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┗253.バカセカ番外編スレ(61-80/102)
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61 :やっきー
2022/10/23(日) 16:17:45
《日向視点》
「あ、ちょ、ちょっとまってください!」
待つもなにも一度立ち止まろうとはしていたのでその声掛けは無駄だ。そう思うがそれをルルに伝えることはしない。そんなのは面倒だ。
塔まであと少しというところで私たちは立ち止まる。見るとルルが頭を抱えていた。
「リリからメールですぅ! えっと、なになに……?」
メール。それはなに。聞いたことのない言葉。少なくとも、『私は』。興味が湧かないでもなかったが、だからと言ってルルに質問をする程ではなかったので頭の中のメールを読み込むルルをただ眺めていた。ちらっと蘭を見ると、なにを考えているのかルルを睨んでいた。
ルルの顔がどんどん強張る。と、急にその顔を上げて私を見て、蘭を見て、私を見た。なに。
そんなことが、とか、でも、とか、ルルはぶつぶつ呟く。
「おい、なんだよ?」
蘭は苛立ってしまったらしい。蘭を苛立たせたことは罪になるか、まだいいか。
「えっとですね」
ルルがわざとらしく咳払いをしたからか、心做しか蘭の額のしわが深まった気がする。
「たったいま、リリから私との遺伝子を通じて私の脳内にメールが届きました。
こんなことが出来るんですね」
最後の一言は小声だったので独り言と判断していいだろう。そんなことよりメールとやらでリリの思考がわかったということは、つまりそれは私たちの世界で言う『チャット』に当たるのだろうか。
「で? だから?」
「えぇっと。リリが言うには、ひなたさんたちの偽物がいるみたいなんですよね」
「は?」
リリも真実の破片を見つけたのか。ふうん。
私はこれを神化によって発見した。神と一言で言っても色々あるが、私が今回成った神は基本世界に一人だけ。リリが私と同じ手で破片を掴んだとは考えにくい。ここは世界ではなくセカイなので可能性がないとは言いきれない。私だってセカイの『完全な神』ではないから。
「つまりあのときのひなたさん、えーと、えーと、説明が難しいですぅ」
説明する必要があるのか。そうとは思えない。そう思ったけれど蘭に焦点を合わせると少しくらいはルルの話に関心を持っているようだった。そうか、蘭は説明を必要としているのか。だったら説明しよう。
「私が神になる前、ルルとリリに会ったでしょう」
私の声を聞いた瞬間、蘭はルルから視線を外して私を見て、頷いた。
「あの二人は、偽物」
そう言い、ルルの人差し指を指す。
「このルルは怪我をしてる。さっきのルルの指は綺麗だった」
蘭はルル個人に関心があるわけではないのでさっきのルルの指を真剣に見ていたはずはない。しかし持ち前の記憶力で真新しい記憶を呼び覚まし、蘭は改めてルルの手を見た。
いまのルルは七色の装束を纏っているので怪我をした手は見えない。でもあの私の支配空間でいまのルルの手は見たはずだ。
「本当だ」
「ひなたさんたちのところにも私たちの偽物が出たんですか?」
今度は私が頷く。
「おそらく神ではないセカイの『主』の意思。主は神よりも尊い存在だから私も逆らうことは難しい」
正しくは主も神のうちの一つなのだけれど、区別して説明した方がわかりやすいだろう。
「主はこれまで何度か私たちに協力を呼びかけた。今度は引き離そうとした」
なにがしたいのかはよくわからない。セカイに私たちを呼び込んでおいて化け物を仕向けてくるし、仕向けてくる割にはその化け物はどれも強いとはいえなかった。
「「え? てことは」」
蘭とルルが同時に言った。そのことに関して私はなにも思わなかったが蘭は嫌そうな顔をした。二人は一秒視線を交わし、発言権は蘭が得たようだ。当然だ。
「日向はおれを攻撃したリリが偽物だって知ってたのか?」
私は頷いた。
蘭の表情から疑問の色が落ちて、複雑に複数の色が混ざった色が塗られた。少しの驚きと怒り、多くの諦観。
「聞かれなかったから」
「そうだな」
蘭はそれで納得したみたい。なにか言いたげな顔はしている。ルルは微量の憤りが復活したみたいだ。しかしルルはなにも言わなかった。
沈黙。数秒の沈黙。会話は終わったのか。
「ひなたさん?」
塔に向かって歩き出した私にルルが言ったので、足は止めずに言葉を返す。
「真実がわかった。だからと言ってすべきことは変わらない」
塔の扉の前に立ち、ぐっと奥に扉を押し込む。びくともしない。なので私は引いてみた。少し動いたのでさらに力を込める。不思議なもので扉は音をたてなかった。
扉が開いたということは入場の許可が降りたということ。私は塔の中に入った。中は外同様真っ白で、光源らしきものはないが私の目に白を届けるくらいの光はあった。空気は冷たくもなく暖かくもない。中身が空っぽの模型だった。
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62 :やっきー
2022/10/23(日) 16:19:53
「ひな――」
蘭の声が途切れたので振り向くと、扉が勝手に閉まっていた。開けようとして奥に押し込むが開かない。私は闇の魔力で球体を作り出し、扉にガンッとぶつけた。次に光の球を、火の球を、水の球を、風の球を、土の球を。
ぶわ、と鳥肌がたった。恐怖から来る感情ではないこれは興奮そして歓喜。私は権力をぶつけた。今度こそびくともしない。私の表情筋は笑顔を作った。
「おはよう、それともこんにちはかな。セカイに時間の概念はあっても朝昼夕晩の概念はないからどっちも間違っているかもね」
声がした。だから、そちらを見た。
「じゃあ、間をとって、こんばんは」
そこにいたのは私だった。
「初めまして? それとも久しぶり? あるいはどれでもない? 私と貴女との関係はよくわからないね」
私は私と同じ服を着て、私と同じくらいの背で、私と同じ声をしていた。そんな私は私が一回瞬きしただけで急成長を遂げた。服は露出の高い黒のワンピースで靴は履いておらず、裸足だった。この格好はワタシの趣味というわけではない。そもそもワタシは服を着る必要がなく、言ってしまえば裸体であっても問題ない。むしろ裸体が正しい姿だ。服というものは人が作り出した防御のための人工の皮に過ぎず、そしてワタシはその身一つで完璧な存在なのでわざわざ防具を身につける必要がないのだ。だからワタシの衣装はあんなにも薄いのだ。
必要ないのになぜ服を着ているかと言えば、それは表現上裸体だと『マズイ』からだ。神の都合だ。
「ずっと見てたよ。わかっていたけど正にチートだね。神にチートキャラと定義付けられた私らしい行動よ。まさかセカイの神になっちゃうなんて」
ワタシはくすくすと笑った。その行動は感情から来るものではない。ワタシに感情はない。必要ないから。ワタシは神によって笑顔を貼り付けられているだけだ。
「お喋りを楽しむのも一興。でも私が望むものは違うでしょう?」
そうだ。ワタシと話したところでなにになる。私はそんなことをしたって満たされない。
ワタシは変わらずくすくすと笑っている。
「それじゃあ物語を進めましょうか」
ワタシが宣言すると、塔の壁があっという間に遠ざかった。空間が広がり、やがて壁や床の概念がこの場から取り除かれる。先程私が行った創造魔法で創った空間と同じものだ。
「このセカイの秘密が知りたければ、このセカイから脱出したければ、ワタシを倒しなさい。
ま、無理だと思うけど。私は人間でワタシは神。このヒエラルキーが覆ることはありえない」
私の胸中にある鐘はぐわんぐわんと鳴り響く。闘争の開始を告げるゴングみたいだ。この戦闘は死闘となるだろうか。ワタシならば私を殺すことが可能だろうか。もし可能ならば、どうか神よ、私を殺してください。あれほど焦がれた死を、罪を、私に与えられると言うのなら、どうか。
嗚呼、面倒臭い。戦いなんて面倒臭い。さっさと死にたい。出来ることなら迅速に。飽き飽きだ。こんなセカイは世界は飽き飽きだ。こんな身体こんな命こんな魂こんな運命こんな宿命こんな使命もううんざりだ。
「そんなこと言わないで。楽しみましょう。きっと最後の、いいえ絶対唯一のチャンスよ。私が満足出来る戦いの」
一理ある。私がワタシに敵うはずがない。
「私が負けたら、それは死に直結する?」
期待を込めて、『尋ねる』。
神は意地悪く、「さあ?」と微笑んだ。
「セル・ヴィ・ラドュス」
神が宣言すると、神の体が白くなった。違うな。この白い空間でわかりにくくなっているが、神が光を出現させたんだ。白くて冷たい、嫌な光。冷気を引き連れてやってきた光は私を包み、私の体にある穴という穴から侵入した。あまりの冷たさに五感を奪われ――る前に、神が再び告げた。
「セル・ヴィ・エドゥス」
私の中に入り込んだ冷たい光は闇に変換され、爆発を起こした。バッと赤色が白いセカイに現れる。左腕に違和感があったので見てみると、そんなものはなかった。代わりに真っ赤な液体があった。
私は念じた。ワタシの支配空間ではなにをされるかわからないので、手始めに弱めの魔法を。でも。
私の中からは、魔法もなにも出なかった。私はさっきしたみたいに右の手のひらを開閉した。魂が身体中に魔力を循環させ続けていることは感じるので魔力はあるはずなのだけれど。試しに権力を打ってみる。なにも出ない。
?
