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┗340.シャインシックス【小説スレ】(28-47/47)
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28 :ダーク・ナイト
2023/02/11(土) 20:28:53
第二十六話 「閉じ込められた悪→?その1」
そのまま、しんとした雰囲気が流れ続けた。
三人の目の前には、かちかちに凍ったサボルナがいる。
サボルナはちっとも動かない。
それもそのはず。サボルナは倒されたのだ。
だが、今の三人にはサボルナが倒れたことを喜ぶ気力はなかった。
なぜなら、みぞれの一言が胸に突き刺さったからだ。
鋭い矢のようなその突き刺さった言葉は、未だに三人の胸の的から離れてくれない。
的の中心に、言葉の矢は命中しているのだ。
三人は、胸がきりきりと痛むのを感じた。
氷のように固まったジーナと来夢を見て、みぞれは、
(しまった。)
と思った。
みぞれは二人を勇気づけようとして励ました。
「いえ、大丈夫ですよ。助けていただいたとしても、攻撃を観察して今後に生かしていけますよ。」
だが、二人はみぞれの心配をひっくり返すことを言った。
「みぞれ、励まさなくって良いのよ。だって本当だもの。」
「そうですわよ。嘘ではないのだから。むしろ、みぞれさんが教えてくれたことによりまして私も目が覚めましたわ。」
みぞれはその言葉を聞いて胸をなでおろした。
自分がやったことは過ちではないことに気がついたのだ。
そして、「不安」にまみれたみぞれの心は二人の優しい言葉がクッションのようになって、「安心」に变化したのだ。
さっきまでの張り詰めた空気が、一気にバラバラと崩れた。
そして穏やかな空気へと変わった。
「そういえばだけど…サボルナを倒したから…バトルアクセサリーは手に入ったのかしら?」
ジーナは不安そうに胸元を見た。
毒々しい色のビーズバッジが1つついている。
前回、ジェネラル戦で取得したバッジだ。
しゃらん、と鈴のような音色が聞こえた。
どこからの音だろう、とジーナは辺りを見渡した。
ジーナが腰を右に左にねじるたびに、しゃらん、しゃらんと音が鳴る。
すると、来夢が気がついた。
「ジーナさん、腰をご覧くださいませ!」
⇒二十七話へ続きます!
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29 :ダーク・ナイト
2023/02/12(日) 13:47:30
第二十七話 「閉じ込められた悪→?その2」
ジーナは腰を見た。
腰には、小さな小さなスーパーボールほどの大きさの鈴がついていた。
鈴は揺れるたびに、しゃらん、しゃらんと音が鳴る。
心地よい音色に、その場が和やかになった。
だが、その和やかさもジーナによってかき消されてしまった。
「これが…サボルナを倒したときのバトルアクセサリー…」
サボルナの熱気あふれるイメージとは違い、可愛らしい金色の鈴がついていたことに、ジーナは驚いた。
だが、驚きも一瞬で消え去った。
リングの特殊魔法が追加されていなかったからだ。
なんだか嫌な予感がした。
みぞれが声を絞り出した。
この言葉を言うには、かなりの勇気が必要だっただろう。
「…あの、ジェネラルさんと同じように…また復活してしまうのでは…。」
みぞれが発した最後の「は」と、サボルナの復活のタイミングはほぼほぼ同じであった。
めらめらと燃えるエネルギーを背後から感じ取ることができた。
おそるおそる後ろを振り返ると、やはりサボルナが立ち上がっていた。
さっきまで氷がついていたのに、今は氷が溶かされている。
サボルナの熱気が復活したため、氷が溶かされてしまったのだ。
「よおくも俺を倒したなあ?やるじゃないか。だがな、お前たちの実力で倒さないと完全消滅はしないのだ。誰かに倒してもらった場合、俺たちはよみがえる。今回だけは感謝ってことだな。」
ジーナは心の中でつぶやいた。
(サボルナ、教えてるし。まぁ私にとっては好都合だけど。でも…おかしいな。自分たちの実力で倒さないと完全消滅はしないってことは…。)
背後から、聞き覚えのある声がした。
「あぁら!お久しぶりぃ。ジーナ・ケンドウ!」
まさか、と三人は振り向いた。
⇒二十八話へ続きます!
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30 :ダーク・ナイト
2023/02/12(日) 13:53:00
第二十八話 「閉じ込められた悪→?その3」
三人の予感は的中した。
そう。後ろに立っていたのは、腕組みをしたジェネラルだった。
復活したサボルナ。勝つのに手こずったジェネラル。
この二人と戦うのだ。
人数的にはこちらの方が多いが、どう考えても今のままでは危ない。
ジェネラルは風香に倒してもらったし、サボルナはすかいに倒してもらった。
今まで戦ってきた二人とも、誰かに倒してもらっているのだ。
ジーナの涙袋に向かって、雨粒のような涙がしたたる。
その涙は、驚きと悔しさがミックスになった涙だった。
だが、泣いても仕方がない。
ジーナは手で涙を拭き、
「望むところよ!」
と二人に向かって叫んだ。
「おお、良い度胸だ。」
「見てやりましょうか、ジーナ・ケンドウ達の実力を。」
ジーナは呆れたが、名前の訂正はしないでおいた。
ジェネラルという人は、記憶力が悪い人なのだ、とわかったからだ。
そして、今は勝負に専念するほうが大切だ。
ジーナはジェネラルの胸部分を狙って攻撃をした。
「サイコアタック!」
「ファイヤーエネルギー!」
大きな紫色の玉はサボルナの攻撃によって消されてしまった。
みぞれは、サボルナのトゲの部分を狙って攻撃をした。
「カチカチコールド!」
サボルナはチルドタイプの技に弱いことが前回わかったため、チルドタイプの技を活躍させようとしたのだ。
すると、ジェネラルが邪魔をした。
「闇闇エネルギー!」
闇のエネルギーにより、サボルナに向けた技がブロックされた。
二人の見事なコンビネーションだ。
闇闇のエネルギー…それは、相手の気力をなくす技だ。
一番活躍するみぞれがココで気力をなくされては困る。
みぞれは回れ右をすると、後ろに向かって走った。
「氷の盾!」
と氷のように鋭い声で言い放った。
すると、みぞれの右手に氷の硬くて冷たい盾が完備された。
闇のエネルギーは盾に当たるとUターンし、元の場所へと戻っていった。
だが、いくら技を出した身だとしても完全に安全とは限らない。ジェネラルはそのことを忘れ、油断していた。
全くみぞれの方を見ていない。
ジーナは
(自分が出した技の行方くらい見なさいよ。)
と心の中で、怒りのマグマを火口に向かわせた。
「でもさあ?サボルナ。あの人達ってこの先行けると思う?」と余裕ぶってサボルナに話しかけている。
跳ね返ってきた闇闇のエネルギーが接近していることも知らずに。
だが、運悪くあと一歩というところでサボルナが重い体を一生懸命に引きずって、跳ね返ってきたエネルギーに体当たりした。
「まあだまだだぞお!」
と、サボルナが緑色の体を赤く染めて叫ぶ姿を見て、ジーナは吹き出しそうになった。
だが、今は正々堂々とした勝負中だ。
勝負中に笑うことはおかしいとジーナ自身も自覚している。
その時。
⇒二十九話へ続きます!
