きとなる。
「グああ!」
「ブヒトリー!(ビクトリー)」
豚之助は星を五分に戻した。
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203 :8
2021/07/12(月) 22:31:39
豚之助の快進撃により急遽、戦隊首席会議が行われた。
10のクラスにはそれぞれ首席が居り、それの会合が戦隊首席会議となる。
首席は大抵3年生から選出されるが、成績・功績・戦績次第ではその限りでない。
文学クラス・天堂茂は、テストでの優秀な評定と偉大な父の影響により、1年にして首席の座を勝ち得た数少ない1人だ。
彼は会議室の椅子でふんぞり返っていた。
「このザマは一体どういうことですか。」
「坊ちゃん申し訳ねぇ。」
赤鵬は首席の1人であるにかかわらず椅子も与えられず、ドーナッツ型の円卓のぽっかり空いた中心に、デカい身体を折り畳んで跪いていた。
「返す言葉もねぇ。」
「オチコボレンジャーのような卑劣で、低俗で、下賤な戦隊が優勝となればとんだ恥晒しだからな。もっとしっかりしてほしいものですね?赤鵬先輩。」
赤鵬はぺこぺこと頭を下げる。
「既に武芸・忍術クラスの戦隊が不覚を取っている。戦-1で優勝するのは僕のエリートファイブだとそう言う筋書きだろう?小豆沢七海には僕の個人的な恨みもあるんだ。さっさと潰せ。」
円卓を取り囲んでいる8人の首席のうちの1人が発言した。
「・・・私的には。」
魔法クラス主席・金閣寺躁子(きんかくじ そうこ)。
金髪で、巫女の衣装のよく似合う、学園有数の美女。
「あんま乗り気じゃないですね。小豆沢七海は魔法クラスのかわいい後輩ですものね。」
「そうでぇす!」
続いて金閣寺の隣に座す生物クラス主席・PP(パンダパンダ)チョウスキー。
パンダのキグルミに身を包んだ異様な男。
「生物クラスは今、戦隊動物園のオープンに尽力でぇす!あなたのおままごとに付き合っている暇はありませぇぬ!」
「黙れ。」
天堂茂は姿勢を正すと、眼鏡の下の目をギラつかせた。
「わかっているだろうが、僕の父上は、本学園の理事長も務められているのだぞ!!」
首席たちは黙り込んだ。
一変、天堂茂はパッと笑顔になる。
「・・・どうした?もっと気楽にしていいぞ。僕は先輩方の自主性を尊重するつもりですからね!これは命令ではないのだ。僕からのただの“お願い”だ。」
首席たちは更に縮こまってしまった。
赤鵬はスッと立ち上がる。
「俺が明日、最後の相撲に勝つ。コボレンジャーは敗退待った無しだ。」
「だが奴らにはロボがあるんだろう?」と天堂茂。
すると彼の隣でノートパソコンを打っていた女子が叫んだ。
「あんなのロボじゃないのよ。鉄くずをセロハンテープで止めただけ。鰻佐奈!工学クラスの裏切り者のチビ。うざい、」
彼女はデザインジャーとして学園のロボ開発を担当している茶髪のポンパドールの女子。
その卓越した才能で、天堂茂と共に1年にして主席の座にあるのだ。
天堂茂は少し閉口した。
「おかしな髪型だな。」
「ポンパドールです。」
「そうだな・・・ではポンパドーデス、赤鵬先輩のためにロボを作って差し上げろ。」
「ポンパドールです。」
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204 :9
2021/07/12(月) 22:40:19
赤鵬と豚之助の大一番は通常の土俵では行われなかった。
昨日のメカ之助の進撃により土俵に亀裂が入ったのもその一因ではあるが、それよりも――2人ともデカすぎて、土俵に入りきらなかったのである。
千秋楽は巨大兵器同士の相撲となった。
校庭に敷設された専用の土俵は東京ドームほどの大きさもある。
観客たちは校舎の窓から戦いを見るのだが、ジュウキオウの時とは違い、高さのある土俵を見上げていた。
館内放送が入る。
『心はレディーのジェントルメンも!見た目はボーイのガールズも!実況はおなじみ、配信戦隊ジッキョウジャーの実況者YUTA!まずは西から、オチコボレンジャーの巨大兵器、メカ之助の入場だ!学園最弱とも噂されたオチコボレンジャーは、この一番に戦-1の進退を賭ける!』
メカ之助は昨日よりも遥かにデカくなっていた。
もはやアーマーと言うより豚之助の形をした巨大ロボだ。のしのしと土俵に登る。
『遅れて東から、オチコボレンジャーに胸を貸す、相撲戦隊ドスコイジャーの・・・おーっと、これは!』
こちらは更なる異形が現れた。
3体のロボである。しかもその3体とも、人間のカタチではない。
上半身だけの力士が2本の腕で地面を歩行しているという妖怪のような気味の悪い姿であった。
3体のそれは土俵によじ登った。
『なんだこれは!どうやらデザインジャー製のロボのようデスが。そもそも相撲は1vs1の勝負のはずなのに、3体も居ていいのか!?』
「まあこっちは5人居るんだけどね。」
