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┗253.バカセカ番外編スレ(41-60/102)

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41 :やっきー
2022/09/08(木) 21:04:55

「久方ぶりじゃのう、種子(たね)よ」
 レヴィアタンは宙に浮かんで私を見下しながら言った。私は特に返事もせずにレヴィアタンに闇を放った。黒を纏う風が複数の水柱を貫通し、呆気なくレヴィアタンまで到達した。風と言っても易しいものではない。鋭利な切れ味を伴う闇魔法らしい風だ。
 風は呆気なく消えた。レヴィアタンが持つ扇の一薙ぎで跡形もなく。
「よもやその程度の魔法で妾を倒せると思ったのか? なんのつもりじゃ。もっと妾を楽しませるのじゃ!」
 レヴィアタンは両手を広げて水柱の勢いを強めた。遊ぶ気はない。
「蘭のところに行かなくちゃ」
 ここは私が元いた世界ではない。それに蘭はまだセカイに残されている。レヴィアタンなんかどうでもいい。早く、蘭のところへ、行かないと。
 私は両手に黒い力を集中させた。セカイに来てからこの力を使うことが多い。蘭になんて言われるか。どうでもいい。早く、戻らなきゃ。
 私は世界を溶かそうとした。本来ならここで空間ごと空も大地も水柱もレヴィアタンもどろどろに溶けるはずだった。しかし実際には世界は溶けず、私の腕は白いままだった。ぼんやり両手を見ていると、レヴィアタンがくすくす笑っていることに気づく。
「ここは作り物の世界じゃ。其方の力はここでは適用されぬ。花園日向である其方では、妾には敵わないのじゃ!」
 言われてみればそうだ。私のこの力がセカイで発動される方がおかしいのであって、通常であればそうだった。
 レヴィアタンは扇を振った。さっきの私の黒い風が起こり、私を襲おうとする。死なないし、避けるなんて面倒だ。私はその場に足を固定した。

「バーニング!」
 目の前で爆発があった。黒い風はまたもや消えた。レヴィアタンは私の魔法を返しただけで、つまりいまの爆発は私の魔法を打ち消したわけだ。
「ひなたさん、大丈夫?!」
 爆発の主はルルだった。なるほど。神を名乗るだけのことはある。私はルルを妥当に評価はできていなかったらしい。
 そこで閃いた。ルルは私がいた世界の世界線から外れた世界から来た存在。私がいた世界のルールは適応されない。簡単に突破口が見えた気がした。
「もう一度炎の螺旋を出して。さっきよりも強いもの」
 私が言うと、ルルはキョトンとした。
「すーぱーすーぱーすぱいらるふれあ」
 私は首を傾げた。
「確かそんなことを言って出してた、あれ」
 私に指示されて腹立たしいような、それでも嬉しいような変な顔。ルルは元気になってレヴィアタンに向かって叫んだ。

「スーパースーパースパイラルフレア!!」

 そして生み出された炎の螺旋を核として、私は光を乗せた。激しい光に照らされて、四季の木の花の桃色が白色に変わる。あくまで主役は炎の螺旋。
 レヴィアタンは両手を掲げた。まっすぐに伸びていた炎の螺旋が突然止まる。空が波打って、攻撃を食い止めている。
「いっけええええ!!」
 炎の螺旋に魔力が込められるのを感じて、私も光に込めるエネルギーを増やした。
 空に亀裂が走り、レヴィアタンの顔が曇るのを確認した。と、同時に炎の螺旋がレヴィアタンを貫く。思った通りだ。この世界のあらゆる上下関係はルルには関係ない。新しい発見だ、面白い。

「ははははっ、面白いのう! はははははははっっ!!」

 レヴィアタンの最後の言葉はこうだった。レヴィアタンの体が発光して破裂した。残骸が落ちてくることはなかった。
「やりましたね!」
 私は頷く。そしてびくとりーのぶいまーくとやらをもう一度真似して見せた。なんだか不格好。ルルは目を丸くしたあと満面の笑みで同じ手の形を私に見せつけた。自分の方が上手いと言いたいのか。まあいい。

 ルルの顔がブレた。いや違う。空間そのものがブレた。一瞬一瞬でだんだん世界がズレていく。目の前がチカチカして、次第に意識が遠ざかっていった。

『バカセカ世界のボス、レヴィアタンを倒した日向とルル。次はCGR世界へ! 消えた霞月の行方は? このあとすぐ!』

 さっきから、うるさいな。

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42 :げらっち
2022/09/11(日) 15:53:08

《ルル視点》

展開が早すぎて、ついていくのが精いっぱいだ。

変な世界をハシゴして、次はどこに辿り着くのかと思いきや、

「自分の世界」であった。

私は周りを見渡した。
私は、真理類町の住宅街の見知った道のド真ん中に立っていた。
まさか、全部夢だったのか。だがそのような都合の良い解釈はすぐに否定される。視界に金髪の少女が入った。
「ひなたさん!」
プァンとクラクションが鳴った。
「わあ!危ない!」
私はひなたを庇って、路肩に退避した。車は猛スピードで通り過ぎていった。
「しつけの悪い車ですぅ!歩行者優先ですよ!!」
私は走り去るテールランプに向けてあかんべぇをした。ひなたはそれを物珍しそうに見ていた。
恐らく、あれが何かもわからないのだろう。先程立ち寄った彼女の世界は、ファンタジー然としていて、機械は見当たらなかった。私は、親切心に、マウント取りを隠し味にして、ご丁寧に説明してあげた。
「あれは自動車ですよ。移動する時に使う乗り物です!」
ひなたは言う。「ほうきとか馬車みたいなものか。」
「そうです。他人を煽ったり店に突っ込んだりもできるんですよ!」
「へえ。」
折角ジョークを言ったのに、ひなたは無表情だ。つまらない。


暑い。そうだ、季節は夏だった。
だけどこの暑さは懐かしかった。やっと戻って来れた世界。


だがひなたは言った。
「ここは貴方の世界じゃない。ここも、作り物。」
「えぇ~?」私は素っ頓狂な声を出した。
「“セカイ”に戻らないと。そして蘭と合流しないと。」
「どうすればいいんですか?」と私。
「恐らく、ここにも“ボス”が存在する。それを倒せば出られると思う。」
「それじゃ、とりあえずCGRの仲間を探します。みんなが協力してくれるかもしれないので。来て!」
私はCGR基地のある、津板山に向けて歩き出す。
ひなたは後をついて来た。

ひなたの世界のボスは、真白という少女の体を乗っ取ったレヴィアタンという怪物がそれにあたるのだろう。
私は旧友の真白を思い出した。名前こそ同じだが、性格はまるで違った。
大石真白はしたたかだったが、あちらの真白は、弱弱しい裏面に、邪気を感じた。

☆☆☆

道中、日向は色々なものに興味を示した。
自販機、電柱、工事現場のパワーショベルとタイヤローラー、パラボラアンテナなどである。
日向にとってそれらは初めて見る物ばかりだった。壱世界の神より高次である彼女はそれらの存在も認知している。だが、日向という人間体として、直接それらを視認するのは初めてだった。精神よりも、新しいものを受容した目や脳という器官自体が、新鮮さにざわついた。
しかしそれは日向のデスマスクには投影されないので、ルルは彼女を相変わらず不愛想な世間知らずだと思っていただろう。

すれ違う人々は、不思議なものを見る目で日向を見た。日向はこの世界の人種には、殊に日本人には、滅多に見られないような容姿だったので当然だ。
日向の世界の人々は、彼女を恐れ、蔑視した。片方だけの白眼を忌み嫌った。
だが愚かな東洋人には、そんな風習も風評も存在しなかった。だから彼らは日向に、羨望の目を向けた。美しい金髪とオッドアイは、二次元の世界から飛び出してきたようなものだったから。事実他所の世界から来たのだが。
非常識な現代人は、日向の輝く風貌を写真に収めるべく、スマホのレンズを向けた。
マネージャー気取りのルルは「勝手に撮らないで下さい!」と彼らを追い払った。

「あれはルルが持っていたものと似てる」と日向。
ルルは微量うれしそうにした。今まで「豆腐にかすがい」だった会話が、相手の記憶に染み入っていたことが確かめられたからだ。
「そうですよ!あれもスマホです!私が持ってるのはキズナフォンっていう、CGR専用の機種なんですけどね!」
上機嫌なルルは、赤いキズナフォンを日向に渡した。
日向はそれを持ってみて、案外重いものだと思った。
「特別に貸してあげますよ!(_▫ □▫/)」
「それはなに」
「これは顔文字って言います!この世界では使いたいほーだいですよ!(⊃ Д)⊃≡゚ ゚」


テレビは、2人を追尾し、住宅街の屋根の上を移動していた。テレビから人間の足が生えているシュールな形状だ。
映像をアウトプットするはずのテレビが、何故か状況を撮影する役を買っていた。

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43 :げらっち
2022/09/11(日) 16:20:26

《クロボー師視点》

何度見ても、狭くて小汚い、チンケなアパートの一室だ。
だが寛げる自分の城だ。

さて、今日のバイトは完了した。連日のことだが、7時を過ぎている。
シャワーを浴びるのも大儀なので、黒いスーツに黒いシルクハットのまま、座布団に腰を下ろすとする。
俺は買ってきた缶ビールを茶ぶ台に並べると、その1つを、プシュッと開栓した。良い音だぜ。
ではお楽しみの時間だ。ゲラッチそっくりのNHKの集金人に取り立てられるのもしゃくだが購入したテレビ。リモコンで電源を入れる。
『株ライブ!サンシャイン』を見ながら、ビールを飲む。至福の時だ。バイトでの苦労も報われるというものだぜ。
だが画面に映ったのは、株ライブのキャラでは無かった。