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31 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 16:36:47
第二十九話 「閉じ込められた悪→?その4」
「マジック・パンチ!」
ジェネラルがごつごつした石のような手を前に突き出した。
手の表面から、菖蒲色と瑠璃色の混ざったトゲトゲの破片が飛び出してきた。
見るからに危険な形をしている。
トゲの先端にでも触れたら出血してしまいそうだ。
ジーナはトゲの鋭い先端を見て、何かを思いついた。
そしてそばに二人を呼び集めると、耳に向かって何かを話した。
「ジーナさん、歯磨いていますか?にんにくの臭いがするのですが。」
「みぞれ!確かに餃子は出して食べたけど、今は重大な作戦会議。関係ないことを話すのはやめて。」
みぞれは注意されてうなだれながらも、耳をジーナに貸した。
来夢が隣でバチバチと電気を作り出していた。
「ジーナさん。わたくし、今すぐにでも攻撃したいですわ。ためた電気を浴びさせてもよろしいですの?」
「…これからやることは電気はいらない。電気はとりあえずジェネラルに感電させておいて。サボルナには効かないだろうから。」
「かしこまりましたわ。ビリビリショット!」
「っぐはぁあ!」
言葉にならない悲鳴をあげ、ジェネラルは黒焦げになっている。せっかくのストレートヘアーも台無しだ。
「マジック・パンチはどこだあ?」
とサボルナが不安気に辺りを見回す。
どう考えても、熱血団員のサボルナに不安は似合わない。
マジック・パンチで生み出されたトゲはいつのまにか消えていた。
来夢の攻撃により、効果がなくなったのだろう。
「今のうちだ!」
作戦会議をし終わった三人は散り散りになった。
ジーナはついでに、自分の立ち位置にいたジェネラルを足で踏んづけておいた。
「ふぃいあ、はへははひ!」
ジェネラルは赤黒い血がとくとくと流れる口で何かを言っている。翻訳→「ジーナ、やめなさい!」
残るはサボルナただ一人。
サボルナは弱点が明らかなので、倒しやすいだろう。
みぞれはそう思っていた。
空はそんな三人の気持ちなど知らずに、真っ青に晴れ渡っていた。
⇒三十話へ続きます!
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32 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 17:09:35
第三十話 「閉じ込められた悪→?その5」
太陽が、さんさんと輝いている。
今は冬なので、ちょうど良い暖かさだ。
サボルナはさらに暑苦しいオーラが満載になっている。
(今だけは、太陽に引っ込んでいて欲しい。)
ジーナは心の中で文句を言った。
足元のジェネラルはというと、ちょうど日光が当たるところに倒れているため、干からびてミイラになりそうだ。
(そのままミイラになりなさい。)
ジーナは悪意ある思いを込めて心の中でそうつぶやいた。
ジーナはハッとした。
今は勝負の最中だ。私は何を考えているのだろう。
ジーナは自分で自分を叱った。
気がつくと、作戦が開始されそうになっていた。
「カチカチコールド!」
「電気の盾!」
「サイコアタック!」
三人の声が重なった。
「トリプル・一致団結アタック!」
ジーナの高い声とみぞれの鋭い声と来夢のおっとりとした声。
三人の声が重なると、なんとも言えないメロディーを奏でるのだ。
だが、そのメロディーに聞き惚れている場合ではない。
(サボルナを倒さなければ。)
三人の頭の中にはそのことしかなかった。
ビュオーと冷たい風が吹いた。
サボルナは凍りそうになりながらも、必死に
「むしむしエネルギー!」
と怒鳴り声を上げて溶かしている。
相手はチルドタイプの技が弱点だ。
このまま技を続ければいずれ倒すことができるだろう。
しかし、そのままではみぞれの体力が減っていくばかりだ。
ついにサボルナは我慢ができなくなり、攻撃した。
「ファイヤーアタック!」
いらだちのせいで、いつもよりも攻撃の威力が強くなっている。
来夢は避けきれず、炎の玉に体当りしてしまった。
電気と炎でビリビリぼうぼうと音がしている。
「そのまま燃えて燃えて燃え尽くせえ!」
仲間の危険を感じたみぞれは、来夢に駆け寄った。
「来夢さん……大丈夫ですか……?」
この状況では、大丈夫かと聞かなくても大丈夫ではないということがわかるはずだ。
ジーナはどうすることもできず、立ちすくんでしまった。
⇒三十一話へ続きます!