メカ之助のコクピットに座って居たのは七海だった。
「いぇい!」楓、
「なんやねんあれきっしょいな!」公一も搭乗している。
ディスプレイに、前方でうごめく3体の異形が映っている。
『では立ち合いデス!見合って見合って!』
ドスコイジャーの3体のロボは縦に積み重なり合体を始めた。
相撲取りの顔が3つ団子の様に重なっているというやや手抜きなデザインだが、最大の特長は腕が4本ある事だろう。
土台部分になったロボの腕は脚になったが、腹部と頭部のロボの計4本の腕は、自在に動いていたのだ。
「完成、奇塊鵬(きかいほう)。」
奇塊鵬のコクピットに乗っているのは赤鵬。
「大岩大之助、顔じゃねぇよ。」
奇塊鵬は4本の腕のうちの2本を太い仕切り線に付けた。
メカ之助のコクピットには佐奈も座っていた。
機器に埋没していた小さい彼女だが、大きな声で叫んだ。
「メカ之助!あんな気味の悪い奴らさっさと倒しちゃお!」
「了解ブヒー!」
豚之助の声がコクピットにこだまする。豚之助は意思を持つ巨大ロボに改造されてしまったのだ。
メカ之助は仕切り線に両腕を付いた。
次の瞬間、2つのロボがぶつかり合った。
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205 :10
2021/07/12(月) 22:42:55
ガンッという金属のぶつかり合う衝突音、幾つかのパーツが外れ校舎に降り注ぐ。
力士同士のぶつかり合いは凄まじいが、それが巨大ロボともなると尚更だ。
生徒たちは息を呑んでこの押し相撲を見守っている。
奇塊鵬がやや優勢に見えた。
メカ之助は土俵の端に押されていき、ズズズと言う音、土煙が上がった。
「いなして!」
佐奈はレバーを思いきり引いた。
メカ之助は相手の力をうまく逃がし、一瞬の隙を突いて鋼鉄の太い腕で相手を突いた。
ドォンと言う破壊音、その一撃は強烈。
奇塊鵬は大きくのけ反る。明らかな死に体(しにたい)だ。
「やったか!?」
まだだ。
奇塊鵬はぐるんと逆立ちした。腕だった部分が足となり、足が腕となる。そして何事も無かったかのように動き出した。
『やはりこのロボにも一工夫あった!デザインジャー製にハズレなしぃいい!!』
観客たちから万歳三唱が湧き上がる。
「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」
奇塊鵬は4本の腕で万歳をした後、その4つをフル回転させメカ之助を滅多打ちにした。
「いや、手付いた時点で負けっしょ?はぁ!?」
佐奈は怒鳴った。
「意味わかんねぇ!おい七海、楓、公一!!さぼってねぇで動力を送れ!メカ之助、しっかりやれ!やらねぇとスクラップにすっからな!!」
「スクラップは嫌ブヒ~!」
怒号を飛ばす佐奈に七海が声掛けする。
「佐奈?オーバーヒートしてるみたいだし水入りにしたほうが・・・」
「るせぇ!俺に指図はいらねぇんだよ七海!!喋ってねぇで手を動かせっつってんだ手を。」
「あ、はい。」
楓はドン引きしていた。
「佐奈のキャラが違う・・・」
大打撃を受けコクピット内は高温になっていた。
メカ之助は体中から煙を上げながら退こうとするも、4本の腕でガッチリと掴まれ、吊り上げられた。
「まずいブヒ!」
観客たちは大歓声、メカ之助は土俵の外に思い切り投げ飛ばされた。
「ブヒ~!!」
しかし、
『飛んだ!』
土俵から落ちたはずのメカ之助は、宙に浮かんでいるではないか。
「八艘フライング!!」
佐奈はもしもの時のために搭載していた機能を使った。メカ之助はジェットエンジンで空を飛んでいた。
『メカ之助、空を飛んでいる!!勝負は最後まで分からない!!』
「反則だろ!」
赤鵬は拳を操縦席に打ち付ける。
七海はつぶやいた。
「反則はお互い様。」
「行くよメカ之助。デザインジャー製の合体ロボは接続部が弱い。だるま落としの要領で!」
「オッケーブヒ!」
メカ之助は降下すると、奇塊鵬の胴体に思い切り張り手を放った。
パシンと言う音、胴体を形成していたロボが分離し、土俵の外に飛んで行った。
頭部と脚だけがその場にとどまっていたが、それも次の瞬間には崩れ落ちた。爆炎が上がる。
赤鵬は操縦席から土俵の上に放り出された。
「つぶーす!」
佐奈は容赦なくメカ之助の足を上げる。
「やめろぉ!!」
赤鵬は両腕を上げ、迫りくる巨大な足の裏を必死に支えるも、限界が来る。
「ぐあああああ!」
メカ之助は赤鵬を踏み潰した。
『こ、これはオチコボレンジャーの勝利だ!決まり手は・・・踏み潰し!』
呆然としている観客たち。
佐奈は恐ろしい提案をした。
「七海さん、さっきはつい怒鳴っちゃってごめんね。ねぇいいこと思い付いちゃった。このまま観客たちも踏み潰してさ、10pts分稼いじゃお・・・?」
七海は目をぱちくりとさせたが。
「さすがに私でもそれは思いつかなかったよ。クレイジーで、イかしてるね。」