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63 :やっきー
2022/10/23(日) 16:20:38
「そうしているだけじゃなにも出てこないよ」
神は無個性に微笑み続けている。
「セル・ヴィ・フラム」
神の手から炎が創り出された。
「ルグス」
神の告知を受けたセカイは神の意志を叶えるために動き始める。空間の白が赤い炎にすり変わる。私の触覚から脳に熱が伝えられ、だからと言ってなにもない。
私はそれを利用して神に攻撃しようとした。でも出来なかった。私がリリにしたみたいに、神が私に魔法障害をお与えになったのか。
「ビエロ・ビエロ・ビエロ」
神の詠唱。魔法の提案。空間から伸びてきた炎が私を焦がそうとする。熱い。けれどこの熱では私を焦がせない。こんなものに魅力は感じないこんなものでは私は死ねない。この熱では私を焦がせられない。私が強く焦がれるのはただ、『死』。
死にたい、死にたい、死にたい、死にたい。終わりを知りたいこの身体命魂運命宿命使命の終わりを見たい。存在していたというデータごと私の全てを消去されたい。されたい、されない。そのための罪を私は世界に認められない。でもセカイなら、ワタシなら、神なら、アナタなら!!
「……ころして」
「私は死にたいんでしょう。知ってるよ」
いつの間にやら神の笑顔は私の目の前にあった。両方の青い目が私の顔を映し出す。私はやはり無表情だった。
「感情がないときは笑顔で、感情があるときは無表情って矛盾してると思わない?」
神は楽しそうだ。そう見える。そう振る舞うように世界に強制されている。
「なにか言ったら?」
「殺してください」
いま私がいるこの空間には足場というものがないが、私は神の元に跪く。
「アナタにそれが可能であるのなら」
先程はルルに跪き、いまは神に跪く。跪く行為は私にとっては形式的なものでしかなくそこになんらかの感情は介入しない。誰の足にも顔を近づける私を、神は恥知らずと思っただろうか。そんなつもりはないがよく考えたら私に恥なんて感情は付属していないので恥を知らないと言えば知らない。私は恥知らずだった。
そんなのは人間の感情で、そんなのは人の文化だ。私には必要ない。私が必要とするのは私を焦がせるのは、罪罰そして死。それだけ。それだけ。
「えぇ? ワタシはまだ楽しんでないのに。ワタシを楽しませてよ」
楽しませる。
「少しくらい反撃してみて。そしたら考えてあげる」
楽しませる。楽しませる? どうやるんだろう。方法が、思いつかない。
「ひとにされていやなことはしてはいけません。ひとにされてうれしいこと、よいおこないをしましょう。そうするといつかじぶんにかえってきます」
神は無邪気に笑う。ふわっとワンピースの裾をひらめかせて私から距離をとった。
「アハッ! そんなのくだらない理想論だけどね。ワタシを殺してみたら? そしたら死ねるかも。あ、私はこれまでにも腐るほど誰かを殺したことはあるんだっけ」
子供っぽく首をかしげ、今度は困ったように笑った。
「やっぱり私とワタシとの戦闘は見栄えが悪いわ。こんなの戦闘シーンとも言えない。神は私とワタシとの会話を見るだけでも幸せなようだから、良いと言えば良いのかしら」
神。
「ね、楽しませてよ。悠久はつまらない。ワタシだっておなじなの。わかるでしょう? ワタシと同じくらいに戦える相手に出会えると高揚する。私だってさっきまでそうだったじゃない。
ね、殺してあげるからさ、戦ってよ」
「アナタが望むなら」
「δτκαμήγροοκφοςρίήααηκοφμταίδδαγισσαοίατυιτμσήυηρριςτργφοητααρυς」
私は音を羅列した。さっきは出てこなかった権力が顕れて、神を直撃する。その後、直撃した。したはずだ。神は微動だにしていないし笑顔も保たれている。満足そうに数回頷く。
「いいね、そうこなくちゃ」
嬉しそうに目を細める。
「δσρκααρραςιηγσροισμαατήίοδτιακυοητυήαδαορτήγγφραυφίμττςκμηοοίφς」
「δγτδτφιρασααυοακκιταραίήυσίηιμτοοαοςδηςρυτμργήοκαγομίσαρητφφήρς」
「ίοαςήγμφιδαήίγυςοαςφμφοοιαήροτασμροκρυηρηκττρυατταηκσαδσδίταριγ」
神が望まないような静かな戦闘。これは、戦闘と言えるのか。
なぜ神が望む戦いをしなければならない。私は目の前の神を叶えられたらそれでいい。
「アハッ! 飽きた飽きた。もういいよ。ちょっとだけ楽しかった」
神はもう一度私に近づき、服で見えないが両肩まで黒が広がった私の両腕のうち右の方を掴んだ。
「殺してあげる。約束だもんね?」
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64 :げらっち
2022/10/24(月) 02:52:43
《ルル視点》
相変わらず、展開が早いし唐突だ。
リリから頭にダイレクトメールが送信されてきた。どうやら魔法とも違うらしい。人類の、生命の、底知れぬ神秘を感じずにはいられない。
で、次はひなたが塔に閉じ込められてしまった。
「ひなたさあああああああん!!!」
私は塔の白い壁をガンガンと叩いた。
「どいて!」私は蘭に向けて叫んだ。そして、「ビッグ・リップ」
私は両手のひらを合わせ、宇宙を終息させるほどの爆発を起こした。何だかいろいろとインフレしている。煙が立ち込めた。本来ならば搭に穴が開くはずだ。というより、塔自体が消滅してしまう可能性さえあった。でも、塔はビクともしなかった。
「あれえ?」
しかも蘭はどくどころか私の真横で棒立ちしていた。そして言った。
「外側からの破壊は無理そうだな」
蘭はそうとだけ言って、ふいとそっぽを向いてしまった。
「えええ!?ちょっとちょっとー!ひなたさんが中に居るんですよー!助けなくていいんですか!?」
少年は背中を向けたまま言った。
「日向はお前なんかの助けは必要としていない。おれのもだ。」
「へ?」
「日向なら大抵のことは自分で片付けられる。内側から塔を攻略するのを待つしかない。それならただ待つより、おれたちのできる事をしていたほうが良い。」
るーちゃんわけわかめですぅ。
蘭は「ちっ」と言った。年下にされると、ムカつくというか、傷つく……
「ねえ、そんなことしないでよ!私だって頑張ってるんですし、嫌な気持ちになりますよ!協力してるんですし、どうするのか教えて!」
「協力?していたか?」
蘭は振り向いて、冷たく笑った。
「お前の実力からして、教えることに利益は無い。むしろおれのフラストレーションが溜まる。じゃあな。勝手に嫌な気持ちになっていろ。」
蘭はそう言ってスタスタと歩き去って行った。
むっか~~!!
ひなたが居なくなって1vs1だからって、容赦なさすぎない!?