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33 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 18:34:53
第三十一話 「閉じ込められた悪→?その6」
仲間が危険だ。
そのことはわかっているのに、どうしてか動くことができない。
全身がしばりつけられているように。
実際はしばりつけられていないのだが。
起こすべき行動は、もちろん一択のみだ。
なぜココで立ち止まっているのか。
なにせ、今まで戦ってきて、仲間が攻撃に当たったことはあるかないかもわからないくらいの数なのだ。
だが、これからを考えていくと立ち止まっている場合ではない。
その強い思いが、体をしばりつけていた心の縄をほどいた。
「来夢!」
ジーナはかすれ声で喉が痛くなるくらい叫んだ。
来夢は炎にまみれながらも、ゆっくりとジーナの声のする方へと顔を向けた。
「ジーナさん……感謝ですわ……」
「なに言ってるの、その状況で! 私は……本気で、助けに来たの……。助けてほしいなら助けてって……言って! お願いだから……!」
来夢は炎と涙が混じった瞳を頑張ってにこっと上げた。
「感謝……ですわ……。お言葉に……甘えまして……助けてくださ……いな。」
とぎれとぎれでも必死に言葉を伝える来夢を見て、ジーナは心が痛んだ。
こんなときに自分が変わってあげられたら、どんなに良いだろう。
そう思うがすぐに来夢を救出した。
「念力!」
ジーナの得意な念力で来夢を立ち上がらせた。
だが、炎は消えてくれない。
任せた、という合図でみぞれにウィンクをした。
(ジーナさん、任せて下さい!)
という気持ちをたっぷりと込めて、みぞれはウィンクを返した。
ジーナがひそかに
(みぞれのウィンクって気持ち悪い。)
と思ったことは内緒にしておこう。
それはさておき、みぞれは眉同士がくっつきそうなくらいな顔になり、全身の力を振り絞った。
「カチカチコールド!」
サボルナは先程と同様、
「むしむしエネルギー!」
と攻撃から身を守っている。
(今だ!)
サボルナがみぞれに気を取られているスキに、ジーナは
「クリア!」
と唱えた。
クリアというのは透明という意味だ。
その名の通り、あっという間にジーナは消え去った。
透明になったのだ。
サボルナもジーナが姿を消していることに気がついたらしい。
「どこだあああああああああ!」
サボルナはやみくもになにもない空気に向かって攻撃している。
やるだけ無駄だ。
ジーナはサボルナの背中に回り込んだ。
「サイコアタック!」
どおおおんと大きな音がして、地面がグラグラッと揺れた。
そして、紫色の大きな玉とともに、サボルナはどこかへ飛んでいった。
みぞれがジーナに駆け寄った。
「ジーナさん! やりましたね! あなたはにんにくの臭いがするだけの念力少女としか思っていませんでしたが、こんなに仲間思いだったとは!」
一言余計だ、と言ってやりたかったが、黙っておいた。
なぜなら、敵をたったの二人でやっつけたのだから。
来夢はみぞれに
「コールドウィンター!」
と言われ、ひんやりと冷やされていた。
冬にこの姿を見ている側は寒いが、来夢自身はとても気持ちよさそうに眠っている。
「来夢が起きたら報告してあげよう。きっと飛び上がって喜ぶと思う。」
「相変わらずですね、ジーナさん。本当は嬉しいのに。」
「みぞれ……黙って?」
「そーですかぁ。私、シャインシックス抜けようかなぁ。」
「え! 嘘! やめて!」
「冗談ですよ。」
「冗談はやめて?」
ジーナとみぞれのこのやりとりを、太陽は平然と見守っているのであった。
⇒三十二話へ続きます!
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34 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 21:38:15
第三十二話 「閉じ込められた悪〜完結〜」
「あ……見て!」
ジーナはリングを指さして小さく叫んだ。
新たな色が追加されているからだ。
燃えるようなオレンジ色がついていた。
三人の腰部分には、鈴がついていた。
オレンジ色は、ヒートタイプの技だった。
ジーナは、「炎獄の玉」
燃える炎の玉で相手を焼き付けることができる。
みぞれは、「むしむしエネルギー」
相手からの技をエネルギーで溶かすことができる。
だが、チルドタイプの技のみに効く。
来夢は寝そべっていてよく見えなかったが、細い指には
「ファイヤーアタック」が追加されていた。
炎で相手を飛ばすことができる技だ。
二人は満足気にリングと鈴を撫で回した。
「これも私達が頑張ったおかげ。」
とジーナが誇らしげにつぶやくと、
「ご褒美、ですわね。」
という声がした。
この語尾は……。
嬉しさを隠しきれなく、ジーナとみぞれは来夢に抱きついた。
「来夢!」
「起きたのですね! 心配したのですよ!」
「私は大丈夫ですわよ。……あらっ。リングに追加の特殊魔法がついていらっしゃいますわ。わたくし戦っていないのに。」
「来夢は身をボロボロにして戦ったのよ!」
三人は涙ぐんでそれぞれ抱きしめあった。
「……あ。」
「どうしたの、みぞれ?」
「やっぱり……ジーナさん、にんにく臭い。」
「今は良い!」
三人の笑い声は、空まで響いていった。
⇒三十三話へ続きます!
