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┗283.短編小説のコーナー(161-180/207)

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161 :ダーク・ナイト
2023/02/26(日) 10:59:42

>>160
目次だ…。
目次に私を追加されている。

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162 :ラピス
2023/02/26(日) 12:11:29

>>154
最初の一文「言葉」という単語が三回も使われててくどい。一文に同じ単語を使うのはなるべく控えるべきです。

あと、花の色に「ルビー色」を使ってるけど、他のとこでピンクや白や灰色を使ってるのに素直に赤って言わないの意味わからんすぎるのとか、雰囲気を壊しているので、特に意味もなくルビーという単語を使うならやめたほうがいい。
そも、ルビーとは宝石。透き通って透明感のある赤。それだけ美しい赤を表現したいときに使うならわかる(というか私はそういうときにしか使わない表現)。
心情的に別れ際に押し付けられた花はそんなに美しいものに見えるか? 見えないと思う。むしろ鮮やかに見えないんじゃないかな。花や包がカラフルに見えている時点で悲しそうな描写に見えないかも。

とまあ、ちょっと気になった点のみ指摘してみました。

[返信][編集]

163 :ダーク・ナイト
2023/02/26(日) 18:46:49

>>162
ありがとうございます…!
ラピスさんにご指摘をいただけるとは。

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164 :ラピス
2023/02/26(日) 19:06:32

指摘しても響かないという噂があるのであまりしたくはなかったのですけれどね……色の使い方はわたくしが教えたので、正しい意味を持って使って下さればと。

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165 :ダーク・ナイト
2023/02/26(日) 19:09:40

>>164
色の使い方、正しく教えてくださり有難うございました。

[返信][編集]

166 :92
2023/02/26(日) 19:15:42

「彼の口から出てきたのは、その短い言葉だった。」
の方が、言葉の綺麗さは置いておいてくどくはないと思う。
あと彼が花束を渡してきた理由、何?そこが詳しく知りたい。後で明らかになるんならいいんだけど…。

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167 :ダーク・ナイト
2023/02/26(日) 19:22:58

>>166
後ほどわかるかと。
>>164
シャインシックスで使えるかもなので、使いますね!

[返信][編集]

168 :92
2023/02/26(日) 19:29:28

よかったー。(´∀`*)ホッ
私も短編ぐらいかくか。

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169 :ダーク・ナイト
2023/02/26(日) 19:33:49

ラピスさんのノベルアップを参考にさせていただきました。
勉強になりました。
ありがとうございますm(_ _)m
さっそく「悲しみの花束」に取り入れます。

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170 :てふてふ
2023/03/21(火) 18:23:13

そろそろ短編を書くとするかφ(-ω-。`)

リンゴおいしい

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171 :げらっち
2023/03/21(火) 19:13:52

しんでふですか?(心中)

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172 :げらっち
2023/08/21(月) 14:41:06

・・・執筆中・・・?

[返信][編集]

173 :げらっち
2023/08/27(日) 00:00:39

夏にぴったりのホラー短編!


『残ってしまった物』


遠い夏の思い出。


俺のクラスに令(れい)が転校してきた時、俺に初めての友達ができた。俺達はすぐに打ち解け、親友になった。2人で毎日遊んだ。令は毎日学校に来るのが楽しいって言ってた。
それなのに、さ。
令は呆気なく死んじゃった。登校中に、石垣が倒れてきて、頭に当たって。病院に運ばれたけど、殆ど即死だったって。
その日は俺、日直当番で早く登校してたんだけど、いつもみたいに一緒に登校してたら令のこと守れたんじゃないかって思って、すごく悔しかった。
人はすごく簡単に死んでしまうんだなあと思った。

大事な、大切な、唯一の友達。消えてしまって、俺はもう、友達なんか、欲しくない。

1週間くらい経って、クラスでは噂が流れていた。令の両親が、危険な石垣を撤去しなかった市に対し裁判を起こすという噂だ。
俺はそんな話は聞きたくなかった。何をどうしようと令は戻らない。喪失感だけが俺の中にあった。
自分の席で俯いていると、イトウさんが俺に話し掛けてきた。
「汚い話って、思うよね?」
イトウさんはいつも1人で居て、周りに壁を作っている感じがする不思議な女子だった。
俺はそんなイトウさんから、初めて話し掛けられて、戸惑った。それだけでなく、イトウさんが俺の心を読んだような気がして、怖かった。

「でもね、令君の御両親は、何かを恨みたいの。何かを憎しみたいの。それがあの方たちの一時の生き甲斐になるの。すぐにそれは消えてしまって、喪失感だけが残るけど。それがわかっていても気を紛らわしたいんだよ」

「それが何だよ」

俺はまた俯いた。

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174 :げらっち
2023/08/27(日) 00:01:50

忘れもしない。
茹るような暑い日。俺は学校に遅刻しそうになって、急いでた。表から入ると先生に見つかって怒られるから、裏の階段からこっそり上がって教室までショートカットしようと思った。これなら出席を取り始める前にギリで教室に着くかもしれない。よく使う手だ。
裏の階段はひっそりしていてひとけが無い。ダッシュで上がろうとしたその時、人影が目に入った。

階段の中腹に座って、うずくまっている。顔は見えないが、間違えるわけない。

令だ。

一瞬、普通に声を掛けそうになった。でもすぐに気付いた。
令は死んだ。
身震いして、全身を冷たい血が駆け巡った。鳥肌が立ち毛が逆立った。心臓がすごい速度で脈打っている。

幽霊だ。

どうしよう。

麻痺した頭脳でも考え続けることができたのは、遅刻して先生に怒られるのは嫌だという、平凡な事だけだった。俺は止めていた足を動かし、令の隣を横切って、階段を上がろうとした。
すれ違いざまに、俺は令を見てしまった。まずかった。令は顔を上げて俺を見た。目が合った。令が何か言おうとした。やばい。俺は無我夢中で足を回転させ、階段を駆け上った。意識が無くなるくらい走った。次の瞬間、教室に着いていた。遅刻していた。先生に怒られた。

1・2時間目のことはよく覚えていないが、時折背後から視線を感じては、振り向いていた。

30分休みになった。
裏の階段には、絶対行ってはいけないような気がした。
でも気になるのは、令が何か言いかけていたことだ。令は何かを訴えたかったのかもしれない。令は俺の親友で、俺は令の親友だ。俺に伝えたかったことを、無視するわけにはいかない。
俺は恐る恐る、裏の階段に向かった。
その時、俺にとって都合の良い様な考えも浮かんでいた。もしかして、あれは急いでいた俺の見間違いだったのかもしれない、と。夏の揺らめきの生み出した、幻だったのではないかと。

令はまだそこに居た。
先程そうしていたように、うずくまっている。
その姿を見た瞬間、心臓の鼓動が早くなった。やはり見間違いなんかでは無かった。
俺はすうっと息を吸うと、それでも落ち着かない胸の高鳴りを隠すこともできないまま、階段を降りて行き、令と同じ段までくると、話し掛けた。

「よぉ、令」

馬鹿げている、そんな言葉が、俺の頭をよぎった。
それでも令は、顔を上げて、俺を見て、答えた。

「カンタ」
令は俺の名を呼んだ。
令は、生きていた時のそのままの姿だった。足もあれば、服も着ている。大事に飼っていた金魚が死んでしまった朝のような、落ち込んだみたいな顔して、そこに居て、そして言った。
「どうしよう」
俺は心臓をバクバクさせながら、次の言葉を待った。
「僕の席が無いよ」
一瞬、何のことかと思ったが、すぐにわかった。
教室の机は、令の分は片付けられてしまったのだ。令の席は、もう無いのだ。
俺は言った。
「だってお前、死んだじゃん」
令の目が、天を仰いだ。そして言った。
「あ、そっか」
そして令は消えた。

俺は叫び出しそうになった。

[返信][編集]

175 :げらっち
2023/08/27(日) 00:02:59

こんなことは、誰に言っても信じてもらえまい。
それでもそのことを彼女に話していたのは、彼女ならわかってくれる、そんな気がしたからだ。
「ふうん、カンタ君。令君に会ったんだ」
イトウさんは、さも当然の事のように言った。
「信じなくても良いよ。写真も無いし」
「写真なんて撮っても、映らなかったと思うよ」
イトウさんは席に座ったまま、俺の顔を見上げた。
「臨死体験って知ってる?」
「あ? 知ってるよ、仮死状態になった人が生き返るって体験だろ? その間、魂は肉体を抜け出して、周りで起こってることとかを、知ることができるって。夢みたいなもんだろうが」
「魂なんて、古風な言い方。私は意識って言ってるよ。その方が適切だからね。死んだ瞬間、意識は体を脱出する。それは夢なんかじゃない。先天盲の臨死体験者は、その瞬間にのみ、視力という物を獲得し、世界を見ることができた。これは夢や空想では説明が付かないよね?」
別に臨死体験の説明など聞きたくもない。
「知るか。臨死体験した人は居ても、完全に死んだ人に、死後の世界を聞く事はできないだろ」
「臨死体験も、本当の死も、本質は同じだよ。死ぬ期間が短いか、永遠かの違いだけだ」
小柄なイトウさんは、すっと立ち上がった。
「彷徨っていた意識が、生前仲の良かった人や、関係の深かった人の、意識に引っ掛かり、対話をするってことは、珍しい事じゃない。カンタ君は令君と一番仲が良かったから、令君の意識がそこに居る事に気付いた。意識でキャッチしたものを、脳が、目が、補足したから、身体もそこに居るように見えたんだ。本当はもう存在しない身体を、或いはその服装も、見ることができたんだ」
イトウさんは、熱っぽく語っていた。こんな彼女の姿は見たことが無い。ある種、楽しそうに、彼女は語るのだ。
俺は少し戸惑ったが、冷静に彼女の言葉を飲み込んだ。
「俺が見たのは令の意識だった、と言いたいのか?」
「物分かりが良いね。消えることができて良かったよ。淡々と対応したのが良かったんだね。もし中途半端に同情なんかしてたら、ずっと付きまとわれることになったかもね」
ずっと付きまとわれる。それを考えると、少し嫌な気持ちになる。
「そんなことになったらカンタ君も嫌だろうけど、令君はもっと、気の毒だからね?」
「どういう事だ?」
イトウさんは眉間にしわを寄せてニヤリと笑うと、「物分かりが悪いね」と言った。