こうなったら……
「私と勝負して、私が勝ったら、協力して下さい!!」
「あ?」
蘭が足を止め、振り向く。
勝機はある。神であるひなたも今は居ないのだから。
「光合成エクトプラズ魔!」
私は光から、他エレメントを持った幻影を合成する。
津板山の戦いで、とある怪人相手に、早々に戦死してしまったシズク先輩。
蘭は太陽による攻撃を備えている。あの炎は私の炎なんかよりテラ強い。炎vs炎では勝てるわけがない。それでも……
「ストロングウェーブ!!」
シズク先輩の幻影が、お得意の水魔法で蘭を攻撃した。「ぼごわあああああああああ!!!???」
水でなら勝てる。
私は、蘭に勝利した。
「ブイ!」
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65 :げらっち
2022/10/24(月) 02:57:24
私は半ば強引に蘭を協力させ、塔の1つに辿り着いた。
蘭の作戦は、ひなたが塔から出るまでの間に、他の3つの塔を攻略しておくというものだった。
「ったく、何で一緒に行動しなくちゃなんねえんだ!」
「水ぶっかけますよ。にこり。」
「わあ!それだけはよせ!!」
蘭は面白いくらいに水を嫌がる。S心がくすぐられてしまう。
ひなたが居る時これをしたら、私は1億回は殺されただろう。
私たちが塔に入ると、入り口はガチリと閉じた。私と蘭2人きりの相部屋、では無かった。
塔の中心部分に、瑠璃色の楕円が浮かんでいた。リリの眼のように輝いているそれは、見覚えの有り過ぎる魔石だ。
「へえ、このセカイの私はまだキャスストーンのまんまなんですねぇ。」
「そですよ!」
石はくるんと回って、私になった。鏡の中のような私。黒髪ボブに、平均程度の身長、痩せ型、兵中の制服に、赤いキズナフォン。
自分自身を見るのは何かヤダ。同属嫌悪、同担拒否だ。
「うげえ、1人だけでも不快だがルルが2人居るの気持ちわりぃ」と蘭。
あの合言葉を言う。
「水。」
「!!!!」蘭は黙った。
「キャスストーンである私と、神であるあなた。どっちが強いのか、比べっこしてみない?」
偽のルルが言う。
「いいですよ。どうせ偽のあなたたちを倒さないと、このセカイのエンディングを見れないようですし。」
「物分かり、いいね。」
ルルは再びくるんとキャスストーンの姿に回帰した。
私はルルには負けない。私は神で、ルルはキャスストーン。キャスストーンは神が作ったバックアップ用SDカードでしかない。バキッと折ってしまえば勝ち。
でもそういうわけにはいかなかった。
瑠璃色のキャスストーンは旋回して上昇し、何かにパシッと嵌め込まれた。
あれは……
「メンズスター神!!!」
黄金の鎧の胸部に、青い光が宿った。
あんな巨大なものがこんな狭小な空間に存在できるはずがない。と思うと、いつの間にやら空間は肥大化し、宇宙になっていた。
「どうなってるんだよルル!あれは?」
「あれは神のレプリカですぅ!雑な模造品だけど、キャスストーンの攻撃的な魔力のみを摘出できるようになっていて、7体そろえば世界全部を滅ぼせます!自ら兵器に搭載されるなんて!」
「ぎゃああ水いやあああ!!」
「みずっ、違いますぅ!“自ら”ですよー!みずに過剰反応し過ぎです!!」
水責めでもはや腑抜けになってしまった蘭と茶番を繰り広げていたため、メンズスター神が滅亡の準備をしていたことに気付けなかった。
『∞ジゴク。』
「マズいッ!」
私は蘭を抱え、宇宙空間をバタ足で泳いで照準から逃れた。キャスストーンからヒカリが放たれ、漆黒の闇を飛び、向こうの銀河を滅ぼした。花火のようで、美しい。
「オーマイガーです。強化されてますねえ。」
まあ、やれる。
「∞キセキ。」
私の魔法は宇宙を終わらせるビッグ・クランチや魂を痕跡無くバラバラにするサ終よりも上位の、コズミックカレンダーを破り捨て次の1月1日に進ませるような決定打。
でもメンズスター神は∞ジゴクを再び送り込んだ。キセキとジゴクがバチっと当たり、不気味に相殺され無音に消えた。
「うそ~ん。」
更にメンズスター神は刀剣を装備した。釜茹でお願いというかなり変な名前の剣だ。メンズスター神は宇宙の上をドスドスと走り、私たちを斬りにきた。
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66 :げらっち
2022/10/24(月) 03:03:12
自分との邂逅。
完璧なる私のコピー。実力は五分。どんな威力の魔法を使っても、相手もきっちり同じため、誤差なく消滅してしまうのだ。
それに気づいたのか、相手は魔法ではなく武器を使って私たちの首を取りにきた。これはなかなかに、よろしくない状況。
すると、蘭が、私の背中をポンと叩いた。
「すごいな、お前。」
「え?」
「お前の実力はなかなかだ。日向にも匹敵するかもしれない。いつもは道化を演じているんだろ?」
「あ、あはは……まあそんなとこですね。」
ともかく、今は蘭との協力が唯一の打開策となりそうだ。
私と偽ルルの強さはきっかり同じ。それならば、こちらに戦力を足し算すればいい。
「いきますよ!」
「炎炎混合魔法・チート級ヘリアンダーフレア!!」
私と蘭は相手に手のひらを向け、同時に唱えた。火炎の螺旋がゴワぁと噴き出た。
その威力は加算どころか乗算となった。あの愚かな美羽との合わせ技とは比較にならない。黄金の火炎は、プルプルとヘリコプターのように飛んでいき、キャスストーンを粉々に打ち砕く。「イダイイダイですぅ!」さて、儲け。「メンズスター神いただきですぅ!」私はメンズスター神に意識を集中し、乗り込んだ。元々これは私の乗り物だ。私がコアと成り、蘭が操縦する。
「蘭!動かして!」
「なんだかわかんねえが、こうなったらやるっきゃねえ!」
蘭が操縦席にて私に指令を出した。メンズスター神の腕が私の腕と成り、刀剣を振り下ろし、宇宙を引き裂き、元のセカイに戻った。私たちの居た塔は、ポッキリと折れていた。
「このまま他の塔も攻略しちゃいましょう!」
「いいぜ」
蘭がレバーを引き、私を動力源とするメンズスター神は、ドスドスと白い迷路を踏み潰して走った。巨大な身体なので、すぐに2つ目の塔に着いた。
「面倒だから、塔ごと壊しちゃいましょう!忠告します、中の人ー!今すぐ退去しなさい!3・2・1……」
「ん?」
塔の入り口から、リリが出てきた。本物のリリは目を失ったので、偽物とすぐわかる。容赦ナシ。
「ちょ、ちょっと待ってぇー!!」
『釜茹でジゴク。』
塔の周囲の地面がグラグラと燃え盛り、塔は煮沸され、仏蘭西人形のようなリリを建造物ごと蒸殺した。「んぎゃあああああ!!」
Re:悪意の偽物
From:リリ
To:お母さん
リリの偽物やっつけたよ!
「ちょろいですねー!」
私はメンズスター神目線で地獄の光景を見ていたが、頭部の操縦席に居る蘭に話し掛けた。
「さ、第3の塔にも行きましょ!」
「じゃあ次はおれの偽物か?メインディッシュだぜ!」
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67 :やっきー
2022/10/27(木) 19:55:15
《蘭視点》
塔から出た頃には日向も塔を攻略しているかと思ったがどうやらそうでもないらしい。自分と自分、二人だけの戦いだから手間取っているのか。あるいは。
おれはさっきの蒼い石を思い出す。あれは蒼ではなく瑠璃か? とにかくセカイのコピーは『現在の自分と全く同じ』というわけではなさそうだ。
なら、おれの偽物は手強いかもしれない、いいや、手強い。なぜなら――
突然第三の塔がカッと光った。白いセカイでは光はわかりづらいが確かに光った。
「ぎゃあ! 熱いですぅ!」
光はおれが入っていた変なデカ人形を融かした。外皮が剥がれ、熱はあっという間に内部まで侵食する。ゴワッと正面から炎に襲われ、おれは外に投げ出された。
「うわあっ?!」
慌てるな慌てるな。まずは着地。どうやら炎はここでおれを獲る気はないようだ。それなら落ち着いて着地に集中できる。
おれは風魔法を使うことで、自分で自身を浮かせた。落下速度を落とし、ゆるゆるとセカイの床に辿り着く。
その直前に、床との衝突まであと僅かというルルが見えた。助けた方がいいかと思ったがルルもルルで自分のことは自分でなんとかしたらしい。あれは、熱風か。面白い使い方だな。
風向を変えてルルの方へ移動する。ルルはなぜかおれに対して驚いた顔をした。
「それって風魔法ですか?」
「ああ」
おれはルルから五歩ほど離れた位置に着地した。
「風魔法も使えるんですね。私の世界では違うエレメントの魔法は使えませんよ」
エレメント……ああ、属性のことか。
「おれの世界では『適性魔法属性』という概念が存在する。おれの場合は火と光。でも鍛えればある程度は他の属性の魔法も使える」
そもそもおれがいた世界での全ての魔法は【白】【黒】から派生している。越えられない属性の壁はこの二つの間の壁だけで、火や水などの基本属性の壁はなんだかんだ言って脆い。派生元が同じだから。
ルルは半分理解して半分理解していない顔をした。無視。
「さっきの炎は蘭の偽物の魔法でしょうか」
「だろうな」
おれの偽物がどんな姿なのかを想像したおれはきっと険しい表情をしていたのだろう。ルルが励ますような気持ち悪い声を出した。
「二人なら偽物なんて一瞬でけちょんけちょんですよ! 一度水をぶっかければイチコロじゃないですか?」
お前なぁ……と言いかけてやめる。また水をかけられでもしたらたまったものじゃない。
「いいや」
代わりの言葉をこぼす。ルルの言う通りおれの弱点は水。しかしおれの偽物に水は効かないだろう。そんなもの、現実世界に水を具現化させた時点で蒸発して消え失せるだろうから。
「おれの、偽物も神だ。おそらく。油断はできない」
「ええっ? 蘭も神ってことですか? 多すぎですぅ!」
おれはルルの言葉を肯定できない。それは許されていない。神が多いってのは、同意だが。
あ、ここは世界じゃないんだった。それなら肯定しても、もしかしたら大丈夫かもしれない。