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35 :ダーク・ナイト
2023/02/17(金) 18:20:40
第三十三話 「怪しの山小屋 その1」
日が暮れて、空が夕日色に輝き出した。
沈んでゆく太陽の暖かい光に照らされ、三人の後ろに影ができた。
砂漠で寝っ転がって笑い合い、たくさん話をしていた三人は、体を起こして立ち上がった。
背中側にはたくさんの砂がついている。
さっさっと砂をはらった。
砂も一粒一粒日差しに照らされて金色に輝いて見える。
(そうだ。)
とみぞれはひらめいた。
ひらめいたと同時にジーナに、
「ジーナさん、いつかの実体映写を使ってくれませんか?」
とたずねた。
「あぁ、実体映写ね。良いけど何を出せば良い?」
「小瓶を出してもらえますか?本当に小さくて良いので。」
ジーナは超能力を使いやすくするためにパワードレッサーに着替えた。
「よし、準備完了。」
準備を整え、ジーナは深呼吸をした。
「実体映写!」
頭の中には、くっきりと小瓶を思い浮かべた。
透明で小さくて丸っこくて金色の蓋が付いている小瓶………。
すると、ポンッと目の前に一つの小瓶が現れた。
それはまさにジーナが思い浮かべていたものと同じ小瓶だ。
(技成功)
ジーナは心の中でガッツポーズをした。
そして、普通の服に着替えた。
一方、みぞれを見てみると小瓶の中に砂を入れている。
「どうしたの?」
とジーナが聞き、みぞれが持っている小瓶を見た。
みぞれは嬉しそうににこっと微笑んでから答えた。
「見ての通り、砂を小瓶の中に入れているのですよ。感動の思いを詰めて、旅の印にしたいと思って。」
「みぞれって実は優しい心持ってるの?」
「もとから優しいつもりですけど。」
「あ、自分でつもり言った。」
「聞かなかったことにして下さい?」
来夢はそんな二人のやり取りをにこやかに見つめていた。
だが、腕にはめている時計を見て顔色を変えた。
「あの、楽しく話していらっしゃるところ申し訳ないのですが、」
「楽しくは話してないの、来夢。」
「そうですよ!」
二人が必死に来夢の言葉をさえぎった。
来夢はそんな二人の言葉を聞いても微動だにせず、言葉を続けた。
「あそこの林まで行くのですよね?暗くならないうちに行かなければ。」
「あ、そうだった!」
「忘れていました……来夢さん、ありがとうございます!」
来夢は少し照れ顔になったが、すぐに真面目な顔になった。
「では出発しましょう。」
出発と言っても三人はリュックサックを持ってきていない。
ポシェットに少しの食べ物と水、それぞれ小物とパワードレッサーが入っているだけだ。
身軽な体でてくてくと林の方に歩いていった。
⇒三十四話へ続きます!
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36 :ダーク・ナイト
2023/02/18(土) 12:29:22
第三十四話 「怪しの山小屋 その2」
三人はずいぶん歩いた。
もう30分は歩いただろう。
三人はへとへとになっていた。
「ちょっとお水を飲みましょうか。」
と来夢が言った。
二人はもちろん賛成した。
自分たちのポシェットから水筒を取り出し、ごくんと一口水を飲んだ。
たったの一口のはずなのに、ずいぶんと美味しく感じる。
水で喉を潤して、再び出発した。
それから10分くらい経っただろうか。
日は沈み、空は薄紫色に輝いていた。
さっきまで遠くに見えていた林は、今や目の前にある。
林への入り口には、ボロボロの木の看板が立っていた。
そして、にじんだ黒い字でこう書いてあった。
「熊出没注意」
「この字、何と読むのですか?」
とみぞれが「熊」の字を指さした。
「それはね、くまって読むの。」
とジーナが半分呆れて答えると、みぞれは
「なるほど、くまでぼつちゅうい…へー。」
とつぶやいた。
「あの、でぼつではなく、しゅつぼつですわ。」
来夢が申し訳なさそうに訂正した。
みぞれは
「くましゅつぼつちゅうい……」
とつぶやいて紙にメモをした。
熊出没注意。
その言葉が三人の頭の中に焼きついている。
これからこの林の中を進んでいくが……大丈夫だろうか。
ジーナは生唾をごくりと飲み込んだ。
みぞれと来夢も顔をしかめている。
だが、この他に道はない。
元来た道か林の中へ続く道。どちらかしか無いのだ。
だとしたらこちらの道を行くしかない。
⇒三十五話へ続きます!
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37 :ダーク・ナイト
2023/02/18(土) 17:16:37
第三十五話 「怪しの山小屋 その3」
いつの間にか空が暗くなり始めていた。
藍色の空に、いくつか気の早い星が光っている。
街頭などない林の中はとても暗く、そびえ立っている木が襲いかかってきそうに見える。
ジーナが先頭を、みぞれが二番目、来夢が三番目と並んで歩いている。
三人はだんだんと心細くなってきた。
いつどこから敵が来てもわからない。
その「敵」の中には、バリスパーと熊のどちらも入っている。
それから、しばらく20分ほど歩いた。
怖さにさっきよりも吹く風が冷たくなってきたように感じる。
ガサガサッと草が揺れる音。
木の葉が風に吹かれる音。
なにもかもにおびえ、なかなか進むことができない。
さっきいた位置がまだ見えるくらいだ。
もうこれ以上進むのは無理なのではないだろうか。
ジーナが希望をなくした時。
みぞれが遠くを指さした。
「あの光は何ですか?」
ジーナは顔を上げた。
そしてその光を見ると、ハッとした。
あれこそ私達の希望の光だ、きっとそうだ、と。
来夢も同じく思ったらしい。
こんなに怖い林の中をさまよい続けるのは嫌だ。
なんとしてでもあの光のところへ行こう。
三人同時にそう思った。
みぞれが先頭を歩き出した。
だんだんみぞれと二人の間があいてきた。
「二人とも速く!」
「待って、みぞれ…あなた体力あるわね…。」
「わたくしなんてもうへとへとですわ。」
二人はぜえぜえ息を切らしてみぞれの元へと走った。
来夢は小走りだが。
三人は光のもとへついた。
光の正体は、一軒の山小屋についているランプだ。
山小屋は木で作られており、自然と一体化しているように感じる。
ジーナは山小屋の、ほこりにまみれた茶色い扉をドンドンと叩いた。
「ごめんください! どなたかいらっしゃいますか!」
一瞬しんとした後、ギイイィ……と重そうな音がして扉が開いた。
ジーナは一歩後ずさりした。
現れたのは、一人の少女であった。
ジーナ達と同じくらいの背丈をし、細い体つきだ。
「どうも、この山小屋の管理人の、浅井 美桜(あさい みお)です。」
「美桜ちゃん! よろしく!」
ジーナは美桜に手を差し出した。
美桜はその手を振り払った。
「ごめんなさい。あたし、人と関わるのそんなに好きじゃないので。」
その様子をみぞれと来夢はポカーンと口を開けて見ていた。
美桜が去ると、ジーナは拳を震わせて言った。
「なに、あの浅井とかいうの。信じられん。あれでも管理人か?だからココ人いないわけだ。」
「いえ……ジーナさんの方も性格的にキツいかと。」
「みぞれ? 何か言った? 今物音がして聞こえなかったからもう一回!」
「……わざとですよね?」
来夢は考えていた。
あのはっきりとした声。一人称。
どこかが引っかかる。
「来夢さん、どうしました?」
気がつくと、みぞれが目の前で手をひらひらさせている。
「あ、いえ……何でも無いですわ。」
⇒三十六話へ続きます!