「命が死んだとき、意識も消えられるように、未練の無い生き方をしないとね。それでも、もしも、意識が残ってしまったら、誰かに見つけて貰って、消える手助けをして貰えるように、しないとね。だから令君にはカンタ君が居て本当に良かった」

その時の俺には、まだ、彼女の言葉の意味がわからなかった。
今考えれば、簡単なことだ。彼女は忠告してくれていたんだ。



あの夏から何年が経ったろうか。

何十年、いや、何百年という単位かも知れないが、あの夏の記憶だけは鮮明に残っている。
彼女がにっこり笑って、言ったことは、ずっと俺の中にある。

俺は今も消えずに残って居る。

「命を無くして、身体を無くして、でも、意識だけは消えないで、残ってしまったら。誰にも見つけられないで、ずっとずっと、彷徨うことになってしまったら。それはすごく、寂しくて、悲しい事じゃない?」

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176 :ベリー
2023/09/01(金) 00:55:14

【絞めて抱くのが快楽の骨頂であった】

 潮風がねっとりと耳の付け根に絡みついた。嫌な顔するにも値しない不快感を、少女はわざわざかき上げる。真っ黒な髪がゆらゆらと、不格好に目の前の波を宙で真似た。
 そんな些細な事にも怒り、癇癪を起こすぐらい少女の気は短い。しかし今回だけは大人しく、黙って遠くを見ていた。

 夕暮れ時の浜辺。と聞くと、綺麗な黄金色の海と空を浮かべる。少女の頭上を覆う空は、想像通りの色をした空が囲っている。しかし海は思った以上に暗かった。黒か青か見分けがつかない海に、太陽から漏れ出た黄金色が微かに溶けている。それでも、十分綺麗だ。

 ざぱん、ざぱんと音が鳴る。水が打ち上げられた音、水風船が割れたみたいな音、砂に擦られた海の悲鳴の残滓の音、豪華メンツが奏でる不揃いの波の音が、なんともまあ心地よい。
 黄金色はあるくせに、黄金比を美しく思う心が無い自然が生み出した不揃いの景色は、なぜこうも美しいのだろうか。ノスタルジックな気分の少女は思うが、別に思う事があったから、風情な考えは波と一緒に消えてしまった。

「アキ」

 たった二文字が少女の夢想を切り裂く。聞き覚えがある、なんて思考すらしないでもアキと呼ばれた少女は振り向いて言う。

「トミ。何でここにいんの」

 トミと呼ばれた青年は、ばぁ、なんて両手を広げておどけてみせる。
 徒桜 秋。それが少女の名で、青年は同じ苗字に富をつけて、徒桜 富だ。
 ふさふさと、砂を押し潰してトミはアキの元へ歩いてきた。

「美人が黄昏てたから、なんぱ?」

「兄弟にそういうのキツイ。私、もう十七なんだけど」

「あは、僕も十七〜」

 ウザイ。浸っていた所を邪魔されたこともあり、アキはチッと大袈裟な舌打ちを噛ます。
 いつもの事だと、トミはそれを澄した顔でサラリと流した。

「そろそろ晩飯の時間だよ」

「お夕ご飯……。要らない」

「トミちゃんが腕を奮った料理は例え毒入りでもチョーウルトラスーパーハイパー美味しいよ? マジで要らんの?」

「だから嫌なの」

「そんなこと言わないで。ホラ、晟大も地獄で泣いてるよ?」

 勝手に人の親を地獄送りにしないで。なんてツッコむ気力も失せた。アキははぁ、と大袈裟にため息をつく。

 先日、アキは父親を失った。トラックに跳ねられそうになったアキを庇い、父親はその場で息を引き取った。
 徒桜家は母親がおらず、父親とトミとアキの三人暮らしだった。それが急に、トミとアキの二人暮しに変わったのだ。様子を見にやってくる親戚の大人達は、誰が引き取るかとか家庭裁判所がどうかとか、息が詰まりそうな空気で話をするものだから、アキには窮屈だった。
 それも、今日海に来た理由の一つかもしれないな、とアキはぼんやり考える。

「てか、なんで海に来たん? 海なんて通学路で毎日嫌ってぐらい見るのに、わざわざ砂浜まで降りてきちゃってさ」

 アキにとってプチタイムリーな質問がトミの口から放たれた。

 遠くの世界に、アキは思いを馳せる。そこは今と同じ浜辺で、でも今と同じとは思えない場所だった。砂の山を作る黒髪の少女と、呆れ笑いながら、その山を城に作り替える父親が居る。
 遠い昔の記憶に思いを馳せるとき、自分の記憶の筈なのに、別世界を第三者として覗いているような、不思議で儚い感覚をいつも覚える。

「ここ。幼い頃、親父と遊んだ場所、だから」

 アキの父親と母親はアキが幼い頃に離婚している。この記憶はきっと、二人が離婚する前の記憶だ。
 お夕ご飯の準備をする母親に手を振り、海へ走る自分と父親の様子がアキの脳裏を過ぎる。
 そこに、徒桜 富は居ない。
 それもそうだろう。トミは二人の離婚後、アキが母方の元にいる間、父親が養子として迎えた子なのだから。
 アキが小学生の頃。母親が病気で亡くなって、アキは父親に引き取られた。その時、アキとトミは初めて出会った。血の繋がらない兄弟なのだ。

 ふぅん。と、トミは上の空で返事をする。
 自分が入る隙もない思い出に潰されそうになるこの感覚には、もう慣れたつもりだから。

 気まずくなった訳でもそういう決まりがあった訳でも無いのに、二人は黙って同じ場所を眺める。
 太陽が海に溶け始めた。水平線は金色に縁取られ、遠くへ続く黄金色の橋が海にかけられる。波の音はもう、意識に入り込むことすらできないBGMと化す。
 無音と表現してしまうぐらい静かな砂浜で、トミは潮風をたらふく肺に送り込んだ。

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177 :ベリー
2023/09/01(金) 00:55:44

 さっきまで親戚と大事な話をしていたトミにとって、この静けさは染みた。疲れ果てた心にも、えぐり取られた傷口にも。
 彼らの話だと、我も我もとアキの里親に名を挙げる者は多くいるが、トミの里親には誰も立候補していないそうだ。それどころか、トミは施設に預けるという話が今のところ一番の案だそう。
 どちらにしろ、アキとトミは離れ離れだ。
 養子だから。たったそれだけの理由は、ここまでついてまわるものだっただろうか。まるで他人事のようにトミは透明な声を海に落とし入れた。
 ボチャン、なんて音は鳴らない。だって心の言葉だもの。その代わり──

「うわぁっ──!」

 ぱしゃん! 水が物質を拒絶して、受け入れた音が飛び散る。それと重なったのはアキの驚嘆。
 突き飛ばされたアキの右半身が海に浸かる。タイミング悪く波もやってきて、アキの口内に塩水が入り込んだ。しょっぱい。
 咳をしながら体勢を整えて、アキは頭上の人物に叫びをぶつける。

「何!」

 彼女の怒りはトミの悪感情宛ではなく、常日頃からふざけているトミ自身にぶつけたものだと、トミは分かってしまう。

「クソッタレが」

 言語化できない感情をトミは雑にまとめる。体を起こそうと動くアキの顔面に膝蹴りを食らわせてやり、勢いそのままにトミはアキに馬乗りになった。

「むぎゅ、ぷはっ」

 アキの顔が海に浸かる。もちろんそのままでは息ができないため起き上がる。と、こちらを見下してくるトミと目が合った。

「──なんのつもり?」

 なんだろう。トミ自身にも分からない。湧き出る憎悪そのままに動いたのだろうか。いや、この憎悪はそこまで大きくない。
 他の感情に操られて押し倒したのだろうか。憎悪と溶け合った、言い表しがたい感情に。
 いや、ただ単に自暴自棄になっただけか。だって、これからやろうとしている事が成功した後なんて、頭にないんだもの。
 トミは、そこで思考を止めた。

