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21 :ダーク・ナイト
2023/02/02(木) 21:05:56

第十九話 「レインボードリンクの伝説〜前編から中編その1まで〜」

・前編・
ジーナ・ケスタと陣内みぞれ、大甕来夢は森に来ていた。
そう。ジェネラル戦が終わり、自然豊かな森で暮らしていたのだ。ジーナの技、「実体映写」を使ってその場にテントを出し、そのテントの中で暮らしていた。
鳥のさえずる声や木の葉音、小川のせせらぎが心を和ませてくれる。まだこの森は、バリスパーには荒らされていなく、ありのままの姿だった。
そもそもバリスパーは、使い勝手の良さそうな街を目につけ、支配しようとしているのだろう。
三人はそんな中、ゆったりと自然を楽しんでいた。
ふと、みぞれは果物が実っている木を見つけた。
虹色の色の、洋梨型のフルーツだ。
珍しい色なのだが、どうも毒々しい雰囲気をまとっている。
「どうしよう、綺麗なのだけど毒がありそうな見た目…。」
とみぞれはつぶやいた。
みぞれの濃いグレープジュースのような、うるうるした瞳はみぞれが心配して余計うるうると輝いている。
そんな三人の不安を知らない空は、雲ひとつなく晴れていた。
不安もかき消すような青空に…。

・中編その1・
ガサガサッ。と音がして、木が揺れた。
その反動で、みぞれはビクッとした。
後ろに立っているジーナと来夢もかすかに震えている。
張り詰めた空気の中、ジーナが重々しく口を開いた。
「…このフルーツ…。辞典に載っているかしら。」
そう言って、小さな鮮やかピンクの丸いポシェットの中から、一冊の分厚い辞典を取り出した。
みぞれと来夢は、どこから出したのかなどは聞かなかった。
それよりも、今はフルーツのことで必死だったのだ。
鳥はそのやり取りを見るようにチュチュイッと鳴き、短い首を一生懸命伸ばして辞典を見ようとしている。
「えっと、フルーツの目次の中から、…コレ…かしら…。」
ジーナが指を指したそのページには、目の前にあるフルーツと全く同じ色、全く同じ形をしている。
とは言っても、少しつるつるしているが…。
「この美しきフルーツの説明は…。」
と、来夢が説明を読みあげた。
⇒二十話へ続きます!

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22 :ダーク・ナイト
2023/02/03(金) 17:53:06

第二十話 「レインボードリンクの伝説〜中編その2から中編その3まで〜」

・中編その2・
「ある街にある、このレインボーフルーツ。見た目は毒々しく、怪しんで食べない者がほとんどだが、実は食べられる。味は濃厚で、舌がとろけるほど甘い。一口かじるごとに味が変わる。色は虹色で、形は洋梨型。さわると若干つるつるしており、噛みごたえはぷにぷにしていて柔らかい。」
「へー!じゃあ、コレ食べれるんだ!」
とジーナは興味津々にフルーツをながめた。
「ですが、レインボーフルーツって本当に美味しそうですよね。」
とみぞれがレインボーフルーツをじっと見て、今にもかぶりつきそうな目をしている。
「ですわね。私も召し上がってみたいと思いますわ。」
と来夢も言う。
異口同音なため、早速食べてみることにした。
かぷり。
最初に、みぞれが食べてみた。
皮までもが柔らかく、肉厚で果汁たっぷりな味わいだ。
一口かじるごとに味が変化するため、何口でも食べられそうな、まさに魔法のフルーツだ。
最初の一口目は、りんごの優しい甘い味わい。
次の二口目は、オレンジの甘酸っぱい味わい。
次の三口目は、バナナの濃厚でトロピカルな味わい。
四口目は、メロンのさわやかでジューシーなな味わい。
五口目は、ぶどうの甘味と酸味が舌の上でとろけだす味わい。
六口目は、ブルーベリーのほのかな酸味のある味わい。
七口目は、いちごの春の吹雪を感じられる胸のときめきの味わい。
一口ごとに、みぞれは「うーん!」と感動をうなってしまう。
この味わいは、言葉でもとても言い表せないくらいの味だ。
みぞれに続いて来夢もかじってみた。
目を飛び出さんばかりに開きながら、レインボーフルーツをかじる口はやめられない。
ジーナも横でレインボーフルーツをかじりながら、幸せそうな顔を見せている。
三人は、芯まで大切になめきった。
すると、なぜか満腹になり、一食分を食べたような気分になった。辞典のレインボーフルーツは、次のページにも説明が続いていた。来夢がそれに気がついて、読みあげた。
「なお、1つを食べると一食分のご飯を食べたように満腹になる。バトルのときのエネルギー補給にもおすすめ。」
それを見た三人は顔を見合わせた。
(このレインボーフルーツを持っていきたい!)
三人が考えていることはこれにまとまっていた。
「でも…。」
とジーナが残念そうにレインボーフルーツへ視線を向ける。
「このままでは腐ってしまうのでは無いでしょう?」
と来夢も心配そうにうつむきながら聞く。
ただ、みぞれ1人が自信満々だった。

・中編その3・
「どうしたの、みぞれ?」
「どういたしました?解決策でも思いつきましたの?」
ジーナと来夢はみぞれに聞き合う。
みぞれは、コクッとうなずいた。
みぞれは木からレインボーフルーツを九個つみとった。
「コールドウィンター!」
あっという間に、レインボーフルーツが凍った。
「凍ったら腐らないでしょう?」
とみぞれが二人に堂々と説明した。
なるほど、その手があったか!と二人は手を叩いた。
このようなときに、チルドタイプの協力者がいたことにジーナは感謝した。
そして、レインボーフルーツは私服にジーナが付けている「無限ポシェット」に入れた。
すると、森の奥の方から声がした。
この声…なんだか聞き覚えのある声だ。とジーナは感づいた。
その声に近づいていこうとする来夢とみぞれを引き止め、草むらから様子をうかがっていた。
やはりジーナの勘通り、バリスパーの団員だった。
「ここらへんに、レインボーフルーツとやらがあるらしいですよ。」
「見たところ無いのだが…。」
「木に実っているのですよね?」
「噂では、そのフルーツでジュースを作ると、1時間だけ無敵な体になれるらしいぞ。」
と、団員の声が聞こえてくる。
おそらく四人くらいがいるだろう。声の種類が四種類ある。
その声は三人の隠れている草むらの前を通り越して、三人が来た道を進んでいった。
団員が通り過ぎていった後、来夢が二人に告げた。
「聞きました?無敵な体になれるらしいとのことですわ。」
まさか、レインボーフルーツにそんな力があるなんて…と三人は驚いていた。
たまたま見つけたフルーツに戦いに有力な力があったのだとは、単なる偶然だとしか思えなかった。
⇒二十一話へ続きます!