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38 :ダーク・ナイト
2023/02/19(日) 18:14:57
第三十六話 「怪しの山小屋 その4」
「どの部屋に泊まんの?」
ジーナが荒々しく奥の部屋に向かって叫んだ。
すると、ジーナが叫んでから三分くらい経ち、奥の部屋から美桜が姿をあらわした。
「怒鳴んないでくれるかな? アンタ達が泊まるのは、ココ。」
と美桜は今にも噴火しそうなくらいの怒った顔で、横の部屋を指さした。
「なんか問題でも?」
美桜は偉そうに顎をクイッと上に上げた。
「ある。」
ジーナが低い声で言った。
「アンタの性格……どうにかしな。」
みるみるうちに美桜の顔が怒りで溢れた。
全身を真っ赤にし、耳までもが赤い。
拳はふるふると震えており、肩は上がりすぎてもう少しで耳たぶにつきそうだ。
「その言葉さ、大っ嫌い。お姉ちゃんにも言われた。」
来夢は驚いた。
やはりだ。
来夢は震える声で美桜にたずねた。
「そ……その……お姉ちゃん、の、名前、教、え、てくれ、るかな。」
いつもの落ち着いている来夢らしくはない話し方だ。
美桜はツンとそっぽを向いた。
「あーあ! お姉ちゃんのことなんて思い出したくもない。えぇ? 誰かって? てか、アンタも言葉たどたどしいわねー。」と来夢の鼻を人差し指でなぞった。
「………ら…………か。」
「あ? なんて?」
ジーナは耳を美桜の目の前にまで寄せた。
「アンタ、急に声小さくなるってどうかしてるわ。」
そんな喧嘩が始まっている中、みぞれはさっさと泊まる部屋の中に入っていた。
みぞれは部屋の中で、フゥ~とため息をついた。
「……こんな感じでどうなるのでしょうか。」
一方、まだ廊下では2vs1の言い合いが続いていた。
正確には、1vs1なのだが。
「お姉ちゃんの名前? あー、琴平 風香。多分アンタたちは知ってる。風を操る能力者。」
「え?」
来夢&ジーナと、部屋の中にいるみぞれの声が重なった。
次の瞬間、その場が静まった。
さっきまでなにかと言い返していたジーナでさえも言葉が出なくなっている。
「え?」
⇒三十七話へ続きます!
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39 :ダーク・ナイト
2023/02/19(日) 18:33:23
第三十七話 「怪しの山小屋 その5」
「え? は?」
ジーナはこの場が理解できていないのだろう。
ひたすら慌てている。
みぞれとジーナは心の中で、
(あの方、琴平 風香という名なのね……。)
と、脳のメモに書きつけていた。
そんな三人をお構いなしに美桜は話を続ける。
「お姉ちゃんは、昔はものすごい足が速くて陸上選手だったの、本当に自慢のお姉ちゃんだった。だけどある日、台風に襲われてから陸上選手として活躍できなくなって。私は見捨てた。」
「は?」
来夢が言った。
来夢の口から飛び出すにしてはおかしい言葉だ。
「あのですねぇ……それは本当にお姉さんを思っているとは言えませんのよ。人として大切にしてこそ、本当に親しいと言えるのではないですの?」
来夢は真剣な顔で美桜に向かって話した。
美桜は目をぱちくりさせている。
静まった廊下では、ひたすら時計の針がチクタクチクタクと細やかな音を立てて動いている。
沈黙の場が1分ほど続いたときだ。
「続いては天気予報です。」
と穏やかな声が聞こえてきた。
聞き覚えのない声だ。
その声は、みぞれのいる部屋の中から聞こえてくる。
ジーナは扉を開けて部屋の中をのぞきこんだ。
「ちょっ、ジーナさん! 入る時はノックしてくださいよ!」
とみぞれが両手を横に伸ばし、足を大きく横に開いている。
部屋の中が見えないようにバリアしているつもりなのだろう。
だが、ジーナは全て見えてしまっている。
みぞれの背が低いからだろう。
「お邪魔しま〜す。」
ジーナは靴を脱いで下駄箱にしまわず、ドカドカと部屋にあがっていった。
「ちょっちょっちょっ、ジーナさん、あなた、許可もらってからあがってくださいよぉ……。」
みぞれは慌てふためいているが、ジーナはお構いなしで部屋の真ん中に座った。
座ったと言っても、本当は大の字に寝っ転がったのだが。
ジーナは、むくりと体を起こした。
そして、部屋中を見渡してみた。
皎色の壁、キャラメルブラウンの壁枠がジーナの予想だったのだが、少し黒くくすんだ焦げ茶色の壁、黒くて汚れがハッキリとついている壁枠が視界に入った。
窓枠はかろうじてきれいに磨いてあるのだが、肝心の窓が汚れており、掃除がされていないことがはっきりとわかる。
おまけに、右下の端の方には蜘蛛の巣が張ってある。
「ねっ、ちょっとみぞれの耳貸して。」
ジーナは寄ってきたみぞれの耳に向かって息を吹きかけた。
⇒三十八話へ続きます!
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40 :ダーク・ナイト
2023/02/20(月) 19:16:34
第三十八話 「怪しの山小屋 その6」
「みぞれの髪型、変になってない?」
「はい!?」
みぞれは思ってもいないことを急に聞かれたため、驚いて後ろに下がった。
「いきなり何言うのですか!」
みぞれは、若葉色のヘアゴムを外した。
現れたのは、エアロブルーのややハネ気味の短い髪の毛だった。
ジーナはつい、ぼぉーっとしてしまった。
みぞれは一生懸命に髪の毛を束ねている。
開けっ放しの扉から、冷たい空気が流れ込んできた。
「ジーナさん、閉めて下さい。」
みぞれは冷ややかな目でジーナを見つめた。
ジーナは渋々扉を閉めに行った。
ガチャンと音がして、扉が閉まった。
一方、廊下の方では重々しい空気がひたすら流れていた。
置いてきぼりになった来夢は、気まずそうに目線をそらそうとした。
どう反応したら良いのかわからないのだ。
美桜が声を絞り出した。
「……お姉ちゃんのことは、陸上選手から引退したときから嫌い。あんなお姉ちゃん、会いたくない!」
最後の方になるに連れて、だんだんと美桜の声は荒々しくなってきて、ついには怒鳴り声になってしまった。
美桜は顔をほんのりと怒りの色に染めて話していた。
来夢は何かを言おうとして、下を向いた。
「美桜さん。おやめなさい。お姉さんが可哀想ですわよ。」
⇒三十九話へ続きます!
