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┗380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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1 :げらっち
2024/04/11(木) 14:35:08
戦隊の養成学校、戦隊学園。
アルビノの少女七海が、色とりどりの戦隊に憧れ、虹色の戦隊、虹光(こうこう)戦隊コボレンジャーを結成するお話です。
【第1章】
○コボレ結成編
第1話 青春のポータル >>2-12
第2話 赤と黒 >>13-24
第3話 白日夢 >>25-32
第4話 よりどりみどりのクラス >>33-45
第5話 滅茶苦茶な夜 >>46-58
第6話 小さな黄、大きな桃 >>59-68
第7話 5色のコボレンジャー >>69-79
○戦ー1編
第8話 試金石 >>80-89
第9話 白球勝負! >>90-101
第10話 イロ違い >>102-114
第11話 白熱のコボレ >>115-129
第12話 コボレディ・イン・ブルー >>130-142
第13話 赤裸々の授業参観 >>143-155
第14話 黒星 >>156-167
第15話 ショッキング・ピンクな巨大化 >>168-179
○転校生編
第16話 紫色の転校生 >>180-189
第17話 紫色のクローバー >>190-203
第18話 グリーングリーンズ >>204-208
第19話 白紙に色を塗る >>209-217
第20話 お金の力は素晴らしい >>218-230
第21話 おいしい黄桃 >>231-242
第22話 友情の黄金比 >>243-253
第23話 目に青葉、胸に夢 >>254-262
第24話 茶番劇 >>263-267
○校外学習編
第25話 赤の世代 >>268-280
第26話 グレーゾーン >>281-291
第27話 白兵戦 >>292-305
第28話 ブラックアウト >>306-318
○虹の描き方
第29話 白亜紀からこんにちは >>319-333
第30話 桃源郷への道 >>334-341
第31話 ブルースカイ >>342-353
第32話 イエロージャーナリズム >>354-363
第33話 シルバーブレット >>364-372
第34話 黒歴史 >>373-380
○最終決戦
第35話 戦隊の証 >>381-392
第36話 レッドカード >>393-400
第37話 真っ赤なウソ >>401-413
第38話 トリアージ:黒 >>414-428
第39話 出色だね >>429-438
第40話 虹色のコボレンジャー >>439-448
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432 :げらっち
2024/08/12(月) 23:01:11
《七海》
私は天堂茂と共に小型の円盤を撃墜しつつ、中央校舎にやってきた。
建物内には負傷した生徒たちが避難していた。エレベーターは止まっていたため、非常階段で10階まで上がる。重労働だが休んでいる暇は無い。
「ま、待て小豆沢!!」
変身は諦め、茂を引き離し、カン、カン、階段を駆け上がる。円盤の攻撃によるものか、大きな揺れが頻回あった。高所なので余計に振動を感じる。手すりに掴まって耐え、また登り出す。
最上階に着いた。天井は一部穴が開き、廊下には瓦礫が散らばっていた。
校長室の扉は壊れてひしゃげ、隙間ができていた。私は痛む体をそこにねじ込み、入室した。ノックは要らない。
「校長先生! 居ますか!? ご無事ですか!?」
停電した室内。崩れた天井から射し込む光りだけが足元を照らしている。
私は蹴躓きながら校長先生を探した。
「私、校長先生に、大事なものを預けました。お願いします、もう一度頂戴したいんですけど……!」
返答は無い。もしかしたらもう避難したのかもしれない。
そう考えた矢先。
血と死の匂いがした。
魚屋さんのような生臭さ、鉄錆のような無慈悲さ、体の内側の酸っぱさ、校長先生の寝室から漏れ出ている。
匂いはときに他の感覚を凌駕すると、凶華がそう言ったのだっけ。匂いは記憶とリンクする。
あの返り血。楓の父である怪人を殺した時のことを思い出し、こみ上げるものがあった。そして何が起きたのか、わかった気がした。
寝室で、うつ伏せに倒れている校長先生。
「先生! 校長先生!!」
洗顔の時のように、目が水に覆われた。この涙は突発的な悲しさか? 恐怖か? 死に触れたことでの万感か?
わからない。わからないけど泣いていた。
私は校長先生を揺らした。体は冷たかった。死んでいるのはわかったが、揺らし続けた。そうすれば、生き返ると、信じているかのように。
最後に会った校長先生は、悲しそうにしていた。私が戦隊証を返した時だ。失意の中亡くなったと思うと、胸が張り裂けそうだ。
遺体の背中には2つの穴が空いていた。黒く焦げており、1つは心臓部を抉っている。
明確な殺意を感じる。殺されたんだ。
それも、炎魔法に。
「赤坂いつみ!!!!」
私の心臓は、バクバクと震えるように拍動した。まるで、死者の分まで、命を燃やそうとするかのように。
校長先生の動かない手の先に、小さな長方形のカードが落ちている。添付された写真からは、「自分」が睨み付けていた。
私は戦隊証を拾った。
「校長先生、もう一度お借りします」
久々に、「自分」の戦隊証で変身する。
「ブレイクアップ!!」
やはり他人の戦隊証とは解放感が違う。
私が秘めているイロが引き出され、魔法として、思いのままに具現化できるようになる。
車椅子の影に、何かが倒れていた。
これも死体か? いや、そうとは思えなかった。生気が無いという以前に、生命の痕跡さえ無かった。
そこに倒れていたのは校長先生のヘルパーだった。使い終わった人形のように事切れて置かれていた。
神の操り人形であり赤坂いつみと共謀し校長先生を騙した存在だ。
「フロストコロス!!」
生身でひねり出すのとは大違い。強力な魔法を思うがままに操れる。私はおよそ2秒で憎き人形を凍らせバラバラにかち割った。
「はー、はー……」
こんな傀儡に当たっても意味は無い。赤坂いつみを殺しに行かなくては。
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433 :げらっち
2024/08/12(月) 23:01:41
罹災した学園から出ることもできず、負傷者たちは校舎や体育館に避難していた。
怪我をした者を救護し、歩けなくなった者に肩を貸し、励まし合う生徒たちの姿がある。
人を助けるのはヒーローの本分だ。そういう点では、これこそが戦隊学園の正しい姿と言える。
しかし今まで内輪揉めをしていたのが、ピンチになってようやく助け合うようになるとは、なかなか愚かしい。
司令塔の無い戦隊など烏合の衆だ。
こうなったのも、校長先生の死や赤坂いつみの離反、Gレンジャーの壊滅により、今まで頼られていた教師陣が機能しなくなったからだ。
私はとある人物のことを思い出していた。
戦隊学園の教師でありつつも、徒党を組んで戦うことをヨシとせず、1人で戦い続けた男。本当は、仲間の大切さを、誰よりも知っている男。
人がごった返す体育館で、生徒たちに介抱されている教師の姿を見つけた。
青竹了、黄瀬快三、緑谷筋二郎、桃山あかり。同僚だった赤坂いつみにより無残に負けた4人が、包帯を巻かれ、マットの上に寝かされていた。
私はそこに声を掛けた。
「無事だったんですね?」
青竹先生は比較的軽傷で、目を動かし私を見た。
「なんとかな……まさかいつみのヤローが学園をこんなにしちまうとは。肝心な時に戦えず、不甲斐無い」
「死者は?」
「いや、今の所は確認されていない」
「1人を除いて、ね」
意味ありげな私の言葉に、青竹先生は「何?」と返した。