「なんだと思う? 正解したらトミポイント三つ贈呈」

「──いらない」

 チカチカ点滅する世界にいることを悟られぬよう、アキは平気なフリをして顔を拭う。それが妙にヌメってて、アキは拭った手に視線を移した。赤い爪痕が残っていた。赤い水がサラリと手首に樹形図を作る。
 鼻血だ。顔全体に残る痛みを堪えるだけでいっぱいいっぱいなアキへ、更に血が出たという事実が追い打ちをかける。
 涙。出るな。ここで泣いたらトミの思い通りになってしまう気がするのだ。アキは歯を食いしばってトミをキッと睨む。

 犬の様にパッチリした目がつり上がった。腕も足も首も細い癖に。腰なんてトミがこのまま倒れ込んだら折れてしまいそうだ。弱っちい体なのに、一丁前に反抗心をむき出しにするアキが愛おしくも腹立たしい。そう思うトミの口から、

「あぁ──」

 と唸り声が漏れ出てしまって、「そう」と慌てて返事に変える。
 トミは傾きそうな感情のバケツを必死に支える。けれど少しでも傾いてしまったバケツは、止められなかった。

「そぉーやって、何でもかんでもイヤイヤ言ってたら済むとでも思ってるのか」

「え」

 ざぱん。大きな波音がアキの言葉をかき消した。いつも飄々としているトミから嫌味が出てくる事なんてない。それなのにと、アキはフリーズする。

「あー、心当たり無い感じ? あーはいはいそういうパターンね、はいはいはい。分かってるけど」

 もう五年近くは同じ屋根の下で一緒にいるのだ。アキがイヤイヤしか言わない我儘娘ではないことぐらい、トミも分かっている。常に人を見下す立場に居ると思いやがっている傲慢娘であることも、トミは分かっている。
 それでもでっち上げた嫌味を吐いて悦に浸りたかったのだから、僕は悪くない。トミはそう、無理のある自己完結をした。

「ねぇ。初めて会った時。君、僕に何言ったか覚えてる?」

「急に何。トミが何をしたいのか分からないのだけれどっ」

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178 :ベリー
2023/09/01(金) 00:56:08

 本当は分かってるんじゃないか? 僕がアキを知るように、アキも僕を知っているんじゃないのか? その問いかけは今必要ないと、トミはゴクンと飲み込む。

「『親から捨てられた汚い奴と、それに汚染された家で一緒に暮らしたくない』だよ」

「なんで一字一句完璧に覚えてるわけ。気色が悪い」

「お褒めに預かり光栄だ」

 ついに今度の波で、制服のスカートがべっとりと太ももに張り付いて、トミは不快感を覚える。でも、トミはそんな些細なことに思考を邪魔されるような器じゃない。アキとは違って。

「というか、私は母さんを捨てた親父と一緒になりたくなかっただけで“も”あって──」

「言い訳にはナンセンスな言葉選びだね。“も”、だなぁんて?」

 失敗した。とでも言いたげにアキは口を薄く開き、固まった。どうも隙をありがとう。そうトミはアキにグッと顔を近付ける。

「一緒に暮らし始めた頃、よく僕とイタズラごっこしたよね」

 弾む声とは裏腹に、トミの目は笑っていない。

「僕の紅茶に洗剤を入れてくれたり、イスに画鋲を置いてくれたり。ああ、パンに彼岸花の液を塗ってくれたこともあったね。ゲロだすぐらい美味かったよ。言葉通り」

 アキの双眼がワナワナと震える様子を、超直近の特等席でトミは見つめる。

「それから、君が来てから晟大は君にご執心だったね。酷いことしちゃった分、これからはアキの為に働くんだー、て。良い親バカだね」

 アキの左頬と黒髪の間を、トミの白皙の指がサラリと入り込んだ。どちらも海に浸かって体は冷たい筈なのに、アキは熱した鉄みたいに熱い。トミの手元には無い温かみをアキは持っていた。

「ま、僕はどーなるんだって話なーんーだーけーどっ。どーなったと思う?」

「え──」

「ソー! 君に保護者を奪われて疎外感を感じる寂しー寂しー生活をしておりました!」

 自分で質問したくせに、お前に喋る権利なんか無いと言わんばかりにトミはニッコリ笑う。
 さっきまで彫刻みたいな微笑みをしていたのに、急にデフォルメが強いアニメみたいにニッコリとトミが笑う。アキの心にまた恐怖が乗せられた。

「家族にして貰えたと幸せを噛み締めてたらこの仕打ち。結局、僕は代わりだったんだよ。実娘と離れて暮らす寂しさを埋めるための、さ」

 途端にトミの声色が一オクターブ落ちた。トミの横顔が夕日に照らされる。それはきっと幻想的な風景に見えるはずなのに、アキの美しいと思える感性を恐怖が蝕んだ。
 スッと。アキのもう片方の頬にも指が滑り込む。それらはゆっくり、アキの頬をなぞって下に移動していく。
 やめて。この後の展開が想像できて、アキは絞りだした声をトミに向けた。それでもトミの手は止まらなくて、ついにアキの首に辿り着いてしまう。

「お前さえ、いなければ──」

 ゆっくりトミの手が絞まる。首を絞める。ドクドクと、血管の働きが皮膚越しに伝わって、トミは少し血の気が引く。
 まって。裏返ったアキの声が、トミの気まぐれを動かした。首を絞める力が緩む。

「ならなんでっ、助けてくれたの!」

「助けた? 何を。誰が。君が飛躍させた話題を戻すお助けならナウでできますがいかがいたしましょうか、お嬢様?」

 アキはトミにギョロリとした目で睨まれて、言葉を飲み込んでしまいそう。何も言わなかったらきっと、こんな怖い思いは薄くなってくれる。しかし、それを天秤にかけても尚伝えたいことがアキにはあった。

「私に嫌なことするお友達から、いつもトミは助けてくれるっ!」

「──」

 今度はトミの言葉が詰まった。
 嫌なことするお友達。アキのいじめっ子達のことだ。器が小さくプライドが高いアキにトミは慣れたが、集団生活ではそうもいかない。アキは女子からは冷ややかな目で見られ、男子からは触らぬ神に祟りなしと無視され、なのに彼らはアキの物を盗んだり壊したりすることにご執心だ。

「私の物を盗もうとした男子を追い払ってくれたし、集団行動はいつも一緒に組んでくれるし、帰り道だって、一緒に帰ってくれる!」

 男子は追い払ったんじゃなくて、現場に訪れた第三者に、男子の方が勝手に怯えて逃げただけだ。集団行動のときは、馴染みがある人物と組んだ方がパフォーマンスが上がるからだし、一緒に帰る、のは。えっと。
 トミは頭の中で言い訳を構築するも、それらはトミも自覚できるぐらい無理のある論理だった。

「なのになんで、トミは私を嫌っちゃうの!」

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179 :ベリー
2023/09/01(金) 00:56:54

 今までアキがトミにした仕打ちを無視した、純粋な問いかけだ。アキがトミに嫌がらせをしていたのは、アキがここへ来てばかりだった四年前の話だ。とても最近とは言えない出来事だが、無かったことにできるほど時間が経った訳でもない。トミは四年前の事なんて気にしていないだろうという、アキの無意識の驕り。それがトミの苛立ちを加速させる。

「誰が嫌ってるって、言ったんだよ──!」

 ガバ、と。トミのセーラー服が擦れる。軽く首にかけていただけの手に、力が込められた。
 トミにとって四年前の出来事なんて、とうの昔に水に流している。それをアキの傲慢さに言い当てられたのが、トミは悔しかった。

「くぁっ、かっ──」

 苦しそうにもがくアキ。ここで上半身も海につけてしまったら、酸素がない世界で首を絞められてしまう。死が現実味を帯びてしまう。そう、アキは腹筋で体を起こしたまま、アキの腕を首から離そうと掴んで引っ張る。

 首の中央部にある筋肉が、強く締められる感覚がする。青じんだ部分を強く押されるような痛み。その倍の不快感がアキの頭に広がった。
 怖い。死の恐怖から逃れたい。背筋の寒気からくる欲求がアキを動かす。しかしアキの理性には、もっと大切なことがあった。

「きら、いじゃ無い、なら。なん、で。こんな──」

 なんでなんだろう。トミでもトミの行動が説明できない。トミの、保護者からの愛情を奪ったアキへの憎悪は本物だし、それと同じぐらい──いや、下手したらそれ以上にアキを愛おしく思っているのも事実だ。
 そうだとしても、トミがアキの首を絞めたがるのはおかしい。トミも分かっている。けど仕方ないだろう? 事実、アキへの憎しみも愛情も、アキを絞め殺す事を望んでいるのだから。これはトミが欲望に忠実に行動した結果だ。

「好きだよ」

 トミの嘘偽りない憎愛がこぼれ落ちる。

「キュアァ──」

 声でも言葉でもない。絞められた気管から発せられた“音”が、合図となった。ついに力が尽きたアキが押し倒される。パシャン。宙に揺蕩う水しぶきが、歪んだ夕暮れの空を映す。アキの全身は海水に使ってしまった。