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41 :ダーク・ナイト
2023/02/25(土) 16:06:58
第三十九話 「怪しの山小屋 その7」
「可哀想だなんて思わない。」
感情が抜けたかのような瞳になり、美桜は声を低くして言った。
「覚えてらっしゃい。」
来夢はとてもすっきりした。
今まで曇っていた心の空が、からっと晴れた。
来夢はスキップ混じりで、二人がいる部屋の扉を開けた。
「お邪魔しま〜す。」
来夢は部屋の中を見て声が出なくなった。
いくらかみぞれの持ってきた小さなポシェットで隠されてはいるもの、隠されていない壁や床の汚れがなんとも気になるものだ。
ジーナは来夢の方を向いて、肩をすくめた。
「思うでしょう? この部屋……ハッキリ言っちゃってきたな」
来夢は、シーッと言い、人差し指を口に当てた。
ジーナは声を潜めた。
「汚くない? この部屋。」
みぞれは小さく首を縦に振った。
みぞれの2/8に分けられた前髪がブンブンと揺れる。
「おそらく、今は美桜さんしかこの山小屋を管理していないのでしょう……。あの方の性格からして、綺麗にするつもりはないのだと思いますわ。」
来夢はひそひそと二人に話した。
ジーナは言った。
「というか、お腹すいたのだけど……。」
同時に、みぞれのお腹が小さくキューと鳴った。
「実体映写は使えないですか?」
自分のお腹の音をかき消すようにみぞれが言った。
「そうね。」
ジーナは、やや古い匂いのする空気を一回吸い、
「実体映写!」
と言った。
ジーナは頭の中に、オムライスを思い浮かべた。
薄黄色でふわふわの卵。
つやつやの赤いケチャップ。
グリーンピースが混ざったオレンジ色のご飯。
次の瞬間、ポンッと音を立て、3つのオムライスが現れた。
銀色のスプーンも3つ現れた。
「ジーナさん、ありがとうございます! いただきます!」
みぞれが手を合わせた。
続けて来夢もいそいそと丸い机のそばについた。
ジーナは開けにくい押し入れから藍色の座布団を取り出し、机のそばに持っていった。
そして、座布団の上に座った。
「いただきます!」
ジーナと来夢の声が重なった。
二人は顔を見合わせてふふっと笑うと、目の前にあるオムライスにスプーンを突き刺した。
卵と卵の間から、温かい湯気が立ち昇ってきた。
同時に、ふわんとした香りが広がる。
⇒第四十話へ続きます!
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42 :げらっち
2023/03/09(木) 00:25:33
第四十話 「怪し過ぎる山小屋」
西暦200X年。
犯罪集団バリスパーにより荒廃した日本。
ジーナ、みぞれ、来夢の3人は、とある山小屋にてオムライスを食べていた。
この髪色カラフル3人娘は冒険の真っ最中であるのだが、緊張感は存在せず、仲良いのか悪いのかさえよくわからない謎の関係だった。
来夢はオムライスをスプーンに乗せて口元まで運んだが、手を止めた。
「ねえ、ジーナさん。これってあなたの実体映写とやらで生まれたんですよね? 食べて大丈夫なのかしら?」
「失礼な。私の想像力を信じなさいよ。サイケガーデン代表のこの私を!」
そうは言われても、来夢やみぞれには、サイケガーデンがどんなところかイマイチ想像できなかった。
サイケガーデンは異次元にある超能力者の世界らしい。来夢はSFのような近未来都市を、みぞれはお花畑を思い浮かべた。
「ていうかケチャップがかかってないと食べられませんわ」
「来夢って喋り方お嬢様っぽい割に庶民的!」
「私は電気屋の1人娘、庶民中の庶民ですわ。それに庶民でも貴族でもケチャップ抜きでオムライスを食べられるのは人間じゃありませんわ」
「じゃ、ケチャップも出して!」
みぞれはジーナにウインクした。
本当に気持ち悪いウインクだと思いながら、ジーナはケチャップを出現させ、来夢の手に押し付けた。
来夢はケチャップで、ふわふわ玉子のキャンパスに、絵を描いた。
黄色に赤い線で、顔が描かれてゆく。
ジーナはそれを覗き込んだ。
「来夢、何描いてるの?」
「見ればわかるでしょう、ハナマルクエストのアヤノ」
「じゃ、私はジルバの通説のキャラを書くわね」
「マイナー作品を攻めますわね、ジーナさん!」
ジーナは青や緑のケチャップをも出現させ本格的な絵を描き始めた。まさにサイケだ。
2人がにゅるにゅると絵を描いているのを見て、みぞれは創作意欲が湧き上がりうずうずとしていた。
「わ、私も書きます……!」
みぞれは来夢のケチャップをひったくった。
ジーナと来夢はみぞれの描画を見守った。
「何描いてるの?」
「ホリーパッターを……」
「それは天丼工場よ! あなた産業スパイね!?」
3人はケチャップをかけ過ぎてしまい、オムライスは台無しになった。
「で、ジーナさん。私たちは何のため旅をしていたんですっけ?」
「忘れたのみぞれ? バリスパーを倒す6人の戦士を集めるためよ」
「じゃああと3人ですね。どうやって居場所を掴んでいたの?」
ジーナは少しためらった後、「あてずっぽう」と言った。
みぞれと来夢はずっこけて頭をごっちんこした。
「こ、攻略本を見ましょ!」
ジーナは四次元ポケットならぬ無限ポシェットから、本を取り出した。
ペラペラとめくっていき、キャラ紹介のページを開き、床に置いた。
3人はしゃがみ込んでそれを見た。
「私たちが載ってますわねえ」
「えー、私こんな顔でしたっけ?」
「いいからシャラップ。見たいのは4人目以降よ」
「あ、やっぱり4人目は琴平風香って人ですわね」
「5人目は……」
ジーナは5人目、赤髪の少女の概要欄を声に出して読んだ。