言うべきか、言わないべきか。言う必要があるだろう。私は喉と舌を動かし、伝達ツールとしての声を外に送り出す。
「校長先生は」
死んでしまった。そこまで言わずとも、青竹先生はその意味を理解したようで、カッと目を見開いた。
しかし私の言葉は最後まで出なかった。何故なら、爆音がし、熱波が走ったから。体育館の窓ガラスが全部割れ、生徒たちは悲鳴を上げ、青竹先生は呻いた。
ピカリポット及び小型の円盤による攻撃が激しさを増している。
私は青竹先生に怒鳴った。
「地下牢への行き方を教えて下さい!!」
「地下牢だと? 西校舎の地下にあるが……何故だ!?」
それだけ聞くと、踵を返して走り出す。
「待て、危険だぞ小豆沢七海!!」
危険じゃない道なんて無いよ。
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434 :げらっち
2024/08/12(月) 23:02:00
私は地下牢に降りてきた。
薄暗い階段。ひんやりとしたコンクリート。ここまでは、地上の爆音も響かない。
学園に敵が入り込んだ場合などに捕らえておく牢だと聞く。避難したのか、看守も誰も居ない。
電灯に照らされた鼠色の地下空間。
小型のトイレ以外には何も無い簡素な牢が続いている。
最奥の牢。
闇の中に、真っ黒い人が座っていた。
ブラックアローンだ。
彼は戦ー1で私たちを襲った後、地下牢に投獄されたと、新聞で読んだ。
私は黒い鉄格子に手を掛けて言った。
「久しぶり。話したくて来た」
挨拶など返す柄では無いと知っている。私はすぐ本題に入る。
「外で戦争が起きている」
ブラックアローンはいつも通り変身した状態だ。真っ黒いマスクに大きな赤い単眼。
「いつものことだろう」
壁から飛び出した固そうな石のへりに腰を掛け、うつむいている。
「ねえ、力を貸してよ。あなたもここの教師でしょ? 現状頼りになるのはあなたしか残っていない」
「言ったろう。虹が消えたら、暗雲が立ち込めるとな」
「そしたらまた掛けるだけだよ。うじうじすんな、ムカつくな!」
私は鉄格子を蹴った。ガン、音は地下を木霊する。爪先が痛かった。
「私はあなたの過去を見た。あなたが影の中に入り込んだ時、私に記憶を託していたんでしょう? あなたは私に忠告してくれていた。それには感謝する。でもさ」
でもさ、
「過去は過去じゃん! いつまでも引きずられて後ろを向いてちゃ、ヒカリさんが悲しむよ!!」
やはりこの言葉は刺さったか。ヒカリ、その名前は穿ったか。
ブラックアローンは顔を上げた。大きな赤い単眼が私を見た。
「貴様にヒカリの何がわかる」
「なーんにも。思い出の量はあなたと比べ物にならないでしょう。でもわかることがある。私はあなたの記憶を見た。あなた自身よりも冷静にね」
ニジレンジャーが女社長オーソに負けた時、黒木飛一郎は感情を遮蔽した。
その先に起きたことを脳の四隅に押しのけて考えないようにしていた。
でも私はクリアな状態でそのシーンを見た。感情が入らなかった方が、より確実に物事を見れる場合もある。岡目八目という言葉もあるくらいだ。
「あなたは隠し事をしている。自分の記憶を捻じ曲げて。忘れようと努力して」
「……」
「ヒカリさんは、生きてるんでしょ?」
ブラックアローンは黙ったままだけど、それは肯定を意味しているとわかった。
「じゃあ何で一緒に居てあげないの? ヒカリさんはあなたと居たいはずだよ。学園で余計なおせっかいを焼いている暇があったら、自分のすべきことをしなよ」
ブラックアローンは立ち上がった。
「余計なおせっかいはお前だ!!」
ブラックアローンは黒いマスクをむしり取った。眼帯を付けた白い顔が現れる。私と同じアルビノだ。
2メートル近い体躯に、私は気圧されそうになった。でも鉄格子を握り締め離れない。
ブラックアローンはごつい手で鉄格子を叩いた。牢全体が大きく揺れた。
「……俺のせいでヒカリは重傷を負った。ヒーローとしての未来は潰えた。仲間たちは死んでしまった。俺はヒカリに会う権利など無い!」
「まだそんなこと言ってる!! だからあなたは闇から出れないの!!」
ボサボサの白い髪に、白い無精髭の生えた骨ばった顔。青い瞳に血走った目。
この男は弱い。
ヒカリさんという一筋の光りが無ければ、生きてこれなかったぐらいに。
「今度はあなたが、光りになってあげる番だよ。あなたはもう一度ヒカリさんに会うんだ。ヒカリさんにとってもあなたは光りなんだからね」
彼、飛一郎は、目をしばたいた。
急に毒気の無い顔になった。
「……ヒカリ?」
「ヒカリじゃないよ。私は七海!」
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435 :げらっち
2024/08/12(月) 23:02:23
「お願いだ、私の友達を助ける手助けをして欲しい」
飛一郎は眉間にしわを寄せた。
「だがここから出ることはできん」
「どうして? 貴方は全てのイロを貰った上に、闇の魔術まで心得ているでしょう?」
「教師共が檻に細工した。呪詛返しだ。この堅牢にはどんな魔法も通じない」
私は牢を観察した。さっき私が蹴った部分が、僅かだが歪んでいた。
私は渾身の力で蹴ったとはいえ、たかが女の力で傷付くとは大したもんだ。さっき飛一郎が殴った際にも鉄格子は大きく揺れた。
「魔法がダメなら、物理で乗り切るってのはどう?」
コツン、私は鉄格子を叩いた。
魔法の護りに過信したのか、牢自体の強度を高めなかったようだ。
飛一郎は両手で鉄格子を掴み、全身をいきませた。
「フン……ッ!」
白い肌が紅潮する。鉄格子はプラスチックでできているかのように、軋み、歪んだ。
飛一郎はその隙間を通り抜け、私の傍に出た。
「で、次はどうするんだヒカリ」
「ヒカリじゃなくて七海だってば! 全然似てないでしょ! あんな可憐じゃないよ私は。ってかふざけてるとヒカリさんが悲しむよ」
私と飛一郎は地下牢から出ようとした。
すると喧騒と共に生徒たちの大波が流れ込んできた。誰も彼も頭から血を流し、服はボロボロに煤けている。
「地下なら安全だぞ!!」
「逃げろおおおお」
水が流入したように私たちは牢の中に押し戻された。
「任せろ」
飛一郎は大きな体で人波を逆らって歩いた。流れるプールを逆走するように、彼はしっかりと歩み、階段を登る。私は彼の背中に引っ付いていた。
外に出ると、生徒たちが地下に逃げ込んだ理由がよくわかった。
ピカリポットが連続光弾を降らせ、いよいよ戦隊学園は終わりの時が近かった。
「この世の終わりだあああ!!」
遅れて誰かが走ってきて、頭と頭がごっちんこ、私は尻餅を突いた。
「いった! 前向いて走って!」
相手も尻餅を突いていた。
「何だと、僕を誰だと思って……小豆沢七海!!」
「天堂茂!!」
あの赤い戦士だった。
「どうなっているんだ!? リーダーを気取るなら説明責任を果たせ!!」
「かくかくしかじかです」
私がふざけると、茂は私にチョップを決めようとした。
「この、白子(しらこ)――!」
巨体が茂を押しのけた。
「白が悪いのか?」
飛一郎の白い顔に見降ろされ、茂はブルった。
「は、はい、すいません、先生」
「教師相手とわかるとへつらうとは見下げ果てた奴だ。まあいい。俺はお前に恩がある。お前が居なければ、俺はヒカリに出会えなかったのだからな」
「……はあ?」
それは初代クローンの話だ。
「ていうか、黒子が天堂茂に関する記憶を消しに来なかったの? 何であなたは昔の天堂茂のことを覚えているの?」
飛一郎は答える。
「確かに黒子は記憶を抹消しに来たが、あんな貧弱な奴らはぶん殴って追い返してやったさ」
んな無茶苦茶な。
「どうしよう。ピカリポットを止めないと」
「お前の光りがあそこにあるのだな?」
飛一郎は私の背中を叩いた。
「よし、虹を掛けてやれ」
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436 :げらっち
2024/08/12(月) 23:02:40
「虹を?」
7色の虹を掛けろと?