 アキの歪んだ表情が水面越しに見えた。ボコボコボコと、ひっきりなしに二酸化炭素が海水を押し出す。アキが何かを言っている。何を言っているのだろう。アキの事だから叫喚しているだけか、と。そう思ったら、トミの憎悪が晴らされ快感に、愛情は深くなり悦楽となった。アキの生きる証が首から伝わり気持ち悪いが、加速する劣情がそれを上回ってしまい、余計手に力が入る。
 この感情をどう形容したらいいのだろう。アキを傷つけている事実に興奮しながら、トミは考える。初めは本当に、自分を虐めるアキを憎んでいた。きっかけはそう。アキが学校で虐められる側となったときだった。いつも自分を見下すアキが虐げられ、綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしていた。なんとまあ、愛おしいのだろう。どういう訳か、トミはそう思った。発散しきれなかった憎悪が、途端に愛へ変わってしまう感覚を、その時強く感じたのだ。
 アキが憎くて、共に愛おしくて。矛盾する感情に気を狂わされながら、トミは思った。アキと離れたくない、と。

「──」

 首の脈が無くなった。恐る恐るトミは手を離す。アキの首には、痛々しい紫色の線が一本引かれていた。目玉は空を向いて動かない。とても綺麗とは言えない、アキの醜い顔が美しい。トミはアキの体をゆっくりすくい上げ、抱きしめてみる。海水に浸けたからか、はたまたアキの中で燃えていた火を消し去ったからか、体は氷のように冷たかった。
 ああ、死んだんだ。僕の手で。トミは口を綻ばせてアキを強く抱き締めた。

「あーあ、死んじゃった」

 これからどうしよう。そう思うまもなく、トミはアキを抱いて海を歩く。初めから薄らと想像していた未来設計図にしたがって、トミは夕日に向かって進む。アキと共に海に沈めたら、どれほど悔しくて憎くて、嬉しいだろうか。高まる憎悪がトミの愛情を加速させる。深くなる愛情がトミの憎悪を加速させる。
 気持ちが矛盾している違和感なんて、どうでもいい。双方の感情にしたがって、一番快感を得られる道を選べれば、トミはそれでいい。彼の場合、アキを絞めて抱くのが快楽の骨頂であっただけだ。
 トミの全身を海が包む。アキの黒髪がトミの体に絡みつく。苦しくなる息でさえ、今ではトミの興奮を加速させる材料だ。このまま死んだら、僕らは水に溶けて体がぐちゃぐちゃになって、原型を留めない姿に成り果てるのだろう。そんなアキの様子を間近で感じ取れるなんて、これ以上無い喜びだ。恍惚するトミは、すっかり冷えた肉塊と共に、消えかかる夕日の橋を渡った。

[返信][編集]

180 :ベリー
2023/09/01(金) 01:00:24

 カキコの企画で書いた海の短編、せっかくだから自己満投稿。
 俺為の方で、自分の憎しみを言葉に表さず飲み込んで隠していたヒラギにイラついて、「お前、ヨウ×しちゃっても許されるよ?! ねぇもっと怒ろうよ?!!」と燻った思いを発散したものとなります()


>>173-175

途中まで幽霊化した友との不思議な体験談、て話かと思ったら最後に全部持ってかれた……。イトウさん、どこか七海ちゃんを感じる。体言止めが多いからかな? 雰囲気というか優位にたっている状況で余裕綽々と話す感じが、戦隊学園思い出して懐かしくなりました……。
わー! げらっちさんの文だー! てなった。語彙がねぇ。
「だってお前死んだじゃん」からの「あ、そっか」て即落ちて面白かったです……。

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162 :ラピス
2023/02/26(日) 12:11:29

>>154
最初の一文「言葉」という単語が三回も使われててくどい。一文に同じ単語を使うのはなるべく控えるべきです。

あと、花の色に「ルビー色」を使ってるけど、他のとこでピンクや白や灰色を使ってるのに素直に赤って言わないの意味わからんすぎるのとか、雰囲気を壊しているので、特に意味もなくルビーという単語を使うならやめたほうがいい。
そも、ルビーとは宝石。透き通って透明感のある赤。それだけ美しい赤を表現したいときに使うならわかる(というか私はそういうときにしか使わない表現)。
心情的に別れ際に押し付けられた花はそんなに美しいものに見えるか? 見えないと思う。むしろ鮮やかに見えないんじゃないかな。花や包がカラフルに見えている時点で悲しそうな描写に見えないかも。

とまあ、ちょっと気になった点のみ指摘してみました。

164 :ラピス
2023/02/26(日) 19:06:32

指摘しても響かないという噂があるのであまりしたくはなかったのですけれどね……色の使い方はわたくしが教えたので、正しい意味を持って使って下さればと。

166 :92
2023/02/26(日) 19:15:42

「彼の口から出てきたのは、その短い言葉だった。」
の方が、言葉の綺麗さは置いておいてくどくはないと思う。
あと彼が花束を渡してきた理由、何?そこが詳しく知りたい。後で明らかになるんならいいんだけど…。

154 :ダーク・ナイト
2023/02/24(金) 17:50:37

「悲しみの花束」

「はい。コレ。」
彼の口から出てきた言葉は、その言葉だった。
とても短い言葉だった。
やはり、私は彼から愛されていなかったのだ。
私は流れ落ちようとする涙を食い止めるのに必死だ。
彼は私の胸に、ピンク色の紙で包まれた花束を押しつけてきた。
彼が渡してきた花束の中には、愛のような色の花ばかり入っていた。
鮮やかなルビー色や白色の花がたくさん束ねてある。
私は付き合って1年の彼に裏切られてしまった。
彼が他の女性と歩いているところを見てしまったのだ。
とても悔しくて悲しかった。
彼は私だけを見ていたのではなかったの……?
私は、そんな灰色の思いを背負って約3ヶ月生活し続けた。
だが、とうとう引っ越すことにした。
そして、今にあたる。
彼は後ろを向くと駆け出した。
彼の黒いコートが風に揺れる。
「待って!」
私は彼を呼び止めた。
「あなたは……最後まで……私を……愛してくれなかったね……。」
涙混じりの声で一生懸命に言った。
「私は……本気、だっ、た、ん……だよ……。」
「美久! それは君の誤解だよ、エグッ。僕はズズッ。今までっ。本当にっ。愛していたんだっ……。」
「でも……なぜ、3ヶ月前くらいに女性と歩いていの……?」
「アレは、僕の姉だよっクスンッ。」
「え……そうだったの……?」
「そうだよ。君は誤解をしていたんだね……。僕は君を一生守りたい。だけど、君自身が僕を見捨てたら別の話だ。僕は諦めるよ。」
いつの間にか泣き止んだ彼は冷たい目に変わって言った。
「人を信用することもできない君は、もういらない。」
「やっぱり……そうじゃない。あなたは……。」

160 :げらっち
2023/02/26(日) 00:06:52

【アンソロジー目次】
1 やっきー >>2-4>>84
2 げらっち >>8-10>>31-33>>36-38>>88
3 ラピス >>17>>78
4 迅 >>19-21,25-27>>41-44,50-53,58-62
5 黒帽子 >>22>>91
6 露空 >>35>>83
7 すき焼きのタレ >>66
8 ベリー >>86>>94
9 92 >>89>>103
10 ダーク・ナイト >>151>>154,159
11 てふてふ 心中の話?

17 :ラピスラズリ
2022/06/30(木) 19:15:53

「小指」「贈り物」「止まる」より
☆.。.:*・°☆.。.:*

 あいしてる、なんて言葉だけでは不安だったのです。
 わたくしのあまりにも低い自己肯定感が邪魔をするのですから。今のように楽しく談笑していたって、貴方の心がわたくしではない他の何者かに向けられているのではないか、と怖くなります。
 だから、いっそのこと、と。別れ話を切り出したのでした。
 貴方の表情は固まり、時間が止まるようにも錯覚しましたが、わたくしが次の言葉を紡ぎます。

「愛を証明してください」

 わたくしの故郷には、古い習わしがあります。真実の愛を誓うとき、想い人にとある贈り物をするのです。
 彼もそれを知っていましたが、きっとそんな古びた文化に従う気はないのでしょう。こんなに怯えた顔をしていますもの。
 つまりは、その程度のことなのでしょう。わたくしはひと粒涙を溢して、部屋を出ていこうとしました。でも、掠れた声に引き止められます。
 彼は微笑んでいました。そうして、台所から持ってきた包丁を右手にしっかりと握っています。笑顔のまま、彼は床に置いた左手に、包丁をゆっくり近づけます。狙ったのは小指でした。
 古い習わしとは、真実の愛を証明するとき、想い人に体の一部を差し出すというものでした。

 ああ、わたくし達の愛は本物のようです。

22 :黒帽子
2022/07/01(金) 00:00:53

超掌編
「忍者・雲隠十三 盆邪城の巻物」

江戸内海に突如流れ着いた巨大な城があった。その名は盆邪城。
異国のにおいが立ち込める盆邪城、その中には膨大な秘宝が数多く眠っているようだった。
幕府はこの城を怪しく思い、兵を出しては追い払おうとしたのだが、城の守りは堅い。よほど秘密にしたいものが保管されているのだろう。
ここで最終兵器ともいうべき忍者、雲隠十三を呼び、盆邪城への潜入任務を言い渡した。
十三は生きて帰れる保証のない魔城へと足を踏み入れたのであった。