「わかってるじゃん。」
佐奈はレバーを引いた。
「止めてブヒ~!!」
メカ之助は校舎に突撃した。
校舎の一部が崩落し、観客たちは散り散りに逃げ惑う。佐奈はメカ之助を操縦し、蟻を踏み潰すように人々を踏み潰した。
「今までよくもチビって言ったな!チビ共潰してやるぅ!ほら逃げ惑えぇ!!」
佐奈はヨダレを垂らしていた。
七海は、死者が出ないよう祈ることにした。
つづく
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209 :げらっち
2021/07/17(土) 18:46:44
戦-1編で内部の敵を一掃した後は、学園外部の敵と戦うシリーズ展開を考えています。
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211 :第8話 1
2021/07/19(月) 20:14:35
「私と契約して・・・になってよ。」
ぼんやりと夢の中。
そう、私は今夢を見ている。それはうっすらとわかっている。
知らない女の人が目の前に立っている。
知らないってわかっているのに、夢の中では、知っている人の気がした。
「ねえ。」
次の瞬間、視点が変わっていた。
「きみだよ、きみきみ。」
私がその女の人自身になり、もう1人の少女に話しかけている。
「君こそが・・・の戦士・・・・・」
更に視点が変わり、私はその2人のやり取りを傍らから見ていた。
しかも、地面に寝そべって。
声はよく聞こえない。
なんだか眩しい。起きなきゃ。このままでは遅刻する。遅刻するって、何に――
「じゅぎょう!!」
小豆沢七海は飛び起きて、天井に頭をぶつけた。
「いって!」
二段ベッドはリスキーだ。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。枕元のスマホで時間を確かめる。
「うげ!」
8:41
授業開始まであとたったの4分しか無い。
七海はベッドから飛び降り、下段で布団に抱き着いてスゴイ寝相になっている楓を揺さぶった。
「おいこら!何で起こさなかった!」
「何ぃ?朝から激しいよぉ」
楓は目を開ける。
「生物クラス、今日は2時間目からだもん。それに自分が夜更かしするのが悪いんじゃん?」
七海は悪態をつきながら急いでパジャマから制服に着替える。
「やってあげよっかー?」
「いいよ!自分でやるから」
七海は自分でネクタイを締めようと悪戦苦闘するが。
「ごめん、やっぱできない。」
「はいはい。最初からそう言えって!」
七海はネクタイを結ぶのが苦手だ。
楓は通勤前の旦那に対する奥さんのように、器用に七海の赤いネクタイを整えてやった。
七海は「ありがと」とお礼を言うと、そこら辺にあったカレーパンを口に突っ込む。「じゃ、また放課後!」と言って部屋を飛び出すが。
「やっば!もうこんな!」
その時点で8:44
戦隊学園の敷地は広く、寮から遠く離れた校舎に1分で行くのは不可能に近い。
「ちょっとショートカット!」
ここは3F、七海は窓から飛び降りた。
スタッと着地する。
目の前には佐奈の開発した日除け付きのキックボード、通称コボレボードが駐輪してあった。
これならば日差しの苦手な七海でも校庭を突っ切ることができる。七海はそれに乗り込み、地面を蹴った。
「間に合えー!!」
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212 :2
2021/07/19(月) 20:16:27
案の定遅刻した。
8:51、七海はE校舎にある魔法クラスにようやっと到着した。
七海は重大なハンデを負っている。それは名前が「あ」で始まることだ。
出席番号1番であるがために遅刻判定になった授業も少なくない。
七海はそのたびに、自分の苗字が「渡辺」や「亘」だったらどんなに楽かと夢想した。
恐る恐る扉を開ける。
西洋的な家具や小物が置かれた、薄暗いエキゾチックな空間。とても教室とは思えない。
幸運にも――というより、奇跡的に――先生の姿はなかった。つまり出席はまだ取られていない。
生徒たちはまばらに座っていた。
魔法クラスは全クラスの中でも1、2を争う少人数。2041年になっても、魔法や超能力を使える人は多くないのだ。
勿論このクラスに友達は居ない。七海は1人、教室の一番後ろの席に着いた。
すると前から誰かがこちらに歩いて来た。
七海は弱視のため視認できなかったが、滅多に見ることのできない金色を感じた。それだけで大体誰かわかる。
分厚い黒ぶちメガネをかける。授業中はこのメガネを欠かせない。
パッと視界が開け、巫女の衣装を着た金髪の女子生徒が見えた。
「ごきげんよう。」
「おはようございます、金閣寺先輩。」
3年生魔法クラス首席・金閣寺躁子(きんかくじ そうこ)である。
金閣寺は机にもたれかかり、髪をなびかせて言った。