でも現状、自陣は3人だけだ。黒と白と赤。
天堂茂はちょっと頼りないし、飛一郎は心強いとはいえ、3色では到底虹になれない。
「お前に言われて気付いたよ、ナナミ」
飛一郎は、ちょっとだけ笑った。
「戦隊には切っても切れない絆がある。俺はかつての同志たちのイロを貰った。俺の中にはヒカリの赤が生きている。お前の中にも仲間たちのイロが、宿っている。虹は作れるさ」
「いいじゃん、前向きになってきたね」
レプリエルと対決した時、私は公一、佐奈、豚、凶華のイロを借りた。緑、黄、桃、紫。
足りないのは青だ。
「楓」
私は目を瞑って、彼女の青を、ぬくもりを思い出した。
握ってれば、あったかくなるよ!
彼女はそう言って、私の冷たい手を、握り締めてくれた。
友情に触れたことのなかった私は、彼女のぬくもりに触れることで、ようやく雪溶けし、心を覆う氷の鎧も溶かされた。彼女なくして公一や皆にも出会えなかっただろう。
初めて友達の手を握り、指を絡めた時、私は彼女に惚れてしまったんだ。心と心がくっついて、もう離れなくなったんだ。そしてきっと、彼女も私のことを好きになったんだ。
あたしと七海ちゃんは一心同体!
彼女はそうも言ってくれた。
一時的に離れ離れになっても、私の中にはいつも楓が居る。飛一郎の中にヒカリさんが居て、彼が炎の魔法を使えたのと同じだ。
「ブレイクアップ」
蝶がさなぎを突き破るように、ザリガニが脱皮をするように、自分の中にある本当の自分が、真の姿を曝け出し、拘束から解かれるような感覚だった。
私はコボレホワイトに成った。
「楓、公一、佐奈、豚、凶華、力を借りるね」
私はイロに尋ねる。イロはうんと言った。
私はそして、天堂茂を見た。
「あなたも」
赤い戦士は戸惑っていた。
「に、虹などくだらない。それが一体何に……」
「みんなに会いに行くんだよ。くだらない見栄を張ってないで友達になろう。そのほうがよっぽど気楽だよ」
「……わかった」
天堂茂は、僅かに、分度器で測ったなら1度にも満たないくらい頭を下げた。
それで十分だ。
「使え!!」
彼は赤を投げてよこした。私はそれをキャッチした。
私は天に照準を合わせる。
「ニジヒカリ」
私は虹を描いた。
赤、青、黄、緑、ピンク、紫、そして白。七色の虹が、虹色のアーチが、空を塗っていき、ピカリポットに突き刺さった。
円盤は呆気なく真っ二つに割れた。
円盤の割れ目から多量の雨粒が落下し、学園中の炎を掻き消した。
ピカリポットは分割されながらも、尚も浮いている。
「じゃ、行ってくる」
私は足元から伸びる虹を、踏みしめた。
「待て、お前だけでは心配だ。戦隊のエースはやはり常に赤だ。僕なくしてコボレは始まるまい」
茂もついてきた。
一歩、また一歩と、虹の階段を上がって行く。数歩上がったところで、ちらりと振り向いた。
「あなたも来る?」
私は地上に残って居る飛一郎を見た。彼はハッとして私を見上げた。
「……虹に黒は無い」
「何色でもいいんだよ! 黒でも白でもいいの、この虹は。行こ!」
「……わかった」
私は茂と飛一郎と共に、虹を駆け上がった。
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437 :げらっち
2024/08/12(月) 23:03:07
虹の道から降り立ち、亀裂の入った白を踏む。自然なのか人工物なのかさえわからない地面。空なのか天井なのか宇宙なのか判然としない天。
ピカリポットに戻ってきた。
変身している私と茂、そして黒いマスクを装着した飛一郎は、割れて遥か下の学園が見えている地から、より白の深い地へ進む。
白の中に、レプリエルが立っていた。彼は寛いでいるようだった。
「出色だね、小豆沢七海。まさか虹を掛けてここに来るとは」
まるで授業を受けているかと錯覚するほど、いつも通りの表情だった。
この男は残忍だ。
「あなたは校長先生を殺し、私の友達を奪った。死者は蘇らないけれど、私の友達は返して」
レプリエルは指揮棒を失った代わりに、指を上げた。
すると白の中に透明な球体が現れた。その中に公一、佐奈、豚、凶華の4人が入っていた。
4人は球体を内側から叩いている。だが音も声も何1つ届かない。公一の口を読唇すると、「にげろ」、そう言っているようにも見えた。
逃げるもんか。
「この4人はすぐにでもニジストーンに変えてあげられるよ。それに、これ」
レプリエルは青い石を握り締めている。ニジストーンになった楓だ。
「楓に触るな! 楓の手を握るのは、私であって、あんたじゃない」
レプリエルは有邪気に笑った。私との対峙を楽しんでいるのは、彼に余裕があるからか。
「こちらは計6色だ。たったの1色で、どう立ち向かうつもりかな♪」
「1色だと? この僕が見えなかったとは言わせないぞ! 戦隊の花形の赤が居る!!」
茂が私の左隣に進み出た。
レプリエルは目をこするジェスチャーをした。
「あれ? 見えなかった。余りにもつまらない赤で見逃していたよん。お前みたいな取るに足らない安いペンは、1色にはカウントしないよね?」
なかなかビューティフルな煽りだ。
茂は勿論激昂した。
「父上に言いつけてお前をクビに――はできないが、僕は僕の力でも戦えるという事を見せてやる!! 貴様の赤なんかより、僕の赤の方が上等だと!」
レプリエルは「威勢がイイね♪」と言った。
「それだけじゃない。彼も居る」
私がそう言うと、飛一郎が私の右隣に進み出た。
「おやおや飛一郎♪ お呼びでないが、何の用だい?」
「決着をつけにきた。仲間と離れ離れになり悲しむ姿を、もう見たくないのでな」
私たち3人、レプリエルに立ち向かう。
「バックドラフト!!」
突如、茂が動いた。白い地から炎が吹き上がる。
「こら待て、リーダーの指示をちゃんと――」
だが茂は怒りに任せ、炎の中に飛び込むと、火達磨になって特攻した。天堂茂の赤は、もう作り物ではない。情熱の本物の赤。私は止めることもせず見入った。
「バーニングヴァルナ!!」
火の玉が飛び上がり、頭突きを噛まし、光りの天使を押し上げる。
しかし炎相手に炎、しかもレプリエルの炎の方が余程強大だ。敵うはずが無い。レプリエルは翼を大きく開き、茂を受け止めた。茂の威力が落ちていく。
「うぜえよ!!」
レプリエルはニジストーンを使うこともせず、己の赤だけで反撃した。
「茂危ない!!」
「ボウライド!」
火球が飛び、茂は落っこちて、何度もバウンドして、変身が解けて倒れた。全身に火傷を負っていた。
「アイシング!」
私は冷気の塊を被せ、茂の全身を癒した。次に攻撃、
「スパイラルアイス!!!」
氷の螺旋で天使を狙い撃つ。天使は翼をはためかせかわす。何度も何度も魔法を撃っては、かわされる。
「どうした七海、その程度じゃないよなあ? 最初の授業の時、きみに教えただろう。魔法はダイナミック、かつ、精密である必要があると!」
「ブリザードフット」
レプリエルの頭上に氷雪のドカ足が現れ、天使の頭に強烈なかかと落としを決めた。ドゴン! レプリエルは虫けらの如く地に叩き落とされた。
「アドバイスどうも!」
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438 :げらっち
2024/08/12(月) 23:03:21
終わりじゃない。
「落ちろドカ雪!!」
空中の大足は巨大な岩のような雪の塊となり、レプリエルを押し潰す。
「ランプ」
炎が立ち上がり、雪は瞬時に昇華した。だがホワイトアウトした一瞬に、私は敵に駆け寄り、
「校長先生の分だ!!!」
赤坂いつみの顔面を、思い切り殴った。