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23 :ダーク・ナイト
2023/02/03(金) 21:34:06

第二十一話 「レインボードリンクの伝説〜後編その1から後編その2まで〜」

・後編その1・
「レインボードリンクはどのようにして作りますの?」
と来夢が辞典をめくる。
目次に、「レインボードリンクの作り方⇒897p」と書いてあった。来夢がそのページを読みあげた。
「レインボードリンクは、レインボーフルーツを『変化型魔法』でジュースにすることで作ることができます。なお、『変化型魔法』は、マジカルスティックで発動できます。」
「マジカルスティック!?」
とジーナは驚いた。
ちょうどジェネラルから奪い、味方にしたばかりだからだ。
なんとありがたいことだ、とジーナはしみじみ思った。
そして、さっき無限ポシェットに入れたばかりのレインボーフルーツを取り出した。
まず、みぞれに氷を解除してもらった。
魔法がかかった状態で別の魔法をかけることは難題だからだ。
「解除!」
みるみるうちに、元のレインボーフルーツに戻った。
次に
「変化型魔法!」
とジーナが声を張り上げ、レインボーフルーツに向かってビームを発射した。
すると、レインボーフルーツが溶け出した。
とっさに来夢がグラスを作り出し、グラスにジュースを注いだ。
次の瞬間、目の前にはグラスに注がれたレインボードリンクがあった。
まず一口、ゴクッとジーナが飲んでみた。
ジーナはまんまるな目をして、「美味しい!」と叫んだ。
みぞれと来夢も続いて飲んだが、やはり二人も目を輝かせた。

・後編その2・
「こんなに美味しいものが作れるようになったなんて…!」
さらに、バリスパー団員が言っていた、無敵な体になれるということだが、本当に無敵な体だった。
試しに電気を通しても凍らせても念力を使っても、全然攻撃の効果が表れない。
さらに、どれだけ走っても疲れないのだ。
また、美味しい部分はもう一つある。
自分の攻撃もパワーアップしているのだ。
電気タイプの、一番弱い技でもビリビリにしびれ、しびれ状態になる。
「コレは良いものを見つけたわね!」
とジーナはガッツポーズをした。
三人は、青空を見上げた。
三人の今の心のパレットは、まさに青空のさわやかなスカイブルーであった。
⇒二十二話に続きます!次回からは「からから砂漠のバトル」編です。

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24 :ダーク・ナイト
2023/02/04(土) 10:34:37

第二十二話 「からから砂漠のバトル〜前編〜」

夕方になり、三人は北の方へと歩き出した。
北には、砂漠がある。
この自然豊かな森を去り、暑苦しい砂漠へと向かうのだ。
しっかりと豊富な水をボトルに入れ、三人は歩いていた。
「砂漠…。ここにもなにかいそうですよね…。」
とみぞれは不安そうにきょろきょろとあたりを見回しながら言う。
砂漠はがんがんとした暑さで、意識がもうろうとしてくる。
そんな中、ジーナはあることに気がついた。
「ん…?待って、みぞれ!チルドタイプって砂漠に強いの?」
とジーナがみぞれに大慌てで聞く。
「そうですね、チルドタイプは強烈な暑さには弱いです。炎など。」
とみぞれが答えた瞬間に、ジーナは早口で言った。
「っていうことは、まさかだけど…レインボーフルーツが…!」
みぞれはようやくハッとした。
ジーナの無限ポシェットの中にあるレインボーフルーツは、溶け出していた。半腐り状態になってしまっている。
「………。」
その場に三人は立ちつくした。
ジュースも当然のこと、じとじととしている。
「大切なフルーツを…失ってしまいました…。」
みぞれは大粒の涙を瞳からぽろぽろとこぼした。
「ですがね、これで良かったのだと思いますわ。」
と来夢が静かにつぶやいた。
本当は来夢も辛くて悲しくて心がやぶれそうだった。
だが、泣いてもなにも変わらないと思い、ひたすら舌を噛んで、悔しがった。
「なぜって、無敵な体を持つことのできるフルーツに頼るより、自分たちの力で勝つ方が達成感ありますでしょう?」
涙で声が震え、うまく話すことができなかったが、二人に来夢の気持ちは伝わったようだ。
二人は涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、にこっと笑った。
ビュオー。
一気に砂ぼこりが舞い上がり、三人は砂が目に入らないように、思わず目をつぶった。
「…!…ナ!…ーナ!…ジーナ!」
ジーナは来夢の声に目を覚ました。
「ん…?ここはどこ…?みぞれは?」
みぞれは、ジーナの右隣ですやすやと寝ている。
三人ともいることに、ジーナはほっとした。
「にしても、ここはどこなの?」
とジーナは辺りを見渡した。
さっきまでいた、どこまでも砂道が続く砂漠ではない、少し涼しい空気のある、サボテンや砂山がたくさんある場所だ。
「…私達、ここに飛ばされたのね…。」
とジーナは言った。
「これからどういたしましょう?」
と来夢が首を傾げて言った。
来夢の声に、みぞれが目を覚ました。
「ん…?ここはどこです?」
寝起きでなにも知らないみぞれに、来夢が今までのことを説明した。
どうもここは、陰気臭い雰囲気がただよっている。
すると、周辺にあった、少し大きくて棘がたくさんあるサボテンが動いた。
三人は驚いて、後ろへ後退りした。
今は風も吹いていない。そのため、サボテンが動いたということだ。
⇒二十三話へ続きます!