「のわーっ!!」

スクールアイドルの美少女のかわりに、冴えない少女が映った。
あいつはルルだ。
「てめえはモデル気取り!!ぬわぁんでだよ!!株ライブはどうしたんだよ?酔ってチャンネルを間違えちまあったのかぁ?まだ1口しか飲んでいないが……」
俺はチャンネルを替えてみる。どの局でも株ライブはやっていない。仕方がないのでNHKに戻す。

「こないだも甲子園の延長で放送休止してたよなぁ?高い視聴料払ってんだからサブちゃんねるでやりゃいーだろ!!!」

俺は茶ぶ台をひっくり返した。買ってきた総菜が散らばり、ビールが畳に染みを作った。
「あーあ、おじさんは泣いちゃうよぉ。えーんえん。さて……何故あのモデルもどきがTVに?」
俺はリモコンで放送予定表を確認する。だがおかしい。この時間は株ライブがやっているはずだし、前の番組の延長予定も無い。
何者かが電波ジャックをし、このくだらん映像を流しているに違いない。けしからん。
ルルが夜道を歩いている映像を見て何が楽しいというのだ。
「ん?」
よく見ると、ルルおばさんは誰かを引き連れているではないか。
「あの金髪の少女は誰だ?」
俺はテレビに這い寄り、間近に画面を覗き見た。
現世ではなかなかお目にかかれないような、美しい女だ。株ライブの新キャラか?
すると2人の前に、男が立ちはだかった。それは見知った顔だった。

「んわーっ!てめーはハローデス!!やられたはずだがまた出てきたのォ?何度も復活してお茶を濁す気かよ!?」

『CGR世界のボスの出現だ!どうする?ルル&日向!気になるつづきはCMの後!!』

陳腐な実況が入った。そうか。あいつは日向という名前なのか……
そして突如CM入り。オイ、どうなってやがる!!
テレビは「MPポーション」のCMを流した。RPGのアイテムなのか?
CMが終わった。

ハローデスと、ルルたちが睨み合っている。CMが明けるまで動かないでいてくれたのか。心遣いに感謝する。

画面の中のハローデスは、ルルに向けて言った。
「お久しぶりですねぇ!!我は貴様によって死に、貴様によって地獄に堕ちた!ツイフェミと共に憎むべき存在よ。逝きなさい、カスが!!!!!怒りに震えて涙が止まらねぇ……」
ルルは反論する。
「しつこいですよ!」

その通りだ。というより、CGR自体がしつこいぜ。
悪役の風上にも風下にも置けんやつだ。さて、どんな手を使うつもりだ……?
と思ったら、ハローデスはいわゆる美少女キャラを召喚した。ポケモンの真似事か?

「ビーチオルタ!!我を守護し、奴らを滅しなさい!ゴミは、裁かなければならない。燃えると燃えないにな!!!」

ビーチオルタとやらは光の弓矢でルルたちに攻撃した。
ハローデスはその後ろで何かほざいてやがる。
「見たか女神★ビーチオルタの実力を!!我のビーチオルタの前に敵など無い!!!無様に召されろ!バーカ、バーカ!」

こいつはお笑いだぜ!!!自分では何もしないとは。

「イキリなんとか太郎という別称がお似合いだな。」

すると予想外のことが起きやがった。
画面の中のハローデスは、俺の野次が聞こえたのか、こちら――カメラのほう――を向き、こう言った。

「我を馬鹿にして何が楽しいのか?烏滸がましい!!我は貴様クロボー師や迅を倒し、メンズスターの頂点に登りつめた男ぞ。」

「何だと?お前など栄えある戦隊の悪役の肥やしになるか。かかってこいよ。どうした、ぐうの音も出ないか?」

俺は押し入れからショットガンを取り出すと、ハローデスに向けてぶっ放した。
「kitchen-guyめ。ぶっこわーーーーーーす!!!」
テレビは粉々に吹き飛び、それだけでなく、部屋自体が半壊した。俺はその放送の続きを見ることができなくなったのみならず、自分の城を失った。

お子様はマネしちゃだめだぞ。

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44 :げらっち
2022/09/11(日) 16:28:52

《ルル視点》

日の暮れた住宅街に現れたハローデス。こいつがCGR世界のボスか。

「お久しぶりですねぇ!!我は貴様によって死に、貴様によって地獄に堕ちた!ツイフェミと共に憎むべき存在よ。逝きなさい、カスが!!!!!怒りに震えて涙が止まらねぇ……」
私は反論する。
「しつこいですよ!」

「ビーチオルタ!!我を守護し、奴らを滅しなさい!ゴミは、裁かなければならない。燃えると燃えないにな!!!」
ハローデスがそう言うと、路上に書かれていた制限速度の数字が、魔法陣に早変わりした。そこからにょきッと生えるように、桃色の髪の少女が現れた。
その少女は光の弓矢を生み出した。キュルキュルと弓がしなり、ピュンと矢が飛んだ。私と日向は身をかがめてそれをかわした。

私はキズナフォンで、ガールズレッドに変身する。
「コミュニティアプリきど――」
だが。
「あ、あれえ?」
無い。
いつもスマホを忍ばせているポケットに、今は四角い電子機器が無い。
まさか、落とした?
いや違う。私はすぐに思い出した。
キズナフォンを貸与していたんだ。今思えばなんと軽率なことを!
「ひなたさん!!」

ひなたは私からソーシャルディスタンスを保ったくらいの位置で、赤いキズナフォンを持って立っていた。
私は左手を伸ばしてそれを取り戻そうとするも、二発目の矢が射られ、私の指先を掠めた。爪が破砕され、血が出た。
いったあああああああ!!!

「見たか女神★ビーチオルタの実力を!!我のビーチオルタの前に敵など無い!!!無様に召されろ!バーカ、バーカ!」
ビーチオルタはこちらに矢を向け、その後ろでハローデスが罵声を飛ばしている。
むかつく……
「何故変身しない?瑠々よ、剣を持ちなさい!!!」

私はもう一度ひなたに叫んだ。
「ひなたさん、キズナフォンを!」

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45 :げらっち
2022/09/11(日) 16:30:25

だが日向には、緊迫感というものが無かった。
目の前の存在は、「女神」を名乗っているが、そうではないのはわかっている。偽の神だ。倒そうと思えば、簡単に倒せる。
ルルが傷つけられたが、日向にとってはどうでもいいことだ。蘭が傷つけられでもしない限り、彼女の心が動くことは無い。
日向はキズナフォンに興味を持っていた。拝借して眺めているうちに、使い方もわかってきた。日向はアプリをタップした。

「何してるのひなたさん!それ返して!アッ、写真は絶対見ちゃダメだからね!!」

日向が起動したのは「コミュニティアプリ」。ルルが変身した際にその挙動を見ていたのだ。
そして無詠唱で、魔力を身体にデコった。
「嘘!!!」
ルルの目は飛び出さんばかりだった。
何故なら日向が「変身」したから。それも見たことのないような、金色の戦士に。


「……ガールズゴールドですか!?」


日向はその名前を是認も否定もしない。名前は符号であり、この世界を出れば通用しなくなる。どうでもいいことだ。
それよりも、日向は魔力をこの世界に適応させた。
最適解を出していた。その姿が、CGR世界で、最も力を出しやすい格好だと。

ハローデスは高飛車に更に角と桂馬を添えて言った。
「何だ?デストルドー(破滅本能)である我とビーチオルタに歯向かうつもりか?害悪な癌細胞めが……言い残したことはないか?」

日向は淀みなく言った。
「あなたなんかに興味は無い。でも、この力は面白そうだから、試す。」

日向は少し、わくわくしていた。

「殺れビーチオルタ!!」
ハローデスの命により、ビーチオルタは光の矢を連射した。
日向は右手を前に突き出し、唱えた。

「金魔法ゴールドスパイラル」

それはルルにも見たことのない魔法だった。
日向の手から金色が漏れ、ぐるぐると綺羅を撒き散らして進んだ。それは光の矢を消し、ビーチオルタをバラバラに壊滅させた。夜の住宅街は、パッと金色に染まった。
「キレイですう!」とルル。

ところでハローデスは、何故か明後日の方向を向き、誰かに話すように喋っていた。
「我を馬鹿にして何が楽しいのか?烏滸がましい!!我は貴様クロボー師や迅を倒し、メンズスターの頂点に登りつめた男ぞ。」

ルルと日向はその方向を見た。すると屋根瓦の上に、テレビが仁王立ちしていた。
ルルは叫ぶ。「あのテレビが偽の世界を生み出していたんですね!?」
よく見るとテレビ画面の中では、クロボー師がショットガンを構えていた。
「クロボー師さん?」
「kitchen-guyめ。ぶっこわーーーーーーす!!!」