「ああ、おれは元々神だっ」
その瞬間何者かによっておれの内臓体内に収められている全ての器官細胞が弄り回されておれは吐いた食道を超えてきた吐瀉物が白いセカイの床にべしゃりべちゃりと付着していくおれはルるからかおをそむけようとしたガヨコヲムクダケデセイイッパいでルルハイタイイタイアタマガイタイアタマガワレソウダバクハツシソウダタえろたえろこの痛みはすぐに治まる。
ルルがなにか言っている。しかしおれの体は嘔吐を優先しているし、頭の痛みのせいでルルの言葉は聞き取れない。目が取れそうになったから慌てて抑えた。燃えてやしないか。そう思って手を当てるがそもそも手が燃えるように熱かったのでよくわからなかった。
「だ、大丈夫ですか?」
やっと耳が元に戻ったみたいだ。やはりセカイでもおれは自らの正体を明言することはできないらしい。腕で口元を見えないように押さえる。
「平気だ。とにかく塔の中には神がいる。油断はするな、それだけだ。
行こう」
おれは無事に残っている二つの塔のうち、おれの偽物が待ち構えているであろう塔へ歩みを進めた。
不快な汗を乱暴に拭った。
[
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68 :やっきー
2022/10/27(木) 19:56:05
塔の中には男がいた。こちらに背を向けていて顔は見えず、首から上の視覚情報は黒い短髪だけだった。
彼はとにかく黒かった。黒いローブを身に纏い、履いているブーツもまた真っ黒。手には大きな鎌を持ち、それを握る手も当然黒手袋を着けていた。背丈は人間の成人男性の平均身長に近いはずだが小さなこの体ではかなり大きく見える。
「え?」
ルルが小さく呟く。驚くのも無理はない。ルルの偽物は青い石の姿も兼ねていたとはいえルルと瓜二つの容姿だった。それに最初にルルの目の前に現れたおれの偽物の容姿は同様にそっくりだっただろうから、ここでもその姿で現れると疑っていなかったはずだ。
「来たか」
彼はゆったりと振り向く。それにより確認できた彼の顔は多少の違いはあれど、彼がおれの偽物だと納得できる程度にはおれと似ていた。おれはいわゆる童顔というやつで、成長しても幼少期からあまり顔つきが変わらない。
いまのおれでは出せない、声変わりを終えた喉仏のある青年の声が空気に馴染む。
「一人ずつ来るかと思ったんだが、なるほどまとめて来るか。まあ想定内だ」
彼が言い終わるか言い終わらないかの境目で、ルルがおれに問う。
「どういうことですか? 誰ですかあの人! 蘭にそっくりだけど……」
さてなんと返すべきか。『成長したおれ』では説明不足だし、時系列ではあいつの方が古い。真実を告げることはセカイにも許されていない。
別にこの場を乗り越えるために嘘をつくことにも抵抗感はないが、好んで嘘を口から垂れ流すような性格ではない。多分。どう説明しようかと思案していると彼が口を開いた。
「おれの名はヘリアンダー。花園日向、東蘭の世界での、太陽神だ」
「へりコ溘クキ溘縺縺溘翫?」
「ヘリアンダー」
ルルの言葉は一部破損していたがとにかくくだらないことを言っていることだけはわかった。
「蘭って、東蘭っていうんですね。ひなたさんも」
そういえば氏名を伝えたことはなかったか。
「不思議なこともあるもんだ。人を愛することをやめたお前が、どうして出会って間もない女を隣に置いている?」
「愛って……そんなんじゃないですよ」
的はずれな発言をしているルルは放って、おれは答える。
「ルルを愛したわけじゃない。ヒトを愛さないという決断はいまも継続しているさ」
彼は哀愁漂う笑みで「そうか」と呟いた。おれもいつかこんな顔をしていたのだろうか。
「このセカイから出るにはそれぞれの偽物四人を倒さなければならない。無論おれもだ」
とうとう戦闘が始まるのか。おれは身構えた。ルルも戦闘態勢に入ったのを感じる。
「【キセキ・深淵ノ招キ】」
彼の言葉がドロリと溶けて、ぼたっと白い床に落ちた。黒いそれは瞬く間におれたちの足元まで這い寄り、そこからガパッと手が生えた。
細くて一見頼りなくも見える手だが、代わりに艶すら見えない全てのかげを吸収するクロが恐怖心を煽る。大昔からいままでずっと見ていなかったからか、本来の術者であるおれも心臓に恐怖が注入される。
黒い手が、ゆっくりと、確実に、おれたちに向かって振り下ろされた。
「反撃するな避けろ!!」
おれは叫ぶ。ルルは一瞬だけ動きが止まった。たかが一瞬されど一瞬その時間が命取りになるしかしルルはなんとかすんでのところで避けられたようだった。
「なんですかあれ!」
「あれは魂を掴み取る手だ! 触れたらその時点で魂が身体から!」
おれはそこで言葉を止める。また手が迫ってきたからだ。あれだけで充分通じただろう。
「【キセキ・深淵ノ誘イ】」
床の黒がポカンと空いた。彼のキセキにより重力の方向が拗られ、おれは穴に引きずり込まれそうになった。
「くっ!」
「掴まってください!」
ルルが叫ぶ。ルルが差し出した手に掴まったところで激流の中雑草を掴むのとなんら変わらないが、気休めにはなるだろうとルルに応える。
「どうして攻撃しちゃだめなんですか!?」
「魔法は魂と強い結び付きがある! 物理的に触れるのはもちろん魔法的にアレに触れても魂は抜かれる!」
ヘリアンダーという神は多神教であるキメラセルの神々の中の最高神、ディミルフィアを姉に持つ、自身も高位の、かつ特殊な神だ。太陽神と死神という極端な二つの力を従える。魂の輪廻を管理する機関である冥界の王、冥王以外では唯一直接魂を取り扱うことを許された存在だ。
そしておれはただの人間。人間の中では強い方になるが神との力の差は歴然で、到底敵うはずもない。
おれはかつてのディミルフィア、姉であるフィアに自ら願って人間に転生した転生者だ。日向とは違って、代償を払うことでも神の力を使うことは出来ない。自分の前世以前の記憶を語ることも許されない。そうしようとした瞬間に、世界に行為を強制的に終わらせられるからだ。
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69 :やっきー
2022/10/27(木) 19:56:45
「だったらどうするんですか? 作戦は?」
「正直勝算はない。どうしたら勝てるか、わからない」
悔しい気持ちを隠すことなく伝える。
「あいつは神で、おれは人間。このヒエラルキーは決して覆らない。
お前は、ルルは、神なんだろう。ルルなら適うはずだ。だから」
もとよりおれにプライドなんてものはない。そんなもの、かつておれが神だった時代に神の力ごと置いてきた。フィアのために生きると決めた。フィアを救うためにおれの生を捧げると誓ったんだ。
フィアの救いは世界にあるのであってセカイにあるのではない。こんなセカイに用はない。さっさと終わらせて、帰ろう。フィアの救いが待つ、世界へ。
「力を貸してほしい」
一言で言いきった。驚かれると思ったが違った。ルルは呆れているようだ。
「なに言ってるんですか。もう私たちは協力してるんですよ? さっきの勝負で私が勝ったじゃないですか。もう一回水ぶっかけましょうか?」
「それだけは勘弁してくれ」
冗談ではなく本気でそう思ったので本気でそう言った。マスク越しのルルの笑顔がちょっと見えた気がした。
黄金の光が視界を蝕む。目の前のルルさえ霞むほどの強い光に目を細め、しかし瞼を全て下ろすことはしない。おれは狭い視界で光源を見た。
黒かった彼が輝いていた。比喩ではなく、実際に。黒装束は白装束に変わり、顔以外の皮膚を全て覆っていた布も面積が多少小さくなっていた。真っ白だった肌も、やや黄色味を帯びている。
現代では『魔力非混融症』と呼ばれる先天性魔法障害による、金から橙のグラデーションという独特な髪色がその存在を主張する。角度によっては金に見えなくもない橙色の瞳が埋め込まれたことでますますおれと外見が似た。
転機だ。情報は共有しておくべきだ。おれはすかさずルルに耳打ちした。
「ルル、あの姿での攻撃なら反撃しても」
否、しようとした。
「【キセキ・周辺減光】」
ルルの姿がどぷんと闇に沈んだ。輝く彼の付近以外が空気ごと全て暗転し、この空間は彼の支配下となった。
「【キセキ・星間塵】」
無数のキラメキが目の前に、手の先に、足元に、現れる。チカチカと点滅したかと思った次の瞬間、ソレはおれの体を吹き飛ばすと同時に魔法的な衝撃をおれに与えた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛?!」
冷たい熱いその両方が魔法的な感覚を通じて情報として脳に伝達される。身体中の穴という穴から聖光が刺し込み、皮膚を切り裂く。というのは錯覚だがおれは一秒だけパニックを起こした一秒でも惜しいおれは思いついた案をルルに伝えた。
「ルル! どこだ?! さっきの、さっきの混合魔法がしたい!!」
確かそんな名前でルルは魔法を発動させていた。おれは協力技とやらはどうも苦手だがそんなことは言っていられない。この場を切り抜けるにはルルの力が必要だ。
「わかりました!」
その声は背後からした。振り向くと若干離れたところに彼ほどではなくともヒカリに覆われるルルがいた。ああ、そうか。あいつも神なんだった。闇に飲まれたのはほんの短い時間だけだったのか。七色に光るルルが、眩く見えた。
ひゅん、とルルから魔力が投げられる。おれはそれを受け取るのではなくおれも真似して魔力を投げた。おれとルルの中間地点よりはおれ寄りの地点で魔力がぶつかる。
「【融合魔法】」
太陽には成り得ずとも、それに近い力を生み出すことは出来る。おれは神とヒトの力で核融合反応を起こし、莫大なエネルギーを生み出した。
違うな。おれは、じゃない。おれとルルは生み出された強大なエネルギーで魔法を打ち出した。
「【彩炎光】!!」
光のような炎のような、二つを掛け合わせて生まれたようなどちらでもない半端な『魔法』。魔法は彼の『キセキ』を弾き飛ばした。闇は晴れ、閃光も消えた。
よし、もう一度。今度はもっと強い魔法を打つ。次で、決める!!