天堂茂を鋭く殴った時とは違う、鈍い音が響き、赤坂いつみの顔面は180度後ろに捻られた。普通の人なら死んでる。
だがこいつは天使レプリエル。首はゆっくり反転し、にやけ顔が私を向いた。
「本気を出せよ♪」
レプリエルは青いニジストーンを掲げた。
楓が輝く。以前の手合わせで、私は彼女を「弱い」と唾棄した。前言撤回だ。そんなことは全然無かった。
「強い」
奇跡の力が私を掴み、遠くに放り投げた。飛一郎が私を受け止めてくれた。
「……ありがとう」
「僕を殺すことはできないぞ? どうする七海」
「では闇に閉じ込めてやろう。永久に」
飛一郎の手から黒い靄が生まれる。それは凝固しサーベルへと形を変えた。
「ブラックサーベル!!」
飛一郎はレプリエルに駆け寄り、サーベルを振り下ろす。しかしレプリエルは、小さな石で、いとも簡単に受け止めた。
剣先がニジストーンに触れるなりサーベルはバラバラに砕けた。
「スパイラルフレア!!」
レプリエルの魔法。業火が飛一郎を突き押す。飛一郎も魔法を使う。
「スパイラルスノウ!!」
闇に塗られる前の彼は白、私と同じ雪属性だった。未だに彼の核にある白いイロが雪を放つ。
「スパイラルフレア!!」
雪vs炎、押し負ける。飛一郎は、負けじと叫んだ。
「炎魔法スバル」
私は咄嗟に腕で目を庇った。決して大きくは無いが、眩しい光が、飛一郎によって放たれたのだ。
「スパイラルフレア!!」
レプリエルは反撃した。しようとした。だがその炎は光りによって裏返り、スバルはレプリエルの額にぶつかった。
「うっ」
レプリエルは、転倒こそしなかったが、大きく仰け反った。
私は目を細く開けて、キラキラと光りの粉が舞うのを見ていた。
飛一郎に目線を移すと、どうだろう。彼の胸は、赤く、温かく、光っていた。
「ヒカリ……」
飛一郎は自身の胸を撫で下ろした。
そこにヒカリさんが宿っていると、実感したのだろうか。
「ははっ、やるねえ。だがこれは僕と七海の戦いだ。てめえは呼んでねえよ!!」
レプリエルは、馴染みの呪文を、唱えた。
「ブレイクアップ!!」
戦隊学園の象徴であるGレンジャー、そのエースのGレッド。その強化形態。
「レッドエンジェル!!!」
つづく
[
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439 :げらっち
2024/08/15(木) 11:12:40
第40話 虹色のコボレンジャー
赤坂いつみ、レプリエルは、レッドエンジェルに変化した。
とにかく強い強い光りを放つ赤の戦士。背中からは真っ赤な翼が生えている。
「冷たい弾丸!!」
私は指から氷の弾を打った。だが。
「ゆきどけ」
赤い戦士が熱発し、弾丸は届きもせず水滴の姿にほどけた。
「業火絢爛!!」
炎の十字に、切り裂かれる。
「デコードブレス」
飛一郎が大きく息を吐き、火種の接近を防いだ。炎は私の目と鼻の先で十字に花開いた。
私は後ずさりした。飛一郎が囁いた。
「ナナミ、相手は炎と光りの塊だ。雪や闇では分が悪い。俺はスバルを連射する。お前も天に虹を掛けた時の技、ニジヒカリを使え。2人で攻めれば奴を倒せる」
「うんわかった」
ふう。大きく息を吐く。ここまできたら、戦うだけだ。
恐れることは無い!
狙いを定めようとレプリエルを直視するとその時。
「光り魔術:スポットライト」
恐れることはあった。
アルビノの弱点。どうしても克服できない恐怖。羞明。
レプリエルの体は激しく光り輝いた。私は咄嗟に両目を瞑り、両手で覆う。それでも体を突き抜けるほどの強烈な光りが、私のか弱い目に突き刺さった。
「やああああっ!!」
私はひれ伏すように、体を折った。目が燃えるように熱い。
「ぐあ……あああ!!」
隣では飛一郎も同様に突っ伏しているようだ。彼の悲痛な声が聞こえる。顔を地面に擦り付けても、光源に背を向けても、どこまでも追ってくる光り。
これはアルビノでなくとも耐えられるものではない。
このままでは失明する。強すぎる光りは、永遠に光りを消してしまう!
[
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440 :げらっち
2024/08/15(木) 11:12:54
「負けるか……!!」
飛一郎の声。
私は目を開けることができないが、音と気配で、彼が立ち上がったのがわかった。
「まだ邪魔をする気かい。死ねよ♪」
「死に急がないで!!」
私は必死に叫ぶ。
「あなたは生きて、もう一度ヒカリさんと会うんだから!」
「俺は大丈夫だ。ヒカリは体の内側から起こった炎で焼かれた。外側からいくら燃やされようと、ヒカリの痛みと比べればどうということは無い」
飛一郎はヒカリさんとの思い出を、罪悪の暗い過去と決め付けていた。
だがようやく解放されようとしている。現実を受け入れ、未来へ進もうとしている。
「それじゃあ、私も、負けない……」
私も立ち上がる。
目を強く瞑って、攻撃的な光りに耐えながら、レプリエルに向けて宣言する。
「私の友達を返して!!」
レプリエルの鼻につく笑い声が聞こえた。
「うふっ。友のために犠牲になる気かい? 泣けるねえ。いいだろう、僕はきみさえ手に入れば、後のことはどうでもよくなった。一緒に光りになろう♪」
それはノーサンキューだ。
「犠牲心って、大嫌い」
生憎私は、そんな美徳を持ち合わせていなくて。
「友達を返して貰っても、私が居ないんじゃ意味が無い。私は私のままで友達と一緒に居たいんだ!! 自分だけが犠牲になって皆を助けるなんておこがましい。コボレは7人、誰が欠けても務まらない!! 私は、楓に、会いたいんだ!!」
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441 :げらっち
2024/08/15(木) 11:13:30
私は目を見開いた。その瞬間死の光りは消えていた。視界はまだチカチカしていたが、それよりも、癒しの青が目に入った。
青いニジストーンが発光し、浮遊し、主張している。レプリエルは狼狽えていたが、次の瞬間、青い光りの筋に首を貫かれた。
「ひぃっ!!!」
レプリエルはしばらく体を震わせていたが、やがてあえなくひっくり返った。光りの筋はそのまま空を切り、公一たちの捕らえられている牢を焼き切った。透明な球体が割れ、皆が助け合いながら出てくる。
青いニジストーンは、キラキラ優しく輝いて、浮いたまま私に近寄ってきた。
色々なことがあった。色々なことがあり過ぎて、考えは二の次になった。
私は変身を解き、深く頭を下げ、ただただ、彼女に言おうとしていたことを言った。
「ごめんなさい」
許して。
私と仲良くして。
明るい答えが返ってきた。
「こっちこそごめん! これからも、よろしくね!」
顔を上げると、ニジストーンは楓の姿に戻っていた。楓は私の懐に落ちてきた。
私は彼女を思いっきり抱き締めた。
「会いたかったああ!!!」
「あたしも会いたかったよ!」
私は華奢な熱源を抱き締めた。このぬくもりを欲していた。寒くて寒くてたまらないので、なるべく心に近付けたくて、強く抱き寄せた。
「聞こえていたかも知れないけど。私が殺した怪人は、楓のお父さんだったんだ。嘘吐いて、隠し事して、1人で背負いこんで、ごめん。一緒に背負って生きていくべき事だったよね」
「当然だよ! あたしと七海ちゃんは一心同体だもんね!!」
楓も私を抱いた。私たちの心は、あったかくなって、くっついた。悲しさで何度も泣いたが、今度は嬉しさで涙が止まらない、どうしよう。
ずっとずっとこうしていたかった。