クロボー師が射撃した。するとテレビのバケモノは、内側からドバンと吹き飛んだ。
世界の画質が荒くなり、ザラザラと砂のようになって、崩れてゆく。
ルルは日向を探した。すると彼女は、ハローデスの腹部に黄金のナイフをザシュザシュと突き刺していた。
「ひなたさん、やりすぎですぅ!」
「よせ!!お前が本物の女神だったのか……?」ハローデスは空間と共に砂粒になって消えていった。
日向の変身が解けた。彼女は全身に返り血を浴びていた。ルルは、ちょいと興奮した。そして消えゆく世界で、日向にピースマークを見せた。「これでセカイに戻れますね!」日向は無表情のまま、血に染まった指でチョキを作る。
「( ╹‐╹ )」
だがそれで終わるわけがない。

世界が全て崩れ去り、暗転した。「たすけて!!!」漆黒からSOS。ガン、ガンと、闇に白いストライプが入る。それは檻だった。檻の向こうには、霞月と、奏芽が居た。ルルは手を伸ばした。「霞月さん!」だがその手が届く前に、黒が白に変わった。霞月も奏芽も消えた。
ルルと日向は、真っ白いセカイに、帰ってきた。
そして2人の目の前に、蘭とリリの姿があった。
「ひなた!」と蘭。
「ルル。」とリリ。「ハンカチ、返しそびれちゃった。」彼女は奏芽のハンカチを手に、少し寂しそうにしていた。

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46 :やっきー
2022/09/16(金) 23:07:54

《蘭視点》

 数秒間、なにが起こったのかを理解できなかった。いきなり起こったことが多い。気づくと茶髪の女が白い箱に入っていて、その前に日向と黒髪の女がいた。
 ようやく状況が飲み込めてきた。あれ、よく見たら黒髪の男も箱の中にいる。なんでだ? いや、どうでもいいことだ。気に留める必要はない、その価値がない。
「日向!」
 ようやく会えた、そうおれが安堵したように日向も少しほっとしている風な雰囲気を見せた。
「……なんで血まみれなんだ?」
 おれが聞くと日向はいま思い出したように自分の体を見下ろした。日向は髪から足先まで血にまみれていた。もちろん全身真っ赤というわけではない。しかしだとしてもどれだけ激しい戦闘をしてきたんだと探りを入れてしまう。と思ったところで一般的な感性なら一滴でも血がついていたらそれだけでとてもその人を心配するものかと思い出した。
「ルルの世界のボスを倒した」
「えっ、元の世界に帰れたのか?」
「ちがう、偽物。カミよりも作りが粗い、模造品とも言えない箱庭。あの箱の中にあった」
 なるほど、あの箱も敵の中の一体か、と箱に目をやると、箱は既に消滅していた。代わりにリリと黒髪の女が神妙な顔で立っていた。
「どうしよう、霞月さんと奏芽さんがテレビの中に……早く助けないと!」
「うん。ハンカチを返さないといけないし。でもどうやって?」
 出す言葉に困った黒髪の女がふとこちらを見て、やや青ざめた顔でこちらへ走り寄ってきた。
「ひなたさん、繝�槭医繧<返してくださいぃぃ!」
 おれは身構えたが日向からは特に変化は感じられなかった。それが気になって日向を注意深く見てみると日向から黒髪の女に向ける感情に刺々しいものがなくなっていた。警戒心が解けたと表現するのは少し違う。日向は相変わらず無表情で無関心。日向が笑みを浮かべているということは当然ないしもちろん天地もひっくり返っていない。なにがあったんだろう。気にならないわけでもなかったがおれは日向と黒髪の女とのやり取りをなんとなくぼんやりと眺めた。
「鹸�剰咏�ʐ悄倬蜒、見てませんよね?」
「それはなに」
「えーと、繝�槭医繧<の中に入ってる絵のことです」
「見てない、興味がない」
「がーん、ですぅ。まぁ見てないならいいんですよ」
 そんな会話の中で日向の手から黒髪の女の手へ赤い長方形が行き来した。なんだかその光景に現実味を感じず、夢でも見ているような感覚だ。実際は紛れもなく現実だが。
「あの二人を助けるのに二人も協力してください。その前にその体についた血をなんとかしないとですね」
 一秒後、黒髪の女の腹からぐーっと音がして座り込んだ。
「お腹空いたぁ。おしるる、じゃないおしるこキャンディで誤魔化すのも限界ですぅ」
 座り込んだ、かと思えば急にキリッとした顔つきになってしゃんと背を伸ばし立ち上がる。表情がころころ変わって忙しない。
「きっと二人もお腹空いてますよね。腹が減ってはなんとやら、ご飯を探しましょう! そうすればあの二人を助ける方法も見つかるはず!」
 そこまではボーッとして見ていた。
 次の瞬間、驚きのあまり意識が体に引き戻された。日向が黒髪の女の後について歩こうとしていたのだ。とっさに腕を掴むと日向は何の色も浮かばない瞳をおれに向けた。
「断る方が面倒くさい」
 そして、日向はおれの手を握った。日向になにが起こったのか理解できなかった。

 おれはリリを見た。変わっていないものを見たかった。期待に違わずリリは黒髪の女に嫌悪が込もる目を向けていた。それからおれと目が合った。
『私、“あの子”にちょっと似てた?』
 似てる。もう一度それを認識して少し安心した。
「そういえばそのハンカチどうしたの?」
「奏芽のもの。敵に取られたから取り返して戻ったら、あの状況だった。相棒君からもらったって言ってた」
「大切なものじゃないですか! 絶対返さなきゃだね」

 ところでいまは何時だろう。空を見上げてもこのセカイに来たばかりのときと同じように、空の色は相変わらず白いまま。太陽がないから、朝昼晩という概念が存在しないんだろう。
 太陽がそれぞれの時間を作り上げていた。あまりに当たり前のことで全く意識していなかったことを半ば現実逃避気味に再認識した。太陽とは昼であると同時に、朝であり夜でもある。時間を決める太陽が存在しないのだから、そもそも何時という概念も存在しないのだろう。おれの疑問は愚問であったということだ。現実逃避は終了だ。

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47 :やっきー
2022/09/16(金) 23:09:08

 おれと日向との間に会話はなかった。繋いでいた手も特に理由もなくとっくに離している。気まずくはない。会話がないだけ。しばらく歩いた先で白い廃墟が見えた。このセカイでリリたちと初めて会った場所のそばにあった建物と重なる。どこに行ってもあるのは同じような景色ばかりだ。何階建てだろう。二階? 三階?
「この中になにかあるかも。入ってみましょう!」
 黒髪の女を先頭に中に入る。おれは最後尾。
 当然ながら中はとても静かだ。なにかが動いている気配は感じない。
 廃墟に思えたが、中に入って見ると家にも思える。間取りらしい間取りはないから白い箱の中に家具を置いただけのようにも思えるな。なんだか歪だ。
「ソファもベッドもありますね。ずっと動いてばかりでしたし、今日はここで休みましょうか」
 黒髪の女が、おれたち三人に提案した。
「そうだね。いきなりこんな世界に来て、疲れた」
 日向は声を発さずに頷く。
「らんくんもそれでいいですか?」
 どう答えるべきか悩んで、しかしすぐに首を前に倒した。
「休む前に食べ物を探そう」
 リリがそう言いながら視線を部屋にある机に向けた。おれもリリに倣う。そこにあったのは、机に溶け込んでしまいそうな程に白い林檎。ただし――
「作り物」
 日向がそっと呟く。日向の言う通りそれは遠目から見てもわかる明らかな偽物だった。
「なーんだ、偽物ですか」
 わかりやすく落胆の表情を浮かべる黒髪の女。
「でも、探せば本物があるかも。探してみましょう!」
 そう言ってどこかへ行ってしまった。

 日向と二人になりたい。

 さっきから思っていたことなのか、突如頭に浮かんだ考えなのか、とにかく切にそう思った。
「向こうに行こう」
 リリがなにか話しかけてきていたかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。おれの意識の中には日向しかおらず、おれは日向を促して黒髪の女が向かった先とは反対の方向へ歩いた。
「蘭、お腹空いてない?」
 歩きながら日向がおれに問う。建物は狭く、目の前には壁がある。
「少しは空いてるかな」
 普段と比べると相当動いた。体力も魔力も消耗したから腹は減っている。まあ他の四人はまともな食事を取っていないようだからまだいい方か。どうでもいい。
「食べ物はないけど、水の匂いは外からする」
 日向はそう言って、入ってきた方向とは逆の位置にあるもう一つの扉を静かに開けた。意識に入れると、あの独特の匂いを感じた。
「湖でもあるのかな」
「そうみたいだね」
 どうやらどこかに大きな水溜まりがあるみたいだ。おれと日向は匂いがする方向へ歩いた。そしておれたちの想像通りそこには湖があった。水溜まりとして大きい、湖としては小さい。おれは海と川と湖が嫌いだから少し顔をしかめた。