そう意気込んだがその必要はなかった。【彩炎光】は彼にすら届いてしまい、それだけで彼は致命傷を負った。魔法は彼を直撃し、彼は膝を着いた。
「は?」
つい口から漏れた音がこれだった。拍子抜けもいいところだ。なにが起きた? 彼のことは、おれのことはおれが一番よく知っている。この程度でおれが膝を着くことはない。
すぐにわかった。彼はわざと攻撃を受けたのだと。しかし、なぜ。
「やりましたね!」
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70 :やっきー
2022/10/27(木) 19:57:54
嬉しそうに言うルルを無視して、彼の元へ向かう。またルルに文句を言われるぞと話しかけるおれの声も聞こえたが、上手く避けて脳を掠める程度におさえた。
「なんで負けたんだ?」
彼は顔を上げた。バレたか、と呟いて笑った。その顔はブレていて、セカイから創られた彼は単なる情報に戻ろうとしていた。その前に、どうにか考えていることを聞き出したい。
「なんでわざと負けた?」
おれは再び問う。彼は今度は微笑んだ。
「お前たちの邪魔をすること。それが俺の役割だ」
彼は瞳に悲哀の色を浮かべる。
「そして、おれの願いはフィアの救いだ」
――なるほど。
「どうかあいつを救ってやってくれ。お前なら出来る」
彼は慈愛の笑みをおれに向けた。
「……うるせえよ」
偽物のくせに、偉そうに言うんじゃねえよ。
そうか、彼は昔のおれなんだ。人を愛することに挫折する前の、まだおれが人を愛していた頃の。だから自ら攻撃を受けたんだ。悪く言えば自分を犠牲に捧げた。セカイに創られた存在にしては、複製元の意思が随分と反映されるんだな。
そう思って彼と視線を交わしていると、彼の体が赤く発光していることに気づいた。覚えのない現象に戸惑っていると、彼が言う。
「そろそろ行け。花園日向はまだ戦っているが、塔から出てきたときにお前がいた方がいいだろう。
『アイツ』がいないいまは、花園日向を支えられるのはお前だけなんだから」
「わかってる」
彼の体が真っ赤に染まり、体積が急激に膨張した。おれはなんだか嫌な予感がして、背中に気持ち悪い汗が滲むのを感じた。
「ルル、逃げるぞ! 偽物が爆発する!」
「ええええっ?!」
赤い光は走るおれを追いかける。ルルと共に塔を出てしばらく走って振り向くと、塔があった場所には妖しい赤色巨星があった。そして次は急速に体積が収縮し、小さな小さな真珠のようになった。白色矮星は大爆発を起こした。
跡形にはなにも残らなかった。床すらも。
塔があった場所には、綺麗にそこだけ深淵へと続く大穴が空いていた。
「こ、今度こそ勝ちましたか?」
「そうみたいだな」
ぐるっと辺りを見回す。日向はいない。苦戦しているのか、そうではないのか。外から見る限り日向が入っていった塔はとても静かだ。
「ブイ!」
ルルが二本指を立てた手をおれに突き出してきた。なんだなんだ、その手は確か最初におれに水魔法で攻撃したときにもしてたよな。まさか水魔法の予告か? やっぱりさっき無視したこと根に持ってんのかよ心狭いな!
「蘭も知らないんですか? ビクトリーのVマークですよ! 敵に勝った時とか、嬉しい時にするジェスチャーですぅ!」
ほお、つまりお前はおれに水をぶっかけて嬉しかったと、へえ。
……まあいいか。さっきは助かったし、それくらいの要求には応えてやろう。同じことは二度とはしないが。
「これでいいのか?」
ルルの手の形を真似る。
「じょーずですぅ!」
なんだかイラッとする言い方だ。
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71 :げらっち
2022/10/29(土) 15:28:20
《リリ視点》
何が何だかわからなかった。
ドスンドスンと、巨人が地を駆けるような、大きな音と揺れ。そして。
熱波に襲われ、私は宙を何回転もして、地面に叩きつけられた。痛い。
そして全ての情報が消えた。
残された共感覚も、聴覚も。
いや、まだだ。痛覚はある。触覚もある。つんと焦げ臭いから、臭覚も生きている。味覚はどうだろう。口の中で血と痰が混ざったような変な味がするので、ギリセーフ。
私はそれをプッと吐き出した。プッという音もザザアという雑音に掻き消されたが。
人間が頼っている情報は、80%が視覚、10%が聴覚、その他は少ししか無いという研究もあった筈だ。五感の中にも大きな偏りがある。その№1と№2を失ったのは、嬉しくない状況だ。
特に共感覚の喪失により、視界を完全に失った。これはマズい。
すると、何やら脳内に、文字が浮かび上がった。
メールを受信できませんでした。
ルルからの返信か。
ついに遺伝子さえ不通になった。どうせ大したメッセじゃない気もするが、未読ムシをせざるを得ない。
どうしようか。
何とかして、周りが、見たい。
どうしようか。
ドスンドスンと、音ではなく、振動が伝わる。母なるルルは、何やら暴れているらしい。その流れ弾を受け、娘リリは瀕死の状態なんだが……
ん?
リリは瀕死?
りり、んし
りんし!!
面白いことを思いついた。
あの神がかりの3人なら、セカイを攻略できる。
私はオマケであり、私が死のうが生きようが、ここから出ることさえできれば、元の世界に戻り、新たな人生を、歩み直せる。
それならばやってみよう。
臨死を。
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72 :げらっち
2022/10/29(土) 15:37:51
今の私には、何も無い。魔力も無い。
それでもできることがある。
私は手探りで進んだ。
ここは確か、迷路だった筈だ。
神がかりズが道を壊したり作り変えたりそもそも無視するようになったのでルールが忘れられたが、本来なら道なりに進んで攻略せねばならない。壁を越えようとすると、ペナルティがあった筈。
それを利用させてもらう。
私は瓦礫を足場にして、迷路の壁を登った。
てっぺんに到達すると。
ドクッ
心臓が突然、激しく拍動した。
地面から見えない手が伸びてきて、私の体をむんずと掴んだ。エッチ。この力はあくまで、私を規格に引き戻すためのもので、致命的にはならない。でも、そこに私自身の余力も加えれば。私はくるんと後転し、頭から、地面に落ちた。
ドカン!!
頭が割れそうに痛んだ。いや、実際、割れたかもしれない。
痛みは途中で消えた。痛みは生きている証なので、それがストライキしたということは、生きていないということだ。
私の考えが正しければ……
「見えた!!」
周りが見えた。
360℃全て見えた。
パノラマだ。
臨死体験をした者は、先天盲であっても、視界を獲得し、時に体外離脱し、遠くのものを見に行くことさえできる。空想のようなお話だが、実例がある。生き返った者による体験談がある。医療や科学で解明できないことは数多く、それは文学で補うので、空想は必ずしも現実とかけ離れてはいない。
それでも空想世界のようだ。私は宙に浮いて、全ての方向を一度に見ている。
真下には、私が居た。うつ伏せに倒れていて、頭が血で真っ赤に染まっている。大嫌いな自分だけど、なんだか可哀想だ。ごめんね。
今の私は体が無い。私が視点主であり、視野の中心だ。
ちょっと高い所に行ってみよう。私の視界はグーンと上昇した。セカイを見渡せるくらいに。お天道様のようにセカイのてっぺんにきた。
迷路は、だいぶ荒らされていた。あーあ、あの3人のせいだ……
塔のうち1つはまだ立っているが、1つは根元から折れ、1つは爆心地となっている。この爆風が私を負傷させたようだ。そして瓦礫のハザマに、壊れた3Dプリンターのようなものが挟まっていた。もしかして、あれが、私たちの偽物を作った元凶?爆発に巻き込まれたのか破壊されてるっぽいな。
更に、もう1つの塔があったと思われる空間には、ぽっかり穴が開いていた。
ルルたちはどこだろう。多分、負けてはいまい。1つだけ無傷の塔の中に、居るのかも。
そして塔たちの中心に位置するのが、この円錐。
私は円錐を見た。
ショック死するとこだった。
まあ、もう半分死んでるので、そんなことは起きないが。
円錐の建物は、顔の塊になっていた。
顔、顔、顔がぎっしり。何個あるんだろう。数えるのは不可能に近いが、まあ数万はある。
さっきまでは無機質な建物、或いは黒 に見えていたのに。いつの間に変化したんだろう。
いや建物が変わったんじゃない。私が変わったんだ。私の視界が、通常の目線から共感覚に移り、更に臨死の目となった。
であればこれがセカイの真の姿か?