友達、できてよかった。
「これからもずっとよろしくね」
「オイ!! 2人きりでキャッキャウフフすんなや!!」
「オイラたちも戻ったぜリーダー! 一緒に遊ぼう!」
「何泣いてんですか。コボレがみんな一緒なんてのは、わかり切った事ですよ?」
「七海ちゃんはああ見えて結構ナイーブブヒからね! 僕と同じで!」
「黙れ豚」
公一が、凶華が、佐奈が、豚が走ってきた。
私は涙ぐむ目で、全員を見回した。良かった、みんな居る。
「ぐすんっ、それじゃあお待ちかねの、7人目のコボレ戦士を紹介しまーす!」
私が突如明るく言ったので、みんなキョトンとしていた。
「えー、何でこのタイミングなん!?」
「誰ブヒ誰ブヒ!?」
「誰であっても歓迎しよう!!」
私は倒れていた天堂茂を引っ張って、皆の前に立たせた。そして彼を小突いた。
「て、天堂茂だ。いいか落ちこぼれ共。僕が来たからにはオチコボレンジャーは学園一のエリートになるのだ。そしてエース兼新リーダーは、この僕だ!!」
案の定、大ブーイングが起きた。
最も怒っていたのは誰であっても歓迎しよう、との前言があった楓。
「はぁ? ふざけんな!!!」
佐奈は佐奈で何かブツブツ言っている。
「七海さんクレイジーなのは知ってるけど信じらんナイ。コイツはコボレの敵ですよ何度も何度も嫌がらせされましたよね? コイツがうちらに侮蔑的発言をしたという事実は銀河が滅びようと永久に消えませんのよ。忘れたんですか記憶障害ですかケツひっぱたいて思い出させてさしあげましょうか」
「まあでもコイツのお陰でコボレは成長できたのもあるしな」
公一は勇ましく茂に詰め寄り、面と向かって悪態をついた。
「絶対認めへん。ぶっ殺したる」
茂は少し怯みつつも眼鏡を押し上げる。
「ふん、認められないのも無理ないだろうな。僕が入れば、お前らの出来の悪さがより明白になるからな」
「何やねんコイツ!!」
豚もブーブー言っている。凶華はゲロかよー、と言って笑っていた。
楓は私に肘鉄を決めてきた。ニジストーンのレーザー並みに痛かった。
「七海ちゃん、コボレンジャーは、2人で立ち上げたんじゃん! また勝手に決めて、おこだよ!!」
膨れっ面の彼女の肩に、私は手を掛けた。
「まあまあ親友。友達が増えて、悪いことは無いでしょ? 茂は友達になりたいんだって!」
全員が茂の顔を見た。茂は顔を赤くして、「だ、誰がそんなことを言った!? 僕はレッド、戦隊の顔だぞ!? お前らとは格の違いが……」などと弁論していたが、尻すぼみになり、みんなやれやれと首を振った。
「ようやく7人そろったのか。めでたいな」
飛一郎が、そう言った。
「ナナミ、お前の虹を見せてやれ」
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442 :げらっち
2024/08/15(木) 11:13:50
ついに、7人そろった。
入学して以来の、いや、それ以前からの、白に生まれてからずっと抱いてきた、カラフルな友達に囲まれる、その夢が叶った。
楓は青。とても深い海のイロ。深淵には私なんかよりもずっと強い思いがある。一番最初の友達で、ずっとずっと一番の親友だ。
公一は緑。いつもは薄くて頼りないが、いざという時は濃くなり私を助けてくれる王子様。
佐奈は黄。小さな体に、稲妻のように激しい熱意と閃光のようなインスピレーションを持っている。コボレのブレーン。
序ノ助は桃。大柄だがイロは乙女チックで繊細だ。優しい土台は私たちには必要不可欠だ。コボレのボディ。
凶華は紫。悪の組織星十字軍の後継ぎで闇の力を持つが、同時に純真な心を持っている。忠実かつ世界の分別がわかる犬。
茂は赤。正義だのエリートだのを気取りコボレの裏の存在で居続けたが、本当は仲間が欲しいだけのかまちょ。他メンバーたちにボコボコにされている。
そして私は、白。
白も良い色だ。
「なんだよなんだよ、なんかいい雰囲気じゃないか」
レプリエルは立ち上がった。
「僕が負ける雰囲気じゃないか。でもね、ただでは負けないよ♪ 七海、きみの力を見せてくれよ!!」
翼を開き、飛翔した。高い高い位置から、私たちに狙いを付けている。
「最終決戦だ。みんな、変身だ!」
「おっけー!」
「了解や!」
「もちです」
「餅ブヒ」
「あいあいさー!」
「お前が、仕切るな!」
「ブレイクアップ!!!!!!!」
7人は一斉に変身した。
「コボレホワイト!!」
「コボレブルー!!」
「コボレグリーン!!」
「コボレイエロー!!」
「コボレピンク!!」
「コボレスター!!」
「コボレッド!!」
「虹光戦隊コボレンジャー!!!!!!!」
それだけで、勝ち確だった。
私たちの七色の光りは、上空の赤より、余程輝いていたのだから。
だがレプリエルは撤退の道など選ばず、イロそのものを降らした。
「神・魔・術 アガペー」
「いくよコボレンジャー、必殺技だ!!」
私の音頭にて、7人は上空に向け、それぞれのイロを飛ばす。赤と青と黄と緑とピンクと紫と白が練り合わさったこれは。
「オチコボレーザー・ヘプタ!!!!!!!」
私たちは、虹を描いた。
初めて本物の虹を見た。いや、本物の虹なんかより、余程美しく価値のある、コボレンジャーの仲間たちが描く虹。
7色で白い空間が塗られて行き、レプリエルの飛ばした術を塗り潰し、彼を包み込んだ。レプリエルは笑っていた。
「ははは……きれいだ……きれい……」
「勝ったようだな。やはりこの僕が居るのと居ないのでは戦隊としての力が雲泥の差なのだ!」と茂。全員が彼を白い目で見た。
油断は禁物だった。甘かった。勝ち確などでは、なかった。
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443 :げらっち
2024/08/15(木) 11:14:09
「アガペー」
レプリエルは術を強めた。虹がイロに押され、落ちてくる。
「みんな気を緩めない!」
私たちは重心を低くし、足に踏ん張りを効かせ、最大限に力を込める。だが押されている、何故だ。
「疲れたよ七海ちゃん!!」
「アイツめっちゃ強い……分が悪いですよ、ここで全員が一度にやられたら……!」
7人の本気でも勝てないのか!? 最悪の考えが頭をよぎる。
私は周りを見渡し、光明を見出した。
「飛一郎! あなたも力を貸して!!」
少し離れた位置に立ち尽くす大柄な黒い戦士。彼はためらっていた。
「だがナナミ、虹はもう七色そろっている。黒は虹には無い色だ。俺が力を貸せば、虹は闇に染まるかもしれない」
「またそんなこと言って!!」
もどかしい。
私はゴーグルの下から彼を睨みつつ、彼に手を差し出した。
「虹は何色(なんしょく)でも良いんだよ。8色でもそれ以上でも良いし、黒があっても良いんだよ。来て!」
飛一郎は大きい手で、私の手を握った。
「あなたはもうアローン(孤独)じゃないんだ」
「……そうか、ありがとう」
彼は私たち7人に加わり、イロを放出した。
「ふんっ……!」
虹に黒い線が追加された。白と黒の両面を併せ持った私たちだけの虹が、レプリエルの術をゆっくりと押し返す。
「あ!! 七海!」
「うわ、すご!!」
「ブッヒャ~!!」
?
最初、何故皆が私を見ているのかわからなかった。だがようやく気付いた。
「小豆沢、自分の体をよく見てみろ!!」
私の体は、虹色に輝いていた。
私は両手を見る。
白に、赤に、青に、黄に、緑に、ピンクに、紫に、七色に、いやそれ以上に。
黒に、オレンジに、藍に、水色に、金に、銀に、プラチナに。十四色に、二十八色に、七十七色に、私の体は、無限のグラデーションに輝いている!!