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25 :ダーク・ナイト
2023/02/04(土) 12:15:25

第二十三話 「からから砂漠のバトル〜現れたサボテン〜」

くるっとサボテンが振り向いた。
三人は精神を集中させて立ち上がった。
(これは…バリスパーの団員…。)
なぜバリスパーの団員なのかわかったのかというと…。
バリスパーの団員は、全員黒いぴっちりとした団服を着ているからだ。ジェネラルもサボルナと同じ団服を着ていた。
さらに、いつの間にか夜になっていた。
夜になると、さらに団服は見にくくなる。
また、夜の敵や相手を見にくくなる時間帯は、とても戦いにくい。
「俺はサボルナ。サボルナはさぼるな!」
その場がしーんと静まった。
「ゴホン!」
とサボルナが咳ばらいをした。
自分が思いついたダジャレがあまりにも寒かったのだろう。
気まずそうにサボルナは場を取り戻した。
「俺は夜にしか動かない。到底お前たちに俺は倒せないだろう。朝までに倒すだなんてな。意外と夜って短いんだぞ?」
ハハッと軽く笑い、サボルナは恐ろしい緑色の体をゆさゆさとゆすって言った。
「さあ、お前たちの実力…。見せてもらおうじゃないか!」
サボルナの金色の瞳がさらに恐ろしくビカッと光った。
「弾丸爆弾!」
サボルナの太くて低い声が響いた。
約3秒後に、黒くて丸く、硬そうな種が飛んできた。
さらにただの種ではなく、地面に当たると爆発する。
弾丸爆弾を避けながらの攻撃は、かなり体力を消費してしまう。
「どうしたあ!?」
サボルナは不敵な笑みを浮かべた。
自分が一方的に勝つと思っているのだろう。
「アンタなんかに負けたくない!」
来夢がザッと飛び出した。
⇒二十四話へ続きます!

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26 :ダーク・ナイト
2023/02/04(土) 15:31:42

第二十四話 「からから砂漠のバトル〜サボテンとのバトル開始!〜」

「ピカピカレイン!」
来夢の、電気の雨が空から降ってくる。
だが、サボテンには効果がない。
サボテンはLEDライトで育てることが可能なため、電気を当ててもダメージを喰らわないのだ。
その間に、弾丸がボンボンと飛んでくる。
ドカーンとこちらで爆発したかと思えば、あちらでドカーンと爆発する。
三人は用心深くサボルナに近づかないといけないのだ。
「どうしたあ!まだまだあ!」
サボルナは体の向きを変えた。
さっきまで三人はサボルナの背中に向かっていたが、向きを変えられては攻撃ができない。
仕方なく、ジーナが攻撃した。
「サイコアタック!」
紫色の大きな玉は、サボルナに当たった。
だが、サボルナには強いダメージが当たっていない。
「まだまだあ!勝負はまだ始まったばかりだぞおぉ!」
とサボルナが叫んでいる。
サボテンの花言葉は、「枯れない愛、情熱、燃える心」だ。
その通り、サボルナは情熱に満ちて戦っている。
すると、まだ攻撃をしていなかったみぞれが攻撃した。
「カチカチコールド!」
みぞれの攻撃はサボルナに当たり、見事サボルナが凍った。
だが、その氷もサボルナの熱い情熱により、溶かされてしまった。
とても、ただのサボテンとは思えない情熱の心を持っている。
まあただのサボテンではない、バリスパーの団員なのだが。
来夢とジーナは顔を見合わせた。
みぞれの攻撃がサボルナに効くのであれば、二人は変に攻撃しないほうが良いだろう。だからといってみぞれ一人に攻撃させるのも良くないだろう。
二人は迷っていた。
このままみぞれだけで攻撃していては、みぞれの体力が減っていくだけだ。なんとかしなければ。
二人が迷っている間にも、みぞれは攻撃を続けている。
「ひえひえブリザード!」
冷たい風が一瞬にしてサボルナを包んだ。
その場に立っている来夢とジーナは飛ばされないように必死に足を地面につけた。
攻撃しているみぞれ自身も踏ん張っている。
冬にこの技を使うと、凍りそうなくらい寒い。
そのため、できるだけみぞれはこの技を冬に使いたくなかった。だが、この場になってしまっては使うしか無いだろう。
しかし、このまま踏ん張っているのもきつくなってくる。
「助けに来ました!」
今までに聞いたことのない、りんとした声が響いた。
⇒二十五話へ続きます!

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27 :ダーク・ナイト
2023/02/05(日) 11:19:22

第二十五話 「小さな怪物登場」

小さな影がとっとっとっと、厳しい風の中、走ってくる。
スパァン!と音がして、氷でできた刀がサボルナの頭にかすった。
サボルナは凍りついて、両手を上げた状態で固まっている。
みぞれの攻撃の上から氷の刀が当たったため、二重に凍ったのだろう。
小さな動物はくるっと振り向いた。
光る黒豆のような瞳を三人に向け、ふわふわとした純粋な白色の毛を揺らすたびに風にのって毛が飛んでいく。
その様子は、まるでたんぽぽの綿毛のようだ。
それまで張り詰めた空気だったが、その動物によって空気が少しだけ春色になった。
「あ…あなたは?」
助けてくれてありがとう、の言葉も忘れてジーナは動物に聞いた。
「私は…すかい。」
その動物はほんのりと桃色に頬を染めて言った。
「すかい、助けてくれてありがとうございます。」
とみぞれがご丁寧に言った。
みぞれの言葉でジーナと来夢は恥ずかしくなった。
助けてもらった恩人に、お礼を言っていなかったとは。
二人はあわてて動物に感謝を伝えた。
「ありがとう!」
「本当に感謝ですわ。」
「なにかお詫びに…」
とみぞれがすかいに聞いたが、すかいは小さく首を振った。
「私は…なにもいりません。…!」
すかいはなにかを思いつき、小さなスカイブルーカラーのダウンからなにかを取り出した。
「これは…ブルームーンストーンです。使ってください。」
そう言って、すかいは去っていった。
すかいの後ろ姿は砂風にかき消され、あっという間に小さくなっていった。
その場に三人はしばらく立ち尽くしていた。
やがて来夢が声を出した。
「また…助けられましたわね。」
「それは嬉しいのだけど…」
とみぞれが眉をひそめて話しだした。
「私達の力を発揮しなければ団として結成できないのでは…?」
その言葉に、二人は夢から覚めたようにハッとした。
⇒二十六話へ続きます!