なんて悲しくて、痛いのでしょう。
私には彼らの正体が、わかった気がした。
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73 :げらっち
2022/10/29(土) 15:41:15
「ねえ。あなたたち、もしかして……」
『お前も同じだ。』
彼らが、話し掛けてきた。
「え?」
『お前も、自殺した。』
「ええ??」
心外だ。私は自殺などしていない。
『自殺は大罪です。命を自ら断つような不敬な奴はタマシイも記憶も失い、生命の輪から消滅する。』
え。
「え、や、やだ!!!」
嘘でしょ?
生命の輪から消滅する、つまりセカイから出ても、生き返れないってこと?
『あなたは、命を粗末にした。あたしたちといっしょ。』
「違う!!私は生きたい!!最低なあの女、ルルの罪の尻拭いに生まされただけなんだよ!この糞ッタレのセカイから出た後に、ちゃんと、生まれるんだから!!!」
はっ。
これじゃあ、あの時のルルの言い分とおんなじだ。
リセマラができるからと、自分の命を軽んじた。
あのだいっきらいな母と、同じ道を!!!!
私は命を大切に……
してない。
『おいで。』
『おいで。』
『僕たちといっしょになろう。』
円錐から、顔だらけの腕が伸びてきた。
いやだ。いやだ。いっしょにしないで。幾万の自殺した連中と、ミキサーにかけられて、永遠に退屈なセカイで、拐した人を迷路で遊ばせるだけを楽しみに、宇宙のオワリまで過ごすのは、イヤダ。もう罰なんて御免だ。一度でいいからちゃんと生きたいんだ!
『きて。』
「待って!!」
私は全力で、自分の死体へと飛んだ。あの肉体に入れば、蘇れる。最悪の肉体でも生きていれば良い、この悪夢が醒めるならば。
でも、どうしても近づけなかった。体が、無い筈の体が、しっかりと掴まれて、もがいてももがいても、逆に浮かび上がって、私は円錐の中に、曳き込まれていく。
「やだあああああああああ!!!!」
私のタマシイは、闇にのまれた。
『もう戻れないよ。』
『時間切れだよ。』
もう永遠に、ジカンギレだ。
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74 :やっきー
2022/10/30(日) 22:30:51
《日向視点》
……。
なんで、破裂した左腕が復活しているの?
私は神に掴まれた右腕を無視して左手を見た。ある。どうして。神の力で破壊されたはずなんだ。『私を殺せる』神の力で。
なんだ、そうか、そっか。なんだ。
「アハッ、気づいちゃった?」
ワタシは楽しそうに笑った。さっきまでと同じように。これまでと同じように。これからと同じように。
私は無表情に見返した。花園日向が人間であることを物語る白眼がワタシの青眼に映し出される。私は人間だ。それは覆らない事実。だから神であると思われたワタシに殺してもらおうと思った。ワタシなら、私を殺せると思った。
「ワタシは私の完全なるコピー。私が自殺を許されない限り、ワタシも私を殺せない」
ワタシはパッと私の腕を離した。花弁が舞うように宙をヒラヒラと泳いで、言う。
「ワタシは私を殺せない。私もワタシを殺せない。そう設定して作られているからね。
ね、それでもいいでしょう? ここで一生遊びましょう。あるかもわからない救いを求めて悠久を潰すよりもきっとずっと楽しいわ」
ワタシからの提案を私は即座に否定した。
「いいえ」
つまらない。興味が無い。
「私は救われない。けれど救われたい。だから救いを求め続ける。永遠に。私は世界に戻る」
ワタシがなにかを言おうとしたので、言葉を続けた。
「それに、私はワタシを容易に殺せる」
私はそのことに気付かないふりをして目を逸らしていただけだけど、ワタシはそうではないようだったから教えてあげる。
ワタシはきょとんとした。
「なに言ってるの? ワタシと私との力は拮抗している。ワタシたちの間には勝利もなければ、敗北もない」
「それは違う」
また即座に否定した。
「容姿、性格、記憶、価値観、能力。その他の私自身の要素をいくら完璧にコピーしようと、コピー出来ないものがある。そしてそれがアナタの致命傷となる」
まだワタシは理解していない。
「ここに蘭が来たら、きっとアナタを攻撃するでしょうね。
私ではなく、アナタを」
「アッ」
こんなこともすぐに理解できないようでは、やはりアナタのことはワタシの贋作としか呼べないのでしょう。
「私を生に縛り付けている呪いの名は【神の寵愛】」
神が私を愛しているから。ただそれだけの理由で私は死を許されない。罪を許されない。四種類ある神のうちの最上位の神。本当の意味で『私たち』を生み出した唯一神。そして創造主。
主より受ける愛の質も量も、私の方が良くも悪くも優れている。だから私はアナタを殺せるし、アナタは私を殺せない。
「アナタはワタシじゃない。ただの人形。それだけ」
だから、さようなら。
私は天に手を差し出した。神が天にいるとは限らない。そもそも私たちはカミに綴られた二次元の存在。少なくともいまは私は文字だけで構成された存在なので物理的に天に手を差し出すことは不可能。嗚呼、そんなことを気にしたって仕方ないんだった。とにかく私は神に手を差し出した。
主よ。貴方は私を愛している。貴方の意に適う私の願いなら、叶えてくださるのでしょう?
私はこのセカイからさっさとお別れして、あの馬鹿馬鹿しい世界に帰りたい。
主は私に応えた。アナタではなく私に破壊の権限を付与し、私は再び空間を破壊した。私の腕は白いままだ。代償無しに私は創造魔法を実現する。
「アナタじゃあ、私の暇つぶしにもならないわ」
既にアナタの顔は見えなくなっている。私が認識する気をなくしているのね。無理もないわ。ヒトにすら満たない私の偽物。アナタとの戦闘が楽しい? 寝ぼけているのかしら。悠久の時を誰よりも長く共に過ごした『私』ほど、飽き飽きした存在はいないのに。
アナタの支配から空間を奪い取り、塔はバコォンッと大きな音をたてて、あっと言う間もなく瓦礫と化した。アナタは瓦礫に埋もれる。そんなはずはない。仮にもワタシの力を一部であっても宿すアナタがそう簡単に潰れるはずない。私はきゅるりと眼球を回した。見えない。逃げた? 逃がさない。知ってるんだから。それぞれの偽物を倒すことがセカイから出る必要条件の一つだってことは。
私は空間を掴んだ。ぐい、と引くと目の前にアナタが出現した。
「なんで……」
アナタは驚愕している。ワタシがそんな顔するわけないのに。偽物ですら、なくなったのかしら。
「お や す み な さ い」
右手の親指と中指で輪を作り、ソレの額の前で弾く。私の動作とソレの反射では私の動作の方が早かった。ソレは外形にそれらしい中身を詰めただけで脊髄が存在しないから? ま、どうでもいいけど。
ソレの頭が吹っ飛んだ。液体は入っていなかった。あらあら。ヒトですらなかったのね。
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75 :やっきー
2022/10/30(日) 22:31:36
「日向!!」
蘭の声がした。くるっと回ってみると四つあった塔が全て崩壊している。私が最初に塔に入ったはずなのに私が最後だったみたい。現実逃避の時間が長引いていたのかしら。塔の中だと時の感覚が曖昧だったからわからなかった。
私はもう一度狂っと振り向いて蘭を見た。蘭は走り寄ってきていた。その足を止めて固まる。私を凝視する。そして呟く。
「日向、だよな?」
私はニコットワラッタ。
「そうだよ」
あとから続いたルルも蘭と同じように固まった。
「え、なんで偽物が?! まさか本物のひなたさんは!」
七色のルルは私に魔法を打とうとした。えぇ? 本物だって言ってるのにな。
「【光まじゅ――」
「やめろ!!!」
蘭が鋭い眼光でルルを焼き殺した。生き返ったルルはわけがわからないと言いたげに蘭に訴える。
「なんで止めるんですか!」
「日向に手ぇ出すんじゃねえよ!! 殺すぞ!」
「はいぃ?!」
喧嘩かな。喧嘩は良くないというのがヒトの共通認識だと捉えていたのだけれど違ったのかしら。
「まあまあ、二人とも落ち着いて?」
ルルを見る。ルルの目はマスクに覆われていて見られない。私は確認したいことがあったので蘭を見た。綺麗な橙色の瞳の中に、私の二つの青眼が映り込んでいる。やっぱり。
主は私のオッドアイの姿がいたくお気に入りだったはずなのに、どういった気まぐれで私をこの姿にしたのでしょう。これのおかげでルルは私を偽物だと思っているのね。
「私は花園日向。本当よ。証拠になるかわからないけれど、ほら」
私が空間を撫でると、私の偽物の残骸が私の足元に現れた。首から上がなく、体の大半がブレて「ザザッ」という音をあげている。
姿だけは私と瓜二つだったけど、その面影もほとんどない。私が本物だって信じてくれたかしら。これで信じてくれなかったらお手上げだわ。
「これがひなたさんの偽物、てことですか?」
ルルが疑いの眼差しを私に向ける。
「ええ、そうよ。信じてもらえた?