「小豆沢サン、あなたみたいな熊を何ていうのかしらね?」
「私がくまですか?」
七海はチョット考えたが、金閣寺の意図がわからなかった。
「何でしょう?穴ぐらで寝てるとか言いたいの?」
「ちこくま。ギャッはっはっ!!」
金閣寺は机をバンバンと叩いて笑った。けっこうな美人なのにそれが台無しになるくらいには笑った。
「もっとスピード感を持って行動しなさい。」
七海は先輩相手にも不敬な返答をする。
「スピード感って変です。必要なのはスピードそのものであって、感は不要だと思う。それに後で後悔ってのも、凄く変。」
「あら、おナマ。」
金閣寺は七海の顔をじっと見て。
「ドスコイジャーへの大金星、おめでとう。祝福するわ。」
――佐奈の暴挙により、メカ之助は4つの戦隊を踏み潰し戦闘不能にした。
これによりオチコボレンジャーの得点は7pts、戦-1の決勝進出まであとたったの3ptsとなっている。
反則と思われそうだが戦隊学園に於いては勝つことが全てなので問題はなく、破壊行為も許されるのだ。
七海の祈りが通じたのか死者が出なかったのが唯一の救いだ。
「コボレンジャーの決勝進出を願って、“気”を送ります。」
金閣寺は両の手のひらを七海の顔に向けると、念じた。
「むん――」
七海は自分の中に、熱い何かが流入してくるのを感じたが、それも気のせいかもしれない。
魔法クラスの首席であろうともこの程度で、本格的な魔法を使える生徒はほぼ居ないのだ。
「あなたに折り入って御願いがあるの。」
折り入って、つまりサシで話すという意味だが、この言葉が使われた場合は大抵不都合な話が始まるものだ。
金閣寺は七海の白い、髪の毛を撫で上げて。
「一束くれない?」
[
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213 :3
2021/07/19(月) 20:18:58
「は?」
「あなたの身体は神秘感があって、とっても綺麗感があるわね!」
明らかに日本語がおかしい。
「これはアルビノって言って、生まれ持ったものです。」
「ノンノン。そんなことをきいているんじゃなくってよ。」
金閣寺は七海の長い髪の毛を手に取って、手触りを確かめてみる。
「ほんとうは指の1・2本欲しかったんだけど、それだとイタイでしょう。髪の毛でいいからほしいの。」
七海は恐怖を感じた。
「正気なの?」
「ほしいの!」
金閣寺は七海の髪を思い切り引っ張った。七海は「痛い!」と叫んで抵抗する。
金閣寺は一度手を離すと「ほッ」と奇声を上げ、次の瞬間、七海の額に掌底を喰らわした。
「あいた!」
目をつぶっていなければ失明していたかも知れない。
先程の“気”の数倍はあるかと言う熱量が七海の顔面を襲った。メガネがはたき落とされ、ブチブチと髪の毛が引き剥がされる。
「やめてよ!」
七海は筆箱からタクトを引き抜くと薙ぎ払うように振った。バーンと音がし、金閣寺は少なくとも5メートルは吹っ飛んだ。
金閣寺はよろけながら立ち上がる。その手には、七海からむしり取った数本の毛。
「やはり魔法が使えるのね!」
「アルビノとこの力は関係無いと思います。」
「この白い毛を、呪術に用いれば――」
「ごめんなさい!めっちゃ遅刻しちゃいました~!!」
バタンと扉が開き先生が駆け込んで来た。金閣寺は何事も無かったようにするすると一番前の席に着くと、「起立」と号令をかけた。
生徒たちは立ち上がる。
「おはようございます!」
七海は落とされたメガネを拾い上げた。
「あ・・・」
メガネは真っ二つに折れてしまっていた。
[
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214 :4
2021/07/19(月) 20:20:48
魔法クラス担任の木村は40歳くらいの女教師。
出席を取った後、こう言った。
「本日は文学クラスの村田先生をお呼びして、魔法と戦隊の関わりについての講義をしてもらおうと思います。」
木村は教室の一番後ろにパイプ椅子を置き座るとスマホをいじり始めた。これで給料がもらえるとは馬鹿馬鹿しい。
そして村田ときたら、七海が一番苦手としている老教師だった。
村田は亀のようにのろのろ入室すると、お経のような講義を始める。
「・・・魔法を使う戦隊として最も有名なものは、2005年の天功戦隊ゴマジシャン、2021年のコミュニティガールズレンジャー・・・」
老教師は米粒ほどの文字を黒板にびっしりと敷き詰めた。
眼鏡を破壊された七海にとってそれを判読するのは、理不尽な縛りプレイの様なものだった。
「フィクス!フィクス!」
七海はメガネにタクトを突き付け修復魔法を唱えるも、何故か一向に直らない。
最早やる気も起きず、机に突っ伏し、今朝の奇妙な夢の続きを見ようと試みた。
しかしどういうことだろう。その奇妙さを記憶している一方、夢の内容は全く思い出せない。
すると後ろから背中をぽんと叩かれる。