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28 :ダーク・ナイト
2023/02/11(土) 20:28:53

第二十六話 「閉じ込められた悪→?その1」

そのまま、しんとした雰囲気が流れ続けた。
三人の目の前には、かちかちに凍ったサボルナがいる。
サボルナはちっとも動かない。
それもそのはず。サボルナは倒されたのだ。
だが、今の三人にはサボルナが倒れたことを喜ぶ気力はなかった。
なぜなら、みぞれの一言が胸に突き刺さったからだ。
鋭い矢のようなその突き刺さった言葉は、未だに三人の胸の的から離れてくれない。
的の中心に、言葉の矢は命中しているのだ。
三人は、胸がきりきりと痛むのを感じた。
氷のように固まったジーナと来夢を見て、みぞれは、
(しまった。)
と思った。
みぞれは二人を勇気づけようとして励ました。
「いえ、大丈夫ですよ。助けていただいたとしても、攻撃を観察して今後に生かしていけますよ。」
だが、二人はみぞれの心配をひっくり返すことを言った。
「みぞれ、励まさなくって良いのよ。だって本当だもの。」
「そうですわよ。嘘ではないのだから。むしろ、みぞれさんが教えてくれたことによりまして私も目が覚めましたわ。」
みぞれはその言葉を聞いて胸をなでおろした。
自分がやったことは過ちではないことに気がついたのだ。
そして、「不安」にまみれたみぞれの心は二人の優しい言葉がクッションのようになって、「安心」に变化したのだ。
さっきまでの張り詰めた空気が、一気にバラバラと崩れた。
そして穏やかな空気へと変わった。
「そういえばだけど…サボルナを倒したから…バトルアクセサリーは手に入ったのかしら?」
ジーナは不安そうに胸元を見た。
毒々しい色のビーズバッジが1つついている。
前回、ジェネラル戦で取得したバッジだ。
しゃらん、と鈴のような音色が聞こえた。
どこからの音だろう、とジーナは辺りを見渡した。
ジーナが腰を右に左にねじるたびに、しゃらん、しゃらんと音が鳴る。
すると、来夢が気がついた。
「ジーナさん、腰をご覧くださいませ!」
⇒二十七話へ続きます!

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29 :ダーク・ナイト
2023/02/12(日) 13:47:30

第二十七話 「閉じ込められた悪→?その2」

ジーナは腰を見た。
腰には、小さな小さなスーパーボールほどの大きさの鈴がついていた。
鈴は揺れるたびに、しゃらん、しゃらんと音が鳴る。
心地よい音色に、その場が和やかになった。
だが、その和やかさもジーナによってかき消されてしまった。
「これが…サボルナを倒したときのバトルアクセサリー…」
サボルナの熱気あふれるイメージとは違い、可愛らしい金色の鈴がついていたことに、ジーナは驚いた。
だが、驚きも一瞬で消え去った。
リングの特殊魔法が追加されていなかったからだ。
なんだか嫌な予感がした。
みぞれが声を絞り出した。
この言葉を言うには、かなりの勇気が必要だっただろう。
「…あの、ジェネラルさんと同じように…また復活してしまうのでは…。」
みぞれが発した最後の「は」と、サボルナの復活のタイミングはほぼほぼ同じであった。
めらめらと燃えるエネルギーを背後から感じ取ることができた。
おそるおそる後ろを振り返ると、やはりサボルナが立ち上がっていた。
さっきまで氷がついていたのに、今は氷が溶かされている。
サボルナの熱気が復活したため、氷が溶かされてしまったのだ。
「よおくも俺を倒したなあ?やるじゃないか。だがな、お前たちの実力で倒さないと完全消滅はしないのだ。誰かに倒してもらった場合、俺たちはよみがえる。今回だけは感謝ってことだな。」
ジーナは心の中でつぶやいた。
(サボルナ、教えてるし。まぁ私にとっては好都合だけど。でも…おかしいな。自分たちの実力で倒さないと完全消滅はしないってことは…。)
背後から、聞き覚えのある声がした。
「あぁら!お久しぶりぃ。ジーナ・ケンドウ!」
まさか、と三人は振り向いた。
⇒二十八話へ続きます!

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30 :ダーク・ナイト
2023/02/12(日) 13:53:00

第二十八話 「閉じ込められた悪→?その3」

三人の予感は的中した。
そう。後ろに立っていたのは、腕組みをしたジェネラルだった。
復活したサボルナ。勝つのに手こずったジェネラル。
この二人と戦うのだ。
人数的にはこちらの方が多いが、どう考えても今のままでは危ない。
ジェネラルは風香に倒してもらったし、サボルナはすかいに倒してもらった。
今まで戦ってきた二人とも、誰かに倒してもらっているのだ。
ジーナの涙袋に向かって、雨粒のような涙がしたたる。
その涙は、驚きと悔しさがミックスになった涙だった。
だが、泣いても仕方がない。
ジーナは手で涙を拭き、
「望むところよ!」
と二人に向かって叫んだ。
「おお、良い度胸だ。」
「見てやりましょうか、ジーナ・ケンドウ達の実力を。」
ジーナは呆れたが、名前の訂正はしないでおいた。
ジェネラルという人は、記憶力が悪い人なのだ、とわかったからだ。
そして、今は勝負に専念するほうが大切だ。
ジーナはジェネラルの胸部分を狙って攻撃をした。
「サイコアタック!」
「ファイヤーエネルギー!」
大きな紫色の玉はサボルナの攻撃によって消されてしまった。
みぞれは、サボルナのトゲの部分を狙って攻撃をした。
「カチカチコールド!」
サボルナはチルドタイプの技に弱いことが前回わかったため、チルドタイプの技を活躍させようとしたのだ。
すると、ジェネラルが邪魔をした。
「闇闇エネルギー!」
闇のエネルギーにより、サボルナに向けた技がブロックされた。
二人の見事なコンビネーションだ。
闇闇のエネルギー…それは、相手の気力をなくす技だ。
一番活躍するみぞれがココで気力をなくされては困る。
みぞれは回れ右をすると、後ろに向かって走った。
「氷の盾!」
と氷のように鋭い声で言い放った。
すると、みぞれの右手に氷の硬くて冷たい盾が完備された。
闇のエネルギーは盾に当たるとUターンし、元の場所へと戻っていった。
だが、いくら技を出した身だとしても完全に安全とは限らない。ジェネラルはそのことを忘れ、油断していた。
全くみぞれの方を見ていない。
ジーナは
(自分が出した技の行方くらい見なさいよ。)
と心の中で、怒りのマグマを火口に向かわせた。
「でもさあ?サボルナ。あの人達ってこの先行けると思う?」と余裕ぶってサボルナに話しかけている。
跳ね返ってきた闇闇のエネルギーが接近していることも知らずに。
だが、運悪くあと一歩というところでサボルナが重い体を一生懸命に引きずって、跳ね返ってきたエネルギーに体当たりした。
「まあだまだだぞお!」
と、サボルナが緑色の体を赤く染めて叫ぶ姿を見て、ジーナは吹き出しそうになった。
だが、今は正々堂々とした勝負中だ。
勝負中に笑うことはおかしいとジーナ自身も自覚している。
その時。
⇒二十九話へ続きます!