「お前自身が、虹になったか」と飛一郎。
私は名乗った。
「コボレインボー!!!!!!!」
レプリエルの術でダメージを受けていた目は完全に回復したどころか強化され、赤外線も紫外線も全て見える。この世のどんな色もイロも全部見える。無限のイロは、移り変わる1つのレインボー。鮮やかになり過ぎた視界では、レプリエルのイロは褪せて見える。
レプリエルは無限のグラデの虹に、胸を貫かれた。変身を壊され、翼が捥げた。
「ああああああっっ!!!?」
レプリエルは悲痛な声を上げた。
「殺してやれ!!」と凶華。だが私は犬を制する。
「殺しはしない」
「何でだよ!!」
「アイツは校長を殺したんだろう? 報いを受けて貰う必要があると考えるが!!」と茂。
奴が校長先生を殺した罪は消えないが、だからと言って私たちが奴を殺せば校長先生が戻るわけでもない。
仲間たちは帰ってきた。
「もう二度と私の仲間に手を出さないならそれでいい。光りに帰って」
私がそう言うと、コボレの仲間たちも一応は納得したようだ。
レプリエルは、赤坂いつみは、光りに包まれ、見えなくなっていく。
「うわあ……やるなあ、ななみ……! 僕の見込んだ、とおり……」
「あなたのお陰で虹を見れた。虹になれた。あなたは恩師だ」
彼は最期に、子供みたいに、無邪気に笑った。
「うらやましいなぁ」
輝くアーチと共に、彼は消えてなくなった。
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444 :げらっち
2024/08/15(木) 11:14:37
私たちは変身を解いた。
「ありがとう、いつみ先生」
紆余曲折はあれ、戦隊学園に入学し、いつみ先生と出会ったお陰で、カラフルなメンバーに出会えた。
「よっしゃ、帰るか!」と公一。
「じゃー七海ちゃん! みんなにメーワクかけた罰として、みんなにおごること!」と楓。
「よっしゃー! ティラミス1年分!! ゲロの分は無し!」と凶華。
「何でだよ!」と茂。
私はふっと笑った。おごるのは絶対に嫌だが、この先もカラフルな彼らと過ごせると思うと喜ばしい。
だがまだ終わりでは無かった。
ドゴオン!!!!
大きな揺れがあり、私は突っ伏した。震度8。白い空間が細動し、砕けていく。操縦士であるレプリエルが退場したらピカリポットが崩れるように設計してあったのか?
いや、そんなわけはない。ピカリポットが攻撃を止めたのをいいことに、学園の戦士たちが反転攻勢に移り、上空のピカリポットを総攻撃しているのだ。私たちが敵を倒したことに下界の奴らは気付いてない。
「全員脱出だ、早くしろ!」と飛一郎。
「けどどうやって?」と楓。
私たちが歩いてきた虹はもう消えてしまった。
「豚を巨大化させます」と佐奈。「メカノ助に乗って、ここから飛び降りればいい。豚はちゃんと着地できるだろうし」
「責任重大ブヒ~!!」
佐奈はコボレイエローに再変身し豚に電流を浴びせた。豚の質量が膨らむ。
その時、巨大な硬球が白い地面を突き破り、穴を開けた。穴の遥か下にはホームランジャーの巨大ロボ・ホームランオーがバットをスイングした後の姿があった。
『逆転サヨナラ特大ホームラン!! 決まったぜ!!』
「こらー、いつも活躍しない癖にこういう時だけ余計なことをするなー!!」
白が崩壊した。私の這いつくばっていた地面が陥没し、落下。
「わあああっ」
落ちて行く。
「七海!」
「七海ちゃん!!」
1人でスカイダイビング。真下に見えますのは、焼け跡となった戦隊学園。
絶景を堪能している暇は無い。ビュオオオオオオ凄まじい風音、皮膚も毛も内臓も風圧に引っ張られ苦しい。息ができない。
このままでは校庭に叩き付けられて死ぬ。
私の人生、素晴らしかった。最後の最後に虹を見れた。終わりは華やかカラフルだった。夭折、それもいいじゃないか。
いいわけない。ここからが本番なんだ。
「死んでたまるか!!」
私は宙を回転する。目下に、黒く煤けた時計塔が目に入る。
「雪クッション!!」
時計塔の屋根に雪を積もらせ、そこにダイブ。多少衝撃は和らいだが、全身を強打し、雪まみれになって、そのまま屋根を転がり落ちた。
「ぐううう!!」
手を伸ばし屋根のへりに掴まる。
爪が割れたようなむごい激痛が末端に走る。全身がボロボロで、これ以上掴まっていられない。私は強く目を瞑った。
「七海!!!」
名を呼ばれて、目を開く。
緑の戦士、公一が雪の上に尻餅を突いた。私を追って飛び降りてきたのか?
「手を!!」
公一は腹這いになって手を伸ばし、私の手を掴もうとした。だが僅かに間に合わず、私の指は滑り落ちた。
「うわ!!」
「七海!!」
公一が屋根を蹴って飛び降りるのが見えた。空中で彼にぶつかられ、抱き締められ、体位が入れ替わった。彼が私をお姫様抱っこしているような状況になった。
「死んでも離さないで、七海姫!」
助けてくれハズイ。これなら転落死した方が恥をかかず良かった。だが、嬉しかった。地面が迫る。
公一は上手く着地できるかな?
予想通り、着地に失敗した。公一は私を抱えたまま左右の足で着地するも、すぐに「あかんわ重!」と言ってバランスを崩し、私は地面に落っこちた。その上に公一が倒れ、覆い被さった。
取り敢えず、死なずに済んで満点だ。
私の見上げるすぐ先に公一の緑のマスク。
「ありがとう。あなたは私のヒーローだ」
「ほんまに重いなあ。俺より体重あるんとちゃう?」
「!!」
野暮なことを。まあ私は公一より重い可能性は十分にあるが。
「あなたがひょろひょろなんだよ」
ちょうどその時上空のピカリポットが限界を迎えた。巨大な物が壊れる音が響いて、私も公一も天を見た。
ひびまみれのピカリポットは粉々に割れて、光りと成って消えた。メカノ助は落っこちて、時計塔のすぐ先に着地した。ドスン!! 物凄い騒音と揺れが走った。みんな無事脱出できたようだ。めでたし。
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445 :げらっち
2024/08/15(木) 11:14:56
「いい加減どいてよ」
公一は私に覆い被さり、地面ドンしたままだ。
公一は変身を解き、素顔で私の顔を見た。私は私の顔があまり好きではないので、見られたくない。目を逸らす。横を向こうとしたが、両手で顔を掴まれ、無理矢理上を向かされてしまった。公一は重くないがのしかかっており動けない。まあ本気で抵抗すれば股間を蹴り逃走を図れるが、今はされるがままだった。
公一は睨むように私の目を見ていた。
「で、次は何?」
「す、するぞ」
「何を?」
「キスを」
あちゃー、だめだな。断りを入れてからやろうとしてしまうのはやはり野暮だ……
男らしくひと思いにしてくれたらいいのに。以前は変身したままマスク越しにし、ノーカンとなったわけだが、素顔で生で触れ合うのは緊張感が違う。公一は私がゴーサインを出すのを待っているのかいつまでも私の目を見たまま動かなかった。私はすっかり白けてしまった。すると。
「ぴぎゃあ!」
横から炎がぶつかってきて、公一は裏返った声を出して吹っ飛んだ。私は重りから解放され体を起こした。
公一を攻撃したのは赤い戦士だった。
コボレッド、天堂茂だ。手から炎を出しつつこちらに歩いてくる。
「衆目に晒される中で不埒なことをするとはどういう神経だ? 世の風紀を乱すのは常に落ちこぼれの障害者だ」
私は立ち上がる。
「落ちこぼれの障害者だけど悪い?」
「研鑽を怠るのは悪だ。小豆沢七海、今こそ決着を付けようではないか!! お前のようなふしだらで教養の無い女には務まらん。コボレンジャーのリーダーはこの僕が務める!!」
「何言ってるの、リーダーは私と紀元前から決まっているよ!」
「実力で決めようではないか、いかがか!」
「言われるまでもなく!」
私は戦隊証を取り出し、改めて変身。
「コボレインボー!!!!!!!」
茂は明らかに狼狽えていた。私がコボレホワイトに成ると思っていたのだろう。残念ながら、虹の余韻で、強化形態のコボレインボーに成れる。
私は茂に狙いを付ける。
「ニジヒカリ!!」
茂も攻撃。
「アカいハル!!」
2つの魔法がぶつかり、接点には巨大なエネルギー。押し合いをするもケリがつかず、魔法の塊は破裂した。火の粉がべしべしと体中に当たった。熱い。
「レインボーブリッジ!!」
攻撃の手を緩めない。虹はくるっと1回転し茂を襲う。
「秀才カウンター!!」
茂は燃える手で虹を叩き割った。