この目がいけないのかしら。幻影でも被せましょうか? それとも笑っているのがだめなの? それはごめんなさいどうにもならないわ。笑いたくて笑っているんじゃないの。
それかこの話し方? 確かにいまの私は子どもの姿で、幼女がこんな話し方をしているのは奇妙に思えるかもしれないわね」
「日向、日向」
蘭が私に話しかけた。
「無理はしなくていい。無理に話さなくていい。無理に笑わなくていい。神の強制力に逆らいたかったら、逆らっていいんだ」
だから、笑っているのは私の意志とは関係ないんだってば。
「なにがあったのかまではわからない。そんなことまでは聞かない。だから、だから」
蘭は悲しそうだ。
「日向が一番楽な姿でいてくれ」
蘭が悲しそうにしている。それはなんだか嫌だ。嫌だから、私は蘭を安心させるためにニコットワラッタ。
「うん、わかった」
蘭は再度固まって、なにも言わなくなった。なにも言わなくてもいいよ。私はヒトの心理に介入する権限を有している。蘭が考えていることはわかるから。
(やっぱりおれじゃだめなんだ)
ああ、それは、そうかもしれないね。
「ほら、早くあの建物に行きましょう? そろそろセカイでのラストバトルが始まってもいい頃だと思うの」
ところでリリはセカイの一部に取り込まれたみたいね。ルルはそれについてはどうするつもりなのかしら。自殺、なんて、そんなことをするから望まない未来を迎えることになったのね。
……いいなあ。
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76 :げらっち
2022/11/01(火) 16:48:27
《ルル視点》
「リリが自殺した!?」
私は叫んだ。
「ええ、そうよ。リリは自ら死に臨み、視力を得ようとした。このセカイの主たちと同じ運命を辿ることになるとも知らずに。」
ひなたはニコットワラッテいる。気味が悪い。
何故無表情だった彼女が、妖艶な笑みを浮かべるようになったか。ペラペラとお喋りするようになったか。
気にならないことも無いが、1枚上のレイヤーに、もっと重要な事項があって、下のレイヤーの疑問は目立たなくなった。
「そんな!!リリ!!」
私は円錐に向けて走った。後ろから声が追走してくる。「おい待て!塔に来たのは三角錐を遠くから眺めるためじゃなかったのか?目的が偽物を倒すことにすり替わっているぞ!」と蘭の声。「塔は全部破壊されてもう役に立たないのではないかしら。」とひなたの声。
2人の漫才は無視し、一直線に円錐へ……
行けなかった。
白き壁が復活していた。血小板が傷を治すように、満身創痍になった迷路は、いつの間にやら綺麗に修復されていた。
何者の仕業だろうか。まあイイ。
「邪魔ですぅ!!光り魔術:ストレートフラッシュ!」
私は円錐に向けて一筋の光を突き刺し、道中にある壁を全てドゥオンと蒸発させた。最短距離で、ショートカットする。
「リリーーー!!!」
私は大切な娘を、また酷い目に遭わせてしまった。
リリは私の罪を償うために誕生させられた。私に罰を与えるために、過去の私を殺しに来た。
でもそれは私を救うプロセスだった。リリは人生をめちゃくちゃにした私を憎んでいたが、それでも私を助けた。リリはパラドクスの人生を歩んだ。
今度は私が救う番だ。
私はガンダしたので、ひなたたちと大分離れてしまったようだ。
あの2人、追い付けるだろうか。
ガガガガと、何かを削るような音がした。
[
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77 :げらっち
2022/11/01(火) 16:50:08
「ん??」
私は後ろをちらりと見た。
私が通り過ぎる傍から、壊した筈の壁が、次々に修復されていた。これでは私が走りながら迷路を直しているみたいだ。
不可解だが、よく見ると、白い何かが私を追いかけていた。そいつが迷路を再生させながら走っているのだった。
そいつはシュレッダーのようだった。学校で見かけるシュレッダーとサイズは同じだが、図太い足が生えていて、その短足をフル回転させて、私をストーキングしてくる。
「いいやー!何ですかこれは!!新手のゴキブリですか!?」
『奴らを○○錐には近づけるな。』
シュレッダーが喋った。町内に流れる防災情報のような、どこにも特徴の無い声だった。
『奴らを△△錐には近づけるな。奴らを□□錐には近づけるな。』
言っている内容が、よくわからない。
「おおっと!?」
私はずっこけそうになった。後ろを見て走っていたから、目の前の障害物に気付かなかった。
大きめの3Dプリンターが、落ちていた。子供が入れるような大きな物だった。私はバランスを崩しながらそれを避けると、ケンケンし、体勢を立て直した。
シュレッダーはそれに真っ直ぐに突っ込んだ。ガガガガと、工事現場のような騒音がして、3Dプリンターはシュレッダーに吸い込まれるように切り裂かれた。
「家電バケモノ同士の仲間割れですか?」
するとシュレッダーの口から、風船が膨らむように、プワッと、白い粘土のようなものが起き上がった。
シュレッダーは迷路のみならず、家電バケモノさえも再生させた。破砕するのが仕事なのに、その逆をするとはへそ曲がりだ。
巨大なバケモノが生まれた。
エアコンに洗濯機、ルンバにテレビ、冷蔵庫に3Dプリンターがごちゃ混ぜになって、不気味な塊になっている。シュレッダーはそのしっぽ部分にくっ付いている、オマケと化していた。
そして頭部には、取って付けたように、霞月の顔が乗っていた。
バケモノの融合体は、ぽーんと跳ねて、私の目の前に着地した。つぎはぎだらけの腕をガバっと広げ、通せんぼのポーズをとる。
『主の所に行きたいなら私を倒してみろ。』
「邪魔!」
あんたの相手をしてる暇なんて無い。リリを助けるんだ。
「フレア!」
最弱の魔法で十分だ。私はポイと火を投げつけた。
その一撃でおつりがくるほどには、私のレートは上がっていた。ここでは最強であろうバケモノは、パッカーンと破裂し、木っ端微塵になった。私はその爆炎の中をギュンと通り過ぎた。私の背後でバケモノが粉々に散っていた。もう再生すまい。
私は円錐の近くに辿り着いた。
「遅いぞー。」
るーちゃんもびっくり、そこには蘭&ひなたが居た。
「なんでですかー!」
「ジャンプしてきた。」
「新記録ですぅ!」
さあ、円錐の中に入ろう。待っててねリリ。
[
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78 :やっきー
2022/11/01(火) 23:42:32
《蘭視点》
セカイはかなり疲弊しているようだ。
迷路は修復したが、おれたちを元の位置に戻す機能は完全に破壊されているらしい。それにセカイを元に戻す機能を司っていたのであろうでかい箱も壊れた。好都合だ。
「この子たちはどうするの?」
日向の声。手にはすすで汚れたガラス片を持っている。
「なんだそれ?」
日向の豹変についてはあまりしつこく言わないことに決めた。質問に質問で返すと、日向は丁寧に答えた。
「霞月と奏芽よ。どうするの? 放っていく?」
つまりそのガラス片にあの二人が入ってるってことか。そういえばあの二人が閉じ込められた六面体の一面にガラス板が貼られていたような。その一部か? というかそれ、ルルがバケモノを倒したあとのあの白い残骸たちから取ってきたものだよな? 決して遠いとは言わないが近くもない距離だ。いつの間に。
「ご名答」
日向はにこりと笑う。複雑な心境だ。
「放っておけばいいだろ。どうでもいいよ」
ふふ、という日向の艶笑。
「ナンチャッテ。この中には何も入ってないよ」
このタイミングを計ったかのように、薄くなってきた白煙の中から二つの人型の影が出てきた。小声で「うげ」とか言ったかもしれない。
「箱の中に入っていたんだもの。箱が壊れたら中身が出るのは当然でしょう?
ちょっとカラカッテみたの。不快になっちゃった?」
いいや。別に。
おれは日向からふいっと視線を逸らし、黒髪の男と茶髪の女を見た。識別しやすいそれらの特徴はかなりボサボサになっている。服もよれていて見苦しい。あ、見苦しいのは元からか。
「ケホッ、らんくん……?」
先に声を出したのは女の方だった。やや呂律が回っていない。よく見ると目もなんとなく光を落としていて、ぼうっとしているようだ。
「それに、ひなたちゃんも――日向ちゃんだよね?」
日向が豹変していることに気づいたのか途端に覚醒し、警戒心を露わにする。仕方の無いことか。それは許容しよう。日向になにかしたらぶっ潰す。
「なにしてるんですか! 早く行きますよ!!」
ルルの怒号が飛んできた。忙しいな。
「もしかして、ルルちゃん?」
今度は男が言った。そっか、二人はルルのこの変な衣装は初見だったな。
「それともリリちゃんかな」
揃っているメンバーで判断しているらしい。ルルかリリかの自分の中での結論を決めかねてうろうろしている。どうでもいいだろそんなの。
「私はルルですぅ。リリは」
ルルがすっと三角錐の建物を指で示す。
「あの中にいます」
女がそちらを見て目を丸くした。
「あれっ、これって遠くから見てた四角錐の建物?」
「そうみたいだな」
は? 四角錐? 何言ってんだよ三角錐と四角錐の区別もつかねえのか?