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31 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 16:36:47

第二十九話 「閉じ込められた悪→?その4」

「マジック・パンチ!」
ジェネラルがごつごつした石のような手を前に突き出した。
手の表面から、菖蒲色と瑠璃色の混ざったトゲトゲの破片が飛び出してきた。
見るからに危険な形をしている。
トゲの先端にでも触れたら出血してしまいそうだ。
ジーナはトゲの鋭い先端を見て、何かを思いついた。
そしてそばに二人を呼び集めると、耳に向かって何かを話した。
「ジーナさん、歯磨いていますか?にんにくの臭いがするのですが。」
「みぞれ!確かに餃子は出して食べたけど、今は重大な作戦会議。関係ないことを話すのはやめて。」
みぞれは注意されてうなだれながらも、耳をジーナに貸した。
来夢が隣でバチバチと電気を作り出していた。
「ジーナさん。わたくし、今すぐにでも攻撃したいですわ。ためた電気を浴びさせてもよろしいですの?」
「…これからやることは電気はいらない。電気はとりあえずジェネラルに感電させておいて。サボルナには効かないだろうから。」
「かしこまりましたわ。ビリビリショット!」
「っぐはぁあ!」
言葉にならない悲鳴をあげ、ジェネラルは黒焦げになっている。せっかくのストレートヘアーも台無しだ。
「マジック・パンチはどこだあ?」
とサボルナが不安気に辺りを見回す。
どう考えても、熱血団員のサボルナに不安は似合わない。
マジック・パンチで生み出されたトゲはいつのまにか消えていた。
来夢の攻撃により、効果がなくなったのだろう。
「今のうちだ!」
作戦会議をし終わった三人は散り散りになった。
ジーナはついでに、自分の立ち位置にいたジェネラルを足で踏んづけておいた。
「ふぃいあ、はへははひ!」
ジェネラルは赤黒い血がとくとくと流れる口で何かを言っている。翻訳→「ジーナ、やめなさい!」
残るはサボルナただ一人。
サボルナは弱点が明らかなので、倒しやすいだろう。
みぞれはそう思っていた。
空はそんな三人の気持ちなど知らずに、真っ青に晴れ渡っていた。
⇒三十話へ続きます!

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32 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 17:09:35

第三十話 「閉じ込められた悪→?その5」

太陽が、さんさんと輝いている。
今は冬なので、ちょうど良い暖かさだ。
サボルナはさらに暑苦しいオーラが満載になっている。
(今だけは、太陽に引っ込んでいて欲しい。)
ジーナは心の中で文句を言った。
足元のジェネラルはというと、ちょうど日光が当たるところに倒れているため、干からびてミイラになりそうだ。
(そのままミイラになりなさい。)
ジーナは悪意ある思いを込めて心の中でそうつぶやいた。
ジーナはハッとした。
今は勝負の最中だ。私は何を考えているのだろう。
ジーナは自分で自分を叱った。
気がつくと、作戦が開始されそうになっていた。
「カチカチコールド!」
「電気の盾!」
「サイコアタック!」
三人の声が重なった。
「トリプル・一致団結アタック!」
ジーナの高い声とみぞれの鋭い声と来夢のおっとりとした声。
三人の声が重なると、なんとも言えないメロディーを奏でるのだ。
だが、そのメロディーに聞き惚れている場合ではない。
(サボルナを倒さなければ。)
三人の頭の中にはそのことしかなかった。
ビュオーと冷たい風が吹いた。
サボルナは凍りそうになりながらも、必死に
「むしむしエネルギー!」
と怒鳴り声を上げて溶かしている。
相手はチルドタイプの技が弱点だ。
このまま技を続ければいずれ倒すことができるだろう。
しかし、そのままではみぞれの体力が減っていくばかりだ。
ついにサボルナは我慢ができなくなり、攻撃した。
「ファイヤーアタック!」
いらだちのせいで、いつもよりも攻撃の威力が強くなっている。
来夢は避けきれず、炎の玉に体当りしてしまった。
電気と炎でビリビリぼうぼうと音がしている。
「そのまま燃えて燃えて燃え尽くせえ!」
仲間の危険を感じたみぞれは、来夢に駆け寄った。
「来夢さん……大丈夫ですか……?」
この状況では、大丈夫かと聞かなくても大丈夫ではないということがわかるはずだ。
ジーナはどうすることもできず、立ちすくんでしまった。
⇒三十一話へ続きます!