「なあ、日向。黒髪の女となにかあったのか?」
「?」
 日向はきょとんとした。表情には出ていないが、おれにはわかる。
「いや、随分あいつに対する雰囲気が変わっていたみたいだから、ちょっと気になって」
 日向は自覚していなかったらしい。顎に手を当てて考える素振りをしてからおれに言った。
「ルルは、面白い」
 まずはそう結論を述べて、そう思う理由を並べ始めた。
「やかましいほどに表情があんなに変わる存在は、私のそばにはいなかった。それにルルは私が知らないことを知っている。花園日向である私が知らないことを。知らないことを知るのは面白い。面白いことを、ルルはする」
 日向は面倒臭がりだ。それと同時に気まぐれでもある。きっといまの黒髪の女との状態も気まぐれによるものなんだろう。日向が黒髪の女に心を開きかけているわけではないことを知って、心の中に巣を張っていた不安があらかた取れた。
「それから、ルルの魔力の色は赤色だ。きっとそれは私たちとルルたちが生きる世界が違うというだけで、あまり意味はないものだとは思うけど。気になる、興味がある」
 おれはようやく日向の思考が理解できた。
「あと、蘭は私のルルへの対応が気になるようだけど、私は蘭のリリへの対応が気になる。蘭も蘭にしてはリリに友好的に接している方だと思う。どうしたの?」
 そう尋ねられてドキッとした。おれにもその自覚があった自分にしては他人に接する態度があまりきつくないことに気づいていた。その理由にも心当たりはあったものの、返事をするのはやや気恥ずかしかった。

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48 :やっきー
2022/09/16(金) 23:09:49

 だからといって回答を拒否するのも違うだろう。おれは日向の問いにできるだけ正直に答えた。というのも、自分でもどうしてリリにはああいう風に接しているのか正答を見つけられていない。
「リリは日向に似ている気がする。多分、だからだ」
 日向は不思議そうに首を傾けた。
「私に似てる?」
「うん、具体的にどこがとは言えない。どこがじゃなく、どこか似てる。悪い。自分でもどこを見てリリと日向が似てると思ったのかがわからないんだ」
 日向は「そう」と呟いて興味をなくしたように湖の方に目を向けた。日向に向けて言った言葉でもなく、かといって独り言でもなかったが、おれは呟いた。呟いたということは、やはり独り言ということになるのか。
「向こうはどう思ってるかわからないけどな」
 むしろおれたちを嫌っている可能性の方が高い。おれたちはそう思われるような性格をしているからな。おれたちに好意を抱く者の方が少なく、それは物好きというものだ。

 そうだ、とふと思い出したことがある。確かルルは自らを神だと言っていた。はっきりそう聞こえたわけではないが、リリが意図せず代弁していた。あれについても気になるところだ。ルルが言う神とはなににおいての神なのか。神と一言で言うものの、その種類は複数ある。神とは一つではないのだ、少なくともおれたちが生きてきた世界では。見るからに平凡そうなルルではあるが、内に秘める魔力の大きさは外から見てもわかる。神と言われても頭から否定することはしない。認めるわけでもないけれど。それにしても、もし仮にルルが神だというのなら、なぜこんなに平然と自然と神がこんなところにいるのだろうか。『おれが言うのも変な話だが』。
 リリに関してもルルとはまた違った特別な気配を感じる。これについても具体的にどうとは言えない。
 ところで、リリとルルの関係はどういったものなのだろうか。はっきりと聞いたことはなかったな。

 あの二人の話になったからついでに他の二人のことも話に出してみようかと思ったが、やめた。あの二人のことをどう思うと聞いたところで答えは決まりきっている。おれも日向も等しく『きらい』。聞くまでもない。
 視線を遠くにやると三角錐の建物が目に入る。このセカイにやってきたときよりは近づいているようにも見えるが、まだ遠いな。
「日向は元の世界に帰りたいと思うか?」
 とてもというほどではないが気になっていた。日向が元の世界をどう思っているのか、このセカイをどう思っているのか、日向の目にはどう映っているのか。共に過ごす時間は長いけど、世界についてどう思っているのかを聞く機会はあまりない。
「別に、なんとも」
 それはおれが訊くのをいつもためらっているからだが、いざ聞くと日向は呆気なく答えた。真面目に考えることでもないと体現するように、話しながら魔法で体に着いた血を落とす。
「このセカイは私の知らないことがたくさんある。あの世界はつまらない。だからといって帰りたくないとは思わない。帰りたいとも思わないけれど。願うことは無意味だから」
 自分で訊いておいて、息が苦しくなった。
「蘭は?」
 日向はおれに問い返した。おれは数秒考えてから声を出した。
「このセカイにいることで日向が救われるのなら、このセカイにいればいいと思う。でも」
 そんなことはあり得ない。だから帰るしかないんだ。日向の救いは、あの世界にあるから。
 こんなことを考えても仕方のないことだといまになって気がついた。どうせおれたちはあの世界に存在しなければならない存在だ。ただし、帰ることを急がなくてもいいだろう。存在しなければならないとおれたちを縛り付けているのはおれたちではなく世界なのだから。

「とりあえず水は見つけたからあの二人に伝えに行くか。それか、この場でもう少し」

 ゆっくりしようか、そう日向に提案しようとしたところでおれの意識は別の方に向いた。そのために、最後まで声を並べることができなかった。

 白い廃墟の方で大きな音がした。

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49 :げらっち
2022/09/26(月) 15:59:08

《リリ視点》

「ぎゃああああ~!!!」

白い廃墟に、黄色い悲鳴が響き渡る。
黄色というのは実際の色でも無ければ、私が感じ取れるイロでもない。ただの比喩だ。
女子の悲鳴というのは、どれも同じ声に聞こえる。但し今回は、この悲鳴の主が誰かすぐに分かった。このセカイに居る女性は3人。1人は私。もう1人はひなたというあの少女。彼女が悲鳴を上げる所など想像できない。となれば叫んだのはルルだ。

私は面倒臭く思いつつも、一応悲鳴のしたほうに向かった。

すると、廃墟の中のキッチンのような場所で、ルルが冷蔵庫に指を挟んでじたばたともがいていた。

「あ、リリ助けて!!」

私は冷たく言う。「何してんの?」
「食べ物を探して冷蔵庫開けたら、食べられちゃったんですぅう!!私は食品じゃないですよ!」
冷蔵庫の扉には牙が生えており、ルルの指に噛み付いていた。

この世界にはちぐはぐな家電が多いことはわかっているはず。
だのに、無警戒で近付く、あんたが悪い。無視しようか。
と思っていたら、気配がした。キラキラと、強いヒカリがここに向かってくる。ひなたと蘭だ。ルルが悲鳴を上げたので、私のように、「一応」来たに違いない。
ああ、大変だ。
あの2人に無様な姿を見られてしまう。仮にもルルは私の血縁者で、同じ世界の代表選手だ。ルルがへまをやれば、私も同じくくりに見られてしまう。それは最悪だ。だから、打開しよう。

「氷魔法アイスアックス。」

私は右手から氷の斧を生み出すと、無言で振り上げ、そして振り下ろした。斧は、ガツンと家電の頭をかち割った。ルルはびっくりして目を瞑っていた。私はガンガンと何度も斧を叩き付け、その冷蔵庫を完全に破壊した。

「あ、ありがとうリリ……」
ルルはお礼を言った。扉に喰い付かれていたため、右の人差し指が赤く腫れていた。
「別にあなたを助けたわけじゃない。」
私はそう言った。氷のような言葉だったろうか。だがルルは「ツンデレですぅ!」と言って、指を咥えていた。


馬鹿みたい。あほみたい。


そこにひなたと蘭が来た。
冷蔵庫の残骸はバケモノの例に漏れず倒されると消滅したし、斧はちゃっちゃと水滴の姿にバラした。だからここで騒動があった証拠は無い。
それでもひなたと蘭は私たちを見ていた。
「ああ、大丈夫。異常ナシ。」と、私はぶっきらぼうに言う。「そっちは何かあった?」
「水を見つけた。」と、蘭。
「水か。ナイス。川か何か?ここに自然の地形はあまり見られないけど。」
「湖よりは小さいが、水溜まりよりは大きい、そんなところだ。」
「プールですかね?」ルルが口を挟んだ。
「プール?」
蘭が聞き返す。
「プール知らないんですか?泳ぐ練習をしたり遊んだりする、人口の湖ですよ!幼稚園で習わなかった?」

蘭はちっと言って、何かイヤなことから気を紛らわすように、首をぶんぶんと横に振っていた。
何か水関係に悪い思い出でもあるのだろうか。

ルルは生意気で、いつも余計なことばかり言う。全然スマートじゃない。

私は早口で言った。
「じゃあさ、その水場に向かおう。でもその前に。ちょっと、外してくれる?」

私は蘭とひなたを部屋の外に出した。
ルルは突如私と2人きりになったことに戸惑い、キョドっている。

私はそんなルルに、ニコッと笑みを見せた。

ルルはつられて、フッと笑った。

「ブリザード。」

吹雪がドォンとルルに腹パンを喰らわし、少女は壁に激突した。
私は冷徹に言った。

「余計なことは言うな、わかった?」

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50 :げらっち
2022/09/26(月) 17:08:59

蘭と日向は、リビングのような場所で、ソファに掛けてリリたちを待っていた。

その時蘭は気付いた。
「いつの間にか、あの2人への感情が変わっているな。」

「え?」と日向。

蘭はニヤついて言う。
「待つ義理なんて無かったのに。こうしてあいつらを待つくらいには、チームワークが生まれてるってことだ。」

「成程。」と日向。しかしその表情は、全く成程としていなかった。
それでも日向が少しリラックスしていると、蘭は感じ取っていた。
悪くないチームだ。

そこにリリとルルが入ってきた。

「お待たせ。じゃ、行こうか?」

4人は水場に向かって無言で歩く。
蘭は沈黙を苦とは思わなかった。彼は、日向もそうだろうと予想した。他の2人はどうか。性格からして、ルルはこの状況を気まずく思っているかもしれない。
それを緩和する目的などではなく、単純な疑念が、蘭がルルに話し掛ける動機となった。したがって、蘭がルルに話し掛けるという奇妙なことが起きた。