「これが盆邪城、それにしてもけったいな見た目だな。城も門番も。」
門番も某氏を外せば半球上、詰襟の服を着ていた。門番は城に入れる唯一の橋を通せんぼするかのように守っている。堂々と近づくことは死を意味するものである、十三はそう認識し、クナイを門番の首にぶつけた。

「あべし!」といったかどうか定かではないが門番はそのまま海へと落ちていった。
次の門番が出る前に十三は橋を渡り、盆邪城の中へと入っていった。
次から次へと怪しそうな集団が現れる。面と向かって戦いが長引くと確実に殺されるため、十三は的確に急所を狙う作戦を実行した。一瞬にして積み重なる兵の山。十三は大急ぎで城の上部を目指した。

城の最上階にて主が待ち構えていた。主は鎖で繋がって二本の鉄の棒を規制を上げながら振り回している。
「アチョオオオオオオ!」
迷わず忍者刀で応戦する十三、つばぜり合いがしばらく続いたが壁に追い詰められ、城主が優勢となってしまった。
十三は迷わず股の下を潜り抜けるよう滑り、背後からぶすりと一撃をくらわした。

「そ、そこの巻物だけはくれてやる。これで勝ったと思うなよ」
城主はこう言い残し、息絶えた。

十三は大凧で城を脱出し、江戸城に巻物を献上した。しかしそれは白紙であった。
これは現代でいうトイレットペーパーのようなものであったからだ。

十三は試合に勝ったが勝負に負けてしまったのであった。

35 :露空
2022/08/04(木) 20:29:43

一話

どうしてこんな事になったんだ―——絶対死なせない。私が必ず守ってやるのだ。
大怪我を負ったふろ禰をおぶって、雪の降る道無き道を駆けていた。

炭を背負い子に入れ、町に売りに行く用意をしている時。
「炭げらっち、顔が真っ黒ですよ。拭きますからこっちへ」
その優しい声に甘え、雪華のもとに寄った。
「雪が降って危ないですから行かなくてもいいんですよ?」
「大丈夫だ。正月になったら皆にたくさん食べさせてやりたいのだ」
ありがとう、と言われると、家の裏から弟妹達がやってきた。
「炭げらっち兄ちゃん、町に行くの?」
「私も行きたい!」
「だめよ、あなた達は炭げらっちみたいに速く歩けないでしょう?それに、今日は荷車を引いていかないから乗せてもらって休んだりできないんです」
たしなめても駄々をこねる弟達と見送ってくれる雪華に行ってきますと告げ、町に歩きだしていった。
「お兄ちゃん!」
家から少し離れたところをふろ禰がゆっくり歩いていた。六太を寝かしつけてたんだ、と静かに言う。
「お父さんが死んじゃって寂しいんだと思う。だから甘えん坊なのかな」
行ってらっしゃいと見送られ、手を振る。
生活は楽じゃないが、幸せだ。
でも。
幸せが壊れる時はいつも、血の匂いがする。

炭も全部売れ、頼まれた手伝いも終わらせて帰路に着くと、三檸檬に呼び止められた。
「今から帰るの?泊めるからやめなよ」
「私は鼻が効くから大丈夫なのだ」
「いいからこっち来て。鬼、出るよ」
根負けして三檸檬宅の中に入ると、かなり柑橘類の匂いがした。出された料理も檸檬という柑橘が使われたハイカラなものだった。「明日早起きして帰ればいい」と敷いてくれた布団もやはり柑橘の匂いがした。
寝る前に話をした。
「鬼は何をするのだ?」
「人を襲い、喰べる」
「鬼は家の中にまで入ってくるのか?」
「うん」
「皆、鬼に喰われてしまう……」
「そうならないように、『鬼狩り様』が鬼を斬ってくれるんだ」
朝。檸檬屋敷を後にして我が家に向かっていく。雪は今のところ止んでいるが、またすぐに降りそうだ。
幸せが壊れる時は、いつも…………
「っ!血の匂い……!」
慌てて家に近づくと、私は信じられない光景を見た。

66 :すき焼きのタレ
2022/12/10(土) 03:07:20

久しぶりに小説アプリを開いてみたらなんか訳分からんとこで執筆やめてた、プロットも一切ない話の内容一切分からない謎作品があったので深夜テンションで読み切りにしてみました。ドキュメンタリーだと思って読んでください。





 朝目覚めたら家族がパクチーパクチー言うようになっていた。
「ドゥーユーノーパクチー」
 まだ春も来てないけれど、今年の流行語はこれで間違いないだろう。にしても、どこから流行り始めたんだろうか。全く意味が理解出来ないから、とりあえず「早く飯くえよ」ってことなのかな、と思っておく。寝坊したし。
  天気予報もパクチー。お日様活発だし見るからに雨は降らなさそうだ。他には時計がパクチー。LEDパクチー。母さんの靴下の柄がパクチー。あと家の庭もパクチー。
 で、案の定食卓もパクチーだらけ――というわけではなかった。パクチーパクチーうるさすぎて早速耐えられなくなりそうだったけど、食パンが食べられる生活に改めて感謝したい。イチゴジャム最高!



      「はちく」


 
 学校に着くと―知ってたけど―パクチーの話題であちこち盛り上がっていた。というか、パクチー連呼でうるさいだけなんだけど。
 数学教師もパクチーに毒されていた。数式のちょっと空いてるところにパクチーの絵をモリモリ描いている。ヤクチュウの描いた絵くらい下手くそだ。あとルートパクチーって何だよ。
 まあいいや。まともに話聞かなくても、「パクチー」ってノートに書いておけば、とりあえず帰ることはできる気がする。
 帰る前にパクチー買ってくか。肥料は要るんだろうか。
  
「パクチーすき?」
 一人のときに物音がしたときくらいビビった。聞き慣れた言語なのに、一瞬頭をすり抜けてってしまった。今日の地球はドゥユノパクチ、だかを軸にして既に半分くらい回ったんだから仕方ない。
「パクチー……多分、すき」
「どこがスキやねん」
  パクチーの好きなところ……あの……あれあれ……例えばこんな……、ごめん分からない。
 ぶっちゃけた話をすると自分はパクチーにわかだ。
「ワタシは美味しいと思います」
「?……なるほど」
「、……………」
「…………」
 こいつもパクチーにわかかよ。美味しいの一言で会話が途切れてしまった。歩きながらパクチー発してる人に話しかけたほうがまだもう少しキャッチボール出来たと思うよ。
 でも実際はパクチーガチ勢にデッドボールくらわせ乱闘騒ぎだろう……誤った知識でもの好きを名乗ってはいけないと、ほんとに思う。最初に投げたのがパクチー無知勢だったことがせめてもの救いだっただろう。早く気付いてくれ。
 
 そんなこんなで家に帰ってしまった。家族には会いたくなかった。イチゴジャムで片面を固めた食パンが今日はあまり美味しく感じられなかったからだ。無知からするとパクチーは汚いイメージがある。何でかは分からないけど。
 とりあえず家の庭に出て、15円レジ袋いっぱいに摘めてきたパクチーを一つずつ並べ始める。肥料はとりあえず効き目が良さそうな「まぜるな危険」シリーズにしておいた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 怖っ!!!
 ビックリしてまぜるな危険をぶちまけてしまった。身にかからなくてよかった。
 しかし突撃してきた家族どもはもっと怖かった。
「アアアアアアア!!アアアアアアアア!!」
 瞬間四面楚歌。360°いたるところからタックルされた。運悪く、まぜるな危険プールにパシャパシャしてしまった。これ溶ける?やばくね?
 でもそんなことより家族を慰めることに必死だった。
「ごめん!なんか分からないけど、ほんとごめん!パクチーにわかで、ごめん!」
 すると呪いが解けたかのように家族は皆倒れた。と思いきやすぐに起き上がり、
「今日の料理はパクチーバイキングよ」
 と耳元で囁いてきた。耳は2つしかないのに家族3人分の声がそばで聞こえた謎にもそのときは気付かなかった。
 そんなことより、
「パクチーって、食べられるの?」
 てか、パクチーって、何ぞ?