振り向くと、木村が眼鏡を光らせて立っていた。
「七海ちゃん、授業が終わったら、先生の部屋に来なさい。」
「・・・はい。」
踏んだり蹴ったりだ。
2時間にも及ぶ非生産的な座学で尻がむず痒くなった休み時間、七海は木村のいる魔法クラス職員室へ向かう。
メガネをへし折られて授業についていけなくなったことを怒られるのだとしたらなんという不条理。
もしそうであれば先生の手抜き授業を糾弾して逆に泣きべそをかかせてやろうと、強い心持ちで扉をノックすると。
「は~い!入っていいよ!」
予想外にフレンドリィに声を掛けられた。
七海は面喰いつつも「失礼します」と入室する。喫茶店のようなお洒落な部屋で、木村はお茶をたしなんでいた。
「座っていいですよ。」
七海は木村の向かいの椅子に腰かける。
「面談か何かですか?」
「あっ、緊張しないでください~!どうぞ・・・」
木村はお茶を勧めるが、七海は首を振ってノーサンキューと答える。
「早く用を言って下さい。言っとくけど、今日の授業は、メガネが壊されたから聞けなかったんです。そもそもあんな授業って無意味。実践をすべきです!教室は窮屈だって言った先生がいたけど・・・。」
「志布羅一郎ですね。」
七海はドキッとした。
自分をこの学園にいざなってくれた志布羅一郎先生。その名前を他人の口から聞くのは、とても久し振りな気がした。
「メガネを見してみなさい。」
「え?」
「いいから。」
七海は無残な姿になったメガネを机の上に乗せる。
「魔力に依って破壊されたものですね。通常の修復魔法では、どうにもなりません。」
木村はすらりと長い指を向け、こう唱えた。
「呪詛返しハルカゼ。」
ひゅぅっと風が吹き、メガネは元通りに修復された。
「あ・・・」
七海はメガネを掛ける。木村の顔が鮮明に見えた。
「ありがとうございます!」
今までぼんやりとしか見えていなかった室内をきょろきょろと見渡す。
すると窓の上に、音楽室のヴェートーヴェンのように肖像画が飾られているのが目に入った。違うのはそこに描かれているのが女性と言う点だ。
七海はつい思ったことを口にしてしまった。
「――似ている。」
額縁の中の女性は七海ほどではないが肌が白く、やや異質な雰囲気を醸し出していた。
木村は言った。
「有名な魔法戦隊の司令官をしていた魔女、ユキリエールさんです。」
異質な雰囲気、それは既視感であろうか。
[
返信][
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215 :5
2021/07/19(月) 20:24:13
「真に魔法の才を持つ者は、そう居ません。」
木村は一冊の本を差し出した。
教科書のような冊子だが使い古されており、やや汚い。
七海はそれをめくってみる。
そこには明らかに手書きで――しかも、少女の書いたような丸文字で――言葉の羅列が書き綴られていた。
七海にはそれが何かすぐにピンときた。
「呪文ですね。」
「はい。」
「先生!」
七海は初めて担任の木村を先生と呼んだ。
「私、ネクタイが結べないんです!」
木村は笑った。
「精進あるのみです。」
――――――――――――――――――――――
こぽこぽと鍋を火にかけている女がいた。彼女は料理をしているのではない。
金閣寺躁子は、今朝むしったばかりの取れたての白い髪の毛を、鍋の中に落とした。
そして人間の発音とは思えない呪文をブツブツと口にする。鍋から黒い、煙が上がる。
「躁子ねえさま、不機嫌でいらして?佑子にはわかりますわ。」
近付いてきたのは銀髪の、地味な女子。金閣寺と同じ巫女の衣装を着ている。
「足りない。」
金閣寺はつぶやく。
「私の魔力を高めるには、まだまだ足りない。まぁ問題はなくてよ。じきに学園中の生徒が、小豆沢七海を狙うことになるでしょう。」
「ねえさま、佑子の身体ではいけなくて?腕でも脚でも、差し上げますのよ。」
「銀閣寺佑子、あなたの髪は銀。私が必要なのは小豆沢七海が生まれ持った、真っ白な髪。それよりもあなたには頼み事があるの。」
金閣寺は銀閣寺の唇に指を添える。
「はい、なんなりと。」
「天堂茂とポンパドーデスに頼んで、ロボを調達しておいてほしいの。ボリューム感のあるロボを、お願いね。」
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216 :6
2021/07/19(月) 20:27:39
放課後。
オチコボレンジャーの“部室”であるこぢんまりとした和室にて、七海は今日の出来事を同志たちに話す。
「・・・というわけで、これを貰ったのでした。」
七海は木村に貰ったボロ本を開いて4人に見せる。だが4人ともピンとこないという顔をしていたので話題を変える。
「さぁて問題です。私みたいな熊をなんていうでしょーか!」
「あっなぞなぞ?」楓が喰い付いた。