「そういえば、お前は“神”と呼ばれていたな。それはどういうことだ?」

愚直な質問であった。ルルはちょっとだけ驚いたような顔をした。
4人は足を止めなかったが、剣呑な時間が流れた。
やがてルルではなく、その隣を歩いていたリリが答えた。

「別に、隠すことでもないし答えたら?そのままの意味。」

ルルは「リリ!」と叫んだ。
リリは滔々と続けた。

「私たちの世界で、ルルは元々、神の道具だった。世界のバックアップを取るための魔石、キャスストーンという存在だった――それが自らの強大な魔力を駆使し、世界を作り変え、幾度にも重なる改変ののち、神よりも力を持ってしまって、半ば暴力的に、神の座を奪った。」

蘭は時折振り向いて、後ろを歩くリリの声を聞いていた。
日向は蘭の隣で前だけ向いて歩いていたが、おそらく耳は傾けていたろう。

「理解できた?」とリリ。「神がかりな話だし、馬鹿げているので、理解できなくても不思議じゃないけど。」
しかし蘭はそれを理解し、納得した。他所の世界でそのような下剋上があろうとも、有り得ない話ではない。
蘭はルルの姿を見た。この平凡な少女が、そのような神話を背負っていたとは。同情のような、愛着のような感情が、蘭の中に芽生えた。

するとルルは、にこりと笑った。

「……じゃあ次は、あなたたちの話をする番ですよ。」

ルルはきれいな人差し指を、蘭、そして日向に向けた。

「え?」と蘭。

「いや、別に無理に話さなくってもいいですけどね。知っているので。あなたたちも、“神”だってこと。」

その際の蘭は、激しく動揺していた。
どういうことだ?

ここにきて、日向は歩を止め、振り返った。
しかし日向の口から出たのは淡々とした言葉だった。
「着いたよ。」
4人のすぐ先に、水場があった。

蘭は言う。「日向、そんなこと言ってる場合じゃない。こいつらは――」

「スパイラルアイス!!」

リリの手から氷が飛んだ。それは蘭に直撃し、哀れ少年は、吹き飛んで、水の中に落ちた。
「水だけは――ぶがあ!!」

「蘭!!」

ここで、日向の思考はめまぐるしく動いた。
何だ?
蘭が危害を加えられた。蘭が!蘭が!!蘭が!!!蘭が!!!!蘭が!!!!!

日向にとって他のことはどうでもよかった。何が起きているか分析することは後回しだ。今すべきことは、蘭に攻撃する者を排除し、蘭の安全を確保すること、のみだ。
日向はリリに狙いを付けた。余裕があれば、手足をもいで、苦しめて殺すところだ。だが今はそんな余裕は無い。
最上級の魔法で、ケリをつける。

「【創造魔法】。」

日向は空間を壊した。

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51 :げらっち
2022/09/26(月) 17:11:00

「お待たせ。じゃ、行こうか?」

私は、蘭、日向と合流した。ルルは私に殴打されたおなかをさすっている。
少々力を込め過ぎたか。ざまあない。あれくらいしないと、ルルは懲りない。

「その前に、知りたいことがある。」

私はギクリとした。今まで一度も無かったことが起きていた。
ひなたが私に話し掛けていた。

「あなたとルルの関係は何。」

直立するひなたの、左右で色の違う瞳の、視線の交錯する場所で、私はたじろいた。

それはいずれ、話さねばならぬことだった。
一時的とはいえ協力している中で、大きすぎる隠し事は、チームの瓦解を招く。
わかり合う気など毛頭ない。だが最低限の情報は明かす必要がある。お互いの手札がわからなければ、共闘できない。目隠ししてポーカーをするようなものだ。
しかし全てをバラす必要はない。あちらだって、ほとんど何も、手の内を明かしていないのだから。ほんの少しだけ、情報を与えればいい。

「私たちは、姉妹。似てないでしょ。ま、それだけ。」

私はそれで口を閉じた。喋り過ぎるとボロが出る。
どちらが姉でどちらが妹かも伏せた。肉体と精神の年齢から、私が姉に思われるかもしれない。まあどちらでも大差ないことだ。
だがひなたの追及はそれだけでは終わらなかった。

「それだけじゃない。」

うん、それだけじゃない。
私とルルは姉妹であると同時に 親子 でもある。
ひなたは目線を逸らさず、瞬きさえもせずに私を見ている。心の中を見透かされているようで、怖かった。
チラリと見ると、蘭も怪訝な顔をしていた。私の動揺が見えたか。何か言わないと、余計に怪しく思われてしまう。

「それだけじゃない。友達だよ~、友達!」

私は咄嗟に、柄でも無いことを言い、隣に居たルルと肩を組んだ。ルルはキョトンとしていた。
ああ、自分でやっていて気持ちが悪い……
こんな茶番も意味を成さず、ひなたは言った。


「あなたは、母殺しのパラドクス。」


私はフリーズした。自身の氷の魔力が、漏出し、体を囲ってしまったかのように。
ひなたは、私の、心の、洞窟に、踏み込んできた、
何故、その単語を。

ひなたは、足音も無く、私に近付いてきた。
そして口角を上げた。
不自然な表情の移り方だった。イラストの、差分のような、笑みだった。

「ふふっ リリ。あなたは生命による正規品では無い。ルルの魔力によって生まれた、欠陥品。母であるルルを殺し。救う。ためだけに生まされた。だからルルを憎んでいる。」


次の瞬間、私は日向に攻撃していた。恐怖からか、衝動からか、運命からか。

「ム魔法トキめき。」

ム魔法は、エレメントを介さず純粋な魔力を相手にぶつける。大味だが強い。どのくらい強いかというと、腕相撲でキックしていいくらいには強い。
闇魔術や光魔術より強い。だがそのム邪気な魔力の塊を、日向は片手で受け止めた。そして、握り潰した。

ひなたは唱えた。
「【創造魔法】。」

空間が崩れた。そして再構成されてゆく。真っ白い、地形の無い所。私はガクンと膝をついた。ひなたの背中が見える。殺らないと殺られる。私はキズナフォンを取り出す。「コミュニティアプリ起動。」だが、起動せず。「起動!!」叫んでも無駄だった。私の中の魔力が、具現化できない。知的障害が、私の思考をアウトプットできなくした時のように、魔法障害が、私の魔力を外に出せなくした。創造魔法の凄まじい魔力が、私に障害を負わせた!

「リリ!!」
私を呼ぶ懐かしき声が。

見ると、白の中、ルルが走ってくる。
「ルル!」私は助けを求める。だが、
カッと、光がルルに突っ込んだ。ルルの炎はちっぽけで、掻き消されてしまった。大きな大きな炎。まるで太陽のような。

「邪魔くせえ!」
蘭がルルを焼き尽くしたのだった。

ひなたが振り向いた。

「このセカイでは、神は、私たちだけで良い。」

さあまずいことになった。

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52 :やっきー
2022/10/04(火) 19:39:35

《日向視点》
 
 創造と破壊は直結する。創造は破壊の上に成り立ち、破壊は創造の上に成り立つ。創造とは零から壱を作り出すことであり、破壊とは壱から零を作り出すことである。破壊を行った者に創造の権限が渡り、創造者の資格を得る。そして創造者とは支配者だ。
 幸いにもこのセカイには、所有者は居れど明確な権力者は居ないらしい。私はセカイの一部を破壊し作り替えることでセカイの一部における支配者となった。私は神の称号を手に入れた。

「このセカイでは、神は、私たちだけで良い。」

 正確には、蘭は神ではないのだけれど。説明する義理はない。

 私はこのセカイに飛ばされた当初から何故か使えた最も純粋な魔力、それに加えて最も純真な力を有する。即ち私はこの体に権力を宿す。それを行使し今この瞬間にこの場所でヒエラルキーを形成した。一番は私、二番は蘭、三番はその他。それは神が定めた決定事項であり、覆ることのない世界設定。この時点で勝者と敗者は決まっている。私にはその未来が見えている。

 さあ、どうでる、ヒトよ。

「何故蘭に攻撃した?」
 私は語尾に疑問符を付けた。この質問には答えてもらおう。罪はどちらに傾くのやら。天秤は私の手の中にある。
「え?」
 リリは私に問い返した。何の権利があって? まあいいか。私は権力をリリにぶつけた。遠く離れて小さく見える白い少女が軽々しく吹き飛ぶ。お前の罪はそんなに軽くない。罰を受けて耐えてこその贖罪だ。
 お前の罪は重い。私がそう決定した。決定権は私にある。
「なんのこと? 蘭くんに攻撃なんて、してないけど」
 痛みに顔を歪めながらリリは言う。ふーん、嘘は吐いていない、か。
 嘘を言ってる顔じゃないとか、判断材料はそんなに抽象的なものではない。神たる私には真実が見える。このセカイにおける完全な神ではないので全てが見えるわけではないけれど。とにかくリリは嘘を吐いていない。
 なら慈悲を与えましょう。蘭が多少なりとも気に入った貴女だもの。猶予を与え、笑顔を見せることくらいはしてあげる。笑顔を見ると、ヒトは安心するのでしょう?
 私は笑みを浮かべ、滑るように空間を移動してリリに近づく。リリは心做しか怯えてるみたいだ。
「確かに貴女は蘭に危害を加えていないらしいね。だけど残念。貴女が蘭に危害を加えるところを見たという視覚情報が私の脳内に記載されているし、そもそも貴女の有罪は決定している。もうそれは覆らない」