「ドゥーユーノーパクチー」
 手当たり次第に声をかけてみたが、振り向いてくれる人はおらず。
 ようやく1人振り向いてくれたが、気付けば視界が緑がかった?暗闇になっていた。目瞑ったときにぼんやり見える目蓋みたいな色。
 パクチーを顔に貼り付けられていた。
 もはや怒りの感情は湧かなかった。
 
「パクチー、臭っ」

78 :ラピス
2022/12/15(木) 08:02:33

毒を食らわば冠まで
♱⋰ 🌹⋱✮⋰ 🌹⋱♱⋰ 🌹⋱✮⋰ ♱


「あの女は魔女だ! 妾は嵌められたのだ! あの女は、あの女は……!」

 まるで毒を食んだかのように、白く血色の悪い顔色の女を、皆が更に白い目で見ていた。

「ひどい。御母様、なんてひどいことを」

 取り乱す母親の姿に怯える娘と、彼女を愛する国中の民。白雪姫、可哀想に。ああ、俺達の愛らしい姫君。七人の小人が娘を気遣って優しい声をかけている。その様子を、民達もまた、優しげな目で見遣る。自分に味方が誰一人いないのだと知ると、女は毒に力尽きたかのように崩れ落ちた。

「──言い訳はそれだけか。王妃。いいや……醜い魔女めが」

 誰かが言った。その声に賛同するように、軽蔑と野次と罵声が飛んでくる。それらは狩人の放つ矢の如く、女の精神を突き刺して穴だらけにした。

「嗚呼……クソ! 白雪姫! やはりあのとき、自らの手で殺しておくべきだった!!」

 白い顔のまま、女は金切り声を上げる。その様子を、可哀想な娘は泣き出しそうな目で見つめるばかりだ。

「やっと正体を現したか、醜い魔女」

 民は王妃だった女を処刑した。そうして、空いた王座にちょこんと座るのは、あの可愛らしい姫君であった。

「御母様は、どうして……」

 憂うような瞳の姫を、白い月が照らす。血色を感じさせぬ青白い肌でも、病的には見えず、雪と見紛うほど美しかった。
 彼女は、老婆に化けた王妃から毒林檎を受け取った日のことを思い出す。
 宝石のように紅く艶めく林檎に口づけをして、娘は愛らしい笑みを浮かべた。

「知ってますのよ、御母様。これは毒の果実なのでしょう?」

 目論見を見破られた老婆は、顔を引き攣らせて娘を睨みつける。

「こんなもので、私を殺せると思ったの。可哀想な御母様」

 白雪姫は林檎にもう一度口づけをし、そのまま齧りついた。毒の破片を口に含んだまま、彼女は笑う。

「私は皆に愛されている。あなたよりずっと美しい。あなたのように誰かに嫉妬しない。誰かを害そうなどと考えない。そして、その嫉妬すらも受け入れる」

 ごくん、と嚥下する音。

「完璧でしょう? 理想的でしょう? 魔法の鏡が言う、最高の美しさは、私のもの。御母様。あなた、一生私に勝てませんのよ」

 笑う。白雪姫は鋭利な殺意すらも飲み下して笑う。こんなに愛らしい嘲笑を、今までに見たことがあっただろうか。
 老婆は思わず、毒に倒れる姫の体を支えた。毒林檎如きでは殺せない。そう思って、彼女の首元に掴みかかって、そして。そのきめ細かな肌と、自らの骨ばった手指を見比べて。
 もう二度と、自分は一番になれないのだと悟った。目を瞑った娘が、尚も緩く笑んでいるのを知って、老婆は逃げ出した。
 意識のなかった姫はその情景を知らないはずなのに、まざまざと脳裏に浮かんで見えた。

「御母様はどうして……あんなにも愚かな女だったのでしょうね?」

 月しか見ていない夜。国一番の美女は、そっと微笑んだ。


♱⋰ 🌹⋱✮⋰ 🌹⋱♱⋰ 🌹⋱✮⋰ ♱
使用ワード 嘲笑、言い訳、毒

83 :露空
2022/12/31(土) 22:21:49

儚くそして強かな 言葉を綴る
ただ無垢に 浮かんだままに
そして かけ離れた意味へ  
私が一度忘れてしまえば
直ぐ この世に存在しないものとなるから
浮世の夜明けの如く
貴方に届けることができないから
化けろ 唯一の頂点へ

84 :やっきー
2022/12/31(土) 23:11:36

当たり前に空はある
当たり前に海は繋がっている
当たり前の、青、蒼、碧
近いようで遠いような
そばに在るのが当たり前のような
そうでないような
梅雨になったっていつかは晴れて
氷河だっていつかは溶けて
また、あの青が、その蒼が、この碧が
きっとそばに在るのでしょう
私はどうやら、どのアオも好きらしい

86 :ベリー
2023/01/09(月) 02:25:40

 フィクションの世界は素晴らしい。
 
 皆が成長できる過程があるから。心打たれる場面が沢山あるから。皆が幸せになれる終わりを作ることができるから。

 ご都合主義が起こり得るから。

 現実とフィクションは違う。
 成長できる過程は自分で作らなければならない。心打たれても行動しなければならない。誰かが幸せになると、誰かが必ず不幸になる。

 そんなこと皆知っている。そんなこと僕でも知っている。

 けれど、皆思ってしまうんだ。
 フィクションと同じ事をしたら、その物語と似たような世界になるんじゃないかって。

 誰かが言った。

「今は辛いけど、必ず幸せは来るから!」

 周りに元気を与える系主人公が言いそうな言葉。

 大きさに寄るけれど、辛い出来事が連続で起こるなんて然う然うない。それを気付かせてくれる言葉。
 その”然う然う”は必ず無いと決めつけて、励ましてくれる素敵な言葉。

 誰かが言った。

「価値が無い人間なんて無い! 皆、主人公なんだよ?」

 落ち込んでいるネームドキャラを救おうとする王道主人公が言ってそうな言葉。

 自身の上位互換が溢れるこの世界。差別化が測れるというだけで、劣等でも価値があると教えてくれる言葉。
 本当に主人公じゃない僕を騙して、励まそうとしてくれる、素敵な言葉。

 誰かが言った。

「死ぬなんて言わないで! 貴方が死ぬと沢山の人が悲しむの!」

 絶望の渦中のキャラを止めようとする、真っ直ぐな主人公が言ってくれそうな言葉。

 家族、友人、知り合いの他。死後の処理をする知らない人。死亡の報道を見る知らない人。
 欠片も愛を受けない事が難しい現代。自身の死を悲しんでくれる人は必ず居ると教えてくれる言葉。
 自身の苦しみよりも、周りを優先しろという教え。それを、あくまで相手を気遣っている体で伝えられる、素敵な言葉。

 誰かが言った。

「死んじゃダメっ! 死んで良い人間なんて居ないの!」

 誰かを救うために、真摯に話してくれる光系主人公が言ってくれそうな言葉。

「明日いい事あるかもよ? ちょっと生きてみようよ!」

 本来、自然界に善悪は無い。だから、自身が生きやすくするために人の輪を作り、その中で善悪を決める。
 皆が幸せになるために作られた、悪を教えてくれる言葉。

「だから戻って来て! その場から離れて!」

 個人の苦しみよりも、皆の幸せを優先すべきという合理的な考え。皆生きなければならないという

「──素敵な言葉」


 誰かが言った。

 死ぬのは怖いと。死は恐ろしいと。
 精神が追い込まれた時よりも、何倍も辛いと。

 誰彼が言った。

 それらは綺麗事だと。
 フィクションのような美しい終わりを目指す人が言う、馬鹿げた言葉だと。みんなを救う主人公を目指す、哀れな人が言う言葉だと。

 誰が言った。

 それがいけない言葉だと。

 いくらそれで現実が変わらなかろうと、いくらそれが偽善だろうと、いくらそれに嫌悪を抱こうと。
 綺麗事と同じ内容の言葉を、心の底から吐いた人が必ず居る。

 それは、各々の人生を表した言葉。
 いけない言葉な訳が無い。
 当てはまるかどうかは、人に寄るだけ。
 押し付けるのが、いけないだけ。

 僕が言った。

「死ぬのは、怖い」

 モブが死ぬのを止めるために、脅しと似たニュアンスで主人公が言いそうな言葉。

 そんなこと、死にかけないと分からない。けれど、死にかけた事がある人なんて居ない。
 きっと、死にかけた事がある人が言った言葉。自身と同じ恐怖を味わって欲しくないと思ったであろう、先人の言葉。

 そして。

 それに今更気付いた。

 僕 だ っ た 肉 の 言 葉

◇◇◇

ふと思いついて書いたSS? です……。書けちゃったので、折角だから……。本当にパッと思いついて適当に書いたものなのでタイトルも何も無いんですが……
情景描写とか心理描写とか皆無ですけれど……。
あの、なんか、すみません。他の方と比べクオリティも低く、まともな物を書いていないSSを出してしまって、すみません……。

88 :げらっち
2023/01/14(土) 16:31:27

 俺の名はクリボー。

 種族名であり個体名ではない。俺らに個体名は無い。俺の代わりなどいくらでも居る。踏み潰されようが燃やされようが、土管から無限に湧き出す。その生命力が取り柄。
 かのマリオも気を抜けばクリボーが死因となる。当たって砕けろ、数の暴力が俺らの矜持。

 そんな俺ら、クッパ軍団での待遇は良くない。いや、悪い。
 配置されるとしたら草原や地下。本城は愚か支城にさえ置いて貰えることは無く、クッパ様に謁見する機会も無い。
 同僚や上司からの風当たりも強い。主任カメック様はこう言う。
「生意気なことを言うんじゃないよ、クリボー如きが! お前らは1-1の守衛でもして居な! 支城の敷居を跨ごうなんて烏滸がましいんだよ! 裏切り者の分際で!」