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33 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 18:34:53

第三十一話 「閉じ込められた悪→?その6」

仲間が危険だ。
そのことはわかっているのに、どうしてか動くことができない。
全身がしばりつけられているように。
実際はしばりつけられていないのだが。
起こすべき行動は、もちろん一択のみだ。
なぜココで立ち止まっているのか。
なにせ、今まで戦ってきて、仲間が攻撃に当たったことはあるかないかもわからないくらいの数なのだ。
だが、これからを考えていくと立ち止まっている場合ではない。
その強い思いが、体をしばりつけていた心の縄をほどいた。
「来夢!」
ジーナはかすれ声で喉が痛くなるくらい叫んだ。
来夢は炎にまみれながらも、ゆっくりとジーナの声のする方へと顔を向けた。
「ジーナさん……感謝ですわ……」
「なに言ってるの、その状況で! 私は……本気で、助けに来たの……。助けてほしいなら助けてって……言って! お願いだから……!」
来夢は炎と涙が混じった瞳を頑張ってにこっと上げた。
「感謝……ですわ……。お言葉に……甘えまして……助けてくださ……いな。」
とぎれとぎれでも必死に言葉を伝える来夢を見て、ジーナは心が痛んだ。
こんなときに自分が変わってあげられたら、どんなに良いだろう。
そう思うがすぐに来夢を救出した。
「念力!」
ジーナの得意な念力で来夢を立ち上がらせた。
だが、炎は消えてくれない。
任せた、という合図でみぞれにウィンクをした。
(ジーナさん、任せて下さい!)
という気持ちをたっぷりと込めて、みぞれはウィンクを返した。
ジーナがひそかに
(みぞれのウィンクって気持ち悪い。)
と思ったことは内緒にしておこう。
それはさておき、みぞれは眉同士がくっつきそうなくらいな顔になり、全身の力を振り絞った。
「カチカチコールド!」
サボルナは先程と同様、
「むしむしエネルギー!」
と攻撃から身を守っている。
(今だ!)
サボルナがみぞれに気を取られているスキに、ジーナは
「クリア!」
と唱えた。
クリアというのは透明という意味だ。
その名の通り、あっという間にジーナは消え去った。
透明になったのだ。
サボルナもジーナが姿を消していることに気がついたらしい。
「どこだあああああああああ!」
サボルナはやみくもになにもない空気に向かって攻撃している。
やるだけ無駄だ。
ジーナはサボルナの背中に回り込んだ。
「サイコアタック!」
どおおおんと大きな音がして、地面がグラグラッと揺れた。
そして、紫色の大きな玉とともに、サボルナはどこかへ飛んでいった。
みぞれがジーナに駆け寄った。
「ジーナさん! やりましたね! あなたはにんにくの臭いがするだけの念力少女としか思っていませんでしたが、こんなに仲間思いだったとは!」
一言余計だ、と言ってやりたかったが、黙っておいた。
なぜなら、敵をたったの二人でやっつけたのだから。
来夢はみぞれに
「コールドウィンター!」
と言われ、ひんやりと冷やされていた。
冬にこの姿を見ている側は寒いが、来夢自身はとても気持ちよさそうに眠っている。
「来夢が起きたら報告してあげよう。きっと飛び上がって喜ぶと思う。」
「相変わらずですね、ジーナさん。本当は嬉しいのに。」
「みぞれ……黙って?」
「そーですかぁ。私、シャインシックス抜けようかなぁ。」
「え! 嘘! やめて!」
「冗談ですよ。」
「冗談はやめて?」
ジーナとみぞれのこのやりとりを、太陽は平然と見守っているのであった。
⇒三十二話へ続きます!

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34 :ダーク・ナイト
2023/02/16(木) 21:38:15

第三十二話 「閉じ込められた悪〜完結〜」

「あ……見て!」
ジーナはリングを指さして小さく叫んだ。
新たな色が追加されているからだ。
燃えるようなオレンジ色がついていた。
三人の腰部分には、鈴がついていた。
オレンジ色は、ヒートタイプの技だった。
ジーナは、「炎獄の玉」
燃える炎の玉で相手を焼き付けることができる。
みぞれは、「むしむしエネルギー」
相手からの技をエネルギーで溶かすことができる。
だが、チルドタイプの技のみに効く。
来夢は寝そべっていてよく見えなかったが、細い指には
「ファイヤーアタック」が追加されていた。
炎で相手を飛ばすことができる技だ。
二人は満足気にリングと鈴を撫で回した。
「これも私達が頑張ったおかげ。」
とジーナが誇らしげにつぶやくと、
「ご褒美、ですわね。」
という声がした。
この語尾は……。
嬉しさを隠しきれなく、ジーナとみぞれは来夢に抱きついた。
「来夢!」
「起きたのですね! 心配したのですよ!」
「私は大丈夫ですわよ。……あらっ。リングに追加の特殊魔法がついていらっしゃいますわ。わたくし戦っていないのに。」
「来夢は身をボロボロにして戦ったのよ!」
三人は涙ぐんでそれぞれ抱きしめあった。
「……あ。」
「どうしたの、みぞれ?」
「やっぱり……ジーナさん、にんにく臭い。」
「今は良い!」
三人の笑い声は、空まで響いていった。
⇒三十三話へ続きます!

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35 :ダーク・ナイト
2023/02/17(金) 18:20:40

第三十三話 「怪しの山小屋 その1」

日が暮れて、空が夕日色に輝き出した。
沈んでゆく太陽の暖かい光に照らされ、三人の後ろに影ができた。
砂漠で寝っ転がって笑い合い、たくさん話をしていた三人は、体を起こして立ち上がった。
背中側にはたくさんの砂がついている。
さっさっと砂をはらった。
砂も一粒一粒日差しに照らされて金色に輝いて見える。
(そうだ。)
とみぞれはひらめいた。
ひらめいたと同時にジーナに、
「ジーナさん、いつかの実体映写を使ってくれませんか?」
とたずねた。
「あぁ、実体映写ね。良いけど何を出せば良い?」
「小瓶を出してもらえますか?本当に小さくて良いので。」
ジーナは超能力を使いやすくするためにパワードレッサーに着替えた。
「よし、準備完了。」
準備を整え、ジーナは深呼吸をした。
「実体映写!」
頭の中には、くっきりと小瓶を思い浮かべた。
透明で小さくて丸っこくて金色の蓋が付いている小瓶………。
すると、ポンッと目の前に一つの小瓶が現れた。
それはまさにジーナが思い浮かべていたものと同じ小瓶だ。
(技成功)
ジーナは心の中でガッツポーズをした。
そして、普通の服に着替えた。
一方、みぞれを見てみると小瓶の中に砂を入れている。
「どうしたの?」
とジーナが聞き、みぞれが持っている小瓶を見た。
みぞれは嬉しそうににこっと微笑んでから答えた。
「見ての通り、砂を小瓶の中に入れているのですよ。感動の思いを詰めて、旅の印にしたいと思って。」
「みぞれって実は優しい心持ってるの?」
「もとから優しいつもりですけど。」
「あ、自分でつもり言った。」
「聞かなかったことにして下さい?」
来夢はそんな二人のやり取りをにこやかに見つめていた。
だが、腕にはめている時計を見て顔色を変えた。
「あの、楽しく話していらっしゃるところ申し訳ないのですが、」
「楽しくは話してないの、来夢。」
「そうですよ!」
二人が必死に来夢の言葉をさえぎった。
来夢はそんな二人の言葉を聞いても微動だにせず、言葉を続けた。
「あそこの林まで行くのですよね?暗くならないうちに行かなければ。」
「あ、そうだった!」
「忘れていました……来夢さん、ありがとうございます!」
来夢は少し照れ顔になったが、すぐに真面目な顔になった。
「では出発しましょう。」
出発と言っても三人はリュックサックを持ってきていない。
ポシェットに少しの食べ物と水、それぞれ小物とパワードレッサーが入っているだけだ。
身軽な体でてくてくと林の方に歩いていった。
⇒三十四話へ続きます!