 私は天に右の手の平を差し出した。

「刑罰執行」

 ぐいっと天を引き下ろす。空間そのものに打ち付けられたリリは仰け反った。打ち付けられたと言っても物理的な暴力ではないのでリリの体の一部が変形したり欠けたりすることはない。ただ身体的な損傷がないだけで精神的な損傷は計り知れないほどに加わったはずだ。

「ひなたさん!」

 ルルの悲鳴に似た叫び声が聞こえてきた。嗚呼、そういえばこいつもいたっけ。眼中になかったな。
「もうやめてください! 急にどうして?!」
 貴女は蘭が嫌っていた。それなら笑みを見せる必要なんてどこにもない。私は笑顔を表情から消去して、ルルに答えた。
「リリが蘭に攻撃をした」
「そんなことしてません!」
「そうみたいだね」
 私の言葉が理解出来ないと言いたげにルルが私を見る。理解されなくたっていい。期待なんてしていないから。

「冤罪だろうとなんだろうと、罪は罪。有罪が決定した時点で罪人には贖罪の義務が発生する。例えリリが罪を犯していないのだとしても、それを判断するのは罪人ではなく裁定者であり剪定者である私。全ての決定権は私に帰結する」

 理不尽だと喚く者は腐るほど観てきた。けれど残念。私よりも下に位置付けられるヒトは社会ではなく私の常識に従わざるを得ない。その位置を決定したのも私。神が私であるが故にヒトは四足歩行ではなく二足歩行を強制される。もしも私がヒトであったなら、彼等を哀れだと思ったことだろう。そんな未来はありえない。
 ルルは私を睨んだ。嗚呼、見飽きた顔。

「やっと心を開いてくれたと思っていましたが、気のせいだったみたいですね」
 そう言いながらスマホを持ち上げる。それ、今は使えなくなってるよ。ルルはまだ気づいていなかったのか。
 私は両の手を合わせた。パチンと良い音がして、時間が一瞬だけ止まる。

「そうだ、その魔道具使えるようにしてあげる」

 そうした方が面白そうだ。その程度の補助では、神には到底敵わないのだということを教えてあげる。

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53 :げらっち
2022/10/06(木) 22:58:34

《ルル視点》

リリが痛めつけられている。
助けないといけない。姉として、母として、神として。

「もうやめてください! 急にどうして?!」

私はひなたに尋ねた。
すると彼女はデスマスクを顔に貼りつけ、こちらを見た。その表情は、憤怒や冷酷が愛しく思えるほど、一徹した無であった。
「リリが蘭に攻撃をした」
「そんなことしてません!」
していないはずだ。むしろひなたがリリを挑発したのが事の発端であり、リリはひなたに対し攻撃した。ひなたはそれを理解していないのだろうか?
だがひなたは「そうみたいだね」と答えた。リリが蘭に攻撃していないと理解した上で、リリをいたぶっているのか?思考パターンが読めない。

「冤罪だろうとなんだろうと、罪は罪。有罪が決定した時点で罪人には贖罪の義務が発生する。例えリリが罪を犯していないのだとしても、それを判断するのは罪人ではなく裁定者であり剪定者である私。全ての決定権は私に帰結する」

私には9割9分9厘イミフだった。
じゃあ痴漢の冤罪は、疑われた時点で黒なのか?いじめられた者は、いじめられるほうが悪いのか?
強者を軸にするなど最低な裁定だ。そう思ったので私はひなたを睨んだ。ひなたは睨み返すどころか底抜けの無表情だった。その容器に、感情は盛られているの?

「やっと心を開いてくれたと思っていましたが、気のせいだったみたいですね」
私はキズナフォンを手にする。

                         「そうだ、その魔道具使えるようにしてあげる」とひなた。

何か、一瞬ラグがあったような。まあいい。
「コミュニティアプリ起動!!」
ファイアが鎧となる。
「わからず屋さんには実力で教えてあげます。私も強いってことをね!超炎魔法アトミックフレア!!」
私は両手を天に掲げ、巨大な火の玉を生み出す。どんどんこねこねして大きくする。これは多分、核くらいの威力がある。小国なら一撃で滅ぶ。
「いっせーのっ!」
私はそれをぽーんと放る。ハンドボール投げは苦手でスポーツテストでは5メートルしか飛ばないという奇跡の結果を残しているが、まあ今は関係ない。核はシュルシュルとひなたに向けて飛んだ。いっぺん滅びりゃ目が覚めるでしょ……
と、それを妨害する者が居た。

ゴンッと、大きな火の玉がぶつかった。
「めんどくせぇ。あの不味い飴と一緒に返してやるよ!」
ひなたを守護する者だ。蘭だ。太陽と太陽のぶつかり合いだ。やがて私の太陽は押し負けた。

自慢のアトミックフレアを返品された。

「いいやー!私より強い炎なんて!!」

爆発というか、もっと研ぎ澄まされた、「爆」というような破裂が起き、私は、細胞レベルまでバラバラに――
されなかった。
私が目を開けると、白い迷路の一角に倒れていた。周囲の壁が粉砕されている。
きょろきょろと辺りを見回すと、リリが居た。瓦礫の下敷きになっている。
「リリ!ファイアファン!」私は炎風で礫を吹き飛ばした。「無事?」
「まあなんとか無事。あなたをマジカルバリアでアイシングしておいた。だからあの熱波の中で死なずに済んだんだと思う。」
リリは目を、手で覆っていた。
「目、どうしたの??」
「光でやられた。私目弱いのにさ、太陽を2つも出さないでほしかったんだけど……」

あ。

「ごめんんん!!!」

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54 :げらっち
2022/10/06(木) 23:07:40

「すごい爆発があったから、この迷宮に戻ってきたみたいだけど、さっきとは秩序が変わってるみたいね。」とリリ。

確かにそうだ。迷路はあちこち壊れているのに、一向に修復されない。
ひなたと蘭はどこだろう。今近くには居ないようだ。さて、問題はリリだ。

「リリごめん。失明したってわけじゃないよね?」
「いや、失明した。」
ストンと、心がエレベーターで急落するような脱力感を覚えた。
「う……そ……」
「嘘じゃない。本当に何も見えないから。」
リリはずっと、両手で目を覆っている。

「ごめん!!私あなたのお姉ちゃんでお母さんなのに、守れなかった!」

だがリリは言う。
「別に大丈夫。第一に、元々目で風景を見ていたというよりは、イロを感じて周囲のパワーバランスを判断して行動していたから。イロを識別する能力は失われてないみたいだ。」

よくわからないが、そうなのか。

「第二に、私はどうせ、このセカイから出たら死ぬ。というか、生まれる前に戻る。あなたの卵子に、遺伝子に戻る。どうせリセットされるんだから、今傷ついてもいい。」

それはよくわかる。よくわかるが、

「それは違う。」

私はきっぱりと言った。

「人生のリセマラはできない。私はそれをしようとして、大きな代償を払ったことがある。確かにあなたは例外的に、第二の人生を歩めるけど。そもそも今のあなたは、私が前借りしてしまった命なので、払い戻せるってだけ。だからって、今を無下にしていいわけじゃない。」

リリは黙ってそれを聞いていた。そして言った。
「……やっと学んだのか。私が苦労してそれを教えただけのことはあるね。」

「うん。ありがとうリリ。はるばる未来から、私を助けに来てくれて。お詫びはしたけど、お礼はしたことなかったよね。」

「確かにね。」

私は改めて、リリを見た。
早くこのセカイから出よう。そして、大人になったら、もう一度リリを産むんだ。
今度は障害や宿命によってではなく、自分の意思で未来を決定できるような、そんな人生を歩ませてあげたい。
「リリ、ここに居て。私がこのセカイの作り主を倒してくる。」

「お母さん、これ使って。」

リリは右手を目から外し、私の手を掴んだ。その時リリの潰れた右目が見えてしまった。青い瞳は溶けて消失していた。本当にごめんリリ。
そしてリリの手から、膨大な魔力が送られてきた。
「私は魔法障害のせいで、上手く魔法を具現化できない。頭の中で文章を練れても口から言葉が出ないような状態。でも、魔力を譲渡することならできる。」
リリの魔力と私自身の魔力で、パラメータがカンストし、私はガールズレッドの上位互換へと昇華する。

「炎と光りの勇者!!ガールズレインボー!!!」

さあクライマックスだ。
「光り魔術:ピカリワープ。」
私は遠くに見えている円錐の建物に、ひとっ飛びする。

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55 :やっきー
2022/10/20(木) 19:28:02

《蘭視点》

 おれが放った太陽が掻き消された。日向による干渉だ。おれは日向を見る。日向の無表情はまるで変わっていない。しかし変わっていることがある。日向を取り囲む風景が微妙に、そして明確に変わっている。おれの足はしっかりと硬質な白い床を踏んでいて、その床は同じように白い壁と繋がっている。
 元のセカイに戻ってきたんだ。ルルとリリがいないが気にすることではない。それよりも気になるものがおれの目の前に佇んでいた。