「七海ちゃんは熊っていうか犬じゃね?誰に向かっても吠えるから!」
「楓、今夜覚えてろよ。」
「熊・・・くま・・・あ・・・!」続いては公一。
「あくま、やな!」
「とう!」七海は公一に飛び蹴りした。
「降参ブヒ。答えは何?」
「ちこくまだって。センパイに言われたんだけど。」
「ああ、たしかに・・・七海さんって、時間守らないよね。」
「え、そう思われてんの?」
「自覚ないんだね・・・」
前座はさておき。
「はい、始めよっか。」
リーダーである七海の指示にて、オチコボレンジャーは自主練を開始する。
「セオリー通りの授業よりここでの訓練の方がよっぽど役に立つ。校庭出よう。」
「七海さん。」佐奈が言う。
「うちと豚之助は、巨大化について調整と打ち合わせするから、3人で行って。」
「わかった。」
七海、楓、公一は校庭に向かう。
「変身、コボレホワイト。」
ガクセイ証に息を吹き込み白の戦士に変化する。カラーがスーツとなって体を覆い、日差しの下でもへっちゃらだ。
カラーは能力をも向上させる。変身中はパワーやスピードが上がり、ちょっとやそっとのダメージも無効にする。
七海はタクトを構え、10メートルほど先に佇む天堂茂にピッと向けた。
「死ね、」
唱えるのは、例の呪文集から引用した、炎の魔法。
「スパイラルフレアー!!」
何も起きなかった。
「おかしいな・・・やっぱり、パチだったのかな。」
七海はタクトの先をつんつんと突いてみる。チクチクする。
するとどういうことだろう、天堂茂が、バラバラになって倒れた。
「あれぇ?」
「どや、見たか!」
公一が愛刀のkougaを鞘にしまう所だった。
天堂茂を模した“天堂茂ロボ”は練習台にはもってこいだ。今や切り刻まれた多数の天堂茂の残骸が校庭に散乱している。本人が目撃したら、悲鳴を上げて失神するに違いない。
「公一くんすっげ!かっこいい!」
楓が公一の元に駆け寄る。
「まあこのくらいは、基本でござる。」
「あは!これでもうちょっと背が高かったら、公一くんもイケメンだったのになぁ!」
「なんやねんそれ。忍者は俊敏さが生命線やから、でかすぎるのもようないねん。オカンにも大きくなれって言われてるんやけど・・・」
「ふぅーん。まあいいや、今のままで十分だよ!」
楓は公一の腕に絡みつく。
白昼堂々イチャイチャするとはナンセンスだが――それを傍観していた七海の心の中には、ぷすぷすと、嫉妬という悪い心が芽生えていた。
「スパイラルフレアー!!」
ごおっと、タクトの先から炎の螺旋が噴き出した。
「わあタンマ!」
「ぎゃあああっづう!」
楓と公一は爆風に煽られ真っ黒けになった。
七海はというと反動で吹っ飛ばされ、尻餅をついていた。
「あ、成功だ。」
「なにすんねんあほ!」
「殺す気かー!」
「わあ、ごめん!」七海は逃げる。2人は鬼の形相で追いかけてくる。
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217 :7
2021/07/19(月) 20:30:40
七海は校庭脇の女子トイレに隠れていた。
「ふぅ・・・そろそろ行ったかな?」
恐る恐るトイレから出ると、楓&公一の姿はなかった。
だがその代わりに、5人もの人影がトイレを包囲していたではないか。
赤・黄・緑・ピンク・紫の戦隊ユニットだ。
「生物クラス・植物戦隊ラフレンジャーのラフレッドと申す者じゃ!見つけたぞコボレホワイト――小豆沢七海。」
七海はきょとんとする。
「あ、戦-1の宣戦布告?ちょっと待って、こっち5人そろってないし。」
「戦-1は関係ない!お前の髪の毛が欲しいのじゃ!」
七海は、今日はよく髪の毛を欲しがられる日だと思った。
「あげない。禿げちゃうから。」
「力ずくでも奪ってやる!ラフレスメル!」
「くッさ!」
ラフレッドの手から黄色い粉のようなものが放たれた。
トイレの中より遥かにきつい悪臭で七海は気を失いそうになるが、何とか耐える。
同時に他の4人の戦士も攻撃を仕掛けた。それぞれがツタを伸ばし、七海を拘束しようとする。
「させるかバーニング!」
七海は全身から炎を出しツタを焼き切った。これも呪文集の魔法の1つだ。
植物相手に効果は抜群。
「今のうちに!」
七海は校舎に逃げ込む。
「困ったな。」
へろへろと廊下を歩いていると購買に到着した。
戦隊学園は広く、多数の飲食スペースがある。ここはまだ一度も利用したことのない購買だった。
「なんか食べて休むか。」
「いらっしゃいませ。マーマレード戦隊パンレンジャーの購買へようこそ。今日はパンがお安いですよー。」
購買の店主と目があった瞬間、その店主の顔つきが変わった。
「小豆沢七海だ!つかまえろ!!」
「ひゃあ!」
七海は一目散に逃げる。
「つちのこじゃないんだから!」
パンレンジャーの5人の戦士が追いかけてくる。
「待てー!ジャムパン投擲!」
ひゅんひゅんとパンが飛んできて七海の背中にあたった。