 俺は生まれた時からクッパ様に忠誠を誓い、クッパ様に命を捧げる覚悟をしている。
 では誰が裏切ったか。

 俺たちの「先祖」だ。

 キノコ王国を裏切り、クッパ軍団に寝返ったキノコがあった。
 初代クリボー。驚異の繁殖力で無尽蔵に子孫を残した。その遺児たちが、クッパ軍団でこき使われている。

「カメックのババアデスクワークばかりで現場の苦労を知らねえんだ。あれで俺らの給料の3倍は貰ってるときちゃやってらんねえよな」
 隊長がそう言った。
「はい。でもマリオを殺せば特別賞与があると聞きます。俺たち雑魚にも、夢はあります」
「そうだな」
 隊長はニヤリと笑った。
「だがマリオもいくらでも蘇る。果たしてマリオと俺らクリボー、どちらの方が生命力があるのか」
「新米である俺にはそんなことはわかりません。そもそも、俺らとマリオでは生命のシステムが違っている筈です」

「では時間だ。クリボー軍団、出発!」

 持ち場に向かっていると、空中に固定されたブロックの床の上から俺らを見下し、声を掛ける者があった。

「おい裏切り者の雑魚! 命を捨ててでもマリオの残機をちっとは削っておけよ! 俺らの仕事が楽になるようにな! ヒャッはっは!」
 ハンマーブロスがハンマーを投擲してきた。俺たちはそれをかわす。当たったら簡単に死ぬ。
 こいつらは亀一族の上級兵士なので俺らより余程位が高く、クリボーを殺しても看過される。そりゃ、飛び道具がありゃ出世もするよ……

 道中多くの先輩たちとすれ違う。

 ジュゲム。こいつも亀一族。有給をしょっちゅう使って職場から姿を消す。俺たちには有給なんて使わせてくれないのに……

 テレサ。夜勤専従だし抑々部署が違うのでほとんど顔を合わすことが無いが、会ったらパワハラまがいの嫌がらせをしてくる卑劣な奴。

 ボム兵。物言わぬ特攻隊。
 少し親近感が湧くが、ただの兵器なので、意思疎通は図れない。

 ヘイホー。元はクッパ様ではなくマムーという異世界の悪党に付き従っていた奴らだ。だのに、今は契約社員としてクッパ軍に居る。
 外国人のように言葉が通じず、コミュニケーションが取りづらい。俺らとは違う人種だ。

 1-1入りする。

 ノコノコ。俺たちと同じセクションに配置されている他、各地で見かける。
 緊張感無く踊り歩いていやがる。これでもクッパ様と同じ亀一族というだけで俺らより給料が高い。
 こいつらの不注意でコウラの流れ弾を喰らい、多くの兄弟が死んだ。ヒヤリ・ハット報告書は、何故かクリボーがか書かされている。

 こんな奴らが俺らより格上とは、ムカつくぜ……

「よし、マリオがうっかりぶつかってしまうような位置につけ!」
 隊長の掛け声にて俺らは三々五々、散って行った。

 だが、何処に行けばいいのだろう。新米の俺にはわからない。
「隊長、どうすれば?」
「俺が必勝法を教えてやろう。穴のすぐ傍に陣取るのだ。マリオは着地時が最も脆く、穴を避ける余り穴の近くに居る俺たちにぶつかってしまうことが多い」
「成程、流石隊長! 殺したマリオは星の数!」

 隊長はスタスタと穴の近くに歩いて行く。俺はそれを追う。

「ギリギリまで穴に近付くんだ」
「はい」

 隊長は尚も歩く。

「そろそろいいんじゃないですか?」
「もっとだ」
「え?」
「ギリギリを攻める」

 隊長は歩調を緩めることなく奈落に迫って行く。俺にその勇気は無い。
 流石クリボーの中のクリボー。痛みを痛みと思わず、怯まずマリオにぶつかって行き、功績を上げた人だ。
 俺は尊敬のまなざしで隊長を見ていた。隊長は何かに憑りつかれたように、穴に向かって行く。このままだと、落ちる。

「隊長、止まって下さい!!」

 隊長は止まらない。

「たいちょおおおおおおおおお!!?」

 隊長は真っ直ぐに、穴に落っこちていった。

89 :92
2023/01/16(月) 20:04:05

ちょっと被ったかもしれない

イチイチクリボー

髭面のオッサンが目の前で変な踊りを始めた。かと思えば、
いきなり走り出し、こちらへ突っ込んできた。俺はオッサンに噛みつき、おっさんを倒す。視界が真っ暗になり、またオッサンが目の前に立っている。コイツを倒すのが俺の目的。与えられた仕事。俺はここ1-1の最初の敵として、オッサンを倒さなければならないのだから。

今の仕事に不満があるわけではない。向かってくるオッサンが変な踊りを始めた時には流石にムカつくが、俺のオッサン撃退率は中々のものだし、決して待遇が悪いわけでもない。まあせいぜい仕事に不満を言うとすれば、オッサンしか目の前に現れないことぐらいだ。例えば姫とか美人なやつが来たら、もう少しテンションが上がる気がする。

オッサンだらけになった頭を振り、気分を変える。オッサンはまた俺にぶつかってきた。学ばない奴だと思いつつ、噛み付く。奴は何回か俺にぶつかった後、ようやく俺の頭を飛び越えて猛スピードで走り抜けていった。あの調子じゃ誰かにぶつかるような気もするし、オッサンに負けたという事実もあるのに何故だか清々しかった。俺みたいな雑魚じゃなく、せめてもうちょっと格上の敵に負けて欲しいような気がする。

まあ文句を言うとするならばやっぱり、もうちょっと美人な奴に来て欲しいってところだ。

91 :黒帽子
2023/01/20(金) 10:17:39

私はノコノコである。クッパ様に忠誠を誓ったカメ軍団の一人で、ピーチ姫を奪い取ろうとするマリオを撃退するのが仕事だ。さて、今日のシフトは「第3地区第1拠点」近辺の階段でマリオを待ち伏せることだ。最近の解析で分かったことは、第1地区と第4地区の地下エリアにて、マリオの奴が我々の帰還用土管を勝手に使ってクッパ城のある第8地区までやってくるようになったことだ。第2、第3地区は案外ローリスクな仕事となっているし、ファイアマリオが来ないことを祈ろう。
早速警報だ、奴が攻めてきたな?土管を使わず片っ端から拠点を攻めていくのは余程自信があるやつか、訳もわからず突き進む方向音痴のはずだ。まあ、方向音痴の可能性が高いだろうけど。
「敵襲!緑の帽子です!」

高いところで見ているが、いつものマリオと違って緑色の帽子をかぶっている。噂でよく聞く、マリオの弟のことか。滅多に姿を見せないが、兄顔負けの勢いでやってくる。

「ぐわあ!」
「うぎゃあ!」
「ギエピー!」
同胞が次々と倒されていく。ファイアマリオのような姿でもないし、ましてや虹色に光ってない。今回は化け物か!

近づいてきたので、階段を駆け降りた。マリオの弟は、階段付近で一気にジャンプ、1秒後には私の頭上だった。
私は踏まれて咄嗟に甲羅にこもった。あとは蹴られるだけか。
それにしても痛い!階段だからか逃げ場がない!遠慮なくガンガン踏まれる。3年ローンで買った甲羅がもう凹んで使い物にならなさそうだ。
だが時間をここで潰してくれれば増援がやってきて、奴も捕まるだろう。早くやってきてくれ。

しかし、苦しみからは予想よりも早く解放された。
踏まれる感触は無くなった。ルイージはあっさりと拠点へ侵入してしまった。ああ、今日の報酬が半額になってしまう。

甲羅から頭と手足を出して、階段を上がって陥落された拠点を確認した。拠点からマリオの弟が出ていくではないか。しかもさっきは一人だったのに100人ほどの大群となって次のエリアを攻めている。ああもうおしまいだ。

その時、一本の連絡が来た。
「マリオが単身でクッパ城に突入してきた。」
兄弟揃ってカメ軍団を壊滅させる気だ。明日から仕事どうしよう。

fin

94 :ベリー
2023/02/10(金) 23:58:09

ああ、思い出しただけで鳥肌が立つ。
口にするのもおぞましい。

それでも君はこの話を聞くのかい?
そうか、なら仕方ない。途中でナシは、無しだからな? ヨシ、では話そう。

碧がどっぷりと漆黒に沈んだ丑三つ時。ふと、俺は目が覚めたんだ。
知らない天井だ──という展開はなく、俺の視界には何時もの俺の部屋の景色が飛び込んできた。

ただ、異様な点は一つ。

腹に違和感を覚えたんだ。
それは、とても形容しがたい感覚でな。胃が不気味に独りでに藻掻いて、その振動が喉までやってきたんだ。
痛くも無ければ苦しくもない。ただ、居心地は悪い。

俺は胃の命のまま、自室を出たんだ。

フラフラと、いつもより暗く薄い色彩の廊下を歩いてたどり着いた部屋。
そして目の前には、箱があった。
真っ白で、とても自然的に出来たとは思えないツルツルで綺麗な箱。

俺は、躊躇わずにその箱を開ける。すると途端に入る白を極めた針が俺の目を突き刺したんだ。
ジンジンと痛む自分の眼球を抑えるが、それでも胃は命を下ろすことを辞めない。