「着いたのか、ここに」

 巨大な三角錐の建造物がそこにあった。特徴のないセカイに来たときから唯一異様な存在感を放っていたこの建造物を前にして、手足が痙攣するような錯覚を覚えた。
 日向は頷いた。
「うん。元の世界に帰ろう」
 おれたちに『帰る理由』なんてものはない。いずれは帰らなければならないし、なんなら強制的に戻されるはずだ。おれたちはセカイではない世界に強い結び付きがある。特に日向は。日向は特別な存在だ。良くも悪くも。
 帰る必要はある。でもそれを急ぐ理由がない。日向も同じ考えだったはずだ。どういった気まぐれで帰ろう、なんて言ったのか。
 その疑問はすぐに解消された。日向は呆気ないくらい単純な三音を発した。

「飽きた」

 おれは少しだけ驚いて、けれどすぐに肯定する。
「なら帰ろう」
 少しだけ驚いて、少しだけ悲しくなった。ひなたは無表情を貫いていたがこのセカイを多少なりとも楽しんでいるようだった。日向は元々は好奇心がある方だ。対象がないから、世界の全てを知っているから好奇心の片鱗も垣間見えないだけで。未知のものに溢れたこのセカイに興味を示しているようだった。
 飽きた理由に心当たりがある。きっとさっきの神化だ。神化によって未知が既知に変わってしまったんだ。神になったことでセカイと一体化し、セカイの未知の部分を知ったのだろう。全てではないにしても。
 それはあまりにも悲しい。

「で、どうする? とりあえず入口探すか?」
 まず全体像だけを視界に捉える。入口らしきものは見当たらないから探す必要がありそうだ。
「それはついで。まずは周辺を見よう」
「そうか。じゃあおれはあの塔を見てくる。日向はどうする?」
 おれはセカイに来てから三角錐の建造物と共に気になっていた四つの塔のうち一つを指した。
「一緒に行く」
 日向はおれの目をまっすぐに見て、無表情のままそう言った。青と白の瞳に感情は見えない。
「ここに来てから離されることが多い。心配」
 おれは思わず日向から視線を逸らした。顔は固定したまま視線の方向だけを空に向ける。
 日向は無感情なのではなく、感情の表現の仕方が下手――苦手なだけだ。多くの人々よりは確かに感情そのものも薄いけど、皆無という程ではない。表情に反映されないほど弱いだけで喜怒哀楽はきちんと備わっている。そして日向は表情に出ない代わりに口で感情を伝えてくるのだが、それは大抵直球だ。遠回しに伝えようとはしてこない、というよりその技術がない。まっすぐに伝えられると照れくさく、これはなかなか慣れることはなさそうだ。
「わかった。一緒に行」
 おれの発言は唐突に現れた光によって中断せざるを得なかった。強い光に思わず目を細め、光を直視しないように日向に視線を戻した。その日向はもうおれを見ていなくて、光を見つめていた。

 光はおれたちから十メートルほど離れた場所に着陸した。そこにいたのは七色の衣装を纏う一人の戦士。そいつは耳障りな声をおれたちに向けて放った。
「やっぱりここに来たんですね」
 ルルの声だ。
「うん」
 日向が返事した。意外だ、そう感じたが直後納得する。そういえば、おれを攻撃したのはリリであってルルではない。
「光り魔術︰ビッグ・バン!!」
 ルルが叫んだ。同時に光りが辺りに充満し、爆発が起こった。先程までとは明らかに強力になっているルルの魔力に高揚する自分を見つけた。
 なるほど神を自称するだけある。
 だが。
「つまらない」
 それでも日向には到底及ばない。日向は燃え盛る炎を一瞬で鎮火してしまった。炎から酸素を奪うようにルルの魔力に自分のより純度の高い魔力を被せ、ルルの魔法の自由を奪った。
「ビッグ・クランチ!!!」
 それは想定内とばかりに続けて魔術を打ち出すルル。今度は七色に輝く光線が日向を貫こうとした。日向は最小の運動で光線の軌道を逸らした。どこかの壁が壊れる音がした。
「別に、貴女をどうかするつもりはない。罪人への断罪は終了した」
 苛立ちなんかも一切ない無感情な声が静かに響く。

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56 :やっきー
2022/10/20(木) 19:29:16

「……どういう意味ですか?」
「そのまま。リリは両目を失った」
 ルルの顔はマスクに覆われて見えないが、些細な体の動きで何かしらの感情が動かされたらしい。それがなんなのか知りたいと思うほど、おれはあいつに興味がない。

「全ては私に帰結する。全ては神の意志によって動かされ、全ては偶然という名の必然の元に成立する。リリの両目を潰したのは貴女であり蘭だけれど、それは私がそうさせた。私が決めた断罪を執行したまで」
 日向は一歩ルルに近づく。
「連帯責任なんてものはない。個人の罪は個人の罪で、それ以上でも以下でもない。貴女に罪はない。だから私は貴女にはなにもしない。貴女も私にキセキを向ける必要はない」 
 キセキというのは神が使う術のことだ。日向もルルを壱世界の神だとは認識しているらしいな。
「ひなたさん。私はね、怒ってるんですよ」
 宣言通り憤りのこもった声でルルは言う。
「いくら幼いからといって許されることと許されないことがあります。ひなたさんは許されないことをしました」
 ルルはおれたちを幼い子供と思っているから、言い聞かせるように日向に向けて言葉を並べる。当然、日向に届くはずもない。
「だれ」
「え?」
「許さないのは、だれ」
 日向の目は確かにルルを捕らえている。ルルは一瞬だけ焦りを見せたが、力強い声を日向にぶつけた。
「私です。私だって、神ですから」
 その瞬間をおれは見逃さなかった。日向の感情が抜け落ちた瞳に、ほんの僅かな欠片の欠片の欠片が収まった。その欠片の名は『希望』。叶うはずのない、何度も打ちのめされてきたそれを、日向はまだ諦めていないのだと改めて感じた。嗚呼、あまりにも悲しい。
 日向は自身の胸の前で手を組んだ。祈るような仕草をして、ルルの足元に跪く。
「貴女が私に罪を与えると言うのなら、それを世界に許されていると言うのなら、私は喜んで罰を受けましょう」
 視線を落とし、低い声で囁く。
「貴女が私の神だと言うのなら」
 ルルの動きが一秒にも満たない時間だけ止まった。しかし直後に運動を再開する。

「神魔術︰サ終」

 いままでのあいつの魔法はなんだったのだろうか。そんな疑問さえ浮かんでくる。ルルの体に、おれも数回しか感じたことがないくらいの濃密な魔力が、多分魔力が集合した。ルルの体から吹き出したと言うよりは、セカイに漂う魔力がルルにより引き寄せられたような。
 膨大な濃縮された魔力がルルを介して日向を直撃した。日向は無抵抗にそれを受け止めたし、おれもなにもしなかった。ただ一連の流れを眺めていた。なにもしなかったけれどなにも感じなかったわけではない。ルルのキセキによって日向の体がバラバラに分解されていく様を直視するのはある程度気分が悪かった。日向の体を構成する物質が砂にすり変わり、そよ風に拐われていくその様子を、不快に感じながらもおれは目に焼きつける。ルルはこんなおれを不審に思うだろうか。まあどうでもいい。

「ど、どうして……」

 困惑の一色に染められたルルの声。驚愕に震える目線の先にいる日向は、やはり無表情だった。
「だめか」
 そう言って立ち上がり、存在を確認するかのように両手を開閉する。もしかしたら体は消えているんじゃないかと期待するように。
 日向は感情がないわけではない。感情を受ける器が穴だらけで形も歪だから、それを脳が処理するに至らないのだ。日向の中の絶望すらも穴から崩れ落ちて、日向の瞳に浮かんでいた希望もその影ごと消えていた。
 日向は事実として特別な存在だ。花園日向という個人を殺すことは可能だろう。しかし花園日向の中にある魂そのものの消去は誰にとっても不可能だ。……いや、もしかしたら、おれたちの魂が還る場所ではないこのセカイで死ねば、あるいは他の世界の神であるルルならばそれは可能だったかもしれない。
 日向がセカイの神になっていなければ。
「私は貴女の魔法でもキセキでも死ぬことはない」
 日向はあくまで静かにルルに問う。
「私たちはセカイから世界への帰還を目指す。貴女は、どうする」

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57 :やっきー
2022/10/20(木) 19:30:07