「バーニングヴァルナ!!」
そのまま炎で身を包み、猛牛の様に突っ込んでくる。
「貰ったり!」
「虹リボン」
私は新体操のように虹をくるくると回し自分の体を包む。
「七色ヨロイ」
茂は私に頭突きを噛ました。私は虹の守りでそれを耐える。
「うおおお……!!!」
虹色の火花が散る。私の虹は越せまい、というのは奢りだった。ついには茂の炎が、私の虹をほどいた。7色の線は散り散りに消え、私は生身の七海に戻った。
「どうだ、ま」
「虹返せ!!」
私は素手で茂の頬をぶちのめした。彼の変身も解け、ひび割れていた眼鏡は完全に砕け散り、彼は尻餅を突いた。
「よくもッ!!」
茂は立ち上がり、私の頬に拳を命中させた。そんなに痛くはなかったが。
「やっと自分の力で戦えるようになったか」
「黙れこの落ちこぼれがッ!!」
「じゃあ落ちこぼれに負けるあなたは何なの?」
私は彼の腹にハイキック。彼は吐血し、真の意味で赤い戦士に成った。
公一が、楓が、凶華が、佐奈が、メカから戻った豚が、私たちの戦いを見ていた。
ボロボロになった戦隊学園。
虹の下の校庭で、私たち2人武器も持たず、魔法も使わず、変身さえもせずに、子供の喧嘩のように、ただ体同士をぶつけて争っていた。
「決着がつかないな、小豆沢七海」
「うん。私たちは互角」
私も茂も全身を使って大きく息をし、汗にまみれている。髪は乱れ、服はボロボロだ。
体力も限界に近い。どちらか一方が倒れれば、残る一方も倒れ、この勝負は痛み分けに終わるに違いない。
「次の一撃で終わりにしよう」
私は握り拳を掲げた。
リーダーとしての実力を示して、今度こそ茂を完全にコボレンジャーの仲間にするんだ。
「いいだろう。此れは究極の頭脳戦だ。最も混じり気の無い手の内の読み合いだ。シンプルに互いの実力、経験値、そして運がわかる」
茂はにやつき、拳を掲げる。
「じゃーんけーん」
私たちは拳を振りかざした。
「ぽん!!」
茂はグー。
私はパーだった。
「私の勝ちだね」
「ぢぐじょおおおおおおお!!!」
茂は地をのたうち回って悔しがった。
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446 :げらっち
2024/08/15(木) 11:15:13
戦隊学園はピカリポットの支配下から解放された。
コボレンジャーは、赤坂いつみの正体を、青竹先生に報告した。
詳しい話の内容は忘れたが、先生たちはコボレを労い、私たちが事件の核に居た事は公表しない、と誓約してくれた。
今はそれを信じることにした。
半壊した学園は、戦隊たちが力を合わせ復興することになった。
幸いにも生徒の死者は出ていなかった。一連の事件で亡くなったのは、落合輪蔵校長先生、ただ1人。
校長先生のお葬式は、しめやかに執り行われた。
私は制服に、きっちりとネクタイを結んで、焼香した。
遺影の中の校長先生は私に微笑みかけていた。校長が代わっても、アカリンジャーである彼が立ち上げた学園はこれからも続き、彼の闘志を受け継ぎ続けるだろう。
「ずっと学園を見守って下さい」
そう言って目をつむった。
長めの夏休みが設けられることになった。
正門は、帰省する生徒たちでごった返していた。
私たちコボレの7人は門前に集まっていた。
「うわー、帰りたくないよ!」と楓。
「俺も帰るのいやや~!! オトンにみっちりしごかれてまう~~!!」
麦わら帽子の公一はしゃがみ込んでしまった。
「うちも帰りたくないですね……」
「僕は帰りたいブヒ!! パパやママや弟の序二郎(じょじろう)、妹の三々子(みみこ)に会いたい!!」
「オイラは家自体がねえぜ!!」
コボレメンバーは家族に闇を抱えている者も多い。
「日頃の行いが悪いから、そうやって家族に顔向けできないのだ!!」
茂はふんぞり返って言った。
「僕は父上に直談判してやる。僕こそが真の息子であるとな!!」
その時茂の顔から憎たらしい笑みが消えた。
両親と見られる大人の男女に連れられて、女子生徒が歩いてきた。両親は大きなトランクを抱えている。
女子生徒はポンパドーデス、芽加子だった。
彼女は腕を負傷したため精密なメカが作れなくなり、退学の道を選んだ、という噂があったが、デマではなかったらしい。
すれ違いざま、茂は、少し気まずそうに、頭を下げた。
芽加子も少しだけ頭を下げ、門の敷居を跨いで、学園の外に消えて行った。
[
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447 :げらっち
2024/08/15(木) 11:15:29
私たちは学園の外に出た。
夏の太陽は眩しい。
私はどんなに暑くても長袖長ズボンを着て、日傘とサングラスで色素の無い身体を守る。障害とはずっと付き合っていかなくてはならない。
7人はぞろぞろと草の茂る道を歩き出した。
「ってオイ、外の世界を無防備に歩いて大丈夫なのか? 学園の送迎バスに乗ればよかったものを……」
憂う茂の背中を、凶華がブッ叩いた。茂は前のめりに倒れた。
「怪人が襲ってきてもオイラたちコボレの敵じゃねえよ! 怖気づいてるのか?」
「そ、そういうわけでは……ないが……」
茂は匍匐前進を始めた。
「敵に発見されないよう身を屈める! これはセオリー中のセオリーだ! 緊張感を持て落ちこぼれ共!!」
佐奈は荷物を全部豚に任せ、頭の後ろで手を組んで歩いていた。
「あ~あ、嫌ンなっちゃいますよね。コボレンジャーあんなに活躍したのに一切合切無かったことになるなんて」
「まあ注目されるのも大変ブヒよ。平凡が一番ブヒ」
「あ、でも……あいつが退学したってことは、機械クラス首席の座はうちに……あっ」
佐奈はブヒヒと笑った。豚がうつってる。
「それはいいとして帰りたくないですね……あの両親の顔を見るのもヤダ」
「じゃあうちに泊まるブヒ?」
「えっ」
突然の提案を受け、佐奈は頬を赤らめた。
「えっ……じゃあそうしちゃおっかな。あ、部屋は別で。食器も別で。お風呂は一番最初で。あとうちのリクエスト通りのメニューにすること。できればトイレもうち専用のを決めていただけると……」
豚はメモを取り始めた。
「何だかてんぱっとるなあ。七海も俺んちに……」と公一。
「やだよあなたの家関西でしょ、遠い却下」
「七海ちゃんは結局どうするの?」と楓。
「一度、私の育ったシティ13に帰ろうかな」
でもまたすぐに学園に戻るかもしれない。戦隊学園は私の家だから。
進む先は十字路になっていた。私たちはめいめい家に帰る。
「ここで一度お別れやな!!」
「うん。また新学期会おうね!!」
皆手を振りあって別れを惜しむ。
私も彼らに手を振る。しばしのお別れだ。
「じゃあね、またね」
空には綺麗な虹が掛かっていた。
白紙だった私の人生に色が塗られた。私の人生ここからが始まりだ。
[
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448 :げらっち
2024/08/15(木) 11:22:01
《飛一郎》
俺は重い扉を開けた。
どんな格好をして行けばいいか、迷いに迷った末、黒いスーツを着て行った。着慣れないし、不格好だっただろうか。
ヘルパーが頭を下げて、何か言って、入れ違いに部屋を出て行った。俺は緊張のあまり挨拶を返し忘れた。
俺は恐る恐る、ベッドを見た。
痛々しい姿があった。
全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。昨今の医療技術をもってしても、命をつなぐのが精いっぱいだったのだ。
顔も包帯で覆われ、辛うじて目と口の位置がわかる。
ヒカリは目を閉じていた。眠っているのだろうか。
こういう時は、何て声を掛ければいいのか。
しばし迷った後、俺は彼女の名を呼んだ。
「ヒカリ」
ヒカリは、目を開けた。
包帯の隙間に、焼かれずに済んだ、清い目と、エメラルドグリーンの虹彩。
そこだけ時が止まっているかのように、俺の青春が、そこにはあった。
赤い眼が、驚いたように、俺を見た。
「ひ、久しぶりだな」
俺は持っていた花束を、ベッド脇の机に置いた。
「これ、学園で摘んだ花だ。何て言う花かはわからないが、お前みたいな、赤い花だ」
ヒカリは何も言わなかった。
「……ごめん。14年も見舞いに来なくて。いきなり押しかけて。ヒカリをこんな目に遭わせたのは、俺だというのに」
ヒカリは、机に手を置いた。花束を取ろうとしたのか?