「こらー!食べ物を粗末にするな!」
七海は振り向いて交戦する。
「スタン・ガーン!」
電流が走りパンレンジャーたちは泡を吹いて床に転げた。言うまでもなく、これも呪文集の魔法の1つである。
――その後も戦隊の襲撃は続いた。
「文学クラス・文具戦隊モノレンジャーだ。コンパスミサイル!」
「分度器カッター!」
「ホチキス機関銃!」
「ビッグウェーブ!」
文房具で戦う子供騙しの戦隊は水魔法で一掃した。
「芸能クラス・真打ち戦隊ラクゴレンジャーでございます。吹っ飛ぶ布団!」
「リーフウィップ!」
布団で攻撃してくる目障りな戦隊は草の鞭でぐるぐる巻きに束縛した。
七海は詰問する。
「一体誰の指図でやってるの?」
「べ、別に指図されたわけじゃないんでしてね、ミコレンジャーが、アルビノの髪の毛は幸福をもたらすと、吹聴していましてね、はい。」
「そんなの古い迷信じゃん・・・」
ミコレンジャーと言えば。
「金閣寺躁子、あいつか。」
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218 :8
2021/07/19(月) 20:33:32
呪術戦隊ミコレンジャーは、学園に在籍する数多の戦隊でも他に例を見ない、2人だけの戦隊ユニットだった。
うっそうと生い茂る木々で日差しもほとんど届かないような場所。七海は変身を解除する。
「変身するとむれるんだよなぁ。」
七海は学園の森の奥にある小さな神社に来ていた。ここがミコレンジャーの本拠地だ。
七海は1円玉を取り出すと、賽銭箱に向かって放り投げた。
パンと1度手を突いてぺこりと頭を下げる。
願うのは「肌のかさつきが治りますように」だが、1円じゃ望み薄だ。
「・・・あれ?お賽銭入れれば、ミコレンジャーが出て来るって聞いたけど。」
何も起きない。
注意深く見ると、賽銭箱の横の立て札にこう書かれていた。
《 おさいせん は 100円 から! 》
「うげ、1円損した。強欲な神だなあ。」
七海は改めて100円玉を取り出し、今夜のジュースを我慢することを渋々覚悟すると、投げ入れた。
「あ、外れ。」
硬貨は賽銭箱の淵に当たり明後日の方向に飛んだ。拾ってもう一度投げる。
チャリンと言う音。
神社の戸が開き、2人の巫女が姿を現した。
「小豆沢サン、拍手(かしわで)は2度打つものよ。」
金閣寺躁子と銀閣寺佑子。
2人は姉妹の契りをかわし、ミコレンジャーを結成しているのだ。
「変な噂、流さないでくれる?迷惑なんだけど。」
「来るのはわかっていてよ。さあ、あなたの髪の毛を1本残らずむしり取ってあげましょう!」
2人の巫女は変身のポーズをとった。
「変身!」
「ミコゴールド!」
「ミコシルバー!」
金閣寺は金、銀閣寺は銀の戦士に変化する。双方とも滅多に見かけないカラーだ。
七海も少し遅れて変身する。
「コボレホワイト!」
白も相当珍しいカラーであることに変わりはない。
七海はタクトを振り上げると呪文を詠唱しようとした。だがそれより先に。
「封!!」
ミコゴールドとミコシルバーは神具を振りかざし怪光線を放った。
七海は怯むも、特に異変は起きなかった。
「光を出すだけ?本物の魔法見せてあげよっか?」
改めてタクトを振り上げる。
「スパイラルフレアー!!」
だが。
「あれ?」
炎は出なかった。
「不調か?キララ!キララ!」
七海はタクトをぶんぶんと振る。得意技のキララでさえ、うんともすんとも出なかった。
「早く本物の魔法とやらを見せてほしいものね。小豆沢サン、ざぁんねん。あなたの魔法は封じました。安心して?あなたの魔力は、全部、私が食べちゃうから・・・。」
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219 :9
2021/07/19(月) 20:38:56
「お守りボンバー!」
ミコゴールドはお守りを振り回して攻撃した。なんという罰当たり。
それでも威力は中々高く、お守りで殴打されていくうち七海の意識は朦朧としてきた。
「早く降参した方がいいんじゃない?」
気付けば七海の変身は解けていた。体術が苦手な七海は魔法が使えなければ戦えないと言ってよい。
それでもがむしゃらに、ミコゴールドの足に喰らい付く。
「しつこくてよ!」
ミコゴールドは七海を蹴り倒した。
「げほ!げほ!」
金閣寺は変身を解き、七海の毛髪を掴んで立たせた。
「いだい・・・!」
「小豆沢サン、ブザマで、滑稽感があるわね。魔力が無ければそれもただの棒切れなのだし。」
七海は今もなおタクトを握りしめている。
「ただの棒切れに見える?」
七海はにッと笑った。
そしてタクトを振り上げると、金閣寺の右目に思い切り突き刺した。
「・・・え。」
引き抜くと、ぴゅーっと鮮血が噴き出した。
「え!えええええええええええ!?」
「こういう使い方もあるんだよな。」
その瞬間、七海の中に魔力が戻って来るのを感じた。