もしかしたらおれがずっと見間違えていたのかも、なんて愚かな一抹の疑問を払拭すべくちらっと建物を見る。うん。三角錐だ。
「三角錐も四角錐も円錐も、全て見かけのもの。仮の姿と言えばわかりやすいかしら。本来の姿は不定形のものだから、出身世界ごとに見えている姿が違うのよ」
日向が言った。なるほど。他三人は日向の言葉を聞いていない。聞いているのかもしれないがこのことを理解する必要性を感じていないのだろう。おれもだ。
「リリちゃんは先にあそこに行ったってこと? 大変! 一人でなんて危ないわ! 早く助けに行かなきゃ!!」
女が叫ぶ。それを見てルルがぐっと拳を握りしめたのがわかった。
「そうです。早く……」
ざりっと靴を鳴らして、体を反転させた。
「助けに行かなきゃ!!」
あ、馬鹿だ。
瞬間、そう思った。一人で行ったら危ないって言われたばかりだろうが。
「蘭、行きましょう。なんだか面白そう」
おれはくすくすと笑う日向を見て、幼い姿ながら優艶とまで感じさせられた。楽しそうに笑っている、微笑んでいる。その笑顔が偽物であることも、日向の意思に反して浮かび上がってくるものであることも知ってるよ。
「ああ、そうだな」
受け入れよう。拒否するなんて考えたことすらない。おれの一生、いや、全生をかけて日向を救う、手助けをすると誓った。
ついていくよ。どこまでだって。
「日向ちゃんたちまで! 霞月、わたしたちも!」
「わかってる!」
おれたちは無数の魂が蠢く建物へ向かった。いや、建物自体が魂なんだ。死神であったときの力の片鱗で、その正体を認識したいまははっきりと見える。黒い、闇よりも深い、深淵が、蠢いている。
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79 :やっきー
2022/11/01(火) 23:42:56
ズドォン、と轟音がした。ルルが建物に大穴を開けたのだ。不定形なものがゆっくりゆっくり穴を閉じていく。その前におれたちも続いて穴の中へ滑り込んだ。
『たすけて』
『でていけ』
『きてくれてありがとう』
『きえたくない』
『もうあんしんだ』
『どうしてきたの』
『ここまでこれるなんてすごい』
『もうおしまいだ』
『きっとかれらならわたしたちを』
『どうかぼくたちを』
『すくってくれる』
『ころさないで』
黒い粘液が口から入り込んでくる。息が出来ない。体内をぐちゃぐちゃに掻き混ぜながら魂たちが叫んでいるような感覚。気絶しないように、意識に理性に必死にしがみつくが、いつまでもつだろう。ゆっくりゆっくり落下しているような気がしてほかの四人を朦朧とした視界で捉えると、昇っていたり止まっていたり回転していたり上下左右に飛び回っていたりと定まらない。これも十人十色な魂が混合している影響だろうか。
余裕そうな顔をした日向が上の方から泳いできた。
「大丈夫? 大丈夫じゃないよね。ふふっ」
微笑みを浮かべながらおれに入り込んだ魂を掻き出す。おれは呼吸という言葉を掴んだ。
「っは、ありがとう、日向」
「いえいえ」
ニコニコと擬態語がついてきそうな笑みを向けられ、またおれは視線を逸らす。
『ころしてしまおう』
『それはだめだよ』
『ししてなおしにたいというのか』
『ちがうよ、ぼくはすくわれたいの』
『きえるのはこわい』
おそらくおれと同じ状況によって苦しんでいる三人を見て、日向に尋ねてみる。
「死ぬかな?」
「彼らを殺したい魂と殺したくない魂は五分五分でしょうから、生死をさまようだけでしょうね。私たちが手を加えれば五分五分じゃなくなるわよ?」
「殺すってことか?」
「違う違う。物騒ね。助けるって意味よ。殺したい? 私は構わないわよ」
手を加えるとは言ったが手を下すとは言ってなかったな。確かに。おれの思考が先走っていたのは否めない。
日向ならおれが『手を加える』と聞いてどっちに捉えるかなんてすぐに想像つくだろうから、またからかわれたのだろうか。
「んーっ! んーっ!」
口を塞がれているはずなのに、ルルの叫び声、のようなものが聞こえてくる。
「とりあえずルルは助けてこようかしら。面白そう」
おれがなにかを言う前に日向はまたすいっと泳いでいく。ザアッと魂の襲撃に遭って、ひなたの体が後退した。
「お、私の邪魔するの? いいよ!」
日向は無言で詠唱を済ませて魂になにかの攻撃をした。大方権力をぶつけでもしたのだろう。魂も負けじと日向を襲い、なんと日向は力負けした。初めて見た。支配者(マストレス)となった日向が負けるのは。主と神では主の方がヒエラルキーの位置は高いので当然と言えば当然なのだが。
日向がくるくると全身を回転させながら、おれの前にいたのにおれの後ろまで押しやられた。日向は呑気にキャッキャッと笑っている。
「アハハッ! おもしろーい! ねぇね、蘭。私じゃ勝てないかもぉ!」
「そんなこと言ってる場合か!!」
ぐんぐん飛ばされる日向を懸命に追いかけ手を伸ばす。あと少しで手が届く。そう思った直後――
「あら、ご心配ありがとう」
日向は呆気なく自力で体勢を立て直した。またからかっただけかよ。心配して損した!
「あー、クソッ」
「吹き飛ばされたのは本当だし勝てないのも本当よ。あと、クソなんて低俗な言葉使うのは嫌だなぁ」
自分の口調が俗っぽくなったのは自覚してるよ。ほっとけ。
「じゃあ今度こそ行ってくるわね」
日向はふわっと浮かび上がってルルの元へ行った。その様子を見ていると、突然日向の金髪を見失った。日向が遠くへ行ったからか? 違う。まだ視界に収められる距離にいた。おれと日向との間になにかが割って入ってきたんだ。
『オレノコトヲオボエテイマスカ』
『ドウシテタスケテクレナカッタンデスカ』
『アナタガワタシヲミステタンダ』
その声はなんとなく聞き覚えのあるもので。
古い記憶が呼び覚まされる。
遠い遠い、あの頃の。
神だったときの。人を愛することをやめたときの。人を救うことをやめたときの。
「あのときの奴らか」
返事はなかった。意思疎通はできないということか。
『ホカノヤツラハオスクイニナッタノニ』
『ドウシテワタシハスクワレナカッタノ』
『アナタノセイデオレハミズカライノチヲタッタ』
おれは吐き捨てた。
「知るかよ」
魂たちによる窒息から逃れたらしいルルの叫びが聞こえてきた。
「リリー! 聞こえてるんでしょ!? そこにいるんでしょ! 返事して!!!」
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80 :げらっち
2022/11/02(水) 02:15:12
《彼らの視点》
見える見える見える!絶望の記憶が!!
あの人のこの人のその人の臨死が。過去の未来の壱の世界の弐の世界の参の世界の臨終が。
寿命でも病死でも事故死でもない。殺人でもない。愛憎による殺しがまともに思えるような。孤独で、虚空で、滑稽な、救いの無い自死。
いやだいやだ。こんな奴らに仲間入りするなんて!私は自殺なんてしてない!それでも世界は私を自殺者と認定した。だから私は私でなくなった。こいつらと一体化した。だからこいつらの思考と生前の記憶を共有できる。
見たくも無い様な、苦しい、痛い、寂しい、悲しい、切ない、冷たい、暗い、負の記憶が、私の目、そして心に再生される。
疲れた疲れた。もう疲れた。残業残業残業だ。残業代が付いたためしがない。疲れているのにまだ朝だ。さあ出勤だ。満員電車が嫌だ。上司への返答の無いおはようございますが嫌だ。同僚にひそひそ悪口を言われるのが嫌だ。1人ボッチでご飯を食べるのが嫌だ。スーツが嫌だ。仕事が嫌だ。そして今日も残業だ。それで月収17万だ。生きるために仕事をするのか。仕事のために生きるのか。どちらでももう同じだ。仕事をしなければ生きられないのなら生きたくないし、仕事をするために生きるのなら生きる意味が無い。電車がきた。足が勝手に動いた。すうっと引き込まれるように、最後の舞台は華やかに、僕はホームから飛び降りた。
何処ココはどこ。真っ暗い洞窟の中、出口が無いみたい。一生幼い子供のままで、無邪気に笑っていられたら。周りの大人はやさしくて。世界は明るく楽しくて。学校は平和で仲良しで。私はかわいい良い子ちゃん。でいられたのに。いられないノ。戻れるの。さかのぼれるの時間を。あの頃に戻れるの。さっきから痛いなア。血がいっぱい出ているノ。そろそろママが異変に気付いて止めにクルノ。心配な顔シテ。デモナニガシンパイナノかワカッテナイノ。ダカラモット切ッテミルノ。チガイッパイデテイルノ。ナニガナンダカワカラナ イケ ド モ ットチガイッパイデテイルノ。コレデアノコロニモドレルカナ?
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