「火災現場を通り、無謀にも倒れていた老夫婦を救出した。その後、加熱する能力に目覚めてしまった」
そこまで読んだところで、3人は互いの顔を見合わせ、そして大爆笑した。
「ぎゃっははははは!! なんじゃそりゃ!!」
「老夫婦の救出と加熱能力の開眼になんの因果関係も無くて草生え生えですわ!!!」
「変ですね~!」
「いやみぞれ、あなたも自力で超能力を開発するって割かし変よ」
3人は笑い疲れて、急に冷めた。
「……じゃあ火災現場を探せばいいのね?」
「いや、いっそのこと火災を起こしておびき出しちゃいましょう!」
「さんせーい! いつやる?」
「今すぐ、ですわぁ!」
3人は深夜に関わらず小屋を飛び出し、街に向かった。
琴平風香はその3人娘を物陰から見て呆然としていた。
「ちょ、あたしは!? あたしを仲間にするステージを飛ばさないでよ! 裏ルート!?」
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43 :92
2023/03/10(金) 18:34:59
「うーん、勢いで街に出たものの……」
「これは通れませんわね……」
3人の目の前を塞いでいたのは、巨大な酔っ払ったおじさんだった。
「ういーっ、ひっく……待ちやがれ!」
「あら、じいちゃんったらこんなに酔っ払って!」
隣の孫らしき女の子がなだめるも、おじさんは「こら!行くなと言っとるだろーが!」と怒鳴るばかりである。
「これはどうしましょうか……。これでは前に進めませんわ。」
来夢がおじさんの前で悩んでいると、不意にみぞれがジーナにお願いをした。
「ジーナさん、攻略本を見せてくれませんか?」
「さっき見たやつ?でもおじさんイベントとか読んでて見かけたことないよ。」
「そうじゃなくて…その、電気ネズミで有名なゲームの作品の攻略本を見せてほしいんです。」
ジーナは地球文化を知らなかったためしばらく考え込んでいたが、ポシェットを漁った結果それらしいものがあったのでみぞれに放り投げた。
「ジーナさん、ありがとうございます!これです!」
「美桜、さっきのお客さんの情報ないの⁉︎住所とかメルアドとかさ!」
「は?お姉ちゃん何言ってんの。あたしが客に宿帳書かせるはずないしー。っていうか今はメアドって略すんだよ。もしくはもうメール使わないとか。お姉ちゃん古ーい。あ、ねぇこの荷物おじいちゃんに…」
妹の言葉を聞ききらないうちに、風香は外へ飛び出した。
風を切り走るこの気持ちよさ。昔のようには走れないが、風があるおかげで気持ちがよかった。
「早く街へ行かなきゃ___。ぎゃっ!」
壁にぶつかり、風香は尻もちをついた。
「あら、すみません。初対面で聞くのも申し訳ないんですが、何かおつかいの用事を知りません?」
ぶつかってきたのは来夢だった。後ろにみぞれとジーナも見える。
おつかい……美桜の言葉を思い出し、風香は答えた。
「ないこともないけど……あっちにある山小屋の管理人の妹がいるんだけど、おじいちゃんに荷物を届けてくれって言ってたような気がする。」
「あっちの山小屋?あ、もしかしてあなたって風香さんですか⁉︎」
ジーナは慌てて叫んだ。
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44 :ベリー
2023/03/16(木) 21:23:10
「ふぅかぁ! ふーかじゃないかぁっ」
ジーナの言葉に返事をしたのは風香──ではなく、酔っ払ったおじさんだった。
唐突に会話に割って入ってきたおじさんに驚いて、一同視線が一点に集中する。
傍に居る女の子はオドオドしながらも説明を始めた。
「私達、琴平さんから食料を頂く約束をしていて。このご時世のこともあって家族は皆腹を空かせていて、そのせいでさっき弟達が“お腹空いた”と喧嘩してしまったんです。さっき、じいちゃんが酔っ払ってるのに“琴平さんから食料を貰ってくる”と言って飛び出してしまったんです。私はそれを追いかけて……。」
山小屋周辺は豊かな自然に囲まれていて、シャインシックス一同が今まで食料に困らなかった程度には資源で溢れていた。
琴平姉妹は定期的に街だった廃墟で暮らす人々にそれを配る、慈善活動をしているのであった。
それらを察したシャインシックス一同は憂い顔を浮かべる。
「なら、私達と一緒に山小屋へ行きましょう。深夜の道端に居る女の子と酔っ払いを放ってはおけませんし、私達なら貴女方を守れますわ!」
来夢がパンッと手を鳴らし言った。そうね、賛成、とジーナが笑ってガッツポーズ。
「そんな、皆さんに迷惑をかける訳には……」
「そんな事いいんです。助け合い、ですよ! 苦しい時は強がらず、人を頼ってください!」
みぞれも賛成の様で、困惑の表情を見せる女の子に言った。
おじさんは酔っ払っていて状況把握を出来ていないようだが、女の子はシャインシックスの言葉に目頭を熱くしていた。
ジーナはポッケから取り出したティッシュを女の子に差し出し、「念力」と言い放つ。と、酔っ払ったおじさんがフワフワと浮かんだ。
「皆、行くわよ!」
ジーナの掛け声と共に、皆は来た道を折り返し始めた。しかし、風香だけは戸惑ってその場に立ち尽くしていた。
(私は皆の仲間じゃない。寧ろ部外者なのに、一緒に行っていいのか──)
ジーナが立ち止まり、振り向く。
「何やってるの風香。行くわよ?」
さも風香も行くのが当たり前、とでも言うように言った。
そのちょっとの傲慢さが、風香の緊張を解す。
「う、うん……!」
自慢の足を使って皆に追いつく。
風を感じる。
深夜独特の──いや、明け方の冷たくも気持ちい空気が喉を駆け抜ける。
熱い体を冷ましてくれる。
追いつくだけだから、いつもより遅く走っているはずなのに。
──楽しい
風香の口角が、自然と上がった。
こうして、皆はゆっくりと山小屋へ目指して歩き始めた。