「このままじゃ平行線だ。お前じゃおれたちを倒せないし、かといっておれたちはお前を倒す気がない。ここでずっと魔力をぶつけ合うのは時間の無駄だ」
 おれはずっと喋っていなかったことに気づき、なんとなく日向の言葉を補足した。
「おれたちはこれからあの塔を目指す」
 おれが四つある塔の一つを指すと、ルルもそちらを見た。警戒心があるのかないのか。ルルが目を離している隙におれがまた太陽をぶつけたらどうするつもりなのだろうか。そんなことはしないが。どうでもいい。
「おれたちは急いでるわけじゃないが、お前らは急ぐんだろう? だったらおれたちは改めて、協力するという手を提案する」
「あなたたち二人が協力してくれるとは思えないんですけど……」
 ルルが振り向いた。
 そう言うってことは、少しくらいはこの提案に乗り気ということだな。
「それは単に、協力する気がなかったってだけだ。その必要もなかったし」
 繰り返すが迷路の攻略を急いでいたわけでもいなかったし、協力すると約束したわけでもなかった。むしろ日向以外の四人は足でまといにすらなる。そう考えた結果だ。それ以前に、単におれが四人のことを嫌いだ。これはいまでも変わらない。嫌いというか、どうでもいいというか。
「だがこちらも考えが変わった。特別急ぐわけではないが、元の世界に帰る気が起きた。短い間ではあるけれどそちらの力量もある程度把握した。協力し合った方が効率はいいだろう。そして力量を把握したのはそちらも同じなはずだ。おれたちがただの子供ではないことは、もうとっくに気づいてるんだろう?」
 実際は子供であるかどうかすら怪しいが、今はそんなことどうでもいい。
 ルルが笑った気がした。実際のところどうなのかは七色のマスク越しにはわからない。知りたいとも思わない。
「ようやく分かったんですね。協力した方がいいって」
 そう言いながら手を差し出されたので、おれは突き放すように言った。
「協力はあくまで利害の一致の上でのことだ。馴れ合うつもりは無い」
「まだそんなこと言うんですか!」
 当たり前だ。協力関係にあることと信頼関係にあることは全くの無関係。そうだろう?
「別にいいですよ。私だってひなたさんがリリにしたこと、許してませんから」
「許しを乞うた記憶はない」
 そういえばそんなこともあったな。結局あれはなんだったんだろう。おれの記憶と二人の言動は異なっていたが、二人が嘘をついているとは思えない。日向が「そうみたいだね」と言ったから。日向がそう言うのなら、そうなんだろう。
 これだけはどうでもいいの一言で片付けられない。なにか引っかかる。でも、それがなんなのかまではわからない。おれはなにが気になっているんだ?

「あーあ、結局協力するのか」

 突然背後から、三角錐の建造物の方から声が聞こえた。驚いて振り向くが誰もいない。誰もいないのに声がしたことにも驚くが、もし誰かがいたとしてもおれは驚いただろう。なぜならその声はおれのものと酷似していた。無意識におれが声を発したのかとも考えてみるがそうだったとしたら声が背後から聞こえてきたことの説明ができない。
 おれの声だったのかもしれない。物理的な背後ではなく精神的な背後に、つまりおれの意識の底にあるおれの本音が『声』という形を使っておれに話しかけたのかもしれないな。確かに声の主の言う通りだ。結局こうなってしまった。初めて会ったときは協力なんて選択肢にすら挙がっていなかった。
 これが嫌だとは思わない。別にいい。日向だって拒否していないし。
 そう思って日向を見ると、日向は三角錐の建造物を眺めていた、いや、睨んでいた。
「どうした?」
 尋ねてみるが。
「別に」
 日向はなにも答えなかった。

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58 :げらっち
2022/10/22(土) 00:24:38

「あーあ、リリって子、失明しちゃったあ。この先どうするのかなぁ?」
神界にて、天使の♯夜がそう言った。

ぶたの元神様は、プラスチックエンゼルを派遣することで、ルルの動きを観察していた。しかしルルもプラスチックも忽然と消えてしまった。
他のセカイに飛ばされたようだと知った。元神は、あくまで壱世界の神に過ぎず、他の世界を支配する義務も、干渉する権利も持たない。しかし、鑑賞する権利はある。神魔術リアタイ視聴にてルルたちの動きを見ていた。

悪魔の♯昼も言う。
「これは大きな問題ですわ。リアタイ視聴は基本的に、一人称視点で物語が進む。つまり視点主の見た光景しか見ることができない。死角は描けない。リリはもう何も見ることができないんですもの。」

しかし、ぶたは言う。

「大した問題はないよ。何故ならリリは、イロを見ることができるからね。“バカヒーロー”も、そろそろ終盤になりそうだ。」


《リリ��点》


私は失明した。
陽光は苦手だと言っているのに、いっぺんに2個も太陽が現れりゃ、そりゃ目がとろける。
多分これは、ひなたによる神罰の一環だろう。
物理的破壊は、神罰の中では最も軽いもののひとつだ。精神的破壊や遺伝子の島流しなど、恐ろしい罰は他にもある。
最も怖いのは、世界から完全に存在を抹消されることだ。ルルの罰を身代わりになって受けた雪華お母さんが、このような罰を受けた。重すぎる罰。誰の記憶からも消え、生命の痕跡が残らない。
まあでも、私という遺児が居るが。
その私も、生まれ変わる時は、ルルと他の父の娘になるだろう。つまり雪華の遺伝子は持たなくなる。雪華は今度こそ完全に消えてしまうわけだ……

私はTASの能力を無くし、視力も失った。まあ、問題ナシ。全ておk。

この身体、この記憶、この名前自体、使い捨てだ。このセカイから出る事さえできれば、次の人生が待っている。
ネクストステージでは、障害と宿命に囚われない自分の人生を歩みたいものだ……


ルルは決着に向かった。
ここに居てと言われたけれど、ただ待つのも無意味だし、せめてできる事をして待つか。

私の視界は、真っ暗闇ではない。ボヤ~ッとしているわけでもない。
私が今までに見た数多くの――と言ってもたかが数年分のだが――景色が、バグったゲーム機のように、割れたガラスの中に散りばめられて、文字化けして、見えている。

首を動かして周りを見渡すと、万華鏡をひねったように、また違う走馬灯のダビングが見える。
正常な景色を映していない事だけはわかる。

気持ち悪い。
これなら完全に暗転してくれた方がまだましだ。

私は視界のチャンネルを切り替えた。

真っ白。

これは、イロを認知するほうの視野だ。目が見えた時は、便宜上、景色とイロを一緒に見ていたが、景色を見るフィルターが完全にイカれた以上、別チャンネルにして、イロだけを見る状態にした方が、わかりやすい。

周りを見渡すと、遠くに、黒が見えた。
ドス黒い。
闇の様な黒いイロを持つ、あの円錐だろう。目的地の方向がわかった。しかも道中の迷路は、ルルがあらかた壊していった。しめた。あの黒を目指せば、時間がかかっても、セカイの本質に辿り着くことができる。

私は歩き出したが、直後に、瓦礫に足を取られ、ドデンと前のめりに転んだ。
目が見えないから気を付けなくちゃな……

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59 :げらっち
2022/10/22(土) 00:27:31

黒の他にも、この空間にあるイロはすべて把握することができた。
強いヒカリが3つ。ひなた、蘭、ルルだ。ガールズレインボーになったルルも含め、全員キラキラと輝いている。大物ぞろいだ……
その3つは黒のほうではなく、違う方向に進んでいた。
何か理由があって、円錐ではなく、別の所を目指すことになったのか?
まあいいや。私は円錐に向かおう。

足下に注意しつつ、しばらく進むと、真っ黒いものに辿り着いた。
ここが円錐だ。
私は手探りで、それに近寄った。固いものに手が触れた。
恐らく建造物だから、入り口があるだろう。でもそれがどこか探るのは、視力無くしてはちょっと難しい。

私は、取り敢えず、

「こんにちは!」

挨拶した。

すると予想外の反応があった。

『こんにちは』

声が返ってきた!

私の心に直接語り掛けるような声だ。

『見てたよ。』

『ここまで来れるなんて思ってなかったぞ。お前、すごいな。』

「いえいえ。すごいのは主に、他3人。私はここじゃ4番手だよ」
私は自然に会話を続ける。
「ねえ、あなたは誰?というか、“あなたたちは誰”」

すると黒は言った。

『わたしを、たすけて。』

『だめ。たすかったらおわってしまう。』

『おわらせて。』

『いやだよ……おわりたくないよう……』

『じゃあまた邪魔してやろう!』

『黙れ。俺たちはもう十分待った。これ以上先延ばしにはさせない。こんな強い奴らはもう現れないかもしれないんだぞ。』

「ふぅん。」
随分と賑やかだ。
「最初に見た時ある程度予測はついたけど、あなたたちは単体ではないね?色んなイロが混ざり合って黒に見えてるだけなんだ。主が2人以上居る世界なんて珍しいけど、このセカイの出生について明かしてくれない?」

『いいよ。でも。』

『みんなそろってからね。』

『それがイイ。』

私は言った。「ケチんぼ。」

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60 :げらっち
2022/10/22(土) 00:29:17

ルルたちがここに集結するのを待つ。
3つのヒカリは、セカイ各地に散らばって行った。何を悠長なことをしているのだろう。
もしかして、円錐の全貌を把握するために、敢えて遠くから見ようとしているのだろうか。

あ。

「……そういえば」

すごいことに気付いてしまった。

というより、どうして今まで気付かなかったのだろう。
眼を潰され、イロを見ることに集中したおかげで、見落としていることに気付いたのか。

私を「母殺しのパラドクス」と呼んだあのひなたは、あの強烈なヒカリが、無かった。
それどころかイロさえなかった。
生きている人間ならば、イロを持っていない筈が無い。例えひなたが神でもだ。

そうか!

「あのひなたは偽物だったんだ!!」

私はそう叫んだ。すると声が答えた。

『お見込みの通り。』

仲間割れを誘発するトラップの一種か。
チームごとに協力させようとしたり、逆に不仲を招いたりとセカイの思惑は一貫性が無いが、これもセカイの主が集合体であるが故だろうか。
このままでは更なる混乱が起きかねない。偽物が潜んでいるという事実を、ルルたちに伝えねば。

しかしツールが無い。魔力は1円残らず、ルルに寄付した。
でも私たちには、遺伝子のつながりがある。これは魔力と違い、無くならないものだ。

「お母さん。聞いて。」

私はルルの脳にダイレクトメールを送る。
From:お母さん
To:リリ
件名:悪意の偽物

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