俺の体は勝手に動き、箱の中に入ったおぞましい物物を取り出した。
1つは、哺乳類の肉とは思えない、宝石のような膨らみを持つ真っ赤な死骸。
もう1つは、羽虫ぐらいの大きさの白い死屍累々。
更にもう1つは、第一関節程小さな腐肉色をした輪の集合体。
最後に、飲むともがき苦しみ死に至る、古血色の液体。

 それらを揃えた瞬間、俺は恐怖でどうにかなりそうだった。
 戦慄という名の稲妻が足から全身に走ると同時に、さっきよりも冷たい部屋の空気が俺を肌を突き刺す。ただ、課せられかけている”罪”に押しつぶされ、どろっとした内蔵が口から飛び出そうだった。

 そんな俺を見ても、胃は命をし続けた。

俺は行けないことと分かりながらも、死屍累々を抉りとる。
そこに、新鮮な死骸を無慈悲に置いて腐肉色の輪を乗せた。最後に、毒液をたらり。

 あぁ、もう後戻りは出来ない。

俺の心身は既に”罪”に押しつぶされていて、折れた肋骨が腹に刺さるほどの心の痛みを感じた。
 そして、棒2本手に取る。

 毒液がかけられたルビーと言われても違和感がない死骸を棒で囲み、死屍累々と腐肉色の輪諸共掴みあげた。
 そして、それを。

 ──口に運ぶ。

 初めに口内を襲ったのは死骸だった。俺の舌に死骸自身の長所を押し付けて、無責任に溶けてゆく。
 ただ、それだけでは俺は屈しない。
 そこで出てきたのが毒液。毒液らしく俺にしょっぱい刺激を刺して、死骸が如何に滑らかで優しかったかを叩き込む。
 そこに割り込む死屍累々と輪。死屍累々が毒液の刺激をカバーして、死骸と上手く融合。輪はシャキシャキと悲鳴をあげて、俺を楽しませた。
 毒液の努力は全て水の泡になったのだ。

 それらを嘲笑った俺は一言。

「マグロ丼うめぇぇ……!」


 朝起きたら、シンクの中に洗い物が一つ増えてたんだ。
 冷蔵庫の中には、特売のマグロの刺身と、お冷が無くなって、ネギと醤油は減っていた。
 それと昨晩の記憶を重ねると、もう恐ろしい……!

 お前も気をつけろよ?
 俺の話を聞いたからには、お前も深夜の飢餓感に耐えられなくなってマグロ丼を食ってるかもしれねぇ……。

 俺は、責任を一切も、追わないからな──

◇◇◇
読み直し無しで、衝動的に書きました。
誤字脱字絶対ある。失礼しました。

103 :92
2023/02/19(日) 16:14:15

「ねぇ、さっきの映画で食べたポップコーンマジで美味くなかった?」
一緒に映画を見た友人の一人・咲奈から声をかけられ、ふと優香は顔を上げた。
「え、ポップコーンって大体美味しいもんでしょ。美味しくないポップコーンって何?」
もう一人の友人の陽菜もしゃべりだし、ポップコーン談義が始まる。
「おいしくないポップコーン…百味ビーンとかじゃない?」
咲奈はこの前3人で行ったテーマパークに置いてあったお菓子の名前を挙げた。でも多分あれはポップコーンではない。優香は声を出した。
「百味ビーンはポップコーンじゃなくない?ただの豆でしょあんなもん。」
優香がバッサリ答えるも、咲奈は、ただの豆ではなくない?などとまだブツブツ言っていた。
「ねえ、次どこ行く?そろそろご飯食べたいんだけど。」
優香が尋ねると、勢いよく咲奈の手が上がった。
「わたしファストフード食べたい!」
ファストフード。
「よしコンビニで済まそう」
咲奈の言葉を完全に無視し、優香は立ち上がった。


まだ2月だからなのか、まだ寒い。手を擦りながら歩いた。
「ひーなー。優斗にバレンタインチョコ渡すって前言ってたよね。いよいよ明日じゃん!」
コンビニが見えてきた頃、咲奈が陽奈に喋りかけた。優斗は学年の中で一番と言われるほどの人気者で、好意を抱いている人も相当多いと聞く。
「やっぱ無理かもしれない。彼女いるって聞いたことあるし…」
「そっか。そんな時もあるよね。」
「気にしてないから大丈夫。さっさとご飯食べよう?」
コンビニに入ると、優香はアンパンとイチゴ牛乳を買って席取りのために外に出た。
空いているベンチに座り、一息つく。
「咲奈、陽菜、何買った?」
「優香、席取りお疲れ。私はから揚げ太郎と飴。咲奈はおにぎりとグミだってさ。優香は?」
「アンパンとイチゴ牛乳。」
優香が答えると、張り込みする刑事かよ!と笑われてしまった。美味しいんだけどな。
「ご飯食べ終わったらクレープ食べない?確かここまでにくる間にあったじゃん」
「あそこゲーセンの中にあるじゃん。校則でゲーセン入るなってことになってるしやめとこうよ。」
咲奈が提案するも、陽奈にバッサリ切り捨てられてしまった。
アンパンを頬張っていると、隣に座っていた咲奈が耳打ちしてきた。
「ねえ見て、あそこに優斗がいるよ。」
咲奈の目線を追うと、確かに優斗らしい人が見えた。隣に女の子を8人ほど連れている。
「え、めっちゃ女の子侍らせてるんだけど。最低。」
陰湿な目で優斗を見つめる咲奈と、女の子を8人侍らせるというあまりの衝撃に、優香も思わず笑ってしまった。
「ねえねえ、陽菜、見てあれ。告白できなくても良かったと思わない?」
優香は陽菜に声をかける。少しは気分も晴れるかもしれない。
「うっわ、何あれ。あの中に入ることになってたかもしれないと考えれば…これは確かに告白しないことにして良かったかもしれない。」
陽菜はため息をついた。
「よし、さっきはああ言ったけどクレープ食べちゃおう。あれ見た後で気にするものなんて何もないよね。」
優香は思わず拳を握ってガッツポーズを繰り出した。
じゃあ私チョコのにしようかな、期間限定のあるかなーー
年頃の少女たちの会話は止まらない。

151 :ダーク・ナイト
2023/02/23(木) 12:26:26

「幸せとは」

私は考える。
幸せとは何かと。
「幸せ」と言う言葉は現実に存在しているのだろうか。
言葉だけの、絶対にありえないことではないのだろうか。
どこかで戦争が起こってしまう。
どこかで喧嘩が起こってしまう。
「幸せ」を作るにはどうすればよいのだろう。

「幸せ」とは何か。
「幸せ」と言う言葉は永遠に行き続けるのだろうか。
一瞬だけの小さな小さな光ではないのだろうか。
どこかで病気が起こってしまう。
どこかで飢餓が起こってしまう。
「幸せ」の時間を長くするにはどうすればよいのだろう。

暗い道の中、「幸せ」「不幸」この二択は紙一重。
自分の行いによって
自分の進む道が決まる。
「幸せ」は本当は不幸で、「不幸」は本当は幸せかもしれない。
「幸せ」は本当はなくて、「不幸」も本当はないのかもしれない。

人生をどう生きるか。
それを考えていくことは、進む道を選択することに当たるのではないだろうか。
人生を少しでも明るくするために
自分はどうするべきなのだろうか



やや詩っぽくなってしまいました。
コレは100%盗作ではありません。

159 :ダーク・ナイト
2023/02/25(土) 12:52:37

「悲しみの花束」二話

私が勘違いしただけなのに。
勘違いだったなら優しく勘違いだって言ってくれたら良かったのに。
「人を信用することもできない君は、もういらない。」
その言葉が、心の中でエコーされていた。
「良いよ、もう。やっぱりあなたはそんな人だ。」
私は涙をぐっとこらえ、彼に向かって言った。
「私にもうあなたはいらない。」
できるだけゆっくりと言った。
涙がこぼれ落ちないように。
このくすんだ雫を見られないように。
「僕だって、君はもういらない。」
彼はそう言い残し、背中をくるっと向けて去っていった。
さっきまで2人を包んでいた暖かい風は、あっという間に冷たく変わってしまった。

ー数日後
私は、親戚の家で開かれたパーティーに呼ばれた。
この前の重みが背中にズシンと乗っているようだ。
どうしても気が進まなかったが、引っ越す日までの最後のパーティーとなるため、行くことにした。
「やほ! 美久! 綺麗になったねぇ!」
と、中学生時代の友人に言われた。
「ありがとう。」
とだけ返しておいた。
パーティーが始まって10分くらい経っただろうか。
友人が言った。
「そういえばさ、今はみんなどんな感じで恋愛進んでるー?」
みんな口々に、
「いやあ、実はね、新たな彼氏見つけちゃってー。」
「俺は婚活中。」
だとか、幸せな事ばっかり言っていた。
友人は、
「良いなぁ、みんなあ! あたしなんてまだ相手も決まってないよぉ。」
と言っていたが。
私はひとり黙っていた。
まさか、別れたなんて言えない。
「美久はどうなの? 最近は。」
と友人が言ってきた。