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36 :ダーク・ナイト
2023/02/18(土) 12:29:22

第三十四話 「怪しの山小屋 その2」

三人はずいぶん歩いた。
もう30分は歩いただろう。
三人はへとへとになっていた。
「ちょっとお水を飲みましょうか。」
と来夢が言った。
二人はもちろん賛成した。
自分たちのポシェットから水筒を取り出し、ごくんと一口水を飲んだ。
たったの一口のはずなのに、ずいぶんと美味しく感じる。
水で喉を潤して、再び出発した。

それから10分くらい経っただろうか。
日は沈み、空は薄紫色に輝いていた。
さっきまで遠くに見えていた林は、今や目の前にある。
林への入り口には、ボロボロの木の看板が立っていた。
そして、にじんだ黒い字でこう書いてあった。
「熊出没注意」
「この字、何と読むのですか?」
とみぞれが「熊」の字を指さした。
「それはね、くまって読むの。」
とジーナが半分呆れて答えると、みぞれは
「なるほど、くまでぼつちゅうい…へー。」
とつぶやいた。
「あの、でぼつではなく、しゅつぼつですわ。」
来夢が申し訳なさそうに訂正した。
みぞれは
「くましゅつぼつちゅうい……」
とつぶやいて紙にメモをした。
熊出没注意。
その言葉が三人の頭の中に焼きついている。
これからこの林の中を進んでいくが……大丈夫だろうか。
ジーナは生唾をごくりと飲み込んだ。
みぞれと来夢も顔をしかめている。
だが、この他に道はない。
元来た道か林の中へ続く道。どちらかしか無いのだ。
だとしたらこちらの道を行くしかない。
⇒三十五話へ続きます!

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37 :ダーク・ナイト
2023/02/18(土) 17:16:37

第三十五話 「怪しの山小屋 その3」

いつの間にか空が暗くなり始めていた。
藍色の空に、いくつか気の早い星が光っている。

街頭などない林の中はとても暗く、そびえ立っている木が襲いかかってきそうに見える。
ジーナが先頭を、みぞれが二番目、来夢が三番目と並んで歩いている。
三人はだんだんと心細くなってきた。
いつどこから敵が来てもわからない。
その「敵」の中には、バリスパーと熊のどちらも入っている。
それから、しばらく20分ほど歩いた。
怖さにさっきよりも吹く風が冷たくなってきたように感じる。
ガサガサッと草が揺れる音。
木の葉が風に吹かれる音。
なにもかもにおびえ、なかなか進むことができない。
さっきいた位置がまだ見えるくらいだ。
もうこれ以上進むのは無理なのではないだろうか。
ジーナが希望をなくした時。
みぞれが遠くを指さした。
「あの光は何ですか?」
ジーナは顔を上げた。
そしてその光を見ると、ハッとした。
あれこそ私達の希望の光だ、きっとそうだ、と。
来夢も同じく思ったらしい。
こんなに怖い林の中をさまよい続けるのは嫌だ。
なんとしてでもあの光のところへ行こう。
三人同時にそう思った。
みぞれが先頭を歩き出した。
だんだんみぞれと二人の間があいてきた。
「二人とも速く!」
「待って、みぞれ…あなた体力あるわね…。」
「わたくしなんてもうへとへとですわ。」
二人はぜえぜえ息を切らしてみぞれの元へと走った。
来夢は小走りだが。

三人は光のもとへついた。
光の正体は、一軒の山小屋についているランプだ。
山小屋は木で作られており、自然と一体化しているように感じる。
ジーナは山小屋の、ほこりにまみれた茶色い扉をドンドンと叩いた。
「ごめんください! どなたかいらっしゃいますか!」
一瞬しんとした後、ギイイィ……と重そうな音がして扉が開いた。
ジーナは一歩後ずさりした。
現れたのは、一人の少女であった。
ジーナ達と同じくらいの背丈をし、細い体つきだ。
「どうも、この山小屋の管理人の、浅井 美桜(あさい みお)です。」
「美桜ちゃん! よろしく!」
ジーナは美桜に手を差し出した。
美桜はその手を振り払った。
「ごめんなさい。あたし、人と関わるのそんなに好きじゃないので。」
その様子をみぞれと来夢はポカーンと口を開けて見ていた。
美桜が去ると、ジーナは拳を震わせて言った。
「なに、あの浅井とかいうの。信じられん。あれでも管理人か?だからココ人いないわけだ。」
「いえ……ジーナさんの方も性格的にキツいかと。」
「みぞれ? 何か言った? 今物音がして聞こえなかったからもう一回!」
「……わざとですよね?」
来夢は考えていた。
あのはっきりとした声。一人称。
どこかが引っかかる。
「来夢さん、どうしました?」
気がつくと、みぞれが目の前で手をひらひらさせている。
「あ、いえ……何でも無いですわ。」
⇒三十六話へ続きます!