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45 :げらっち
2023/03/17(金) 20:58:47
wikiwiki.jp
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46 :げらっち
2023/03/17(金) 20:59:29
第四十三話(?)「可哀想な熊」
夜明けが近いが、まだ辺りは薄暗い。
「こういう時間を彼は誰時(かわたれどき)というんですよ」
「みぞれ、そういうのどうでもいい」
酔っ払ったおじさんは美桜に任せ、4人は当初の予定通り、街にやって来た。5人目の仲間を探すために。
「って、何であたしまで仲間に入ってるの!?」
風香が叫んだ。
「まあイイじゃないですか。それよりやっと本題に戻った事ですし、5人目の仲間をおびき寄せましょう」と来夢。
一方、バリスパー団員・ノースブレイカはこの街を探索していた。
「うひへへへぇ……無防備な匂いがプンプンするぜえ。どうやらこの街はまだ犯罪の魔手という物を知らないようだな。俺様が手当たり次第強盗に入ってやるぜぇ」
二足歩行する白熊であるノースブレイカは、のしのしと歩いていき家の1つに狙いを定めた。
「くんくん。この家は老夫婦が2人きりで暮らしていて子供も孫も滅多に訪れないし年賀状さえ送ってくれない寂寥感溢れる匂いがするぜえ。こういう家は案外貯蓄が多いし強盗に入るにはうってつけなんだよな! どれこのノースブレイカ様の手腕を見せてやるかな」
ノースブレイカはバリスパーのノルマを達成し昇格と賞与を狙うためにも家に侵入しようとした。
するとすぐ近くから声が聞こえたので、彼は飛び上がった。こんな時間帯に外で会話しているのは誰だろうか?
ノースブレイカは巨体を電柱の後ろに隠した。
「火災を起こして5人目をおびき寄せる作戦よ。スパークタイプが有効ね。やっちゃって、来夢!」
「お任せ下さい!!」
ジーナの指示を受け、来夢は目を輝かせた。
「あれ? ノリノリですね、来夢さん。良い事でもあった?」とみぞれ。
「ピカピカレイン!!」
来夢は空に両手を上げた後、ビュンと振り降ろした。電気の雨が降り家屋に直撃、発火した。
「成功ですわぁ! きゃはは!!」
ノースブレイカは目が飛び出すほど驚いた。
「おい!! お前ら何をしている!!」
ノースブレイカは電柱の影から飛び出し、ジーナたちの前に姿を現した。
「あ、バリスパー!」
「お前ら、俺たちより先にこの街を荒らしに来た犯罪組織か?」
「よ、よくわかったわね!」と風香。
「いやあなたは《大会荒らし》でしょう? それも過去の栄光だし」とジーナ。
「ぬぐっ……今の言葉、自信失くすわ……」
炎はすごい勢いで広がっていき、もう家を飲み込みかけている。
「くっ、俺は熱が苦手だがしょうがない!」
ノースブレイカは燃え盛る建物に突っ込んだ。
「大丈夫か? おじいちゃん、おばあちゃん!」
ノースブレイカは老夫婦を抱えて出てきた。老夫婦は咳き込んでいるが、無事なようだ。
「ちょっとぉ! アンタが助けちゃ意味ないですわ!! 私たちの作戦を邪魔しないでくれませんこと!?」
来夢が怒鳴った。
「作戦だと?」
ノースブレイカは老夫婦をそっと道端に寝かせると、雄叫びを上げ、ジーナたちに鋭い爪を向けた。
「放火とはバリスパーでさえやらないような極悪な犯罪だぞ! お前ら成敗してやるから覚悟しろ!!」
ジーナたちは悲鳴を上げた。
すると。
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47 :げらっち
2023/03/17(金) 21:00:08
「やめな!!」
荒々しい声がして、場に居た全員が振り向いた。
そこには赤毛の少女が立っていた。
「あ、あなたが相模夏樹ね?」とジーナ。
「え? なんであたしの名前を……」
夏樹はキョトンとしていたが、やがて我に返って言う。
「何喧嘩してんだ! 怪我人の救助が先だろうが!」
夏樹は男口調で勝気だが、困っている人を放っておけない性格のようだ。
「それが、このコワモテグマが邪魔するんですー」とみぞれ。
「そうか! さてはアンタ、最近日本を荒らしているバリスパーとか言う犯罪組織の1人だな?」
夏樹は巨大な熊に立ち向かった。
「た、たしかに俺様はバリスパーだが……」
「わかった、アンタが放火したんだな?」
「え? ま、待て!! 濡れ衣だ!! ふざけるな!!! 放火はアイツらが……」
夏樹はノースブレイカが犯人だと決めつけてしまった。
それもそうだ。ノースブレイカはいかつい外見だし、バリスパー団員であることを認めた。
対するジーナたちは目をうるうるさせて被害者面をしていたのだから、誰でも騙されてしまう。
「許さねえ。あたしがやっつけてやる!!」
「この《パワードレッサー》を着て戦って!」
ジーナは夏樹に、燃えるような赤い服を手渡した。夏樹は瞬時にそれを着用する。
「あ、そういえばあの熊、熱が苦手って言ってましたよ!」とみぞれ。
「げっ!!」
ノースブレイカはたじろいた。
夏樹は容赦なく狙いをつける。彼女の両の拳が、炎に包まれた。
「ハイテンプパンチ!!!」
右、左、右、夏樹はノースブレイカに燃えるパンチを喰らわした。
「理不尽だぁ~~!!」
ノースブレイカは吹っ飛ばされていった。
「これで5人目ゲットですわね!」と来夢。
「何してんの! あの人たちを助けないと!」
夏樹は倒れている老夫婦に駆け寄った。
こんなに心優しいメンバーは今まで居なかったと、ジーナたちはポカンとしていた。
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