いや、花束の下にある何かを引っ張り出そうとしていた。
スケッチブックだ。物の上に花束を置いてしまった俺は馬鹿だ。
ヒカリはスケッチブックと鉛筆を持った。
包帯で巻かれた手はミトンをはめたようになっていて、不自由そうだった。それでもヒカリは、震えながら文字を書いた。
ヒカリは声までも失ってしまったんだ。
申し訳ないと思う気持ちが、俺の体を黒く染める。
ヒカリが、ポンと俺の足を叩いた。
俺はかがみ込んで、目線の高さをヒカリに会わせた。ヒカリはスケッチブックに書かれた言葉を見せてくれた。
「……そうか」
俺の黒は、光りに照らされた。
黒はそこにあっても良いのだ。何色でも良いのだ。
何があっても、お前は俺の光りだ。
「ありがとう」
にこり、ヒカリは包帯越しに、笑ったようだった。
俺も微笑み返すが、どうしたって、ヒカリほどうまくは笑えなかった。
おしまい
[
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449 :げらっち
2024/08/15(木) 11:22:41
番外編 ゴールド免許
彼の名は天堂任三郎。日本を守る護国戦隊、日の丸戦隊ニッポンジャーのニッポンレッド、日の丸を背負う男である。
2025年、或る夕方、ニッポンジャーの詰め所に1本の電話が入った。それは民間人からの通報だった。
任三郎の部下であるカプ子はその内容を親玉に伝えた。
「任三郎さん! すぐ近くの住宅街で火災です!! 出動しましょう!」
「なに、それは大変だ!! 歯磨きが終わったらすぐ出動する!」
任三郎は歯を磨いていた。
「その間に助かる命も助からなくなりますよー!! 一刻も早く出動しましょう!」
「ダメだ! 正義のヒーローたるもの、きちんと歯を磨かなくちゃいかん!! 口内環境も守れない俗物に日本の平和が守れてたまるか!」
任三郎はカプ子にコップを投げつけた。
任三郎は10分かけて入念に歯を磨くと、コスチュームに着替え始めた。
任三郎は日本国旗をマント代わりに羽織った。すると、国旗がほつれているのが目に入ったのか、彼は言った。
「代わりを持ってこい!」
「任三郎さん! マントなんて引っかかったり現場では邪魔なだけですよー!!」
「この非国民!! 私は日の丸を背負って戦っているのだ!! こんなだらしない日本国旗でいいわけが無いだろッ! 今すぐ代わりを持ってこい! 1分1秒を争う世界だ、もたつくな!!」
カプ子は急いで新品の日本国旗を用意した。
任三郎はそれを羽織り、トイレを済ませると、ようやく出動した。
他の隊員は訓練に励んでいたり社内研修を受けていたり非番だったりしたので任三郎とカプ子のみの出撃になった。
住宅街の一角から炎が上がっており、多数の野次馬がそれを取り囲んでいる。
「何人か逃げ遅れてるみたいだぞ……」
「あ! ニッポンジャーのお出ましだ!! もう大丈夫だぞ!」
任三郎は人垣を押し除け、炎光を見た。
既に3軒もの住宅に延焼していた。まるで巨大なガスコンロを見ているかのようだった。家屋が焼かれているのだ。その中から、助けを乞う、臨死の声が聞こえる。
「くっ……もう少し来るのが早ければな」
そう言う任三郎に対し、カプ子はあんたが歯磨きをしたりマントに拘るせいだろと言いかけたが、処罰を恐れ心の中でつぶやくだけにとどめた。
「まあいい。ここは正義のヒーローとして当然の事をするまでだ!」
任三郎は腕時計のダイヤルを回す。途端に彼の体は赤いスーツで包まれる。
「大和魂、スタンダップ! 日の丸戦隊ニッポンジャー! ニッポンレッド!!」
野次馬から歓声が湧く。
すると任三郎は、火災現場の観察を始めた。燃える建物の中からは悲鳴。一向に救出に行く姿勢は見られないので、カプ子は叫んだ。
「何してるんですかー!!」
「何って見りゃわかるだろー!!!」
任三郎は逆に怒鳴った。
「今後火災が起きた時どのように救出するのかを考えるために火災についての分析をしているのだ!! 私は大和の国を背負っている。正義のヒーローならこのくらい当たり前だろー!!」
カプ子はブチ切れた。
「正義のヒーローなら目の前の人を助けろボケがー!!!!」
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450 :げらっち
2024/08/15(木) 11:23:01
カプ子はニッポンイエローに変身し、火災現場から4人を救出した。皆重症だった。
任三郎は記者の取材を受けていた。
「なに、正義のヒーローとして当然の事をしたまでです」
カプ子は任三郎の歯をへし折ってやろうか迷ったが、減給を恐れ踏みとどまった。月20万を下回ると大好きなヒーロービデオの収集ができなくなってしまう。
レスキューファイブが火を消した後、カプ子は単身火災現場を調べ、これが放火魔の仕業であると看破した。
「任三郎さん、これ放火ですよー! 天井に穴が開いてました! 相当の放火好きの犯行と見られます! パトロールを強化しましょう! 今からでもパトロールしますよー!!」
だがもう深夜だった。
「呆れかえるほどの、抜け作めッ!! 正義のヒーローならば早寝早起きは不文律、夜道を出歩くなど以ての外だ!! 早く帰って寝なくっちゃ! 寒いし風邪をひいてしまう!!」
任三郎は帰ろうとしたが、カプ子はそれを制した。
「何言ってるんですか、パトロールしますよー!!」
「良いかよく聞け下郎! 私は戦隊になって12年、無事故無違反無欠席の、ゴールド免許の持ち主なのだ!! その戦歴に傷を付けるのか!!?」
「それって戦ってないってことですよねー!? 私は寒くてもパトロールしますよ!! 自分と日本の平和、どっちが大事なんですかー!!?」
任三郎は胸を張って答えた。
「私が風邪を引いちゃったら日本全体の危機だ!!!」
任三郎は家に帰ってしまった。
カプ子はニッポンジャーを退職し、民間戦隊に加入することにした。
おわり
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