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38 :ダーク・ナイト
2023/02/19(日) 18:14:57

第三十六話 「怪しの山小屋 その4」

「どの部屋に泊まんの?」
ジーナが荒々しく奥の部屋に向かって叫んだ。
すると、ジーナが叫んでから三分くらい経ち、奥の部屋から美桜が姿をあらわした。
「怒鳴んないでくれるかな? アンタ達が泊まるのは、ココ。」
と美桜は今にも噴火しそうなくらいの怒った顔で、横の部屋を指さした。
「なんか問題でも?」
美桜は偉そうに顎をクイッと上に上げた。
「ある。」
ジーナが低い声で言った。
「アンタの性格……どうにかしな。」
みるみるうちに美桜の顔が怒りで溢れた。
全身を真っ赤にし、耳までもが赤い。
拳はふるふると震えており、肩は上がりすぎてもう少しで耳たぶにつきそうだ。
「その言葉さ、大っ嫌い。お姉ちゃんにも言われた。」
来夢は驚いた。
やはりだ。
来夢は震える声で美桜にたずねた。
「そ……その……お姉ちゃん、の、名前、教、え、てくれ、るかな。」
いつもの落ち着いている来夢らしくはない話し方だ。
美桜はツンとそっぽを向いた。
「あーあ! お姉ちゃんのことなんて思い出したくもない。えぇ? 誰かって? てか、アンタも言葉たどたどしいわねー。」と来夢の鼻を人差し指でなぞった。
「………ら…………か。」
「あ? なんて?」
ジーナは耳を美桜の目の前にまで寄せた。
「アンタ、急に声小さくなるってどうかしてるわ。」

そんな喧嘩が始まっている中、みぞれはさっさと泊まる部屋の中に入っていた。
みぞれは部屋の中で、フゥ~とため息をついた。
「……こんな感じでどうなるのでしょうか。」

一方、まだ廊下では2vs1の言い合いが続いていた。
正確には、1vs1なのだが。
「お姉ちゃんの名前? あー、琴平 風香。多分アンタたちは知ってる。風を操る能力者。」
「え?」
来夢&ジーナと、部屋の中にいるみぞれの声が重なった。
次の瞬間、その場が静まった。
さっきまでなにかと言い返していたジーナでさえも言葉が出なくなっている。

「え?」
⇒三十七話へ続きます!

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39 :ダーク・ナイト
2023/02/19(日) 18:33:23

第三十七話 「怪しの山小屋 その5」

「え? は?」
ジーナはこの場が理解できていないのだろう。
ひたすら慌てている。
みぞれとジーナは心の中で、
(あの方、琴平 風香という名なのね……。)
と、脳のメモに書きつけていた。
そんな三人をお構いなしに美桜は話を続ける。
「お姉ちゃんは、昔はものすごい足が速くて陸上選手だったの、本当に自慢のお姉ちゃんだった。だけどある日、台風に襲われてから陸上選手として活躍できなくなって。私は見捨てた。」
「は?」
来夢が言った。
来夢の口から飛び出すにしてはおかしい言葉だ。
「あのですねぇ……それは本当にお姉さんを思っているとは言えませんのよ。人として大切にしてこそ、本当に親しいと言えるのではないですの?」
来夢は真剣な顔で美桜に向かって話した。
美桜は目をぱちくりさせている。
静まった廊下では、ひたすら時計の針がチクタクチクタクと細やかな音を立てて動いている。
沈黙の場が1分ほど続いたときだ。

「続いては天気予報です。」
と穏やかな声が聞こえてきた。
聞き覚えのない声だ。
その声は、みぞれのいる部屋の中から聞こえてくる。
ジーナは扉を開けて部屋の中をのぞきこんだ。
「ちょっ、ジーナさん! 入る時はノックしてくださいよ!」
とみぞれが両手を横に伸ばし、足を大きく横に開いている。
部屋の中が見えないようにバリアしているつもりなのだろう。
だが、ジーナは全て見えてしまっている。
みぞれの背が低いからだろう。
「お邪魔しま〜す。」
ジーナは靴を脱いで下駄箱にしまわず、ドカドカと部屋にあがっていった。
「ちょっちょっちょっ、ジーナさん、あなた、許可もらってからあがってくださいよぉ……。」
みぞれは慌てふためいているが、ジーナはお構いなしで部屋の真ん中に座った。
座ったと言っても、本当は大の字に寝っ転がったのだが。
ジーナは、むくりと体を起こした。
そして、部屋中を見渡してみた。
皎色の壁、キャラメルブラウンの壁枠がジーナの予想だったのだが、少し黒くくすんだ焦げ茶色の壁、黒くて汚れがハッキリとついている壁枠が視界に入った。
窓枠はかろうじてきれいに磨いてあるのだが、肝心の窓が汚れており、掃除がされていないことがはっきりとわかる。
おまけに、右下の端の方には蜘蛛の巣が張ってある。
「ねっ、ちょっとみぞれの耳貸して。」
ジーナは寄ってきたみぞれの耳に向かって息を吹きかけた。
⇒三十八話へ続きます!

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40 :ダーク・ナイト
2023/02/20(月) 19:16:34

第三十八話 「怪しの山小屋 その6」

「みぞれの髪型、変になってない?」
「はい!?」
みぞれは思ってもいないことを急に聞かれたため、驚いて後ろに下がった。
「いきなり何言うのですか!」
みぞれは、若葉色のヘアゴムを外した。
現れたのは、エアロブルーのややハネ気味の短い髪の毛だった。
ジーナはつい、ぼぉーっとしてしまった。
みぞれは一生懸命に髪の毛を束ねている。
開けっ放しの扉から、冷たい空気が流れ込んできた。
「ジーナさん、閉めて下さい。」
みぞれは冷ややかな目でジーナを見つめた。
ジーナは渋々扉を閉めに行った。
ガチャンと音がして、扉が閉まった。

一方、廊下の方では重々しい空気がひたすら流れていた。
置いてきぼりになった来夢は、気まずそうに目線をそらそうとした。
どう反応したら良いのかわからないのだ。
美桜が声を絞り出した。
「……お姉ちゃんのことは、陸上選手から引退したときから嫌い。あんなお姉ちゃん、会いたくない!」
最後の方になるに連れて、だんだんと美桜の声は荒々しくなってきて、ついには怒鳴り声になってしまった。
美桜は顔をほんのりと怒りの色に染めて話していた。
来夢は何かを言おうとして、下を向いた。
「美桜さん。おやめなさい。お姉さんが可哀想ですわよ。」
⇒三十九話へ続きます!

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