「躁子ねえさま!?」
銀閣寺が駆け寄る。
金閣寺は潰された右目を手で覆い隠し崩れ落ちる。指の間から血が溢れ出る。
「やだー!激痛感がある!!」
「激痛感じゃなくて激痛そのものでしてよ、ねえさま。」
「スパイラルフレアー!!」
追い打ち、七海は炎の魔法で2人を吹っ飛ばした。
「あーん!」2人の巫女衣装はボロボロに煤ける。
「許さない。ロボットよ~!」
その掛け声を聞きつけてか、木々をボキボキとへし折って、巨大な2体のロボが現れた。
金と銀の狛犬のようなロボだ。これもデザインジャー製だろうか。金閣寺と銀閣寺は変身しロボにピックアップされる。
2体の狛犬は後ろ足で立ち上がり、合体した。犬の顔が両肩に付いている奇妙なロボットだ。
「完成、双頭竜。」
七海もとりあえず叫んでみることにした。
「メカ之助~!」
勿論そんな都合のいいタイミングで援軍は来ない。七海は踏み潰されるのは御免なので木々の間を逃げた。
双頭竜はドスドスと追いかけてくる。
「ブヒ~!」
「あ、来てくれた!ちょっぴり遅い!」
森の向こうから豚之助たち4人が走ってきた。まあ巨大ロボが暴れているのを見れば誰もが駆け付けるだろうが。
豚之助は廻し一丁だった。
「服、着てよ!」
「これはただの廻しじゃないブヒ。佐奈ちゃんの開発した巨大化粧(きょだいけしょう)廻しブヒよ!」
豚之助は廻しのダイヤルを捻った。
どういう原理だろうか、豚之助は瞬時に巨木よりも大きいメカ之助に変身し、双頭竜と組み合った。
佐奈はぴょんぴょんと飛び跳ねて、褒めてほしい子供のように言った。
「豚之助の廻しを改造して、いつでも巨大化できるようにしたの!」
「偉いゾ。」
七海はとりあえず褒めた。
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220 :10
2021/07/19(月) 20:43:48
森の木々はなぎ倒され、ぽっかりと大きな円状の平地が出来ていた。
まるで巨大な土俵の様だ。
双頭竜とメカ之助は睨み合う。
コクピットに居るのは七海・佐奈・楓・公一。メカ之助はその大きな腕で4人を拾い上げてくれたのだった。
「これに勝ったらまたまた大金星やな!戦-1決勝進出も近いんとちゃう?」
「だよねだよね!ていうか、優勝しちゃうかも!」
「星勘定はしないで。」
低い声で公一と楓を黙らせるのは佐奈。ロボを操縦すると人が変わるのだ。
「かち上げて!」
思い切りレバーを引く。
メカ之助は両肘で同時にかち上げ、双肩の2つの顔に同時にかち上げをお見舞いしようとした。
不発。
「ブヒ?」
バランスを崩しよろける。
敵は背後に回っていた。
「な――!」
双頭竜は2体の狛犬の姿に分裂していた。
「2人で相撲を取るのは卑怯ブヒ!」
「べつにこれは相撲じゃなくってよ。」
眼帯をつけ狛犬の片方を操縦する金閣寺。銀閣寺の機体と共にメカ之助をじりじりと追い詰める。
「まずい、どうするの佐奈?」七海は尋ねる。
「集中してんのに話しかけんな。ふぅ、ふぅ、」
佐奈は自分で相撲を取ってるんじゃないかと言うほど息が荒い。
「問題ナッシング。」
佐奈は笑った。
2体の狛犬が一斉にメカ之助を押し出そうと飛び掛かる。
「八艘フライング!」
豚之助はその巨体からは想像もできない跳躍力でジャンプした。ジェットエンジンで空を飛ぶ。
2体の狛犬はつんのめってお互いに衝突、破損した。
「もう!うざい感があるわね!!」
「躁子ねえさま、もう一度合体しませんこと?佑子1人ではさみしゅうございます。」
「よくてよ。」
狛犬は再度合体し双頭竜となる。
「今だ!」
佐奈はその隙を見逃さなかった。
「合体中は動けないし無防備!」
「それはタブーじゃないの?」
七海が止めても佐奈は聞かなかった。メカ之助を操って思いきり突っ込んでいく。
「わあ、ちょっと待」
双頭竜は猪のような体当たりを受け土俵外に吹っ飛ばされた。森の奥地に落っこち爆破、焼損した。
これでオチコボレンジャーの勝ち星は、8となる。
――――――――――――――――――――――
「金閣寺躁子もやられたか。」
こちら天堂茂たちの居る会議室。
お通夜の様にしんと静まっているが。
「さぁて!土曜日は戦隊動物園の開園式でぇす!わたしはこれで失礼しまぁす!」
場に合わない陽気な男、PPチョウスキーが席を立つ。
「あ、そうそう。念のため、ロボの手配をお願いしまぁす!ポンパドーデスさぁん!」
「ポンパドールです。報酬さえもらえれば作るのは問題ないけど。」
――――――――――――――――――――――
「・・・あ。」
その夜、3時間の練習の成果あってか、七海は生まれて初めてネクタイを自分で結ぶことに成功した。
「・・・ま、いいや。明日からも楓に結んでもらお。」
つづく
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